説明

ホイップクリーム用油脂組成物

【課題】低温流通を行っても乳化安定性に優れており、かつ口融けがよいホイップクリームを製造することができる、ホイップクリーム用油脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも2種類の油脂を含むホイップクリーム用油脂組成物であって、
(1)(A)第1の油脂が、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を4:6〜9:1の範囲で混合し、エステル交換したエステル交換油脂、及び(B)前記油脂(A)とヤシ油100%をエステル交換した油脂との混合油脂から選択される油脂であり、
(2)第2の油脂が、パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂であって、融点が30℃以上の油脂からなり、及び
(3)油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%であり、油脂組成物全質量に対して、第2の油脂が22質量%以上の量で含まれており、かつ融点が36℃以下である、上記油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化安定性に優れたホイップクリーム用水中油型乳化油脂組成物を製造でき、かつ口融けが良いホイップクリームを製造できる、トランス酸が低減された、ホイップクリーム用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製菓や料理に用いられるホイップクリームとして、植物性油脂を原料として製造される植物性クリーム(水中油型乳化物)を用いることが知られている。植物性クリームは生乳から得られる生クリームに比べて安定性に優れ、かつ比較的安価に製造されるという利点を有するためにその消費量は多い。
この植物性クリームの製造では、流通時の温度変化する条件でも乳化安定性に優れ、口融け、造花性、気泡性に優れたホイップクリームが求められており、従来より数多くの提案がなされている。
【0003】
起泡前のクリームの状態で流通させるクリームでは、起泡性(ホイップ時の操作性)、ホイップ後の保形性、更に口の中での融けやすさ(口融け)などの性能に加えて、輸送中の温度変化によりクリームの粘度が上昇しない(ヒートショック耐性)という特性が求められる。
【0004】
これらの性能を満たすクリームを得るために、様々な油脂の組み合わせが提案されている。特に、従来、菜種油やパーム油などの部分水素添加油が用いられてきた。
しかし、近年、従来用いられてきた硬化油中に含まれるトランス脂肪酸の過剰摂取が心疾患のリスクを高めるとの報告もあり、米国、カナダなどではトランス脂肪酸含有量の表示義務が課されている。従って、ホイップクリーム用の油脂組成物の開発にあたっては、トランス脂肪酸含量をできる限り低く抑えたいという要望もある。
これに対し、上記の部分水素添加油に代わり完全水素添加油(極度硬化油)を用いることによりトランス酸を低下させることができる。しかし、完全水素添加油(極度硬化油)は融点が高く、口融けを低下させてしまう。
【0005】
例えば、実質的にトランス酸を含有せず、耐振性や耐熱性に優れ、シャープな口どけ性を維持できるホイップクリームを与える油脂組成物として、所定の構成脂肪酸を有するように混合したランダムエステル交換油脂の混合物を用いた起泡性クリーム用油脂組成物を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、融点が33〜42℃であり、炭素数22の飽和脂肪酸を5〜15質量部含み、ヨウ素価2以下のエステル交換硬化油脂と、融点10〜15℃である油脂を組み合わせることにより、実質的にトランス酸を含有しない油脂組成物にも関わらず、水中油型乳化液の振動耐性や温度安定性等の乳化安定性、短時間でホイップが可能なホイップ性能、ホイップクリームの造花性及び口あたりや口融け等の食感に優れたホイップクリーム用油脂組成物が提供されることも報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−219391号
