説明

ブレーキ装置の過熱判定装置及び過熱警報装置

【課題】圧縮空気の供給経路の不備に起因して摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に検知することが可能な装置の提供。
【解決手段】制御ユニット15は、圧力センサ12の検出圧力Pが正圧であり且つ所定時間毎の検出圧力Pの変動量が所定範囲内に維持されている正圧安定状態か否かを判断し、正圧安定状態の継続時間が第1の基準時間に達したときに、さらに温度センサ11の検出温度Tの上昇率が増加しているか否かを判断し、検出温度Tの上昇率が増加しているときに、ライニング37が過熱状態であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置の過熱判定装置及び過熱警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
実開昭52−113185号公報には、ブレーキドラムとブレーキライニングとの摺接部付近のバツクプレートに温度検出器を設け、ブレーキ作用による摺接部の発熱状態を温度検出器によって検出して警報を発するブレーキ装置の発熱警報装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭52−113185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーキ圧信号に基づいて供給される圧縮空気の圧力に応じた押圧力で車体側の摩擦制動部材を車輪側の回転部材に摺接させて車輪を制動するブレーキ装置では、圧縮空気の供給経路に不備が発生し、運転者がブレーキ操作を解除しているにも拘わらず圧縮空気が継続して供給されて車体側の摩擦制動部材が車輪側の回転部材に継続して摺接すると、摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう可能性がある。この場合、上記実開昭52−113185号公報のように摩擦制動部材の温度をバツクプレートの温度検出器によって間接的に検出する装置では、摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達しても、温度検出器の検出温度が急上昇せず、警報が発せられないまま摩擦制動部材の過熱状態が長時間継続してしまう可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は、圧縮空気の供給経路の不備に起因して摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に検知することが可能な装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、空気供給手段とブレーキ装置とを有するブレーキシステムにおける過熱判定装置であって、圧力検出手段と圧力変動判断手段と計時手段と過熱判定手段とを備える。
【0007】
空気供給手段は、ブレーキ圧信号に応じた圧力で圧縮空気をブレーキ装置に供給する。ブレーキ装置は、空気供給手段から供給された圧縮空気の圧力に応じた押圧力で、車体側の摩擦制動部材を車輪側の回転部材に摺接させて車輪を制動する。
【0008】
圧力検出手段は、空気供給手段からブレーキ装置へ供給される圧縮空気の圧力を所定時間毎に検出する。圧力変動判断手段は、圧力検出手段が検出した圧力が正圧であり且つ所定時間毎の圧力の変動量が所定範囲内に維持されている正圧安定状態か否かを判断する。
【0009】
計時手段は、圧力変動判断手段による判断結果が連続して正圧安定状態となる時間を計時する。過熱判定手段は、計時手段が計時した時間が所定の基準時間に達したときに、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。
【0010】
上記空気供給手段は、圧縮空気が流入する流入口と、この流入口から流入した圧縮空気をブレーキ圧信号に応じた圧力でブレーキ装置に対して供給する流出口と、を有するリレーバルブを含んでもよく、上記圧力検出手段は、リレーバルブの流出口に設けてもよい。
【0011】
上記構成では、空気供給手段が適正に機能する状態、すなわちブレーキ圧信号に応じて圧縮空気を供給する状態において、運転者がブレーキ操作を行っていない場合(ブレーキペダルを踏み込んでいない場合)、空気供給手段はブレーキ装置に圧縮空気を供給せず、圧力検出手段の検出圧力はゼロに維持され、圧力変動判断手段は正圧安定状態ではないと判断する。従って、計時手段は計時を開始せず、過熱判定手段は、摩擦制動部材が過熱状態ではないと判定する。
【0012】
また、空気供給手段が適正に機能する状態において、車両を停止又は減速するために運転者が適正なブレーキ操作でブレーキペダルを踏み込んだ場合、空気供給手段はブレーキ圧信号に応じた圧力で圧縮空気をブレーキ装置に供給する。この状態では、ブレーキ装置に供給される圧縮空気の圧力が大きく変動し、圧力検出手段の検出圧力の変動量が所定範囲を超える、若しくは検出圧力の変動量が所定範囲に維持されても基準時間以上継続して維持されることがないので、過熱判定手段は、摩擦制動部材が過熱状態ではないと判定する。
【0013】
一方、圧縮空気の供給経路に不備が発生し、運転者がブレーキ操作を解除しているにも拘わらず定圧の圧縮空気がブレーキ装置に継続して供給されて摩擦制動部材が回転部材に継続して摺接していると、圧力検出手段の検出圧力は正圧で且つ所定時間毎の変動量は所定範囲内に維持され、圧力変動判断手段は、正圧安定状態であると判断し、計時手段は、正圧安定状態の継続時間を計時する。そして、正圧安定状態の継続時間が所定の基準時間に達したとき、過熱判定手段は、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。
【0014】
