説明

ホットエンボス治具及び熱プレス装置

【課題】プレス時の金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化できるホットエンボス治具及びこれを用いた熱プレス装置を提供する。
【解決手段】本発明のホットエンボス治具は、熱可塑性を有する板状の基板6の表面6aに所定のパターンを転写するためのホットエンボス治具であって、一主面7bに、所定のパターン7aが形成されたパターン領域を有する平板状の第1の金型7と、一主面9bが第1の金型7のパターン形成されている側の主面7bに対向して配置され、第1の金型7との間で基板6を挟持可能な平板状の第2の金型9と、第1の金型7及び第2の金型9のうち、少なくとも一方の金型の基板6が接する主面とは反対側の主面に密着して配置された、耐熱性を有する弾性シート10と、弾性シート10の外周部分10aを囲むように配置された抑え部材11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットエンボス治具及び熱プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会を背景に無線を利用した通信システムが汎用されており、とりわけ情報量の多いマイクロ波やミリ波領域を使用した通信システムの発展が著しい。このような通信システムにおいて、平面アンテナは短波長無線システムの入出力装置として好適である。
【0003】
ところで、アンテナの大きさは電(磁)波の波長の大きさにあわせて作る必要があり、波長を短波長化すると入出力装置であるアンテナの形状も小型化する必要がある。これにより、近年のアンテナではアンテナの寸法精度も微細加工技術が要求されるようになっている。従来では、エッチング技術を用いてアンテナの例えばスロットパターンやパッチパターンを形成していたが、微細加工がそのアンテナ特性に与える影響は大きく、従来のエッチング技術では精度良く大量に生産できないという欠点があった。特に、ミリ波における寸法精度は少なくとも波長の1%以下は必要とされ、例えば、周波数が50GHzにおいては数十μmの寸法精度が必要とされる。このような要求に対してLSIの製造工程に適用可能な微細加工技術を適用することも考えられるが、かかる技術では安価なアンテナを製造することはできない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、ホットエンボス法を用いて、平板基板の表面に凹凸パターンを一体成形することにより、平面アンテナのスロットを寸法精度よく形成する方法が提案されている。ホットエンボス法とは、金型を加熱しつつ、金型を平板基板にプレスすることによって、金型が有する凹凸パターンを平板基板の表面に転写する方法であり、熱ナノインプリント法も含む。このようなホットエンボス法を用いる製造方法は、一度所定の凹凸パターンを有する金型を成形してしまえばアンテナの量産が容易であるため、安価にアンテナを製造することができる。また、ホットエンボス法は、ミクロン単位で所定のパターンを成形可能であり、短波長化に好適な小型のアンテナを提供することができる。
【0005】
しかし、プレス後(パターン転写後)の基板表面の平坦性が充分でないと、スロットとなる凸部形状のパターンの高さが場所により異なり、平面アンテナの電波特性が悪くなる場合がある。基板の厚みムラは、スロットの高さの1/2以下であることが望ましい。
【0006】
ここで、ホットエンボス法において、金型のパターン形成面の平坦性にばらつきがあると、基板と金型との接触面内における圧力分布にばらつきが生じ、基板に厚みムラが生じることが知られている。このような問題を改善する対策の一つとして、例えば、特許文献2では、金型のパターン非形成面側に弾性シートなどの緩衝材を配置し、金型のパターン形成面の平坦性のばらつきを吸収することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−115718号公報
