説明

プラズマ電位計測方法、プラズマ電位計測装置及びプラズマ処理装置並びに記録媒体及びプログラム

【課題】プラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには安価に済むプラズマ電位計測方法及び装置を提供する。
【解決手段】プラズマ2中のイオンの質量分析を行える質量分析器3(又は19)と該プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して各電圧Vbごとに、他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求め、得られた各電圧Vbと質量分析条件Xのデータに、式Vb=aX2 −Vp(Vpはプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるプラズマ電位計測方法及び装置。該方法を実施するためのプログラム及びそれを記録した記録媒体M1(M2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマを用いて被処理物品に膜形成、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理を施すにあたり、所望の目的とする処理を施すために、プラズマの状態を示すパラメータの一つであるプラズマ電位を計測する方法及び装置、さらにプラズマ処理装置に関し、さらに、該方法の実施に用いるプログラム及びそれを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを応用した膜形成(成膜)、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理においては、所望の目的とする処理を施すために、プラズマ中のイオン種やラジカル種、プラズマ電位などの制御が重要であり、そのためにはこれらのモニタリングが不可欠である。例えばイオン種計測には、一般的には、質量分析器を用いた質量分析が実施される。
【0003】
図5は、真空チャンバ1内に設置した被処理物品Sにプラズマ2のもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置PAにおいてプラズマに所謂E×B型質量分析器を用いて質量分析を実施している例を示している。図5に示すように、真空チャンバ1内にプラズマ2が形成される場合、このプラズマに接するようにE×B型質量分析器3が設置されている。
【0004】
E×B型質量分析器3にはバイアス電源10によって通常は負電圧を印加し、プラズマ2から正イオン5を入口スリット4を通して分析器3内に引き込む。E×B型質量分析器3の内部には図示省略の磁界発生手段により磁界16が形成されており、引き込まれたイオン5は磁界の影響で図5において下向き方向17へ力を受ける。
【0005】
一方、互いに平行な、対向する偏向板6及び偏向板7が磁界16の磁力線方向に平坦面を揃えて配置されている。偏向板6に偏向電源8から正電位が印加されるとともに偏向板7に偏向電源9から負電位が印加され、これにより、磁界の磁力線方向を横切る方向に(図5におてい上向き方向18に)電界が形成される。イオン5はこの電界により上向き方向18にも力を受ける。
【0006】
このようにしてイオン5には下向き方向17の力と上向き方向18の力とが加わり、これら二つの力が釣り合っているときのみイオン5は直進し、FCスリット11を通過してファラデーカップ13に入り、電流計15により検出される。
【0007】
この時、ファラデーカップ13から2次電子が放出され、正確なイオン電流が計測されない場合があるので、その影響を抑制するために、FCスリット11とファラデーカップ13との間にサプレッサ12を設置し、これにサプレッサ電源14から負電圧を印加し、放出される2次電子を再度ファラデーカップ13へ押し返すようにしている。
【0008】
図6は、真空チャンバ1内に設置した被処理物品Sにプラズマ2のもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置PBにおいてプラズマにプラズマに磁場偏向型質量分析器19を用いて質量分析を実施している例を示している。図6に示すように、真空チャンバ1内にプラズマ2が形成される場合、このプラズマに接するように磁場偏向型質量分析器19が設置される。
【0009】
磁場偏向型質量分析器19にはバイアス電源22から通常は負電圧を印加し、プラズマ2から正イオン21を入口スリット20を通して分析器19内へ引き込む。磁場偏向型質量分析器19の内部には磁界28が形成されており、引き込まれたイオン21はこの磁界の影響で方向29へ力を受け、円軌道を描いて飛行する。
【0010】
イオン21の軌道半径rは磁界28の強さによって決まるので、一定の軌道半径上にFCスリット23、ファラデーカップ25を設置しておき、最終的に電流計27によってイオンを検出する。
【0011】
この時、E×B型質量分析器3の場合と同様に、ファラデーカップ25から2次電子が放出され、正確なイオン電流が計測されない場合があるので、その影響を抑制するために、FCスリット23とファラデーカップ25の間にサプレッサ24を設置し、これにサプレッサ電源26から負電圧を印加し、放出される2次電子を再度ファラデーカップ25へ押し返すようにしてある。
【0012】
以上説明したE×B型質量分析器は例えば特開平4−212300号公報に記載されており、磁場偏向型質量分析器は、例えば特開2000−46680号公報に記載されている。
【0013】
プラズマ電位の計測には一般的にはプローブ法が用いられる。それ自体既によく知られているのでここでは図示を省略するが、プローブ法には、シングルプローブ法、浮遊電位系にも対応できるダブルプローブ法、さらに瞬時計測が可能なトリプルプローブ法などがある。これら三つの方法の中でプラズマ電位を計測できるのはシングルプローブ法である。
【0014】
