説明

プレス機械、プレス機械の駆動方法及び産業機械

【課題】
フライホイルを用いる産業機械において、駆動用モータ等の寸法増大を抑え、負荷の速度を高自由度で制御できるようにする。
【解決手段】
負荷駆動軸に減速ギアの出力軸を接続し、該減速ギアの入力軸側のギアを第1のモータで駆動し、フライホイルには差動機構を接続し、該差動機構を、そのキャリアに減速ギアの出力軸が接続され、サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、該蓄積エネルギーをサンギア側及びキャリア側に放出する構成とし、さらに、該差動機構のサンギアを第2のモータで駆動し、負荷駆動軸の回転角位置に応じ、第2のモータによりフライホイルを加速してエネルギーを蓄積させ、その後、該蓄積エネルギーを放出して第1のモータの不足トルクを補いながら負荷駆動軸を駆動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械等の産業機械に係り、特に、フライホイルのエネルギーを、駆動する負荷部に伝達するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
短時間に大きな駆動トルクを必要とする産業機械の例としてプレス機械がある。プレス機械においては、従来より、プレスを自在に行えるようにするために、プレス加工を行うスライドの速度を制御することが検討されている。
図7にクランクプレス方式の場合のプレス機械の概略を示す。図7において、駆動機構1の軸に接続されたギア2にメインギア3が噛み合わされ、メインギア3にはクランク機構(クランク軸4、コンロッド5)が接続されている。該クランク機構によりスライド6が静止側のボルスタ7に対して昇降可能にされている。ギア2、メインギア3は減速ギア12を構成する。駆動機構1の軸の回転速度を自由に変えたり、あるいは速度を正逆に変えたりすることで、クランク軸4の速度がそれに応じて変化し、スライド6の昇降速度や方向が自在に変わる。これにより、スライドの自在な動きが可能となる。
【0003】
また、特許文献に記載された技術としては、例えば、特開平6−190598号公報(特許文献1)や、特開平11−33797号公報(特許文献2)や、特開2004−344946号公報(特許文献3)に記載されたものがある。
特開平6−190598号公報及び特開平11−33797号公報には、図8に示す技術が記載されている。図8は、駆動機構1を中心としたプレス機械の概略構成例を示している。図8において、スライド6は、差動装置14、減速ギア12を介してフライホイル11の回転力を受けて駆動される。モータG15の回転速度を変えると、差動装置14の働きにより、フライホイル11の回転速度と、減速ギア12の入力部の回転速度との速度比を変えることができる。差動装置14、フライホイル11、モータG15で、図7の駆動機構1に相当する駆動機構を構成する。本構成においては、プレス動作によりエネルギーが消費され、フライホイル11の速度が低下するが、該速度低下はモータF13によって補われる。すなわち、モータG15の回転速度を制御することにより、フライホイル11の回転速度を制御し、スライド6の動作速度を制御する構成である。
【0004】
また、特開2004−344946号公報には、図9に示すように、スライド駆動をモータ駆動力だけで行う方式のプレス機械が記載されている。図9において、スライド6は、減速ギア12を介してモータS16により直接駆動される。モータS16は、図7の駆動機構1に相当する。モータS16の制御によりスライド6の自在な動きが可能となるとされる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−190598号公報
【特許文献2】特開平11−33797号公報
【特許文献3】特開2004−344946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8に示した特開平6−190598号公報(特許文献1)及び特開平11−33797号公報(特許文献2)記載の技術においては、スライドの速度制御がモータG15により行われるため、スライドの速度制御範囲がモータGの制御範囲によって制限されることになる。また、図9に示した特開2004−344946号公報(特許文献3)記載の技術では、スライドの自在な速度制御は可能であるが、モータS16に大きなトルクが必要となり、それを制御するためにはパワーアンプなどの制御装置も大容量のものが必要となる。この結果、モータS16や制御装置の大型化、設置スペースの増大、コスト増大などにつながることが予想される。
【0007】
本発明の課題点は、上記従来技術の状況に鑑み、プレス機械などの産業機械として、駆動用モータやその制御装置の容量や寸法の増大を抑え、スライド等の駆動負荷の速度を高自由度で制御できるようにすることである。
