説明

プラズマ基板処理装置、その制御プログラム、これを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】省電力モードからの復旧を従来装置より迅速にするとともに、復帰後における良好な基板処理を実現する。
【解決手段】処理チャンバ11と、処理チャンバ11内に処理ガスを供給するガス供給装置20と、処理チャンバ11内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成部25と、処理チャンバ11を加熱するヒータ14a,14bと、制御装置40とを備え、プラズマによって処理チャンバ11内の基板を処理するプラズマ基板処理装置であって、制御装置40は、ヒータ14a,14bへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつプラズマ生成部25への電力供給を停止させた状態とする省電力モード実行部47と、ヒータ14a,14bへの電力供給を復帰させるとともに、プラズマ生成部25への電力供給をして、処理チャンバ11の内部温度を基板処理に適した温度に上昇させる復帰モード実行部48とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマによって真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置(例えば、シリコン基板やガラス基板などの基板表面をエッチングするプラズマエッチング装置)、その制御プログラム、これを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ基板処理装置は、半導体工場等にて用いられ、長時間の連続運転を行うのが常であった。プラズマ基板処理装置は、部材を暖めるヒータ系、部材を冷却するチラー系、真空引きをするポンプ系、プラズマを生成する高周波電力を供給するプラズマ生成系など、大きな電力を消費する多くの部材からなっており、装置全体としての消費電力は甚大なものとなっていた。
【0003】
省エネルギー、電力節減の観点からは、基板処理をしない時間帯ないし期間は、プラズマ基板処理装置の不使用部分や装置全体の電源を切っておくことが好ましい。しかしながら、プラズマ基板処理装置の電源を一旦切ると、電源を再び入れたとしても、各構成の温度やチャンバ内の真空度など、電源を切る前の状態に復帰させるのに極めて長時間を要する。この復帰時間が装置稼働時間のロス、ひいてはスループットの低下に繋がるという問題点を生じていた。
【0004】
プラズマ基板処理装置の電力消費を抑制しながら、装置稼働時間のロスを減らすための先行技術として、特開2007−242854号公報に記載の技術が提案されている。同公報に開示された先行技術では、省エネモードから通常モードへの復旧時間をあらかじめ記憶しておき、基板処理装置を自動で通常モードと省エネモードとの間で切り換えることが提案されている。
【0005】
この技術は、基板処理装置のユニット毎に、省エネモードから通常モードへの復旧時間が異なることに着目したものであり、より多くの時間を要するユニットから復旧動作をはじめることにより、装置全体としての復帰時間を抑制しながら、各ユニットにおいてできるだけ長い時間省エネモードを継続し、基板処理装置全体の省電力化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−242854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特開2007−242854号公報に記載の技術では、ユニット毎に、省エネモードから通常モードへの復旧時間を管理して復旧動作を制御するものの、各復旧時間はユニット毎に固有のものであるから、装置全体の復旧時間は、最も長い復旧時間を要するユニットの復旧必要時間によって決まっていた。
【0008】
通常、復旧時間に最も時間を要するのは真空チャンバの加熱であるが(例えば、数時間オーダの復旧時間を要する)、上記公報に開示の制御装置では、真空チャンバの加熱は温度調整ユニットのみによって行われる(同公報の段落〔0025〕を参照)。温度調整ユニットは一般的にヒータなどから構成されるが、真空チャンバ内部は真空であるため熱伝導率が極めて悪く、ヒータによる加熱には長時間を要する。このため、省エネモードからの復帰時に、真空チャンバの加熱を最初に開始したとしても、結局、装置全体における復帰必要時間は長くならざるを得なかった。
【0009】
また、特開2007−242854号公報に記載の技術では、省エネモードへの移行前後において、真空チャンバ内のプラズマ状態が変化してしまうため、的確な基板処理を行うためには、省電力モードからの復帰後に、ダミー基板の処理などにより、安定したプロセス条件を再度確立する必要が生じていた。このようなダミー基板の処理によるプロセス条件の安定化は更なるタイムロスに通じる。