すなわち、圧縮空気の供給経路の不備に起因して摩擦制動部材が回転部材に継続して摺接し、摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇する状況下において、圧縮空気の正圧安定状態の継続時間が所定の基準時間に達したときに摩擦制動部材が過熱状態であると判定される。このため、圧縮空気の供給経路の不備に起因して摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に且つ確実に検知することができる。
【0015】
また、上記過熱判定装置は、摩擦制動部材の近傍で、車体側に取り付けられて当該摩擦制動部材の周辺温度を所定時間毎に検出する温度検出手段と、温度検出手段が検出した所定時間毎の周辺温度に基づいて、該周辺温度の上昇率が増加している温度上昇率増加状態か否かを判断する温度上昇率増加判断手段と、を備えてもよい。この場合、過熱判定手段は、計時手段が計時した時間が所定の基準時間に達したときであって、温度上昇率増加状態であると温度上昇率増加判断手段が判断した場合に、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。
【0016】
上記構成では、圧縮空気の正圧安定状態の継続時間が基準時間に達したときであって、摩擦制動部材の周辺温度が温度上昇率増加状態である場合に、過熱判定手段は、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。一方、圧縮空気の正圧安定状態の継続時間が基準時間に達しても、摩擦制動部材の周辺温度の温度上昇率が増加していないときには、摩擦制動部材が過熱状態に達する可能性が低いことから、過熱判定手段は、摩擦制動部材が過熱状態ではないと判定する。従って、摩擦制動部材が過熱状態に達してしまう状況下であるか否かを、さらに的確に判定することができる。
【0017】
また、上記過熱判定装置は、温度上昇率増加判断手段による判断結果が連続して温度上昇率増加状態となる時間を計時する第2の計時手段を備えてもよい。この場合、過熱判定手段は、第2の計時手段の計時時間が所定の第2の基準時間に達したときに、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。
【0018】
また、上記過熱判定装置は、温度検出手段が検出した所定時間毎の周辺温度に基づいて、該周辺温度が上昇している温度上昇状態か否かを判断する温度上昇判断手段と、温度上昇判断手段による判断結果が連続して温度上昇状態となる時間を計時する第3の計時手段とを備えてもよい。この場合、過熱判定手段は、第3の計時手段の計時時間が所定の第3の基準時間に達したときに、摩擦制動部材が過熱状態であると判定する。
【0019】
上記ブレーキ装置において、摩擦制動部材が過熱状態に達する主な要因としては、上記供給経路の不備による圧縮空気の継続的な供給の他に、運転者の不適正なブレーキ操作が挙げられる。例えば、空気供給手段が適正に機能する状態において、坂道を走行中の車両の運転者が、急なブレーキ操作と操作解除とを短い時間間隔で継続して繰り返した場合や、弱いブレーキ操作を継続して行った場合などには、摩擦制動部材が過熱状態に達してしまう可能性がある。
【0020】
上記構成では、周辺温度の温度上昇率増加状態が第2の基準時間以上継続した場合や、周辺温度の温度上昇状態が第3の基準時間以上継続した場合に、摩擦制動部材が過熱状態であると過熱判定手段が判定する。すなわち、摩擦制動部材の周辺温度の変動状態とその継続時間とに基づいて、摩擦制動部材が過熱状態に達してしまう状況下であるか否かが判定される。従って、運転者の不適正なブレーキ操作に起因して摩擦制動部材が過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に検知することができる。
【0021】
また、ブレーキ装置は、摩擦制動部材としてのライニングを前記回転部材としてのブレーキドラムに摺接するドラムブレーキであってもよく、温度検出手段を、ライニングが固定されるブレーキシュー、車体側に固定されてブレーキシューを揺動自在に支持するアンカーピンブラケット、車体側に固定されてホイールを回転自在に支持するアクスルチューブ、又は車体側に固定されてライニングの車幅方向内側近傍を覆うダストカバーに取り付けてもよい。
【0022】
また、本発明の第2の態様は、トラクタによって牽引されるトレーラに設けられた上記ブレーキシステムにおける過熱警報装置であって、上記過熱判定装置と報知手段とを備える。
【0023】
過熱判定装置は、圧力検出手段が検出した圧力を示す圧力情報と温度検出手段が検出した周辺温度を示す温度情報とを無線信号によって送信する送信手段と、送信手段が送信した無線信号を受信する受信手段と、を有する。圧力検出手段と温度検出手段と送信手段とは、トラクタによって牽引されるトレーラに設けられる。圧力変動判断手段と計時手段と温度上昇判断手段と過熱判定手段と受信手段とは、トラクタに設けられる。
【0024】
受信手段は、受信した圧力情報を圧力変動判断手段に出力し、受信した温度情報を温度上昇判断手段に出力する。報知手段は、トラクタの車室内に設けられ、摩擦制動部材が過熱状態であると過熱判定手段が判定したとき、これを車室内の運転者に報知する。
【0025】
上記構成では、トラクタの車室内の運転者は、報知手段からの報知によって、摩擦制動部材が過熱状態である若しくは過熱状態となる可能性が極めて高いことを早期に認識することができ、車両の停止等により、摩擦制動部材の過熱に起因した発火等を未然に防止することができる。
【0026】