これらプローブ法については、例えば、平成3年8月5日株式会社アイピーシー発行、河合良信編著の「最新プラズマ発生技術」に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平4−212300号公報
【特許文献2】特開2000−46680号公報
【0016】
【非特許文献1】平成3年8月5日株式会社アイピーシー発行、河合良信編著「最新プラズマ発生技術」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上の説明から分かるように、イオン種計測とプラズマ電位計測の両方を実施するには、質量分析器とプローブ計測器の両方が必要である。しかし、それら両方をチャンバー内に設置するとすれば、チャンバ内にそのための設置スペースが必要となり、チャンバサイズが大型化してプラズマ処理装置の設置面積が増えたり、プラズマ処理装置のコストアップを招く。
【0018】
そこで本発明は、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには安価に済むプラズマ電位計測方法を提供することを第1の課題とする。
【0019】
また本発明は、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには簡素化された安価なプラズマ電位計測装置を提供することを第2の課題とする。
【0020】
さらに本発明は、真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマのもとで被処理物品に目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには、大型化することなく、安価に済むプラズマ処理装置を提供することを第3の課題とする。
【0021】
また本発明は、第1の課題を解決できるプラズマ電位計測方法の実施のためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能の記録媒体及びプログラムを提供することを第4、第5の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は前記第1の課題を解決するため、
プラズマ電位測定対象プラズマに対して該プラズマ中のイオンの質量分析を行える質量分析器を配置すること、
該質量分析器と該プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたっては、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めること及び
プラズマ電位算出部において、かくして得た各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め導いておいた式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングさせることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出させることで、該プラズマ電位Vpを求めさせ、併せてイオン種を同定するためのaを求めさせること
を含むプラズマ電位計測方法を提供する。
【0023】
本発明は前記第2の課題を解決するため、
電位測定対象プラズマに対して配置されべき、該プラズマ中のイオンの質量分析を行える質量分析器と、
該質量分析器と該プラズマとの間に電圧(イオン質量分析のための電圧)を印加するための電圧印加部と、
該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求める質量分析条件把握部と、
プラズマ電位算出部とを含んでおり、
前記プラズマ電位算出部は、プラズマ電位を計測するにあたり前記電圧印加部から前記質量分析器と前記プラズマとの間に印加される少なくとも二つの異なる電圧のデータ及び前記質量分析条件把握部により求められる該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとの該質量分析器に応じた質量分析条件Xのデータを入力することができ、
前記プラズマ電位算出部は、入力される各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め設定された式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めることができるプラズマ電位計測装置を提供する。
【0024】
本発明に係る上記プラズマ電位計測方法において、前記質量分析器と前記プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加するあたっては、そのような電圧を印加できる電圧印加部を設けておくことができ、また、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、前記質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めるにあたっても、そのような質量分析条件Xを求めることができる質量分析条件把握部を設けておくことができる。
そして、前記電圧印加部に前記質量分析器と前記プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加させて該質量分析器に質量分析を実施させ、該質量分析実施にあたっては、前記質量分析条件把握部に該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めさせることができる。
本発明に係る上記プラズマ電位計測装置において、前記プラズマの電位を計測するにあたり、前記電圧印加部に、前記質量分析器と前記プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加させて該質量分析器に該プラズマ中のイオンの質量分析を実施させ、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めるにあたっては、電位計測装置のユーザーが前記電圧印加部及び前記質量分析条件把握部を操作して前記電圧を質量分析器とプラズマとの間に印加させて質量分析を実施し、質量分析条件Xを求め、そのデータをユーザーがデータ入力部からプラズマ電位算出部に入力するようにしてもよい。