【0010】
ダミー基板の処理を行わないとしても、プロセス条件の安定化は、多くの作業や手間を要することが多く、省電力モードの採用を躊躇させる原因ともなっていた。この結果、基板をまったく処理していない待機時であっても、プラズマ基板処理装置の各部材の電源は入れたままで放置されることが多かった。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、省電力モードからの復旧を従来装置より迅速にするとともに、省電力モードからの復帰後における良好な基板処理を実現するプラズマ基板処理装置、その制御プログラム、これを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るプラズマ基板処理装置は、上記課題を解決するために、閉塞空間を有し、内部に基板が収容される真空チャンバと、前記真空チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、高周波電力を印加することにより、前記真空チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、前記真空チャンバを加熱するヒータと、
少なくとも、前記ガス供給手段,プラズマ生成手段,ヒータの作動を制御する制御手段とを備え、前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置であって、
前記制御手段は、前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とする省電力モード実行部と、前記ヒータへの電力供給を復帰させるとともに、プラズマ生成手段への電力供給をして、前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させる復帰モード実行部とを備えることを特徴としている。
【0013】
上記の構成において、プラズマ基板処理装置の例としては、プラズマエッチング装置の他、プラズマCVD装置、プラズマアッシング装置などを挙げることができる。また、真空チャンバとは、その内部が常に高真空であるものに限定されるわけではなく、使用状況によっては低真空、または一時的には真空状態でなくともよい。
【0014】
上記の構成によれば、前記省電力モード実行部の働きにより、省電力モードへの移行時、前記ヒータへの電力供給が低減または停止される。具体的には、真空チャンバの内部または外部に備えられているヒータへの電力供給が低減または停止されることにより、真空チャンバの内部温度は、周囲の環境温度に近づくように低下し、装置全体の消費電力が低減される。そして、省電力モードへの移行時には通常、前記プラズマ生成手段への電力供給は停止されているが、もし電力供給がなされていたとしても、その電力供給は停止され、プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態が確保される。
【0015】
その後、前記復帰モード実行部の働きにより、省電力モードからの復帰時、前記ヒータへの電力供給が復帰されるとともに、プラズマ生成手段への電力供給がなされ、前記真空チャンバの内部温度が前記基板処理に適した温度に上昇させられる。
【0016】
上記構成のように、省電力モードからの復帰時、ヒータによる加熱とチャンバ内部のプラズマ生成とを併用することにより、真空チャンバの内部温度を基板処理に適した温度に上昇させるので、断熱性が高い真空チャンバの内部を短時間で、基板処理に適した温度に上昇させることができる。これにより、省電力状態からの復帰時間を短縮し、装置稼働時間のロスひいてはスループットの低下を抑制することが可能となる。
【0017】
また、省電力モードからの復帰時、前記真空チャンバの内部温度が前記基板処理に適した温度に上昇するまで、前記ヒータへの電力供給が復帰され、プラズマ生成手段への電力供給がなされることにより、復帰処理が完了したときには、真空チャンバ内部のプラズマ状態が安定的な定常状態となっているので、ダミー基板の処理などを必要とせず、不安定なプラズマ状態に起因する処理不良を回避することが可能となる。
【0018】
上記の構成において、前記制御手段は、前記復帰モード実行部が前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させると、前記真空チャンバ内に基板を収容させ、前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記基板の処理を開始させることも好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、省電力モードからの復帰時、前記ヒータとプラズマ生成手段によってチャンバが十分に暖められた状態で、自動的に基板の収容ないしプラズマ処理を開始させるので、省電力モードからの復帰時に余計な人的作業を伴わず、ロスタイム無しに基板処理を進めることができる。
