説明

プラスチック廃材の再資源化方法、再生プラスチック成形体およびその製造方法

【課題】プラスチック廃材から分離回収したポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂、もしくはアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂を、低コストで再生プラスチック成形体とする方法を提供する。
【解決手段】プラスチック廃材を破砕する工程と、破砕されたプラスチック廃材を金属系破砕物とプラスチック系破砕物とに選別する工程と、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程と、得られたポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂、もしくは、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂に、メタクリル酸エステル系樹脂を混合する工程とを含む、再生プラスチック成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃材の再資源化方法に関するものである。より詳しくは、プラスチック廃材を未使用のプラスチック原料に近似した物性まで回復させる再資源化方法、ならびに再生プラスチック成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国では所得水準の向上に伴い、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、パーソナルコンピュータ、プリンタ、ファックス、携帯情報端末などの製品が一般家庭に広く普及している。その結果、これら製品の廃棄量は年々増加する傾向にあり、これに伴い、プラスチック廃棄物の量も増加している。
【0003】
プラスチック廃棄物の大半は、焼却や埋め立てなどにより処分されてきたが、焼却による二酸化炭素の放出による地球温暖化、塩素化合物を含むプラスチックの焼却処理によるダイオキシンの生成や飛散による環境汚染、嵩高なプラスチック廃棄物の増大によるゴミ埋め立て処理場の不足などが大きな社会問題となっており、プラスチック廃棄物の再資源化は緊急に解決すべき課題となっている。
【0004】
このような状況下、資源の有効活用と廃棄物量の低減を目的とした家電リサイクル法が2001年4月に施行された。この家電リサイクル法では、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電4品目のリサイクルが義務付けられ、それぞれの製品の再商品化率は、エアコン70%以上、テレビ55%以上、冷蔵庫60%以上、洗濯機65%以上の法定基準値が定められている。家電リサイクル法の施行を受け、廃棄された製品に使用されていたプラスチック部材(以下、「プラスチック廃材」とも言う。)の再資源化について、各方面にて研究開発が進み、様々な方法が提案されている。
【0005】
たとえば特開平6−226242号公報(特許文献1)では、プラスチック廃材を熱分解炉で加熱乾留分解し、分解ガスおよび油を燃料として使用する、いわゆるサーマルリサイクルに関する方法が開示されている。しかし、この方法によれば、燃料として再資源化するため、最終的には燃焼により二酸化炭素が発生する問題もあり、社会的要請に充分に沿った方法であるとはいえない。
【0006】
これに対し、資源循環の考えのもと、プラスチック廃材を、再び製品のプラスチック部材に加工して使用する、いわゆるマテリアルリサイクルに関する方法が提案されている。たとえば、特開2000−159900号公報(特許文献2)において、プラスチック廃材に未使用のプラスチック(以下、「バージン材」とも呼称する。)を混合することで物性回復する方法が開示されている。しかし、これらの方法によれば、要求特性の高いプラスチック部材として使用可能な水準に到達させるためには、プラスチック廃材よりも多量のバージン材を混合する必要があり、特に、複数のプラスチックが混合したプラスチック廃材では物性回復が難しいといった問題点がある。
【0007】
これに伴い、複数種のプラスチックが混合したプラスチック廃材から、系統別にプラスチック廃材を分離する方法も提案されている。たとえば、特開平10−315231号公報(特許文献3)、特開2000−246136号公報(特許文献4)には、プラスチックの比重差を利用して、複数種のプラスチックが混合したプラスチック廃材を液体中で分離する方法が開示されている。しかし、この方法によれば、分離したい複数種のプラスチックの比重差が小さい場合には、系統別に高純度に分離することは難しいといった問題点がある。
【0008】
現在、リサイクルが義務付けられている前記家電4品目のプラスチック部材には、ポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂(以下、「スチレン系樹脂A」と呼称する。)と、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂(以下、「スチレン系樹脂B」と呼称する。)が多く使用されている。これらの材質からなるプラスチック廃材は比重差が小さいため、上述した分離方法では高純度に分離することは難しく、スチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bとが混合された状態でリサイクルすることになる。スチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bは非相容であるため、両者を単純に溶融混合した場合、均一な分散が得られず、再生プラスチック成形体の機械的物性は大きく低下する。このため、このような再生プラスチック成形体は、たとえばハンガーや植木鉢などの日用品雑貨のような低い物性であっても使用可能な限れられた用途にしか再利用することしかできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−226242号公報