【0025】
しかし、前記電圧Vbとそれに対応する前記質量分析条件Xのデータを集める部分及び前記プラズマ電位算出部を含むプラズマ電位計測部を設け、該データを集める部分が、プラズマの電位を計測するにあたり、前記電圧印加部に、前記質量分析器と前記プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加させて該質量分析器に該プラズマ中のイオンの質量分析を実施させるとともに、前記質量分析条件把握部に該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めさせ、
前記プラズマ電位算出部が、かくして得られる、各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングさせることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるようにしてもよい。
【0026】
いずれにしても、プラズマ電位算出部或いはプラズマ電位計測部としては、本発明に係るプラズマ電位計測装置専用のものとして設けられてもよいし、例えば外部のコンピュータを利用するものであってもよい。プラズマ電位計測装置専用のものの場合もコンピュータを利用したものとすることができる。
【0027】
なお、本発明に係るプラズマ電位計測方法及び装置において、質量分析器とプラズマとの間に印加する電圧とは、図1に示す質量分析例で言えば、バイアス電源10により印加される電圧に相当する電圧であり、図4に示す質量分析例で言えば、バイアス電源22により印加される電圧に相当する電圧である。
【0028】
本発明に係るプラズマ電位計測方法及び装置によると、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せてプラズマ電位を計測できるので、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには安価に質量分析とプラズマ電位計測を行える。
【0029】
本発明に係るプラズマ電位計測方法及び装置における質量分析器としては、代表例として図1に例示するタイプのE×B型質量分析器や図4に例示するタイプの偏向磁場型質量分析器を挙げることができる。
【0030】
E×B型質量分析器を採用する場合には、質量分析器で同一イオンが検出された電界強度Eと磁界の磁束密度Bの比E/Bとの関係から、また、磁場偏向型質量分析器を採用する場合には、質量分析器で同一イオンが検出された磁界の磁束密度Bとイオンの軌道半径rの積rBの関係から、プラズマ電位を算出する。
【0031】
E×B型質量分析器を採用する場合についてさらに説明すると、プラズマ電位計測方法においても、プラズマ電位計測装置においても、
前記質量分析器はE×B型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは電界強度Eと磁束密度Bとの比(E/B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(m/Z)/2eであり、前記Vb=aX2 −Vpは、
Vb=〔(m/Z)/2e〕×(E/B)2 −Vp
である。
【0032】
磁場偏向型質量分析器を採用する場合には、
前記質量分析器は磁場偏向型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは磁束密度Bと該質量分析器によるイオンの飛行軌道半径rの積(r×B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(Z/m)×e/2であり、前記Vb=aX2 −Vpは、 Vb=〔(Z/m)×e/2〕×(r×B)2 −Vp
である。
【0033】
本発明は前記第3の課題を解決するため、
真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマのもとで被処理物品に目的とする処理を施すことができるプラズマ処理装置であり、本発明に係るプラズマ電位計測装置を含んでいるプラズマ処理装置を提供する。
【0034】
本発明に係るプラズマ処理装置は、本発明に係るプラズマ電位計測装置を含んでいるので、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには、大型化することなく、安価に提供できる。
【0035】
本発明に係るプラズマ処理装置として、例えば、膜形成、イオン注入、エッチング及び物品表面清浄化処理のうちから選ばれた1又は2以上の処理を行えるプラズマ処理装置を例示できる。
【0036】
また本発明は、前記第4の課題を解決するため、
本発明に係るプラズマ電位計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、 前記質量分析器とプラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたって、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めることで得られる該各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータを読み込むステップ及び
読み込んだ該データに前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も提供する。
【0037】
さらに本発明は、前記第5の課題を解決するため、 本発明に係るプラズマ電位計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記質量分析器とプラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたって、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めることで得られる該各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータを読み込むステップ及び
