説明

プラスチックフィルム

【課題】 従来のポリエステル樹脂は酸素、二酸化炭素、水蒸気に対するガスバリア性は必ずしも十分ではなかった。そのため、無機化合物を蒸着したり、他樹脂をラミネートしたりする必要があった。
【解決手段】 ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を主成分とする厚さが1mm以下であり、酸素透過度が10×10−14mol/(m・s・Pa)以下、二酸化炭素気体透過度が50×10−14mol/(m・s・Pa)以下、水蒸気透過度が20g/(m・24hr)以下のプラスチックフィルムを用いることにより、酸素、二酸化炭素及び水蒸気体に対しガスバリア性を高め、防湿性及び防錆性に優れたプラスチックフィルムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素、二酸化炭素のガスバリア性の高い樹脂は水蒸気に対するガスバリア性は必ずしも十分ではなく、反対に酸素、二酸化炭素のガスバリア性の低い材料は水蒸気に対するガスバリア性が高いことが知られている。例えば、エチレンビニルアルコールコポリマーは、酸素と二酸化炭素のガスバリア性は高いが、水蒸気のガスバリア性は低い。反対に、ナイロン12は、酸素と二酸化炭素のガスバリア性は低いが、水蒸気のガスバリア性は高い。
【0003】
従来、樹脂の中で、酸素、二酸化炭素、水蒸気のガスバリア性をバランスよく効果を発揮していたのがポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート(以下PETと記す)であった。しかし、PETでも単層フィルムとして用いる場合には、酸素、二酸化炭素、水蒸気のガスバリア性が不十分であった。これらのガスバリア性を改善するために、PETからなる成形体や包装容器に酸化アルミニウムや酸化珪素を蒸着する方法や、あるいはPETよりも高い水蒸気や二酸化炭素のガスバリア性能を有する樹脂を塗布あるいは積層する方法が提案されていた(特許文献1)。
【0004】
また、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)からなるポリエステル樹脂の成形品が提案されており、耐熱性に優れているので繊維・フィルム等の広い分野に応用できる旨が記載されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第03781181号公報
【特許文献2】特開2010−280767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、ガスバリア層および金属層を有することによりフィルムのガスバリア性を向上させることについて記載しているが、PET自体は単層ではガスバリア性が十分でない。
【0007】
特許文献2は、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)からなるフィルムが酸素、二酸化炭素、水蒸気のガスバリア性に優れること、及び応用分野について記載していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を主成分とする厚さが1mm以下であり、酸素透過度が10×10−14mol/(m・s・Pa)以下、二酸化炭素気体透過度が50×10−14mol/(m・s・Pa)以下、水蒸気透過度が20g/(m・24hr)以下であることを特徴とするプラスチックフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチックフィルムは、ラミネートすることなく単層で用いた場合であっても酸素、二酸化炭素、水蒸気のいずれにもガスバリア性に優れており、防湿性及び防錆性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について詳しく説明する。
【0011】
本発明に係るプラスチックフィルムは、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を主成分としている。ここで、主成分とは、プラスチックフィルム中に含まれるポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)の割合が60重量%以上のものを言う。プラスチックフィルム中のポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)の含有量は、80%以上が好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0012】
本発明に係るプラスチックフィルムは、ポリ(アルキレン―2,5−フランジカルボキシレート)がガスバリア性を有することに着目し、その性質を活かしたフィルムである。そのため、本発明に係るプラスチックフィルムは、ガスバリアフィルムとも呼ぶことができる。
【0013】
ガスバリアフィルムは、揮発性の物質を包装する包装材に好ましく用いることができる。
【0014】
揮発性の物質としては、エーテル等の化学薬品やインク等が挙げられる。
【0015】
