ボルト接合部の制振構造
【課題】長期的に初期の制振性能が得られるボルト接合部の制振構造を提供する。
【解決手段】第1圧接板14と、第2圧接板10,12とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、第1圧接板14と第2圧接板10,12との間に、摩擦板22と滑動板Sとを重合させた状態で介装させて、第1圧接板14と第2圧接板10,12との相対移動時に、摩擦板22と滑動板Sとを相対的に滑動可能とし、第1圧接板14及び第2圧接板10,12にボルト貫通孔14a,21を形成するとともに、該第1圧接板14の該ボルト貫通孔14aを、該第1圧接板14の長さ方向に沿った長孔とした。
【解決手段】第1圧接板14と、第2圧接板10,12とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、第1圧接板14と第2圧接板10,12との間に、摩擦板22と滑動板Sとを重合させた状態で介装させて、第1圧接板14と第2圧接板10,12との相対移動時に、摩擦板22と滑動板Sとを相対的に滑動可能とし、第1圧接板14及び第2圧接板10,12にボルト貫通孔14a,21を形成するとともに、該第1圧接板14の該ボルト貫通孔14aを、該第1圧接板14の長さ方向に沿った長孔とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物架構を構成する各鉄骨部材を結合する際に用いられるボルト接合部に適用され、地震や強風等により発生する建物架構の振動を制振するボルト接合部の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱及び鉄骨梁を互いに結合して構成される建物架構は、一般に多層階ビルディングに適用され、この鉄骨構造の建物架構では、ブレースが地震や風等の水平力に対する抵抗要素として用いられている。
【0003】
これら鉄骨柱、鉄骨梁、ブレースなどの鉄骨部材は、溶接やボルトを介して接合してラーメン架構が構成される。特に、ボルトにより接合した場合には、大地震や強風などによって過大な水平力が作用した際に、剛結構造となるラーメン架構であっても、接合した2部材の接合部分にズレが生じる。そして、このズレによって大きな摩擦抵抗力が発生し、この摩擦抵抗力によって地震や風による振動エネルギーが消耗され、建物架構の制振機能が発揮される。
【0004】
図13にボルト接合部の一例を示す。このボルト接合部は、一方の鉄骨部材から一対の外板1、1aを突設し、他方の鉄骨部材から中板2を突設し、中板2を一対の外板1、1a間に挟み込み、これら外板1、1aと中板2との間にボルト3を挿通させて、ナット3aにより締め付けたものである。
【0005】
この場合、中板2のボルト挿通孔は長孔4に形成され、一方の鉄骨部材と他方の鉄骨部材との間に引っ張り方向又は圧縮方向への過大な相対変位力Pが入力した場合に、この長孔4によって外板1、1aと中板2との相対移動が許容される。そして、この外板1、1aと中板2との相対移動時に発生する摩擦抵抗力Rは、ボルト3の軸力Nと、外板1、1aと中板2との接触面の摩擦係数μとの積、R=μ・Nによって決定される。なお、軸力Nは、ナット3aの締付け力によって調節され、また、摩擦係数μは外板1、1aと中板2との接触面の表面粗さによって調節される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような構成のボルト接合部の制振構造にあっては、ナット3aの締付け力によってボルト3に軸力Nを発生させており、この軸力Nは外板1、1a間に直接締付け力として作用しているため、所定の摩擦抵抗力Rを発生させるためのナット3aの締付け力の調整が非常に困難である。
【0007】
また、所定の締付け力を付加しても、外板1、1aと中板2との間の相対滑りが繰り返されることにより、双方の滑動面が摩耗して摩擦係数μが徐々に小さくなってしまう。さらに、摩耗した分だけナット3aによる締付け力が減少し、ボルト3の軸力Nが小さくなってしまう。このため、予め設定した摩擦抵抗力R(=μ・N)が、μとNとの双方の減
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、互いに接合された鉄骨部材間で相対滑りが繰り返されても、常に、ほぼ一定の摩擦抵抗力を発生させることができて、安定した制振機能を発揮することができるボルト接合部の制振構造を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、互いに接合しようとする2つの鉄骨部材の一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と、他方の鉄骨部材に属する第2圧接板とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって前記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、前記第1圧接板と前記第2圧接板との間に、摩擦板と滑動板とを重合させた状態で介装させて、前記第1圧接板と前記第2圧接板との相対移動時に、前記摩擦板と前記滑動板とを相対的に滑動可能とし、前記第1圧接板及び前記第2圧接板にボルト貫通孔を形成するとともに、該第1圧接板の該ボルト貫通孔を、該第1圧接板の長さ方向に沿った長孔としたことを特徴とする。
【0009】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と他方の鉄骨部材に属する第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板とを第1圧接板の長さ方向に沿って相対的に滑動させることができることになる。
この場合、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板に別途取り付けられるので、第1圧接板及び第2圧接板に構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができる。また、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元力特性が得られるように、摩擦板と滑動板との最適な組合せを適宜に選択することができる。さらに、滑動板及び摩擦板に様々な材質を施した板材を適用することができる。
