説明

ホタルルシフェラーゼ、その遺伝子、およびホタルルシフェラーゼの製造法

【課題】熱安定性および/または保存安定性の優れたホタルルシフェラーゼおよびその製造法を提供する。
【解決手段】ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列において、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに置換されているか、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有することを特徴とするホタルルシフェラーゼおよびホタルルシフェラーゼ遺伝子。
【効果】当該遺伝子を利用することにより、安定性が向上したホタルルシフェラーゼを効率よく製造することが可能である。また、326位のアミノ酸がセリンに置換された変異、および/または467位のアミノ酸がイソロイシンに置換された変異と組み合わせることにより、さらに安定性が向上したホタルルシフェラーゼを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型ホタルルシフェラーゼ、変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子、新規な組換え体DNAおよび変異型ホタルルシフェラーゼの製造法に関し、具体的には、安定性が向上したホタルルシフェラーゼ、その遺伝子、および安定性ホタルルシフェラーゼの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェラーゼは、マグネシウムイオンおよび酸素の存在下で、アデノシン三リン酸(ATP)、D−ルシフェリンおよび酸素を、アデノシン一リン酸(AMP)、オキシルシフェリンおよび二酸化炭素に変換し、光を生成する酵素である。ホタルルシフェラーゼの発光原理を応用すれば、微量の酵素反応基質を極めて感度良く測定することができる。そのため、ホタルルシフェラーゼは、例えば、ATPを指標とした飲食料品中の微生物検出や、手指や器具類に付着した食物残渣や汚れの判定、あるいは、各種抗体技術や遺伝子増幅技術を利用した高感度測定法等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、一般的に、ホタルルシフェラーゼ等の甲虫類ルシフェラーゼは、熱に対して不安定なため、試薬として保存する際に失活しやすいという欠点を有する。また一般的に、甲虫類ルシフェラーゼは、反応直後に発光量がピークに達した後、急激に発光量が減衰するため、長時間反応による高感度測定が困難であるという課題を有している。そのため、かかる欠点を克服し、良好な発光持続性あるいは安定性(熱安定性および保存安定性)を有し、より望ましくは両者を兼ね備えたルシフェラーゼを得るための試みが継続されている。
その試みのひとつは、測定試薬中に塩等を添加して、ある程度の発光持続性と保存安定性を確保するという配合組成の工夫である。しかし、この方法は、それぞれに試薬組成上の制約を伴う各種の用途・試薬に対し広範に適用できるというものではなく、また、多くの場合、塩類の添加は、ルシフェラーゼ反応に何らかの反応障害を惹起しがちであるという欠点を有する。
【0004】
試薬組成の工夫の他に試みられている、より好ましいアプローチのひとつは、好ましい性質を有する変異ルシフェラーゼの探索である。そして、その試みの中で、342位のアミノ酸がアラニンに変異された北米産ホタルルシフェラーゼが取得され、このホタルルシフェラーゼの発光持続性が向上していることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、出願人は、当該342位のアミノ酸の変異体に相当するヘイケボタルルシフェラーゼの変異体、すなわち344位のアミノ酸(ロイシン)がアラニンに変異されたヘイケボタルルシフェラーゼ(以下344Aルシフェラーゼという)を取得し、この変異ホタルルシフェラーゼにおいても同様に発光持続性が向上していることを確認している。しかし、その一方で、この変異ホタルルシフェラーゼの安定性は、変異を導入する前と比較して非常に低くなっている。従って、344Aルシフェラーゼは、発光持続性という産業上有用な性質が付与されたにもかかわらず、安定性が極めて低いことによって、このままでは、高感度アッセイ等へと好適に応用することが困難である。
【0005】
このように、好ましい性質を有する変異ルシフェラーゼの探索においては、ある1つの性質を向上させる変異を見出しても、その変異が別の性質を逆に悪化させてしまうことが多くみられる。すなわち、個々には有用と思われる変異を複数導入しても、単純にそれらの好ましい性質が相加的あるいは相乗的に付与されるとはいいがたく、このような背景が、例えば、発光持続性と安定性等、実用上で好ましい複数の性質を兼ね備えた変異ルシフェラーゼの取得を一層困難にしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biochemistry 2003年、42巻、p10429−10436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子配列中の特定の塩基に変異を導入することにより、安定性に優れたホタルルシフェラーゼを提供することを課題とする。さらに、発光持続性等に寄与する別の変異と組み合わせた場合にも、安定性および発光持続性という両方の好ましい性質が損なわれずに発揮されるホタルルシフェラーゼを提供することを課題とする。また、ある特定の好ましい効果を得る変異ではあるが、その弊害としてホタルルシフェラーゼの安定性を低下させてしまう変異に対し、さらなる変異を加えることにより、安定性の低下が十分に回復されたホタルルシフェラーゼを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ヘイケボタルまたはゲンジボタルルシフェラーゼの287位のアミノ酸をアラニンに置換する変異(以下、287A変異という)、および、392位のアミノ酸をイソロイシンに置換する変異(以下、392I変異という)が、ホタルシフェラーゼの安定性をそれぞれ顕著に向上させることを見出した。そして、この287A変異および/または392I変異を344Aルシフェラーゼにいずれか一方、あるいは2つの変異を組み合わせて導入した場合には、344Aルシフェラーゼの問題であった安定性の低さが顕著に改善すること、また、これらの変異をその他の変異とさらに組み合わせて導入した場合にも、安定性向上効果が良好に発揮されることを見出した。さらに、344Aルシフェラーゼの安定性の低さを向上させる別の変異としては、326位のアミノ酸をセリンに置換する変異(以下326S変異という)、および、467位のアミノ酸をイソロイシンに置換する変異(以下467I変異という)を組み合わせて導入することも効果的であることを知り、発明を完成した。すなわち本発明は、以下に関する。
