説明

プレス機械の動力伝達装置

【課題】 簡単かつ安価、製造容易で設置スペースも小さくて済む構成としながら、駆動側と被駆動側との間で減速比を所定に切り換えて回転伝達することができるプレス機械の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 駆動軸101から被駆動軸(クランク軸)130へ回転動力を伝達するプレス機械の動力伝達装置100は、軸方向に並んで駆動軸101と略一体的に取り付けられる少なくとも2つの駆動ギア101A,101Bと、被駆動軸130に略一体的に取り付けられる被駆動ギア120と、アイドル軸111に回転自在に支持されると共に被駆動ギア120と噛合するギア110Aと駆動ギア101A,101Bのそれぞれに対応して設けられた複数のギア110A,110Bとを有するアイドルギア110と、を備え、アイドルギア110を駆動ギア101A,101Bに対して軸方向に移動させ、駆動ギア101A,101Bの一方と、対応するアイドルギア110の複数のギア110A,110Bの一方と、を選択的に噛合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械(プレスマシン)の動力伝達装置に関し、例えば駆動側(例えば回転エネルギが蓄えられたフライホイール)と被駆動側(スライドを駆動する駆動軸)との間で減速比(変速比)を所定に切り換えて回転伝達するプレス機械の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置として、例えば特許文献1には、図5に示すように、スプライン係合(スプライン溝15、16参照)により、駆動軸12の外周部に、駆動軸12に対して回転方向への相対移動を規制されつつ軸方向に移動自在に、その内筒部が嵌挿される摺動歯車19と、被駆動軸23に対して略一体的に設けられる歯車20及び歯車21と、が備えられ、駆動軸12の端部に配設された流体圧シリンダ(アクチュエータ)30を軸方向に駆動して前記摺動歯車19を駆動軸12の軸方向に移動させることによって、前記摺動歯車19に設けられている歯車17と前記歯車21とが噛合する状態と、前記摺動歯車19に設けられている歯車18と前記歯車20とが噛合する状態と、を切り換え可能に構成され、これにより駆動軸12と被駆動軸23との間で減速比を所定に切り換えて駆動力を伝達することができるようにしたものが記載されている。
【0003】
なお、プレス機械の動力伝達装置において駆動軸と被駆動軸との間の減速比を切り換える理由は、固定減速比とすると、例えばフライホイールに蓄えられた回転エネルギを利用してプレス作業を行う場合、例えば高速域(高SPM(Stroke Per Minutes)域)に適合した減速比で低速域(低SPM域)にてプレス作業を行うと、エネルギが不足して徐々に次回プレス動作に必要なエネルギがフライホイールに蓄えられるまでの時間が長くなって所望のSPMにて連続プレスが行えなくなり(高速域に適合した減速比のままだと、低速域での使用可能エネルギが大幅に減少するためである。)、低速域では大きなエネルギを必要とするプレス作業を行なえなくなるといった実情がある。
【0004】
かかる場合に、低速域(低SPM域)に適合するように減速比を切り換えることができれば、プレス作業に要求されるエネルギを低速域(低SPM域)に合わせて与えることができるため、低速域においても所望のエネルギにて連続プレスを行えるようになり、以って広範囲な速度域に対して良好なエネルギ供給を実現でき延いては広範囲なSPMの実現要求に応えることが可能となる。また、フライホイールを備えずサーボモータを駆動源として採用する場合でも、減速比を切り換えることができれば、サーボモータを効率の良い運転領域で運転することができたり、サーボモータの小容量化等に貢献することができるものである。
このようなことから、駆動軸と被駆動軸との間の減速比を切り換えることが必要とされている。
【0005】
【特許文献1】実開昭55−77600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されたものは、スプライン係合を介して摺動歯車19を駆動軸12に対して回転方向への相対移動を規制されつつ駆動軸12の軸方向に移動自在に当該駆動軸12の外周に嵌挿する構成であり、当該スプライン係合のために駆動軸12の外周及び摺動歯車19の内筒部に刻設されるスプライン溝15、16は、その加工が難しく、スプライン係合を採用する場合には、加工コスト延いては製品コストが増大するといった実情がある。
また、駆動軸12の端部に流体圧シリンダ(アクチュエータ)30が配設されているため、駆動軸12の軸方向(左右方向)に比較的大きなスペースが必要となり、設置自由度が狭められるといった惧れがある。
更に、流体圧シリンダ(アクチュエータ)30が駆動軸12に一体的に取り付けられる構造であるため、駆動軸12の回転に伴い、当該流体圧シリンダ(アクチュエータ)30も一緒に回転されるため、慣性モーメント(GD)が大きくなり、起動時における回転エネルギの消費量が大きくなると共に、回転停止の際に停止させ難くなるといった惧れがある。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価、製造容易で設置スペースも小さくて済む構成としながら、駆動側と被駆動側との間で減速比を所定に切り換えて回転伝達することができるプレス機械の動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明に係るプレス機械の動力伝達装置は、
