説明

プラスチック光ケーブル

【課題】機械特性と難燃性とに優れ、環境に悪影響を与えないプラスチック光ケーブル。
【解決手段】プラスチック光ケーブル11は、素線12とこの素線を密着被覆する第1被覆材13と、第1被覆材の外周の第2被覆材18と、第1被覆材13と第2被覆材18との間に配される抗張力繊維17とを備える。第2被覆材18は、金属水酸化物とポリマーとを含み、この金属水酸化物のポリマーに対する配合率は50〜75重量%である。プラスチック光ケーブルは、繰り返し曲げにも耐え、過酷条件の燃焼試験でも良好な難燃性を示すとともに、環境にやさしい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック光ケーブルに関し、特に、難燃性プラスチック光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送体等の光学用途においては、プラスチック系材料は、石英系材料に比べて、一般には成型加工性、部材の軽量化、低コスト化、可撓性、耐衝撃性等での優位性がある。例えばプラスチック光ケーブル(Plastic Optical Cable)は、石英系光ケーブルと較べると、光の伝送損失が大きいために長距離伝送には向かないが、プラスチックの上記性質により、ケーブル中のプラスチック光ファイバ素線(Plastic Optical Fiber)のコア部を大きくする、いわゆる大口径化を図ることができる。この大口径化により、プラスチック光ケーブルの分岐や接続に用いる各種周辺部品や機器の、プラスチック光ケーブルとの接続精度を上げる必要がなくなる。そのため、プラスチック光ケーブルは、周辺部品や周辺機器との接続容易性、端末加工容易性、高精度の調芯が不要になる等のメリットをもつ。その他にもプラスチック光ケーブルは、上記のようなコネクタ部分の低コスト化の他に、プラスチックの上記性質により、人体への突き刺し災害等の危険性の低さ、高い柔軟性による易加工性や易敷設性や耐振動性、そして低価格等のメリットがある。
【0003】
これにより、プラスチック光ケーブルは、家庭や、車載用途に注目されているだけでなく、高速データ処理装置の内部配線や、DVI(Digital Visual Interface)リンクなどの極短距離かつ大容量のケーブルとしても、利用が検討されており、さらには、DVIの次世代版規格であるHSVI(High Definition Multimedia Interface)規格に準拠した、光HDMIリンク用としても利用が検討されている。今後は、ホームシアター用途や、店舗、イベント会場、アミューズメント施設、セキュリティ設備、ホテル、学校、病院、駅、空港、放送局などでの使用が進んでいくものと考えられる。
【0004】
プラスチック光ケーブルでは、その中にあるプラスチック光ファイバ素線における耐曲げ性や耐候性の向上、吸湿による性能低下抑制、引張強度の向上、耐踏み付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部構成によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上等を目的として、プラスチック光ファイバ素線の表面に1層以上の被覆材が設けられることが一般的となっている。被覆材の付与方法としては、金属電線の被覆方法に習い、熱可塑性樹脂を溶融押出しして、プラスチック光ファイバ素線の表面で固化させる方法が一般的に多く用いられている。
【0005】
ところで、近年、プラスチック光ケーブルが用途に広がりを見せる中で、特にプラスチック光ケーブル網を利用した高速大容量通信が、幹線系だけでなく各家庭でも行われるようになってきた。このような状況下では、光伝送機器には難燃性が要求され、光伝送機器に接続される光ファイバーケーブルにも難燃性が要求されるようになってきている。
【0006】
現在、電線ケーブル等では、機械特性、加工性とともに難燃性にも優れたPVC(ポリ塩化ビニル)またはPVCを主成分とするPVC変性材料が、被覆材料として使用されていることが多い。しかし、PVCは、不適切な条件で焼却した場合には有害ガスが発生することがある。また、PVCには鉛化合物が含まれていることが多く、PVCの埋め立て廃棄処分については、鉛化合物の溶出による環境汚染が懸念されている。一方、PVCに代わる材料、いわゆる脱PVC(非PVC)材料の難燃化には、従来からPVCと併用されていたアンチモン化合物、亜鉛化合物や臭素化合物などが使用されることが多いが、これらの化合物も環境汚染などの問題から使用が制限されてきている。最近では家電製品の製造業者等による製品の回収、再生も義務付けられたこともあり、電子機器、OA機器等に使用される電線ケーブルの環境対策が益々強く求められている。このように、地球環境の保護に対する世界的な動きから、種々の分野で、環境に優しい商品の開発、製品化が積極的に行われている。
【0007】
しかし、プラスチック光ケーブルでは、一般的な電線や石英系光ケーブルの場合とは異なり、素線自体が可燃物であるため、その難燃化は技術的に困難である。従来被覆材料として広く使用されてきたPVCは、非常に難燃性が高く、プラスチック光ファイバ素線に被覆した場合にも、高い難燃効果を発揮したが、上記のような環境への配慮から、これを被覆材として使用することは問題がある。そして、脱PVCをターゲットに開発されてきた各種の難燃樹脂材料は、樹脂単独では高い難燃性をもち、不燃物である電線や石英系素線への被覆材としては充分な難燃性を発揮することが出来るが、プラスチック光ケーブルの場合には、素線自体の燃焼も抑えなければならず、難燃性が足りない。
【0008】
そこで、PVC系樹脂以外の材料を被覆材として用いる場合には、無機水酸化物を主体とする難燃剤を被覆材中に大量に添加する必要が生じる。しかし、無機水酸化物が大量に添加された被覆材は、PVC系樹脂に比べて、硬く、可撓性に劣る傾向がある。可撓性を向上させるためには、樹脂自体を他のものに変更する等により金属水酸化物の添加率を下げることが考えられるが、そうするとプラスチック光ケーブルの機械的強度や難燃性の低下を招くという問題があった。
【0009】
PVC以外の被覆素材を用いて、難燃性電線あるいは難燃性プラスチックプラスチック光ケーブルを製造する試みは従来から行われている。例えば、特許文献1では、非PVC系樹脂のものが提案されている。被覆材としての主成分樹脂はEVAであり、それに添加される難燃剤としては金属水酸化物である水酸化マグネシウムとされている。この文献によると、難燃性の評価方法としてはUL1581準拠の垂直燃焼性試験が採用され、これに合格する難燃性をもつケーブルが得られる。また、特許文献2では、被覆材料に特定の樹脂と金属水酸化物とを使い、さらに赤燐を添加している。特許文献3では、環境配慮型絶縁電線におけるノンハロゲンポリオレフィンでの被覆が提案されている。特許文献4ではダイオキシン等の有害物質の発生が無く、埋め立て処理においては重金属化合物等の有害物質の溶出が少ないものとして、抗張力繊維を付加した細径のものが提案されている。