(1)ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼ。
(2)ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼ。
(3)ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異されているか、467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている変異から選択される1以上の変異を有する、上記(1)または(2)記載のホタルルシフェラーゼ。
(4)ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異され、かつ467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている、上記(1)または(2)記載のホタルルシフェラーゼ。
(5)ヘイケボタルまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおいて、ルシフェラーゼの344位のアミノ酸がアラニンに変異され、326位のアミノ酸がセリンに変異され、467位のアミノ酸がイソロイシンに変異されている変異を有するホタルルシフェラーゼ。
(6)上記(1)〜(5)記載のホタルルシフェラーゼをコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子。
(7)上記(6)記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組換え体DNA。
(8)上記(6)記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子または上記(7)記載の組換え体DNAを含み、ホタルルシフェラーゼ生産能を有する微生物を培養し、該培養物よりホタルルシフェラーゼを採取することを特徴とする、安定性が向上したホタルルシフェラーゼの製造法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各種ホタルルシフェラーゼにおける、47℃にて90分間熱処理後の活性残存率を示すグラフである。
【図2】各種ホタルルシフェラーゼにおける、4、45、50および55℃にて各10分間熱処理後の活性残存率を示すグラフである。
【図3】各種ホタルルシフェラーゼにおける、37℃にて11日間保存後の活性残存率を示すグラフである。
【図4】各種ホタルルシフェラーゼにおける、37℃にて14日間保存後の活性残存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
(ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNA)
本発明のホタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNAとしては、任意のホタル由来のものを用いることができる。例えば、ヘイケボタル、ゲンジボタル、北米産ホタル等由来のホタルルシフェラーゼを用いることができる。あるいは、各種のホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子をもとに作製されたキメラ遺伝子を用いてもよい。
【0011】
さらに、本発明のホタルルシフェラーゼ遺伝子には、本発明の変異以外の変異を含んでもよい。前記変異は、何らかの特定の効果を意図して人為的に導入されたものでもよく、ランダムに、あるいは非人為的に導入されたものでもよい。特定の効果を意図して導入された変異としては、例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現量を増強するための配列の付加や改変、ホタルルシフェラーゼタンパクの精製効率を向上させるための改変等の他、ホタルルシフェラーゼに実用上好ましい特性を付与する各種の変異も含まれ得る。そのような公知の変異の例としては、特開2000−197484号公報に記載されるような発光持続性を高める変異、特許第2666561号公報または特表2003−512071号公報に記載されるような発光波長を変化させる変異、特開平11−239493号公報に記載されるような界面活性剤耐性を高める変異、国際公開第99/02697号パンフレット、特表平10−512750号公報または特表2001−518799号公報に記載されるような基質親和性を高める変異、もしくは、特許第3048466号公報、特開2000−197487号公報、特表平9−510610号公報および特表2003−518912号公報に記載されるような、安定性を高める変異等が挙げられる。
【0012】
これらの遺伝子およびその組換え体DNAは、公知の方法に従って調製することができる。例えば、ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNAは、特公平7−112434号公報に記載の方法により調製することが可能であり、ゲンジボタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNAは、特開平1−51086号公報に記載の方法により調製することが可能であり、また更に、北米産ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNAは、プロメガ社より購入することが可能である。
【0013】
(本発明における遺伝子変異および相当するアミノ酸配列変異)
