説明

ボイスコイルスピーカー

【課題】多層のボイスコイルが形成されたボビンを備えるボイスコイルスピーカーにおいて、ボビンと回路基板とが適切に配置されたボイスコイルスピーカーを提供する。
【解決手段】スピーカー本体11に、多層のボイスコイル22を形成したボビン21と、ボビン21に接続される振動板24とを備えたボイスコイルスピーカー1において、ボビン21の前方に音声信号処理回路基板32を配置し、音声信号処理回路基板32とボビン21との間に金属端子80を備える中継部材73を配置し、中継部材73の金属端子80を介して音声信号処理回路基板32に設けられた複数のスルーホール71のそれぞれと前記多層のボイスコイル22のそれぞれとを接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層のボイスコイルを形成したボビンと、このボビンに接続される振動板とを備えるボイスコイルスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層のボイスコイルが形成されたボビンを備えるスピーカー(デジタルスピーカー)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種のスピーカーでは、各ボイスコイルに錦糸線を介して音声信号処理用の回路基板が接続され、この回路基板から錦糸線を介して各ボイスコイルに音声信号が出力されることによってボイスコイルが形成されたボビンが振動し、この振動に基づいた振動板の振動により音声が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−28785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなスピーカーでは、ボビンに多層のボイスコイルが形成されているため、各ボイスコイルに接続された錦糸線が複数存在することになる。このため、例えば、錦糸線のそれぞれが干渉しないようにする等、スピーカーの構造を反映した上で、ボビンと回路基板との位置関係を適切に設計する必要がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、多層のボイスコイルが形成されたボビンを備えるボイスコイルスピーカーにおいて、ボビンと回路基板とが適切に配置されたボイスコイルスピーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、スピーカー本体に、多層のボイスコイルを形成したボビンと、前記ボビンに接続される振動板とを備えたボイスコイルスピーカーにおいて、前記ボビンの前方に音声信号を処理する回路基板を配置し、前記回路基板と前記ボビンとの間に導電部材を備える中継部材を配置し、前記中継部材の前記導電部材を介して前記回路基板に設けられた複数の出力端子のそれぞれと前記多層のボイスコイルのそれぞれとを接続したことを特徴とする。
【0006】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記回路基板を環状とし、かつ、前記中継部材を筒状とし、前記回路基板に形成された中央開口と、前記中継部材に形成された中央空洞とが同軸上に配置されるように、前記中継部材及び前記回路基板を配置してもよい。
【0007】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記中継部材の筒部の内部を延出させて前記導電部材を設けてもよい。
【0008】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記中継部材を、前記回路基板に固定し、かつ、前記ボビンと離間して配置し、前記回路基板に接続される前記導電部材を、前記中継部材に固定した状態で前記ボビンへ向かって延出すると共に、前記中継部材に固定された前記導電部材と、前記ボイスコイルのそれぞれとを錦糸線によって接続してもよい。
【0009】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記導電部材と前記錦糸線との接続部を、前記中継部材の前記ボビン側の端部に設けてもよい。
【0010】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記中継部材に前記導電部材に接続されたピン端子を設け、前記回路基板の前記出力端子としてのスルーホールに前記ピン端子を接続した上で、前記中継部材を前記回路基板に固定してもよい。
【0011】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記回路基板に音声信号増幅用のアンプ回路を実装してもよい。