【0020】
上記の構成において、更に、表示手段を備え、前記制御手段は、前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とした、省電力モードが実行されていることを前記表示手段に表示させることも好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、表示手段における表示を通じて、現在、省電力モードが実行されていることがユーザに通知されるので、省電力モードが実行されていることを知らずにユーザが誤操作することを防止することができる。
【0022】
上記の構成において、前記制御手段は、省電力モードからの復帰時、前記ガス供給手段に、前記真空チャンバ内に酸素ガスを含むガスを供給させることも好ましい。
上記の構成によれば、省電力モードからの復帰時、酸素ガスを含むガスがチャンバ内に供給されるので、真空チャンバやその排気系内部の堆積物をクリーニングし、良好な状態を保つことができる。これにより、省電力モードへの移行ないし復帰の影響を受けず、良好なチャンバ状態での基板処理を行うことができる。
【0023】
本発明に係るプラズマ基板処理装置の制御プログラムは、上記の構成を実現するために、閉塞空間を有し、内部に基板が収容される真空チャンバと、前記真空チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、高周波電力を印加することにより、前記真空チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、前記真空チャンバを加熱するヒータと、少なくとも、前記ガス供給手段,プラズマ生成手段,ヒータの作動を制御する制御手段とを備え、前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置の前記制御手段に使用される制御プログラムであって、
コンピュータを、前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とする省電力モード実行部と、前記ヒータへの電力供給を復帰させるとともに、プラズマ生成手段への電力供給をして、前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させる復帰モード実行部として機能させることを特徴としている。
【0024】
また、このプラズマ基板処理装置の制御プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、光ディスク/ハード光ディスク等の磁気光ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含む光ディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るプラズマ基板処理装置、その制御プログラム、これを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によれば、省電力モードからの復旧を従来装置より迅速にするとともに、省電力モードからの復帰後における良好な基板処理を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマエッチング装置を示した断面図である。
【図2】制御装置が実行する省電力モード(省電力状態)への移行フローを示すフローチャートである。
【図3】制御装置が実行する省電力モードから通常モードへの復帰フローを示すフローチャートである。
【図4】チャンバ内部の部材における時間−温度カーブの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。
【0028】
〔1.プラズマ処理装置の構成例〕
【0029】
図1に示すように、本実施例のプラズマエッチング装置1は、閉塞空間を有する処理チャンバ11(真空チャンバ)と、処理チャンバ11内を加熱する上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bと、処理チャンバ11内に配設され、エッチング対象となる基板Kが載置される基台16と、処理チャンバ11内にエッチングガス(処理ガス)を供給するガス供給装置20と、処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスをプラズマ化するプラズマ生成部25と、基台16に高周波電力を供給する高周波電源28と、処理チャンバ11内の圧力を減圧する排気装置29と、これらの動作を統括制御する制御装置40を備える。
【0030】
前記処理チャンバ11は、上チャンバ12及び下チャンバ13によって上下2部構成に形成されており、この上チャンバ12及び下チャンバ13は、それぞれ円筒容器状をした部材から構成される。また、上チャンバ12の下面が開口し、下チャンバ13の上面に開口部があり、上チャンバ12及び下チャンバ13の内部空間が相互に連通している。