本発明のホタルルシフェラーゼ遺伝子は、上述の任意のホタルルシフェラーゼ遺伝子に特定の変異を導入することを特徴とする。本発明の変異遺伝子のひとつは、具体的には、ヘイケボタルまたはゲンジボタルの場合、ルシフェラーゼの287位のアミノ酸(野生型の場合は、バリンである)がアラニンに変異された287A変異アミノ酸配列をコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子である。また、本発明の変異遺伝子のひとつは、具体的には、ヘイケボタルまたはゲンジボタルの場合、ルシフェラーゼの392位のアミノ酸(野生型の場合は、バリンである)がイソロイシンに変異された392I変異アミノ酸配列をコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子である。また、本発明の変異遺伝子のひとつは、前記の287A変異および/または392I変異に加えて、ルシフェラーゼの344位のアミノ酸(野生型の場合は、ロイシンである)がアラニンに変異された344A変異、326位のアミノ酸(野生型の場合は、グリシンである)がセリンに変異された326S変異、もしくは、467位のアミノ酸(野生型の場合は、フェニルアラニンである)がイソロイシンに変異された467I変異変異から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列をコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子である。あるいは、前記344A変異、326S変異および467I変異の組み合わせを有する変異ルシフェラーゼのアミノ酸配列をコードする、ホタルルシフェラーゼ遺伝子である。
【0014】
ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列中に287A変異および/または392I変異を有することにより、ホタルルシフェラーゼの安定性が顕著に向上する。また、326S変異、467I変異もそれぞれ、ホタルルシフェラーゼの安定性を向上させる。本発明のホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列は、ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列において、少なくとも上記のうち1箇所の上記の置換を有するものが好ましく、より好ましくは、2箇所以上、さらに好ましくは3箇所以上の置換を有するものが好ましい。これら複数の変異を導入することにより、ホタルルシフェラーゼの安定性を段階的に高めることができる。具体的には、287A変異および/または392I変異に加えて、326S変異、467I変異から選択される1以上の変異を組み合わせることにより、ホタルルシフェラーゼの安定性の向上度合がより高まる。そして、これらの変異は、導入することによってホタルルシフェラーゼの安定性を低下させる別の変異、例えば、344A変異等と組み合わせた場合、低下した安定性を効果的に回復することができる。特に、344A変異を有するホタルルシフェラーゼに、326S変異および467I変異を組み合わせて導入することは、ホタルルシフェラーゼの低下した安定性を回復させる。すなわち、本発明の変異は、変異導入前と比較してホタルルシフェラーゼの安定性を向上させ、また、ホタルルシフェラーゼの安定性を顕著に低下させる別の変異と組み合わせた場合にも、すぐれた安定性回復効果を奏する。
【0015】
なお、本発明における安定性とは、熱安定性および/または保存安定性をいう。熱安定性は、例えば、ホタルルシフェラーゼを所定の温度で所定の時間の熱処理に曝した時の残存活性を指標に評価することができる。
具体的には、本発明におけるホタルルシフェラーゼの熱安定性は、ホタルルシフェラーゼを高温条件下、例えば、通常40〜60℃、好ましくは45〜55℃の反応温度下で、一定時間、通常10〜180分、例えば、60〜180分熱処理後の活性残存率を比較することにより評価することができる。本発明におけるホタルルシフェラーゼの活性残存率は、上述の高温条件で作用させる前のホタルルシフェラーゼ活性に対する熱処理後の活性の比で算出する。本発明における熱安定性向上とは、ホタルルシフェラーゼを上記条件で作用させた際の活性残存率が、本発明の変異を導入しないものに対して1.2倍以上の向上を示す場合を言う。
本発明におけるホタルルシフェラーゼの保存安定性は、ホタルルシフェラーゼを所定の温度で所定の期間保管した時の残存活性を指標に評価することができる。また、本発明における保存安定性向上とは、ホタルルシフェラーゼを上記条件で作用させた際の活性残存率が、本発明の変異を導入しないものと同等以上である場合を言う。
本発明における、このような熱安定性および/または保存安定性の向上度合は、ホタルルシフェラーゼの安定性を向上させるために変異を導入する試みにおいて顕著なものであり、容易に達成することが困難であって、ホタルルシフェラーゼの実用上、有用な改善である。
【0016】
(ホタルルシフェラーゼの遺伝子配列およびアミノ酸配列における番号)
本発明における、ホタルルシフェラーゼの遺伝子配列およびアミノ酸配列における変異の位置を示す番号は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおける番号を基準とする。すなわち、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ以外のルシフェラーゼに本発明を適用する場合には、その遺伝子配列およびアミノ酸配列における変異位置は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおいて相当する位置に置き換えた場合に各種ホタルルシフェラーゼで該当する位置である。具体的な例として、ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼの287位、326位、392位および467位に相当する位置のアミノ酸の位置は、北米産ホタルルシフェラーゼにおいては、285位、324位、390位および465位である。