【特許文献2】特許第3638514号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが、プレス時の金型と平板基板との接触面内における圧力分布を調べたところ、特許文献2で提案されているように弾性シートを用いたとしても、後述するように、金型のパターン形成面の中央部分に比べてパターン形成面の外周付近では圧力が減少していることが分かった。圧力が減少している部分では転写不良が起こりやすいため、転写不良を防ぐにはプレス時の圧力を必要以上に大きくすることが考えられるが、必要以上にプレス時の圧力を大きくすると、基板に反りが生じるなどの問題が発生する。このような問題を防ぐには、金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化できる方法が求められる。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、プレス時の金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化できるホットエンボス治具及びこれを用いた熱プレス装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のホットエンボス治具は、熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定のパターンを転写するためのホットエンボス治具であって、一主面に、所定のパターンが形成されたパターン領域を有する平板状の第1の金型と、一主面が上記第1の金型の前記パターンが形成されている側の主面に対向して配置され、上記第1の金型との間で上記基板を挟持可能な平板状の第2の金型と、上記第1の金型及び上記第2の金型のうち、少なくとも一方の金型の上記基板が接する主面とは反対側の主面に密着して配置された、耐熱性を有する弾性シートと、上記弾性シートの外周部分を囲むように配置された抑え部材とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の熱プレス装置は、熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定の温度及び荷重を印加して所定のパターンを転写する熱プレス装置であって、上記本発明のホットエンボス治具と、上記ホットエンボス治具を支持し、上記ホットエンボス治具に対し圧力を印加するプレス機構と、上記ホットエンボス治具を加熱するヒーター機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホットエンボス治具によれば、プレス時の金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化できる。
【0013】
本発明の熱プレス装置によれば、プレス時の金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化できるため、プレス後の基板表面の平坦性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の熱プレス装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】平面アンテナの構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】図2の熱プレス装置において抑え部材を除いた場合の熱プレス装置の概略断面図である。
【図4】金型と基板との接触面内における圧力分布を示す図である。
【図5】金型のパターン形成面を示す図である。
【図6】金型のパターン形成面の上に基板を配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のホットエンボス治具は、熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定のパターンを転写するためのホットエンボス治具であって、一主面に、所定のパターンが形成されたパターン領域を有する平板状の第1の金型と、一主面が上記第1の金型の前記パターンが形成されている側の主面に対向して配置され、上記第1の金型との間で上記基板を挟持可能な平板状の第2の金型と、上記第1の金型及び上記第2の金型のうち、少なくとも一方の金型の上記基板が接する主面とは反対側の主面に密着して配置された、耐熱性を有する弾性シートと、上記弾性シートの外周部分を囲むように配置された抑え部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のホットエンボス治具によれば、弾性シートにより、金型の基板が接する側の主面の平坦性のバラツキを吸収することができる。また、弾性シートの外周部分を囲むように配置された抑え部材により、弾性シートに圧力が加えられた際に弾性シートが外側に向かって伸長するのを防ぐことができる、つまり、弾性シートに加えられた圧力が外側に逃げることを抑制できる。これにより、第1の金型のパターン形成面を基板表面の全面にわたって均等な力で押し付ける(プレスする)ことができ、プレス時の基板と金型との接触面内における圧力分布を均一化できる。