【特許文献2】特開2000−159900号公報
【特許文献3】特開平10−315231号公報
【特許文献4】特開2000−246136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、プラスチック廃材から分離回収したポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂、もしくはアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂を、プラスチック廃材を混合して物性を回復させることにより、低コストで資源循環に貢献可能なプラスチック廃材の再資源化方法、再生プラスチック成形体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、廃棄された製品から回収したプラスチック部材を破砕し、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程にて得られたポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂、もしくはアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂に、メタクリル酸エステル系樹脂を混合すれば、少なくとも中品位もしくは高品位な再生プラスチック成形体を低コストで製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
本発明のプラスチック廃材の再資源化方法は、プラスチック廃材を破砕する工程と、破砕されたプラスチック廃材を金属系破砕物とプラスチック系破砕物とに選別する工程と、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程と、得られたポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂A)、もしくは、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂B)に、メタクリル酸エステル系樹脂を混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のプラスチック廃材の再資源化方法におけるプラスチック廃材は、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物におけるプラスチック部材であることが好ましい。
【0014】
本発明のプラスチック廃材の再資源化方法において、ラマン散乱分光分析法および/または近赤外分光分析法によってプラスチック系破砕物を系統別に分離することが、好ましい。
【0015】
本発明におけるメタクリル酸エステル系樹脂は、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物から分離回収されたプラスチック廃材であることが好ましい。
【0016】
本発明におけるメタクリル酸エステル系樹脂は、スチレン系樹脂Aおよびスチレン系樹脂Bの合計100重量部に対し5〜10重量部添加されることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上述した本発明のプラスチック廃材の再資源化方法を用いた再生プラスチック成形体の製造方法についても提供する。
【0018】
本発明はまた、上述した本発明の再生プラスチック成形体の製造方法により製造された再生プラスチック成形体についても提供する。本発明の再生プラスチック成形体は、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、非相容の関係にあるポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂Aとアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂Bが混合している場合でも、少なくとも中品位もしくは高品位の再生プラスチック成形体を、プラスチック廃材のみを再利用して低コストで得ることができ、使用済みとなった該製品の廃棄物を高効率で再資源化することができる。
【0020】