【0031】
前記上チャンバ12は、その外径が下チャンバ13の外径よりも小さく形成されており、下チャンバ13の上面中央部に配設される。また、下チャンバ13の外周面には、基板Kを搬入したり、搬出したりするための開口部13aが設けられており、この開口部13aは、シャッタ15によって開閉されるようになっている。
【0032】
前記上チャンバ12の天板12a及び側壁下部12c、並びに前記下チャンバ13の天板(環状板)13bは、例えば、アルミニウムなどの金属から構成され、前記上チャンバ12の側壁上部12b及び前記下チャンバ13の側壁13cは、例えば、セラミックから構成されており、例えば、上チャンバ12の側壁下部12c及び下チャンバ13の天板13bは接地されている。
【0033】
上チャンバ12の天板12aの内部には、上チャンバヒータ14aが設けられる一方、下チャンバの側壁13c(開口部13aの下部を含む)の内部には、下チャンバヒータ14bがブロックヒータとして備えられている。このブロックヒータは、例えば、アルミニウムからなるブロック体に発熱体を組み入れることにより形成される。
【0034】
前記基台16は、上部材17及び下部材18からなり、下チャンバ13内に配設される。前記上部材17上には基板Kが載置され、前記下部材18には、基台16を昇降させるための昇降シリンダ19が接続される。
【0035】
前記ガス供給装置20は、エッチングガス(例えば、SFガス)やクリーニングガス(例えばOガス)を供給する供給部21と、一端が供給部21に接続し、他端が上チャンバ12の上部に接続した供給管22とから構成され、供給部21から供給管22を介して上チャンバ12内にエッチングガスやクリーニングガスを供給する。
【0036】
下チャンバ13の側壁13cの内側には、側壁13cなどへの無用な堆積を防ぐ防着板23が適宜設けられる一方、下チャンバ13の天板13bの下面には、断面漏斗状のアルミニウムからなる内部部材24が設けられており、この内部部材24によって上チャンバで生成されたプラズマの密度が調整され、基板Kへと導かれる。防着板23の設置は任意であるが、基板Kの近傍は、反応生成物が堆積しやすいので、メンテナンス性の向上のためには、防着板23を備えておくことが好ましい。
【0037】
前記プラズマ生成部25は、上チャンバ12の外周部に上下に並設される、複数の環状をしたコイル26、及び各コイル26に高周波電力を供給する高周波電源27から構成される。
【0038】
そして、このプラズマ生成部25では、高周波電源27によってコイル26に高周波電力が供給されると、チャンバ12内に磁界が形成され、この磁界によって誘起される電界によりチャンバ12内のエッチングガスがプラズマ化され、ラジカル,イオン及び電子などが生成される。
【0039】
また、前記高周波電源28によって基台16に高周波電力が供給されると、基台16と下チャンバ13内に導かれたプラズマとの間に電位差(バイアス電位)が生じる。
【0040】
前記排気装置29は、排気ポンプ30と、排気ポンプ30と下チャンバ13とを接続する排気管31とから構成され、排気ポンプ30により排気管31を介して下チャンバ13内の気体を排気し、処理チャンバ11の内部を所定圧力に減圧する。
【0041】
以上のように構成された本実施例のプラズマエッチング装置1によれば、下チャンバ13内の基台16上に基板Kが載置された後、各高周波電源27,28によってコイル26及び基台16に高周波電力がそれぞれ供給され、排気装置29によって処理チャンバ11内が減圧され、ガス供給装置20によってエッチングガスが処理チャンバ11内に供給される。供給されたエッチングガスは、その一部がプラズマ化されて上チャンバ12内から下チャンバ13内に向け流動し、内部部材24によって基板Kへと導かれる。
【0042】
一方、下チャンバ13内の基台16上に載置された基板Kは、下チャンバ13内におけるプラズマ中のラジカルと化学反応したり、プラズマ中のイオンがバイアス電位によって基板Kに入射したりすることによりエッチングされる。なお、プラズマエッチング装置1は、基台16を冷却するための冷媒循環による冷媒循環装置(図示せず)を備えてもよい。
【0043】
制御装置40は、プラズマエッチング装置1の全体動作を統括的に制御する制御装置であるが、代表的な機能ブロックとして、ガス供給制御部41、プラズマ生成制御部42、ヒータ制御部43、基台電力制御部44、排気制御部45とを備えており、これら機能ブロックは、それぞれ、前記ガス供給装置20、前記プラズマ生成部25、前記ヒータ14a,14b、前記高周波電源28、前記排気装置29の動作を制御している(なお、図1では、各機能ブロックと被制御対象部とを一点鎖線で接続している。ただし、ヒータ制御部43と上チャンバヒータ14aおよび下チャンバヒータ14bとの接続構成は図示していない)。また、制御装置40は、ユーザに対する情報表示を行うための表示手段(ディスプレイ)50と接続され、その画面表示を制御している。