読み込んだ該データに前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように本発明によると、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには安価に済むプラズマ電位計測方法を提供することができる。
【0039】
また本発明によると、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには簡素化された安価なプラズマ電位計測装置を提供することができる。
【0040】
さらに本発明によると、真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマのもとで被処理物品に目的とする処理を施すことができるプラズマ処理装置であって、プラズマの状態を示すパラメータであるプラズマ電位を、プローブ計測器に頼ることなく、質量分析器を応用して、イオン種の分析と併せて計測でき、質量分析とプラズマ電位計測の双方を行える割りには、大型化することなく、安価に済むプラズマ処理装置を提供することができる。
【0041】
また本発明によると、上記プラズマ電位計測方法の実施のためのプログラム及び該プログラムを記録した記録媒体であって、プラズマ電位を求め、イオン種を同定することを容易化するものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るプラズマ電位計測装置の1例を備えたプラズマ処理装置例を示す図である。
【図2】図1に示すB×E型質量分析器による質量分析例における検出イオン電流と偏向電界(偏向電界強度)との関係を示す図である。
【図3】質量分析器とプラズマとの間に印加するバイアス電圧及び該電圧に対応する検出イオン電流ピークを示す偏向電界のデータを示す図である。
【図4】本発明に係るプラズマ電位計測装置の他の例を備えたプラズマ処理装置例を示す図である。
【図5】所謂E×B型質量分析器を用いて質量分析を実施している従来例を示す図である。
【図6】所謂磁場偏向型質量分析器を用いて質量分析を実施している従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るプラズマ電位計測装置例を備えたプラズマ処理装置の1例を示している。
図1に示すプラズマ処理装置PAはプラズマ電位計測装置Aを備えている。プラズマ電位計測装置Aは図5に示す質量分析器と同じE×B型質量分析器3を含んでいるとともに、本発明に係るプログラムの1例を記録した記録媒体M1から該プログラムを読み込み、プラズマ電位及びイオン種同定のためのファクタを算出するプラズマ電位算出部例としてのパーソナルコンピュータPC1を含んでいる。
【0044】
図1に示す各部等であって、図5に示す各部等と実質上同じものについては、図5で使用されている参照符号と同じ参照符号を付してある。すなわち、
PAはプラズマ処理装置〔本例では図示省略のバイアス電源からバイアス電圧が印加さ れる被処理物品Sにプラズマのもとで目的とする処理(例えばアルゴンイオン等 のイオン照射による清浄化処理)を施す装置〕、
1は真空チャンバ、
2はプラズマ、
3はプラズマ2と接する位置に配置されたE×B型質量分析器、
4は質量分析器3の入口スリット、
5は正イオン、
6は出力可変の偏向電源8から正電圧を印加される偏向板、
7は出力可変の偏向電源9から負電圧を印加される偏向板、
10は質量分析器3とプラズマ2との間に負電圧を印加する出力可変のバイアス電源、
11はイオン出口のFCスリット、
12、14は2次電子を押し返すサプレッサー及びサプレッサー電源
13はイオンを検出するファラデーカップ
15は電流計(イオン電流計測器)である。
16は磁界(磁力線が図1において手前から奥方向へ向かう磁界)
17は磁界(磁束密度B)がイオン5に及ぼす力の方向(下向き方向)
18は偏向板6、7間の電界(電界強度E)がイオン5に及ぼす力の方向(上向き方向)である。
プラズマ2は、例えば、チャンバ1内を図示省略の排気装置で排気減圧してガスプラズマ生成圧に維持しつつ、チャンバ1内に図示省略のガス供給装置からガス(例えばアルゴンガス)を供給し、図示省略の熱陰極型アーク放電によって生成することができる。
【0045】
質量分析器3は図5の質量分析器と同様に質量分析を行える。
図1のプラズマ電位計測装置Aによると、プラズマ2の電位とともにプラズマにおけるイオン種の同定のためのファクタも求めることができる。
すなわち、質量分析器3とプラズマ2との間に出力可変のバイアス電源10から少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたっては、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、質量分析器2に応じた質量分析条件Xを求め、
かくして得た、各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め導いておいた式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めることができる。
【0046】
質量分析器としてE×B型質量分析器3を採用している本例では、前記Vb=aX2 −Vpにおける質量分析条件Xは電界強度Eと磁束密度Bとの比(E/B)であり、aは(m/Z)/2eである(mは質量分析器により検出される同一イオンの質量、Zはイオンの価数、eはイオンの電荷素量)。従ってVb=aX2 −Vpは、
Vb=〔(m/Z)/2e〕×(E/B)2 −Vpとなる。
【0047】
Vb=〔(m/Z)/2e〕×(E/B)2 −Vpを採用する理由を以下に説明する。 電源10から質量分析器3に印加されるバイアス電圧をVb、プラズマ2のプラズマ電位をVpとすると次式(1) が成り立つ。