すなわち、プラスチック廃材から得られるポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂A、もしくはアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂Bをリサイクルする際、従来技術の比重分離では、スチレン系樹脂Aもしくはスチレン系樹脂Bを高純度に分離回収することは困難であるため、通常、スチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bが混合した状態となる。このため、非相容の関係にあるスチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bの混合により、均一な分散が得られず、機械的物性や長期信頼性の点で低品位の再生プラスチック成形体しか得られず、ハンガーや植木鉢などの日用品雑貨への利用に留まっていた。しかし、本発明の方法によれば、少なくとも中品位もしくは高品位な再生プラスチック成形体が低コスト得られるため、再生プラスチック成形体を再び家電4品目など耐久消費財へ適用することが可能となる。つまり、本発明はプラスチック廃材のみを再利用した再資源化技術であるため、新たな埋蔵化石資源の使用削減に貢献でき、サーマルリサイクルと異なり、二酸化炭素など温暖化ガス発生の抑制にもつながる。
【0021】
なお、本発明の方法は、前記家電4品目の廃棄物の再資源化に限定されるものではなく、プラスチックからなる部材を備えた製品であれば、どのような製品の再資源化にも好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のプラスチック廃材の再資源化方法の前半部分の一例を段階的に示すフローチャートである。
【図2】本発明のプラスチック廃材の再資源化方法の後半部分の一例を段階的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のプラスチック廃材の再資源化方法は、プラスチック廃材を破砕する工程と、破砕されたプラスチック廃材を金属系破砕物とプラスチック系破砕物とに選別する工程と、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程と、得られたポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂A)、もしくは、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂B)に、メタクリル酸エステル系樹脂を混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
ここで、本発明の再資源化方法が対象とする廃棄物となったプラスチック部材(プラスチック廃材)を備えた製品は、特に制限されるものではないが、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物であることが好ましい。
【0025】
以下、使用済み製品から回収されたプラスチック系破砕物を例に本発明の再資源化方法を説明する。図1は、本発明のプラスチック廃材の再資源化方法の前半部分の一例を段階的に示すフローチャートである。本発明においては、まず、家庭などから廃棄された使用済み製品を回収する(ステップ101)。そして、前記使用済み製品を、従来公知の適宜の手法にて解体(手解体)して、単一プラスチック部材や大型の金属部材などを部品毎に回収する(ステップ102)。ステップ102において回収した単一プラスチック部材は、通常、マテリアルリサイクルに利用される場合が多いが、メタクリル酸エステル系樹脂からなる単一プラスチック部材は、本発明の部材として使用することができる。この場合、メタクリル酸エステル系樹脂からなる単一プラスチック部材は、後述するステップ103、105と同様の工程を経て、ステップ201’以降の工程にて処理することが好ましい。本発明において、メタクリル酸エステル系樹脂は、特に制限されるものではないが、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)であることが好ましい。図1には、回収された単一プラスチック部材として、上述したPMMA以外に、GP−PS(General Purpose Polystyrene:汎用ポリスチレン)、HI−PS(High Impact Polystyrene:耐衝撃性ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、PP、PE(ポリプロピレン、ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)で形成されたプラスチック廃材などが例示されている。
【0026】
次に、単一プラスチック部材や大型金属部材などが回収された前記使用済み製品の残りの部材を、たとえば衝撃式破砕装置やせん断式破砕装置などの大型破砕機で粗破砕する(ステップ103)。ステップ103において、破砕物の粒径は、特に制限されるものではないが、10mm以上であるのが好ましく、40mm以上であることがより好ましい。また、破砕物の粒径は80mm以下であることが好ましく、60mm以下であることがより好ましい。破砕物の粒径が10mm未満または80mmを越える場合には、次工程での金属の選別精度が低下するという傾向があり、さらに粒径が10mm未満の場合には、破砕に長時間を要するため、プラスチックが溶融あるいは熱酸化劣化を起こすという傾向があり、また、粒径が80mmを越えると、嵩比重が小さくなり以後の工程での作業性に悪影響を及ぼすという傾向がある。具体的には、粒径が60mm程度となるように破砕するのが特に好ましい。
【0027】