駆動軸から被駆動軸へ回転動力を伝達するプレス機械の動力伝達装置であって、
軸方向に並んで駆動軸と略一体的に取り付けられる少なくとも2つの駆動ギアと、
被駆動軸に略一体的に取り付けられる被駆動ギアと、
アイドル軸に回転自在に支持されると共に、前記被駆動ギアと噛合するギアと、前記少なくとも2つの駆動ギアのそれぞれに対応して設けられた複数のギアと、を有するアイドルギアと、
を備え、
前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させ、前記少なくとも2つの駆動ギアのうちの1つと、対応する前記アイドルギアの複数のギアのうちの1つと、を選択的に噛合させることを特徴とする。
【0009】
本発明において、前記被駆動ギアと噛合するギアが、前記アイドルギアの複数のギアのうちの1つであることを特徴とすることができる。
【0010】
本発明において、前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させる移動手段は、アイドル軸方向と略平行な方向に移動される移動要素を含んで構成され、当該移動要素を前記アイドルギアに作用させ、前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させることを特徴とすることができる。
【0011】
本発明において、前記移動要素の先端側は前記アイドルギアをアイドル軸方向両側から挟み持つ挟持部材を含んで構成されると共に、前記移動要素の基端側に対してアイドル軸方向に作用する動力が供給されて、当該移動要素がアイドル軸方向と略平行な方向に移動されることを特徴とすることができる。
【0012】
本発明において、前記被駆動軸は、伝達される回転動力をスライドの往復運動に変換するクランク機構に回転連結されることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単かつ安価、製造容易で設置スペースも小さくて済む構成としながら、駆動側と被駆動側との間で減速比を所定に切り換えて回転伝達することができるプレス機械の動力伝達装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係るプレス機械の動力伝達装置の一例を示す実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100の正面図で、本発明に関連する部分を抜き出してその一部を切断して示している。図2は、後述するフォーク状部材140の構造を説明するために図1のA方向からフォーク状部材140に関連する部分を見た図である。図3は、図1のB方向から見た側面図である。図4は、図1のC−C矢視図である。
【0016】
駆動軸101には、図1中左端側に、電動モータ等により回転駆動されて回転エネルギが蓄えられるフライホイール102等が取り付けられており(或いはフライホイール102を省略してサーボモータ出力軸などと回転連結することもできる)、当該フライホイール102には、駆動軸101との回転連結を締結・解放するクラッチ機構等が内装されている。
【0017】
駆動軸101の図1中右端側には、駆動軸101の回転を停止させるためのブレーキ機構103等が配設されている。
【0018】
また、駆動軸101には、高速側駆動ギア101Aと、低速側駆動ギア101Bと、が配設されており、当該駆動軸101は転がり軸受或いは滑り軸受等を介してフレーム104に回転自在に支持されている。高速側駆動ギア101Aと、低速側駆動ギア101Bと、は、歯数が同じでモジュールが異なっている。なお、歯すじも合っている。
【0019】
図1に示したように、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100には、前記高速側駆動ギア101Aと噛合する高速側アイドルギア110Aがアイドルギア110に設けられていると共に、当該アイドルギア110には、低速側アイドルギア110Bが略一体的に設けられている。
【0020】
前記アイドルギア110は、滑り軸受112(或いはボールベアリング)等を介して回転自在かつ軸方向に移動自在にアイドル軸111の外周に嵌挿され支持されており、当該アイドル軸111はフレーム104に支持されている。なお、滑り軸受112等には、潤滑油等の潤滑剤が供給されることができる。
【0021】
駆動軸101の高速側駆動ギア101Aとアイドルギア110の高速側アイドルギア110Aとは同じモジュールで等しい歯数の平歯車で製作されており、駆動軸101の低速側駆動ギア101Bとアイドルギア110の低速側アイドルギア110Bとは同じモジュールで異なる歯数の平歯車で製作されている。また、駆動軸101とアイドル軸111との軸間距離は一定である。
【0022】
そして、図1に示したように、前記アイドルギア110の高速側アイドルギア110Aには被駆動ギア120のギア120A(平歯車)が噛合されており、当該被駆動ギア120のボス部120Bは、前記高速側アイドルギア110A延いては前記被駆動ギア120から伝達される回転運動を図示しないスライドの直線的な往復運動に変換してプレス動作を行わせるためのクランク軸130に略一体的に取り付けられている。
【0023】