【0017】
本発明の熱プレス装置は、熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定の温度及び荷重を印加して所定のパターンを転写する熱プレス装置であって、上記本発明のホットエンボス治具と、上記ホットエンボス治具を支持し、上記ホットエンボス治具に対し圧力を印加するプレス機構と、上記ホットエンボス治具を加熱するヒーター機構と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の熱プレス装置によれば、プレス時の基板と金型との接触面内における圧力分布を均一化できるため、プレス後の基板表面の平坦性を向上させることができる。
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態)
本実施形態では、本発明の熱プレス装置の一例を説明する。図1は、本実施形態の熱プレス装置の構成を示す概略断面図である。
【0021】
本実施形態の熱プレス装置は、図1に示すように、ホットエンボス治具20と、プレス機構としての上ステージ12、下ステージ13、治具14、15、及び油圧機構16と、ヒーター機構としてのヒーター18、19とを備えている。図1において、ヒーター18、19がそれぞれ、上ステージ12、下ステージ13に組み込まれている様子を点線で表している。
【0022】
ホットエンボス治具20は、金型7、金型9、弾性シート10、及び抑え部材11を備えている。このホットエンボス治具20は、弾性シート10を備えたことで、金型7、9のパターン形成面7b、9bの平坦性のバラツキを吸収できる。また、抑え部材11を備えたことで、プレス機構により弾性シート10に圧力が印加された際、弾性シート10の外周部分10aが外側に向かって延び広がるのを抑制でき、つまり、弾性シート10に印加された圧力が外側に逃げるのを抑制でき、これにより、金型7、9のパターン形成面7b、9bを基板6の両主面6aの全面にわたって均等な力で押し付けることができ、金型7、9と基板6との接触面内における圧力分布を均一化できる。
【0023】
金型7は、平板状であり、一方の主面7bに、パターン7aが形成されたパターン領域を有する。この金型7の一主面7bを、以降、パターン形成面と呼ぶ。
【0024】
金型9は、平板状であり、一方の主面9bに、パターン9aが形成されたパターン領域を有する。この金型9の一主面9bを、以降、パターン形成面と呼ぶ。パターン形成面9bは、金型7のパターン形成面7bに対向して配置されており、金型7との間で基板6を挟持可能である。
【0025】
金型7、9としては、例えば、半径60mm、厚さ0.5mmの円盤形状の金属部材を用いることができる。また、パターン領域の形状としては、例えば、半径30mmの円形状とすることができる。本実施形態では、パターン7a、9aは、凸部形状の放射用スロットパターン3(後述の図2)及び給電用スロットパターン4(後述の図2)に対応する凹部形状のパターンとした。また、金型7のパターン7aの中心(電気的な意味)Xと金型9のパターン9aの中心Yとの位置ずれ量は100μm以下であることが好ましい。上記位置すれ量が100μm以下であれば、最終的に良好な電波特性を有する平面アンテナが得られるからである。
【0026】
弾性シート10は、耐熱性を有し、金型7及び金型9のうち、少なくとも一方の金型のパターン形成面とは反対側の主面(パターン非形成面)に密着して配置される。図1では、弾性シート10は、金型9のパターン非形成面(すなわち、下面)にのみ備えられているが、金型7のパターン非形成面(すなわち、上面)にも設けることができ、この場合、金型7、9のパターン形成面7b、9bの平坦性のばらつきをより吸収しやすく、転写性を向上できる。弾性シート10としては、耐熱性及び弾性を有するものであれば良いが、例えば、フッ素ゴム又はシリコンゴム製のものを用いることができる。この場合、弾性シート10は、充分な弾性を有するだけでなく、充分な耐熱性も備えることができる。また、弾性シート10の形状は、例えば、円盤状とすることができる。
【0027】
抑え部材11は、弾性シート10の外周部分10aを囲むように配置される。抑え部材11としては、例えば、リング状の金属部材を用いることができる。金属部材としては、例えば、ステンレス鋼(SUS304製)が挙げられる。抑え部材11の厚みは、弾性シート10と略同じ厚みに設定することができる。ただし、抑え部材11と金型とが接すると、プレス時に金型が曲がる虞があるため、金型とは接しないように設定する。