これらの対応関係は、例えば、既成のアミノ酸の相同性解析用ソフト、例えば、GENETYX−Mac(Software Development社製)等を用いて、各種ルシフェラーゼのアミノ酸配列とヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列とを比較することにより、容易に知ることができる。実際に、ヘイケボタルルシフェラーゼ、ゲンジボタルルシフェラーゼ、北米産ホタルルシフェラーゼにはアミノ酸配列上の共通性や、それに基づく構造上の共通点が見出されており、相当するそれぞれの位置に同様の変異を導入することが、ホタルルシフェラーゼの性質に対し同様の効果を奏する例も知られている。したがって、ヘイケボタルルシフェラーゼにおいて示された本発明の変異の知見を利用して、ゲンジボタルルシフェラーゼ、あるいは北米産ホタルルシフェラーゼにおいて同様の効果を得るための方策として、相当する位置に同様の変異を導入する試みを容易に行うことができる。
【0017】
(変異の導入)
上記の変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子は、公知の任意の方法でホタルルシフェラーゼ遺伝子を改変することにより、適宜得ることができる。遺伝子改変方法としては、部位特異的に変異を導入する方法、ランダムに変異を導入する方法、変異原となる薬剤を作用させる方法、紫外線照射法、蛋白質工学的手法等を広く用いることができる。
【0018】
上記変異処理に用いられる変異原となる薬剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロソグアニジン(NTG)、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン、蟻酸、5−ブロモウラシル等を挙げることができる。薬剤処理は、用いる薬剤の種類等に応じ好適な条件を採用することが可能であり、所望の変異をホタルルシフェラーゼ遺伝子に惹起することができる限り、特に限定されない。例えば、0.5〜12Mの上記薬剤濃度で、20〜80℃、10分以上、具体的には10〜180分間処理することにより、所望の変異を惹起可能である。
【0019】
紫外線照射は、例えば、現代化学、pp24〜30、1989年6月号に記載される方法等、公知の方法を用いて行うことができる。
【0020】
蛋白質工学的手法を駆使する方法としては、一般的に、サイト−スペシフィックミュータジェネシス(Site−specific Mutagenesis)として知られる手法を用いることができる。例えば、Kramer法(Kramer,W.et al.,Nucleic Acids Res,vol.12,pp9441−9456(1984):Kramer,W.et al.,Methods Enzymol,vol.154,pp350−367(1987):Bauer,C.E.et al.,Gene,vol.37,pp73−81(1985)),Eckstein法(Taylor,J.W.et al.,Nucleic Acids Res,vol.13,pp8749−8764(1985):Taylor,J.W.et al.,Nucleic Acids Res,vol.13.pp8765−8785(1985):Nakamaye,K.L.et al.,Nucleic Acids Res,vol.14,pp9679−9698(1986)),Kunkel法(Kunkel,T.A.,Proc.Natl.Acids Sci.U.S.A.,vol.82,pp488−492(1985):Kunkel,T.A.et al.,Methods Enzymol,vol.154,pp367−382(1987)等が挙げられる。
【0021】
また、一般的にポリメラーゼ チェイン リアクション(Polymerase Chain Reaction)として知られる手法を用いることもできる〔Technique,1,11(1989)〕。
【0022】
上記遺伝子改変法の他に、有機合成法または酵素合成法により、直接所望の改変ホタルルシフェラーゼ遺伝子を合成し得ることも、もちろん可能である。上記方法により得られる所望のホタルルシフェラーゼ遺伝子における塩基配列の決定・確認は、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法〔Maxam−Gilbert,Meth.Enzym.,vol.65,pp499−560(1980)〕やM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法〔Messing et al.,Gene,vol.19,pp269−276(1982)〕等により行い得る。
【0023】
(ベクターの作製および形質転換体の作製)
上記のように得られた変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、宿主に対して常法によりそのベクターを用いて、形質転換または形質導入を行わせることができる。
宿主には任意のものを用いることができるが、例えば微生物が好ましい。具体的には、エッシェリヒア属等に属する微生物を利用可能である。エッシェリヒア属に属する微生物の例としては、大腸菌K−12、JM109、DH5α、HB101、BL21等が挙げられる。
【0024】
そして、得られた形質転換体もしくは形質導入された宿主から、所望の変異を有するホタルルシフェラーゼの生産能を有する菌株をスクリーニングすることにより、変異型ホタルルシフェラーゼ生産能を有する菌株を得ることができる。このようにして得られた菌株から純化された新規な組換え体DNAを得るには、例えば、Guerryの方法〔J.Bacteriology,116,1604(1973)〕、Clewellの方法〔J.Bacteriology,110,667(1972)〕等を用いることができる。
【0025】
得られた組換え体DNAから、変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するDNAを得るには、公知の方法、例えば、該プラスミドDNAに対し、各種の制限酵素を、反応温度30〜40℃で1〜24時間作用させて、反応終了液をアガロースゲル電気泳動法に供する等の方法を用いればよい(Molecular Cloning,150,Cold Spring Harbor Laboratory(1982)参照)。
【0026】
(変異ホタルルシフェラーゼの製造)
上記のようにして得られた、本発明の変異ホタルルシフェラーゼの生産能を有する菌株を用いて変異型ホタルルシフェラーゼを生産するために、変異ホタルルシフェラーゼの生産能を有する菌株を各種公知の方法で培養する。培養は、固体培養法でもよいが、好ましくは液体培養法を採用して培養する。