また、エンジンなどの車両の駆動源を有さずにトラクタによって牽引されるトレーラ側には、圧力検出手段と温度検出手段と送信手段という必要最小限の構成だけを設ければよいので、トレーラ側での消費電力を最小限に抑えることができる。さらに、複数のトレーラから一つのトレーラを選択して牽引するトラクタ側に、圧力変動判断手段と計時手段と温度上昇判断手段と過熱判定手段とを設けているので、これらの手段を構成する高価な電子部品を複数のトレーラに個々に設ける必要がなく、全体としてコストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、圧縮空気の供給経路の不備に起因して摩擦制動部材の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態の過熱判定装置及び過熱警報装置が搭載されたトレーラ及びトラクタを模式的に示す斜視図である。
【図2】過熱判定装置及び過熱警報装置を模式的に示すブロック図である。
【図3】ドラムブレーキの分解斜視図である。
【図4】ドラムブレーキの組立斜視図である。
【図5】アクスルチューブ、左右のタイヤ、及び左右のドラムブレーキを示す正面図である。
【図6】ブレーキチャンバを示す側面図である。
【図7】発進停止パターンにおける各部の温度と経過時間との関係を示す図である。
【図8】ブレーキ引き摺り状態における各部の温度と経過時間との関係を示す図である。
【図9】過熱判定処理を示すフローチャートである。
【図10】過熱判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
本実施形態では、図1及び図2に示すように、トラクタ2と、トラクタ2によって牽引されるトレーラ3とを備えた車両1に、過熱判定装置10及び過熱報知装置20を設けた例を説明する。また、過熱判定装置10の判定対象となるブレーキ装置として、図3〜図5に示すドラムブレーキ30の例を説明する。なお、ドラムブレーキ30は、アクスルシャフト50の左右それぞれに設けられているが、左右のドラムブレーキ30は同様の構成を有するため、以下の説明ではその一方について説明し、他方の説明を省略する。
【0031】
図3〜図5に示すように、ドラムブレーキ30は、ブレーキシューユニット31と、回転部材としてのブレーキドラム32と、ダストカバー33と、アンカーピンブラケット34と、カムブラケット35等を備える。
【0032】
アンカーピンブラケット34とカムブラケット35とは、トレーラ3の車体側に支持されて車幅方向に延びるアクスルチューブ51の車幅方向外端部に、それぞれ一体的に設けられる。アクスルチューブ51の外端部から一体的に延びるアクスルシャフト50(車軸)は、車輪のホイール(ブレーキドラム32)をそれぞれ回転自在に支持する。アンカーピンブラケット34は、アクスルチューブ51の軸と交叉する一方向へ延びて突出し、カムブラケット35は、アンカーピンブラケット34の反対側となる他方向へ延びて突出する。
【0033】
ブレーキシューユニット31は、一対のブレーキシュー36と、各ブレーキシュー36の外周面に固定された摩擦制動部材としてのライニング37と、スプリング38等を備える。各ブレーキシュー36の一端部は、アンカーピンブラケット34のアンカーピン39に回転自在に連結され、スプリング38は、ブレーキシュー36の他端部間を連結する。通常時(ブレーキ非作動時)には、一対のブレーキシュー36は、スプリング38によってそれぞれ内方に揺動した非作動位置に付勢されている。一対のブレーキシュー36の他端部間には、カムブラケット35に回転自在に支持されたカム40の配置される。カム40の回転軸41は、後述するブレーキチャンバ54によって回転駆動される。カム40の外面(カム面40a)は、カム40の回転に伴ってブレーキシュー36の他端部のローラに接触してこれら他端部間を離間させ、これによりブレーキシュー36が拡張する。
【0034】
ブレーキドラム32は、車幅方向外側からブレーキシュー36を覆うように配設され、アクスルシャフト50の車幅方向外端部に固定される。すなわち、ブレーキドラム32は、アンカーピンブラケット34に対して回転自在である。また、アクスルシャフト50には、ホイール52を介してタイヤ53(車輪)が取り付けられる。ブレーキドラム32は、ホイール52に結合され、ホイール52と一体に回転する。ブレーキシュー36が拡張すると、ブレーキシュー36の外周面に固定されたライニング37がブレーキドラム32の内周面32aに摺接して、回転するアクスルシャフト50(タイヤ53)に制動力が作用する。
【0035】
ダストカバー33は、ブレーキドラム32によって囲まれる内部空間(ブレーキシューユニット31が配設されている空間)を、車幅方向内側から覆い、アンカーピンブラケット34に固定される。ダストカバー33は、ブレーキシューユニット31よりも車幅方向内側へのダストや水等の侵入を防止する。
【0036】
アクスルチューブ51の中間部には、ブレーキチャンバ54が固定される。ブレーキチャンバ54には、空気供給手段としてのリレーバルブ19(図1に示す)から圧縮空気が供給される。リレーバルブ19は、エアタンク(図示省略)から圧縮空気が流入する流入口(図示省略)と、流入口から流入した圧縮空気をブレーキチャンバ54へ供給する流出口(図示省略)とを有する。リレーバルブ19は、トラクタ2の運転者によって踏み込み操作されるブレーキペダル(図示省略)の踏み込みに応じたブレーキ圧信号を受信し、エアタンクから流入した圧縮空気を、受信したブレーキ圧信号に応じた圧力でブレーキチャンバ54へ供給する。リレーバルブ19の流出口には、ブレーキチャンバ54へ供給される圧縮空気の圧力を所定時間毎に検出する圧力検出手段としての圧力センサ12(図1に示す)が設けられている。なお、圧力センサ12は、例えばリレーバルブ19からブレーキ装置への空気供給管路内のように、リレーバルブ19の流出口以外の場所に設けてもよい。
【0037】
ブレーキチャンバ54は、リレーバルブ19から供給される圧縮空気の圧力に応じた制動圧(ブレーキ圧)で、カム40の回転軸41をリンク部材を介して回転させる。これにより、運転者から入力されたブレーキ圧に応じた押圧力でブレーキシュー36のライニング37がブレーキドラム32に押圧されて、制動力がアクスルシャフト50(タイヤ53)に作用する。
【0038】