また、ガスバリアフィルムは、外部からの水蒸気や酸素を透過させにくいので、酸化することまたは水蒸気と触れることで劣化するものの包装材として用いることができる。
【0016】
本実施形態に係るガスバリアフィルムは、ポリ(アルキレン‐2,5‐フランジカルボキシレート)のみの層で形成することができる。
【0017】
プラスチックフィルムは、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を含む重合体(以下「PAF系重合体」と言う。)を押出法等の一般的な溶融成形法により作製することできる。また、プラスチックフィルムの強度やガスバリア性を向上させるために、得られたフィルムを同時二軸延伸、または逐次二軸延伸することが好ましい。また、PAF系重合体を円筒状に押し出したチューブを同時二軸延伸するチューブラー法によってプラスチックフィルムを作製することができる。プラスチックフィルムの成形温度については、用いる樹脂の融点や製膜状況により適宜決定する。延伸後、プラスチックフィルムの寸法安定性を向上させるため、プラスチックフィルムのガラス転移温度以上かつ融点未満の温度で熱処理しても良い。
【0018】
本発明の単層のプラスチックフィルムは、複数の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも一層に用いることができる。
【0019】
本発明において単層とは、プラスチックフィルムの成形中、または成形後に他の樹脂を積層したり金属酸化物等を蒸着したりして複数の層を形成しないことを意味する。
【0020】
本発明者らは、精密機器の包装材としてフィルムを用いる場合に、品質保存の見地から酸素透過度が10×10−14mol/(m・s・Pa)以下で、二酸化炭素気体透過度が50×10−14mol/(m・s・Pa)以下で、水蒸気透過度が20g/(m・24hr)以下であることが好ましいことを見出した。
【0021】
本発明における精密機器とは、精密機器だけでなく精密機器部品を含む。本発明において、精密機器とは、カメラ、時計、複写機、レーザービームプリンター、インクジェットプリンター、医療・計測機器、半導体製造装置等を含む。
【0022】
また、本発明において、精密機器部品とは、複写機のトナーカートリッジ、レーザービームプリンターのトナーカートリッジ、インクジェットプリンターのインクカートリッジ、インクジェットプリンターのインクヘッドを含む。
【0023】
これらの部品の中で、インクジェットプリンターのインク吐出ヘッドの包装材は、特に酸素、二酸化炭素、水蒸気のガスバリア性が要求されるので、本発明のプラスチックフィルムを好適に用いることができる。
【0024】
特に機器の包装材は強度が求められるので、強度に対して強い形状を有していることが好ましい。
【0025】
気体透過係数とは、JIS K 7126で規定された方法により測定された値であり、気体透過度に試験片の厚さを乗じて、単位厚さ当たりの透過量に換算したものである。
【0026】
ここで、気体透過度とは、単位分圧差で単位時間に単位面積の試験片を通過する気体の体積である。気体が酸素の場合は、酸素透過係数と呼ぶ。また、二酸化炭素の場合は、二酸化炭素気体透過係数と呼ぶ。
【0027】
水蒸気透過係数とは、JIS Z 0208で規定された方法により測定された値である。本発明では、所定の温度および湿度条件で単位時間に単位面積の試験片を通過する水蒸気の量である水蒸気気体透過度を厚さ25μm当たりの透過量に換算したものである。
【0028】
ガスバリア性が高いとは、酸素透過係数、二酸化炭素透過係数、水蒸気透過係数の値が低くなることを意味する。
【0029】
本発明に係るプラスチックフィルムについて、酸素、二酸化炭素、水蒸気に対するガスバリア性が高い理由としては、通過するガスとPAFの構造との親和性が関係していると考えられる。PAFの構造に含まれるフラン環とガスである酸素、二酸化炭素、水蒸気との親和性が高いことにより、ガスがプラスチックフィルムを透過し難く、酸素、二酸化炭素、水蒸気に対して高いガスバリア性を発現しているものと考えられる。
【0030】
本発明において、PAF系重合体とは、ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を主成分とするコポリマーおよび混合物を含んでいる。また、コポリマーを形成する共重合成分としては、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸が挙げられる。また、ジオール成分としてはエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオールが挙げられる。
【0031】
PAF系重合体は、数平均分子量(PMMA換算)が1万から10万の範囲のものが好ましく、数平均分子量が1万未満であると引張強度が弱く、10万を超えると溶融粘度が高くなり製膜が困難になる。
【0032】
プラスチックフィルムの厚さは、使用する成形体に求められる強度やガスバリア性に応じて、1mm以下であることが好ましく、5μm以上1000μm以下であることがより好ましく、5μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。この範囲以下では、プラスチックフィルムの強度が弱く、この範囲以上であると強度を獲ることができるが軽量性や経済性が悪くなる。