【0027】
上記菌株を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、あるいは大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄あるいは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
培地の初発pHは、pH7〜9に調整するのが適当である。また培養は30〜40℃、好ましくは37℃前後で4〜24時間、好ましくは6〜8時間で、通気攪拌培養、振盪培養、静置培養等により実施するのが好ましい。培養終了後、培養物より、安定性が向上したホタルルシフェラーゼを採取するには、通常の公知の酵素採取手段を用いればよい。
【0028】
具体的には、常法により菌体を超音波破砕処理、磨砕処理等に供するか、またはリゾチーム等の溶菌酵素を用いて、安定性が向上したホタルルシフェラーゼを抽出する、またはトルエン等の有機溶媒存在下で振盪もしくは放置して自己消化を行わせ、ホタルルシフェラーゼを菌体外へ排出させることができる。得られた抽出液もしくは自己消化物を濾過、遠心分離等に供して固形成分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫酸塩、プロタミン硫酸塩、硫酸マンガン等により核酸を除去したのち、これに硫酸アンモニウム、アルコール、アセトン等を添加して分画し、粗酵素を得る。
【0029】
上記粗酵素を、例えば、セファデックス、ウルトロゲルもしくはバイオゲル等を用いるゲル濾過法;イオン交換体を用いる吸着溶出法;ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法;ヒドロキシアパタイトを用いる吸着溶出法;蔗糖密度勾配遠心法等の沈降法;アフィニティークロマト法;分子ふるい膜若しくは中空糸膜等を用いる分画法等の公知技術を適宜選択し、任意に組み合わせて実施することにより、さらに精製度を高めた酵素標品とすることができる。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
(プラスミドpET16b−BLU−Yの作製)
ビオチン化ルシフェラーゼ構造遺伝子を増幅するための全長用プライマー(配列番号1
)を合成した。特許第3466765号記載のプラスミドpHLf248(本プラスミドを包含する大腸菌JM101[pHLf248]は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5081として寄託されている。)を鋳型とし、上記全長用プライマーおよび市販のM13−M4プライマー(タカラバイオ社製)を用いたPCRにより、DNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、NdeIとHindIIIを用いて消化した後、アガロースゲル電気泳動に供し、1.9kbのバンドからDNA断片を精製した。
【0032】
次いで、上記DNA断片を、NdeI、HindIII消化したプラスミドベクターpET16b(ノバジェン社製)へと定法により挿入して、プラスミドpET16b−BLU−Yを作製した。
さらに、作製したプラスミドpET16b−BLU−Yを、大腸菌JM109株に導入し、形質転換した。得られた形質転換体よりプラスミドを精製後に、DNA配列を確認した。このDNA配列中含まれるホタルルシフェラーゼ遺伝子から演繹されるホタルルシフェラーゼ(BLU−Y)のアミノ酸配列は、特許第3466765号記載のものと同一であった。
【実施例2】
【0033】
(変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドの作製)
ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列において344番目のアミノ酸残基であるロイシンがアラニンに変異した(344A変異)ルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミド(pHLf344A)を、以下のように作製した。
【0034】
まず、344番目のアミノ酸残基であるロイシンをアラニンに変換するように設計したPCRプライマー(pHLf344A F−344A(配列番号2)、pHLf344A R−344A(配列番号3))を合成した。これらのプライマーを用いて、pET16b−BLU−Yを鋳型とするPCR増幅を行った(反応手順、条件は定法による)。増幅後のPCR反応液をDpnIで消化し、キナーゼ処理によりPCR産物の末端をリン酸化した。次いで、Ligation Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いて、DpnIおよびキナーゼ処理後のPCR産物反応物をセルフライゲーションさせてpHLf344Aを得た。D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology,68,p.326−331,1979)に従い、このpHLf344Aを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、得られた形質転換体JM109株よりプラスミドを精製して、pHLf344A中の変異ルシフェラーゼをコードするDNA配列を確認した(配列番号4)。このDNA配列より演繹されるアミノ酸配列は、実施例1で得られたpET16b−BLU−Y中に含まれるルシフェラーゼ遺伝子に対応するアミノ酸配列の、344番目のアミノ酸残基であるロイシンがアラニンに変換されたものであった。
本発明において見出された変異を人為的に組み合わせたルシフェラーゼ、あるいは、本発明において見出された変異を別のアミノ酸に置換したルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドは、いずれも上記の手順に準じて作製した。
【実施例3】
【0035】
(安定性向上変異ホタルルシフェラーゼの取得)
