説明

プラエルプトリンAの製造方法

【課題】プラエルプトリンAを高収率かつ選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸と、無水トリフラートおよび塩基の存在下で反応させるか、または、シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸無水物と、トリフラートのスカンジウム触媒の存在下で反応させるプラエルプトリンAの製造方法である。前記塩基としては、ジイソプロピルエチルアミンを好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラエルプトリンAの製造方法に関し、詳しくはプラエルプトリンAを高収率かつ選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラエルプトリンAは、ゼンコ由来の成分であり、カルシウム拮抗作用や発癌プロモーター抑制作用などに加え、近年見出された抗エイズ活性など種々の興味深い薬理活性を示しており、多くの研究者から薬効成分として非常に注目されている(例えば、非特許文献1〜4等参照)。
【0003】
今日、かかるプラエルプトリンAの全合成については種々の方法が提案されている(非特許文献5〜9参照)。
【非特許文献1】医学のあゆみ、173,P.161(1995)
【非特許文献2】Acta Pharmacologica Sinica, 25(1), P.35(2004)
【非特許文献3】Acta Pharmacologica Sinica, 23(9), P.769(2002)
【非特許文献4】Acta Pharmacologica Sinica, 22(9), P.813(2001)
【非特許文献5】Heterocycles, 26(5), 1239(1987)
【非特許文献6】Heterocycles, 29(9), 1675(1989)
【非特許文献7】Tetrahedoron Letters, 27, 1247(1971)
【非特許文献8】J.Org.Chem, 61, 4560(1996)
【非特許文献9】Tetrahedoron Letters, 32, 5077(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、未だ効率的な合成方法による製造方法が確立されていないため、これまでは研究者自らの天然物からの単離製造に依存しているのが現状である。合成法としても、例えば、スエイト(Swait)ら(非特許文献5参照)により提案されているプラエルプトリンAの既知の全合成法は、アンゲリカ酸をジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)により活性化エステルとした後、4’−アセチルケールラクトンとの縮合を行うものであり、この方法では最終工程の収率が4%と非常に低いものであった。また、この反応では立体的に障害の大きい4’−アンゲロイル(Ang)化反応が進行しにくく、通常条件(AngClまたはAngO、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)など)では、反応が進行しないか、あるいは複雑な立体異性体の混合物として得られることが報告されている。文献上の最適な反応条件を用いた合成においても、反応中に4’−Angの二重結合に対して異性化を起こした4’−ティグロイル(Tig)体を生じることから、収率の低下を招いている。
【0005】
さらに、非特許文献5記載の方法を改善した続報(非特許文献6参照)も出ているが、反応自体は非特許文献5記載の方法に準じており、無溶媒条件で冷蔵庫に放置して反応を追跡するものであった。この方法では収率は42%と改善したが、この反応条件では継続的に再現性を取ることが難しく、また、カラムクロマトグラフィー精製などで容易には分離困難な異性体も同程度副生するという問題があった。
【0006】
一方、立体障害の大きい種々水酸基への高収率なアシル化反応を利用したプラエルプトリンAの製造方法も幾つか報告されており(非特許文献7および8参照)、また、トリクロロベンゾイルクロライドを用いた立体障害の大きいアルコールのアンゲロイル化反応も、エー.イー.グリーンら(非特許文献9参照)によって報告されているが、いずれの合成反応も反応に長時間を要し、また生成物は目的物とその位置異性体の等量混合物からなり、収率が低く、かつ、この混合物もカラムクロマトグラフィー精製での分離が困難であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、プラエルプトリンAを高収率かつ選択的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、シス−4’−アセチルケールラクトンを所定の条件下でアンゲリカ酸またはアンゲリカ酸無水物と反応させることにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のプラエルプトリンAの製造方法は、シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸と、無水トリフラートおよび塩基の存在下で反応させることを特徴とするものである。