【0012】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記回路基板に多チャンネルの音声デジタル信号が入力されてもよい。
【0013】
また、上記発明のボイスコイルスピーカーにおいて、前記スピーカー本体の前部に帯状のブリッジを掛け渡して、前記ブリッジにより前記回路基板を支持してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多層のボイスコイルが形成されたボビンを備えるボイスコイルスピーカーにおいて、ボビンと回路基板とが適切に配置されたボイスコイルスピーカーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ボイスコイルスピーカーを示す図であり、図1(A)は正面図、図1(B)は図1(A)におけるA−O−B断面図である。
【図2】図1(A)におけるO−C断面図を模式的に示す図である。
【図3】ボビン及びボイスコイルを模式的に示す図である。
【図4】ボビン及びボイスコイルの別例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1を示す図であり、図1(A)は正面図、図1(B)は図1(A)のA−O−B断面図である。図2は、図1(A)におけるO−C断面図を模式的に示す図である。なお、図中、ボイスコイルスピーカー1の中心軸を符号L1を付して示す。
【0017】
本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、例えば、車両のドアの側面に取り付けられ、車載オーディオからデジタル音声信号が入力され、このデジタル音声信号に基づいて音声を出力するスピーカーである。
図1に示すように、ボイスコイルスピーカー1は、前面に円状のスピーカー開口10が形成され、内部にスピーカー本体11を収容するための空間たるスピーカー本体収容部12が形成された有底円筒状のスピーカーフレーム13(フレーム)を備えている。
このスピーカーフレーム13の後部には、前方へ向かうに従って拡径し、前面に円状の開口が形成された椀状のフレーム後部15(図1(B))が形成されており、このフレーム後部15の後方には、スピーカー本体11の駆動に供される磁気回路部16(図1(B)、図2)が設けられている。
【0018】
また、スピーカーフレーム13には、ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と同軸で、フレーム後部15の前面に形成された円状の開口の縁から開口の周方向に沿って外側へ向かって延在する環状のフレーム平部17(図1(B))が形成されている。このフレーム平部17の外周には、前方へ向かうに従って拡径し、前面に円状のスピーカー開口10が形成された筒状のフレーム筒部18の基端が接続されている。
フレーム後部15の前面に形成された円状の開口の縁には、この開口を塞ぐようにダンパー20(図1(B)、図2)が接続され、このダンパー20の中央において、ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と同軸方向に延出する円筒状のボビン21が支持されており、これによりスピーカーフレーム13に対してボビン21が支持、固定されている。このダンパー20及びボビン21は、その中心軸がボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と一致するように同軸配置されている。
【0019】
図3は、ボビン21を上から見た図である。この図では、ボビン21と、ボイスコイル22との関係の明確化のため、ボビン21、及び、ボイスコイル22の形状を単純化した上で、模式的に記載している。
図3に示すように、ボビン21は、銅線等の線材からなる錦糸線がボビン21の軸方向に整列巻きされて形成されたボイスコイル22を複数保持している。本実施形態では、複数のボイスコイル22が、ボビン21の周方向に多層となるように重ねて設けられている。各層のボイスコイル22のそれぞれには、後述する錦糸線61のそれぞれが接続されており、各層のボイスコイル22のそれぞれが、錦糸線61から入力された駆動信号に基づいて、ボビン21を振動させる構成となっている。
【0020】
図4は、別例のボビン21を横から見た図である。この図では、図3と同様、ボビン21と、ボイスコイル22との関係の明確化のため、ボビン21、及び、ボイスコイル22の形状を単純化した上で、模式的に記載している。