更に、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100には、図1、図2に示すように、先端部140A、140Bが二股状に分かれたフォーク状部材140が配設されており、この先端部140Aと先端部140Bとの間にアイドルギア110が挟持されると共に、当該先端部140A、140Bは、アイドル軸111の外周に軸方向に摺動自在に嵌挿支持されている。前記フォーク状部材が、本発明に係る移動要素に相当する。
【0024】
また、フォーク状部材140の基端側は、スライドガイド軸141の外周にスリーブ部材142A、142Bを介して嵌挿支持され、当該スリーブ部材142Aと、前記スライドガイド軸141の略中央付近に当該スライドガイド軸141と一体的に設けられる画成部141Aと、の間に油圧室143Aが画成されると共に、前記スリーブ部材142Bと前記画成部141Aとの間に油圧室143Bが画成されている。
【0025】
そして、当該油圧室143Aと油圧室143Bに供給される油圧に応じて、スライドガイド軸141に沿ってフォーク状部材140が図2中左右方向に移動されるようになっている。
【0026】
詳細には、例えば油圧室143A内の油圧(図示しない油圧ポンプ等から供給される)を油圧室143B内の油圧より高くすると、油圧室143Bの容積が縮小され油圧室143Aの容積が増大されて、フォーク状部材140がスライドガイド軸141に沿って図2中左方向へ移動されるように構成されている(なお、図1、図2は、フォーク状部材140が左端まで移動した状態を示している)。
【0027】
この一方、油圧室143B内の油圧を油圧室143A内の油圧より高くすると油圧室143Aの容積が縮小され油圧室143Bの容積が増大されて、フォーク状部材140はスライドガイド軸141に沿って図2中右方向へ移動されるように構成されている。
【0028】
すなわち、フォーク状部材140の基端部、スライドガイド軸141、画成部141A、スリーブ部材142A、142B等によって、フォーク状部材140を図2中左右方向に往復移動させるための油圧アクチュエータが構成されていることになる。かかる油圧アクチュエータが、本発明に係る移動手段に相当する。
【0029】
以上のような構成を有する本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100は、フライホイール102等に蓄えられている回転エネルギをクランク軸130へ伝達してプレス動作を行う場合には、フライホイール102と駆動軸101とをフライホイール102に内装されているクラッチ機構等を介して回転連結する。
【0030】
そして、フライホイール102の回転エネルギが伝達された駆動軸101は、その回転エネルギを、図1、図4に示したように、高速側駆動ギア101Aに噛合している高速側アイドルギア110Aを介してアイドルギア110に伝達し、このアイドルギア110は高速側アイドルギア110Aに噛合しているギア120Aを介して被駆動ギア120延いてはクランク軸130に伝達する。
【0031】
すなわち、高速域(高SPM域)においてプレス動作を行う場合には、フライホイール102の回転エネルギを伝達された駆動軸101は、その回転エネルギを、高速側駆動ギア101Aに噛合する高速側アイドルギア110Aを介してアイドルギア110に伝達し、このアイドルギア110は高速側アイドルギア110Aに噛合しているギア120Aを介して被駆動ギア120延いてはクランク軸130に伝達することになる。
【0032】
従って、高速域(高SPM域)において連続プレスを行う場合において、駆動軸101と被駆動軸であるクランク軸130との間の減速比を高速域に適したものとすることができるため、高速域において効率良くフライホイール102の回転エネルギをクランク軸130へ伝達することができ、以って高速域でエネルギ不足となることが抑制され高速域における連続プレスが可能なエネルギ(負荷)を高めることができる。よって、例えば比較的低速域に適合させた固定減速比としたような場合に比べて、高速域において高いSPMでのプレス作業が可能になる。
【0033】
この一方、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100では、低速域(低SPM域)において連続プレスを行う場合においては、駆動軸101と被駆動軸であるクランク軸130との間の減速比を、高速域に適した減速比から低速域に適した減速比へ切り換えるために、前記フォーク状部材140を図1、図2の位置から図1、図2中右方向へ移動させてアイドルギア110を図1、図2中右方向に移動させ、駆動軸101とアイドルギア110との間で噛合するギアを切り換える。
【0034】
具体的には、図1に示した駆動軸101の高速側駆動ギア101Aとアイドルギア110の高速側アイドルギア110Aとが噛合している状態から、油圧室143B内の油圧が油圧室143A内の油圧より大きくなるように操作することで油圧室143Bの容積を増大させ、フォーク状部材140を図1、図2中右方向に移動させることにより、アイドルギア110をアイドル軸111に沿って図1、図2中右方向に移動させ、アイドルギア110の低速側アイドルギア110Bと、駆動軸101の低速側駆動ギア101Bと、を噛合させるようにする。
【0035】
これにより、低速域(低SPM域)において連続プレスを行う場合において、駆動軸101と被駆動軸であるクランク軸130との間の減速比を低速域に適した減速比で連続プレスを行うことができるため、低速域において効率良くフライホイール102の回転エネルギをクランク軸130へ伝達することができ、以って低速域でエネルギ不足となることが抑制され低速域における連続プレスが可能なエネルギ(負荷)を高めることができる。従って、例えば比較的高速域に適合させた固定減速比としたような場合に比べて、低速域において高いSPMでのプレス作業が可能になる。