【0044】
制御装置40は、通常運転時に、上記各機能ブロックを統括制御する通常運転制御部46を備える一方、省電力モードへの移行時と省電力モードからの復帰時に、それぞれ、上記各機能ブロックを統括制御する省電力モード実行部47と復帰モード実行部48とを備えているが、これら機能ブロックの働きについては、次欄にて説明する。
【0045】
〔2.省電力モードへの移行フロー〕
図2を参照しながら、制御装置40が実行する省電力モードへの移行フローについて説明する。本実施例において、制御装置40における省電力モード実行部47(図1参照)は、通常運転制御部46に代わって、プラズマエッチング装置1を省電力状態(省電力モード)に移行制御するものである。
【0046】
まず、ユーザからの入力指示に応じて、基板Kの処理時間外に、通常モードから省電力モードへの移行開始を受け付ける(ステップ21。以下「S21」のように略記する)。この入力指示は、制御装置40に備えられた適宜の入力インタフェースから行われてもよいし、制御装置40が所定の日時になると自動的にモード移行を開始するようになっていてもよい。また、このような自動移行を予めユーザが予約入力するものであってもよい。
【0047】
次に、制御装置40のガス供給制御部41は、処理チャンバ11内に酸素ガス(または酸素ガスを含むクリーニングガス)を供給してクリーニング処理を実行し(S22)、その後、プラズマ生成制御部は、高周波電源27への供給電力を切って、プラズマ生成をオフにする(S23)。ここまでのフローにおいて、S22のクリーニング処理は適宜省略してもよい。
【0048】
省電力モードへの移行時には通常、高周波電源27への電力供給は停止されているが、もし電力供給がなされていたとしても、その電力供給は停止され、高周波電源27への電力供給を停止させた状態が確保される。また、基台電力制御部44は、高周波電源28の供給電力を切って、基台16への高周波電力の供給をオフにする。
【0049】
そして、制御装置40のヒータ制御部43は、上チャンバヒータ14aと下チャンバヒータ14bの動作を停止させ、処理チャンバ11の温度制御機能を停止させる(S24)。これにより、通常、常温より高い温度で用いられている処理チャンバ11の内部温度は低下していき、処理チャンバ11を保温加熱するための電力は節減されることになる。
【0050】
その後、制御装置40の排気制御部45は、排気装置29を低消費電力運転に移行する(S25)。具体的には、排気ポンプ30をインバータ状態で運転したり、真空排気サイクル時間を長くして排気頻度を減らし、間欠運転としたりすることにより、低消費電力の状態とする。なお、処理チャンバ11内の真空状態が破れると、処理チャンバ11の内部が汚損するなどして、良好なプロセス処理の妨げとなるおそれがあるので、排気装置29を完全には停止させないことが好ましい。
【0051】
以上の処理により、プラズマエッチング装置1は、省電力モード(省電力状態)への移行動作を完了し、その消費電力は、各部の電力消費状態にもよるが、例えば通常運転時の半分以下とすることができる。制御装置40は、省電力モードに移行した旨を表示手段50に表示させ、現在、省電力モードで運転中であることをユーザに通知する。これにより、省電力モードが実行されていることを知らずにユーザが誤操作することを防止することができる。
【0052】
〔3.通常モードへの復帰フロー〕
【0053】
次に、図3を参照しながら、制御装置40が実行する省電力モードから通常モードへの復帰フローについて説明する。本実施例において、制御装置40は、復帰モード実行部48の指令のもと、プラズマエッチング装置1を省電力状態(省電力モード)から通常モードに復帰させるものである。
【0054】
まず、ユーザからの入力指示に応じて、省電力モードから通常モードへの復帰開始を受け付ける(S31)。この入力指示は、制御装置40に備えられた適宜の入力インタフェースから行われてもよいし、制御装置40が所定の日時になると自動的にモード移行を開始するようになっていてもよい。また、このような自動移行をユーザが予め予約入力するものであってもよい。
【0055】
例えば、前述の省電力モードへの移行フローが休業日前日の夜所定時刻に行われ、省電力モードから通常モードへの復帰フローが休業日翌日の朝所定時刻に予約実行されるようにしておけば、休業日の間、プラズマエッチング装置1を省電力モードにしてその間の消費電力を低減することができる。
【0056】