図4に示すように、ボビン21は、銅線等の線材からなる錦糸線が多重に巻き回されて形成された多層のボイスコイル22を保持している。この別例では、複数のボイスコイル22がボビン21の軸方向(=ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1の軸方向)に層毎に間隔を開けて形成されており、かつ、各層のボイスコイル22のそれぞれには、後述する錦糸線61のそれぞれが接続されており、ボビン21に形成された各層のボイスコイル22のそれぞれが、出力すべき音声に係る駆動信号に基づいて、ボビン21を振動させる構成となっている。
【0021】
このボビン21には、前方へ向かうに従って拡径する円錐状の振動板24の基端部25(図1(B)、図2)が接続されており、また、この振動板24の先端部26の外周は、スピーカーフレーム13のフレーム筒部18の前面に形成されたスピーカー開口10の内周に接続されている。多層のボイスコイル22によるボビン21の振動に応じて、振動板24が振動し、この振動板24の振動に基づいて音声が出力される。
【0022】
フレーム筒部18の前面に形成されたスピーカー開口10の外周には、当該外周の縁から開口の周方向に沿って外側へ向かって延在する環状のフレームフランジ27が設けられており、このフレームフランジ27には、複数のネジ孔28(図1(A))が形成されている。ボイスコイルスピーカー1が車両のドアの側面に固定される際は、これらネジ孔28を介してドアに対してボイスコイルスピーカー1がネジ止めされる。
【0023】
このフレームフランジ27には、上ブリッジ29、下ブリッジ30の2つのブリッジ29、30が連結、固定されており、これら2つのブリッジ29、30により、環状の音声信号処理回路基板32(回路基板)が、振動板24よりも前方において、その中心軸がボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と一致するように位置決めされた上で、支持されている。
より詳細には、図1に示すように、2つのブリッジ29、30のそれぞれは平板状の部材であり、中心軸L1を境として対象となるように配置された状態で、基端部33のそれぞれがフレームフランジ27に強固に固定されている。そして、スピーカー開口10の略中央で、これらブリッジ29、30の先端部34のそれぞれに音声信号処理回路基板32がネジ止めによって固定されており、これにより、2つのブリッジ29、30を介してスピーカーフレーム13に対して音声信号処理回路基板32が支持、固定されている。このように、本実施形態では、振動板24の前方に音声信号処理回路基板32を配置することにより、振動板24の前方に形成されたスペースを有効活用している。また、振動板24の前方に音声信号処理回路基板32を配置することにより、音声の出力による振動板24の振動に伴って、音声信号処理回路基板32に対し空気が吹き付けることとなり、音声信号処理回路基板32の効率的な冷却を実現できる。
【0024】
また、下ブリッジ30の基端部33には、車載オーディオ装置等の音声信号の出力源となる外部機器が接続されるコネクター36が設けられている。そして、コネクター36に複数のリード線38の一端39(図1)が接続されると共に、これら複数のリード線38が、下ブリッジ30の裏面に固定、密着した上で、下ブリッジ30の裏面に沿って、音声信号処理回路基板32へ向かって直線的に延出し、他端40において、回路接続用のコネクターを介して音声信号処理回路基板32に接続されている。このように、リード線38が下ブリッジ30の裏面に配置されているため、リード線38が露出せず、外観性の向上が図られると共に、リード線38に対する接触を極力防止できる。
【0025】
さらに、コネクター36は、外部機器が接続されるものであるため、外部機器の接続容易性を考慮して、ボイスコイルスピーカー1の外縁部であるフレームフランジ27に設けられている。そして、本実施形態では、下ブリッジ30の基端部33の近傍にコネクター36を設けた上で、音声信号処理回路基板32を支持するための必須の部材である下ブリッジ30を利用して、コネクター36と、音声信号処理回路基板32との間に介在するリード線38が直線的に延出する構成としたため、リード線38の長さを短くできると共に、リード線38の撓み等を防止することができる。
【0026】
ここで、音声信号処理回路基板32について詳述する。
音声信号処理回路基板32は、図1(A)に示すように、中央部に円状の中央開口70が形成された環状の回路基板である。
音声信号処理回路基板32は、入力したデジタル音声信号にデジタル処理を施し、各層のボイスコイル22用の駆動信号を生成し、出力するための回路が実装されたデジタル回路基板である。