本発明の目的は、かかる課題点を解決し、小型で高性能の産業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題点を解決するために、本発明では、フライホイルの蓄積エネルギーを利用して負荷駆動軸を回転させるプレス機械などの産業機械として、上記負荷駆動軸に減速ギアの出力軸を接続し、該減速ギアの入力軸側のギアを第1のモータで駆動し、上記フライホイルには差動機構を接続し、該差動機構を、プラネタリギアにキャリアが係合され、該キャリアに上記減速ギアの出力軸が接続され、サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、該蓄積エネルギーを、上記プラネタリギアを介して上記サンギア側及び上記キャリア側に供給する構成とし、さらに、該差動機構の上記サンギアを第2のモータで駆動し、該第1、第2のモータの駆動状態を、上記負荷駆動軸の回転角情報に基づいてモータ制御・駆動回路で制御する構成とする。これにより、上記負荷駆動軸の回転角位置に応じて、上記第2のモータの回転を加速して上記フライホイルにエネルギーを蓄積し、該蓄積エネルギーを該第2のモータ側と上記負荷駆動軸側とに放出して、該負荷駆動軸を、上記第1のモータによるトルクと、上記フライホイルの蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクによって駆動するとともに、上記第2のモータからエネルギーを回生させる。
また、負荷駆動軸に出力軸が結合される減速ギアの入力軸側のギアを、第1、第2の2つの差動機構を結合する回転体上に設け、該第1、第2の差動機構のそれぞれのプラネタリギアをフライホイルに接続し、それぞれのサンギアを別々のモータで駆動する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型で高性能のプレス機械や射出成形機などの産業機械を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例につき、図面を用いて説明する。
図1〜図3は、本発明の第1の実施例の説明図である。図1は、本発明の第1の実施例としてのプレス機械の構成図、図2は、図1のプレス機械におけるパワーアンプの構成図、図3は、図2のパワーアンプにおけるコントローラ205の説明図である。
【0011】
図1において、プレス機械は、1つの差動機構24と2つのモータすなわち第1のモータとしてのモータS22と、第2のモータとしてのモータG21を備える。モータS22は、減速ギア12を介してスライド6を駆動する。減速ギア12内において、モータS22の出力軸に接続された入力軸側のギア2には出力軸側のメインギア3が噛み合わされ、該出力軸にはクランク軸4が接続されている。クランク軸4とコンロッド5から成るクランク機構により、スライド6が静止側のボルスタ7に対して昇降可能とされる。メインギア3の回転軸である減速ギア12の出力軸が差動機構24に接続され、フライホイル23のエネルギーがプレス動作に利用されるようになっている。差動機構24は、サンギア25、プラネタリギア26、リングギア27及びキャリア28から構成され、サンギア25にはモータG21が、リングギア27にはフライホイル23が、キャリア28にはクランク軸4がそれぞれ接続されている。また、モータ制御・駆動回路としてのパワーアンプ20には、商用電源19、モータG21、モータS22、蓄電装置29が電気的に接続されている。パワーアンプ20によってモータG21、モータS22が駆動されることにより、スライド6の動作とフライホイル23の速度ωとが同時に制御される。蓄電装置29にはコンデンサを用いるとする。
【0012】
図2は、図1のプレス機械におけるパワーアンプ20の構成図である。
図2において、商用電源19からの電力は、コンバータ203により直流電力に変換され、インバータG201、インバータS202に入力される。インバータG201はモータG21を駆動し、インバータS202はモータS22を駆動する。制御回路としてのコントローラ205は、インバータG201、インバータS202の制御のための演算を行い、インバータG201及びインバータS202に制御信号を出力している。また、コンバータ203の出力である直流ラインには、蓄電装置として、大きいエネルギーを蓄電可能な蓄電装置29が接続されている。
【0013】
図3は、コントローラ205内の制御系の構成の説明図である。