【0033】
次に本発明で用いられるPAF系重合体の製造方法について説明する。
【0034】
PAF系重合体を得るための重合方法としては、2,5−フランジカルボン酸の誘導体等の酸と、エチレングリコール、またはブタンジオール等のアルコールとを重縮合させることにより得ることができる。
【0035】
本発明における2,5−フランジカルボン酸の誘導体としては、2,5−フランジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸ジメチル、2,5−フランジカルボン酸ジエチル及び2,5−フランジカルボン酸ジプロピルを用いることができる。これらの2,5−フランジカルボン酸の誘導体は、セルロースやグルコース、フルクトースなどのいわゆる再生可能資源であるバイオマス由来物質から公知の方法で製造することができる。
【0036】
本発明のPAF系重合体の重合方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、溶融重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、成形品の種類により適宜選択される。重合温度、重合触媒、溶剤などの媒体等についてはそれぞれの重合方法により適宜選択される。
【0037】
次に、PAF系重合体を合成する場合の反応温度について説明する。
【0038】
PAF系重合体の合成方法は、2,5−フランジカルボン酸の誘導体等の酸とエチレングリコールまたはブタンジオール等のアルコールとを、触媒の存在下で、エステル化を行ない、エステル化合物を得る工程からなる。次に、得られたエステル化合物の重縮合を行なう工程からなる。エステル化を行なう反応温度は、110℃〜200℃で、好ましくは150℃〜180℃である。重縮合を行なう温度は、180℃〜280℃で、より好ましくは180℃〜230℃の範囲である。
【0039】
エステル化合物の重縮合の工程は、好ましくは真空下で実施する。重縮合反応においては、副生成物としてジオールが生成し、これを除去することで重縮合の反応速度を高めるためである。
【0040】
次にPAF系重合体の合成方法で用いる触媒について説明する。ジカルボン酸とジオールからの重合体の合成は、ジカルボン酸の自己触媒作用のために触媒を加えなくても進行する。しかし、ジカルボン酸の濃度は重合の進行とともに低下するため、触媒を添加したほうがより好ましい。本発明のPAF系重合体の合成は、エステル化工程(以下、「第1工程」と言う。)とエステル交換反応による重縮合工程(以下、「第2工程」と言う。)の二工程を含んでいるため、それぞれに好適な触媒が存在する。
【0041】
第一工程のエステル化に好適な触媒としては、金属酸化物や塩、スズ、鉛、チタンなどの有機金属化合物や塩化ハフニウム(IV)や塩化ハフニウム(IV)・(THF)などの四価のハフニウム化合物が挙げられる。第二工程のエステル交換による重縮合に好適な触媒としては、鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウムなどの酢酸塩又は炭酸塩が挙げられる。第2工程では、マグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモンなどの金属酸化物又はスズ、鉛、チタンなどの有機金属化合物も好適に用いることができる。両工程に有効な触媒としては、チタンアルコキシドが好ましく用いられる。
【0042】
触媒は第一工程と第二工程の別々に加えてもよく、または前記の触媒群から任意の組み合わせで反応初期からフランジカルボン酸とジオールに混合してもよい。もちろん、フランジカルボン酸とジオールを加熱しながらそれに前記触媒を添加してもよく、さらに前記触媒群から任意の組み合わせで触媒を一回以上追加してもよい。
【0043】
また、PAF系重合体を得た後に、公知の方法で固相重合を行っても良い。
【0044】
また、プラスチックフィルムの特性を損ねない範囲で、他の樹脂をPAF系重合体に添加しても良い。例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂やポリカーボネートなどを用いることができる。他の樹脂の添加量は、PAF系重合体の100重量部に対して、0重量部から20重量部が好ましく、ガスバリア性の観点から0重量部から10重量部がさらに好ましい。また、他の樹脂は1種類のみ添加しても良いし、2種以上を組み合わせて添加しても良い。
【0045】
また、プラスチックフィルムのガスバリア性の向上を目的として、カオリン、タルク、マイカ、バライトなどの層状無機化合物を添加しても良い。水蒸気透過係数の値を低くすることができるので、タルクを用いることが好ましい。層状無機化合物の添加量は、プラスチックフィルムの透明性と低い水蒸気透過係数を両立させるために、プラスチックフィルムに対して0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0046】