通常モードへの復帰が決まると、制御装置40の復帰モード実行部48は、プラズマエッチング装置1を省電力モードから通常の電力消費状態に移行させる動作を開始する。具体的には、まず、冷媒循環による冷却系をオンにする(S32)。そして、ヒータ制御部43によって上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bの動作を開始させ、処理チャンバ11の温度制御を開始する(S33)。上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bに先だって、冷媒循環による冷却系をオンにするのは、冷却系が過熱状態となったり、冷媒が沸騰したりすることを防止するためである。
【0057】
そして、排気制御部45は、低消費電力運転に移行していた排気装置29を通常モードで運転する(S34)。例えば、排気装置の間欠運転を中止して連続運転に移行したり、排気頻度を増やしたりする。
【0058】
その後、制御装置40のガス供給制御部41は、処理チャンバ11内にクリーニングガスとして酸素ガスを供給してクリーニング処理を実行し(S35)、制御装置40のプラズマ生成制御部42は、高周波電源27に電力を供給して、プラズマ生成を開始する(S36)。また、基台電力制御部44は、高周波電源28に電力を供給して、基台16への高周波電力の供給をオンにする。
【0059】
これにより、基板Kのない状態で、処理チャンバ11をクリーニングしながら(ウェハレスクリーニング)、プラズマの効果によって、処理チャンバ11の内部を暖めることができるので、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bのみで処理チャンバ11を暖める場合と比較して、短時間でチャンバ内の部材温度を基板処理に適した温度にまで復帰させることが可能となる。
【0060】
また、処理チャンバ11内のプラズマ状態を安定的なものとすることができるので、省電力モード時にチャンバの内部温度を下げてプラズマ生成を中断した影響を残さず、再現性のよい安定的な基板処理が可能となる。
【0061】
そして、制御装置40の復帰モード実行部48は、処理チャンバ11の内部温度(チャンバ内部の部材温度)が、基板処理に適した温度に上昇したかどうかを判定し(S37)、基板処理に適した温度に十分近づいていれば(図中矢印においてYES)、基板のプラズマ処理を開始する一方、基板処理に適した温度に十分近づいていなければ(図中矢印においてNO)、処理チャンバ11の内部温度(チャンバ内部の部材温度)が、復帰前の温度に近づくまで待機する。
【0062】
本実施例のプラズマ処理装置1において、処理チャンバの内部温度を的確に測定するには、基台16の周辺部材、防着板23、内部部材24など、チャンバ内部の部材温度を測定することが好ましい。例えば、チャンバ内部の部材に適宜の熱電対温度計を設けておき、その温度が規定の基板処理時温度に達しているかどうかを判定したり、あらかじめ省電力モードから復帰する際のチャンバ内部の部材の温度変化の様子(時間−温度カーブ)を調べておき、その温度変化の様子からチャンバ内部の部材温度が、基板処理に適した温度に達したかどうかを判定したりしてもよい。
【0063】
図4は、チャンバ内部の部材における時間−温度カーブの例を示すグラフである。同図のグラフにおいて、チャンバ内部部材の初期温度(省電力モード,経過時間が0からTまでの時間域での温度)は、53℃で安定している。そこで、時間Tのタイミングにおいて、前記S31〜S36の手順によって、省電力モードから通常モードへの復帰作業を始め、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bとプラズマ生成とによって処理チャンバ11を加熱したところ、時間Tpに至るまで、チャンバ内部部材の温度は上昇し続け、182℃となった。
【0064】
本実施例の検証に用いたプラズマエッチング装置1においては、基板処理に適した状態のチャンバ内部の部材温度は約110℃であることが事前に判明していたので、経過時間Tpに至ったところで加熱を中断し、その後、チャンバ内部の部材温度を約110℃で安定させた。図4の時間−温度カーブから、処理チャンバ11の内部温度を、省電力モード時の温度(53℃)から基板処理に適した温度(約110℃)まで上昇させるのに必要な時間は(T−T)であることがわかる。発明者らが本実施例の検証のために用いた実験機では(T−T)は約30分であった。
【0065】
このデータを参考にして、図3のS37では、チャンバ内部の部材温度を直接測定して約110℃になるまで待機することにより、または、前記S31〜S37の手順を省電力モード状態から開始して約30分が経過するまでの間、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bとプラズマ生成とをオンにしておくことによって、チャンバ内部の部材温度を、基板処理に適した温度(約110℃)に上昇させることができる。もちろん、チャンバ内部の部材の初期温度(時間Tにおける温度)が53℃よりも高い場合には、30分より短い時間で、チャンバ内部の部材温度を、基板処理に適した温度(約110℃)に上昇させることができる。