【0028】
上ステージ12は、図1において上下方向に移動可能なように油圧機構16に取り付けられおり、内部には、ヒーター18が組み込まれている。一方、下ステージ13は、移動できないように油圧機構16に取り付けられており、内部には、ヒーター19が組み込まれている。上ステージ12及び下ステージ13は、ともに略円筒形状をしており、上ステージ12及び下ステージ13のそれぞれ互いに対向する面、すなわち、上ステージ12の下面と下ステージ13の上面は、平坦な面である。なお、ここでは、下ステージ13は上下方向に移動しない場合について説明するが、上ステージ12と同様、上下方向に移動可能であっても良い。また、ヒーター18、19はそれぞれ、上ステージ12、下ステージ13に組み込まれている場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、金型7、9に組み込まれていても良い。
【0029】
治具14、15は、ホットエンボス治具20を支持するものである。図1において、治具14の上面には上ステージ12が配置され、下面にはホットエンボス治具20の金型7が配置されている。また、治具15の上面にはホットエンボス治具20の弾性シート10が配置され、下面には下ステージ13が配置されている。さらに弾性シート10の周囲には抑え部材11が配置され、弾性シート10の上面には金型9が配置されている。治具14、15としては、例えばステンレス鋼(SUS304など)のように、強度を有し、平坦性が高く、厚みをもった部材を用いることができる。また、治具14、15は、主面の大きさが金型7、9よりも大きく、厚みは2mm以上であることが好ましく、形状は直方体や円柱が好ましい。
【0030】
油圧機構16は、上ステージ12を上下方向に移動させるものである。上ステージ12を下ステージ13に向かって移動させていくと、ホットエンボス治具20の金型7、9の間に挟持されている物体(ここでは、基板6)をプレスすることができる。このとき、2つのヒーター18、19が協働して、上ステージ12と下ステージ13との間に配置されている治具14、15、ホットエンボス治具20を加熱することにより、基板6を軟化させることができる。加熱温度は、金型7、9の間に挟持されている基板6を軟化させることができる温度であれば良い。
【0031】
基板6の材質としては、熱可塑性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、シクロオレフィンポリマー樹脂を用いることができる。他にも、低誘電率や低吸水性のある樹脂を用いることができ、この場合、耐水性、耐腐食性を高めることができる。低誘電率の樹脂は、一般に分子内に親水性の高い極性基を持たないため、飽和吸水量が小さく疎水性である。また、低誘電率の樹脂は、多孔質でもないために、アルミナなどの無機材料と比較して撥水性である。具体的な材料としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、ポリスチレンなどの芳香族系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ノルボルネンなどのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。なお、これらの材料には、低熱膨張率化のために必要に応じて二酸化珪素などのフィラーやファイバー、シートを混入することも可能である。
【0032】
また、基板6は、吸水率が0.01%以下である材料から構成されていても良い。これにより、耐水性、耐腐食性を高めることができる。このような材料には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ノルボルネンなどのポリオレフィン系樹脂が含まれる。
【0033】
また、基板6は、熱膨張率が7×10-5以下である材料から構成されていても良い。これにより、耐水性、耐腐食性を高めることができる。このような材料には、例えば、ジメタノナフタレン系樹脂が含まれる。
【0034】
基板6の形状は、任意の形状、厚さのものを用いることができ、例えば、厚み1.2mmの円盤形状のものを用いることができる。
【0035】
次に、本実施形態の熱プレス装置の動作について図1を用いて説明する。
【0036】