【特許文献1】特開平7−56063号公報
【特許文献2】特開平7−77641号公報
【特許文献3】特開2002−231069号公報
【特許文献4】特開2001−147353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非PVC系被覆材の電線あるいはプラスチック光ケーブルといっても、臭素化合物、アンチモン化合物、鉛化合物、亜鉛化合物など環境汚染の問題が懸念される難燃助剤の添加が必須の場合が多く、また、難燃剤や難燃助剤の添加によりプラスチック光ケーブルの各種特性が低下する問題が残る。そして、今後のプラスチック光ケーブルの用途で要求される過酷な条件下での難燃性を満足するものは未だ提案されていない。この過酷条件下での難燃性とは、すなわち、複数のプラスチック光ケーブルを、高さ3.66m、幅1.22m、奥行き2.44mの部屋内に幅305mmに渡って、ケーブル同士が接するように一列に懸架し、このケーブルの下端に154.5kWの熱量のプロパンガスバーナーで30分間接炎した際に、接炎部分から30cm以上上に位置するケーブルの最高温度が454.5℃以下であり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がらない程度の難燃性であり、これはUL1666クラスの難燃性である。
【0011】
例えば、特許文献1に提案されるものでは、被覆材に三酸化アンチモン、臭素系難燃剤を相当量添加しないと、充分な難燃性が得られないし、また特許文献2に提案のものでは、赤燐を添加しないと充分な難燃性が得られない結果となっている。また、特許文献3のものでは、JISC3005の60度傾斜燃焼試験に合格しているものの、この基準では上記のような過酷条件での難燃性は充分でなく、しかも金属電線(銅線)ケーブル用であることから、被被覆体が可燃性のプラスチック光ファイバ素線に代わると、この難燃性基準の低い60度傾斜燃焼試験にさえ合格できなくなる。特許文献4に提案されるものは、難燃性評価がJISC3005の水平燃焼性試験でなされており、やはり、上記のような過酷条件での難燃性を達成するものではない。
【0012】
本発明は上記課題を解決し、機械特性及び過酷条件の難燃性に優れるとともに環境にやさしく、被覆により素線の伝送特性を損なわないプラスチック光ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、光信号を伝達するプラスチック光ファイバ素線と、このプラスチック光ファイバ素線の外周を密着被覆する第1被覆材と、この第1被覆材の外周を覆う第2の被覆材とを備えるプラスチック光ケーブルにおいて、第1被覆材と第2被覆材との間に複数の抗張力繊維を有し、第2被覆材がポリマーと金属水酸化物とを含み、金属水酸化物の配合率は前記第2被覆材中の50〜75重量%であることを特徴として構成されている。
【0014】
抗張力繊維はアラミド繊維であることが好ましく、ポリマーのうち70〜90重量%は、メルトフローレートが40〜70g/10分のエチレン−ビニルアセテート共重合体であることが好ましい。また、プラスチック光ファイバ素線の外径をL1(mm)、第1被覆材の厚みをL2(mm)、第1被覆材の外周と第2被覆材の内周との距離をL3(mm)、第2被覆材の厚みをL4(mm)とするときに、(L3/L2)≧0.6・・・(1)、(L2/L1)≧0.5・・・(2)、(L4/L3)≧1.5・・・(3)で示される条件をすべて満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプラスチック光ケーブルは、機械特性及び過酷条件の難燃性に優れるとともに、環境にやさしく、素線自体の伝送特性を損なわない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明のプラスチック光ファイバケーブルの一様態を示す概略断面図である。ここに挙げるプラスチック光ファイバケーブル(以下、ケーブルと称する)11は、光信号を伝達するプラスチック光ファイバ素線(以下、素線と称する)12の外周に第1被覆材13が設けられたプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)16と、複数の抗張力繊維17と、第2の被覆材18とを有する。このケーブル11は、第1被覆材13と第2被覆材18とが非密着とされている、いわゆるルース型ケーブルである。なお、コード16はプラスチック光ファイバ心線とも一般に称されることがあり、素線12は単にプラスチック光ファイバとも一般に称されることがある。
【0017】
素線12は、断面円形の径方向に屈折率が連続的に変化する、つまり連続的に屈折率分布があるコア部(図示せず)と、このコア部の外周に備えられて屈折率がコア部の屈折率以下であるクラッド部(図示せず)とからなる、いわゆるGI型素線である。ただし、素線12は、GI型に代えて、シングルモード、ステップインデックス、など他の屈折率プロファイルをもつ素線としてもよい。クラッド部とコア部とはそれぞれ複層構造とされる場合もある。そして、素線12は、断面の直径T1が、0.2〜2.0mmであることが好ましく、コア部の直径が0.1〜1.5mmであることが好ましい。しかし、本発明は、素線12の構成に依存するものではなく、公知の素線に適用することができる。
【0018】
素線12、つまりコア部とクラッド部との各材料としては、公知の素線用材料を用いることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、フルオロアルキルメタクリレート、メチルメタクリレー−スチレン共重合体、α-メチルスチレン-メチルメタクリレート共重合体、フルオロアルキルメタクリレートとテトラフルオロエチレンの共重合物、パーフルオロアリルビニルエーテル重合体、重水素化フッ素化高分子、重水素化メタクリル樹脂などが挙げられる。
【0019】
