説明

ベーンポンプ

【課題】従来より更に高圧大容量という厳しい条件においても、キャビテーションによる侵蝕を発生させにくいベーンポンプを提供する。
【解決手段】流量調整弁1の高圧側流路2から還流路4を経由して低圧側流路3へ連通する流路であって、還流路4から高圧で流入する作動流体の流体力の均衡を図るためにこの低圧側流路2に形成される張出部5付近を、ベーンポンプ本体8の素材に比べより侵蝕されにくい材料で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーステアリング装置に代表される、油圧を用いた供給排出先(アクチュエータ)に作動流体を供給する際などに用いられるベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、この種のベーンポンプは、例えば、低圧の吸い込み側と高圧の吐出側とで最大7.84〜16.2MPa(80〜165kgf/Cm2)という大きな圧力差を有しており、最大10000回転/分で高速回転するロータに応じて2回/回転の吸い込み−吐出を繰り返している。
【0003】
また、最近では、この種のべーンポンプは、パワーステアリング装置だけに限定されず、自動車の操縦安定性や快適性を確保するために、従来制御対称となっていなかった部分にも用いられることがあり、その際、ベーンポンプの回転数に拘わらず常に大容量で作動流体の使用、不使用が繰り返される場合があり、高圧の作動流体が流入する低圧流路(バイパス流路)でのキャビテーションによる侵蝕の問題が重要な解決課題となっている。
【0004】
その状況を、特許文献1に記載の流量制御弁の技術を用いて説明する。
【0005】
図3(a)はこの流量制御弁を備えたベーンポンプの一例を示す縦断面図、(b)はそのX1−X、X2−Xで切断した矢視断面図である。
【0006】
このベーンポンプ20は、図3(b)に示す流量制御弁11、ポンプで加圧された作動流体の排出路である高圧側流路12、作動流体の流入路であり、かつ、余剰油を吸い込み側に戻す流路として機能する低圧側流路13、高圧側流路12から低圧側流路13への還流路14、この還流路14から高圧の作動流体が流入する低圧側流路13内に設けられた張出部15、流量制御弁11部分に用いられたスリーブ16を備え、これらは本発明に関連する要部部分である。
【0007】
なお、図3(b)の断面図は、図3(a)に示すように、低圧側流路13が見えるX1−X断面と、高圧側流路12が見えるX2−X断面とを重ね合わせたものである。
【0008】
ベーンポンプ20は、加えて、ポンプ機能の根幹である、ロータ17、ロータ17に対して出入り可能に収容されたベーン17a、ロータ17から突出したベーン17aが当接する内周面を形成するカムリング17b、ロータ17等の両側を規制するカバー18a、サイドプレート18b、これらを収容する本体18を備え、ベーンポンプとしての機能を発揮する。なお、このポンプ機能については、通常のベーンポンプと変わる所はないので、詳細な説明を省略する。
【0009】
上記要部関連部分の流量制御弁11は、図3(b)に示すように、この弁を収容する弁管路11a、弁体であるプランジャ11b、このプランジャ11bと一体化されたスプール11c、このスプール11c内に設置され、スプール11c内左から右への作動流体の流れを制御するチェック弁11d、スプール11cを右方へ付勢するスプリング11e、弁管路11aの右方開口部を封止すると共に、プランジャ11b先端部に対する弁座となるオリフィス部材11fを備えている。符号18dは、供給排出先の負荷機器を接続するための接続部材である。
【0010】
この例示のポンプは、高圧・高速回転ポンプであることから、キャビテーションによる内部部分のエロージョン(侵蝕)を防止するために、スプールは侵蝕され難い材料(例えば鉄)で製造されている。
【0011】
一方、本体18は、ポンプ自体のコスト低減と軽量化の目的のため、軟らかい材料であるアルミ(通常はアルミダイキャスト)で製造されている。
【0012】
そして、この本体18とスプールとを摺動させると材質的に軟らかい本体18側が摩耗してしまうことから、これらの間にスプールと同じ硬度のスリーブを介在させる必要がある。
【0013】
これにより、スプールの摺動によって、容易にその摺動面が摩耗しないようにしている。還流路14、張出部15については、後述する。
【0014】
ベーンポンプ20においては、この流量制御弁11が、常時自動車のエンジンから回転力を受けて回転するロータ17により高圧側流路12に排出される作動流体が、接続部材18dに接続されるパワーステアリング装置などの負荷機器の必要に応じて適圧適量だけ供給されるように制御しており、その通常動作状態を示すのが、図3(a)、(b)である。
【0015】
この状態では、プランジャ11bを備えたスプール11cが、このスプール11cへのスプリング11eによる付勢力、高圧側流路12の作動流体の圧力、プランジャ11bの先端に作用する負荷機器側の作動流体の圧力の均衡により、図3(b)において左右に摺動し、これにより、上記適圧適量の作動流体の供給を可能としている。
【0016】
この際、余剰分の作動流体は、図3(a)、(b)で流れFCとして示すように、高圧側流路12から低圧側流路13へ還流する。したがって、この還流が生じる部分を概念的に還流路14と称している。