この音声信号処理回路基板32に実装される回路には、ΔΣ変調回路、所定のフィルター回路、デジタルアンプ等があり、これらはデジタル回路で構成されるため、アナログ回路で形成される場合よりも格段に小型で済む。特に、デジタルアンプは、アナログアンプよりも格段に小さくなり、このデジタルアンプを構成する信号増幅用のアンプ回路64は、図1(A)に示すように、音声信号処理回路基板32の後面に余裕を持って配置可能である。なお、このアンプ回路64は、各層(本構成では6層)のボイスコイル22の駆動信号を増幅するため、6個のデジタルアンプを有している。さらに、上述したように、振動板24の前方に音声信号処理回路基板32を配置し、この音声信号処理回路基板32にアンプ回路64を含む回路が実装されているため、音声の出力による振動板24の振動に伴って、音声信号処理回路基板32に実装された回路に対し空気が吹き付けることとなり、音声信号処理回路基板32の効率的な冷却を実現できる。
【0027】
なお、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、入力されたデジタル音声信号に信号増幅用のアンプ回路64を含む全ての回路を実装する音声信号処理回路基板32を備えるため、ボイスコイルスピーカー1の前段にパワーアンプなどを介在させる必要がなく、このボイスコイルスピーカー1単独で、スピーカーアンプシステムを構成する。これにより、車載用のスピーカーに特に要求される省スペース化を実現できる。
【0028】
ここで、本実施形態に係る音声信号処理回路基板32には、コネクター36に接続された外部機器から多チャンネルの音声信号が入力される構成となっており、音声信号処理回路基板32は、入力された多チャンネルの音声信号に対して、所定の標本化処理や、所定のフィルタリング処理等の信号処理を実行することによって、多チャンネルの音声信号に応じた音声を出力するために各ボイスコイル22に出力すべき駆動信号を生成し、後述する各ボイスコイル22のそれぞれに接続された錦糸線61(後述)を介して、生成した駆動信号をボイスコイル22のそれぞれに出力する。
なお、本実施形態では、音声信号処理回路基板32に入力される音声信号のチャンネルの数に応じて、ボビン21のボイスコイル22が多層化されている。
【0029】
このように、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、ボビン21に多層のボイスコイル22が形成され、かつ、ボイスコイル22のそれぞれに錦糸線61のそれぞれが接続される構成のため、多数の錦糸線61のそれぞれが確実に干渉しないことが求められる。この要求を満たすべく、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、以下の構成を有している。
【0030】
すなわち、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1では、ボビン21の前方に音声信号処理回路基板32を配置し、この音声信号処理回路基板32とボビン21との間に中継部材73を配置している。
中継部材73は、図1(B)に示すように、内部に前後方向に延びる中央空洞74が形成された筒状の部材である。中継部材73は、音声信号処理回路基板32と同軸上(=中心軸L1上)に位置決めされた上で、接着その他の手段により、音声信号処理回路基板32に対して固定されている。ここで、音声信号処理回路基板32は、ブリッジ29、30を介してスピーカーフレーム13に固定されているため、中継部材73はスピーカーフレーム13に固定された状態となる。
また、中継部材73とボビン21とは隙間Kを介して離間した状態となっている。これは、中継部材73はスピーカーフレーム13に対して固定された部材である一方、ボビン21は音声の出力に伴って振動する部材であるためである。ボビン21の頭頂部には、ボビン21の開口を塞ぐ、センターキャップ90(図2)が取り付けられている。
図1(B)に示すように、音声信号処理回路基板32の中央開口70と、中継部材73の中央空洞74とが同軸上に配置されてこれら開口を連通させた状態で、音声信号処理回路基板32に対し中継部材73が固定される。これにより、振動板24の中央部に対応する位置が塞がれない状態となり、ボイスコイルスピーカー1から出力される音声の音質が低下することが防止されている。
【0031】
音声信号処理回路基板32には、図1(A)に示すように、16個のスルーホール71が略同一円上に、等間隔(=中心軸L1を中心点として等角度)で配置されている。そして、中継部材73の筒部76の前面77(図2)は、スルーホール71を結んでできる仮想円に対応した環状となっており、音声信号処理回路基板32を中継部材73に固定した際に、スルーホール71の全てが、筒部76の前面77と対向した場所に位置する構成となっている。