実施例2記載の組換え体プラスミドpHLf344Aを鋳型とし、変異ルシフェラーゼ遺伝子領域の上流、下流に設計したプライマー(配列番号5および6)を用いてエラープローンPCRを行った。具体的には、これらのプライマーを終濃度0.2μMにて用い、マンガンイオン濃度0.1mM、マグネシウムイオン濃度6.5mM下でEx−Taq(タカラバイオ社製)を使用して、pHLf344A遺伝子領域に対するPCR増幅反応を行うことにより、種々の変異が導入されたホタルルシフェラーゼ遺伝子断片を得た。次いでこれらを、NdeI,HindIIIにて制限酵素処理したのち、アガロースゲル電気泳動により分離し、RECO−CHIP(タカラバイオ社製)を用いて電気泳動後のゲルからDNA断片を回収した。得られたDNA断片を、pHLf344AをNdeIおよびHindIII処理して得られたpHLf344Aベクターに、Ligation Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いてライゲーションさせた。ライゲーション終了後、上述の方法に準じて、変異が導入された組換え体プラスミドDNAを用いて大腸菌(E.coli)BL21(DE3)(インビトロジェン社製)を形質転換し、変異体ライブラリーを作製した。この形質転換株をLB−amp寒天培地〔バクトトリプトン1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、NaCl10.5%(w/v)、アンピシリン(50μg/ml)、および寒天1.4%(w/v)〕に接種し、37℃で平板培養した。
【0036】
12時間後、出現してきた各々のコロニーをLB−IPTG−amp寒天培地〔1%(w/v) バクトトリプトン、0.5%(w/v) 酵母エキス、10.5%(w/v) NaCl、1mM イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド、50μg/ml アンピシリン、および1.4%(w/v) 寒天〕に接種し、30℃で平板培養した。12〜18時間培養した後、菌体の上からニトロセルロースフィルター(アドバンテック社製)を被せてコロニーをフィルターへと転写し、そのフィルターとともに55℃、30分間の熱処理に供し、次いで熱処理済みのフィルターを、発光試薬〔100mM Na−citrate,1mM Luciferin,10mM MgSO,pH5.0〕に浸し、LAS−3000(富士フイルム社製)を用いて、下記条件にてコロニーの発光を撮影した(Method:Chemiluminescence,Exposure Type:Increment,Exposure Time:10〜30秒)。
熱処理後も発光することが確認された菌株に含まれるホタルルシフェラーゼを、安定性向上変異体の候補として選択した。
【実施例4】
【0037】
(変異位置の確認)
実施例3で選択した株を、2mlのLB−IPTG−amp培地中で培養した。18〜24時間の培養後、遠心分離にて菌体を回収して50mM リン酸カリウムバッファー,0.2%(w/v) BSA(和光純薬工業社製),pH7.5にて菌体を懸濁し、超音波破砕を行って、粗酵素液を得た。上記粗酵素液を、0.3M Tricine−NaOH,0.2% BSA,5% Glycerol,pH7.8に1〜10μl添加したものを、47℃反応温度下にて90分の熱処理に供した。そして、活性測定試薬〔50mM Tricine−NaOH,4mM ATP,2mM Luciferin,10mM MgSO,pH7.8〕を用いて、熱処理前後のルシフェラーゼ粗酵素の活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、ルミノメーター(ベルトールド社製、LB96V)を用いて1秒間の積算にて得られる発光量にて評価し、熱処理前の発光量に対する熱処理後の発光量値の比を、「活性残存率」として算出した。活性残存率が親株より大きい候補株を安定性向上変異体とし、CEQ2000 DNA Sequencing System(ベックマンコールター社製)を用いて、安定性向上変異体中のプラスミドがコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子の配列を決定した。
【0038】
その結果、4種の候補株中の該当する遺伝子配列が、それぞれ、287位のバリンがアラニンに置換されたアミノ酸配列(配列番号7)、または326位のグリシンがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号8)、または392位のバリンがイソロイシンに置換されたアミノ酸配列(配列番号9)、または467位のフェニルアラニンがイソロイシンに置換されたアミノ酸配列(配列番号10)からなる変異型ホタルルシフェラーゼをコードしていることが確認された。287位のバリンがアラニンに置換されたホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を配列番号11に示す。
さらに、得られた変異株における変異点の情報を利用し、先の実施例に記載の方法に準じて、上記変異を複数組み合わせた変異を有する新たな変異株や、変異を別のアミノ酸に置換した変異株を作製し、各種の変異ホタルルシフェラーゼを取得した。
【実施例5】
【0039】
(変異ホタルルシフェラーゼの安定性評価)
実施例4記載の方法に準じ、得られた各種のアミノ酸配列を有する変異ホタルルシフェラーゼを熱処理に供し、その後、ルシフェラーゼ活性測定を行って、熱処理後(47℃、90分間)の活性残存率を評価した。その結果を図1に示す。
【0040】
1. 287A変異ホタルルシフェラーゼの安定性評価
熱処理後の活性残存率は、本発明の変異を含まないもの(BLU−Y)では28.1%であったのに対し、287A変異を有するもの(B−V287A)では48.3%と、顕著に(1.7倍)向上していた。これにより、287A変異が、ルシフェラーゼの熱安定性向上にとって効果が大きいことがわかった。
また、実施例2〜5の方法に準じ、ゲンジボタルルシフェラーゼに関しても、同様に287A変異体を作製し、得られた287A変異体の熱安定性の評価を行った。なお、LcrLのアミノ酸配列は、特許第3048466記載の通りであり、217位のスレオニンがロイシンに置換された変異体である。
その結果、ゲンジボタルルシフェラーゼ287A変異を含まないルシフェラーゼ(LcrL)における熱処理後の活性残存率が10.1%であったのに対し、287A変異を有する変異ルシフェラーゼ(LcrL−V287A)における熱処理後の活性残存率は14.7%と、1.5倍向上していた。