【特許文献2】特開2010−004810号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、流通時の温度が変化する条件においても、乳化安定性に優れており、かつ口融けがよいホイップクリームを製造することができる、ホイップクリーム用油脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、流通時の温度が変化する条件でも乳化安定性に優れており、更にホイップ操作がしやすく、かつ口融けがよいホイップクリームを製造するための油脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、流通時の温度が変化する条件でも乳化安定性と口融けにおいて優れており、更にトランス脂肪酸を低減させたホイップクリームを製造するための油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の点に鑑み研究した結果、ホイップクリーム用油脂組成物において、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を所定範囲で混合してエステル交換した油脂あるいは前記エステル交換油脂に更にヤシ油エステル交換油脂を混合した油脂を第1の油脂として使用し、さらにパーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂を第2の油脂を所定の質量比で含む油脂組成物を用いることにより、上記目的を達成することができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1>少なくとも2種類の油脂を含むホイップクリーム用油脂組成物であって、
(1)第1の油脂が、(A)第1の油脂が、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を4:6〜9:1の範囲で混合し、エステル交換したエステル交換油脂、及び(B)前記油脂(A)とヤシ油100%をエステル交換した油脂との混合油脂から選択される油脂であり、
(2)第2の油脂が、パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂であって、融点が30℃以上の油脂からなり、及び
(3)油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%であり、油脂組成物全質量に対して、第2の油脂が25質量%以上の量で含まれており、かつ融点が36℃以下である、上記油脂組成物。
<2>
第1の油脂と第2の油脂が10:90〜75:25の比である、上記<1>に記載の油脂組成物。
<3>
第1の油脂と第2の油脂の合計含有量が65質量%以上の量で含まれる、上記<1>または2>に記載の油脂組成物。
<4>
更に、極度硬化ヤシ油、パームオレイン硬化油、またはハイオレイック菜種油を含む、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の油脂組成物。
<5>
水相部と油相部からなり、前記油相部が上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の油脂組成物を含むことを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物。
<6>
水中油型乳化油脂組成物質量に対する油相部の質量が20%〜50%であることを特徴とする、請求項<5>記載の水中油型乳化油脂組成物。
<7>
油相部が更に乳脂肪を含むことを特徴とする、上記<5>または<6>に記載の水中油型乳化油脂組成物。
<8>
乳脂肪と上記<1>〜<4>のいずれか一に記載の油脂組成物の質量比が0:100〜80:20の範囲であることを特徴とする、上記<5>〜<7>のいずれか一に記載の水中油型乳化油脂組成物。
<9>
上記<5>〜<8>のいずれか一に記載の水中油型乳化油脂組成物の、ホイップクリーム製造における使用。
<10>
上記<5>〜<8>のいずれか一に記載の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造されたホイップクリーム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、流通時の温度が変化する条件に対して乳化安定性に優れ、かつ口融け、起泡性、ヒートショック耐性等に優れたホイップクリームを製造することができるホイップクリーム用水中油型乳化油脂組成物が提供される。
特に、本発明のホイップクリーム用水中油型乳化油脂組成物は高いヒートショック耐性を有し、ホイップ後の乳化安定性を示す一方で、優れた口融けを実現するため、従来品と比べて極めて優れた商品価値を与えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ホイップクリーム用油脂組成物>
本発明のホイップクリーム用油脂組成物は、少なくとも2種類の油脂を含むホイップクリーム用油脂組成物であって、
(1)(A)第1の油脂が、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を4:6〜9:1の範囲で混合し、エステル交換したエステル交換油脂、及び(B)前記油脂(A)とヤシ油100%をエステル交換した油脂との混合油脂から選択される油脂であり、