【0010】
さらに、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板と別部材として薄板で形成することができるので、材質を高価な新素材としても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。
さらに、摩擦板及び滑動板に高耐久性のものを選択して使用することができるので、建物の供用期間中など、制振構造の性能を一定に保つことができ、メンテナンスフリー化することも可能となる。
さらに、滑り部分の損耗が激しく、制振構造部分を交換する必要が生じた場合であっても、滑動板又は摩擦板のみを取り替えることによって対応することができる。さらに、摩擦板及び滑動板を薄板に形成することができるので、重量的にも有利になり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のボルト接合部の制振構造であって、前記第1圧接板の両側には、前記第1圧接板を両側から挟むように一対の前記第2圧接板が設けられ、各第2圧接板と前記第1圧接板との間にそれぞれ前記摩擦板と前記滑動板とが重合された状態で介装され、一方の摩擦板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか一方との間、一方の滑動板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか他方との間、他方の摩擦板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか一方との間、及び他方の滑動板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか他方との間に、それぞれ前記表面粗さの増大化処理が施されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板を両側から一対の第2圧接板によって挟み込み、各第2圧接板と第1圧接板との間にそれぞれ摩擦板と滑動板とを重合した状態で介装させたので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力した場合に、一対の第2圧接板間に第1圧接板が挟まれた状態で両者が相対移動するため、一対の第2圧接板間にボルトの軸力(締付け力)を付加した状態で、各摩擦板と滑動板とが相対的に滑動しても、ボルトが傾いてこじれが生じるようなことはなく、スムーズに相対移動することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板又は前記滑動板の少なくとも何れか一方は、前記第1圧接板又は前記第2圧接板に交換可能に取り付けられていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板及び滑動板を交換することができるので、鉄骨部材はそのままとして、制振要素のみに対する交換作業で制振性能を容易に復元することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記滑動板は、耐食性を有する材料で形成されていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、滑動板は耐食性を有する材料から形成されることになるので、滑動板と摩擦板とが対峙する滑動面は腐食などによる経時的な変化に強く、特に、メンテナンスを施すことなく、長期に渡って安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1から4の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記滑動板は、ステンレスやチタンを素材として形成されていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、良好かつ安定した制振性能を長期に渡って保証することができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1から5の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板を、一定の摩擦係数を有する摩耗の少ない部材として形成することができる。従って、第1圧接板と第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板との間の摩擦係数を一定に維持することができるので、摩擦板と滑動板とを円滑に相対滑動させることができるとともに、滑動部分の摩耗を抑制することができるので、ボルトの軸力を一定に維持することもできる。
【0018】
従って、第1圧接板と第2圧接板との間の相対移動部分に発生する、摩擦係数とボルトの軸力との積として得られる摩擦抵抗力をほぼ一定に維持することができ、この結果、2つの鉄骨部材間の減衰力特性の安定化を図ることができ、初期の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項1から6の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板は、前記滑動板と圧接する面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込むための凹部を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板と滑動板との相対的な滑動によって摩擦熱が発生しても、その摩擦熱を凹部内の空気内に放散させることにより、摩擦板の表面温度の上昇を防止できるので、摩擦板の表面の炭化、脱落による摩耗粉の発生を抑制することができる。また、摩耗粉が発生しても、その摩耗粉を凹部内に取り込むことができるので、摩耗粉が摩擦板と滑動板との間に噛み込むことによって摩擦板及び滑動板の滑動面が傷ついたりするようなことはなく、また、摩擦粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板と滑動板との間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振性能を発揮することができる。