続いて、上述した粗破砕工程(ステップ103)により得た破砕物を、金属選別機で鉄、銅、アルミニウムなどで形成された金属系破砕物とプラスチック系破砕物に選別する(ステップ104)。ステップ104において、金属系破砕物のうち鉄は、たとえば磁力を用いて選別することが好ましいが、これに限定されるものではない。また、金属系破砕物のうち銅やアルミニウムは、たとえば渦電流を用いて選別することが好ましいが、これに限定されるものではない。また、上述した磁力を用いた選別と渦電流を用いた選別の両方を行なう場合、その順序は特に制限されないが、効率の観点からは、まず磁力により鉄を除去し、次いで渦電流により銅やアルミニウムを除去することが好ましい。なお、金属選別機を使用せず、金属探知機、磁力探知機のみを使用し、金属系破砕物を除去することも可能である。当該工程で金属系破砕物を除去することにより、再資源化の対象となるプラスチック系破砕物を効率的に選別し、コスト低減を図ることができる。
【0028】
続いて、上述した金属選別工程(ステップ104)により得られたプラスチック系破砕物を分級する工程(ステップ105)を含むことが好ましい。当該工程において、大きさが10mm以下の微小破砕物や、70mm以上の大型片を除去することができる。微小な破砕物や大型片を除去することにより、後述するプラスチック系破砕物を系統別に分離する工程(ステップ107)において、選別精度を向上させることができる。分級工程においては、一般に市販されている分級機器を使用することができる。
【0029】
また、上述した分級工程(ステップ105)により得られたプラスチック系破砕物を風力選別する工程(ステップ106)を含むことが好ましい。上述した工程(ステップ103,104,105)においては、微粉、プラスチック表面から剥れたほこりや汚れ、プラスチック廃材から分離された発泡材、シールなどの軽量の破砕物が発生するが、当該工程を含むことにより、このような軽量の破砕物を除去することができる。軽量の破砕物を除去することにより、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程(ステップ107)において、選別精度を向上させることができる。
【0030】
続いて、上述した風力選別工程(ステップ106)により得られたプラスチック系破砕物を系統別に分離し、目的のプラスチック廃材を得る(ステップ107)。当該工程で用いるプラスチックの系統別に分離する手法は、たとえば、比較的技術開発が進んでおり、多量のプラスチックを処理するのに適しているラマン散乱分光分析法および/または近赤外分光分析法が好ましいが、これに限定されるものではない。さらに、分離精度の向上を目的とし、当該工程を複数回含むことが好ましい。なお、当該工程で用いるプラスチック系破砕物を系統別に分離する手法は、静電分離法を使用することもできる。ステップ107において、プラスチック系破砕物は、ポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂A、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂B、メタクリル酸エステル系樹脂、オレフィン系樹脂と、塩化ビニル系樹脂など系統別に分離回収される。従来技術の比重分離に比べ、上述した手法の分離精度は格段に高いものの、純度100%で完全に分離回収することは難しく、通常、スチレン系樹脂Aの分離回収物にはスチレン系樹脂Bが異物として一部混入し、スチレン系樹脂Bの分離回収物にはスチレン系樹脂Aが異物として一部混入する傾向がある。
【0031】
図2は、本発明の後半部分の一例を段階的に示すフローチャートである。上述したプラスチック系破砕物を系統別に分離する工程(ステップ107)により得られたスチレン系樹脂A、もしくはスチレン系樹脂Bからなるプラスチック系破砕物を微破砕する(ステップ201)。
【0032】
同様に、上述した手解体(ステップ102)にて回収したメタクリル酸エステル系樹脂(単一プラスチック部材)からなる破砕物および/または上述したプラスチック系破砕物を系統別に分離する工程(ステップ107)により得られたメタクリル酸エステル系樹脂からなるプラスチック系破砕物を微破砕する(ステップ201’)。この微破砕は、たとえば、せん断式破砕装置を用いて行なうことができる(微破砕後のものを、以下「微破砕物」と呼ぶ。)。微破砕物の大きさに特に制限はないが、後述するステップ205において均一に混合させる、およびステップ206において成形機のシリンダー内で充分に溶融し均一混練させる理由から、最大長さが5〜20mm程度が好ましく、最大長さが10mm程度が特に好ましい。
【0033】
その後、微破砕により生じた微粉末を除去する(ステップ202,202’)。粉末の除去は、たとえば、篩あるいはサイクロン方式によって行なうことができる。
【0034】
続いて、前述の微破砕工程(ステップ202,202’)により得られた微破砕物を洗浄し、付着している異物を除去する(ステップ203,203’)。洗浄は、従来公知の湿式水洗浄を行ない、たとえば翼型ローター・脱水スクリーン式洗浄脱水乾燥機で行なうことが好ましい。
【0035】
上述した洗浄工程(ステップ203)により得られたスチレン系樹脂Aもしくはスチレン系樹脂Bの微破砕物に、前述の洗浄工程(ステップ203’)により得られたメタクリル酸エステル系樹脂を配合する(ステップ204)。
【0036】
