説明

ボラジン化合物の製造方法

【課題】 分解物の含量が少なく、高純度のボラジン化合物を高収率で製造しうる手段を提供する。
【解決手段】 ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、または、ジボラン(B)と、RNH(Rは水素原子またはアルキル基である)で表されるアミンとを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、を有し、水分含量が1質量%以下の前記アミン塩または前記アミンが反応に用いられることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物の製造方法に関する。ボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2003−119289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボラジン化合物を製造する手法としては、1)水素化ホウ素アルカリ(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)とアミン塩(例えば、メチルアミン塩酸塩)とを溶媒中で反応させる手法;2)ジボラン(B)とアミン(例えば、メチルアミン)とを溶媒中で反応させる手法、が知られている。
【0006】
ところで、上記の反応により得られたボラジン化合物を分析すると、ごく微量ではあるものの、ボラジン化合物の分解物とみられる化合物(例えば、アミンおよびホウ酸)が含まれ、ボラジン化合物の純度が低下してしまう。かようなボラジン化合物の純度低下は、最終的にはボラジン化合物を用いて製造された半導体の層間絶縁膜など性能の低下を引き起こしてしまうという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、分解物の含量が少なく、高純度のボラジン化合物を高収率で製造しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、ボラジン化合物を合成する際に必ず一定量含まれてしまう分解物の発生原因を鋭意検討した。その過程で、ボラジン化合物は水分に弱く、水分との接触により分解し、分解物であるアミンおよびホウ酸を生成しうることを見出した。また、本発明者らは、ボラジン化合物の合成原料のうち、特にアミン類(アミン塩またはアミン)が水分を含みやすいことを見出した。その結果、ボラジン化合物の合成原料のうち、特にアミン類の水分含量を低い値に制御することで、分解物の含量が少なく、高純度のボラジン化合物を製造しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、または、ジボラン(B)と、RNH(Rは水素原子またはアルキル基である)で表されるアミンとを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、を有し、水分含量が1質量%以下の前記アミン塩または前記アミンが反応に用いられることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分解物の含量が少なく、高純度のボラジン化合物が高収率で製造されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階(以下、「合成段階1」とも称する)、または、ジボラン(B)と、RNH(Rは水素原子またはアルキル基である)で表されるアミンとを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階(以下、「合成段階2」とも称する)、を有し、水分含量が1質量%以下の前記アミン塩または前記アミンが反応に用いられることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法である。
【0012】
以下、本発明の製造方法について、合成段階1と合成段階2とに分けて説明する。
【0013】
まず、合成段階1を有する製造方法について詳細に説明する。合成段階1では、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する。
【0014】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0015】
アミン塩((RNHX)において、Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素原子である。n=2のとき、Rは、同一であっても異なっていてもよい。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)が挙げられる。
【0016】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−トリメチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0017】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0018】
続いて、合成段階2を有する製造方法について詳細に説明する。合成段階2では、ジボラン(B)と、RNH(Rは水素原子またはアルキル基である)で表されるアミンとを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する。
【0019】
ジボランは、「B」の化学式で表される化合物である。なお、ジボランは、テトラヒドロフラン等により錯体化されたものでもよい。また、アミンにおいて、Rは、合成段階1の欄でアミン塩について説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0020】
使用するアミンは、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−トリメチルボラジンを製造する場合には、アミンとして、モノメチルアミンなどの、Rがメチル基であるアミンを用いればよい。
【0021】
ジボランとアミンとの混合比は、特に限定されないが、アミンの使用量を1モルとした場合に、ジボランの使用量を1.0〜1.2モルとすることが好ましい。
【0022】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0023】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件、およびジボランとアミンとの反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0024】
ボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0025】
【化1】

【0026】
式中、Rは、合成段階1の欄でアミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。ボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。なお、製造されるボラジン化合物の耐水性等の安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、N−アルキルボラジンであることが好ましい。
【0027】
