説明

プラスチッククラッド光ファイバ

【課題】所定の温度変化範囲におけるピストニングの発生が抑制されるとともに、光ファイバ素線への応力が緩和され、コネクタに被覆を除去することなく接続可能で、しかも、低コストで製造でき信頼性に優れた光プラスチッククラッド光ファイバを提供する。
【解決手段】石英ガラスのコア11と紫外線硬化型フッ素含有樹脂のクラッド12からなる光ファイバ素線13の外周に、紫外線硬化型の樹脂からなる保護層15が密着し、保護層15の外側に被覆層14が密着して設けられる。被覆層14の収縮力(−40℃から+125℃までの温度変化における)の最大値をSmax(g/mm)、クラッド12と保護層15との密着力をA1(g/mm)、保護層15と被覆層14との密着力をA2(g/mm)としたとき、Smax<A1、かつ、Smax<A2となるように形成されている。また、保護層15は、ヤング率がクラッドのヤング率より小さく、非透光性の材料で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスのコアとフッ素樹脂を含有する樹脂のクラッドからなるプラスチッククラッド光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチッククラッド光ファイバは、屋内や自動車内等の比較的近距離でのデータ通信、光センサー用配線等に適したものとして需要が増えている。このプラスチッククラッド光ファイバは、一般的には、図2に示すように、石英ガラスからなるコア1の外周を透明の有機高分子重合体からなるクラッド2で同心状に囲んだ光ファイバ素線3を、被覆層4で保護した構成のものが用いられている。
【0003】
コア1は、光透過性に優れた高純度の石英ガラスが用いられ、外径200μm程度に形成されている。クラッド2は、コア1よりやや屈折率が小さい可撓性に優れた、例えば、紫外線硬化型のフッ素含有アクリレートポリマ等のフッ素含有樹脂が用いられ、厚みが15μmで外径が230μm程度になるように形成されている。被覆層4は、外径0.5mm又は0.9mm程度となるように押出し機で光ファイバ素線3の外周に成形される。その材料としては、例えば、ナイロンやテトラフルオロエチレン共重合体等が用いられ、コア1とクラッド2からなる光ファイバ素線3を、外部からの物理的、化学的刺激や汚染から保護している。
【0004】
このプラスチッククラッド光ファイバは、コア1とクラッド2からなる光ファイバ素線3と、有機高分子からなる被覆層4との線膨張係数が著しく異なり、また、コア1とクラッド2の密着力と比べて、クラッド2と被覆層4との密着力が小さい。このため、温度変化があると光ファイバの端末部において、光ファイバ素線3が、被覆層4から突き出したり、或いは引っ込んだりするピストニングと言われている現象が生じやすい。このピストニング現象が起こると、光ファイバ端面と発光、受光素子等の光学素子との距離が変化し、結合光量が変化したり、損失が増加するなどの不都合が生じる。
【0005】
このピストニングは、光ファイバ素線3のクラッド2と被覆層4との密着力を高めることにより低減させることができる。しかし、光ファイバは、端末部に光コネクタ等を接続して用いることが多い。この光コネクタの接続には、被覆層4を除去するのが一般的である。クラッド2と被覆層4との密着力を高めると、被覆層4の除去作業が難しくなり、光ファイバ素線3の表面に傷をつけたり、折損したりして光学特性を劣化させる原因となる。
【0006】
上記のような点を改善するために、例えば、特許文献1には、クラッドと被覆層との密着力を24〜37g/mmとすること、被覆層の引張り弾性率を500kg/mmとすることが開示されている。また、特許文献2には、光ファイバ素線と被覆層の間の密着力が10〜20g/mmとすることが開示されている。さらに、特許文献3には、最外層がフッ化ビニリデン系重合体からなる光ファイバ素線と1次、2次の被覆からなる被覆層の間にポリアミド系重合体材料を含む密着層を設け、被覆層外径と密着層外径を所定の関係にすることが開示されている。
【特許文献1】特開平8−62436号公報
【特許文献2】特開2001−264597号公報
【特許文献3】特開2003−75692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今後、メタル線から光ファイバへの切り替えの需要増加が見込まれているが、光ファイバの端末部の加工容易性、加工コストがネックとなる。一般的に、プラスチッククラッド光ファイバの端末形成では、光ファイバの端部の被覆層を除去して、コアとクラッドからなる光ファイバ素線を露出させ、光コネクタのフェルールを固定する方法が用いられている。上記の特許文献1〜2には、被覆層の密着力を選定することにより、光ファイバの被覆層の除去を容易にし、ピストニング現象を低減する試みがなされている。しかし、光ファイバ素線は、外径が0.3mm以下と細く、機械特性や光学特性を損なわないよう傷を付けずに被覆を除去するのが容易でなく、自動化するのが難しいとされている。
【0008】
このため、低コストで光コネクタを組立てる方式として、光ファイバの端部の被覆層を除去することなく光コネクタに固定することが検討されている。この場合、外側の被覆層がフェルールに固定されるが、ピストニング現象を抑制するには、光ファイバ素線と被覆層との密着力を考慮する以外に、光ファイバ素線に被覆層の歪みが及ばないようにすることも必要である。加えて、プラスチッククラッド光ファイバ自体の信頼性向上と生産性の向上が求められている。