まず、熱可塑性を有する基板6をホットエンボス治具20の金型9の上に載置する。そして、ヒーター18、19を用いて治具14、15、ホットエンボス治具20を加熱しながら、油圧機構16を駆動させて上ステージ12を下ステージ13に近づける方向(図1において下方向)に移動させ、基板6をプレスする。上記加熱により熱可塑性を有する基板6は充分に軟化しているため、基板6の両主面6aに圧力が印加されると、金型7、9のパターン形成面7b、9bに形成されている凹部形状のパターン7a、9aが基板6の両主面6aに転写される。これにより、両主面に凸部形状のパターン(後述の図2における放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4に相当する)が一体成形された基板が得られ、これを用いて図2に示すような平面アンテナを製造できる。
【0037】
ここで、本実施形態の熱プレス装置によって得られる、両主面に凸部形状のパターンが一体成形された基板を用いた平面アンテナの製造方法の一例を図1及び図2を用いて説明する。図2は、平面アンテナの一例を示す概略断面図である。
【0038】
まず、本実施形態の熱プレス装置によって得られた、凸部形状のパターンが一体成形された基板6から、パターン領域201(後述の図5)を切り出す。切り出した後の基板1は、例えば、直径60mmの円盤形状である。
【0039】
そして、上記切り出した基板1の表面全体に、スパッタ法により導体膜2を形成する。しかし、凸部形状のパターン3、4は導体膜2で被覆されていると、電気的なアンテナパターンとして機能しないため、凸部形状のパターン3、4を被覆している導体膜2を除去する必要がある。導体膜の剥離方法としては、機械的な手段、例えば、研削や研磨作業を行うことで、凸部形状のパターン3、4を被覆している導体膜2を剥離することができる。これにより、図2に示すように、基板1上の所定の領域に、導体膜2で被覆されない放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を有する平面アンテナ100が得られる。
【0040】
なお、図2に示す平面アンテナ100を得た後、さらに、導体膜2上に、保護層としてSiO2膜やSiN膜などの薄膜を形成しても良い。ただし、保護層としてはアンテナの電波特性に影響を及ぼさないものを使用する必要がある。
【0041】
次に、図2に示す平面アンテナ100について詳述する。
【0042】
図2に示す平面アンテナ100は、誘電体である基板1と、基板1の一方の主面(ここでは、上面)上に形成された凸部形状の放射用スロットパターン3と、基板1の他方の主面(ここでは、下面)上に形成された凸部形状の給電用スロットパターン4と、上記各スロットパターン3、4以外の基板1の表面を被覆する導体膜2とを有する。なお、図2では、平面アンテナ100の理解を補助するため、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4はその大きさが誇張されかつ一部省略して描いている。
【0043】
この平面アンテナ100は、例えば、直径60mm、厚さ1.2mmのディスク形状を有し、小型のラジアルスロットアンテナとして実現される。平面アンテナの適用はこれに限定されることは無く、例えば、パッチアンテナ、マイクロストリップアンテナなど導体被覆面の一部に導体膜を被覆しない領域を有する誘電体として構成されるいかなるアンテナに関しても適用することができ、またその大きさにおいて限定を有するものではない。このような平面アンテナは、小型であっても寸法精度良く製造することができるという長所を有する。
【0044】
放射用スロットパターン3は、例えば「ハ」の字状で断面凸部形状を有し、基板1の上面にスパイラル状に形成されている。一方、給電用スロットパターン4は、例えばプラス形状で断面凸部形状を有し、基板1の下面に形成されている。なお、給電用スロットパターン4の形状は、プラス形状に限られず、場合によっては円形でも良い。また、給電用スロットパターン4が平面アンテナ100のスロット中心に給電できないと放射電力パターンが偏った特性となるため、例えば、位置決めピンを用いることにより、給電用スロットパターン4を、上述したスパイラル状の放射用スロットパターン3の中心に対向する位置に精度良く設けられる。ここで、放射用スロットパターン3の中心と給電用スロットパターン4の中心との位置ずれ量は100μm以内であることが好ましい。上記位置すれ量が100μm以下であれば、良好な電波特性を有する平面アンテナが得られる。
【0045】
また、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4の形状は、柱型状であることが好ましい。断面積がほぼ一定の柱型状であればスロットが腐食した場合でも、スロット形状の同一性は保たれ、長期間に亘って安定した特性を維持することができる。