本発明は、ボラジン化合物を合成する際の原料として、水分含量の少ないアミン塩(上記の合成段階1を用いてボラジン化合物を合成する場合)またはアミン(上記の合成段階2を用いてボラジン化合物を合成する場合)を用いる点に特徴を有する。
【0028】
具体的には、本発明において、原料であるアミン塩またはアミンの水分含量は1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。水分含量がこのように少ないアミン塩またはアミンを用いてボラジン化合物を合成することで、合成されたボラジン化合物の、水分の混入に起因する分解が効果的に抑制され、高純度のボラジン化合物の合成が可能となる。また、ジボランとアミンとの反応によりボラジン化合物を合成する場合、アミンの水分含量が多いと、ジボランがアミンに含まれる水分と速やかに反応して、ホウ酸が生成してしまう。これに対し、本発明によれば、かような問題の発生もまた、効果的に抑制されうる。なお、アミン塩またはアミンの水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、アミン塩またはアミンの水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、アミン塩またはアミンの水分含量は10質量ppm以上である。
【0029】
水分含量の少ないアミン塩またはアミンの入手経路は、特に制限されない。水分含量の少ないアミン塩またはアミンの商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて、ボラジン化合物の合成に用いてもよい。
【0030】
アミン塩またはアミンの水分含量を自ら低減させる手法についても特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。アミン塩またはアミンの水分含量を自ら低減させる手法の一例としては、加熱乾燥、減圧乾燥、乾燥剤(例えば、シリカゲルや硫酸ナトリウム)による乾燥などが挙げられる。なかでも、好ましくは加熱乾燥が採用されうる。この際の加熱温度は特に制限されず、アミン塩またはアミンが分解しない程度に低く、乾燥時間が長くなりすぎない程度に高い温度を採用すればよい。具体的には、加熱乾燥時の加熱温度は、好ましくは20〜150℃程度であり、より好ましくは60〜100℃程度である。加熱乾燥時の温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する虞がある。一方、加熱乾燥時の温度が高すぎると、取り出しのための冷却に長時間を要する虞がある。
【0031】
加熱乾燥によるアミン塩またはアミン中の水分含量の低減処理は、減圧条件下において行われることが好ましい。この際の具体的な圧力条件は特に制限されないが、好ましくは0.0001〜0.7Pa程度であり、より好ましくは0.001〜0.1Paである。減圧時の圧力が小さすぎると、ボラジン化合物が昇華してしまう虞がある。一方、減圧時の圧力が大きすぎると、乾燥に長時間を要する虞がある。
【0032】
本発明の好ましい形態においては、他の原料の水分含量もまた、低い値に制御される。かような形態によれば、水分との接触によるボラジン化合物の分解およびこれに伴う純度低下がより一層抑制されうる。
【0033】
具体的には、水素化ホウ素アルカリ(上記の合成段階1を用いてボラジン化合物を合成する場合)の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、水素化ホウ素アルカリまたはジボランの水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、水素化ホウ素アルカリの水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、水素化ホウ素アルカリの水分含量は10質量ppm以上である。
【0034】
水分含量の少ない水素化ホウ素アルカリまたはジボランの入手経路、自ら水分含量を低減させる手法などの形態については、アミン塩またはアミンについて上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0035】
本発明のさらに他の好ましい形態においては、合成に用いられる溶媒の水分含量もまた、低い値に制御される。かような形態によってもまた、水分との接触によるボラジン化合物の分解およびこれに伴う純度低下がより一層抑制されうる。
【0036】
具体的には、溶媒の水分含量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、溶媒の水分含量の値としては、後述する実施例において採用される手法により測定される値を採用するものとする。また、上記の観点からは、溶媒の水分含量は少ないほど好ましく、水分含量の下限値は特に限定されないが、実用上、溶媒の水分含量は10質量ppm以上である。
【0037】
水分含量の少ない溶媒の入手経路については特に制限されない。水分含量の少ない溶媒の商品が市販されている場合には当該商品を購入したものを用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて、ボラジン化合物の合成に用いてもよい。
【0038】
溶媒の水分含量を自ら低減させる手法についても特に制限されず、化学合成の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の水分含量を自ら低減させる手法の一例としては、例えば、乾燥剤を添加した後に蒸留するといった手法が挙げられる。
【0039】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0040】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。少量のボラジン化合物を処理するのであれば、蒸留管を用いた蒸留精製が用いられうる。例えば、少量のボラジン化合物を処理する蒸留装置の具体例としては、3つ口フラスコにクライゼン型の連結管でリービッヒ冷却管を取り付けた蒸留装置が用いられうる。ただし、このような蒸留装置を用いる実施形態に、本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
【0041】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0042】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、ボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物が用いられてもよい。ボラジン化合物またはボラジン化合物の誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0043】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法が用いられうる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0045】
なお、下記の実施例および比較例において、原料であるアミン塩および水素化ホウ素アルカリ、並びに溶媒の水分含量は、以下の手法により測定した。
【0046】
すなわち、アミン塩および溶媒の水分含量については、カールフィッシャーAQ−7(平沼産業株式会社製)を用いて測定した。この際、発生液としてはアクアライトRSを用い、対極液としてはアクアライトCNを用いた。