コア部が、上記のように屈折率分布をもつようにするためには、コア部に屈折率分布を付与するための添加剤(ドーパント)を添加する。ドーパントは、公知のように、コア部の主成分であるポリマーの繰り返し単位となるモノマーに比べて、充分に大きなサイズをもつ化合物とされる。そしてドーパントの例としては、ベンジルベンゾエート、ベンジルn−ブチルフタレート、ベンジルサルチレート、ベンジルフェニルエーテル、ベンゾイックアンハイドライド、ジベンジルエーテル、ジフェニルフタレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリフェニルフォスフェート、ジフェニル、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルサルファイド、m−フェノキシトルエン、フェニルベンゾエート、1,2−プロパンジオールジベンゾエート、トリクレジルフォスフェート、ジブチルフタレート、ジフェニルスルフォキシドなどが挙げられる。
【0020】
第1被覆材13は、素線12の外周に密着して設けられており、素線12を保護するとともに、素線の機械的強度を補う。ただし、本発明はコード16の構成に依存するものではなく、公知のコード16に対して適用することができる。
【0021】
第1被覆材13の主たる成分のポリマーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)等が好ましいものとして例示される。中でもPEが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)が特に好ましい。そして、第1被覆材13には、被覆後の素線12の性能や商品価値を向上させるために、酸化防止剤、遮光剤、滑剤、無機フィラー、着色剤、ポリテトラフッ化エチレン(PTFE)微粒子等を添加することが好ましい。これらの添加剤としては液体のものと固体のものとの両方があるが、固体のものの場合には混合が不均一になりやすいために、これを充分微細な粉体にしてから混合添加することが好ましい。これらの微粒子の大きさが充分小さくない場合には、素線12が被覆された際に、これら微粒子のうち主に第1被覆材13の内面及び内面付近に存在するもののために、素線12に局部的な側圧がかかり、コード16に局部的な歪みが与えられてしまい、伝送損失が大きくなることがある。このため、これら添加剤の粒子径は1μm以下であることが望ましい。
【0022】
本発明のケーブル11は、抗張力繊維を第1被覆層13と第2被覆層18との間のエリアに抗張力繊維17が備えており、この抗張力繊維は、コード16よりも高い弾性率を有する繊維である。これにより、ケーブル11としての力学的強度、引っ張り強度などを向上させることができる。さらに、この抗張力繊維17の使用と後述の第2被覆層18の構成と組み合わせることにより、ケーブル11を難燃化することができる。
【0023】
抗張力繊維としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、カーボン繊維などを用いることができ、中でもアラミド繊維が難燃性の向上の点で特に好ましい。これらの繊維形状のポリマーを複数本集めて撚ったものや、撚ったものをさらにエポキシ樹脂等で固められたものであってもよい。ケーブルの力学的強度や引張強度等をさらに向上させるために、金属線等の線状体を抗張力繊維とともに用いてもよい。金属線の材料としては、ステンレス、メッキを付した鉄、あるいは、電気配線との複合化を狙って銅などが用いられるが、いずれもこれら材料に限定されるものではない。
【0024】
第2被覆材18は、ポリマーと金属水酸化物とを含んでいる。金属水酸化物を、第2被覆層18のポリマーに対する重量比率が5〜50重量%となるように、ポリマーと混合することと、前述の抗張力繊維17の使用とにより、ケーブル11を難燃化することができる。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを例示することができる。難燃化のみを目的に考えると、金属水酸化物の添加量は、第2被覆材18のポリマー100重量部に対して100重量部以上とすることか望ましいが、添加量が多すぎると第2被覆材18の柔軟性が低下してケーブル11が脆くなるという懸念がある。そこで、金属水酸化物の添加率を上記範囲とすると、ケーブル11の柔軟性と難燃性とを両立することができる。
【0025】
さらに難燃性を向上させるためには、金属水酸化物に加えて、難燃助剤を第2被覆材18の中に添加してもよい。難燃助剤としては、脱PVC添加用として公知のものを各種用いることができる。例えば、発泡断熱効果のあるポリリン酸アンモニウム等の縮合リン酸エステル化合物が有効であり、窒素系化合物では、過酸化処理した4−ブチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、及びシクロヘキサン、N,N’エタン−1,2−ジイルビス(1,3−プロパンジアミン)との反応生成物などが有効である。また、第2被覆材18に含まれる可燃性物質の割合を減らす、第2被覆材18の内表面及び外表面の面状を改良して滑り性を付与する、等の目的で、タルク、シリカ、カルシウムなどを添加してもよい。
【0026】
第2被覆材18となるポリマーは、被覆による素線12の熱劣化を抑制するために、できるだけ低温での流動性が高いものが好ましいが、固化後の力学的強度も必要であるので、この両者の兼ね合いで選択される。第2被覆材18のポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11など)、エチレンエチルアクリレート及びその変性ポリマーなどが挙げられる。中でもエチレン−ビニルアセテート共重合体が好ましく、エチレン−ビニルアセテート共重合体の中でもエチレン構造の繰り返し単位が35〜45重量%であるものがより好ましい。本発明は、これらのポリマーの分子量、分子量分布、分岐の程度、架橋の程度に依存するものではなく、また、官能基の種類等を適宜変えてもよい。また、これらのポリマーを必要に応じてブレンドして使用することもできる。
【0027】
ただし、UL1581(VW−1)の燃焼試験を行った場合には、ケーブルが燃焼しながら溶融・滴下(ドリップ)して不合格になることもある。このドリップ抑制の観点からの難燃性向上のためには、第2被覆材18のポリマー成分のうち70〜90重量%は、メルトフローレート(MFR)が40〜70g/10分のエチレン−ビニルアセテート共重合体であることが好ましく、このエチレン−ビニルアセテート共重合体においてエチレン部が35重量%以上45重量%以下であることがより好ましい。さらに、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂やエポキシ樹脂、ポリテトラフッ化エチレン(PTFE)等の粒子などを第2被覆材18の中に添加することがドリップ抑制の点から好ましい。なお、ジオクタデシルジメチルアンモニウムで変性したモンモリロナイトやベントナイト、ヘクトライトのようなナノクレーや、アルミニウム、銅、鉄などのナノ金属化合物粒子を第2被覆材18へ微量添加することも、熱硬化性樹脂やエポキシ樹脂等の粒子添加と同じような効果がある。