【0046】
基板1は、所定の厚みを有し、かかる厚み部分が導波路となって各スロットへの給電回路として機能する。本明細書においては、基板1の表面において、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が形成される部分を除き、導体膜2が形成される部分を基板の導体被覆面5と定義する。図2では、上面(放射面)に放射用スロットパターン3が、下面(給電面)に給電用スロットパターン4が凸型形状のパターンとしてそれぞれ基板1に一体成形されている。この凸型形状のパターンの高さは、誘電体の基板平坦部からの高さ、つまり導体被覆面5からの高さであって、その値は導体膜2の厚さよりも大きいものでなくてはならない。更にその高さは誘電体内を伝搬する波長の少なくとも1/10以下とすることで凸部の高さ方向に共振回路を構成することもない。具体的には、上記パターンの高さは、2μm以上であれば良いが、基板の厚みムラを考慮して20μmとした。
【0047】
導体膜2は、基板1の導体被覆面5上に表皮効果の影響を受けないように所定の厚さに形成されている。本実施形態では周波数が60GHzの平面アンテナを想定しているので、導体膜の厚さは、例えば、2μm程度と設定できる。導体材料としては、銅や銀、ニッケルなどを用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明のホットエンボス治具を用いた熱プレス装置により得られる基板表面の平坦性向上効果について実施例を用いて説明する。
【0049】
(実施例)
図1に示す熱プレス装置を用意した。この熱プレス装置は、ホットエンボス治具20、上ステージ12、下ステージ13、治具14、15、油圧機構16、ヒーター18、19を備えている。ホットエンボス治具20は、パターン7aが形成されたパターン形成面7bを有する金型7と、凹部形状のパターン9aが形成されたパターン形成面9bを有する金型9と、弾性シート10と、抑え部材11とを備えている。
【0050】
金型7、9としては、半径60mm、厚さ0.5mmの円盤形状の金属部材を用いた。パターン7aは、内部空間が柱型状の凹部であって、パターン形成面7bを金型9側から見たとき、パターン7aの形状はマイナス型形状で、パターン形成面7bのパターン領域内にスパイラル状に形成されている。パターン9aは、内部空間が柱型状の凹部であって、パターン形成面9bを金型7側から見たとき、パターン9aの形状はプラス型形状で、パターン形成面9bのパターン領域の略中央部に形成されている。弾性シート10としては、半径60mmで、厚さ2mmの円盤形状で、硬度70のシリコンゴム製のシートを用いた。抑え部材11としては、厚さ2mmのリング状のステンレス鋼(SUS304製)を用いた。リングの内径は、弾性シート10の外径よりも僅かに大きく、リングの外径は、130mmとした。
【0051】
そして、まず、ホットエンボス治具20の金型9の上面に、基板6を載せた。基板6としては、ポリプロピレン製で、半径55mm、厚さ1.2mmの円盤形状のものを用いた。
【0052】
次に、ヒーター18、19を用いて基板6を170℃で加熱しながら、油圧機構16により上ステージ12を下方向に移動させて、基板6の両主面6aに対して30kNの荷重で約120秒間圧力を印加し、金型7、9のパターン形成面7b、9bに形成されている凹部形状のパターン7a、9aをそれぞれ、基板6の両主面6aに転写した。
【0053】
(比較例)
比較のために、図3に示す熱プレス装置を用意した。図3の熱プレス装置は、ホットエンボス治具120が抑え部材11を有していないこと以外は、図1の熱プレス装置と同じ構成である。図3において、図1と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0054】
そして、上述した実施例と同様にして、基板6の両表面6aに、金型7、9のパターン7a、9aを転写した。
【0055】
(基板表面の平坦性)
上記実施例及び上記比較例のパターン転写後の基板6の厚みムラのP−P値(Peak to Peak value)を測定したところ、上記比較例の場合、パターン転写後の基板6の両主面6aにおいて、金型7、9のパターン形成面7b、9bの中心に近い領域に対向する領域では厚みムラのP−P値が5μm以下であったが、パターン形成面7b、9bの外周に近い部分に対向する領域では厚みムラのP−P値が50μm以上であった。特に、パターン形成面7b、9bの中心から半径50mmの領域よりも外側の領域に対向する領域において、厚みムラが大きくなっていた。これは、基板6に圧力が印加された際に、弾性シート10の外周部分10aが外側(治具15の面方向)に向かって押し広げられ、その結果、金型9のパターン形成面9bにおける、弾性シート10の外周部分10aが重なる領域において、基板6が受ける圧力が減少したためであると考えられる。本明細書において、厚みムラのP-P値とは、基板6の厚みの最大値と最小値との差を表すものである。厚みムラのP−P値の測定方法として、レーザ変位計を用いた測定(非接触式測定法)やマイクロメータによる測定(接触式測定法)が挙げられる。