(2)第2の油脂が、パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂であって、融点が30℃以上の油脂からなり、及び
(3)油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%であり、油脂組成物全質量に対して、第2の油脂が25質量%以上の量で含まれており、かつ融点が36℃以下であることを特徴とする。
【0013】
なお、本明細書において、「ホイップクリーム」は起泡した水中油型乳化油脂組成物(起泡済クリーム状組成物)を意味する。「ホイップクリーム用水中油型乳化油脂組成物」は起泡前のクリーム状の水中油型乳化油脂組成物を意味する。「ホイップクリーム用油脂組成物」は、ホイップクリーム用水中油型乳化油脂組成物を製造するために用いられる油脂組成物」を意味する。
【0014】
本発明のホイップクリーム用油脂組成物から水中油型乳化油脂組成物を作成する際には、後述するように油相部に乳脂肪を添加することができるが、本明細書において「ホイップクリーム用油脂組成物」あるいは「油脂組成物」という場合には、特に断らない限り、植物性油脂(すなわち、乳脂肪を除く油脂)からなる油脂組成物を意味する。
【0015】
(1)第1の油脂
本発明の油脂組成物において、第1の油脂は、(A)ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を質量比で4:6〜9:1の範囲で混合し、エステル交換した油脂、及び(B)前記油脂(A)とヤシ油100%をエステル交換した油脂とを混合した混合油脂から選択される。
前記ヤシ油は、ヤシから得られる油脂であり、水素添加されていないいわゆる生のヤシ油(非水素添加油脂または非硬化油)を意味する。
極度硬化ハイエルシン菜種油とは、ハイエルシン菜種油を完全に水素添加した(極度硬化した)油脂である。「極度硬化」とは、水素添加によって不飽和脂肪酸を完全に飽和することである。水素添加の方法は当業者に公知の方法により適宜行うことができる。例えば「食用油製造の実際」(宮川高明著、幸書房、昭和63年7月5日 初版第1刷発行)に記載の方法に従い行うことができる。
【0016】
第1の油脂の油脂(A)において、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油の質量比は、4:6〜9:1の範囲であればよいが、油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%となるように油脂(A)におけるヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油の質量比並びに油脂(A)と油脂(B)との質量比を決めることが重要である。
ただし、C22の脂肪酸含有量が上記範囲内であっても、油脂(A)の種類、あるいは油脂(A)と油脂(B)の種類の組み合わせによってヒートショック耐性は高くなるが、戻り硬度が低下したり、口融けが低下してしまう場合がある。
例えば、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油の質量比が5:5のエステル交換油脂は、融点が非常に高いので、使用する量によって、口融けが低下しやすくなる。従って、特にヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油の5:5のエステル交換油脂を用いる場合には、かかる油脂の油脂組成物の全組成物に対する含有量を20質量%以下として、C22の脂肪酸含有量が4.5質量%以下となるように調整することが好ましい。
【0017】
油脂のエステル交換の方法は当該技術分野で公知の方法で行うことができる。エステル交換には、例えば、ランダム(非選択的)エステル交換反応方法、選択型(指向型)エステル交換反応方法がある(参考文献:安田耕作、福永良一郎、松井宣也、渡辺正男、新版油脂製品の知識、幸書房)、本発明では、ランダムエステル交換反応方法が好ましい。
ランダムエステル交換は、例えば、ナトリウムメチラート、水酸化ナトリウム等を触媒としてエステル交換を行う化学的な方法、非選択的リパーゼ等を触媒としてエステル交換を行う酵素的な方法に従って行うことができる。特に、化学的な方法でランダムエステル交換反応を行うことにより、簡便であるため、より好ましい。
【0018】
(2)第2の油脂
第2の油脂は、パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂であって、融点が30℃以上の油脂からなる。
かかる油脂と、上述した第1の油脂を混合することにより、第1の油脂により奏されるホイップ性とヒートショック耐性と口融けを良好に保ちつつ、冷蔵保存時の経時変化が小さい(戻り硬度)が良好なホイップクリーム用油脂組成物を得ることができる。
