説明

ペプチド

【課題】摂取することで肝機能障害の抑制に有用であり、しかも、日常的な摂取が可能であるチーズに含まれるペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤、あるいは肝機能障害抑制用飲食品又は飼料の提供。
【解決手段】式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、肝細胞傷害抑制作用があり、しかも低用量で効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝機能障害抑制作用を持つペプチドに関する。また、本発明は、乳タンパク質に由来する肝機能障害抑制作用を持つペプチドに関する。さらに、本発明は、該ペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤に関する。さらにまた、本発明は、該ペプチドを配合した飲食品又は飼料に関する。本発明の肝機能障害抑制剤や肝機能障害抑制用飲食品は、これを摂取することにより、アルコール性の肝機能障害等の肝機能障害を抑制することができるので、肝機能障害に起因する疾患の治療及び予防に有用である。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、糖質、タンパク質、脂質等の代謝・貯蔵、あるいは有害物質の分解・解毒等、種々の機能を担っている重要な臓器である。このような肝臓の機能は、種々の要因、例えば、ウイルス感染、ストレス、喫煙、不健康な食習慣、飲酒等により障害を受け、その結果、急性肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性脂肪肝、肝硬変、肝臓癌等を罹患するリスクが高まる。特に、食生活において、アルコールの摂取量が増加すると、肝機能に障害の生じるリスクが高まる。
【0003】
なお、種々の要因により肝機能が障害を受けると、肝細胞内に存在するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼとも称し、GOTと略記する。)やアラニンアミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼとも称し、GPTと略記する。)等の酵素が血中に漏出するので、血中のGOT活性やGPT活性は、肝機能障害を示す指標となっている。
【0004】
肝機能障害は、医薬で治療することもできるが、望ましくは予防的な対処によって肝機能障害を最小限に留めた方が良いと考えられている。このような観点から、予防的な対処の手段として最も適しているのは、日常的に摂取できる食品や食品成分であるといえる。そして、肝機能障害を抑制する食品として、ウコン、牡蛎エキス、レバーエキス等が知られている。
【0005】
近年、食品や食品成分の生理機能に関する研究が盛んに行われるようになり、チーズについても、高脂肪含有食品であるのにも関わらず血中トリグリセリド濃度の低下促進作用やコレステロール代謝の改善作用を有することが報告されている(特許文献1、特許文献2)。また、生体において疾病や老化等に悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による酸化的障害の抑制作用を有することも報告されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−300890号公報
【特許文献2】特開2003−144090号公報
【特許文献3】特開2004−352958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、摂取することで肝機能障害の抑制に有用であり、しかも、日常的な摂取が可能であるチーズに含まれるペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤、あるいは肝機能障害抑制用飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、日常的に摂取が可能である食品や食品成分によって生体の種々の機能異常を予防や改善できないかという観点で、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結
果、次の式(1)〜(28)で表されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドに肝機能障害
抑制効果があり、しかも低用量で効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
(1) Arg-Pro-Lys-His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro-Gln-Glu
(2) His-Ile-Gln-Lys-Glu-Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leu-Glu-Gln-Leu-Leu-Arg-Leu-Lys-Lys-Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leu
(3) Ile-Asn-Pro-Ser-Lys-Glu-Asn
(4) Gln-His-Gln-Lys-Ala-Met-Lys-Pro
(5) Lys-Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln
(6) Asp-Lys-Ile-His-Pro-Phe
(7) Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro-Glu-Val-Met-Gly-Val-Ser-Lys-Val-Lys-Glu-Ala-Met-Ala-Pro-Lys-Gln-Lys-Glu-Met
(8) Tyr-Gln-Glu-Pro-Val-Leu-Gly-Pro-Val-Arg
(9) pyroGlu-Glu-Lys-Asn-Met (pyroGlu:ピログルタミン酸)