【0056】
これに対し、上記実施例の場合、厚みムラのP−P値は、パターン転写後の基板6の両主面6aの全面にわたって5μm以下であった。このことから、抑え部材11によって、弾性シート10の外周部分10aが外側(治具15の面方向)に向かって押し広げられるのが抑制され、その結果、金型7、9のパターン形成面7b、9bを基板6の両主面6aの全面にわたって均等の力で押し付けることができ、金型7、9と基板6との接触面内における圧力分布を均一化できたと考えられる。
【0057】
(金型のパターン領域及び基板の大きさ)
ここで、上記実施例の抑え部材11を有するホットエンボス治具20を用いた場合と、上記比較例の抑え部材11を有さないホットエンボス治具120を用いた場合において、金型7、9と基板6との接触面に加えられる圧力の半径方向における分布をシミュレーションし、その結果を図4に示した。図4において、縦軸は圧力(kgf/mm2)を示し、横軸は金型7、9の半径(mm)を示す。また、グラフAは、ホットエンボス治具120を用いた場合の圧力分布を表し、グラフBは、ホットエンボス治具20を用いた場合の圧力分布を表している。金型7、9、基板6、弾性シート10としては、半径60mmの円盤状のものを用いた。
【0058】
図4のグラフBから、抑え部材11を有するホットエンボス治具20を用いた場合、金型7、9と基板6との接触面内における圧力分布は、半径方向全域にわたってほぼ均一となっていることが分かる。これに対して、図4のグラフAから、抑え部材11を有さないホットエンボス治具120を用いた場合、金型7、9と基板6との接触面内における圧力分布は、半径40mm程度まで(中央部分)はほぼ一様な圧力分布となるが、半径40mmを越えると(外周部分)圧力が減少し、特に半径50mmを超えると、ホットエンボス治具20を用いた場合に比べて圧力が大きく下回っていることが分かる。
【0059】
このような図4に示すシミュレーションの結果は、上述した実施例及び比較例のパターン転写後の基板の厚みムラの結果と略一致しており、基板6の両主面6aに転写されたパターンの厚みムラの結果を再現していることになる。
【0060】
ところで、上述した図4を見ると、グラフA及びBのいずれも、金型7、9(図1)の外縁部C(半径60mm付近)で圧力が少し大きくなっていた。これは、金型7、9(図1)のパターン形成面7b、9b(図1)の全面をパターン領域とした場合、金型7、9(図1)の外縁部202(後述の図5)において圧力が大きくなることにより、転写後の基板6(図1)に厚みムラが生じる虞があることを意味している。そのため、パターン領域の径は、金型7、9の径に対して小さくする必要がある。
【0061】
図5は、金型7のパターン形成面7b(図1)を金型9(図1)側から見た図である。図5に示す金型7のパターン形成面7b(図1)において、金型7の中心とパターン領域201の中心とは一致しており、パターン領域201の中心からパターン領域201の外縁部までの最小距離(ここでは、パターン領域201の半径)をaとし、金型7の中心から金型7の外縁部202までの最小距離(ここでは、金型7の半径)をbとする。それらの比率a/bを変化させたときのパターン転写後の基板6(図1)の厚みムラのP−P値を示したのが表1である。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果より、a/b=0.9以下のときに良好な平坦性が得られていることが分かる。よって、パターン領域201は、金型7のパターン形成面7b(図1)における、金型7の中心から外縁部202までの最小距離(ここでは、パターン形成面の半径b)の0.9倍の距離を半径とする円の内側に存在するように設定する。
【0064】
また、熱可塑性を有する基板6は加熱により軟化するため、プレス時に押し広げられ金型7、9に噛み込む危険がある。そのため、基板6の径は、金型7、9の径に対して小さくする必要がある。
【0065】