本発明において、メタクリル酸エステル系樹脂の配合量には特に制限はないが、再び家電4品目など耐久消費財へ適用可能な少なくとも中品位もしくは高品位の再生プラスチック成形体を得る観点から、スチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bの合計100重量部に対し5〜10重量部配合するのが好ましい。メタクリル酸エステル系樹脂の配合量がスチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bの合計100重量部に対し、5重量部未満であると得られた再生プラスチック成形体の機械的物性が十分に回復しない傾向が見られ、20重量部を越えると耐久消費財のプラスチック部材として使用する場合には剛性と耐衝撃性の良好なバランスが得られない。
【0037】
また、メタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは1万〜100万のものを選択するのがよい。重量平均分子量が1万未満では、強度が十分に回復しない傾向があり、100万を超えると、耐衝撃性に劣る傾向がある。メタクリル酸エステル系樹脂の分子量が前記範囲内にあることにより、家電4品目など耐久消費財へ適用可能な少なくとも中品位もしくは高品位の再生プラスチック成形体を得ることができる。
【0038】
続いて、均一混合し(ステップ205)、加熱成形して(ステップ206)、ペレット状のプラスチック原料とする(ステップ207)。加熱成形に用いる装置としては、特に制限されるものではないが、たとえば単軸押出成形機あるいは多軸式押出成形機などの押出成形機が挙げられる。
【0039】
そして、前記プラスチック原料を射出成形機に投入し、再生プラスチック成形体を作成する(ステップ208)。なお、前記プラスチック原料は、シートカット、ストランドカット、ホットエアカット、アンダーウォーターカットなどのいずれかの方法により造粒してもよい。これらの造粒方法の中でも、後に射出成形により特定の形状に成形する場合には、樹脂原料の供給が円滑に行なえ、大量処理にも対応できるアンダーウォーターカットが特に好ましい。
【0040】
本発明は、図1および図2に示した各工程の全てを備える必要はなく、プラスチック部材を備えた製品の廃棄物を破砕する工程と、破砕された廃材を金属系破砕物とプラスチック系破砕物に選別する工程と、プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程とを含み、それらの分離工程により得られたスチレン系樹脂Aもしくはスチレン系樹脂Bに、メタクリル酸エステル系樹脂を混合することを少なくとも特徴とするものであれば、本発明の範囲に包含される。
【0041】
なお、前記プラスチック原料は、その形状に特に制限はなく、ペレット状、シート状、フィルム状、パイプ状などのいずれの形態であってもよく、押出成形機の種類、使用の態様あるいは求められる特性などから適宜決定すればよい。シート、フィルム、射出成形体などの各種成形体に成形する原料として汎用性のあること、取り扱いが容易であることから、前記プラスチック原料は、ペレット状であるのが好ましい。
【0042】
前記プラスチック原料をペレット状とする場合、その粒径は特に制限されるものではないが、8mm以下が好ましく、特に5mm以下がより好ましい。ペレットの粒径が8mmを越えると、成形機のシリンダー内で充分に溶融しないため均一混練されないという傾向があるためである。
【0043】
さらに、前記プラスチック原料には、熱安定剤や光安定剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー、銅害防止剤、抗菌剤、着色剤などの添加剤を、必要により、本発明の効果を害しない範囲の量で添加してもよい。
【0044】
さらに、本発明は、上述したプラスチック廃材の再資源化方法を含む、再生プラスチック成形体の製造方法についても提供する。
【0045】
また、本発明は、上述した本発明の再生プラスチック成形体の製造方法により製造された、再生プラスチック成形体についても提供する。
【0046】
本発明の再生プラスチック成形体は、特に制限されるものではないが、マテリアルリサイクルされる製品に用いられることが好ましく、この場合、マテリアルリサイクルされる製品は、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品であるのが好ましい。
【0047】
本発明の再生プラスチック成形体は、前記プラスチック原料から、射出成形などの方法を用いて成形することができる。このとき用いる射出成形機としては、特に限定するものではないが、たとえばスクリュインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機などが挙げられる。
【0048】
本発明の再生プラスチック成形体の成形工程をより簡略化するため、ペレット状などの形状を有する前記プラスチック原料を作製することなく、前記選別工程を経て得られたプラスチック廃材を射出成形機にそのまま投入し、再生プラスチック成形体を直接作製しても構わない。
【0049】
また、本発明の再生プラスチック成形体は、熱安定剤や光安定剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー、銅害防止剤、抗菌剤、着色剤などの添加剤を、必要により、本発明の効果を害しない範囲の量で添加した上で成形して作成してもよい。
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