【0010】
前記塩基は、好ましくはジイソプロピルエチルアミンであり、また、反応温度は、好ましくは−80〜−40℃である。
【0011】
また、本発明の他のプラエルプトリンAの製造方法は、シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸無水物と、トリフラートのスカンジウム触媒の存在下で反応させることを特徴とするものである。また、この反応温度は、好ましくは0〜20℃である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラエルプトリンAを高収率かつ選択的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1においては、シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸(AngOH)と、無水トリフラート(TfO)および塩基の存在下で反応させるものである。
【0014】
本発明において使用する出発物質のシス−4’−アセチルケールラクトンは、既知の製造方法により得ることができる。例えば、前記非特許文献7に記載の製造方法に従い、市場で容易に入手し得る7-ヒドロキシクマリンを原料とし、これを3−クロロ−3−メチル−1−ブチンとの置換反応により中間体Aを得、この中間体Aを、例えば、触媒量の四酸化オスミウムを用いてオレフィンのジヒドロキシル化反応により中間体Bとし、この中間体Bを無水酢酸と反応させてシス−4’−アセチルケールラクトンを立体選択的に得ることができる。
【0015】
出発物質であるシス−4’−アセチルケールラクトンとアンゲリカ酸(AngOH)との縮合反応は、活性化能の強い無水トリフラートを用い、系内で非常に強力なアシル化活性種であるAngOTfを発生させることが肝要である。また、この反応は、低温かつ短時間で完結させることが好ましい。具体的には−80〜−60℃、1〜3時間でAngOTfを生成させ、同温度でシス−4’−アセチルケールラクトンの溶液を滴下後、0.5〜24時間で−80〜−40℃まで昇温する方法や、シス−4’−アセチルケールラクトン、アンゲリカ酸(AngOH)および塩基の混合物に、無水トリフラートを−80〜−60℃で滴下し、同温度で0.5〜1時間反応させる方法が好ましい。このうち、シス−4’−アセチルケールラクトン、アンゲリカ酸(AngOH)および塩基の混合物に、無水トリフラートを−80℃で滴下し、同温度で0.5〜1時間反応させる方法が特に好ましい。これにより反応過程で二重結合の異性化が抑えられ、収率および立体選択性を顕著に向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明においては、塩基の存在下で反応を行うことが肝要である。かかる塩基としては、好ましくは脂肪族系有機塩基であり、より好ましくはジイソプロピルエチルアミン(DIEA)である。かかるDIEAを用いる場合、高立体選択性と高収率とを高度に両立させることが可能となる。
【0017】
出発物質のシス−4’−アセチルケールラクトンに対するAngOHの好適当量範囲は1.5〜10である。また、TfOの好適当量範囲は1.5〜10である。さらに、塩基の好適当量範囲は1.5〜10である。いずれも、これら範囲内において高立体選択性と高収率とを得ることができる。
【0018】
本発明においては、反応溶媒として一般に知られているものを使用することができるが、高い立体選択性を実現するためには、塩化メチレンが好ましい。
【0019】
(実施形態2)
本発明の実施形態2においては、シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸無水物(AngO)と、トリフラートのスカンジウム触媒(Sc(OTf))の存在下で反応させるものである。なお、出発物質は、前記実施形態1で述べた方法と同様にして得ることができる。
【0020】
この反応は、好ましくは0〜20℃、特には0〜5℃において速やかに進行し、高い立体選択性で、かつ満足できる収率を得ることができる。
【0021】
出発物質のシス−4’−アセチルケールラクトンに対するAngOの好適当量範囲は2〜3である。また、Sc(OTf)の好適範囲は2〜5mol%である。いずれも、これら範囲内において高立体選択性と高収率とを得ることができる。
【0022】
本発明においては、前記実施形態1と同様に反応溶媒として一般に知られているものを使用することができるが、高い立体選択性を実現するためには、塩化メチレンが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実験例に基づき説明する。
出発物質(シス−4’−アセチルケールラクトン)の製造例
下記の反応式および条件に従い、シス−4’−アセチルケールラクトン(化合物4)の製造工程を、増炭反応、分子内環化反応、ジヒドロキシレーション、立体選択的アセチル化の順に説明する。