図3において、スライド制御指令発生部101では、クランク軸4の回転角θcを入力し、該回転角θcにより、クランク軸4の速度指令ωCRとフライホイル23の速度指令ωFRを求める。スライド6の位置や速度はプレス作業の目的や条件により自在に設定され、クランク軸4の速度指令ωCRはこれに応じて設定される。以下では、例えば次の例により説明をするが、駆動方法はこの例に限定されない。要はスライド6が加速する区間、高速で動作する区間、減速する区間のうちのいずれか1つ以上と、プレス区間が自由に選択され、プレス動作が進行することを意味する。クランク軸4の速度指令ωCRは、プレス動作のときにはクランク軸4が低速で回転し、プレス動作以外のときには高速で回転するように、クランク軸4の回転角θcに応じて設定される。フライホイル23の速度指令ωFRは、プレス動作のときに消費するエネルギーの一部をフライホイル23から供給する目的で用いる。このため、該フライホイル23の速度指令ωFRは、プレス動作時及びクランク軸4の加速時以外のモータトルクを必要としない期間には、フライホイル23を高速で回転させるように設定される。また、プレス動作を行う際に、フライホイル23が減速しながら、クランク軸4にトルクを加えるように、フライホイル23の回転方向を決定する必要がある。
【0014】
モータS速度制御部102では、クランク軸4の速度指令ωCRが入力され、モータS22の速度及び位置の情報をフィードバックして制御演算を行い、モータSトルク指令τSRをモータSトルク制御部103に出力する。モータSトルク制御部103においては、モータSトルク指令τSRとなるようにインバータS202を制御して、モータS22の速度ωすなわちクランク軸4の速度ωを制御する。これにより、クランク軸4の回転角θcで決まるスライド6の速度を制御する。なお、モータS22の速度ωを制御する代わりに、モータS22の電流を制御してもよい。
【0015】
プレス動作を行うとき、モータS22のトルクτだけでは必要トルクが不足する場合がある。そのため、不足するトルクを要求トルクτとして、モータ速度制御部102からフライホイル速度制御部104に出力する。
【0016】
フライホイル速度制御部104では、要求トルクτを優先してモータGトルク指令τGRとするが、要求トルクτがない場合には、該フライホイル速度制御部104では、フライホイル速度指令ωFRとなるように、以下の制御が行われる。
【0017】
すなわち、モータG21の速度ωの情報とモータS22の速度ωの情報とを入力し、フライホイル23の速度ω
ω=(kω‐kω)/k …(数1)
により計算する。ここで、k、kは差動機構24内のギア比、kは減速ギア12のギア比である。なお、数1は下記のようにして求められる。
【0018】
すなわち、差動機構24では、クランク軸4の速度ωについて次式が成立つ。
ω=kω‐kω …(数2)
また、モータS22の速度ωとクランク軸4の速度ωとの関係は次式で表される。
ω=kω …(数3)
従って、数2、数3を用いると、フライホイル23の速度ωは数1で表されることになる。
【0019】
次に、フライホイル速度指令ωFRと算出したフライホイル23の速度ωとの差を演算し、これに基づきフィードバック制御することにより、モータGトルク指令τGRを計算する。なお、モータGトルク指令τGRとして、要求トルクτを優先することを先に述べたが、フィードバック制御で得られたモータGトルク指令τGRを用いるか、要求トルクτを用いるかは、クランク軸4の回転角θにより決定してもよい。このようにして得られたモータGトルク指令τGRをモータGトルク制御部105に出力する。モータGトルク制御部105では、モータG21のトルク制御演算を行い、これを基づいた信号をインバータG201に出力し該インバータG201を制御する。
【0020】
次に、図1のプレス機械の動作につき説明する。該プレス機械の動作は、スライド6の回転角θcにより、加速区間、高速区間、減速区間、プレス区間に大別される。
加速区間は、スライド6が下死点から上昇し始める区間である。該加速区間では、クランク軸4の速度ωが加速される。このため、主としてモータS22がクランク軸4に加速トルクを加える。
【0021】
高速区間は、スライドが上死点付近にある区間である。該高速区間では、クランク軸4は高速で回転する。該高速区間では、加速トルクが必要でないため、クランク軸4のトルクは小さい。モータS22によりクランク軸の速度を制御するとともに、フライホイル23にエネルギーを蓄積するために、モータG21を制御して、フライホイル23の速度ωを加速する。なお、上記加速区間においても、商用電源19の電力容量に余裕がある場合には、モータS22を加速させながら、フライホイル23の速度ωを徐々に加速する制御を行ってもよい。
減速区間はクランク軸4が上死点を越えて下死点に近づく区間である。該減速区間では、主としてモータS22による回生を行いながら、フライホイル23にさらにエネルギーを蓄積する。
【0022】
プレス区間は、スライド6がさらに下死点付近になって、低速でプレス動作を行う区間である。そのため、クランク軸4には大きいトルクが必要であり、モータS22を駆動するとともに、モータG21を減速する。モータG21を減速すると、後述する差動機構24の原理により、フライホイル23からモータG21にエネルギーが供給されるとともに、キャリア28にもフライホイル23のエネルギーが供給される。従って、クランク軸4には、モータS22のトルクτと、キャリア28に発生するトルクとが加わって、大きいトルクを発生させることができる。