パーム核油の極度硬化油脂は、パーム核油を極度硬化処理した油脂であり、通常、融点は40℃前後、より好ましくは40℃である。パーム核油はエステル交換を行ったものであってもよい。
パーム核油の部分水素添加油脂は、パーム核を部分水素添加した油脂である。通常、ヨウ素価3〜12程度となるように水素添加した油脂であって、融点が30℃以上、より好ましくは33℃以上、更に35℃以上であればよい。
パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂は、更にエステル交換処理をされていてもよい。
【0019】
(3)第2の油脂の含有量
油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%であることを条件として、第2の油脂は、油脂組成物全質量に対して、22質量%以上の量で含まれている。C22の脂肪酸含有量と第2の油脂の量がかかる範囲にある場合には、ヒートショック耐性と乳化安定性(戻り硬度)のいずれも満足する性能を与えるからである。第2の油脂は、油脂組成物全質量に対して、25質量%以上であることが更に好ましい。
【0020】
(4)油脂組成物の融点
本明細書において、「融点」は「上昇融点」を意味する。本発明の油脂組成物の融点は36.0℃以下である。かかる範囲の融点を有する場合には口融けが優れているからである。好ましくは35.0℃以下であり、34.0℃以下であることが更に好ましく、更に33℃以下であることが好ましい。
【0021】
(5)油脂組成物中の構成脂肪酸組成
本発明の油脂組成物は、油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸を0.5〜4.5質量%含む。C22の量は、第1の油脂のハイエルシンナタネ油に由来するものがほとんどである。C22のより好ましい量は1.0〜4.0質量%であり、最も好ましくは2.0〜3.6質量%である。かかる範囲においてホイップ性とヒートショック耐性と口融けを良好に保つからである。
【0022】
本明細書において、油脂組成物の脂肪酸組成は、基準油脂分析法(暫17-2007 トランス脂肪酸含量 キャピラリーガスクロマトグラフ法)に準じて測定した値を意味する。上記基準油脂分析において、ガスクロマトグラフィー装置は、例えば、島津製作所(株)製、GC-2010型、カラムは、SUPELCO社製、SP-2560、を用いることができる。
【0023】
(6)第1の油脂と第2の油脂の質量比
上記(1)〜(5)の要件を満たす範囲において、第1の油脂と第2の油脂の質量比は10:90〜78:22の比であることが好ましい。また、20:80〜75:25であることが更に好ましく、30:70〜70:30であることがより好ましい。かかる範囲において、高いヒートショック耐性を有し、ホイップ後の高い保形性を示す一方で、優れた口融けのホイップクリームを得ることができるからである。
【0024】
(7)第1の油脂と第2の油脂の合計含量
第1の油脂と第2の油脂は合計で65質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。これより少ないと本発明の効果を十分に奏することができない。
【0025】
(8)第3の油脂
更に、本発明の油脂組成物には、更に、風味付け、口融け、乳化安定性などを改良する観点から、極度硬化ヤシ油、パームオレイン硬化油、及びハイオレイック菜種油からなる群より選択される第3の油脂を含んでいてもよい。
硬化ヤシ油は口融けを良好にするため好ましい。パームオレイン硬化油は乳化安定性を良くなるため好ましい。ハイオレイック菜種は乳化安定性と口融けを良くするために使用する事ができるため、好ましい。
第3の油脂は、油脂組成物質量に対して、35質量%以下の範囲で含むことが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0026】
(9)トランス脂肪酸含有量
本発明の目的の1つは、トランス脂肪酸含有量を低減させた油脂組成物を提供することである。本発明において、油脂組成物全質量に対するトランス脂肪酸含有量は、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0027】
<水中油型乳化油脂組成物>
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、水相部と油相部からなり、上述した本発明のホイップクリーム用油脂組成物を油相部に含む。水相部と油相部の質量比はホイップクリームを製造するために適宜設定することができるが、通常、80:20〜50:50程度である。
前記油相部は、油脂として本発明のホイップクリーム用油脂組成物のみを含んでいてもよく、また乳脂肪を更に含んでいてもよい。乳脂肪としてバターオイル、バター、生クリーム、牛乳等を由来とする乳脂肪が挙げられる。以下、上述した本発明のホイップクリーム用油脂組成物を特に乳脂肪と区別して述べる場合には、「植物性油脂組成物」とも呼ぶ。