【0036】
このように、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、駆動軸101とクランク軸130(被駆動軸)との間の減速比を所定に切り換え可能に構成したので、要求されるSPMに見合った減速比で効率良く回転エネルギを伝達させることができ、以って低速域から高速域まで広範囲に亘って効率の良い連続プレス作業を実現することができる。
【0037】
また、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、駆動軸101及びクランク軸130(被駆動軸)に噛合するアイドルギア110を介して駆動軸101とクランク軸130(被駆動軸)とを回転連結する構成とし、当該アイドル軸111廻りを回転するアイドルギア110を当該アイドル軸111の軸方向に移動させて噛合するギアを切り換えることで、駆動軸101とクランク軸130(被駆動軸)との間の減速比を所定に切り換える構成としたので、従来のようなスプライン加工を不要とすることができ、以って加工コスト延いては製品コストを低減することが可能となる。
【0038】
なお、本実施の形態において、減速比の切り換えは、プレス動作を停止し、例えば、比較的遅い回転速度で駆動軸101を回転させて、被駆動ギア120に同軸的に略一体的に取り付けられている位置決め用円盤150を回転させ、当該位置決め用円盤150が所定回転位置となったときに、図3、図4等に示すように、クランク軸130の軸方向に延伸する位置決めピン160を前記位置決め用円盤150方向に突出させて前記位置決め用円盤150の切欠部151に侵入させ、回転している前記位置決め用円盤150の当接部152と位置決めピン160とが当接したと同時に、フライホイール102に内装されているクラッチ機構を介して駆動軸101への駆動を解放する。
【0039】
そして、かかる当接部152と位置決めピン160とが当接した状態において、クランク軸130の軸方向に延伸する位置決めピン170を前記位置決め用円盤150方向に突出させ、当該位置決めピン170と、前記位置決め用円盤150に開口されている位置決め穴153と、を係合させることで、駆動軸101と被駆動ギヤ120の回転位置関係を所定の減速比切り換え位置に合わせて、高速側駆動ギア101A、低速側駆動ギア101B、高速側アイドルギア110A、低速側アイドルギア110Bの位相(歯すじ)を合わせる。
【0040】
すなわち、減速比切り換え位置は、駆動軸101の高速側駆動ギア101Aとアイドルギア110の高速側アイドルギア110Aとが噛合した状態で、アイドルギア110を図1中右方向に移動させた場合に、駆動軸101の低速側駆動ギア101Bの特定の歯が、アイドルギア110の低速側アイドルギア110Bの特定の歯と歯の間に侵入することができる位置に設定されており、かかる減速比切り換え位置に前述のようにして位置合わせすることにより、アイドルギア110をアイドル軸111に沿って図1中右方向に移動させ、駆動軸101の高速側駆動ギア101Aとアイドルギア110の高速側アイドルギア110Aとが噛合した状態から、駆動軸101の低速側駆動ギア101Bとアイドルギア110の低速側アイドルギア110Bとが噛合する状態へと切り換えることが可能となっている。
【0041】
なお、上述のように、アイドルギア110をアイドル軸111に沿って移動させる際に、アイドルギア110の内径部の内周とアイドル軸111の外周とが円滑に軸方向に移動することが必要とされるが、本実施の形態では、アイドルギア110をアイドル軸111に対して回転自在に支持する滑り軸受112を当該軸方向への移動の際の軸受としても機能させることができる構成としたため、別個に軸方向への移動のための軸受を配設する必要がない。
従って、かかる構成によれば、構成の簡略化、軽量コンパクト化、延いては低コスト化を促進することができることになる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、駆動軸101とクランク軸130(被駆動軸)との間の減速比を所定に切り換え可能に構成したので、要求されるSPMに見合った減速比で効率良く回転エネルギを伝達させることができ、以って低速域から高速域まで広範囲に亘って効率の良い連続プレス作業を実現することができる。
【0043】
また、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、従来装置において必要とされたスプライン加工を不要とすることができ、以って加工コスト延いては製品コストを低減することが可能となる。
【0044】
更に、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、アイドルギア110を軸方向に移動させて減速比の切り換える際に、アイドルギア110を移動させるための駆動源となるアクチュエータが、アイドル軸110と略並列に配設される構成であるため、従来のように駆動軸の端部に流体圧シリンダ(アクチュエータ)を配設するものと比較して、駆動軸の軸方向(図1、2中左右方向)に対する設置スペースを小さくすることができるため、設置自由度が狭められるといった惧れを抑制することができる。
【0045】