【0024】
1)化合物1の合成
炭酸カリウム存在下、反応溶媒としてアセトン/水、触媒としてヨウ化カリウムをそれぞれ用い、原料の7-ヒドロキシクマリンと3−クロロ−3−メチル−1−ブチンとの置換反応を行った。7-ヒドロキシクマリンに対して5当量の3−クロロ−3−メチル−1−ブチンを用いた場合、67.8%と良好な収率で目的とする化合物1を得ることができた。
【0025】
なお、3−クロロ−3−メチル−1−ブチンの当量を半減するとヨウ化カリウムを増量しても収率の改善は認められなかった。また、反応溶媒として無水ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた場合には、顕著な収率の低下が観察された。
【0026】
2)化合物2の合成
化合物1のジエチルアニリン懸濁液を180℃で反応させることにより、分子内環化反応は速やかに進行し、80%以上の良好な収率で目的とする化合物2を得ることができた。
【0027】
3)化合物3の合成
この反応では、化合物2および1当量のN−メチルモルホリンオキシドを反応溶媒に溶解し、触媒量の四酸化オスミウムを添加し室温で反応させることによって速やかに化合物3を良好な収率(収率88%)で得ることができた。
【0028】
4)化合物4の合成
氷冷下、化合物3の無水テトラヒドロフラン溶液に1.1当量のBF・EtOと1.6当量の無水酢酸の無水テトラヒドロフラン溶液を滴下し、室温で3時間攪拌することにより化合物4を立体選択的に得ることができた。
【0029】
なお、カラム精製中に4’から3’−アセチル(Ac)体への異性化が進行することが明らかとなっていたことから、速やかな精製操作の下で実際に反応を行ったところ、TLCでの反応追跡では中程度の立体選択性が観察された。後処理の後、速やかなフラッシュカラムクロマトグラフィー精製で得られた混合物を再結晶することによって、中程度の収率ながら化合物4を単一の立体異性体として得ることができた。
【0030】
また、この反応の副生成物は加水分解によって再利用可能であり、1)Ac化、2)副生成物の加水分解、3)再Ac化反応と一連の工程を繰り返すことによって、2.1gの原料の化合物3から約66%の収率で目的の化合物4(1.8g)を得ることができた。
【0031】
文献例1,2および実験例1〜3
出発物質である化合物4とアンゲリカ酸(AngOH)との縮合反応につき検討を行った。その結果を下記の表1に示す。なお、この反応はAngOHを適当な活性剤を用いて4’位へ導入するものであるが、反応条件により、下記反応式に示すように、生成可能な4種類の立体異性体の混合物が得られた。尚、混合物の割合は400MHzNMRにて決定した。