図1のプレス機械では、上記により、プレス動作を行うため、2つのモータの定格出力を、従来のプレス機械に比べて小さくすることができる。
【0023】
以下、図1のプレス機械の動作原理につき説明する。
モータG21、モータS22、フライホイル23、キャリア28、及び、クランク軸4のトルクをそれぞれτ、τ、τ、τCA、τとし、差動機構24に損失がないとすると、
τCA=τ/k=τ/k …(数4)
τ=τCA+τ/k …(数5)
となる。
【0024】
モータG21から差動機構24に入力されるパワーP、差動機構24からフライホイル23に出力されるパワーP、キャリア28からクランク軸4に出力されるパワーPCAは、それぞれ、P=τω、P=τω、PCA=τCAωであり、数2、数4によって
CA=P−P …(数6)
となる。
【0025】
プレス区間を開始するときに、フライホイル23の速度ωを負の方向で高速回転させておく。クランク軸4の速度ωは、減速され、正の小さい値になっている。そのため、数2により、モータG21のωは負の値になっている。このような状態で、モータG21のトルクτを正の値とすると、数4から、τCA、τはいずれも正の値となり、パワーP、Pは負の値となる。また、パワーPCAは正の値となる。数5から明らかなように、τCAが正の値であるということは、クランク軸4のトルクτを、モータS22によるトルクτ/ksよりも大きくすることを意味しており、スライド6でプレスする力を大きくすることになる。また、パワーP、Pが負の値であるということは、フライホイル23から差動機構24にパワーが出力されるとともに、差動機構24からモータG21にパワーが流れることを意味している。また、パワーPCAが正の値であるため、キャリア28からクランク軸4にパワーが出力されることを意味している。つまり、フライホイル23のエネルギーの一部が、モータG21で回生されて電気エネルギーになり、モータS22により減速ギア12を介してクランク軸4を駆動するとともに、キャリア28を介して直接クランク軸4を駆動することになる。
【0026】
従って、加速区間から減速区間までの間にフライホイル23に蓄積したエネルギーをプレス区間のプレス動作に利用することができ、このため、必要な瞬時パワーで決まる商用電源19の電源容量を小さくすることができる。特に、蓄電装置29の容量を大きくした場合には、商用電源からのパワーを平準化でき、必要とする商用電源の最大パワーを減らせるため、小規模の工場にも適したプレス機械を提供することができる。スライド6を駆動する力は、モータS22の駆動トルクと、モータG21により制御されるフライホイル23のエネルギーの変化量、つまり、フライホイル23の入出力パワーで決定されるため、該2つのモータに必要なパワーは小さくなる。このため、該2つのモータ、パワーアンプ20の定格容量を小さくすることができる。また、2つのモータを協調制御することで、電気エネルギーを蓄積する蓄電装置29の容量も小さくすることができ、モータ、パワーアンプ20と併せ、蓄電装置29のサイズも小さくすることができる。また、プレス作業の内容により所要エネルギー量は異なるので、フライホイル23あるいは蓄電装置29に蓄積されるエネルギーは加速区間から減速区間までの途中の段階で定格値や所定量に達することがある。このときは、その後のプレス区間までの間、エネルギー蓄積動作は行わず、蓄積したエネルギーを保存したままの状態でスライド動作だけを行うように制御することもできる。
【0027】
上記第1の実施例によれば、複数のモータを協調して制御することにより、商用電源からのパワーとフライホイル23に蓄積したエネルギーを利用してスライド6を高性能、高機能で駆動することができ、この結果、小型で高性能のプレス機械を実現することができる。
なお、図1の実施例では、差動機構24は減速ギア12のメインギア3の回転軸に接続される構造としたが、ギア2の回転軸に接続される構造とすることもできる。
【0028】
図4は、本発明の第2の実施例のプレス機械の説明図である。本第2の実施例のプレス機械は、差動機構の構成が上記第1の実施例の場合とは異なっている。すなわち、図1に示した第1の実施例のプレス機械においては、差動機構24は、サンギア、プラネタリギア、リングギア、及び、キャリアから構成されるが、本図4の第2の実施例のプレス機械においては、差動機構32は、サンギア33、36、プラネタリギア34、37及びキャリア35から構成される。つまり、差動機構32にはリングギアがない。差動機構32において、プラネタリギア34、37は、一体となって、共通のキャリア35と、2つのサンギア33、36とにより、その動作を決定される。第2のモータとしてのモータG21がサンギア33に接続される構成は、図1に示した第1の実施例の場合と同じであるが、フライホイル31がサンギア36に接続される点は第1の実施例と異なる。第1のモータとしてのモータS22、モータ制御・駆動回路としてのパワーアンプ20、蓄電装置29等については、第1の実施例の場合と同じである。図4において、差動機構32に接続されたクランク軸4、モータG21及びフライホイル31のそれぞれの速度の関係は、第1の実施例の場合と同様、数2で表され、動作原理は第1の実施例と同じである。プレス機械の制御方法、エネルギーの流れも、第1の実施例の場合と同じである。