すなわち、本実施の形態によれば、ライン長に影響を与える軸方向(左右方向)にアクチュエータを配設することが必須ではなく、ライン長に影響を与えず設置スペースも小さくできる方向、例えば駆動軸の上下方向等にアクチュエータを配設できるため、装置の設置に関して極めて有利なものとなる。
【0046】
更に、本実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置100によれば、従来装置のようにアクチュエータが駆動軸に一体的に取り付けられ駆動軸と伴に回転する構造ではないため、駆動軸101の慣性モーメント(GD)を小さくでき、以って起動時における回転エネルギの消費を抑制することができると共に、回転停止の際に急停止等を可能とすることができる。
【0047】
本実施の形態では、フライホイール102を備えた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フライホイール102を備えずサーボモータ等の回転エネルギを直接的に駆動軸101に伝達してプレス動作を行うサーボプレス機においても採用可能である。
【0048】
また、本実施の形態では、異なる2つの減速比間で減速比を切り換える構成として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、駆動軸101、アイドルギア110にギアを複数段設け、噛合するギアを適宜選択可能な構成とすることができ、以って3以上の減速比間で減速比を切り換え可能な構成とすることもできる。
【0049】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るプレス機械の動力伝達装置によれば、簡単かつ安価、製造容易で設置スペースも小さくて済む構成としながら、駆動側と被駆動側との間で減速比を所定に切り換えて回転伝達することができ有益である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置を概略的に示す正面図である。
【図2】同上実施の形態に係るフォーク状部材の構造を説明するために図1のA方向からフォーク状部材140に関連する部分を見た図である。
【図3】同上実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置を、図1のB方向から見た側面図である。
【図4】同上実施の形態に係るプレス機械の動力伝達装置の図1のC−C矢視図である。
【図5】従来のプレス機械の動力伝達装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
100 プレス機械の動力伝達装置
101 駆動軸
101A 高速側駆動ギア
101B 低速側駆動ギア
102 フライホイール
110 アイドルギア
110A 高速側アイドルギア
110B 低速側アイドルギア
111 アイドル軸
112 滑り軸受
120 被駆動ギア
130 クランク軸(被駆動軸)
140 フォーク状部材
141 スライドガイド軸
160、170 位置決めピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸から被駆動軸へ回転動力を伝達するプレス機械の動力伝達装置であって、
軸方向に並んで駆動軸と略一体的に取り付けられる少なくとも2つの駆動ギアと、
被駆動軸に略一体的に取り付けられる被駆動ギアと、
アイドル軸に回転自在に支持されると共に、前記被駆動ギアと噛合するギアと、前記少なくとも2つの駆動ギアのそれぞれに対応して設けられた複数のギアと、を有するアイドルギアと、
を備え、
前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させ、前記少なくとも2つの駆動ギアのうちの1つと、対応する前記アイドルギアの複数のギアのうちの1つと、を選択的に噛合させることを特徴とするプレス機械の動力伝達装置。
【請求項2】
前記被駆動ギアと噛合するギアが、前記アイドルギアの複数のギアのうちの1つであることを特徴とする請求項1に記載のプレス機械の動力伝達装置。
【請求項3】
前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させる移動手段は、アイドル軸方向と略平行な方向に移動される移動要素を含んで構成され、当該移動要素を前記アイドルギアに作用させ、前記アイドルギアを前記駆動ギアに対して相対的にアイドル軸方向に移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス機械の動力伝達装置。
【請求項4】
前記移動要素の先端側は前記アイドルギアをアイドル軸方向両側から挟み持つ挟持部材を含んで構成されると共に、前記移動要素の基端側に対してアイドル軸方向に作用する動力が供給されて、当該移動要素がアイドル軸方向と略平行な方向に移動されることを特徴とする請求項3に記載のプレス機械の動力伝達装置。
【請求項5】
前記被駆動軸は、伝達される回転動力をスライドの往復運動に変換するクランク機構に回転連結されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のプレス機械の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299808(P2009−299808A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155674(P2008−155674)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】