【0048】
【数1】

【0049】
上記式(1) において、mはイオン質量、vはイオン速度、Zはイオンの価数、eは電荷素量である。イオンの熱エネルギーは室温状態において0.03eV程度と非常に小さいので無視した。 なお、本例の場合、バイアス電圧は負電圧、プラズマ電位は正電位であるが、いずれも絶対値で記載している。
【0050】
E×B型質量分析器3において、イオンの検出条件は、磁界(磁束密度B)と電界(電界強度)から受ける力が釣り合う場合であるから、次の式(2) から導かれる式(3) のようになる。
【数2】

【数3】

【0051】
式(3) を前記式(1) に代入して整理すると、次式(4) が得られる。
【数4】

式(4) は、バイアス電圧Vbが電界(偏向電界強度E)と磁界(磁束密度B)との比(E/B)の2次式であることを示している。
【0052】
図2は次のことを示している。すなわち、
チャンバ1内を図示省略の排気装置で排気減圧してアルゴンガスプラズマ生成圧に維持しつつ、チャンバ1内に図示省略のガス供給装置からアルゴンガスを供給し、図示省略の熱陰極型アーク放電によってプラズマを生成し、これを質量分析器3で分析した場合の例を示している。図2において縦軸は電流計15で検出されるイオン電流、横軸はイオンを検出したピーク偏向電界強度Eを示している。
【0053】
この場合のバイアス電圧Vbは380Vとし、磁束密度Bは0.102Tで固定したところ、イオンを検出したピーク偏向電界強度Eは4.42kV/mであった。
バイアス電圧Vbを変化させ、同様に計測を実施し、バイアス電圧Vbとピーク偏向電界強度Eの関係を調べた結果を図3に黒丸で示す。
図3の黒丸で示す座標(Vb,E)は、(380, 4.42)、(330,4.12)、(280,3.82 ) である。
電界強度Eは一般的に言えば電源8、9のうち少なくとも一方の電源の出力を調整することで調整可能である。しかし電界強度Eの調整にあたっては、電源8、9間で絶対値が同じ電圧を印加することが好ましい。
具体例を挙げると、上記のようにバイアス電圧Vbとして380Vを印加する場合には、電源8、9間で+190V、−190Vというような絶対値が同じ電圧を印加する場合を挙げることができる。
いずれにしても、出力可変の電源8及び/又は電源9は質量分析器の質量分析条件把握部(質量分析条件把握手段)の少なくとも一部の構成メンバーであると言える。
【0054】
プラズマ電位算出部としてのコンピュータPC1には、記録媒体M1から次のプログラムを読み込ませてある。すなわち、
バイアス電圧Vbとそれに対応するピーク偏向電界強度Eと磁束密度Bの比(E/B)のデータ、図2で言えば、少なくとも二つの黒丸に相当するVbとE/Bの組み合わせデータのキーボードからの入力に応じて該データを読み込み、読み込んだ該データに前記式(4) を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるイオン種同定のための(m/Z)/2e及びプラズマ電位Vpをそれぞれ算出するプログラムである。
【0055】
従って、質量分析器3によりプラズマを質量分析することで、少なくとも二つのバイアス電圧Vbをそれぞれ印加するとともに各電圧Vbに対応する(E/B)を得て(なお、本例ではBは既知の0.102T)、これらデータをコンピュータPC1に入力して、プラズマ電位Vp及びイオン種同定のための(m/Z)/2eを求めることができる。このようにしてVp等を算出したところ、プラズマ電位Vpは11.8〔V〕であった。(m/Z)/2eを(m/Z)/(2e×B2 )として算出したところ、20.1であった。いずれにしても、イオン種同定については、eも既知であるから、m/Zを求めることができ、それにより、イオン種を同定できる。プログラムには、算出した(m/Z)/2eからさらにm/Zを算出する手順が含まれていてもよい。
【0056】
また、本例では、Bを固定しているため、実際には比(E/B)についてはEを入力することで足りるようにしておき、VbとEの図3に示される組み合わせのうちから少なくとも二つを入力することで、(m/Z)/(2e×B2 )とVpを算出することができるようにしておいてもよい。

【0057】
(m/Z)/(2e×B2 )のうち、e及びBは既知であるから、(m/Z)を算出することができ、これからイオン種を同定することができる。プログラムには、算出した(m/Z)/(2e×B2 )からさらにm/Zを算出する手順が含まれていてもよい。
【0058】
以上説明した例では、比(E/B)のうちBを固定して電界強度Eを変化させたが、逆に比(E/B)のうちEを固定して磁束密度Bを変化させてもよく、両者を変化させてもよい。磁束密度を変化させるときは、例えば電磁石タイプ等の通電制御可能の磁界発生部を採用し、この磁界発生部への通電を制御して磁束密度Bを調整することができる。
また、比(E/B)のうちBを固定して電界強度Eを変化させる場合、例えば、コンピュータPC1で、例えば図1に鎖線で示すようなインターフエースIFaを介して、或いは、電源の構成によってはかかるインターフエースIFaを介することなく、各電源へ電圧印加のオン、オフの指示や必要に応じて出力電圧の指示を出すようにするとともに電流計15で検出される情報を読み込むようにし、コンピュータPC1において各バイアス電圧Vbとそれに対応するピークイオン電流を検出したときの偏向電界強度Eのデータを収集し、そのデータに基づいてVp及びイオン種同定のためのm/Zを算出できるようにしてもよい。
【0059】
図4は本発明に係るプラズマ電位計測装置の他の例を備えたプラズマ処理装置の例を示している。
図4に示すプラズマ処理装置PBはプラズマ電位計測装置Bを備えている。プラズマ電位計測装置Bは、図6に示す質量分析器と同じ偏向磁場型質量分析器19を含んでいるとともに、本発明に係るプログラムの他の例を記録した記録媒体M2から該プログラムを読み込み、プラズマ電位及びイオン種同定のためのファクタを算出するプラズマ電位算出部例としてのパーソナルコンピュータPC2を含んでいる。
【0060】