【0028】
また、第2被覆材18には、酸化チタン、着色のためのカーボン等を添加してもよい。これにより、長期間の使用で第2被覆材18の表面が黄ばんでしまうのを抑制し、白色度を保つあるいは変色を目立たぬようにすることができるので、商品価値が向上する。
【0029】
なお、第1被覆材13と同様に、ケーブル11としての性能や商品価値をさらに向上させるために、酸化防止剤、遮光材、滑材、無機フィラー、着色剤、PTFE微粒子等を添加してもよい。
【0030】
素線12の外径をL1(mm)、第1被覆材13の厚みをL2(mm)、第1被覆材13の外周と第2被覆材18の内周との距離をL3(mm)、第2被覆材18の厚みをL4(mm)とするときに、下記の(1)〜(3)のすべての条件を満たすことが好ましい。これにより、難燃性をより向上させることができる。これらの条件を満たすように第1被覆材13と第2被覆材18との間に抗張力繊維17を備えることにより、第2被覆材18に着火した場合でも、着火した部分の周辺の樹脂溶融による流動が抑制される。その上、難燃化剤を含まない素線12と第1被覆材13は、第2被覆材18と抗張力繊維17の存在により、中に含まれている可燃性物質が、ケーブル11における燃焼部分に移動することが抑制される。このように、第2被覆材18に含まれる難燃化剤の効果が充分に発揮され、延焼がより抑制されるようになる。さらに、抗張力繊維17としてアラミド繊維を用いると、耐熱性がより向上するので好ましい。
(L3/L2)≧0.6・・・(1)
(L2/L1)≧0.5・・・(2)
(L4/L3)≧1.5・・・(3)
【0031】
また、用途に応じてさらに他の機能をケーブル11に付与するために、第1及び第2被覆材13,18以外の被覆材を設けてもよい。他の被覆材としては、例えば、折り曲げ時の応力をさらに緩和するための柔軟素材被覆材や発泡被覆材、剛性を上げるための強化被覆材等が挙げられる。
【0032】
素線12の製造方法としては、(1)プリフォームを製造してからこのプリフォームを所定の外径の素線となるように加熱延伸する方法と、(2)コア部とクラッド部とを形成する各ポリマー原料を、同時に溶融押出しして、所定外径の素線とする方法とが代表的である。(1)の方法の中でも、プリフォームの製造方法には各種あり、例えば、プリフォームコア部とプリフォームクラッド部とをそれぞれ作成してから両者を組み合わせる、予め作成されたコア部用部材の外周にプリフォームクラッド部を重合により形成する、予め作成されたプリフォームクラッド部用中空部材の中空部にプリフォームコア部を重合により形成する等の各方法のようにプリフォームコア部とプリフォームクラッド部をそれぞれ形成する方法と、プリフォームコア部とプリフォームクラッド部とを同時溶融押出する方法等とがある。そして、屈折率分布型の素線12の製造方法としては、国際公開第93/08488号パンフレットに記載されているような、プリフォームクラッド部となるポリマー製の中空部材を作成してから、この中空部内に重合性化合物を注入し、界面ゲル重合法により重合性化合物を重合させてコア部を形成する方法が好ましい例として挙げられる。ただし、本発明は、素線の製造方法に依存するものではない。
【0033】
上記(1)の方法において、プリフォームを形成するポリマーの原料としてのモノマーを重合させるときには、重合反応を開始するためにラジカルを生成する開始剤を用いることができる。そのような開始剤としては、(a)比較的高温、つまり約80℃以上での使用が好ましいもの、(b)40〜80℃程度の温度での使用が好ましいもの、(c)低温、つまり−10〜40℃で使用することができるものがあり、一般的には常温以上で使用することができる開始剤を用いることが反応の容易性から好ましい。(a)としては、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド等が例示され、(b)としては過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチルニトリル等が例示され、(c)としては、過酸化水素−第一鉄塩、過硫酸塩−酸性亜硫酸ナトリウム、クメンヒドロペルオキシド−第一鉄塩、過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン等が例示される。中でも、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチルニトリルを用いることがより好ましい。また、過酸化物−有機金属アルキル、酸素−有機金属アルキルなどの組み合わせでも、重合反応を開始させることができる。
【0034】
重合度の調整のために連鎖移動剤を使ってもよい。使用することができる公知の連鎖移動剤としては、脂肪族メルカプタン、チオグリコール酸、ジイソプロピオキサントゲン等が挙げられ、中でも、ブチルメルカプタン、アミルメルカプタンがより好ましい。
【0035】
GI型素線12を製造する場合には、コア部が、断面円形の中心から外周方向に向かって所定の屈折率分布を発現するように、屈折率調整剤(以下、ドーパントと称する)を重合用モノマー中に添加する。ドーパントは主成分となる樹脂のモノマーに比べて充分に大きなサイズをもつことが必要であり、具体的な化合物例としては、ベンジルベンゾエート、ベンジルn−ブチルフタレート、ベンジルサルチレート、ベンジルフェニルエーテル、ベンゾイックアンハイドライド、ジベンジルエーテル、ジフェニルフタレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリフェニルフォスフェート、ジフェニル、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルサルファイド、m−フェノキシトルエン、フェニルベンゾエート、1,2−プロパンジオールジベンゾエート、トリクレジルフォスフェート、ジブチルフタレート、ジフェニルスルフォキシドなどを挙げることができる。
【0036】
また、ドーパントに代えて、あるいは加えて、素線12を形成するポリマーとして、屈折率が互いに異なる複数のポリマーの混合物や、屈折率が違いに異なる繰り返し単位をもつ共重合物等を用いることもできる。
【0037】