アクスルチューブ51の車幅方向外端部、ライニング37が固定されるブレーキシュー36、車体側に固定されてブレーキシュー36を揺動自在に支持するアンカーピンブラケット34、アクスルチューブ51の車幅方向外端部、及び車体側に固定されてライニング37の車幅方向内側近傍を覆うダストカバー33は、共にライニング37の近傍で車体側に取り付けられる部品又は部分である。本実施形態では、これら部品又は部分のうち、アンカーピンブラケット34に、温度検出手段としての温度センサ11(例えば熱電対)が固定されている。温度センサ11の電線13は、ダストカバー33に形成された挿通孔14を挿通し、車幅方向内側へ延びる。温度センサ11は、ライニング37の周辺温度として、アンカーピンブラケット34の表面温度を検出する。なお、温度センサ11を取り付ける部品又は部分は、ライニング37の周辺温度が検出可能な車体側の部品又は部分であればよく、例えば、アクスルチューブ51の車幅方向外端部の外面51aやブレーキシュー36やダストカバー33やカムブラケット35などであってもよい。
【0039】
図2に示すように、過熱判定装置10は、上記温度センサ11と、上記圧力センサ12と、計測部16と、送信手段としての送信器17と、受信手段としての受信器18と、制御ユニット15とを備える。これらのうち、温度センサ11と圧力センサ12と計測部16と送信器17とは、トレーラ3に設けられる。制御ユニット15は、圧力変動判断手段、計時手段、温度上昇判断手段、第2の計時手段、温度上昇率増加判断手段、第3の計時手段及び過熱判定手段として機能する。各センサ11,12と計測部16との間、及び計測部16と送信器17との間は、信号線で接続され、送信器17は、トレーラ3の前端部の車体側に固定されている。
【0040】
過熱警報装置20は、過熱判定装置10と、報知手段として表示部22及び音声出力部23とを備える。受信器18と制御ユニット15と表示部22と音声出力部23とは、ユニット化された警報機21を構成し、トラクタ2の車室内に設けられる。制御ユニット15は、内部メモリ(図示省略)や内部タイマ(図示省略)等を含む。
【0041】
温度センサ11及び圧力センサ12は、予め定められた所定時間毎に、検出温度T(ライニング37の周辺温度)及び検出圧力P(圧縮空気によるブレーキ圧)をそれぞれ検出して計測部16へ出力する。計測部16は、各センサ11,12から入力されたアナログ信号を逐次デジタル信号に変換して、送信器17へ出力する。計測部16からデジタル信号を受信した送信器17は、その信号を無線送信する。すなわち、送信器17が無線送信する信号は、温度センサ11の検出温度Tを示す無線信号と圧力センサ12の検出圧力Pを示す無線信号である。
【0042】
計測部16は、図5に示すように、矩形断面を有するアクスルチューブ51の上面に固定されている。なお、計測部16の取付場所は、特に限定されるものではなく、図5中二点鎖線で示すように、アクスルチューブ51の前面又は後面に固定されてもよく、またアクスルチューブ51以外の他の場所に固定されてもよい。
【0043】
受信器18は、送信器17から無線信号を受信して、制御ユニット15へ出力する。制御ユニット15は、受信器18を介してデジタル信号として入力された検出温度Tと検出圧力Pとを、内部メモリに順次記憶する。なお、内部メモリに記憶された検出温度T及び検出圧力Pのうち既に使用された不要なデータは、適宜消去してもよい。
【0044】
制御ユニット15は、以下の判定基準に従って、ライニング37が過熱状態であるか否かを判定する。
【0045】
第1の判定基準は、最新の検出温度Tが所定の基準判定温度T1以上であるときに、ライニング37が過熱状態であると判定するものである。この基準判定温度T1は、発火の可能性が認められる温度にライニング37が昇温した状態での周辺温度であり、内部メモリに予め記憶されている。
【0046】
第2の判定基準は、検出温度Tの上昇率が継続して増加している時間(温度上昇率増加継続時間)が所定の基準時間(第2の基準時間)に達したときに、ライニング37が過熱状態であると判定するものである。具体的には、最新の検出温度Tnと前回の検出温度Tn-1と前々回の検出温度Tn-2と温度の検出時間間隔ΔSとから、前回の温度上昇率ΔTn-1/ΔS=(Tn-1−Tn-2)/ΔSと、今回の温度上昇率ΔTn/ΔS=(Tn−Tn-1)/ΔSとを算出し、ΔTn/ΔS>ΔTn-1/ΔSのときに、温度上昇率増加状態であると判断して、第2の内部タイマによって温度上昇率増加継続時間を計時し、温度上昇率増加継続時間が第2の基準時間に達したときに、ライニング37が過熱状態であると判定する。第2の基準時間は、発火の可能性が認められる温度にライニング37が昇温するまでに要する周辺温度の温度上昇率増加状態の継続時間であり、内部メモリに予め記憶されている。
【0047】
第3の判定基準は、検出温度Tが継続して上昇している時間(温度上昇継続時間)が所定の基準時間(第3の基準時間)に達したときに、ライニング37が過熱状態であると判定するものである。具体的には、最新の検出温度Tnと前回の検出温度Tn-1とを比較し、Tn>Tn-1のときに、温度上昇状態であると判断して、第3の内部タイマによって温度上昇継続時間を計時し、温度上昇継続時間が第3の基準時間に達したときに、ライニング37が過熱状態であると判定する。第3の基準時間は、発火の可能性が認められる温度にライニング37が昇温するまでに要する周辺温度の温度上昇状態の継続時間であり、内部メモリに予め記憶されている。なお、この第3の基準時間は、上記第2の基準時間よりも長く(例えば、2倍〜3倍程度)設定されている。
【0048】