また、さらに水蒸気透過係数を向上するために、ワックスを添加しても良い。ワックスの添加量は、プラスチックフィルムの取扱い性などを考慮すると、プラスチックフィルムに対して0.2重量以上10重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以上5重量%であることがさらに好ましい。
【0047】
ここでワックスとしてはカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、オレフィンワックスなどを用いることができるが、これらの中でもカルナバワックス、キャンデリラワックスやライスワックスが好ましい。
【0048】
また、フィルムを延伸する際の延伸追随性を向上させるために、可塑剤を添加しても良い。可塑剤は、フィルムの延伸時に、割れや穴あき等の欠陥のない膜を作製する作用がある。可塑剤としては、オキシ酸エステル誘導体等から選ばれた単一または複数の混合物を用いることができる。具体的には、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルトリブチルクエン酸等が挙げられる。
【0049】
なお、本発明のプラスチックフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤あるいは着色顔料を添加してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を記述する。本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。なお、測定、評価は以下の方法、装置を用いて行なった。
【0051】
1.気体透過性試験
酸素及び二酸化炭素の気体透過性試験は、JIS K 7126−1に基づいてガスクロ法、差圧式で行った。
〔測定条件〕 試験片形状:φ60 厚みは実施例及び比較例に記載。
試験ガス :酸素,二酸化炭素 3水準
試験条件 :23±2℃
透過面積 :1.52×10−3(φ4.4×10−2m)
測定装置 :差圧式ガス・蒸気透過率測定装置GTR−30XAD2、G2700T・F (GTRテック株式会社・ヤナコテクニカルサイエンス株式会社製)
【0052】
2.気体透過性試験(水蒸気) JIS Z 0208準拠
〔測定条件〕
試験片形状 :φ60、厚みは実施例及び比較例に記載。
試験雰囲気 :40℃、 90%RH
透過面積 :28.26cm
試験装置 :恒温恒湿槽 (エスペック製)
【0053】
3.分子量測定
分析機器 :Waters社製アライアンス2695
検出器 :示差屈折検出器
溶離液 :5mMトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度であるヘキサフルオロイソプロパノール溶液
流量 :1.0ml/min
校正曲線 :Polymer Laboratories社製のPMMA標準サンプルを用いて校正曲線を作成し、PAFの分子量を測定した。
カラム温度 :40℃
【0054】
4.ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)測定
装置名 :ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量分析装置
パン :プラチナパン
試料重量 :3mg
昇温開始温度 :30℃
昇温速度 :10℃/min
雰囲気 :窒素
【0055】
5.熱分解温度(Td)測定注1
装置名 :ティー・エイ・インスツルメント製熱重量測定装置
パン :プラチナパン
試料重量 :3mg
昇温開始温度 :30℃
測定モード :ダイナミックレート法注2
雰囲気 :窒素
注1:10%重量減少が観測された温度をTdとした。
注2:重量変化の度合いに従ってヒーティング速度をコントロールして、分解能が向上する測定モードである。
【0056】
(製造例1)ポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成
窒素導入管、分留管−冷却管、温度計、ステンレス鋼製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(2300g)と1,4―ブタンジオール(3997g;モル比=1:3)、すず触媒(0.059wt%)、トルエンで溶解したチタン触媒(0.059wt%)を測りとった。
【0057】
四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まり、約4時間かけて170℃まで昇温させた。
【0058】
分留管をト字管に換え、減圧を開始した。約3時間かけてフルバキューム(133Pa)とし、以後、減圧下(133Pa)、190℃で約390分間反応を続けた。得られたポリ(ブチレン−2,5−フランジカルボキシレート)(以下、「PBF」と記す)は、2990gであった。
【0059】
こうして得られたPBFの数平均分子量(ポリメチルメタクリレート換算)は6.3万であり、Tmは170℃、Tgは31℃、Tcは90℃、10%減量熱分解温度は338℃であった。
【0060】