図4に示す各部等であって、図6に示す各部等と実質上同じものについては、図6で使用されている参照符号と同じ参照符号を付してある。すなわち、
PBはプラズマ処理装置〔本例では図示省略のバイアス電源からバイアス電圧が印加さ れる被処理物品Sにプラズマのもとで目的とする処理(例えばアルゴンイオン等 のイオン照射による清浄化処理)を施す装置〕、
1は真空チャンバ、
2はプラズマ、
19はプラズマ2と接する位置に配置された偏向磁場型質量分析器、
20は質量分析器3の入口スリット、
21は正イオン、
22は質量分析器19とプラズマ2との間に負電圧を印加する出力可変のバイアス電源、23はイオン出口のFCスリット、
24、26は2次電子を押し返すサプレッサ及びサプレッサ電源
25はイオンを検出するファラデーカップ
27は電流計(イオン電流計測器)である。
28は磁界(磁力線が図1において手前から奥方向へ向かう磁界)
29は磁界(磁束密度B)がイオン21に及ぼす力の方向
rはイオン21の飛行円軌跡の半径である。
装置PBにおいても、プラズマ2は、例えば、チャンバ1内を図示省略の排気装置で排気減圧してガスプラズマ生成圧に維持しつつ、チャンバ1内に図示省略のガス供給装置からガス(例えばアルゴンガス)を供給し、図示省略の熱陰極型アーク放電によって生成することができる。
【0061】
質量分析器19は図6の質量分析器と同様に質量分析を行える。
図4のプラズマ電位計測装置Bによると、プラズマ2の電位とともにプラズマにおけるイオン種の同定のためのファクタも求めることができる。
すなわち、質量分析器19とプラズマ2との間に出力可変バイアス電源22から少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたっては、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、質量分析器19に応じた質量分析条件Xを求め、
かくして得た、各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め導いておいた式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めることができる。
【0062】
質量分析器として偏向磁場型質量分析器19を採用している本例では、前記Vb=aX2 −Vpにおける質量分析条件Xは磁束密度Bと該質量分析器によるイオンの飛行軌道半径rの積(r×B)であり、前記式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、
(Z/m)×e/2であり、前記Vb=aX2 −Vpは、
Vb=〔(Z/m)×e/2〕×(r×B)2 −Vpとなる。
【0063】
Vb=〔(Z/m)×e/2〕×(r×B)2 −Vpが導かれる理由は次の通りである。
電源22から質量分析器19に印加されるバイアス電圧をVb、プラズマ2のプラズマ電位をVpとすると、E×B型質量分析器の場合と同様に次式(5) が成り立つ。
【0064】
【数5】

【0065】
上記式(5) において、mはイオン質量、vはイオン速度、Zはイオンの価数、eは電荷素量である。イオンの熱エネルギーは室温状態において0.03eV程度と非常に小さいので無視した。なお、本例の場合も、バイアス電圧は負電圧、プラズマ電位は正電位であるが、いずれも絶対値で記載している。
【0066】
偏向磁場型質量分析器19において、イオンの検出条件は、磁界(磁束密度B)によりイオンが受ける力が遠心力と釣り合う場合であるから、次の式(6) から導かれる式(7) のようになる。
【数6】

【数7】

【0067】
(7) 式を前記(5) 式に代入して整理すると、次式(8) が得られる。
【数8】

式(8) は、バイアス電圧Vbが磁界(磁束密度B)とイオンの軌道半径rとの積(r×B)の2次式であることを示している。
【0068】
そこで、例えばイオンの軌道半径rを固定し、図1のプラズマ電位計測の場合と同様に、質量分析器19とプラズマ2との間に電源22から少なくとも二つの異なるバイアス電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、各バイアス電圧Vbとそのバアイス電圧のときにイオンを検出した磁束密度Bとイオンの軌道半径の積(r×B)の組み合わせデータを少なくとも二組求め、それらデータをプラズマ電位算出部としてのコンピュータPC2に入力して、プラズマ電位Vp及びイオン種を同定するためのファクタを算出させることができる。
磁束密度Bは、例えば図4に例示するように電磁石タイプ等の通電制御可能の磁界発生部280を採用し、この磁界発生部への通電を制御して磁束密度Bを調整することができる。すなわち、磁束密度Bを調整できる磁界発生部280は質量分析器の質量分析条件把握部(質量分析条件把握手段)の少なくとも一部の構成メンバーであるとも言える。
【0069】
コンピュータPC2には、記録媒体M2から次のプログラムを読み込ませてある。すなわち、
少なくとも二つの異なるバイアス電圧Vbと、各バイアス電圧に対応する磁束密度Bとイオン軌道半径rの積(r×B)の組み合わせデータのキーボードからの入力に応じて該データを読み込み、読み込んだ該データに前記式(8) を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるイオン種同定のための(Z/m)×e/2及びプラズマ電位Vpをそれぞれ算出するプログラムである。
【0070】
従って、質量分析器19によりプラズマを質量分析することで、少なくとも二つのバイアス電圧Vbと、各電圧Vbに対応する(r×B)を得て、これらデータをコンピュータPC2に入力して、プラズマ電位Vp及びイオン種同定のための(Z/m)×e/2を求めることができる。イオン種同定については、eが既知であるから、(Z/m)を求めることができ、そによりイオン種を同定できる。プログラムには、算出した(Z/m)×e/2からさらにZ/mを算出する手順が含まれていてもよい。
【0071】