【0017】
この還流路14では、流体力学の知見として、スプール11cの中心を対称軸として、高圧側流路12から低圧側流路13へ一方向だけに還流させると、その還流路14に存在するプランジャ11bに不均衡の流体力が発生することが知られ、このため、スプール11cをスリーブ16内で偏った状態で摺動させることになる。
【0018】
その為、低圧側流路13に対向する位置に一定の張出を設けたものが張出部15であり、これにより、上記流体力が均衡して、スプール11cがスリーブ16内で偏ることなく摺動できるようにしている。
【0019】
この張出部15は、先に弁管路11aにスリーブ16を嵌挿してから、低圧側流路13を加工する際に同時加工して形成しているが、加工技術上、スプール11cに対する耐摩耗性を考慮しただけの厚さのスリーブ16の場合、張出部15が、ベーンポンプ本体18の部分にまで及んでしまうことが避けられないものであった。
【0020】
したがって、この張出部15は、低圧側流路13の一部であることから、高圧側流路12からの高圧の作動流体が急激に低圧となってキャビテーションが生じやすい部分で、加えて、材料も侵蝕され易いもの(本体18の素材であるアルミダイキャスト)で、キャビテーションによる侵蝕が発生しやすい部分となっており、高圧大容量にも使用できるベーンポンプとしては、その改善が望まれていた。
【特許文献1】特開平9−170569号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記状況を改善しようとするもので、従来より更に高圧大容量という厳しい条件においても、キャビテーションによる侵蝕を発生させにくいベーンポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のベーンポンプは、流量調整弁の高圧側流路から還流路を経由して低圧側流路へ連通する流路であって、前記還流路から高圧で流入する作動流体の流体力の均衡を図るためにこの低圧側流路に形成される張出部付近を、ベーンポンプ本体の素材に比べより侵蝕されにくい材料で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のベーンポンプは、還流路を経由して、高圧の作動流体が流量調整弁の高圧側流路から流入する低圧側流路に形成される張出部付近を、ベーンポンプ本体の素材に比べより侵蝕されにくい材料で構成したので、キャビテーションによる侵蝕が不可避な部分の侵蝕を回避でき、高圧大容量といった厳しい条件にも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態(実施例)について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0025】
図1(a)は、本発明のベーンポンプの一例を示す縦断面図、(b)はそのX1−X、X2−Xで切断した矢視断面図である。
【0026】
図1のベーンポンプ10は、自動車などのパワーステアリング装置などに作動流体を供給する際に用いるものであって、図1(b)に示す流量制御弁1、ポンプで加圧された作動流体の排出路である高圧側流路2、使用後の作動流体の流入路である低圧側流路3、高圧側流路2から低圧側流路3への還流路4、この低圧側流路3に設けられた張出部5、流量制御弁1部分に用いられたスリーブ6を備え、これらは本発明の要部部分である。
【0027】
なお、図1(b)の断面図は、図1(a)に示すように、低圧側流路3が見えるX1−X断面と、高圧側流路2が見えるX2−X断面とを重ね合わせたものである。
【0028】
ベーンポンプ10は、加えて、ポンプ機能の根幹である、ロータ7、ロータ7に対して出入り可能なベーン7a、ロータ7から突出したベーン7aが当接する内周面を形成するカムリング7b、ロータ7等の両側を規制するカバー8a、サイドプレート8b、これらを収容する本体8を備え、ベーンポンプとしての機能を発揮する。なお、このポンプ機能については、通常のベーンポンプと変わる所はないので、詳細な説明を省略する。
【0029】
上記要部関連部分の流量制御弁1は、図1(b)に示すように、この弁を収容する弁管路1a、弁体であるプランジャ1b、このプランジャ1bと一体化されたスプール1c、このスプール1c内に設置され、スプール1c内左から右への作動流体の流れを制御するチェック弁1d、スプール1cを右方へ付勢するスプリング1e、弁管路1aの右方開口部を封止すると共に、プランジャ1b先端部に対する弁座となるオリフィス部材1fを備えている。符号8dは、供給排出先の負荷機器を接続するための接続部材である。
【0030】
スリーブ6は、本体8(通常はアルミダイキャスト製)に比べより固い、摩耗の少ない材料(例えば鉄)で製造された円筒体で、弁管路1aとスプール1cとの間に介在して、スプール1cの摺動によって、容易にその摺動面が摩耗しないようにしているものであるが、従来例のものに比べ、その肉厚が大きいが、その理由・効果については後述する。
【0031】
ベーンポンプ10においては、流量制御弁1の機能、スリーブ6を除く他の部分の構成、機能は、図3の従来例と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0032】