図1の手順に従い、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物から手解体によりプラスチック部材を回収し(ステップ102)、衝撃式破砕装置を用いて粗破砕した(ステップ103)。次に、その破砕物から磁力選別機を用いて鉄を主体とする金属系破砕物を除去後、渦電流選別機を用いて銅およびアルミニウムを主体とする金属系破砕物を除去した(ステップ104)。続いて、前記工程にて得られたプラスチック系破砕物から回転式ふるいを用いて大きさが10mm以下の微小破砕物や70mm以上の大型片を除去後(ステップ105)、密閉循環式風力選別機を用いて発泡材などの軽量物を除去した(ステップ106)。さらに、前記工程にて得られたプラスチック系破砕物から、ラマン散乱分光分析計を用いて、スチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂(一部のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を含む、以下「混合スチレン系樹脂」と呼称する。)およびポリメタクリル酸メチルを回収した(ステップ107)。ここで、混合スチレン系樹脂に含まれるスチレン−ブタジエン共重合体とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体の混合比95:5であり、ポリメタクリル酸メチルの重量平均分子量は約10万であった。なお、混合比はフーリエ変換赤外分光分析装置および熱分解ガスクロマトグラフィ質量分析計を用い、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ分析装置を用いて算出した。
【0052】
次に、図2の手順に従い、前記で得られた混合スチレン系樹脂およびポリメタクリル酸メチルを、衝撃式破砕装置を用いて微破砕した後(ステップ201、201’)、回転式ふるいを用いて微粉末を除去し(ステップ202、202’)、翼型ローター・脱水スクリーン式洗浄脱水乾燥機を用いて洗浄した(ステップ203203’)。続いて、前記工程から得られた混合スチレン系樹脂に、前記工程から得られたポリメタクリル酸メチルを配合し(ステップ204)、さらに均一混合した(ステップ205)。ポリメタクリル酸メチルの配合量は、混合スチレン系樹脂100重量部に対して5重量部とした。そして、これらの混合スチレン系樹脂をそれぞれスクリュー径45mmの二軸溶融混練押出機を用いて230℃で溶融混練し、ペレット状のプラスチック原料を作成した(ステップ206、207)。続いて、これらのプラスチック原料を10トン射出成形機のホッパーに投入し、成形温度230℃、金型温度40℃の射出成形条件でASTM準拠の物性測定用の試験片を作製した(ステップ208)。
【0053】
<実施例2>
ポリメタクリル酸メチルの配合量を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0054】
<比較例1>
ポリメタクリル酸メチルを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0055】
<比較例2>
ポリメタクリル酸メチルの配合量を3重量部とした以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0056】
<比較例3>
ポリメタクリル酸メチルの配合量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0057】
<比較例4>
ポリメタクリル酸メチルの代わりに、一般に販売されているMBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)系のプラスチック改質剤を使用し、その配合量を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0058】
<参考例1>
スチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂のバージン材を用いて、試験片を得た。
【0059】
<評価試験>
実施例1〜2、比較例、参考例で得られた各試験片について、下記の物性を測定した。実施例、比較例、参考例の組成を表1に、評価試験の結果を表2に示す。
【0060】
(1)引張強度および伸び
JIS K 7113に準じて測定した。
【0061】
(2)曲げ強度および曲げ弾性率
JIS K 7203に準じて測定した。
【0062】
(3)アイゾット衝撃強度
JIS K 7110に準じて測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
混合スチレン系樹脂にポリメタクリル酸メチルを配合せずに得られた比較例1の機械的物性は、バージン材から得られた参考例に比べ、強度、剛性、アイゾット衝撃強度とも劣る結果であった。この理由として、スチレン−ブタジエン共重合体に非相容の関係にあるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体が一部混入しているため、均一な分散が得られず、スチレン−ブタジエン共重合体とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体がマクロ的に相分離していると推測される。
【0066】
これに対し、ポリメタクリル酸メチルを5重量部配合して得られた実施例1では、強度、剛性、アイゾット衝撃強度とも回復が見られ、ポリメタクリル酸メチルを10重量部配合して得られた実施例2でもアイゾット衝撃強度の回復効果が若干低いものの、強度、剛性、アイゾット衝撃強度とも回復が見られ、ポリメタクリル酸メチルを5〜10重量部配合することにより、バージン材に近似した物性を有する少なくとも中品位もしくは高品位の再生品を得ることが可能となることが分かった。