【0047】
また、水素化ホウ素アルカリの水分含量については、カールフィッシャーCA−100(三菱化学株式会社製)を用いて測定した。この際、発生液としてはアクアミクロンAXを用い、対極液としてはアクアミクロンCXUを用いた。
【0048】
さらに、ボラジン化合物の純度は、ガスクロマトグラフィを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
【0049】
【表1】

【0050】
<実施例>
まず、反応原料であるアミン塩として、メチルアミン塩酸塩を準備した。次いで、このメチルアミン塩酸塩を80℃、0.07MPaの雰囲気下に12時間放置して、加熱減圧乾燥させた。
【0051】
同様に反応原料である水素化ホウ素アルカリとして、水素化ホウ素ナトリウムを準備した。この水素化ホウ素ナトリウムを25℃、0.07MPaの雰囲気下に12時間放置して、減圧乾燥させた。
【0052】
一方、溶媒として、トリグライムを準備した。そして、モレキュラーシーブ3A(巴工業株式会社製)を添加することにより、このトリグライムを乾燥させた。
【0053】
冷却器を備えた反応容器に、窒素置換しながら、上記で乾燥させたメチルアミン塩酸塩(33.5g;水分含量=200質量ppm)、および上記で乾燥させたトリグライム(98.6g;水分含量=130質量ppm)を仕込み、反応系を100℃まで昇温した。
【0054】
一方、上記で乾燥させた水素化ホウ素ナトリウム(21.0g;水分含量=300質量ppm)を準備し、これを別途準備した、上記で乾燥させたトリグライム(88.7g;水分含量=130質量ppm)中に添加して、スラリーを調製した。
【0055】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを、上記で100℃に昇温した反応容器に1時間かけてゆっくりと添加した。
【0056】
スラリー添加終了後、反応系を200℃まで2時間かけて昇温し、さらに200℃にて2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジンを合成した。
【0057】
得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンを150〜220℃にて蒸留して、15.4gの精製N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られた精製N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度を測定したところ、99.8%であった。
【0058】
<比較例1>
冷却器を備えた反応容器に、窒素置換しながら、乾燥させていないメチルアミン塩酸塩(33.5g;水分含量=1.3質量%)、および乾燥させていないトリグライム(98.6g;水分含量=2.0質量%)を仕込み、反応系を100℃まで昇温した。
【0059】
一方、乾燥させていない水素化ホウ素ナトリウム(21.0g;水分含量=2.0質量%)を準備し、これを別途準備した乾燥させていないトリグライム(88.7g;水分含量=2.0質量%)中に添加して、スラリーを調製した。
【0060】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを、上記で100℃に昇温した反応容器に1時間かけてゆっくりと添加した。
【0061】
スラリー添加終了後、反応系を200℃まで2時間かけて昇温し、さらに200℃にて2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジンを合成した。
【0062】
得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンを150〜220℃にて蒸留して、1.5gの精製N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られた精製N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度を測定したところ、93.5%であった。
【0063】
<比較例2>
冷却器を備えた反応容器に、窒素置換しながら、乾燥させていないメチルアミン塩酸塩(33.5g;水分含量=2.0質量%)、および上記で乾燥させたトリグライム(98.6g;水分含量=250質量ppm)を仕込み、反応系を100℃まで昇温した。
【0064】
一方、上記で乾燥させた水素化ホウ素ナトリウム(21.0g;水分含量=400質量ppm)を準備し、これを別途準備した、上記で乾燥させたトリグライム(88.7g;水分含量=250質量ppm)中に添加して、スラリーを調製した。
【0065】
上記で調製した水素化ホウ素ナトリウムのスラリーを、上記で100℃に昇温した反応容器に1時間かけてゆっくりと添加した。
【0066】
スラリー添加終了後、反応系を200℃まで2時間かけて昇温し、さらに200℃にて2時間熟成して、N,N’,N”−トリメチルボラジンを合成した。
【0067】
得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンを150〜220℃にて蒸留して、8.7gの精製N,N’,N”−トリメチルボラジンを得た。得られた精製N,N’,N”−トリメチルボラジンの純度を測定したところ、97.4%であった。
【0068】
以上の実施例および比較例に示す結果から、ボラジン化合物の合成原料であるアミン塩の水分含量を低い値に制御することにより、合成されるボラジン化合物の純度および収率を向上させうることが示される。さらに、ボラジン化合物の合成原料である水素化ホウ素アルカリ、および合成に用いる溶媒の水分含量をも低い値に制御することで、合成されるボラジン化合物の純度および収率をより一層向上させうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、または、
ジボラン(B)と、RNH(Rは水素原子またはアルキル基である)で表されるアミンとを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する段階、
を有し、水分含量が1質量%以下の前記アミン塩または前記アミンが反応に用いられることを特徴とする、ボラジン化合物の製造方法。
【請求項2】
水分含量が1質量%以下の前記水素化ホウ素アルカリが反応に用いられる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水分含量が1質量%以下の前記溶媒が反応に用いられる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アミン塩または前記アミンの水分含量が、20〜150℃での加熱乾燥により1質量%以下とされたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱乾燥時の圧力条件が、0.0001〜0.7Paの減圧条件である、請求項4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−55932(P2007−55932A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242733(P2005−242733)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】