【0029】
一般に、差動機構においては、サンギアは、リングギアと比べて直径が小さくて歯数が少なく、回転数が高い。このため、図4のように、フライホイル31が、リングギアでなく、サンギア36に接続された場合には、該フライホイル31の回転数は高くなり、この結果、同じ量のエネルギーを蓄積する場合には、フライホイル31を小型化することができる。差動機構32のギア比については、任意に設定することができるため、差動機構32、フライホイル31及びモータG21の大きさを小さくすることができる。なお、図4では、サンギア33とプラネタリギア34のギア比と、サンギア36とプラネタリギア37のギア比が異なるようにしてあるが、同じであってもよい。
【0030】
上記第2の実施例によれば、複数のモータを協調して制御することにより、商用電源からのパワーとフライホイルに蓄積したエネルギーを利用してスライドを高性能、高機能で駆動することができ、この結果、小型で高性能のプレス機械を実現することができる。
【0031】
図5は、本発明の第3の実施例のプレス機械の説明図である。本第3の実施例のプレス機械では、サンギア、プラネタリギア、リングギアから構成される差動機構を2つ用いる。
【0032】
以下、第1のモータとしてのモータA39、第2のモータとしてのモータB40、フライホイル41と差動機構の接続につき説明する。第1の差動機構としての一方の差動機構は、モータA39に接続されているサンギア43、プラネタリギア44、リングギア45から構成され、第2の差動機構としての他方の差動機構は、モータB40に接続されているサンギア46、プラネタリギア47、リングギア48から構成される。リングギア45、48は、いずれも回転体42と一体になって回転する構造である。該リングギア45、48が回転することにより、減速ギア12を介してスライド6が上下に移動する。また、フライホイル41は、プラネタリギア44、47のキャリアでもある。つまり、フライホイル41の機能はエネルギーの蓄積だけでなく、差動機構のキャリアとしての機能も備える。
【0033】
モータA39、モータB40、フライホイル41、回転体42の速度をそれぞれ、ω、ω、ω、ωとすると、
ω=kω‐kR1ω …(数7)
ω=kω‐kR2ω …(数8)
ω=kω …(数9)
となる。
ここで、k、k、kR1、kR2はそれぞれ差動機構のギア比で決まる定数、kは減速ギア12のギア比で決まる定数である。
【0034】
また、トルクについては、モータA39からのサンギア43へのトルクτ、モータB40からのサンギア46へのトルクτ、プラネタリギア44からフライホイル41へのトルクτF1、プラネタリギア47からフライホイル41へのトルクτF2、リングギア45を駆動するトルクkR1、リングギア48を駆動するトルクkR2、クランク軸のトルクτの関係は以下のようになる。
τF1=τ/k=τR1/kR1 …(数10)
τF2=τ/k=τR2/kR2 …(数11)
τ=(τR1+τR2)/k …(数12)
これらの式からも明らかなように、モータA39及びモータB40の速度を、制御回路(図示なし)により、スライド6の位置に対応するクランク軸4の回転角情報に基づいて制御することにより、クランク軸の速度ωとフライホイルの速度ωを独立に制御することができる。また、図1に示す第1の実施例や図4に示す第2の実施例と同様、加速区間、高速区間、減速区間において、フライホイル41に蓄えたエネルギーを、プレス区間にスライド6に出力して被加工体を加工することができる。すなわち、スライド6の位置に応じて、加速区間、高速区間、減速区間においては、モータA39及びモータB40の回転を加速してフライホイル41を加速し該フライホイル41にエネルギーを蓄積し、プレス区間においては、該モータA39及びモータB40を減速させ、該フライホイル41の蓄積エネルギーを該モータA39及びモータB40側とクランク軸4側とに放出して、該クランク軸4を、該モータA39及びモータB40によるトルクと、該フライホイル41の蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクにより駆動する。
【0035】
本第3の実施例では、2つのモータをそれぞれ別々の差動機構のサンギアに接続する構成のため、各モータを小型・高速回転化することができる。また、2つの差動機構のギア比を最適化することにより、モータ、パワーアンプをさらに小型化することができる。