第4の判断基準は、検出圧力Pが正圧であり且つ所定時間毎の検出圧力Pの変動量が所定範囲内に維持されている正圧安定状態か否かを判断し、正圧安定状態の継続時間が所定の基準時間(第1の基準時間)に達したときに、さらに検出温度Tの上昇率が増加しているか否かを判断し、検出温度Tの上昇率が増加しているときに、ライニング37が過熱状態であると判定するものである。具体的には、最新の検出圧力Pnが正圧(Pn>0)であり、且つ最新の検出圧力Pnと前回の検出圧力Pn-1との差ΔP=│Pn−Pn-1│が所定の圧力P0以下であるときに(ΔP≦P0)、正圧安定状態であると判断して、第1の内部タイマによって正圧安定状態継続時間を計時し、正圧安定状態継続時間が第1の基準時間に達したときに、最新の検出温度Tnと前回の検出温度Tn-1と前々回の検出温度Tn-2と温度の検出時間間隔ΔSとから、前回の温度上昇率ΔTn-1/ΔS=(Tn-1−Tn-2)/ΔSと、今回の温度上昇率ΔTn/ΔS=(Tn−Tn-1)/ΔSとを算出し、ΔTn/ΔS>ΔTn-1/ΔSのときに、温度上昇率増加状態であると判断して、ライニング37が過熱状態であると判定する。正圧安定状態か否かを判断する際に基準となる所定範囲(所定の圧力P0)とは、運転者がブレーキ操作を行っていない状態における圧力センサ12の検出圧力の変動範囲(運転者がブレーキ操作を行っていないと見做すことが可能な狭い範囲)であり、内部メモリに予め記憶されている。また、第1の基準時間は、発火の可能性が認められる温度にライニング37が昇温するまでに要する圧縮空気の正圧安定状態の継続時間であり、内部メモリに予め記憶されている。なお、正圧安定状態継続時間が第1の基準時間に達した場合に、温度上昇率増加状態であるか否かを判断せずに、ライニング37が過熱状態であると判定してもよい。また、正圧安定状態継続時間が第1の基準時間に達した場合に、温度上昇状態であるか否かを判断し、温度上昇状態であるときにライニング37が過熱状態であると判定してもよい。
【0049】
制御ユニット15は、ライニング37が過熱状態であると判定したとき、この判定結果を報知する画像を表示部22に表示するとともに、判定結果を報知する音声又は警報音(例えば、ブザー音)を音声出力部23から出力させる。なお、制御ユニット15は、トレーラ3側に設けることも可能であり、この場合には、制御ユニット15の判定結果を示す情報を無線信号によってトラクタ2側に送信すればよい。また、表示部22に加えて又は代えてLEDなどの表示灯を設け、ライニング37が過熱状態であると判定したときに所定の表示灯を点灯させてもよい。
【0050】
次に、ブレーキ装置が正常に機能する通常の走行時におけるライニング37の温度及び周辺温度の時間的変化と、ブレーキ引き摺り状態におけるライニング37の温度及び周辺温度の時間的変化とについて説明する。
【0051】
図7は、ブレーキ装置が正常に機能する通常の走行時において、車両を所定の車速Vaまで加速し、通常の適正な所定のブレーキ圧を付与して車両を停止させ、車両停止後に上記所定の車速Vaまで再加速し、上記所定のブレーキ圧を再度付与して車両を停止させるという発進停止パターンを繰り返した場合の、ライニング37の表面温度、アンカーピンブラケット34(図中ではアンカーピンと表示)の表面温度、及びブレーキシュー36の裏面温度(ブレーキドラム32との摺接面の裏側となる内周面の表面温度)のそれぞれの時間的変化の一例を示している。
【0052】
図7に示されるように、ライニング37の表面温度は、約100分でTrh℃近傍まで上昇した後、この温度を維持する。ブレーキシュー36の裏面温度は、約100分でTsh℃(Tsh<Trh)近傍まで上昇した後、この温度を維持する。アンカーピンブラケット34の表面温度は、約150分でTah℃(Tah<Tsh)近傍まで上昇した後、この温度を維持する。すなわち、この例では、通常の車両走行時におけるライニング37、ブレーキシュー36及びアンカーピンブラケット34の上限温度は、それぞれTrh℃、Tsh℃及びTah℃であり、ブレーキシュー36がTsh℃に達した場合やアンカーピンブラケット34がTah℃に達した場合に、ライニング37がTrh℃に達して過熱状態となったと判断することができる。アンカーピンブラケット34の表面温度を検出する本実施形態では、上記判定基準温度T1をTah℃に設定し、アンカーピンブラケット34の表面温度がTah℃に達した場合に、ライニング37が過熱状態であると判定する。なお、ブレーキシュー36やダストカバー33やアクスルチューブ51の外面51aなどの他の部品や部分の温度をライニング37の周辺温度として検出する場合には、基準温度を変更して設定すればよい(例えば、ブレーキシュー36の場合は、上記のようにTsh℃)。
【0053】
図8は、一定速度Vbで走行中の車両において、ブレーキ装置への圧縮空気の供給機能の故障により圧縮空気がブレーキ装置に常時供給されて、ライニング37がブレーキドラム32に常時押圧された状態(ブレーキ引き摺り状態)における、ライニング37の表面温度、アンカーピンブラケット34の表面温度、及びブレーキシュー36の裏面温度のそれぞれの時間的変化の一例を示している。
【0054】
図8に示されるように、圧縮空気が常時供給されたブレーキ引き摺り状態では、引き摺り開始から500sec後にライニング37がTrh℃に達している。すなわち、図7に示す通常時に比べて、ブレーキ引き摺り状態のライニング37は極めて短時間で過熱状態に達する。これに対し、500sec後のブレーキシュー36及びアンカーピンブラケット34の温度は、それぞれTs℃及び約Ta℃であり、何れも上記上限温度未満(Ts<Tsh、Ta<Tah)である。従って、ブレーキ引き摺り状態が発生してライニング37の温度が短時間に急激に上昇した場合、ライニング37の周辺温度と判定基準温度(上限温度)とを単純に比較するだけでは、ライニング37が過熱状態か否かを判断できないことが判る。
【0055】
次に、制御ユニット15が実行する過熱判定処理について、図9及び図10のフローチャートに基づいて説明する。制御ユニット15は、例えばトラクタ2のエンジンの駆動中に、過熱判定処理を所定時間毎に繰り返して実行する。なお、ステップS3の処理は、上記第1の判定基準に従った処理であり、ステップS5〜S10の処理は、上記第2の判定基準に従った処理であり、ステップS11〜S15の処理は、上記第3の判定基準に従った処理であり、ステップS16〜S21の処理は、上記第4の判定基準に従った処理である。