(10) Arg-Pro-Lys-His
(11) Arg-Pro-Lys-His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu
(12) His-Pro-Ile-Lys
(13) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln
(14) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro
(15) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro-Gln
(16) Val-Ala-Pro-Phe-Pro
(17) Lys-Val-Asn
(18) His-Ile-Gln-Lys-Glu-Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr
(19) Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leu-Glu-Gln-Leu-Leu-Arg-Leu-Lys-Lys-Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leu
(20) Ile-Asn-Pro-Ser
(21) Lys-Phe-Gln-Ser-Glu
(22) Phe-Gln-Ser-Glu
(23) Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln
(24) Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val
(25) Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro
(26) Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro-Glu-Val-Met
(27) Gly-Val-Ser-Lys-Val-Lys-Glu-Ala-Met-Ala
(28) Leu-Leu-Tyr-Gln-Glu-Pro-Val-Leu-Gly-Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile
すなわち、本発明は、上記の式(1)〜(28)のいずれかで表わされる肝機能障害抑制作用も持つペプチドに関する。ただし、セリン(Ser)については、リン酸化されても良い。また、本発明は、乳タンパク質に由来する式(1)〜(28)のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用を持つペプチドに関する。さらに、本発明は、式(1)〜(28)のいずれかで表されるペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤に関する。さらにまた、本発明は、式(1)〜(28)のいずれかで表されるペプチドを配合した肝機能障害抑制用飲食品又は飼料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用も持つペプチドは、これらを摂取することにより肝機能の障害を抑制することができるので、急性肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性脂肪肝、肝硬変、肝臓癌等の疾患の予防および改善に有用であるので、このペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤として、また、このペプチドを配合した肝機能障害抑制用飲食品又は飼料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いることができる、式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用も持つペプチドは、例えばチーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、遠心分離によって不溶性物質の除去を行って得ることができる。さらにその得られた画分からタンパク質を除去してもよい。本発明においてチーズを溶媒に懸濁するということは、チーズに溶媒を加えて均質化したり、または溶媒中で破砕したりして、水溶性ペプチド画分を得やすい大きさにすることをいう。溶媒としては、水、リン酸緩衝液等の水性溶媒を用いる事ができる。その後、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を行ってもよいし、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥させることにより粉末化してもよい。また、これらの画分を透析膜やゲルろ過、イオン交換等の各種クロマトグラフィーにより精製した画分を使用することもできる。
【0010】
また、式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用も持つペプチドを得るためのチーズ原料としては、パルメザンチーズ、グリュイエールチーズ、マリボーチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エメンタールチーズ、エダムチーズ、カマンベールチーズ、ブリーチーズ、マンステールチーズ、ポン・レヴェックチーズ、スチルトンチーズ、ダナブルーチーズ、ブルーチーズ等のナチュラルチーズ、及びこれらのナチュラルチーズを原料としたプロセスチーズ等を用いることができる。特に、熟成度の進んだナチュラルチーズを用いる事が望ましい。
【0011】