中継部材73の筒部76の前面77において、スルーホール71のそれぞれと対向する位置には、ピン端子78(図2)が設けられている。音声信号処理回路基板32に対し中継部材73が固定される際に、スルーホール71にピン端子78が挿入され、かつ、各スルーホール71のランドと各ピン端子78とが半田付けにより導通される。このように、音声信号処理回路基板32にスルーホール71を形成すると共に、このスルーホール71に対応させて中継部材73にピン端子78を形成し、かつ、音声信号処理回路基板32に対し中継部材73を固定する際にスルーホール71にピン端子78を挿入することにより、スルーホール71とピン端子78とを電気的に接続する構成としたため、非常に、容易、かつ、確実に、音声信号処理回路基板32に対する中継部材73の固定、及び、音声信号処理回路基板32と中継部材73との電気的な接続を行うことができ、作業性の向上が図られている。
【0032】
ピン端子78には、導電性を有する金属性の金属端子80(導電部材)が接続されている。金属端子80は、筒部76の内部を後方へ向かって、換言すれば、ボビン21へ向かって、中継部材73の後部に至るまで直線的に延出している。本実施形態では、中継部材73は、筒部76の内部の定められた位置に金属端子80が内在するようにインサート成形されて製造されおり、量産化が可能であると共に、中継部材73を成形した後にプリント形成等の技術により中継部材73の金属端子80を固定させる場合と比較して、製造容易性の向上が図られている。
【0033】
中継部材73の筒部76の後部には、筒部76の外面に金属端子80が露出した接続部81が形成されている。この接続部81には、錦糸線61の一端82が接続されている。錦糸線61の他端83は、ボビン21に形成されたボイスコイル22に接続されている。
なお、上記の説明では、図2を用いて、1つのスルーホール71、このスルーホール71にピン端子78を介して接続された金属端子80、及び、この金属端子80に接続された錦糸線61の各部材の関係について説明したが、全てのスルーホール71についても同様の関係となっている。
【0034】
ここで、ボビン21は、音声の出力に伴って振動する部材であるため、ボビン21に形成されたボイスコイル22に接続された錦糸線61は、ボビン21のストローク量を考慮して、撓み部分(遊び部分)を設けなければならない。一方で、錦糸線61の一端82と、他端83との距離が長くなればなるほど、すなわち、錦糸線61の長さが長くなればなるほど、錦糸線61に設けられた撓み部分が大きくなり、これに起因して錦糸線61のそれぞれが干渉する可能性が高くなる。
これを踏まえ、本実施形態では、錦糸線61の一端82と他端83との距離をできるだけ短くすることにより、錦糸線61の長さを短くすると共に、錦糸線61に設けられる撓み部分を小さくし、これにより、錦糸線61のそれぞれの干渉を防止している。
具体的には、音声信号処理回路基板32とボビン21のボイスコイル22とを錦糸線61によって直接接続するのではなく、上述したように、音声信号処理回路基板32とボビン21との間に中継部材73を介在させた上で、中継部材73の筒部76の内部において金属端子80をボビン21へ向かって延出し、中継部材73の筒部76の後部に錦糸線61の一端82が接続される接続部81を形成している。これにより、接続部81とボビン21との物理的な距離が非常に短くなり、これに伴って、錦糸線61の一端82と他端83との距離が短くなり、錦糸線61の長さが短くなり、錦糸線61に設けられる撓み部分が小さくなり、錦糸線61のそれぞれの干渉が防止される。
【0035】
さらに、本実施形態では、音声信号処理回路基板32においてスルーホール71のそれぞれは、略同一円上に等間隔に配置されているため、このスルーホール71に対応して形成される接続部81も略同一円上に等間隔に配置され、これにより複数(16本)の錦糸線61のそれぞれは、同一円上に等間隔に配置された接続部81のそれぞれにその一端82が接続された上で、ボビン21へ向かって延出する構成となり、錦糸線61のそれぞれの間に介在する物理的な距離を最も効率よく確保することができ、錦糸線61の干渉がより効果的に防止されている。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、スピーカー本体11に、多層のボイスコイル22を形成したボビン21と、ボビン21に接続される振動板24とを備えている。そして、ボビン21の前方に音声信号を処理する音声信号処理回路基板32を配置し、音声信号処理回路基板32とボビン21との間に金属端子80(導電部材)を備える中継部材73を配置し、中継部材73の金属端子80を介して音声信号処理回路基板32に設けられた複数のスルーホール71(出力端子)のそれぞれと多層のボイスコイル22のそれぞれとを接続している。