【0056】
過熱判定処理を開始すると、まず、温度センサ11の検出温度(ライニング37の周辺温度)Tを取得し(ステップS1)、圧力センサ12の検出圧力(ブレーキ圧)Pを取得する(ステップS2)。
【0057】
次に、周辺温度Tが基準判定温度T1以上であるか否かを判定し(ステップS3)、基準判定温度以上である場合(ステップS3:YES)は、ライニング37が過熱状態であると判定する(ステップS4)。なお、ライニング37が過熱状態であると判定した場合は、本処理を終了すると共に、その後の過熱判定処理を繰り返して実行せず、当該判定を保持する。
【0058】
ステップS3において、周辺温度Tが基準判定温度T1未満であると判定した場合(ステップS3:NO)、最新の検出温度Tnと前回の検出温度Tn-1と前々回の検出温度Tn-2と温度の検出時間間隔ΔSとから、前回の温度上昇率ΔTn-1/ΔS=(Tn-1−Tn-2)/ΔSと、今回の温度上昇率ΔTn/ΔS=(Tn−Tn-1)/ΔSとを算出し(ステップS5)、温度上昇率増加状態(ΔTn/ΔS>ΔTn-1/ΔS)であるか否かを判断する(ステップS6)。なお、前回の温度上昇率ΔTn-1/ΔSは、前回の処理の実行時に既に算出した値であるため、各処理時において算出した温度上昇率を内部メモリに記憶しておき、前回の温度上昇率については再度算出せずに内部メモリから読み出して用いてもよい。
【0059】
ステップS6において、温度上昇率増加状態であると判断した場合(ステップS6:YES)、第2の内部タイマによる温度上昇率増加継続時間の計時をすでに開始しているか否か(計時中か否か)を判定する(ステップS7)。計時していない場合(ステップS7:NO)、第2の内部タイマによる計時を開始した後(ステップS8)、ステップS9へ進む。一方、計時中の場合(ステップS7:YES)、そのままステップS9へ進む。
【0060】
ステップS9では、第2の内部タイマによる温度上昇率増加継続時間の計時が第2の基準時間に達したか否かを判定し、第2の基準時間に達している場合(ステップS9:YES)、ライニング37が過熱状態であると判定する(ステップS4)。一方、第2の基準時間未満の場合(ステップS9:NO)は、ステップS11へ進む。
【0061】
ステップS6において、温度上昇率増加状態ではないと判断した場合(ステップS6:NO)、第2の内部タイマのリセット(計時停止及びカウント値クリア)を実行した後(ステップS10)、ステップS11へ進む。
【0062】
ステップS11では、最新の検出温度Tnと前回の検出温度Tn-1とを比較し、温度上昇状態(Tn>Tn-1)であるか否かを判断する。
【0063】
ステップS11において、温度上昇状態であると判断した場合(ステップS11:YES)、第3の内部タイマによる温度上昇継続時間の計時をすでに開始しているか否か(計時中か否か)を判定する(ステップS12)。計時していない場合(ステップS12:NO)、第3の内部タイマによる計時を開始した後(ステップS13)、ステップS14へ進む。一方、計時中の場合(ステップS12:YES)、そのままステップS14へ進む。
【0064】
ステップS14では、第3の内部タイマによる温度上昇継続時間の計時が第3の基準時間に達したか否かを判定し、第3の基準時間に達している場合(ステップS14:YES)、ライニング37が過熱状態であると判定する(ステップS4)。一方、第3の基準時間未満の場合(ステップS14:NO)は、ステップS16へ進む。
【0065】
ステップS16では、最新の検出圧力Pnが正圧(Pn>0)であり、且つ最新の検出圧力Pnと前回の検出圧力Pn-1との差ΔP=│Pn−Pn-1│が所定の圧力P0以下(ΔP≦P0)となる正圧安定状態であるか否かを判断する。
【0066】
ステップS16において、正圧安定状態であると判断した場合(ステップS16:YES)、第1の内部タイマによる正圧安定状態継続時間の計時をすでに開始しているか否か(計時中か否か)を判定する(ステップS17)。計時していない場合(ステップS17:NO)、第1の内部タイマによる計時を開始した後(ステップS18)、ステップS19へ進む。一方、計時中の場合(ステップS17:YES)、そのままステップS19へ進む。
【0067】
ステップS19では、第1の内部タイマによる正圧安定状態継続時間の計時が第1の基準時間に達したか否かを判定し、第1の基準時間に達している場合(ステップS19:YES)、ステップS20へ進む。
【0068】
ステップS20では、ステップS5で算出した前回の温度上昇率ΔTn-1/ΔSと今回の温度上昇率ΔTn/ΔSとを用いて、ステップS6と同様に、温度上昇率増加状態(ΔTn/ΔS>ΔTn-1/ΔS)であるか否かを判断し、温度上昇率増加状態であると判断した場合(ステップS20:YES)、ライニング37が過熱状態であると判定する(ステップS4)。
【0069】
ステップS16において、正圧安定状態ではないと判断した場合(ステップS16:NO)、第1の内部タイマのリセット(計時停止及びカウント値クリア)を実行した後(ステップS21)、本処理を終了する。また、ステップS19において、第1の内部タイマによる正圧安定状態継続時間の計時が第1の基準時間に達していないと判定した場合(ステップS19:NO)、及びステップ20において、温度上昇率増加状態ではないと判断した場合(ステップS20:NO)も、本処理を終了する。
【0070】