また、本例では、rを固定しているため、実際には積(r×B)についてはBを入力することで足りるようにしておき、VbとBの組み合わせのうちから少なくとも二つを入力することで、(Z/m)×e×r2 /2とVpを算出することができるようにしておいてもよい。

【0072】
(Z/m)×e×r2 /2のうち、e及びrは既知であるから、m/Zを算出することができ、これからイオン種を同定することができる。プログラムには、算出した(Z/m)×e×r2 /2からさらにm/Zを算出する手順が含まれていてもよい。
【0073】
以上説明した例では、積(r×B)のうちrを固定して磁束密度Bを変化させたが、逆にBを固定してイオン軌道半径rを変化させてもよく、両者を変化させてもよい。イオンの軌道半径rはファラデーカップ25、サプレッサ24及びFCスリット23を移動させることで変化させることができる。
また、積(r×B)のうちrを固定して磁束密度Bを変化させる場合、例えば、コンピュータPC2から、例えば図4に鎖線で示すようなインターフエースIFbを介して、或いは、電源の構成によってはかかるインターフエースIFbを介することなく、各電源へ電圧印加のオン、オフの指示や必要に応じて出力電圧の指示を出すようにするとともに、電流計27で検出される情報を読み込むようにし、コンピュータPC2において各バイアス電圧Vbとそれに対応する磁束密度Bのデータを収集し、そのデータに基づいてVp及びイオン種同定のためのm/Zを算出できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明はプラズマを用いる膜形成、イオン注入、エッチング等の処理において、質量分析器を利用して、プラズマの質量分析を行えるとともに、プローブ計測器を用いないで、プラズマ電位を求めることに利用できる。
【符号の説明】
【0075】
PA、PB プラズマ処理装置
A、B プラズマ電位計測装置
1 真空チャンバ
2 プラズマ
3 B×E型質量分析器
4 質量分析器入口スリット、
5 正イオン、
6、7 偏向板、
8、9 偏向電源
10 バイアス電源、
11 イオン出口のFCスリット、
12 サプレッサ
14 サプレッサ電源
13 ファラデーカップ
15 電流計(イオン電流計測器)
16 磁界
17 磁界がイオンに及ぼす力の方向(下向き方向)
18 偏向板6、7間の電界がイオンに及ぼす力の方向(上向き方向)
PC1 コンピュータ
M1 記録媒体
IFa インターフェース
19 偏向磁場型質量分析器、
20 質量分析器入口スリット、
21 正イオン、
22 バイアス電源、
23 イオン出口のFCスリット、
24 サプレッサ
25 ファラデーカップ
26 サプレッサ電源
27 電流計(イオン電流計測器)
28 磁界
280 磁界発生部
29 磁界がイオンに及ぼす力の方向
r イオンの飛行円軌跡の半径
PC2 コンピュータ
M2 記録媒体
IFb インターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ電位測定対象プラズマに対して該プラズマ中のイオンの質量分析を行える質量分析器を配置すること、
該質量分析器と該プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたっては、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めること及び
プラズマ電位算出部において、かくして得た各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め導いておいた式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングさせることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出させることで、該プラズマ電位Vpを求めさせ、併せてイオン種を同定するためのaを求めさせること
を含むことを特徴とするプラズマ電位計測方法。
【請求項2】
前記質量分析器に対して該質量分析器と該プラズマとの間にイオン質量分析のための電圧を印加する電圧印加部及び該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めるための質量分析条件把握部を設け、該電圧印加部に前記質量分析器と前記プラズマとの間に前記少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加させて該質量分析器に質量分析を実施させ、該質量分析実施にあたっては、前記質量分析条件把握部に該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めさせる請求項1記載のプラズマ電位計測方法。
【請求項3】
前記質量分析器はE×B型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは電界強度Eと磁束密度Bとの比(E/B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(m/Z)/2eであり、前記Vb=aX2 −Vpは、
Vb=〔(m/Z)/2e〕×(E/B)2 −Vp
である請求項1又は2記載のプラズマ電位計測方法。
【請求項4】
前記質量分析器は磁場偏向型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは磁束密度Bと該質量分析器によるイオンの飛行軌道半径rの積(r×B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(Z/m)×e/2であり、前記Vb=aX2 −Vpは、 Vb=〔(Z/m)×e/2〕×(r×B)2 −Vp
である請求項1又は2記載のプラズマ電位計測方法。
【請求項5】
電位測定対象プラズマに対して配置されべき、該プラズマ中のイオンの質量分析を行える質量分析器と、
該質量分析器と該プラズマとの間に電圧を印加するための電圧印加部と、
該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求める質量分析条件把握部と、