素線12に第1被覆材13を被覆する第1被覆装置の要部概略図を図2に示す。第1被覆装置40は、素線12を案内するニップル41と、溶融状態の第1被覆材13を被覆開始位置PSにまで案内するための流路(以下、被覆材流路と称する)をニップル41との間に形成するとともにコード16の外径を制御するダイス42と、第1被覆材13を溶融して溶融装置40に押し出すための押出機43とを備える。ダイス42は、第1被覆材13を素線12に被覆するダイス口金45と、第1被覆材13を溶融状態に保ってダイス口金45にまで案内するダイヘッド本体46とを有し、ニップル41はニップル口金48とニップル本体49を有する。また、第1被覆材13の温度を調整するためにダイス42の温度を制御するヒータ51,52が、ダイス口金45とダイヘッド本体46とに取り付けられている。
【0038】
ニップル41とダイス42とは、通常は金属製とされる。金属の例としては、ステンレス鋼、クロムモリブデン綱、ニッケルクロム綱、クロム綱、マンガン綱、タングステンカーバイト(WC)綱、真鍮、銅、アルミニウム、鋳鉄綱などが挙げられる。第1被覆材13の流路やダイス口金45及びニップル口金48の両先端部分には、平面性、第1被覆材13の剥離性、硬度、耐腐食性、耐磨耗性等が求められ、これらの向上を目的として、ニッケルメッキ、硬質クロムメッキ等のメッキ処理に例示されるような各種表面処理がなされる。また、素線上に形成された第1被覆材13において樹脂流れ線(ウェルドライン)が出にくいように、被覆材流路を形成するニップル41の外壁とダイス42の内壁とは、第1被覆材13を均等流量で流すように設計されることが好ましい。したがって、ニップルの外壁とダイス42の内壁との素材は、第1被覆材13の性状に応じて選択される。また、両口金45,48から第1被覆材13を押し出す際の押出圧力が一定の値に保持されて流れムラが生じないように、上記両壁面と、ダイス及びニップル形状の構成とが決定される。
【0039】
押出機43で溶融された第1被覆材13は、押出圧力により被覆材入口53から被覆材流路へ送り込まれる。また、ダイス42よりも下流側に備えられて素線12を引っ張る引き取り装置(図示せず)により、素線12はニップル41の内部を連続走行する。第1被覆材13は、溶融状態のまま被覆開始位置PSに至り、ニップル41から出た素線12を覆う。なお、本実施形態では、被覆開始位置PSがダイス42の内部となるように、ダイス口金45の先端とテーパ形状であるニップル口金48の先端との相対位置を設定している。具体的には、図2に示すように、ニップル口金48の先端がダイス口金45の先端よりもわずかに上流側となるように両者は組み立てられている。そして、ニップル口金48の先端がダイス口金45の先端とで形成される第1被覆材13の出口は、その隙間の間隔がコード16とされたときの第1被覆材13の所定厚みL2を考慮して決定される。第1被覆装置40をこのような加圧式被覆装置とすることにより、被覆開始位置PSはダイス42の内部となり、第1被覆材13に圧力がかかった状態で素線12の被覆が開始される。以上のようにしてコード16が得られる。
【0040】
次に、コード16を第2被覆材18で被覆する方法を説明する。図3は第2被覆装置を示す概略図、図4は第2被覆装置の要部を示す断面概略図である。第2被覆装置70は、コード16に第2被覆材18を被覆する被覆部71と、この被覆部71に抗張力繊維17を供給する複数の供給部72と、第2被覆材18を溶融して被覆部71に押し出す押出機73とを備える。なお、図の煩雑さを避けるため、抗張力繊維17とこの抗張力繊維17を供給部に案内するためのローラ76との数については各2として図示しているが、これらの数に本発明は依存しない。
【0041】
供給部72には、抗張力繊維17が巻かれたリール77が複数備えられる。このリール77には、リールに適切な抵抗を与えて抗張力繊維17がたるまないようにするためのブレーキ部材とこのブレーキ部材を制御するコントローラとが備えられるが、図示はともに略す。
【0042】
被覆部71は、コード16と抗張力繊維17とを案内するニップル81と、溶融状態の第2被覆材18を被覆開始位置PSにまで案内するための流路(以下、被覆材流路と称する)をニップル81との間に形成するとともにケーブル11の外径を制御するダイス82とを備える。ダイス82は、第2被覆材18によりコード16と抗張力繊維17との束をまとめて被覆するダイス口金85と、第2被覆材18をダイス口金85にまで案内するダイヘッド本体86とを有し、ニップル81はニップル口金88とニップル本体89を有する。また、第2被覆材18の温度を調整するためにダイス82の温度を制御するヒータ91,92が、ダイス口金85とダイヘッド本体86とに取り付けられている。
【0043】
ダイヘッド本体86には、押出機73で溶融された第2被覆材18の入口(以降、被覆材入口と称する)93が形成されている。また、ニップル本体89の上流部には、コード16と抗張力繊維17とが通るエリアを減圧する減圧装置101が接続しており、ニップル81の内部圧力を効果的に制御するための減圧シール102とシール押さえ部材103とが設けられている。なお、本実施形態においては減圧装置101として減圧用ポンプとエアフィルタとを組み合わせたものを用いているが、他の周知の減圧装置でもよい。なお、コード16と第2被覆材18との隙間を充分に広くしたい場合には、減圧装置を使用しない場合がある。また、ニップル81及びダイス82の材質については第1被覆装置40と同じであるので説明を略す。
【0044】
ダイス82よりも下流側には、コード16を引っ張る引き取り部(図示せず)が備えられており、これによりコード16はニップル81の内部を通過する。また、抗張力繊維17は、リール77の駆動により、コード16と同じ走行速度でニップルの内部を通過する。そして、押出機83で溶融された第2被覆材18は、押出圧力により被覆材入口93から被覆材流路へ送り込まれる。第2被覆材18は、溶融状態のまま被覆開始位置PSに至り、ニップル81から出たコード16を覆う。
【0045】
本実施形態では、第1被覆材13での被覆と異なり、被覆開始位置PSがダイス42の外部となるように、ニップル口金88の形状、及び、ニップル口金88の先端とダイス口金85の先端との相対位置を決定する。ニップル口金88は、第1被覆装置40におけるニップル口金48(図2参照)とは異なり、外径が下流端部のみ略一定の円筒とされており、それを除く部分はテーパ形状とされているが、本発明はニップル口金88の形状に依存するものではなく、例えば下流端部は、わずかな断面傾斜をもつテーパ形状であってもよい。そして、本実施形態では、図3に示すように、ニップル口金88の先端がダイス口金85の下流端とほぼ同じライン上となるように伸びている。そして、ダイス口金85とニップル口金88とで形成される第2被覆材18の出口の隙間間隔はケーブル11となったときの第2被覆材18の所定厚みよりも大きくなるように設定される。以上のような、いわゆる引き落とし式被覆によりコード16は第2被覆材18により被覆される。