乳脂肪と植物性油脂組成物の混合比は、質量比で乳脂肪:植物性油脂組成物が0:100〜80:20の範囲内で変えることができる。前記範囲内であれば、植物性油脂組成物の乳化安定性、口融け、造花性、起泡性等の効果を損なうことなく、ホイップクリームを製造することができる。
【0028】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、一般的な製造方法により製造できるが、代表的な方法を述べると、先ず使用する乳化剤が親油性のものは原料油脂(本発明のホイップクリーム用油脂組成物)の一部または全部に添加し溶解ないし分散させて油相部を調製する。このような乳化剤としては、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等従来公知の乳化剤のうちHLBの低い乳化剤が例示でき、本発明においてはこれらのいずれを適宜組み合わせて使用してもよい。
また、バターオイル、バター、生クリーム、牛乳等を由来とする乳脂肪を用いる場合には、これらを必要に応じて加熱融解して油相物を調製して用いる。乳脂肪を含む油相部と、上述した植物性油脂からなる本発明のホイップクリーム用油脂組成物を含む油相部は、水相部に混合した後添加してもよく、また各々添加してもよい。
【0029】
次に、水相部にカゼインナトリウム、脱脂粉乳、糖類や必要に応じて、蔗糖脂肪酸エステル、クエン酸ナトリウム、トリポリりん酸ナトリウム、第二りん酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、増粘多糖類、香料などを添加し調製する。
無脂乳固形分の量は、組成物の全質量に対して、1〜10質量%であることが好ましく、更に2〜7質量%であることが好ましく、3〜6質量%であることが最も好ましい。このような範囲で添加することにより、乳化安定性が改善され、また風味が改善される場合があるからである。無脂乳固形分の含有量が約1質量%未満であると、乳化組成物を泡立てて得られるホイップクリームの風味が悪くなる。また、無脂乳固形分の含有量が約10質量%を越えると乳化組成物の粘度が高くなり、エージング中に粘度上昇が起こる恐れがある。
【0030】
これら、油相部と水相部を60℃から80℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化後、ホモゲナイザーにて均質化し、バッチ式殺菌法、または間接加熱方式あるいは直接加熱方式によるUHT滅菌処理法にて滅菌し、再びホモゲナイザーにて均質化し冷却しエージングする。
本発明の水中油型乳化油脂組成物には、甘味や粘度の調節を目的として糖類を配合してもよい。糖類としては、例えば、水飴、粉飴、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース等が挙げられ、これは必要に応じ適宜組み合わせて配合される。
【0031】
<ホイップクリーム>
本発明において、ホイップクリームは、本発明の水中油型乳化油脂組成物を、当該技術分野において通常の方法により起泡されたものである。
以下、本発明の水中油型乳化油脂組成物を使用したホイップクリームの製造例を示すが、本発明はかかる例に限定されるものではない。
【0032】
まず、本発明の油脂組成物を融解混合等により調製する。油脂組成物に、レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤等の任意の添加剤を加え、混合して油相を調製する。
一方、水相部として、水に、メタリン酸Na、増粘多糖類、乳蛋白等の任意の添加剤を加えた後、これらを分散させて水相を調製する。
50〜85℃にて油相と水相を混合させ、予備乳化を行う。次いで75〜85℃にて加熱殺菌をする。次いで20〜150kg/cm2の圧力下で均質化を行い、その後5〜10℃にまで冷却し、6〜24時間程度エージングを行なう。
このクリーム状油脂組成物をホバートミキサーにてホイップしてホイップクリームを得る。
【実施例】
【0033】
油脂調製方法
以下の実施例で使用した油脂の内容を示す。
[第1の油脂の製造例]
極度硬化したハイエルシンナタネ50質量部、ヤシ油50質量部の混合油を油脂に対して0.143%のナトリウムメチラートを触媒とし、115℃で30分間、非選択的エステル交換反応を行い、脱色、脱臭を行い、エステル交換油脂A−1を得た。エステル交換油脂A−1の融点は46.5℃、トランス酸含有量は0.1%であった。
極度硬化したハイエルシンナタネとヤシ油の割合をそれぞれ3:7及び1:9にかえて同様にエステル交換反応、脱色、脱臭を行い、エステル交換油脂A−2,A−3をそれぞれ得た。エステル交換油脂A−2及びA−3の融点はそれぞれ40.3℃、30.2℃である、トランス酸含有量はそれぞれ0.1%、0.1%であった。