さらに、摩耗粉の噛み込みを防止できるので、摩擦板及び滑動板の滑動面から異音が発生するのを防止でき、制振時に発生する音を著しく低減させることがきる。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1から7の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記第1圧接板と前記第2圧接板との重合部分の前記ボルト軸力を付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介在させ、該ボルトに所定の軸力を発生させた状態で、該付勢手段が前記非線形ばね領域内でたわみ変形するように設定したことを特徴とする。
【0022】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板と第2圧接板との間の隙間の変動を付勢手段によって吸収することができるので、このときの変動吸収によって付勢手段のたわみ量が変化した場合であっても、付勢手段が非線形ばね領域に設定されているので、弾発力(ボルトの軸力)をほぼ一定に維持することができる。
【0023】
すなわち、振動入力がない状態では、第1圧接板と第2圧接板とは大きな静摩擦力によって固定状態が維持されるが、所定値以上の振動変位力の入力によって固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃となって現れるが、このときの反発力を付勢手段によってボルトの軸力を変化させることになく吸収することができる。従って、皿ばねを入れることによって緩衝作用が生じ、過大な振動力が入力した場合にも、音や衝撃の発生を抑制しつつ制振性能を十分に発揮することができる。
【0024】
また、付勢手段は、第1圧接板及び第2圧接板が相対移動する際の滑動面に摩耗が生じた場合にも、その弾発力がほぼ一定に維持されるので、摩擦抵抗力が低下するのを防止することができ、当初の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0025】
請求項9に係る発明は、請求項1から8の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記鉄骨部材はH形やI形などの形鋼であり、前記第1圧接板及び前記第2圧接板がこれら形鋼に属する板部分であることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、鉄骨部材が形鋼であれば、それが有する板部分を利用して簡単に制振構造を構成することができるので、制振作用を簡単に確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の請求項1に記載のボルト接合部の制振構造によれば、一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と他方の鉄骨部材に属する第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板とを第1圧接板の長さ方向に沿って、摩擦板と滑動板とを相対的に確実に滑動させることができる。従って、摩擦板と滑動板との相対的な滑動による所定の制振性能が確実に得られることになり、入力する振動を効果的に減衰することができる。
【0027】
また、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板に別途取り付けられているので、第1圧接板及び第2圧接板に構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができるとともに、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元力特性が得られるように、摩擦板と滑動板との最適な組合せを適宜に選択することができる。さらに、滑動板及び摩擦板に様々な材質を施した板材を適用することができる。さらに、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板と別部材として薄板で形成することができるので、材質を高価な新素材としても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。さらに、摩擦板及び滑動板に高耐久性のものを選択して使用することができるので、建物の供用期間中など、制振構造の性能を一定に保つことができ、メンテナンスフリー化することも可能となる。
【0028】
さらに、滑り部分の損耗が激しく、制振構造部分を交換する必要が生じた場合であっても、滑動板又は摩擦板のみを取り替えることによって対応することができる。さらに、摩擦板及び滑動板を薄板に形成することができるので、重量的にも有利になり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0029】
さらに、本発明の請求項2に記載のボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板を両側から一対の第2圧接板によって挟み込み、各第2圧接板と第1圧接板との間にそれぞれ摩擦板と滑動板とを重合した状態で介装させたので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力した場合に、一対の第2圧接板間に第1圧接板が挟まれた状態で両者が相対移動するため、一対の第2圧接板間にボルトの軸力(締付け力)を付加した状態で、各摩擦板と滑動板とが相対的に滑動しても、ボルトが傾いてこじれが生じるようなことはなく、スムーズに相対移動することができる。
従って、摩擦板と滑動板との相対的な滑動による所定の制振性能が確実に得られることになり、入力する振動を効果的に減衰することができる。
【0030】
さらに、本発明の請求項3に記載のボルト接合部の制振構造によれば、制振要素のみに対する交換作業で制振性能を容易に復元することができる。