【0046】
以上のようにケーブル11を製造することができるが、本発明のケーブルは、上記の製造方法に限定されるものではない。例えば、コード16を製造するための被覆工程で第2被覆装置70(図2、図3参照)のような引き落とし式被覆を行ってもよいし、ケーブル11を製造する第2被覆材による第2被覆工程で第1被覆装置40(図2参照)のような加圧式被覆を行ってもよい。特に、第1被覆装置のような加圧式被覆を行う被覆装置であっても、そのダイス口金の被覆材出口の内径が充分に大きいときには、ニップル口金を下流側に移動させ、引き落とし式被覆をすることができる。なお、加圧式、引き落とし式の被覆方式は、主に、被覆材の溶融粘度を考慮していずれか一方が選択されることが多い。
【0047】
本発明のケーブルは、上記第1の実施形態で示す様態に限定されない。例えば、図5〜図8に示す断面のケーブルであってもよい。図5に示すケーブル120は、素線121及びこの素線121の外周を覆う第1被覆材122からなるコード123と、このコード123の外周に備えられる第1抗張力繊維126と、コード123とは略一定の間隔をあけて配置される第2の抗張力繊維127と、第1抗張力繊維126及び第2抗張力繊維127の外周をともに覆う第2被覆材128とを有する。第2抗張力繊維127は多数が束ねられた状態で第2被覆材128により密着被覆されているが、第1抗張力繊維126は図1に示される第1実施形態と同様に第1被覆材122と第2被覆材128との間の空洞部に配されている。そして、第2被覆材128が、コード123及び第1張力繊維126と、第2抗張力繊維127とを一体的に被覆することによって連結部128aが形成されている。なお、第1抗張力繊維126と第2抗張力繊維127とは同じ素材であってもよい。
【0048】
この第2の実施形態のケーブル120は、第2抗張力繊維127及びこの外周の第2被覆材128と連結部128aとを除く部分が第1実施形態のケーブル11(図1参照)と同じ構造であるので、素線121の断面円形における径L1、第1被覆材122の厚みL2、第1被覆材122から第2被覆材128までの距離L3、第2被覆材128の厚みL4の各寸法の取り方は第1実施形態の場合と同様である。
【0049】
図6に示すケーブル140は、2本のコードが連結されたいわゆる2心型ケーブルである。つまり、この第3の実施形態として示すケーブル140は、素線141と第1被覆材142とからなる2本のコード143と、各コード143の外周に備えられる抗張力繊維146と、2本のコード143及び抗張力繊維146とを一体被覆する第2被覆材148とを有する。このケーブル140も第1実施形態に示すケーブル11(図1参照)と同様のルース型ケーブルである。そして、2本のコード143は、第2被覆材148により形成される連結部148aによって連結される。
【0050】
図7に示すケーブルは、2心型ケーブルである。この第4の実施形態として示すケーブル160は、素線161と第1被覆材162とから構成されて間隔をあけて配置される2本のコード163と、各コード163の外周に備えられる第1抗張力繊維166と、2本並んだコード163を挟み込むように、かつ、断面の中心が2本のコード163の各断面中心と同一直線上に並ぶように2箇所に配置される第2抗張力繊維167と、これらの外周を一体に被覆する第2被覆部168とを備える。2本のコード163と第2抗張力繊維167とは、第2被覆部168により形成される連結部168aにより連結されている。
【0051】
図8に示すケーブルも2心型ケーブルである。この第5の実施形態として示すケーブル180は、第3の実施形態に示すケーブル140(図6参照)と比べ、連結部が異なる様態とされる。具体的には、このケーブル180は、素線181と第1被覆材182とからなる2本のコード183と、各コード183の外周に備えられる第1抗張力繊維186と、第2抗張力繊維187と、2本のコード183及び第1抗張力繊維186と第2抗張力繊維187とを一体被覆する第2被覆材188とを有する。第2抗張力繊維187は、略6角形とされる連結部188aの断面中央部に備えられており、第2抗張力繊維187の断面中心と2本のコードの断面中心とは一直線上となるようにされている、
【0052】
以上に例示した本発明のプラスチック光ケーブルは、繰り返し曲げ試験(例えば、JIS C6861)において、ひびや割れが生じることなく、伝送特性については繰り返し前の伝送損失を維持することができ、また、燃焼試験でも充分な難燃性を示す。例えば、UL試験ではUL1581(VW−1)の難燃性を発現し、UL1666のライザー燃焼試験にも耐性を示す。
【0053】
本発明のケーブルは、種々の発光素子、受光素子、他の光ケーブル、光バス、導光板、光カプラ、光信号処理装置、接続用光コネクタ等とともに用いることにより光信号を伝送するシステムを構成することができる。
【実施例1】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実験1]
素線12がクラッド部とコア部とからなり、クラッド部が外殻部材としてのアウタークラッドとその内側部材のインナークラッドとからなるものを作成した。アウタークラッドは、溶融押出成形により作成した内径18.7mm、長さ90cmのPVDFの管である。この管の中空部にインナークラッド用の原料を注入した。インナークラッド用の原料は、蒸留によって水分が100ppm以下となるように除去されたラジカル重合性化合物としての重水素化メタクリル酸メチル(MMA−d8)を204.1gと、重合開始剤としてのジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(商品名;V−601、和光純薬(株)製)と、連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンとの混合物である。これらの混合物は所定温度に調整してから注入された。ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)とn−ラウリルメルカプタンとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.012モル%と0.2モル%である。インナークラッド用の原料が注入されたクラッドを、回転重合装置の重合器本体に長手方向が水平となるようにセットし、これを3000rpmで回転させながら70℃の雰囲気下で22時間加熱重合を行った。このとき、回転する重合容器の近傍、具体的には1〜2cm離れたところに非接地型熱電対を設け、この熱電対による測定温度を、重合反応による温度とみなした。そしてこの方法により測定された重合反応の発熱における温度ピーク(以降、発熱ピークと称する。)を求めた。本実験1においては、重合開始から約15時間経過したときに60.8℃の発熱ピークが認められた。そして、これによりアウタークラッドの内面にPMMA−d8からなる層を形成してこの層をインナークラッドとした。