さらに、チーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、不溶性物質の除去及び未分解タンパク質の除去によって得られる式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む画分は、C18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーによりさらに精製することも可能である。本ペプチドを含む画分をトリフルオロ酢酸(TFA)等の酸性条件下あるいは蒸留水等の中性条件下でC18カラムに通した時に、肝機能障害抑制作用を有する画分は、カラムに吸着されない透過画分と、カラムに吸着されて10%エタノールで溶出されてくる画分に主として分かれる。これらの画分についてゲルろ過クロマトグラフィーによりさらに精製を行った場合の、活性画分の分子量分布は、いずれの画分も400〜6,000の範囲である。さらに、このペプチドを含む画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供してペプチドを分画する。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行うことが望ましい。
【0012】
ところで、チーズの熟成の程度を示す熟度(%)は、〔(可溶性窒素/全窒素)×100〕の計算式で算出され、ナチュラルチーズ製造直後では6〜7%程度であるが、熟成が進むにつれて上昇し、24〜30%程度となるチーズもあるが、本発明では、チーズの熟成が進んで熟度が高くなる程、肝機能障害の抑制作用が高まることを確認している。このことは、肝機能障害の抑制作用に有効なペプチド成分が、チーズの熟成と共に増加していることを意味する。したがって、本発明では、チーズに含まれるペプチド成分として、チーズの熟成にしたがって増加するペプチド成分を使用することが望ましい。また、これらペプチド成分を含むチーズそのもの、あるいはこれらペプチド成分を含むチーズを濃縮したものを用いてもよい。
【0013】
本発明の式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用も持つペプチド及び該ペプチドを含む画分は、経口あるいは非経口的に投与して、生体において肝機能障害等を抑制することができるので、肝機能障害に起因する疾患の治療及び予防することができる。経口あるいは非経口的に投与する場合、本発明の肝機能障害抑制作用を持つペプチドの剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の製剤を例示することができる。また、肝機能障害抑制用飲食品としては、パン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等を例示することができる。
【0014】
本発明の式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用も持つペプチドの経口による投与量は、治療や予防の目的、症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、成人1日あたり、式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとして、10〜1,000mg投与すれば、肝機能障害に起因する疾患の治療及び予防効果が得られる。このように、本発明は低用量で効果がある。
【0015】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(ゴーダタイプチーズのペプチドの調製)
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販乳酸菌スターター(LDスターター、クリスチャン・ハンセン社)0.7%及び多糖産生乳酸菌のラクトバチルス・ヘルベチカス(L.helveticus)SBT2171(FERMP-14381)1%を添加し、レンネット0.003%を添加して乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出し、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で8ヶ月熟成させ、ゴーダタイプの硬質ナチュラルチーズを調製した。
調製したゴーダチーズ20gに蒸留水80mlを加え、ストマッカー(オルガノ社)で15分間摩砕した後、水中においてウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX、T-25;IKAジャパン社)で30秒間さらに破砕した。破砕時に生じた乳脂肪を取り除き、得られたチーズスラリーを振盪機で30分間振盪した後、遠心分離(6,000rpm、20min、4℃)で不溶物を除き、上清をろ紙(No.113;ワットマン社)によりろ過した。得られたろ過液にエタノールを70%濃度になるように加え、4℃で4時間静置した後、遠心分離(10,000rpm、20min、4℃)により不溶物を除去し、エバポレーターでエタノールを除いた後、凍結乾燥してゴーダタイプチーズの水溶性ペプチド画分を得た。
この水溶性ペプチド画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、水溶性ペプチド精製画分に分画した。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行った。
この水溶性ペプチド精製画分をCosmosil 5C22-AR-II(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、更に分画しペプチドを得た。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.1%TFA;B液:80%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒15%B,40 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件でおこなった。