【0067】
また、ポリメタクリル酸メチルを3重量部配合して得られた比較例2、および20重量部配合して得られた比較例3から分かるように、ポリメタクリル酸メチルが5重量部未満であると得られた再生プラスチック成形体の機械的物性が十分に回復しない傾向が見られ、20重量部を越えると耐久消費財のプラスチック部材として使用する場合には剛性と耐衝撃性の良好なバランスが得られないことも分かった。
【0068】
さらに、ポリメタクリル酸メチルの代わりに市販されているMBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)系のプラスチック改質剤を使用した比較例4から分かるように、本発明によるプラスチック廃材のみを再利用した実施例1、2は、市販のプラスチック改質剤を使用した比較例4とほぼ同等の回復効果が見られることも分かった。
【0069】
したがって本発明では、非相容の関係にあるポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂A)とアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂(スチレン系樹脂B)が混合している場合でも、メタクリル酸エステル系樹脂をスチレン系樹脂Aとスチレン系樹脂Bの相容化および/または分散化を目的として混合することにより、プラスチック廃材のみを再利用した、少なくとも中品位もしくは高品位な再生プラスチック成形体が低コストで得られ、再生プラスチック成形体を再び家電4品目など耐久消費財へ適用することが可能になったと言える。プラスチック廃材のみを再利用した再資源化技術であるため、新たな埋蔵化石資源の使用削減に貢献でき、サーマルリサイクルと異なり、二酸化炭素など温暖化ガス発生の抑制にもつながる。
【0070】
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック廃材を破砕する工程と、
破砕されたプラスチック廃材を金属系破砕物とプラスチック系破砕物とに選別する工程と、
プラスチック系破砕物を系統別に分離する工程と、
得られたポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂、もしくは、アクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂に、メタクリル酸エステル系樹脂を混合する工程とを含む、プラスチック廃材の再資源化方法。
【請求項2】
プラスチック廃材が、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物におけるプラスチック部材であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック廃材の再資源化方法。
【請求項3】
ラマン散乱分光分析法および/または近赤外分光分析法によってプラスチック系破砕物を系統別に分離することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック廃材の再資源化方法。
【請求項4】
メタクリル酸エステル系樹脂は、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機からなる群から選ばれる家電製品および液晶表示装置、OA機器、電子遊技機器からなる群から選ばれる製品の廃棄物から分離回収されたプラスチック廃材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック廃材の再資源化方法。
【請求項5】
メタクリル酸エステル系樹脂は、ポリスチレンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体からなるスチレン系樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体および/またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなるスチレン系樹脂の合計100重量部に対し5〜10重量部添加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック廃材の再資源化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の再資源化方法を用いた、再生プラスチック成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により製造された再生プラスチック成形体。
【請求項8】
エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品であることを特徴とする請求項7に記載の再生プラスチック成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−11611(P2012−11611A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148608(P2010−148608)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】