すなわち、287A変異が、ヘイケボタルのみならずゲンジボタルルシフェラーゼの熱安定性をも向上させることが確認された。
【0041】
2. 392I変異ホタルルシフェラーゼの安定性評価
また、392I変異を有する変異ホタルルシフェラーゼにおいては、熱処理後の活性残存率は45.5%にまで向上し、BLU−Yに対し、1.5倍向上していた。これにより、392I変異が、ルシフェラーゼの熱安定性向上にとって効果的であることが示された。
また、実施例2〜5の方法に準じ、ゲンジボタルルシフェラーゼに関しても、同様に392I変異体を作製し、得られた392I変異体の熱安定性の評価を行った。その結果、ゲンジボタルルシフェラーゼ392I変異を含まないルシフェラーゼ(LcrL)における熱処理後の活性残存率が10.7%であったのに対し、392I変異を有する変異ルシフェラーゼ(LcrL−V392I)における熱処理後の活性残存率は16.2%と、1.5倍向上していた。
すなわち、392I変異が、ヘイケボタルのみならずゲンジボタルルシフェラーゼの熱安定性をも向上させることが確認された。
【0042】
3. 287A変異および392I変異を含むホタルルシフェラーゼの安定性評価
また、287A変異と392I変異を組み合わせた変異ルシフェラーゼの活性残存率を測定したところ、58.5%となり、BLU−Y対しては1.9倍向上していた。すなわち、2つの変異を組み合わせることにより、287A変異または392I変異を各々単独で有する変異ルシフェラーゼよりも熱安定性がさらに向上することが確認された。
すなわち、287A変異および392I変異の組み合わせが熱安定性向上にとって一層効果的であることが示された。
【0043】
4. その他の組み合わせ変異を含むホタルルシフェラーゼの安定性評価
また、BLU−Yに対し、ルシフェラーゼの熱安定性を悪化させる344A変異を組み合わせたもの(B−L344A)の活性残存率は、16.2%に低下していたが、これに287A変異をさらに組み合わせたもの(B−L344A V287A)では、活性残存率は、22.7%まで回復し、B−L344Aに対し1.4倍の向上を示した。467I変異を344A変異と組み合わせたもの(B−L344A F467I)、または、326S変異を344A変異と組み合わせたもの(図中にデータ非掲載)では、B−L344Aに対して安定性は向上したが、その程度は1.2倍を超えるものではなく、287A変異を組み合わせたものにおける効果と比較して、向上効果は十分ではなかった。しかし、これらの変異を287A変異とそれぞれ組み合わせたものでは、287A変異による熱安定性向上効果を維持するあるいはさらに向上させる効果を示し、例えば、B−L344A V287A F467Iにおける活性残存率は、24.3%まで回復し、B−L344Aに対し1.5倍の向上を示した。
なお、F467という変異位置に対応する北米ホタルルシフェラーゼの変異体(F465R)が、国際公開第2007/017684号パンフレット中に報告されているが、この変異を組み合わせることによっては、L344A変異による安定性低下の回復は認められなかった。
【0044】
さらに、344Aに対して3種の変異を導入したもの(B−L344A V287A G326S F467I、以下3重変異体という)においては、活性残存率は、27.3%まで向上し、L344Aに対し1.7倍の向上を示した。前記3重変異体に、さらに392I変異を加えた4重変異体(B−L344A V287A G326S F467I V392I)では、活性残存率は、さらに向上し、344A変異を含まないBLU−Yと比較して1.6倍の向上を示した(図中にデータ非掲載)。
また、287A変異を含まず、467I変異および326S変異の2種を344A変異と組み合わせたもの(B−L344A G326S F467I)においても、活性残存率は、21.5%まで向上し、B−L344Aに対し1.3倍の向上を示した。
【0045】
5. V287位を各種アミノ酸に変異させた変異体の安定性評価
さらに、ヘイケボタルルシフェラーゼ344A変異体において、287番目のバリンがアラニン以外の18種のアミノ酸に変異したルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドを作製した。PCRを用いた変異の導入は、実施例2記載の344A変異の導入方法に準じて行い、用いたプライマーを配列番号12から配列番号30に示す。PCRにおけるフォワードプライマー(Primer F(配列番号12))は、いずれのアミノ酸変異体の作製にも共通に利用した)。PCRにおけるリバースプライマー(V287C−R(配列番号13)、V287D−R(配列番号14)、V287E−R(配列番号15)、V287F−R(配列番号16)、V287G−R(配列番号17)、V287H−R(配列番号18)、V287I−R(配列番号19)、V287K−R(配列番号20)、V287L−R(配列番号21)、V287M−R(配列番号22)、V287N−R(配列番号23)、V287P−R(配列番号24)、V287Q−R(配列番号25)、V287R−R(配列番号26)、V287S−R(配列番号27)、V287T−R(配列番号28)、V287W−R(配列番号29)、V287Y−R(配列番号30))は、アミノ酸の種類に応じて異なるものをそれぞれ利用した。
【0046】
344A変異の287位のバリンをアラニン以外の18種のアミノ酸に変異させた変異体(B−L344A V287X)においては、V287位のアミノ酸の種類により、活性および安定性に差がみられた。287位がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Asn、Pro、Gln、Arg、Trp、Tyrの各アミノ酸に置換された変異体においては、ルシフェラーゼ活性がほとんど失われた。そして、ルシフェラーゼ活性が保持されていた変異体287位のうち、Leu、Ile、Cys、Met、Ser、Thrに置換された変異体では、熱処理後の活性残存率が344A変異体の0.25〜0.8倍まで低下した。結果を表1に示す。
すなわち、十分なルシフェラーゼ活性および熱安定性向上効果を示した287位の変異体は、287位のアミノ酸がアラニンに置換されたもののみであった。
【0047】
【表1】

【0048】
6. 各種処理温度における熱安定性の評価