これによれば、振動板24の前方に音声信号処理回路基板32を配置することにより、振動板24の前方に形成されたスペースを有効活用した上で、音声信号処理回路基板32を適切に配置できる。また、振動板24の前方に音声信号処理回路基板32を配置することにより、音声の出力による振動板24の振動に伴って、音声信号処理回路基板32に対し空気が吹き付けることとなり、音声信号処理回路基板32の効率的な冷却を実現できる。さらに、中継部材73の金属端子80を介して音声信号処理回路基板32に設けられた複数のスルーホール71(出力端子)のそれぞれと多層のボイスコイル22のそれぞれとを接続することにより、スルーホール71とボイスコイル22と確実に電気的に接続できる。
【0037】
また、本実施形態では、音声信号処理回路基板32は環状の回路基板であり、かつ、中継部材73は筒状の部材である。そして、音声信号処理回路基板32に形成された中央開口70と、中継部材73に形成された中央空洞74とが同軸上に配置されるように、中継部材73及び音声信号処理回路基板32が配置されている。
これによれば、振動板24の中央部に対応する位置が塞がれない状態となり、ボイスコイルスピーカー1から出力される音声の音質が低下することが防止されている。
【0038】
また、本実施形態では、中継部材73の筒部76の内部を延出させて金属端子80を設けている。
これによれば、筒状の中継部材73に好適に金属端子80を設けることができる。特に、本実施形態では、中継部材73は、筒部76の内部の定められた位置に金属端子80が内在するようにインサート成形されて製造されおり、量産化が可能であると共に、中継部材73を成形した後にプリント形成等の技術により中継部材73の金属端子80を固定させる場合と比較して、製造容易性の向上が図られている。
【0039】
また、本実施形態では、中継部材73を、音声信号処理回路基板32に固定し、かつ、ボビン21と離間して配置し、音声信号処理回路基板32に接続される金属端子80を、中継部材73に固定した状態でボビン21へ向かって延出すると共に、中継部材73に固定された金属端子80と、ボイスコイル22のそれぞれとを錦糸線61によって接続している。
これによれば、錦糸線61の長さを、ボビン21のストローク量を考慮した撓み部分を持たせた上で、金属端子80とボイスコイル22とを接続するために必要な長さとすることができ、音声信号処理回路基板32とボイスコイル22とを錦糸線61により直接接続する場合と比較し、錦糸線61を短くでき、これにより、錦糸線61の干渉を防止できる。
【0040】
また、本実施形態では、中継部材73において、金属端子80に錦糸線61が接続される部位である接続部81を、中継部材73のボビン21側の端部に設けている。
これによれば、錦糸線61をさらに短くでき、これにより、錦糸線61の干渉を防止できる。
【0041】
また、本実施形態では、中継部材73に金属端子80に接続されたピン端子78を設け、音声信号処理回路基板32のスルーホール71にピン端子78を接続した上で、中継部材73を音声信号処理回路基板32に固定している。
このように、音声信号処理回路基板32にスルーホール71を形成すると共に、このスルーホール71に対応させて中継部材73にピン端子78を形成し、音声信号処理回路基板32に対し中継部材73を固定する際に、スルーホール71にピン端子78を挿入することにより、スルーホール71とピン端子78とを電気的に接続する構成としたため、非常に、容易、かつ、確実に、音声信号処理回路基板32に対する中継部材73の固定、及び、音声信号処理回路基板32と中継部材73との電気的な接続、を行うことができ、作業性の向上が図られている。
【0042】
また、本実施形態では、音声信号処理回路基板32に音声信号増幅用のアンプ回路64が実装されている。
ここで、アンプ回路64は、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1にとって必須の部材であるが、同じく必須の部材である音声信号処理回路基板32にアンプ回路64を実装することにより、省スペース化を実現している。さらに、本実施形態では、音声の出力に伴う振動板24の振動により、音声信号処理回路基板32に実装された各回路を冷却可能な構成となっており、音声信号処理回路基板32にアンプ回路64を実装することにより、このアンプ回路64の冷却が可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、音声信号処理回路基板32に多チャンネルの音声信号が入力され、音声信号処理回路基板32は、多チャンネルの音声信号に対応した信号処理を実行し、干渉が防止された錦糸線61を介してボイスコイル22に駆動信号を出力し、ボビン21を振動させる。これにより、多チャンネルの音声信号に係る音声を、適切に出力できる。
【0044】
また、本実施形態では、スピーカー本体11の前部に帯状のブリッジ29、30を掛け渡して、ブリッジ29、20により音声信号処理回路基板32を支持している。