【0055】
インナークラッドの中空部に、コア用の原料を常温常圧下で注入した。コア用の原料は、水分を100ppm以下に除去した81.7gのMMA−d8と、重合開始剤としてのジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と、連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンと、ドーパントとしてのジフェニルスルフィド(DPS)との混合物である。なお、DPSは非重合性化合物である。ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)とn−ラウリルメルカプタンとDPSとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.04モル%、0.2モル%、7重量%とした。次に、コア用原料が注入されたクラッドを、長手方向が水平となるように、回転重合装置の重合器本体に再びセットして、回転速度を3000rpmとして回転させながら、70℃の雰囲気下で5時間加熱重合した。その後、90℃に雰囲気温度を上げて5時間、さらに回転速度を500rpmとして回転を継続し、120℃で24時間、熱処理して、コアを形成した。さらに、回転させながら自然冷却し、GI型素線のプリフォームを得た。
【0056】
内部を23℃/5%以下の雰囲気とした乾燥手段としてのデシケータを用いて、プリフォームを1週間静置した。その後、プリフォームを延伸して外径320μmの素線12を作製した。得られた素線12は、伝送損失が85dB/km(測定波長;650nm)、伝送帯域が2.2Gb/s・100mであった。
【0057】
第1被覆材13としてMFRが80g/10分のLDPE(低密度ポリエチレン)を用い、コード16の外径が1.2mmとなるように素線12を被覆した。被覆は、直径40mmのスクリュを備える押出し装置と、図2に示すような加圧型被覆装置とを用いて行い、第1被覆材13の溶融樹脂温度を125℃、被覆速度を18m/分とした。得られたコード16の伝送損失は81dB/kmであり、伝送帯域は2.1Gb/s・100mであった。
【0058】
得られたコード16を第2被覆材18で被覆した。第2被覆材18のポリマーはエチレンビニルアセテート共重合体(以降、EVAと称す)である。このEVAは、エチレン成分の含有量が40重量%であり、MFRが60g/分である。そして、第2被覆材18は、平均粒子径が0.1μm〜1.0μmである水酸化マグネシウム粒子をEVA100重量部に対して200重量部含んでいるとともに、平均粒径が0.5μm〜5.0μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFEと称す)の粒子を1.5重量部、ポリイミド樹脂を1重量部含んでいる。なお、この第2被覆材18は、この素材単独でUL1581のVW−1試験に合格したものである。
【0059】
コード16の第2被覆材18による被覆は、図3及び図4に示すような引き落とし型被覆装置を用いて行った。第1被覆材13の押出温度は210℃であり、被覆速度は18m/分であり、コードに対する張力は100×9.8mNである。抗張力繊維17は、TORAY製のアラミド繊維であるケブラー(登録商標)からなる繊維束であり、これを4束用いた。なお、アラミド繊維の太さは1270デシテックスである。
【0060】
得られたケーブル11においては、L1=0.32mm、L2=0.44mm、L3=0.4mm、L4=0.55mmであった。このケーブル11の伝送損失は81dB/km、伝送帯域は2.1Gb/s・100mであった。
【0061】
得られたケーブルについて、次の方法で燃焼性評価を実施した。複数のケーブル11を、高さ3.66m、幅1.22m、奥行き2.44mの部屋内に幅305mmに渡って、ケーブル11同士が接するように一列に懸架した。そして、このケーブル11の下端を154.5kWの熱量のプロパンガスバーナーで30分間接炎した。ケーブルの接炎部分から30cm以上の位置の最高温度は256℃以下であり、かつ、炎はケーブル11の下端から210m上までしか到達しなかった。
【0062】
さらに、次の方法で、ケーブルの繰り返し曲げ評価を実施した。このケーブル11を、素線1本当たり0.5×9.8mNの荷重を加えた状態で、垂直に懸架した。そして、ケーブル11の途中に半径15mmのガイドを配し、このガイドに沿って、ガイドより上部のケーブル11を、垂直方向に対して左右に各90度の角度に繰り返し曲げた。左右に各1回曲げる操作を1サイクルとし、1サイクルを2秒で行い、1000サイクル行った。その後、ケーブル11の表面を目視にて観察した。この目視観察では、ケーブル11にヒビ、割れは認められなかった。この繰り返し曲げの前に対する後の伝送損失の上昇値を測定したところ、0.2dB/km以下であった。
【0063】
[比較実験1]
実験1と同様のコードに対し、第2被覆材を被覆し、L3=0.2mm、L4=0.55mmであるケーブルを得た。その他の条件は実験1と同じである。
【0064】
得られたケーブルの伝送損失は176dB/km、伝送帯域は1.8Gb/s・100mであった。
【0065】
このケーブルについて、燃焼性評価を実施した。その結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がってしまった。繰り返し曲げ評価の結果は、ケーブルにヒビ、割れは認められず、繰り返し曲げの前に対する後の伝送損失の上昇値は0.2dB/km以下であった。
【0066】
[比較実験2]
実験1と同様のコードに対し、第2被覆材を被覆し、L4=0.75mmであるケーブルを得た。その他の条件は実験1と同じである。
【0067】