【0032】
【表1】

【0033】
上記表1の文献例1および文献例2のように、前記非特許文献5および6の製造方法に基づくプラエルプトリンAの製造方法でも、目的とする生成物5aのほか二重結合により異性化した生成物5dが生成した。この立体異性体の混合物は、通常のカラムクロマトグラフィー精製では分離困難であることが知られていた。
【0034】
そこで、生成可能な4種類の立体異性体の中で本発明の所望の生成物5aのみを生成できるような反応条件の探索を開始した。まず、前記非特許文献8の製造方法のように、実験例1ではスカンジウム触媒を用い、系内でAngOHとp−トリフルオロ安息香酸無水物から発生させたAngOと化合物4との反応を検討した。その結果、反応はほとんど進行しなかった。
【0035】
次に、実験例2では、前記非特許文献9における立体障害の大きい水酸基へのためのAng化の報告例にあった2,4,6−トリクロロベンゾイルクロライドを用いた条件を検討した。その結果、反応は進行したものの長時間を要し、しかも生成物5aと5bの1:1の混合物を低収率で得たに過ぎなかった。
【0036】
文献例1,2および実験例1,2の条件から、立体選択的な反応を満足させるためには、短時間かつ低温化で反応が進行できる強力なカルボキシル基の活性化が必要であることが示唆されたことから、実験例3では、活性化能の強い無水トリフラート(TfO)を用い、系内で非常に強力なアシル化活性種であるAngOTfを発生させることによって反応が低温かつ短時間で完結するのではないかとの考えの下に、以下の条件で反応を行った。
【0037】
即ち、反応は、氷冷下、化合物4に対して10当量のAngOHと10当量の2,6−ルチジンの塩化メチレン溶液にTfOを加え、同温度で30分間攪拌した後、化合物4の塩化メチレン溶液を−80℃で滴下し、0℃まで昇温して行った。反応は、実験例3に示すように、反応温度を−80℃から0℃の間で変化させたとき速やかに完結したが、目的とする生成物5aは全く得られずに、ほぼ定量的な収率で生成物5cと5dの1:1の混合物を得た。これは、1)氷冷条件では最初に行ったAngOTfの生成過程で既に二重結合の異性化が進行しており、なおかつ、2)化合物4においては系内で発生する酸性雰囲気で昇温することによって4’−AcOから3’−AcOへの異性化が進行したものであると考えられた。
【0038】
実験例4〜6
(反応条件(温度および時間)の検討)
選択性は得られなかったものの、高収率で生成物が得られた実験例3の反応を低温下で行うことによって上記の異性化メカニズムが抑えられ、立体選択的に生成物5aが得られるのではないかとの考えの下に、下記の反応式の反応温度と反応時間を変化させて条件検討を行った。その結果を下記の表2に示す。尚、表中、混合物の割合は400MHzNMRで決定した。

【0039】
【表2】

【0040】
上記表2のように、実験例4において、−80℃でAngOTfを生成させ、同温度で化合物4の塩化メチレンを滴下後、−40℃に昇温した条件では、94%という高収率で目的とする生成物5aを主生成物として得ることができた。この反応では、対応するTig化合物(生成物5c,5d)は、NMR上確認できなかった。
【0041】
また、表2に示すように−50℃まで昇温した条件の実験例5においては、反応温度の立体選択性への影響が顕著に認められ、生成物5aと5bの生成比が6.7:1となり、目的とする生成物5aの割合が向上した。
【0042】
化合物4の塩化メチレンを滴下後、−80℃のまま反応を行った条件の実験例6においては、高い立体選択性を維持することができたものの、収率が低かった。
【0043】
実験例3〜6から、反応を低温下で行うことにより反応過程で二重結合の異性化が抑えられていることが明らかとなった。また、化合物4の添加後、昇温することで収率が向上することから、化合物4に対してTfOが反応過程で副反応を誘発する可能性が低いことなどが考えられた。尚、表中、混合物の割合は400MHzNMRで決定した。
【0044】
実験例7〜11
(添加剤(有機塩基)の影響)
次に、下記の反応式において脂肪族および芳香族有機塩基の添加効果につき評価した。その結果を下記の表3に示す。

【0045】
【表3】

【0046】
上記実験例3〜6の結果より、低温下では化合物4に対してTfOが反応過程で副反応を誘発する可能性が低いことから、AngOHの活性化の段階で化合物4が反応系内で存在しても問題ないとの考えの下に、化合物4とAngOHおよび有機塩基の混合物の塩化メチレン溶液に−80℃でTfOを添加する反応条件で検討したところ、実験例7に示すように、有機塩基を添加しない条件では反応は全く進行しなかった。
【0047】
これに対し、脂肪族系の有機塩基を添加した条件では反応は速やかに進行した。特に、実験例8のジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を用いた条件では、他の異性体との立体選択性は50:1以上であり、かつ高収率で生成物5aを得ることができた。
【0048】
実験例9のトリエチルアミンを用いた場合には高い立体選択性を維持していたものの、収率の低下が確認された。
【0049】
実験例10の環状の有機塩基であるN−メチルピロリジンを用いた場合、立体選択性ならびに収率の低下が確認された。
【0050】
実験例11の芳香族アミンであるピリジンを添加した場合には、反応は全く進行せずに、ほぼ定量的な原料回収に終わった。これは、ピリジンを塩基とした場合、TfOの活性化で生成したAngOTfに、さらにAngOが反応したAngOが主に生成しており、反応が進行しなくなったためではないかと考えられる。
【0051】
実験例7〜11の結果から、立体選択性および収率を向上させるには添加する有機塩基としてDIEAが最も適していることが分かった。
【0052】
実験例12〜17
(添加量と反応溶媒検討)
実験例7〜11の結果から、次に、下記の反応式においてAngOHとTfOおよびDIEAの添加量を変化させたときの立体選択性と反応収率に及ぼす影響を検討した。その結果を下記の表4に示す。尚、表中、*は上記式のa、b各々の当量であり、**はaが10当量であり、bが6.0当量である。また、表中、混合物の割合は400MHzNMRで決定した。