このようにして得られたペプチドについて、ペプチドシークエンサー(アプライド・バイオシステムズ社)でアミノ酸配列を解析した。なお、アミノ酸の中、グルタミン酸のα−アミノ基とγ−カルボキシル基が分子内結合して生じるピログルタミン酸に関しては、2−ニトロフェニルヒドラジンを用いたプレラベル法で解析した。その結果、式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが確認された。得られたペプチドの肝機能障害抑制作用を以下に示す試験例1の方法で測定したところ、強い肝機能障害抑制作用が確認された。
これらのペプチドは未熟成チーズ中にはほとんど認められず、熟成によって生成してくるものである。また、このようにして得られた本発明のペプチドは、そのまま肝機能障害抑制剤として利用可能である。
【0017】
[参考例1]
(熟成チーズによる肝機能障害抑制作用の確認)
実施例1で製造した熟成5ヶ月チーズ(熟度30%)及び熟成8ヶ月チーズ(熟度38%)を使用して、アルコールによる肝機能障害を抑制する作用を確認した。また、対照として、未熟成チーズを使用した。動物実験は、熟成5ヶ月チーズを投与した群(熟成5ヶ月群)、熟成8ヶ月チーズを投与した群(熟成8ヶ月群)及び未熟成チーズを投与した群(未熟成群)として1群5匹で行った。
動物実験は液体飼料法に準拠した(Lin, Liquid diet preparation for study of chronic alcohol ingestion in the rat, Lab. Anim. Sci., vol.39, p.618-620, 1989年)。すなわち、各チーズ20%、シュクロース8.5%及びエタノール5%を含有する液体飼料を調製し、C57BL/6マウス(5週齢、雄、日本チャールス・リバー社)に投与し、投与1週間後、障害を受けた肝細胞から血中に漏出してくるGOT活性及びGPT活性を富士ドライケムFDC5500システムで測定した。なお、液体飼料の摂取量は、マウス1匹当たり1日平均8.8g±0.4gであり、群間に差はなかった。
【0018】
結果を図1及び図2に示す。これによるとGOT活性及びGPT活性は、未熟成群に比べて、熟成5ヶ月群及び熟成8ヶ月群で共に有意に低い値となっていた。つまり、チーズの熟成にしたがって増加するペプチド成分を摂取することで、肝機能障害を低減できることが分った。
【0019】
[試験例1]
(水溶性ペプチド画分による肝機能障害抑制作用の確認)
実施例1の水溶性ペプチド画分をさらに分画して得られたフラクションの代表的なクロマトグラフィーパターンを図3および図4に示す。この試験例1では、図3のフラクションA、および図4のフラクションBを集め、これらのフラクションがアルコールによる肝機能障害を抑制する作用を確認した。なお、フラクションAは、式(10)、(11)、(15)及び(27)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含み、フラクションBは、式(9)、(20)、(21)及び(23)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含むことを、アミノ酸配列分析で確認している。
未熟成チーズ20%、シュクロース8.5%、エタノール5%、およびフラクションAあるいはBの凍結乾燥物を0.1%含有する液体飼料を調製し、参考例1と同様に肝機能障害の程度を評価した。
【0020】
その結果を図5及び図6に示す。これによると、フラクションを添加した群の方が、添加しない群に比べて肝機能障害マーカーであるGOT活性及びGPT活性が有意に低い値を示した。
未熟成チーズは熟成チーズに比べてアルコールによる肝機能障害抑制作用が低いことは、前記参考例1に示したように明らかである。一方、未熟成チーズにペプチドを含むフラクションを添加すると肝機能障害抑制作用が示されたことから、ペプチド画分が肝機能障害抑制作用を示すことが確認された。
【0021】
[試験例2]
(ペプチドの細胞障害抑制活性測定)
実施例1で得られた式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを用いて、ヒト由来肝細胞株(Hep G2、ATCC HB8065)を用いた細胞傷害試験を行った。細胞傷害の測定は、顕微蛍光法で細胞傷害を測定する装置である「テラスキャンVPC、ミネルヴァテック(株)」を用いた。あらかじめ蛍光標識した細胞に対して、細胞傷害活性を有する化学物質を作用させると、細胞の細胞膜が破壊され蛍光色素が漏出する。その結果、細胞傷害後は傷害を受けずに残存する細胞のみが蛍光を発する。このような原理に基づき、傷害前の蛍光強度と傷害後の蛍光強度の差を細胞傷害測定装置で測定し、各種ペプチドの細胞傷害抑制活性を算出した。すなわち、細胞傷害活性を有する化学物質として過酸化水素を用い、リン酸緩衝液(PBS)中58.8 mmol/L 濃度で作用させた。なお、過酸化水素は活性酸素の代表的な分子種として知られており、一方、その活性酸素は、生体における肝細胞の傷害に関与する因子の一つであることも知られている。
細胞をあらかじめ calcein-AM で蛍光標識し、実施例2で調製した各種ペプチドを、過酸化水素および細胞が分注してある96ウェルマイクロプレートに添加し、37℃、100分間反応させた。反応後の細胞の蛍光強度の低下割合を細胞傷害測定装置で測定し、細胞傷害を受けた割合(%)を算出した。結果は、ペプチドを添加しない時に細胞が傷害を受けた割合(%)を100とした時の、ペプチドを各濃度で添加した時に細胞が傷害を受けた割合(%)として表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に見られるように、各ペプチドを添加すると、濃度依存的に細胞傷害を受けた割合(%)が低下した。このように本試験例の結果から、式(1)〜(28)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドには、肝細胞傷害抑制活性が認められ、肝機能障害の予防・改善に有用であることがわかった。
【実施例2】
【0024】
表2に示した組成で各成分を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の肝機能障害抑制作用を持つペプチドを配合した肝機能障害抑制用飲料を製造した。
【0025】
【表2】