本実施形態によれば、リレーバルブ19が適正に機能する状態、すなわちブレーキ圧信号に応じてリレーバルブ19が適正圧の圧縮空気をブレーキ装置に供給する状態において、運転者がブレーキ操作を行っていない場合(ブレーキペダルを踏み込んでいない場合)、リレーバルブ19はブレーキ装置に圧縮空気を供給せず、圧力センサ12の検出圧力Pはゼロに維持され、ライニング37がブレーキドラム32に摺接せず、温度センサ11の検出温度Tは環境温度から上昇しない。従って、制御ユニット15は、検出温度Tが判定基準温度未満であり(ステップS3:NO)、温度上場率増加状態ではなく(ステップS6:NO)、温度上昇状態ではなく(ステップS11:NO)、正圧安定状態ではないと判断し、ライニング37が過熱状態ではないと判定する。
【0071】
また、リレーバルブ19が適正に機能する状態において、車両を停止又は減速するために運転者が適正なブレーキ操作でブレーキペダルを踏み込んだ場合、リレーバルブ19は、ブレーキ圧信号に応じた圧力で圧縮空気をブレーキ装置に供給する。この状態では、検出温度Tが判定基準温度に達することがなく(ステップS3:NO)、第2の内部タイマによる温度上昇率増加継続時間の計時が第2の基準時間に達してしまうことがなく(ステップS9:NO)、第3の内部タイマによる温度上昇継続時間の計時が第3の基準時間に達してしまうことがなく(ステップS14:NO)、また、ブレーキ装置に供給される圧縮空気の圧力が大きく変動し、圧力センサ12の検出圧力Pの変動量が所定範囲を超える(ステップS16:NO)、若しくは検出圧力Pの変動量が所定範囲に維持されても第1の基準時間以上継続して維持されることがない(ステップS19:NO)。このため、制御ユニット15は、ライニング37が過熱状態ではないと判定する。
【0072】
また、リレーバルブ19が適正に機能する状態において、坂道を走行中の車両の運転者が、急なブレーキ操作と操作解除とを短い時間間隔で継続して繰り返したり、弱いブレーキ操作を継続して行うことなどの不適正なブレーキ操作に起因して、検出温度Tが判定基準温度に達した場合(ステップS3:YES)や、温度上昇率増加状態が第2の基準時間以上継続した場合(ステップS9:YES)や、温度上昇状態が第3の基準時間以上継続した場合(ステップS13:YES)、制御ユニット15は、ライニング37が過熱状態であると判定し、この判定結果を、表示部22の画像や音声出力部23からの音声等によって運転者に報知する。従って、運転者の不適正なブレーキ操作に起因してライニング37が過熱状態に達してしまう状況下であることを、運転者は早期に認識することができる。
【0073】
一方、リレーバルブ19に不備が発生し、運転者がブレーキ操作を解除しているにも拘わらず定圧の圧縮空気がブレーキ装置に継続して供給されてライニング37がブレーキドラム32に継続して摺接していると、検出圧力Pは正圧で且つ所定時間毎の変動量は所定範囲内に維持される。また、ライニング37が過熱状態となると、検出温度Tは温度上昇率増加状態となる。このため、制御ユニット15は、正圧安定状態であると判断し(ステップS16:YES)、第1の内部タイマによる正圧安定状態継続時間の計時を開始又は継続し、正圧安定状態継続時間が第1の基準時間に達したとき(ステップS19:YES)に、温度上昇率増加状態であると判断し(ステップS20:YES)、ライニング37が過熱状態であると判定する。
【0074】
すなわち、リレーバルブ19の不備に起因してライニング37がブレーキドラム32に継続して摺接し、ライニング37の温度が短時間に急上昇する状況下において、正圧安定状態継続時間が第1の基準時間に達したときに、ライニング37が過熱状態であると判定される。このため、リレーバルブ19の不備に起因してライニング37の温度が短時間に急上昇して過熱状態に達してしまう状況下であることを、早期に且つ確実に検知することができる。
【0075】
また、トラクタ2の車室内の運転者は、表示部22や音声出力部23からの報知によって、ライニング37が過熱状態である若しくは過熱状態となる可能性が極めて高いことを早期に認識することができ、車両の停止等により、ライニング37の過熱に起因した発火等を未然に防止することができる。
【0076】
また、エンジンなどの車両の駆動源を有さずにトラクタ2によって牽引されるトレーラ3側には、温度センサ11と圧力センサ12と計測部16と送信器17という必要最小限の構成だけを設けているので、トレーラ3側での消費電力を最小限に抑えることができる。さらに、複数のトレーラから一つのトレーラを選択して牽引するトラクタ2側に、制御ユニット15を設けているので、高価な電子部品からなる制御ユニット15を複数のトレーラに個々に設ける必要がなく、全体としてコストの低減を図ることができる。
【0077】
なお、上記実施形態では、ドラムブレーキ30に本発明を適用した例を示したが、本発明は、例えばディスブレーキのような他のタイプのブレーキ装置に対しても適用可能である。また、上記実施形態では、トラクタとトレーラとからなる車両に本発明を適用した例を示したが、本発明は、トラックなどの他のタイプの車両に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
2 トラクタ
3 トレーラ
10 過熱判定装置
11 温度センサ(温度検出手段)
12 圧力センサ(圧力検出手段)
15 制御ユニット(計時手段、判定手段)
17 送信器(送信手段)
18 受信器(受信手段)
19 リレーバルブ(空気供給手段)
20 過熱報知装置
22 表示部(報知手段)
23 音声出力部(報知手段)
30 ドラムブレーキ(ブレーキ装置)
31 ブレーキシューユニット
32 ブレーキドラム(回転部材)
33 ダストカバー
34 アンカーピンブラケット
35 カムブラケット
36 ブレーキシュー
37 ライニング(摩擦制動部材)
40 カム
50 アクスルシャフト
51 アクスルチューブ
51a アクスルチューブの車幅方向端部の外面
52 ホイール
53 タイヤ(車輪)