また、ヤシ油のみを同様にエステル交換反応し、脱色、脱臭を行い、エステル交換油脂A−4を作成した。エステル交換油脂A−4の融点は27.6℃であり、トランス酸含量は0.1%であった。
【0034】
[第2の油脂の製造例]
パーム核油100部に対して、0.115%のNi触媒(堺化学製 SO850)を触媒とし、水素添加反応を140℃で行い、脱色、脱臭を行って、パーム核硬化油36℃(油脂B−3)を得た。パーム核硬化油36℃の融点は35.6℃、トランス酸量は4.0%であった。
【0035】
油脂B−2(パーム核極度硬化油)は次のように製造した。パーム核油100部に対して、0.115%のNi触媒(堺化学製 SO850)を触媒とし、極度硬化処理を行い、脱色、脱臭を行って、パーム核極度硬化油(油脂B−2)を得た。油脂B−2の融点は41.0℃、トランス酸量は0.3%であった。
油脂B−1(パーム核極度硬化油エステル交換油脂)は次のように製造した。上記油脂B−2を0.114%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を行い、脱色、脱臭を行って、油脂B−1を得た。油脂B−1の融点は35.2℃、トランス酸量は0.2%であった。
【0036】
[第3の油脂の物性及び製造例]
極度硬化ヤシ油は次のようにして製造した。
ヤシ油100部に対して、0.135%のNi触媒(堺化学製 SO850)を触媒とし、極度硬化処理を行い、脱色、脱臭を行って、極度硬化ヤシ油を得た。極度硬化ヤシ油の融点は32.0℃、トランス酸量は0.1%であった。
パームオレイン硬化油は次のようにして製造した。パームオレイン100部に対して、0.115%のNi触媒(堺化学製 SO100-A)を触媒とし、硬化処理を行い、脱色、脱臭を行って、パームオレイン硬化油を得た。パームオレイン硬化油の融点は33.1℃、トランス酸量は11.1%であった。
ハイオレイック菜種油は市販品を使用した(トランス酸量:0.7、ヨウ素価:101)。
菜種硬化油は次のようにして製造した。菜種油100部に対して、0.183%のNi触媒(堺化学製 SO100-A)を触媒とし、硬化処理を行い、脱色、脱臭を行って菜種硬化油を得た。菜種硬化油の融点は34.2℃、トランス酸は54.0%であった。
【0037】
実施例1〜13及び比較例1〜6
油脂A−3を4.444質量部、油脂B−3を39.996質量部を加え、融解混合した。これにレシチン0.22質量部、シュガーエステル0.15質量部、不飽和モノグリ0.11質量部、飽和モノグリ0.08質量部を加え油相を調製した。
一方、水50.93質量部と脱脂粉乳4.0質量部、メタリン酸Na0.07質量部を加えた後、分散させて水相を調製した。
油相と水相を混合し、65℃で予備乳化を行い、85℃にて加熱殺菌を行った。次いで、80kg/cm2、20kg/cm2の圧力下で均質化した。冷却後、5℃、1晩のエージングをした(実施例1)。
このクリーム状油脂組成物のエージング粘度は100cpであった。このクリームを500gに砂糖50gを添加し、ホバートミキサーにてホイップしたところ6分40秒でオーバーラン189%、硬度146の気泡物を得た。得られた気泡物は冷蔵保存性、ヒートショック耐性が良好であった。
【0038】
下記表に記載された油脂を、実施例1と同様に作製した(実施例2〜13及び比較例1〜6)。
作製した油脂について、それぞれ、エージング粘度、ホイップ時間、戻り硬度、ヒートショック耐性、口融けについて、以下の方法により評価した。
【0039】
エージング粘度
水中油型乳化油脂組成物を、5.1℃で一晩静置してエージングを行い、500mlのビーカーに水中油型乳化油脂組成物を500g入れ、B型粘度計(BROOK FIELD社製粘度計のLVT)(スピンドル2番)で30秒経過時の値を測定した。
エージング粘度が120cp以下である場合に満足する性能を有すると評価した。
【0040】
ホイップ時間
水中油型乳化油脂組成物(クリーム)500gに砂糖を50g加え、5.0℃に温調し、10分立て(硬度140〜160)となるまでホバートミキサーにて速度2にてホイップした。ホイップにかかる時間(10分立てまでの時間)を記載した。
ホイップ時間が5.0分以上である場合に満足する性能を有すると評価した。
【0041】
翌日戻り試験
ホイップクリーム(10分立て)を三角袋に詰めて500mlビーカーに絞り、5.0℃にて1晩置き、翌日の硬度を測定した。
戻り硬度が90以上である場合に満足する性能を有すると評価した。
【0042】
ヒートショック試験
牛乳瓶にホイップ前の水中油型乳化油脂組成物を約150g入れ、25℃の恒温槽に1時間入れ、その後、5℃の恒温槽に6時間保存した。保存後、粘度を評価した。これらの評価は、乳化安定性の指標となる。