【0053】
【表4】

【0054】
上記表4の実験例12〜14に見られるように、反応溶液の濃度を20mg/mlとして、AngOHならびにDIEAの添加量を化合物4に対し1.5、3.0、5.0当量に変化させたとき、添加量の増加にともなって収率は改善するが、立体選択性の低下が見られた。
【0055】
次いで、上記表4の実験例16に見られるように、反応溶液の濃度を10mg/mlとした場合では、添加物を10当量用いても高い立体選択性を維持していた。
【0056】
また、実験例15に示すように、TfOの添加量のみを10当量から6当量に減量した場合でも良好な立体選択性および収率が得られた。以上のことから、反応は基質濃度とTfOの添加速度に大きく影響を受ける可能性が示唆され、反応溶液の濃度は10mg/mlが適していると考えられた。なお、TfOの添加量を10当量とし、1.3gの化合物4とAngOHの縮合反応を行った場合、1.42gの5a,プラエルプトリンAを合成することができ、その生成物は、ゼンコの日局試薬試液薄層クロマトグラフィー用プラエルプトリンAの規格に適合するものであった。
【0057】
尚、実験例17に示すように、反応溶媒にトルエンを用いた場合には、顕著な立体選択性の低下が見られた。よって、反応溶媒としては塩化メチレンが適当であることが確認された。
【0058】
実験例18,19
(AngOを用いた反応検討)
次いで、アンゲリカ酸(AngOH)に代え、無水アンゲリカ酸(AngO)を用いて、検討を行った。すなわち、前述したTfOによる活性化では系内に発生したAngOTfが活性種として考えられるが、さらに反応の進んだAngOが活性種の可能性も否定できないため、下記反応式に従い、TfOを用いジイソプロピルエチルアミンの存在下、化合物4との反応を行った。その結果を下記の表5に示す。尚、表中、混合物の割合は400MHzNMRで決定した。

【0059】
【表5】

【0060】
上記表5の実験例19から分かるように、−80℃から室温まで昇温して計6時間反応させても、反応は全く進行しなかった。このことから、本反応においての活性種はAngOTfであることが明らかとなった。
【0061】
一方、実験例18に示すように、化合物4とAngOに対してスカンジウム触媒を用いたAng化反応について検討したところ、反応は、氷冷下、速やかに進行し、高い立体選択性で、かつ満足できる収率が得られることが分かった。この結果から、AngOとトリフラートのスカンジウム触媒(Sc(OTf))の組み合わせも有効な製造実施条件として挙げることができることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸と、無水トリフラートおよび塩基の存在下で反応させることを特徴とするプラエルプトリンAの製造方法。
【請求項2】
前記塩基がジイソプロピルエチルアミンである請求項1記載のプラエルプトリンAの製造方法。
【請求項3】
反応温度を−80〜−40℃とする請求項1または2記載のプラエルプトリンAの製造方法。
【請求項4】
シス−4’−アセチルケールラクトンをアンゲリカ酸無水物と、トリフラートのスカンジウム触媒の存在下で反応させることを特徴とするプラエルプトリンAの製造方法。
【請求項5】
反応温度を0〜20℃とする請求項4記載のプラエルプトリンAの製造方法。

【公開番号】特開2008−127287(P2008−127287A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310595(P2006−310595)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000003665)株式会社ツムラ (43)
【Fターム(参考)】