これによれば、スピーカー開口10の開口部分をできるだけ確保した状態で、振動板24の前方において確実、かつ、強固に音声信号処理回路基板32を支持することができる。
【0045】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述した実施形態では、音声信号処理回路基板32に16個のスルーホール71(出力端子)が設けられ、これに対応して16本の錦糸線61が存在していたが、出力端子の数や、錦糸線61の数はこれに限られない。すなわち、ボビン21に多層のボイスコイル22が形成されていることに起因して、錦糸線61が複数存在しているボイスコイルスピーカー1に対し、広く本発明を適用可能である。
また、本実施形態に係る音声信号処理回路基板32は環状であったが、例えば、C字状であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 ボイスコイルスピーカー
11 スピーカー本体
21 ボビン
22 ボイスコイル
24 振動板
29 上ブリッジ(ブリッジ)
30 下ブリッジ(ブリッジ)
32 音声信号処理回路基板(回路基板)
61 錦糸線
64 アンプ回路
70 中央開口
71 スルーホール(出力端子)
73 中継部材
74 中央空洞
76 筒部
78 ピン端子
80 金属端子(導電部材)
81 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカー本体に、多層のボイスコイルを形成したボビンと、前記ボビンに接続される振動板とを備えたボイスコイルスピーカーにおいて、
前記ボビンの前方に音声信号を処理する回路基板を配置し、前記回路基板と前記ボビンとの間に導電部材を備える中継部材を配置し、前記中継部材の前記導電部材を介して前記回路基板に設けられた複数の出力端子のそれぞれと前記多層のボイスコイルのそれぞれとを接続したことを特徴とするボイスコイルスピーカー。
【請求項2】
前記回路基板を環状とし、かつ、前記中継部材を筒状とし、
前記回路基板に形成された中央開口と、前記中継部材に形成された中央空洞とが同軸上に配置されるように、前記中継部材及び前記回路基板を配置したことを特徴とする請求項1に記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項3】
前記中継部材の筒部の内部を延出させて前記導電部材を設けたことを特徴とする請求項2に記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項4】
前記中継部材を、前記回路基板に固定し、かつ、前記ボビンと離間して配置し、
前記回路基板に接続される前記導電部材を、前記中継部材に固定した状態で前記ボビンへ向かって延出すると共に、前記中継部材に固定された前記導電部材と、前記ボイスコイルのそれぞれとを錦糸線によって接続したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項5】
前記導電部材と前記錦糸線との接続部を、前記中継部材の前記ボビン側の端部に設けたことを特徴とする請求項4に記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項6】
前記中継部材に前記導電部材に接続されたピン端子を設け、前記回路基板の前記出力端子としてのスルーホールに前記ピン端子を接続した上で、前記中継部材を前記回路基板に固定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項7】
前記複数の出力端子のそれぞれを前記回路基板の周方向に間隔をあけて配列したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項8】
前記回路基板に音声信号増幅用のアンプ回路を実装したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項9】
前記回路基板に多チャンネルの音声デジタル信号が入力されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。
【請求項10】
前記スピーカー本体の前部に帯状のブリッジを掛け渡して、前記ブリッジにより前記回路基板を支持したことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のボイスコイルスピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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