【0036】
本第3の実施例によっても、複数のモータを協調して制御することにより、商用電源からのパワーとフライホイルに蓄積したエネルギーを利用してスライドを高性能、高機能で駆動することができ、この結果、小型で高性能のプレス機械を実現することができる。
【0037】
図6は、本発明の第4の実施例の説明図である。本第4の実施例は、フライホイルの蓄積エネルギーを利用して負荷駆動軸を回転させる産業機械として、射出成型機の場合の例である。
【0038】
図6において、2台のモータ21、22、減速ギア12、差動機構24,フライホイル23,パワーアンプ20及び蓄電装置29の構成は、図1の第1の実施例の場合と同じである。かかる構成において、負荷駆動軸すなわち射出成型部50の入力回転軸53の回転角位置に応じて、第2のモータとしてのモータG21の回転を加速してフライホイル23を加速し該フライホイル23にエネルギーを蓄積する。また、該モータG21を減速させ、該フライホイル23の蓄積エネルギーを該モータG21側と射出成型部50の入力回転軸53側とに放出して、該入力回転軸53を、第1のモータとしてのモータS22によるトルクと、フライホイル23の蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクにより駆動するとともに、モータG21からエネルギーを回生させて、蓄電装置29に蓄える。射出成型部50においては、充填された樹脂材料51を金型52に射出し、短時間で所望の形状に成形するとき、射出成型部50の入力回転軸53には大きいトルクが必要となる。そのため、モータG21及びモータS22を制御し、樹脂材料51を金型52に射出成形する期間には、入力回転軸53を、モータS22によるトルクと、フライホイル23の蓄積エネルギーによるトルクとの和の大きなトルクで駆動し、それ以外の期間では、入力回転軸53を高速回転させ、タクトタイムが短縮されるようにする。これにより、射出成型機を小容量の小型のモータを用いて構成することができる。
【0039】
上記第4の実施例によれば、複数の小容量モータを協調して制御することにより、商用電源からのパワーとフライホイルに蓄積したエネルギーを利用して負荷部を駆動することができ、この結果、小型で高性能の射出成型機を提供することができる。
【0040】
上記実施例では、プレス機械または射出成型機の場合の例につき説明したが、本発明はこれらに限定されず、これら以外の大トルクを必要とする産業機械に適用可能である。また、上記実施例では、差動機構については、遊星歯車機構を用いた場合について説明したが、他の方式の差動機構を用いてもよい。また、蓄電装置としては、コンデンサの他、電気二重層キャパシタや、充電可能なバッテリーなどを用いてもよい。さらに、上記実施例では、モータを2台用いる場合について示したが、本発明はこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施例としてのプレス機械の構成図である。
【図2】図1のプレス機械におけるパワーアンプの構成図である。
【図3】図2のパワーアンプにおけるコントローラの説明図である。
【図4】本発明の第2の実施例としてのプレス機械の構成図である。
【図5】本発明の第3の実施例としてのプレス機械の構成図である。
【図6】本発明の第4の実施例としての射出成形機の構成図である。
【図7】本発明の従来技術の説明図である。
【図8】本発明の従来技術の説明図である。
【図9】本発明の従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…駆動機構、
2…ギア、
3…メインギア、
4…クランク軸、
5…コンロッド、
6…スライド、
7…ボルスタ、
11、23、31、41…フライホイル
12…減速ギア、
13,15、16、21、22、39、40…モータ、
14、24、32…差動機構、
19…商用電源、
20…パワーアンプ、
25、33、36、43、46…サンギア、
26、34、37、44、47…プラネタリギア、
27、45、48…リングギア、
28、35…キャリア、
29…蓄電装置、
42…回転体、
50…射出成型部、
51…樹脂材料、
52…金型、
53…入力回転軸、
101…スライド制御指令発生部、
102…モータS速度制御部、
103…モータSトルク制御部、
104…フライホイル速度制御部、
105…モータGトルク制御部、
201、202…インバータ、
203…コンバータ、
205…コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のモータにより駆動され、昇降するスライドを備えたプレス機械において、エネルギーを蓄積するフライホイルと、第1、第2、第3の回転体を有する差動機構を有し、前記第1のモータ及び前記スライドを前記第1の回転体に、前記第2のモータを前記第2の回転体に、前記フライホイルを前記第3の回転体にそれぞれ接続したことを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