【実施例3】
【0026】
表3に示す組成のドウを作成し、成形した後、焙焼して本発明の肝機能障害抑制作用を持つペプチドを配合した肝機能障害抑制用ビスケットを製造した。
【0027】
【表3】

【実施例4】
【0028】
表4に示す組成で各成分を混合し、本発明の肝機能障害抑制作用を持つペプチドを配合したイヌ飼育用飼料を製造した。
【0029】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】参考例1における各実験群の血中GOT活性の平均値を示す。
【図2】参考例1における各実験群の血中GPT活性の平均値を示す。
【図3】試験例1におけるクロマトグラフィーパターン及びフラクションAを示す。
【図4】試験例1におけるクロマトグラフィーパターン及びフラクションBを示す。
【図5】試験例1における各実験群の血中GOT活性の平均値を示す。
【図6】試験例1における各実験群の血中GPT活性の平均値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)〜(28)で表されるいずれかのアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用を持つペプチド。ただし、セリン(Ser)についてはリン酸化されていても良い。
(1) Arg-Pro-Lys-His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro-Gln-Glu
(2) His-Ile-Gln-Lys-Glu-Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leu-Glu-Gln-Leu-Leu-Arg-Leu-Lys-Lys-Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leu
(3) Ile-Asn-Pro-Ser-Lys-Glu-Asn
(4) Gln-His-Gln-Lys-Ala-Met-Lys-Pro
(5) Lys-Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln
(6) Asp-Lys-Ile-His-Pro-Phe
(7) Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro-Glu-Val-Met-Gly-Val-Ser-Lys-Val-Lys-Glu-Ala-Met-Ala-Pro-Lys-Gln-Lys-Glu-Met
(8) Tyr-Gln-Glu-Pro-Val-Leu-Gly-Pro-Val-Arg
(9) pyroGlu-Glu-Lys-Asn-Met (pyroGlu:ピログルタミン酸)
(10) Arg-Pro-Lys-His
(11) Arg-Pro-Lys-His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu
(12) His-Pro-Ile-Lys
(13) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln
(14) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro
(15) His-Pro-Ile-Lys-His-Gln-Gly-Leu-Pro-Gln
(16) Val-Ala-Pro-Phe-Pro
(17) Lys-Val-Asn
(18) His-Ile-Gln-Lys-Glu-Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr
(19) Asp-Val-Pro-Ser-Glu-Arg-Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leu-Glu-Gln-Leu-Leu-Arg-Leu-Lys-Lys-Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leu
(20) Ile-Asn-Pro-Ser
(21) Lys-Phe-Gln-Ser-Glu
(22) Phe-Gln-Ser-Glu
(23) Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln
(24) Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val
(25) Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro
(26) Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe-Leu-Gln-Pro-Glu-Val-Met
(27) Gly-Val-Ser-Lys-Val-Lys-Glu-Ala-Met-Ala
(28) Leu-Leu-Tyr-Gln-Glu-Pro-Val-Leu-Gly-Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile
【請求項2】
乳タンパク質に由来する請求項1の式(1)〜(28)で表されるいずれかのアミノ酸配列からなる肝機能障害抑制作用を持つペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分とする肝機能障害抑制剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のペプチドを配合した肝機能障害抑制用飲食品又は飼料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−214242(P2008−214242A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52520(P2007−52520)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】