【0009】
特許文献3には、光ファイバ素線と被覆層の間に、密着層を設けることも開示されているが、光ファイバ素線と被覆層との密着性を高めるために介在させるもので、被覆層の応力が光ファイバ素線に及ぶのを緩和するものではない。また、密着層にポリアミド系重合体を用いているため、高温での押出し加工が必要となり、成形性を考慮すると高速での製造が難しく、生産性がよくない。
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、所定の温度変化範囲におけるピストニングの発生が抑制されるとともに、光ファイバ素線への応力が緩和され、コネクタに被覆を除去することなく接続可能で、しかも、低コストで製造でき信頼性に優れた光プラスチッククラッド光ファイバの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるプラスチッククラッド光ファイバは、石英ガラスのコアと紫外線硬化型フッ素含有樹脂のクラッドからなる光ファイバ素線の外周に、紫外線硬化型の樹脂からなる保護層が密着して設けられ、保護層の外側に被覆層が密着して設けられる。そして、被覆層の収縮力(−40℃から+125℃までの温度変化における)の最大値をSmax(g/mm)、クラッドと保護層との密着力をA1(g/mm)、保護層と被覆層との密着力をA2(g/mm)としたとき、Smax<A1、かつ、Smax<A2となるように形成されている。また、保護層は、ヤング率がクラッドのヤング率より小さく、非透光性の材料で形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保護層には、クラッド材と同じ紫外線硬化型の樹脂を用いているため、光ファイバ素線の線引き工程でタンデムに形成することができ、別途の押出し機による形成を不要とし、低コストで製造することができる。また、クラッド表面に異物が付着したり機械的応力が加わる前に設けることができるため、光ファイバの信頼性を向上させることができる。また、本発明による保護層は、光ファイバ素線と被覆層との密着性を高めてピストニングの発生を抑制することができると共に、被覆層の伸縮による応力が光ファイバ素線に及ぶのを緩和し、伝送損失の増加を抑制することができる。さらに、保護層に非透光性の紫外線硬化型樹脂を用いることにより、透過光の通過断面積が大きくなって帯域特性が低下するのを抑制することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1により本発明の実施の形態を説明する。図中、11はコア、12はクラッド、13は光ファイバ素線、14は被覆層、15は保護層を示す。
本発明によるプラスチッククラッド光ファイバは、石英ガラスからなるコア11の外周を、紫外線硬化型のフッ素含有樹脂からなるクラッド12で囲んで形成された光ファイバ素線13が用いられる。そして、光ファイバ素線13の外周面には、紫外線硬化型の樹脂による保護層15を介して被覆層14を形成する。
【0014】
コア11は、光透過性に優れた高純度の石英ガラスを用い、例えば、太径のガラス母材から外径100μm〜600μm程度に線引きして形成される。クラッド12には、コア11よりやや屈折率が小さい可撓性のある樹脂、例えば、紫外線硬化型のフッ化アクリレートポリマ等のフッ素含有樹脂が用いられ、コア11の外周に厚み15μm〜25μm程度被覆して形成される。なお、本発明において、光ファイバ素線13とは、前記のコア11とクラッド12からなる構成を言い、光ファイバ素線13として、石英ガラス母材から所定の外径になるように線引きした直後のコア11上に、クラッド12としての樹脂材を直接被覆して形成される。
【0015】
被覆層14は、光ファイバ素線13を機械的外力から保護して傷等が付くのを防止すると共に、油分等の化学物質から保護するものである。この被覆層14は、外囲気に曝されることから、耐油性、耐熱性、難燃性等を備えた材料を用いることができ、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の各種被覆材で形成することができる。また、被覆層14は、単一の層で形成する以外に複数層で形成してもよく、目的に応じた材料選択の自由度を高めることができる。
【0016】
通常、被覆層14は、光ファイバ素線13の外周に直接被覆して形成されるが、本発明においては、被覆層14と光ファイバ素線13との間に保護層15を介して被覆する。この保護層15は、厚さ10μm〜200μm程度で、ヤング率が1〜1000MPa程度の紫外線硬化型の樹脂(例えば、ウレタンアクリレート樹脂等)を用いて形成される。保護層15として、クラッド12と同様に紫外線硬化型の樹脂を用いることにより、コア11を線引きしてクラッド12を形成する塗布工程に引続いて、タンデムに形成することができる。
【0017】
したがって、光ファイバの製造に際して、保護層15は、クラッド12の表面に異物が付着したり、機械的外力が加わる機会を著しく減少させることができ、光ファイバとしての信頼性を高めることができる。また、保護層15の形成工程は、光ファイバ素線13の線引きライン工程の一つとして組込むことができるので、新たに被覆ラインを設けて形成する必要がなく、コスト的には僅かな増加で済ますことができる。