54 ブレーキチャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ圧信号に応じた圧力で圧縮空気を供給する空気供給手段と、この空気供給手段から供給された圧縮空気の圧力に応じた押圧力で車体側の摩擦制動部材を車輪側の回転部材に摺接させて該車輪を制動するブレーキ装置と、を有するブレーキシステムにおける過熱判定装置であって、
前記空気供給手段から前記ブレーキ装置へ供給される圧縮空気の圧力を所定時間毎に検出する圧力検出手段と、
前記圧力検出手段が検出した圧力が正圧であり且つ所定時間毎の圧力の変動量が所定範囲内に維持されている正圧安定状態か否かを判断する圧力変動判断手段と、
前記圧力変動判断手段による判断結果が連続して前記正圧安定状態となる時間を計時する計時手段と、
前記計時手段が計時した時間が所定の基準時間に達したときに、前記摩擦制動部材が過熱状態であると判定する過熱判定手段と、を備えた
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の過熱判定装置であって、
前記空気供給手段は、圧縮空気が流入する流入口と、この流入口から流入した圧縮空気を前記ブレーキ圧信号に応じた圧力で前記ブレーキ装置に対して供給する流出口と、を有するリレーバルブを含み、
前記圧力検出手段は、前記リレーバルブの流出口に設けられている
ことを特徴とするブレーキ装置の加熱判定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の過熱判定装置であって、
前記摩擦制動部材の近傍で、車体側に取り付けられて当該摩擦制動部材の周辺温度を所定時間毎に検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段が検出した前記所定時間毎の周辺温度に基づいて、該周辺温度の上昇率が増加している温度上昇率増加状態か否かを判断する温度上昇率増加判断手段と、を備え、
前記過熱判定手段は、前記計時手段が計時した時間が前記所定の基準時間に達したときであって、前記温度上昇率増加状態であると前記温度上昇率増加判断手段が判断した場合に、前記摩擦制動部材が過熱状態であると判定する
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱判定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の過熱判定装置であって、
前記温度上昇率増加判断手段による判断結果が連続して前記温度上昇率増加状態となる時間を計時する第2の計時手段を備え、
前記過熱判定手段は、前記第2の計時手段が計時した時間が所定の第2の基準時間に達したときに、前記摩擦制動部材が過熱状態であると判定する
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱判定装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の過熱判定装置であって、
前記温度検出手段が検出した前記所定時間毎の周辺温度に基づいて、該周辺温度が上昇している温度上昇状態か否かを判断する温度上昇判断手段と、
前記温度上昇判断手段による判断結果が連続して前記温度上昇状態となる時間を計時する第3の計時手段とを備え、
前記過熱判定手段は、前記第3の計時手段が計時した時間が所定の第3の基準時間に達したときに、前記摩擦制動部材が過熱状態であると判定する
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱判定装置。
【請求項6】
請求項3〜請求項5の何れか一項に記載の過熱判定装置であって、
前記ブレーキ装置は、摩擦制動部材としてのライニングを前記回転部材としてのブレーキドラムに摺接するドラムブレーキであり、
前記温度検出手段は、前記ライニングが固定されるブレーキシュー、車体側に固定されて前記ブレーキシューを揺動自在に支持するアンカーピンブラケット、車体側に固定されてホイールを回転自在に支持するアクスルチューブ、又は車体側に固定されて前記ライニングの車幅方向内側近傍を覆うダストカバーに取り付けられる
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱判定装置。
【請求項7】
ブレーキ圧信号に応じた圧力で圧縮空気を供給する空気供給手段と、この空気供給手段から供給された圧縮空気の圧力に応じた押圧力で車体側の摩擦制動部材を車輪側の回転部材に摺接させて該車輪を制動するブレーキ装置とが、トラクタによって牽引されるトレーラに設けられたブレーキシステムにおける過熱警報装置であって、
請求項3〜請求項6の何れか一項に記載の過熱判定装置と、報知手段と、を備え、
前記過熱判定装置は、前記圧力検出手段が検出した圧力を示す圧力情報と前記温度検出手段が検出した周辺温度を示す温度情報とを無線信号によって送信する送信手段と、この送信手段が送信した無線信号を受信する受信手段と、を有し、
前記圧力検出手段と前記温度検出手段と前記送信手段とは、トラクタによって牽引されるトレーラに設けられ、
前記圧力変動判断手段と前記計時手段と前記温度上昇判断手段と前記過熱判定手段と前記受信手段とは、前記トラクタに設けられ、
前記受信手段は、受信した圧力情報を前記圧力変動判断手段に出力し、受信した温度情報を前記温度上昇判断手段に出力し、
前記報知手段は、前記トラクタの車室内に設けられ、前記摩擦制動部材が過熱状態であると前記過熱判定手段が判定したとき、これを前記車室内の運転者に報知する
ことを特徴とするブレーキ装置の過熱警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−46270(P2011−46270A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196160(P2009−196160)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000229900)日本フルハーフ株式会社 (93)
【Fターム(参考)】