B型粘度計…No.3ローター(スピンドル3番)でスピード30にて5分後の粘度を測定した。また。固化または粘度測定不能時には、その時間を測定した。
ヒートショック試験後の粘度が400以下である場合に満足する性能を有すると評価した。
【0043】
口融け評価
専門パネラー5名により、ホイップクリーム(10分立て)を実際に食して口融けを下記の基準により評価した。
◎…非常に良好
○…普通
×…悪い
【0044】
油脂組成物の分析方法は以下の方法により行った。
・脂肪酸組成、トランス脂肪酸含量
基準油脂分析法(暫17-2007 トランス脂肪酸含量 キャピラリーガスクロマトグラフ法)に準じて測定した。
ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC-2010型。カラムは、SUPELCO社製、SP-2560。
・上昇融点
基準油脂分析法(2.2.4.2-1996 融点 上昇融点)に準じて測定した。
【0045】
上記評価結果を表1〜3に示した。各表において「%」は質量%を意味する。
表1〜3の結果から、本発明のホイップクリーム用油脂組成物から製造される水中油型乳化油脂組成物が、乳化安定性(エージング粘度、戻り硬度、ヒートショック耐性)、ホイップクリーム製造時の口融けにおいてバランスのとれた優れた組成物であることがわかる(実施例1〜13)。
一方、第1の油脂である油脂を用いず、C22の脂肪酸を全く含まない油脂組成物を用いたホイップクリーム用油脂組成物は、ヒートショック耐性を示さず、粘度が非常に上昇してしまった(比較例1、比較例4)。
また、油脂組成物全質量に対して、第2の油脂を22質量%以下である場合には、戻り硬度が低減してしまい、ホイップクリームとして充分な性能を示さなかった(比較例2及び3)。
第1の油脂としてヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油の質量比が、5:5のエステル交換油脂を20質量%用いた場合、油脂組成物全体の融点が36℃となり、口融けが低下した(比較例5)。
また、本発明の第1の油脂も第2の油脂も用いない場合であっても、乳化安定性と口融けのバランスの良い油脂組成物を作成することは可能であるが(例えば比較例6)、トランス酸量を5%以下程度に低く抑えることは難しい。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の油脂を含むホイップクリーム用油脂組成物であって、
(1)(A)第1の油脂が、ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油を4:6〜9:1の範囲で混合し、エステル交換したエステル交換油脂、及び(B)前記油脂(A)とヤシ油100%をエステル交換した油脂との混合油脂から選択される油脂であり、
(2)第2の油脂が、パーム核油の極度硬化油脂あるいは部分水素添加油脂であって、融点が30℃以上の油脂からなり、及び
(3)油脂組成物の全構成脂肪酸100質量%に対してC22の脂肪酸含有量が0.5〜4.5質量%であり、油脂組成物全質量に対して、第2の油脂が22質量%以上の量で含まれており、かつ融点が36℃以下である、上記油脂組成物。
【請求項2】
第1の油脂と第2の油脂の質量比が10:90〜78:22の比である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
第1の油脂と第2の油脂の合計含有量が65質量%以上の量で含まれる、請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
更に、極度硬化ヤシ油、パームオレイン硬化油、またはハイオレイック菜種油を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
水相部と油相部からなり、前記油相部が請求項1〜4のいずれか一項に記載の油脂組成物を含むことを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項6】
水中油型乳化油脂組成物質量に対する油相部の質量が20%〜50%であることを特徴とする、請求項5記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項7】
油相部が更に乳脂肪を含むことを特徴とする、請求項5または6に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項8】
乳脂肪と請求項1〜4のいずれか一項に記載の油脂組成物の質量比が0:100〜80:20の範囲であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物の、ホイップクリーム製造における使用。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造されたホイップクリーム。