(製造例2)ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成
窒素導入管、分留管−冷却管、温度計、ステンレス鋼製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(2300g)とエチレングリコール(2758g モル比=1:3)、すず触媒(0.05wt%)、トルエンで溶解したチタン触媒(0.05wt%)を測りとった。
【0061】
四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まり、約4時間かけて230℃まで昇温させた。
【0062】
分留管をト字管に換え、減圧を開始した。約3時間かけてフルバキューム(266Pa)とし、以後、減圧下(266Pa)、230℃で約14時間反応を続けた。得られたポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレート(以下PEFと記す)は、2375gであった。その数平均分子量(ポリメチルメタクリレート換算)は7万であり、Tmは200℃、Tgは85℃、結晶化温度156℃、10%減量熱分解温度は360℃であった。
【0063】
(実施例1)
製造例1で得られた数平均分子量6.3万のPBFを120℃に設定したオーブン中で8時間予備乾燥し、PBF中の水分を除去した。その後、小型Tダイ押出成形機(φ20mm、シリンダー設定温度170℃、)中へ供給して溶融した。
【0064】
押出機先端に設けたTダイからフィルム状に押出し、しわ、折れ目、ピンホールのない、厚さ82μmの未延伸フィルムを得た。次いで、未延伸フィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0065】
(実施例2)
製造例2で得られた数平均分子量7万のPEFを使用し、小型Tダイ押出成形機のシリンダー設定温度を220℃に変更した以外は実施例1と同様に実験を行ない、しわ、折れ目、ピンホールのない、厚さ119μmの未延伸フィルムを得た。
【0066】
次いで、未延伸フィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0067】
(実施例3)
製造例2で得られた数平均分子量7万のPEF100重量部に対し、カルナバワックス(東亜化成製)を1重量部、アセチルトリブチルクエン酸(東京化成工業製)を5重量部、粒子径7.0μmのタルク(日本タルク製)を4重量部、バッチ式ニーダに投入した。
【0068】
これらを混練温度225℃、混練時間5分、回転数50rpmで混練して、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を成形温度225℃、圧力50kgf/cm、プレス時間3分で圧縮成形して、シート状に成形した。
【0069】
つづいて、圧延ロールを用い、得られた樹脂組成物のシートをロール温度170℃、引取速度0.17m/min、ロールギャップ100μmで厚さ76μmのフィルム状に成形した。
【0070】
得られた樹脂組成物のフィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0071】
(実施例4)
製造例2で得られた数平均分子量7万のPEF100重量部に対し、PLA(三井化学製、商品名はレイシアH−100J)を10重量部、カルナバワックス(東亜化成製)を1重量部、アセチルトリブチルクエン酸(東京化成工業製)を5重量部、粒子径7.0μmのタルク(日本タルク製)を4重量部、バッチ式ニーダに投入した。
【0072】
これらを混練温度225℃、混練時間5分、回転数50rpmで混練して、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を成形温度225℃、圧力50kgf/cm、プレス時間3分で圧縮成形して、シート状に成形した。
【0073】
つづいて、圧延ロールを用い、得られた樹脂組成物のシートをロール温度170℃、引取速度0.17m/min、ロールギャップ100μmで厚さ78μmのフィルム状に成形した。
【0074】
得られた樹脂組成物のフィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0075】
(実施例5)
製造例2で得られた数平均分子量7万のPEF100重量部に対し、ポリカーボネート(帝人化成製、商品名はパンライトL−1225L)を10重量部、カルナバワックス(東亜化成製)を1重量部、アセチルトリブチルクエン酸(東京化成工業製)を5重量部、粒子径7.0μmのタルク(日本タルク製)を4重量部、バッチ式ニーダに投入した。これらを混練温度250℃、混練時間5分、回転数50rpmで混練して、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を成形温度225℃、圧力50kgf/cm、プレス時間3分で圧縮成形して、シート状に成形した。つづいて、圧延ロールを用い、得られた樹脂組成物のシートをロール温度170℃、引取速度0.17m/min、ロールギャップ100μmで厚さ69μmのフィルム状に成形した。
【0076】