第1及び第2のモータにより駆動され、昇降するスライドを備えたプレス機械において、前記第1及び第2のモータがそれぞれ第1及び第2の差動機構を介して、前記スライドを駆動するとともに、前記第1及び第2の差動機構はエネルギーを蓄積するフライホイルに接続したことを特徴とするプレス機械。
【請求項3】
複数のモータにより駆動され、昇降するスライドを備えたプレス機械において、少なくとも前記モータの1つと前記スライドとエネルギーを蓄積するフライホイルに接続された差動装置と、前記モータの入出力エネルギーを制御する制御装置を備えたことを特徴とするプレス機械。
【請求項4】
複数のモータにより駆動され、昇降するスライドを備えたプレス機械において、少なくとも前記モータの1つと前記スライドとエネルギーを蓄積するフライホイルに接続された差動装置と、前記モータの入出力エネルギーを蓄電する蓄電装置を備えたことを特徴とするプレス機械。
【請求項5】
複数のモータと、エネルギーを蓄積するフライホイルと、該フライホイルと前記複数のモータがそれぞれ異なる回転体に接続された差動機構と、前記回転体のうちの1つが回転することにより昇降するスライドを備えたプレス機械であって、前記複数のモータのうち、少なくとも1つを発電させ、少なくとも他の1つを駆動することで、プレス動作を行うことを特徴とするプレス機械。
【請求項6】
フライホイルの蓄積エネルギーを利用してクランク軸を回転させスライドを昇降させてプレス動作を行うプレス機械であって、
上記クランク軸に出力軸が接続された減速ギアと、
上記減速ギアの入力軸側のギアを駆動する第1のモータと、
上記フライホイルに接続され、プラネタリギアにキャリアが係合され、該キャリアに上記減速ギアの出力軸が接続され、サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、該フライホイルに蓄積されたエネルギーを、上記プラネタリギアを介して上記サンギア及び上記キャリアに供給する差動機構と、
上記差動機構の上記サンギアを駆動する第2のモータと、
上記スライドの位置に対応するクランク軸の回転角情報に基づき上記第1、第2のモータの駆動状態を制御するモータ制御・駆動回路と、
を備え、上記スライドの位置に応じて、上記第2のモータの回転を加速して上記フライホイルを加速し該フライホイルにエネルギーを蓄積する第1の区間と、該第2のモータを減速させ、該フライホイルの蓄積エネルギーを該第2のモータ側と上記クランク軸側とに放出して、上記クランク軸を、上記第1のモータによるトルクと、上記フライホイルの蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクにより駆動するとともに、上記第2のモータからエネルギーを回生させる第2の区間とが形成される構成としたことを特徴とするプレス機械。
【請求項7】
上記差動機構は、内周部にサンギア、外周部にリングギア、該サンギアと該リングギアとの間にプラネタリギアを有し、上記フライホイルが該リングギアに接続され、上記サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、上記フライホイルに蓄積されたエネルギーを、上記リングギア及び上記プラネタリギアを介して上記サンギア側及び上記キャリア側に供給する構成である請求項6に記載のプレス機械。
【請求項8】
上記モータ制御・駆動回路は、上記第1のモータを駆動する第1のインバータと、上記第2のモータを駆動する第2のインバータとを備えた構成である請求項6に記載のプレス機械。
【請求項9】
上記第1、第2のインバータの入力ラインに蓄電装置が接続され、上記第2の区間において上記第2のモータから回生されたエネルギーを該蓄電装置に蓄える構成である請求項6に記載のプレス機械。
【請求項10】
フライホイルの蓄積エネルギーを利用してクランク軸を回転させスライドを昇降させてプレス動作を行うプレス機械であって、
上記クランク軸に出力軸が接続された減速ギアと、
上記減速ギアの入力軸側のギアが設けられた回転体と、
上記回転体に第1のリングギアで接続され、上記フライホイルに第1のプラネタリギアで接続された第1の差動機構と、
上記回転体に第2のリングギアで接続され、上記フライホイルに第2のプラネタリギアで接続された第2の差動機構と、
上記第1の差動機構の第1のサンギアを駆動する第1のモータと、
上記第2の差動機構の第2のサンギアを駆動する第2のモータと、
上記スライドの位置に対応するクランク軸の回転角情報に基づき上記第1、第2のモータの回転速度を制御する制御回路と、