プラズマ電位算出部とを含んでおり、
前記プラズマ電位算出部は、プラズマ電位を計測するにあたり前記電圧印加部から前記質量分析器と前記プラズマとの間に印加される少なくとも二つの異なる電圧のデータ及び前記質量分析条件把握部により求められる該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとの該質量分析器に応じた質量分析条件Xのデータを入力することができ、
前記プラズマ電位算出部は、入力される各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、予め設定された式Vb=aX2 −Vp(Vpは前記電位測定対象プラズマのプラズマ電位)を回帰式として該回帰式を最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該回帰式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めることができることを特徴とするプラズマ電位計測装置。
【請求項6】
前記電圧Vbとそれに対応する前記質量分析条件Xのデータを集める部分及び前記プラズマ電位算出部を含むプラズマ電位計測部が設けられており、該データを集める部分は、前記プラズマの電位を計測するにあたり、前記電圧印加部に、前記質量分析器と前記プラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加させて該質量分析器に該プラズマ中のイオンの質量分析を実施させるとともに前記質量分析条件把握部に該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めさせ、
前記プラズマ電位算出部は、かくして得られる、各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータに、前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングさせることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求める請求項5記載のプラズマ電位計測装置。
【請求項7】
前記質量分析器はE×B型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは電界強度Eと磁束密度Bとの比(E/B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(m/Z)/2eであり、前記Vb=aX2 −Vpは、
Vb=〔(m/Z)/2e〕×(E/B)2 −Vp
である請求項5又は6記載のプラズマ電位計測装置。
【請求項8】
前記質量分析器は磁場偏向型質量分析器であり、前記質量分析条件Xは磁束密度Bと該質量分析器によるイオンの飛行軌道半径rの積(r×B)であり、前記回帰式におけるaは、該質量分析器により検出される同一イオンの質量をm、該イオンの価数をZ、該イオンの電荷素量をeとすると、(Z/m)×e/2であり、前記Vb=aX2 −Vpは、 Vb=〔(Z/m)×e/2〕×(r×B)2 −Vp
である請求項5又は6記載のプラズマ電位計測装置。
【請求項9】
真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマのもとで被処理物品に目的とする処理を施すことができるプラズマ処理装置であり、請求項5から8のいずれかに記載のプラズマ電位計測装置を含んでいることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
膜形成、イオン注入、エッチング及び物品表面清浄化処理のうちから選ばれた1又は2以上の処理を行える装置である請求項9記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項1、2、3又は4記載のプラズマ電位計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、
前記質量分析器とプラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたって、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めることで得られる該各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータを読み込むステップ及び
読み込んだ該データに前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項12】
請求項1、2、3又は4記載のプラズマ電位計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムであり、前記質量分析器とプラズマとの間に少なくとも二つの異なる電圧をそれぞれ印加して質量分析を実施し、該質量分析実施にあたって、該少なくとも二つの異なる電圧の各電圧Vbごとに、該少なくとも二つの異なる電圧のうちの他の電圧の場合と同一のイオンを検出できる、該質量分析器に応じた質量分析条件Xを求めることで得られる該各電圧Vbと該電圧に対応する前記質量分析条件Xのデータを読み込むステップ及び
読み込んだ該データに前記式Vb=aX2 −Vpを最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、該式におけるa及びVpをそれぞれ算出することで、該プラズマ電位Vpを求め、併せてイオン種を同定するためのaを求めるステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−210714(P2011−210714A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49867(P2011−49867)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】