【0018】
保護層15は、光ファイバ素線13のクラッド12と密着すると共に、被覆層14とも密着する材料で形成されるのが望ましい。また、−40℃から+125℃の温度変化における被覆層14の最大収縮力をSmax(g/mm)、クラッド12と保護層15との密着力をA1(g/mm)、保護層15と被覆層14との密着力をA2(g/mm)としたとき、Smax<A1であり、且つ、Smax<A2とするのが望ましい。
【0019】
ここで、光ファイバと光コネクタとの接続で、光ファイバの端部の被覆層を除去することなく光コネクタに固定する方式を用いたとする。この場合、光ファイバは、−40℃から+125℃の範囲の温度変化により、その被覆層14に伸縮を生じ、光ファイバ素線13と被覆層14との膨張率の相違から、ピストニングが起ころうとする。しかし、保護層15とクラッド12、及び保護層15と被覆層と14の密着力は、いずれも保護層15の収縮力より大きいので、光ファイバ素線13と被覆層14との間で密着状態が維持される。この結果、被覆層14に対する光ファイバ素線13のピストニングを抑制することができる。
【0020】
なお、被覆層14の収縮力S(g/mm)の測定は、例えば、図3に示した方法で測定することができる。この方法は、恒温槽内に対向配置した固定具間に張力計を介して試験品を設置し、恒温槽内の温度を変化させながら、張力計で収縮力を計測する。試験品の測定長がLa(mm)であるとすると、張力計の指示値をLaで除すことにより、単位長さ当たりの収縮力S(g/mm)を得ることができる。
【0021】
また、保護層15とクラッド12との密着力A1(g/mm)及び保護層15と被覆層14との密着力A2(g/mm)の測定は、例えば、図4に示した方法で測定することができる。この方法は、互いに密着する層の内側層の端部を張力計に固定し、外側層の端部にダイスを当て、張力計に引張りを付与して外側層を軸方向に引き離す。或いは、張力計を固定して、ダイスを移動させて外側層を軸方向に引き離すようにしてもよい。このときの張力計の指示値を試験品長さLb(mm)で除すことにより、単位長さ当たりの密着力A1又A2(g/mm)を得ることができる。
【0022】
また、保護層15は、光ファイバ素線13のクラッド12より軟質な樹脂層、すなわちヤング率の小さい樹脂層で形成されていることが望ましい。保護層15を軟質な樹脂層で形成することにより、温度変化で被覆層14が伸縮変形した際に、その変形歪みが光ファイバ素線13に及ぶのを緩和することができる。この結果、温度変化による光ファイバの光学特性が変動又は低下するのを抑制することができる。
【0023】
さらに、保護層15は、非透光性の樹脂で形成されていることが望ましい。光ファイバに入射された光の大体は、コア11とクラッド12の界面で反射を繰り返しながら、コア11内を伝搬していくが、光の帯域の一部は界面を突き抜けてクラッド12側に放射される。クラッド12に放射された光は、クラッド12と保護層15との界面で反射して再びコア内に入射され、コア内を伝搬していく。すなわち、保護層15を透光性の樹脂で形成すると、光の透過断面積が大きくなり帯域特性が劣化する可能性がある。そこで、保護層15を非透光性の樹脂で形成することにより、上記のような透過断面積が大きくなるのを制限し、帯域劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるプラスチッククラッド光ファイバの実施形態を説明する図である。
【図2】従来の技術を説明する図である。
【図3】収縮力の測定方法の一例を示す図である。
【図4】密着力の測定方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
11…コア、12…クラッド、13…光ファイバ素線、14…被覆層、15…保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスのコアと紫外線硬化型フッ素含有樹脂のクラッドからなる光ファイバ素線の外周に、紫外線硬化型の樹脂からなる保護層が密着して設けられ、前記保護層の外側に被覆層が密着して設けられていることを特徴とするプラスチッククラッド光ファイバ。
【請求項2】
前記被覆層の収縮力(−40℃から+125℃までの温度変化における)の最大値をSmax(g/mm)、前記クラッドと前記保護層との密着力をA1(g/mm)、前記保護層と前記被覆層との密着力をA2(g/mm)としたとき、Smax<A1、且つ、Smax<A2であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチッククラッド光ファイバ。
【請求項3】
前記保護層のヤング率は、前記クラッドのヤング率より小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチッククラッド光ファイバ。
【請求項4】
前記保護層は非透光性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチッククラッド光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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