を備え、上記スライドの位置に応じて、上記第1のモータまたは上記第2のモータの回転を加速して上記フライホイルを加速し該フライホイルにエネルギーを蓄積する区間と、該第1のモータまたは該第2のモータを減速させ、該フライホイルの蓄積エネルギーを該第1のモータまたは該第2のモータ側と上記クランク軸側とに放出して、上記クランク軸を、上記第1のモータまたは上記第2のモータによるトルクと、上記フライホイルの蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクにより駆動する区間とが形成される構成としたことを特徴とするプレス機械。
【請求項11】
上記第1の差動機構は、内周部に第1のサンギア、外周部に第1のリングギア、該第1のサンギアと該第1のリングギアとの間に第1のプラネタリギアが配され、上記第2の差動機構は、内周部に第2のサンギア、外周部に第2のリングギア、該第2のサンギアと該第2のリングギアとの間に第2のプラネタリギアが配された構成である請求項10に記載のプレス機械。
【請求項12】
フライホイルの蓄積エネルギーを利用して負荷駆動軸を回転させる産業機械であって、
上記負荷駆動軸に出力軸が接続された減速ギアと、
上記減速ギアの入力軸側のギアを駆動する第1のモータと、
上記フライホイルに接続され、プラネタリギアにキャリアが係合され、該キャリアに上記減速ギアの出力軸が接続され、サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、該フライホイルに蓄積されたエネルギーを、上記プラネタリギアを介して上記サンギア側及び上記キャリア側に供給する差動機構と、
上記差動機構の上記サンギアを駆動する第2のモータと、
上記負荷駆動軸の回転角情報に基づき上記第1、第2のモータの駆動状態を制御するモータ制御・駆動回路と、
を備え、上記負荷駆動軸の回転角位置に応じて、上記第2のモータの回転を加速して上記フライホイルを加速し該フライホイルにエネルギーを蓄積する区間と、該第2のモータを減速させ、該フライホイルの蓄積エネルギーを該第2のモータ側と上記負荷駆動軸側とに放出して、上記負荷駆動軸を、上記第1のモータによるトルクと、上記フライホイルの蓄積エネルギーによるトルクとの和のトルクにより駆動するとともに、上記第2のモータからエネルギーを回生させる区間とが形成される構成としたことを特徴とする産業機械。
【請求項13】
上記負荷駆動軸は、射出成形機の入力回転軸である請求項12に記載の産業機械。
【請求項14】
フライホイルの蓄積エネルギーを利用してクランク軸を回転させスライドを昇降させてプレス動作を行うプレス機械の駆動方法であって、
上記プレス機械が、上記クランク軸に出力軸が接続された減速ギアと、該減速ギアの入力軸側のギアを駆動する第1のモータと、上記フライホイルに接続されプラネタリギアにキャリアが係合され該キャリアに上記減速ギアの出力軸が接続され、サンギアから入力された回転動力を該フライホイルに伝達しエネルギーとして蓄積させるとともに、該フライホイルに蓄積されたエネルギーを、上記プラネタリギアを介して上記サンギア及び上記キャリアに供給する差動機構と、該差動機構の上記サンギアを駆動する第2のモータと、上記スライドの位置に対応するクランク軸の回転角情報に基づき上記第1、第2のモータの駆動状態を制御するモータ制御・駆動回路とを備えた構成であり、
上記モータ制御・駆動回路において、上記クランク軸の回転角情報に基づき、該クランク軸の速度指令と上記フライホイルの速度指令とを求めるステップと、
上記モータ制御・駆動回路において、上記クランク軸の位置または速度指令に基づき、該第1のモータのトルク指令を演算し出力するステップと、
上記モータ制御・駆動回路において、上記演算したトルク指令となるように上記第1のモータの速度を制御するステップと、
上記モータ制御・駆動回路において、プレス動作を行うとき、上記第1のモータの不足トルクを要求トルクとして出力するステップと、
上記モータ制御・駆動回路において、上記フライホイルの速度指令とフライホイルの速度との差に基づき、上記第2のモータのトルク指令を演算するステップと、
上記モータ制御・駆動回路において、上記第2のモータのトルク指令により該第2のモータのトルクを制御するステップと、
を備え、上記クランク軸の回転角に応じて、上記第2のモータの回転により上記フライホイルにエネルギーを蓄積した後、該蓄積エネルギーの一部を上記クランク軸側に放出し、上記第1のモータの不足トルクを該フライホイルの蓄積エネルギーで補い、上記クランク軸を駆動することを特徴とするプレス機械の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−307591(P2008−307591A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159776(P2007−159776)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】