図6は、金型7のパターン形成面7b(図1)上に基板6を配置した状態を示す図である。図6において、金型7の中心から金型7の外縁部202までの最小距離(ここでは、金型7の半径)をbとし、基板6の中心から基板6の外縁部301までの最小距離(ここでは、基板6の半径)をcとする。このとき、基板6の中心と金型7の中心とを精度良く合わせ、それらの比率c/bを変化させたときの基板6の噛み込みの有無を目視により観察した結果が表2である。
【0066】
【表2】

【0067】
表2の結果より、c/bは、0.95以下であることが好ましいことが分かる。よって、基板6は、金型7のパターン形成面7b(図1)における、金型7の中心から金型7の外縁部202までの最小距離(ここでは、金型7の半径d)の0.95倍の距離を半径とする円の内側に接するように設定する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のホットエンボス治具、及びこれを用いた熱プレス装置は、金型と基板との接触面内における圧力分布を均一化でき、プレス後の基板表面の厚みムラを抑制できるものとして、例えば、平面アンテナ、光学デバイス、高周波フィルタなどの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 導体膜
3 放射用スロットパターン
4 給電用スロットパターン
5 導体被覆面
6 基板
6a 主面
7 金型
7a パターン
7b パターン形成面
9 金型
9a パターン
9b パターン形成面
10 弾性シート
10a 外周部分
11 抑え部材
12 上ステージ
13 下ステージ
14 治具
15 治具
16 油圧機構
18 ヒーター
19 ヒーター
20 ホットエンボス治具
120 ホットエンボス治具
201 パターン領域
202 外縁部
301 外縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定のパターンを転写するためのホットエンボス治具であって、
一主面に、所定のパターンが形成されたパターン領域を有する平板状の第1の金型と、
一主面が前記第1の金型の前記パターンが形成されている側の主面に対向して配置され、前記第1の金型との間で前記基板を挟持可能な平板状の第2の金型と、
前記第1の金型及び前記第2の金型のうち、少なくとも一方の金型の前記基板が接する主面とは反対側の主面に密着して配置された、耐熱性を有する弾性シートと、
前記弾性シートの外周部分を囲むように配置された抑え部材とを含むことを特徴とするホットエンボス治具。
【請求項2】
前記第1の金型の前記パターンが形成されている側の主面において、前記パターン領域は、前記第1の金型の中心から前記第1の金型の外縁部までの最小距離の0.9倍の距離を半径とする円の内側に存在する請求項1に記載のホットエンボス治具。
【請求項3】
前記弾性シートは、フッ素ゴム又はシリコンゴムからなる請求項1または2に記載のホットエンボス治具。
【請求項4】
前記第2の金型の前記基板が接する主面に、所定のパターンが形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットエンボス治具。
【請求項5】
前記弾性シートは、前記第1の金型及び前記第2の金型の前記基板が接する主面とは反対側の主面にそれぞれ密着して配置されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のホットエンボス治具。
【請求項6】
前記基板は、前記第1の金型の前記パターンが形成されている側の主面における、前記第1の金型の中心から前記第1の金型の外縁部までの最小距離の0.95倍の距離を半径とする円の内側に接する請求項1〜5のいずれか1項に記載のホットエンボス治具。
【請求項7】
熱可塑性を有する板状の基板の表面に所定の温度及び荷重を印加して所定のパターンを転写する熱プレス装置であって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のホットエンボス治具と、
前記ホットエンボス治具を支持し、前記ホットエンボス治具に対し圧力を印加するプレス機構と、
前記ホットエンボス治具を加熱するヒーター機構と、を含むことを特徴とする熱プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45768(P2012−45768A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188405(P2010−188405)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】