【0066】
図3のS37でYESになれば、既に、処理チャンバ11内の内部温度が、基板処理に適した温度に上昇したということなので、すぐに基板Kを処理チャンバ11内に投入して、基板のプラズマ処理を開始してよい(S38)。本実施例においては、制御手段40は、処理チャンバ11の内部温度が基板処理に適した温度に上昇すると、処理チャンバ11内に基板Kを収容させ、プラズマ生成部25が生成したプラズマによって基板Kの処理を開始させる。
【0067】
そして、制御装置40は、通常モードに復帰した旨を表示手段50に表示させることにより、省電力モードが終了したことをユーザに通知する。その後、ガス供給制御部41,プラズマ生成制御部42,ヒータ制御部43,基台電力制御部44,排気制御部45の各動作は、通常運転制御部46が統括制御し、プラズマエッチング装置1の運転動作は、通常モードとなる。
【0068】
以上のように、省電力モード実行部47の働きにより、省電力モードへの移行時、上チャンバヒータ14aと下チャンバヒータ14bへの電力供給が停止される。そして、プラズマ生成手段への電力供給がなされていたとしても、その電力供給は停止され、プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態が確保される。
【0069】
その後、復帰モード実行部48の働きにより、省電力モードからの復帰時、処理チャンバ11の内部温度が基板Kの処理に適した温度(例えば、約110℃)に復帰するまで、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bへの電力供給が復帰されるとともに、プラズマ生成部25によるプラズマ生成が開始される。
【0070】
このように、省電力モードからの復帰時、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bによる加熱と処理チャンバ11内部のプラズマ生成とを併用することにより、処理チャンバ11の内部温度を基板Kの処理に適した温度に上昇させるので、断熱性が高い真空の処理チャンバ11の内部を短時間で、基板処理に適した温度に上昇させることができる。これにより、省電力状態からの復帰時間を短縮し、装置稼働時間のロスひいてはスループットの低下を抑制することが可能となる。
【0071】
また、省電力モードからの復帰時、処理チャンバ11の内部温度が基板Kの処理に適した温度に上昇するまで、上チャンバヒータ14a,下チャンバヒータ14bへの電力供給が復帰されるとともに、前記プラズマ生成部25への電力供給がなされることにより、復帰処理が完了したときには、処理チャンバ11内部のプラズマ状態が安定的な定常状態となっているので、ダミー基板の処理などを必要とせず、不安定なプラズマ状態に起因する処理不良を回避することが可能となる。
【0072】
なお、以上の説明では、省電力モードへの移行時、上チャンバヒータ14aと下チャンバヒータ14bへの電力供給を停止するものとしたが、電力供給を完全に停止せずとも供給電力を低減するだけでもよい。このような場合でも、供給電力を低減しただけの省電力効果は得られる。
【0073】
本発明の効果を検証するために、前述の検証用実験機において、省電力モードから通常モードへの移行段階で約30分が経過したところで(上チャンバヒータ14aと下チャンバヒータ14b,および前記プラズマ生成部25への電力供給は図4と同じ条件とした)、基板Kの処理を開始したところ、エッチング形状、エッチングレート、マスク選択比の全項目において、省電力モードへの移行前と同等の結果を得ることができた。
【0074】
すなわち、本発明によれば、処理チャンバ11の温度復帰を短時間化できるだけでなく、プラズマ状態の安定化により、省電力モードからの復帰後の基板処理を、安定性、再現性ともに優れたものとすることができた。
【0075】
制御装置40の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0076】
すなわち、制御装置40は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムを格納したROM、上記プログラムを展開するRAM、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアであるプラズマ基板処理装置の制御プログラムのプログラムコードをコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、前記制御装置40に供給し、そのコンピュータが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明は、プラズマによって真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置、その制御プログラム、これを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に好適に利用できるものである。