このベーンポンプ10の張出部5も、先に弁管路1aにスリーブ6を嵌挿してから、低圧側流路3を加工する際に同時加工して形成しているが、スリーブ6の厚さが、張出部5の全体がそのスリーブ6内だけで形成されるような厚さになっている点が従来例と異なっている。
【0033】
したがって、この張出部5は、低圧側流路3の一部であることから、高圧側流路2からの高圧作動流体が急激に低圧となり、気泡を発生させキャビテーションの厳しい部分であっても、張出部5付近の材料が、ベーンポンプ10の材料より格段に固くて侵蝕されにくい材料(例えば鉄)で構成されることとなるので、侵蝕が非常に起こり難いか、ほとんど生じないこととなる。
【0034】
よって、このベーンポンプは、高圧大容量の場合にも、キャビテーションによる侵蝕の問題を心配することなく使用することができる。
【0035】
また、この場合、スリーブ6自体は従来から用いられていたものであるので、加工工数もほとんど変わりなく、コストアップとなるものではない。
【実施例2】
【0036】
図2(a)は本発明のベーンポンプの他例の要部断面図である。この断面図は、その他例のベーンポンプにおける図1(b)と同じ部分の断面図である。
【0037】
このベーンポンプ10Aは、図1のベーンポンプ10に比べ、スリーブ6Aの長さが、張出部5を設ける部分だけの長さとされ、流量制御弁1Aのスプール11cが摺動接触する部分には及んでいない点が異なっている。
【0038】
このように、張出部5のキャビテーションによる侵蝕回避のためには、スリーブ6Aの長さは図示した長さで十分であり、その効果も変わりない。一方、スプール11cと本体8との摺動接触部の摩耗の問題は、例えば、表面処理や材質変更により、その部分だけ本体8の材料と同程度の硬さにすることにより、解決可能である。
【実施例3】
【0039】
図2(b)は本発明のベーンポンプの他例の要部断面図である。この断面図は、その他例のベーンポンプにおける図1(b)と同じ部分の断面図である。
【0040】
このベーンポンプ10Bは、図1のベーンポンプ10に比べ、張出部5をスリーブに設けるのではなく、本体8の外部からこの部分に至る栓6Bの先端部分に設けるようにした点が異なっている。この栓6Bの材料は、本体8の素材に比べより侵蝕されにくい材料、例えば、鉄とするのが良い。
【0041】
この栓6Bは、Oリング6aなどを介在させて油密とした六角穴付き雄ネジのようなものとすることができる。このようにしても、図1のスリーブ6と同様の効果を得ることができ、また、この場合には、栓6Bの先端に殊更、張出部5を形成する替わりに、その分だけ栓6Bを短寸とするだけで対応可能であり、加工工数を減らすことができる。
【0042】
スプール11cとの摺動接触部の摩耗の問題は、上記実施例2と同様な方法で対処可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のベーンポンプは、自動車などのパワーステアリング装置に加え、より高圧大容量の厳しい条件が要求される制御機器などのあらゆる産業分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は本発明のベーンポンプの一例を示す縦断面図、(b)はそのX1−X、X2−Xで切断した矢視断面図
【図2】(a)、(b)は本発明のベーンポンプの他例の要部断面図
【図3】(a)は従来のベーンポンプの一例を示す縦断面図、(b)はそのX1−X、X2−Xで切断した矢視断面図
【符号の説明】
【0045】
1〜1B 流量調整弁
2 高圧側流路
3 低圧側流路
4 還流路
5 張出部
6 スリーブ
6A 主スリーブ
6B 栓
7 ロータ
7a ベーン
7b カムリング
8 本体
8a カバー
8b サイドプレート
10〜10B ベーンポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量調整弁の高圧側流路から還流路を経由して低圧側流路へ連通する流路であって、前記還流路から高圧で流入する作動流体の流体力の均衡を図るためにこの低圧側流路に形成される張出部付近を、ベーンポンプ本体の素材に比べより侵蝕されにくい材料で構成したことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記張出部を前記流量調整弁の収容孔に挿嵌されるスリーブ内に形成し、このスリーブをベーンポンプ本体の素材に比べより侵蝕されにくい材料で構成したことを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記スリーブは、前記流量調整弁の収容孔に挿嵌され、弁体摺動部を保護する主スリーブに一体化したものであることを特徴とする請求項2記載のベーンポンプ
【請求項4】
前記ベーンポンプ本体の素材に比べより侵蝕されにくい材料を鉄としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−9580(P2006−9580A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183437(P2004−183437)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】