熱処理温度を4、45、50および55℃とし、各10分間で各種ルシフェラーゼの活性残存率を評価したデータを図2に示す。45、50および55℃で熱処理を行ったものについては、いずれも、本発明の変異を導入することによって、L344A変異の熱安定性の弱さが改善されることが確認された。
【実施例6】
【0049】
(変異ホタルルシフェラーゼの発光持続性)
ルミノメーター(ベルトールド社製、LB96V)を用いて実施例5で試験した各変異体の発光持続性を確認した〔反応試薬:50mM Tricine−NaOH,0.8mM ATP,0.5mM Luciferin,10mM MgSO,0.2% BSA,2% Sucrose,1mM EDTA〕。発光持続性は、測定開始後1.2秒後から60秒後の測定値をとり、1.2秒後の測定値に対する60秒後の測定値の割合(発光率持続率)で比較した。すなわち、1.2秒後の測定値に対する60秒後の測定値の割合が低いほど、発光減衰の度合が大きく、発光持続性は悪いということになる。
【0050】
その結果、L344A変異を含まないホタルルシフェラーゼ(BLU−Y)では、発光持続率が27.8%であり、60秒後で発光量が3分の1未満に減衰したのに対し、発光持続変異であるL344A変異を含む全ての変異ホタルルシフェラーゼでは、発光持続率が100−150%であった。すなわち、本発明の安定性変異を含み、かつL344A変異を含む変異体の全てにおいて、熱安定性向上効果を発揮しつつも、L344A変異の効果である発光持続性が良好に保持されていることが判明した。
【実施例7】
【0051】
(変異ホタルルシフェラーゼの保存安定性)
各変異ホタルルシフェラーゼを、各種温度にて保存し、保存後の活性残存率を評価した。0.1μg/mLの濃度で37℃にて11日間および14日間保存後のデータの例を図3および図4に示す(保存溶液組成:0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、2mM EDTA 2Na、0.2% BSA(和光純薬工業社製)、0.02% カゼイン、0.05%NaN)。両試験は別個に実施し、それぞれ、保存試験開始時の活性を100%として表した。
【0052】
図3、図4のいずれにおいても、L344A変異を含まないホタルルシフェラーゼ(BLU−Y)に対し、L344A変異ホタルルシフェラーゼでは、保存後の活性残存率が急激に減少した。これに対し、L344A変異に組み合わせて本発明の変異を導入した各種の変異ホタルルシフェラーゼにおいては、いずれも保存後の活性残存率の低下が改善していることがわかった。例えば、L344A(活性残存率2%)に対して、L344A G326S F467Iの3つの変異を組み合わせた変異ホタルルシフェラーゼ(活性残存率16%)、および、L344A V287A F467Iの3つの変異を組み合わせた変異ホタルルシフェラーゼでは、保存後の活性残存率が向上していることがわかった。また、L344A V287A G326S F467Iの4つの変異を組み合わせた変異ホタルルシフェラーゼ、および、BLU−YにV287A変異を導入したホタルルシフェラーゼでは、保存後の活性残存率が顕著に向上し、BLU−Yを上回る良好な保存安定性が示された。
【0053】
これらの結果からわかるように、本発明の方法により、安定性にすぐれたホタルルシフェラーゼを効率よく生産し、提供することができる。また、発光持続性等の性質と安定性を兼ね備えたホタルルシフェラーゼを効率よく生産し、提供することができる。本発明により、安定性の優れたホタルルシフェラーゼが提供され、高感度発光測定系や微量ATP測定系等のキット中に有利に利用することができ、また、発光持続性変異等他の有用な変異と組み合わせることによっても、さらに広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼ。
【請求項2】
ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼ。
【請求項3】
ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異されているか、467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている変異から選択される1以上の変異を有する、請求項1または2記載のホタルルシフェラーゼ。
【請求項4】
ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異され、かつ467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている、請求項1または2記載のホタルルシフェラーゼ。
【請求項5】
ヘイケボタルまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおいて、ルシフェラーゼの344位のアミノ酸がアラニンに変異され、326位のアミノ酸がセリンに変異され、467位のアミノ酸がイソロイシンに変異されている変異を有するホタルルシフェラーゼ。
【請求項6】
請求項1〜5記載のホタルルシフェラーゼをコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子。
【請求項7】
請求項6記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組換え体DNA。
【請求項8】
請求項6記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子または請求項7記載の組換え体DNAを含み、ホタルルシフェラーゼ生産能を有する微生物を培養し、該培養物よりホタルルシフェラーゼを採取することを特徴とする、安定性が向上したホタルルシフェラーゼの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−120559(P2011−120559A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289901(P2009−289901)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度および21年度、独立行政法人 科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】