得られた樹脂組成物のフィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0077】
(実施例6)
製造例2で得られた数平均分子量7万のPEF100重量部に対し、製造例1で得られたPBFを10重量部、カルナバワックス(東亜化成製)を1重量部、アセチルトリブチルクエン酸(東京化成工業製)を5重量部、粒子径7.0μmのタルク(日本タルク製)を4重量部、バッチ式ニーダに投入した。
【0078】
これらを混練温度225℃、混練時間5分、回転数50rpmで混練して、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を成形温度225℃、圧力50kgf/cm、プレス時間3分で圧縮成形し、シート状に成形した。
【0079】
つづいて、圧延ロールを用い、得られた樹脂組成物のシートをロール温度170℃、引取速度0.17m/min、ロールギャップ100μmで厚さ62μmのフィルム状に成形した。
【0080】
得られた樹脂組成物のフィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0081】
(比較例1)
樹脂にポリエチレンテレフタレート(PET、ユニチカ株式会社製、商品名はユニチカポリエステル樹脂NEH−2050)を使用し、小型Tダイ押出成形機のシリンダー設定温度を250℃に変更した以外は、実施例3と同様に行なった。
【0082】
しわ、折れ目、ピンホールのない、厚さ76μmのPET未延伸フィルムを得た。次いで、その未延伸フィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0083】
(比較例2)
樹脂にポリ乳酸(PLA、三井化学製、レイシアH−100J)を使用し、小型Tダイ押出成形機のシリンダー設定温度を170℃に変更した以外は実施例3と同様に行なった。しわ、折れ目、ピンホールのない、厚さ91μmのPLA未延伸フィルムを得た。
【0084】
次いで、その未延伸フィルムから試験片を切り出し、JIS K 7126−1に準拠して酸素,二酸化炭素の気体透過性試験とJIS Z 0208に準拠して水蒸気の気体透過性試験を行なった。
【0085】
表1に樹脂組成の一覧を、表2に気体透過度を、表3に気体透過係数を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
以上の結果より、PBF、PEFからなる両プラスチックフィルムは、ラミネートすることなく酸素、二酸化炭素、水蒸気、いずれにもガスバリア性の優れたプラスチックフィルムであることが分かる。また、ポリ乳酸やポリカーボネート、ワックスや可塑剤、タルクを添加しても優れたガスバリア性を維持していることが分かる。したがって、これらのプラスチックフィルムを精密機器包装材として用いると、良好な防湿性及び防錆性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)を有し、厚さが1mm以下であり、酸素透過度が10×10−14mol/(m・s・Pa)以下、二酸化炭素気体透過度が50×10−14mol/(m・s・Pa)以下、水蒸気透過度が20g/(m・24hr)以下であることを特徴とするプラスチックフィルム。
【請求項2】
前記ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)は、ポリ(エチレン−2,5−フランジカルボキシレート)又はポリ(ブチレン−2,5−フランジカルボキシレート)であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックフィルム。
【請求項3】
ポリカーボネート又はポリ乳酸の少なくともいずれかを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチックフィルム。
【請求項4】
前記ポリ(アルキレン−2,5−フランジカルボキシレート)は、バイオマス由来物質から合成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプラスチックフィルム。
【請求項5】
前記プラスチックフィルムは、精密機器包装用であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプラスチックフィルム。
【請求項6】
前記プラッスチクフィルムは、インクジェットプリンターのインク吐出ヘッド包装用であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプラスチックフィルム。
【請求項7】
複数の層からなるプラスチックフィルムであって、そのうち少なくとも一層が請求項1乃至4に記載のいずれか1項のプラスチックフィルムであることを特徴とするプラスチックフィルム。

【公開番号】特開2012−229395(P2012−229395A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240455(P2011−240455)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】