【符号の説明】
【0078】
1 プラズマエッチング装置
11 処理チャンバ
14a 上チャンバヒータ
14b 下チャンバヒータ
20 ガス供給装置
25 プラズマ生成装置
40 制御装置
41 ガス供給制御部
42 プラズマ生成制御部
43 ヒータ制御部
44 基台電力制御部
45 排気制御部
46 通常運転制御部
47 省電力モード実行部
48 復帰モード実行部
50 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞空間を有し、内部に基板が収容される真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
高周波電力を印加することにより、前記真空チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、
前記真空チャンバを加熱するヒータと、
少なくとも、前記ガス供給手段,プラズマ生成手段,ヒータの作動を制御する制御手段とを備え、
前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置であって、
前記制御手段は、
前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とする省電力モード実行部と、
前記ヒータへの電力供給を復帰させるとともに、プラズマ生成手段への電力供給をして、前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させる復帰モード実行部とを備えることを特徴とするプラズマ基板処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記復帰モード実行部が前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させると、前記真空チャンバ内に基板を収容させ、前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記基板の処理を開始させることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ基板処理装置。
【請求項3】
更に、表示手段を備え、
前記制御手段は、前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とした、省電力モードが実行されていることを前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ基板処理装置。
【請求項4】
前記制御手段は、省電力モードからの復帰時、前記ガス供給手段に、前記真空チャンバ内に酸素ガスを含むガスを供給させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプラズマ基板処理装置。
【請求項5】
閉塞空間を有し、内部に基板が収容される真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
高周波電力を印加することにより、前記真空チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、
前記真空チャンバを加熱するヒータと、
少なくとも、前記ガス供給手段,プラズマ生成手段,ヒータの作動を制御する制御手段とを備え、
前記プラズマ生成手段が生成したプラズマによって前記真空チャンバ内の基板を処理するプラズマ基板処理装置の前記制御手段に使用される制御プログラムであって、
コンピュータを、
前記ヒータへの電力供給を低減または停止させた状態にし、かつ前記プラズマ生成手段への電力供給を停止させた状態とする省電力モード実行部と、
前記ヒータへの電力供給を復帰させるとともに、プラズマ生成手段への電力供給をして、前記真空チャンバの内部温度を前記基板処理に適した温度に上昇させる復帰モード実行部として機能させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の制御プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−45933(P2013−45933A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183502(P2011−183502)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(511265154)SPPテクノロジーズ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】