得られたケーブルの伝送損失は131dB/Km、伝送帯域は2.0Gb/s・100mであった。
【0068】
このケーブルについて燃焼性評価を実施した結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がってしまった。繰り返し曲げ評価では、ケーブルにヒビが確認された。
【0069】
[比較実験3]
実験1と同様の素線に対し、第1被覆材及び第2被覆材を被覆し、抗張力繊維を付与した。本実験におけるケーブルは、L2=0.14mm、L3=0.4mm、L4=0.55mmである。その他の条件は実験1と同じである。
【0070】
得られたケーブルの伝送損失は135dB/Km、伝送帯域は2.0Gb/s・100mであった。
【0071】
このケーブルについて燃焼性評価を実施した結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がってしまった。繰り返し曲げ評価の結果は、ケーブルに割れがヒビ、割れは確認されず、繰り返し曲げの前に対する後の伝送損失の上昇値は0.2dB/km以下であった。
【0072】
[比較実験4]
実験1と同様の素線に対し、第1被覆材及び第2被覆材を被覆し、抗張力繊維を付与した。本実験におけるケーブルは、L2=0.14mm、L3=0.2mm、L4=0.35mmである。その他の条件は実験1と同じである。
【0073】
得られたケーブルの伝送損失は153dB/Km、伝送帯域は1.9Gb/s・100mであった。
【0074】
このケーブルについて、燃焼性評価を実施した結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がってしまった。繰り返し曲げ評価の結果は、ケーブルに割れがヒビ、割れは確認されず、繰り返し曲げの前に対する後の伝送損失の上昇値は0.2dB/km以下であった。
【0075】
[比較実験5]
実験1と同様の素線に対し、第1被覆材及び第2被覆材を被覆し、抗張力繊維を付与した。本実験におけるケーブルは、L2=0.14mm、L3=0.2mm、L4=0.75mmである。その他の条件は実験1と同じである。
【0076】
得られたケーブルの伝送損失は211dB/Km、伝送帯域は1.8Gb/s・100mであった。
【0077】
このケーブルについて、燃焼性評価を実施した結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がってしまった。繰り返し曲げ評価の結果では、ケーブル11に割れが認められた。この繰り返し曲げの後の伝送損失値を測定したところ、500dB/kmを越えていた。
【0078】
[比較実験6]
抗張力繊維を付与しなかった以外の条件は実験1と同様とした。
【0079】
得られたケーブルの伝送損失は81dB/Km、伝送帯域は2.1Gb/s・100mであった。
【0080】
このケーブルについて、燃焼性評価を実施した結果、ケーブルの最高温度が454.5℃以上になり、かつ、炎がケーブル下端から3.66m以上燃え上がることはなかった。繰り返し曲げ評価の結果では、300サイクルの曲げたところでケーブル11に延びが確認された。また1000回の繰り返し曲げの後の伝送損失値を測定したところ、500dB/kmを越えていた。
【0081】
以上の実験1及び比較実験1〜6の結果、本発明のプラスチック光ケーブルでは、高い難燃性と繰り返し曲げ耐性とが認められることがわかる。
【0082】
以上のように、本発明のプラスチック光ケーブルは、機械特性及び過酷条件の難燃性に優れるとともに、環境にやさしく、素線自体の伝送特性を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明のプラスチック光ケーブルの概略を示す断面図である。
【図2】加圧式被覆装置の要部を示す概略図である。
【図3】引き落とし式被覆装置の概略図である。
【図4】引き落とし式被覆装置の要部を示す概略図である。
【図5】本発明の別の実施形態であるプラスチック光ケーブルの概略断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態であるプラスチック光ケーブルの概略断面図である。
【図7】本発明の別の実施形態であるプラスチック光ケーブルの概略断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態であるプラスチック光ケーブルの概略断面図である。
【符号の説明】
【0084】
11 プラスチック光ケーブル
12 プラスチック光ファイバ素線
13 第1被覆材
17 抗張力繊維
18 第2被覆材
120,140,160,180 プラスチック光ケーブル
121,141,161,181 プラスチック光ファイバ素線
155,142,162,182 第1被覆材
128,148,168,188 第2被覆材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を伝達するプラスチック光ファイバ素線と、このプラスチック光ファイバ素線の外周を密着被覆する第1被覆材と、この第1被覆材の外周を覆う第2の被覆材とを備えるプラスチック光ケーブルにおいて、
前記第1被覆材と第2被覆材との間に複数の抗張力繊維を有し、
前記第2被覆材がポリマーと金属水酸化物とを含み、前記金属水酸化物の配合率は前記第2被覆材中の50〜75重量%であることを特徴とするプラスチック光ケーブル。
【請求項2】
前記抗張力繊維はアラミド繊維であることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項3】
前記ポリマーのうち70〜90重量%は、メルトフローレートが40〜70g/10分のエチレン−ビニルアセテート共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項4】
前記プラスチック光ファイバ素線の外径をL1(mm)、前記第1被覆材の厚みをL2(mm)、前記第1被覆材の外周と前記第2被覆材の内周との距離をL3(mm)、前記第2被覆材の厚みをL4(mm)とするときに、
(L3/L2)≧0.6・・・(1)
(L2/L1)≧0.5・・・(2)
(L4/L3)≧1.5・・・(3)
で示される条件をすべて満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のプラスチック光ケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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