【0031】
さらに、本発明の請求項4に記載のボルト接合部の制振構造によれば、滑動板は耐食性を有する材料から形成されることになるので、滑動板と摩擦板とが対峙する滑動動面は腐食などによる経時的な変化に強く、特に、メンテナンスを施すことなく、長期に渡って安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することができる。
【0032】
さらに、本発明の請求項5に記載のボルト接合部の制振構造によれば、良好かつ安定した制振性能を長期に渡って保証することができる。
【0033】
さらに、本発明の請求項6に記載のボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板を、一定の摩擦係数を有する摩耗の少ない部材として形成することができるので、第1圧接板と第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板との間の摩擦係数を一定に維持することができるので、摩擦板と滑動板とを円滑に相対滑動させることができるとともに、滑動部分の摩耗を抑制することができるので、ボルトの軸力を一定に維持することもできる。従って、第1圧接板と第2圧接板との間の相対移動部分に発生する、摩擦係数とボルトの軸力との積として得られる摩擦抵抗力をほぼ一定に維持することができ、この結果、2つの鉄骨部材間の減衰力特性の安定化を図ることができ、初期の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0034】
さらに、本発明の請求項7に記載のボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板と滑動板との相対的な滑動によって摩擦熱が発生しても、その摩擦熱を凹部内の空気内に放散させることにより、摩擦板の表面温度の上昇を防止できるので、摩擦板の表面の炭化、脱落による摩耗粉の発生を抑制することができる。また、摩耗粉が発生しても、その摩耗粉を凹部内に取り込むことができるので、摩耗粉が摩擦板と滑動板との間に噛み込むことによって摩擦板及び滑動板の滑動面が傷ついたりするようなことはなく、また、摩擦粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板と滑動板との間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振性能を発揮することができる。さらに、摩耗粉の噛み込みを防止できるので、摩擦板及び滑動板の滑動面から異音が発生するのを防止でき、制振時に発生する音を著しく低減させることがきる。
【0035】
さらに、本発明の請求項8に記載のボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板と第2圧接板との間の隙間の変動を付勢手段によって吸収することができるので、このときの変動吸収によって付勢手段のたわみ量が変化した場合であっても、付勢手段が非線形ばね領域に設定されているので、弾発力(ボルトの軸力)をほぼ一定に維持することができる。すなわち、振動入力がない状態では、第1圧接板と第2圧接板とは大きな静摩擦力によって固定状態が維持されるが、所定値以上の振動変位力の入力によって固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃となって現れるが、このときの反発力を付勢手段によってボルトの軸力を変化させることになく吸収することができる。従って、皿ばねを入れることによって緩衝作用が生じ、過大な振動力が入力した場合にも、音や衝撃の発生を抑制しつつ制振性能を十分に発揮することができる。また、付勢手段は、第1圧接板及び第2圧接板が相対移動する際の滑動面に摩耗が生じた場合にも、その弾発力がほぼ一定に維持されるので、摩擦抵抗力が低下するのを防止することができ、当初の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0036】
さらに、本発明の請求項9に記載のボルト接合部の制振構造によれば、鉄骨部材が形鋼であれば、それが有する板部分を利用して簡単に制振構造を構成することができるので、制振作用を簡単に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1〜図6には、本発明によるボルト接合部の制振構造の一実施の実施形態が示されていて、図1は要部分解斜視図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図1のB−B線断面図、図4は図2のC部の拡大図、図5は図1の滑動板の平面図、図6は図1の皿ばねの特性図である。
【0038】
すなわち、このボルト接合部の制振構造は、Y型、K型、W型、X型などの各種のブレースに適用したものであって、H形鋼又はI形鋼(この実施の形態においてはH形鋼)からなるブレース1を適宜の位置で互いに間隔を隔てるように分断し、この分断箇所に摩擦ダンバー8を組み込んで構成したものである。
【0039】
H形鋼は、図1に示すように、ウエブ14と、ウエブ14の上下に一体に形成される一対のフランジ15、15とから構成され、ウエブ14、各フランジ15にそれぞれ摩擦ダンパー8が取り付けられている。この場合、ウエブ14、フランジ15が第1圧接板として機能し、後述するスプライスプレート10、12が第2圧接板として機能する。
【0040】
各摩擦ダンパー8は、同様の構成を有しているので、以下、ウエブ14に取り付けられる摩擦ダンパー8を例にとって説明する。
【0041】
図1〜図3に示すように、分断されたブレース部分1a及びブレース部分1bは、間隔を隔てることで互いに接離する方向に相対移動可能となっており、一方のブレース部分1aのウエブ14には、両ブレース部分1a、1b同士の相対移動方向に沿ってボルト挿通用の長孔14aが形成されている。この長孔14aは、ウエブ14の長さ方向に2箇所一組で、かつウエブ14の高さ方向に一対形成され、合計4箇所に形成されている。
【0042】
ブレース部分1aのウエブ14の表裏面(図1中、手前側を表面、奥側を裏面とする。)には、後述する複合摩擦材料からなる摩擦板22がそれぞれ重合される。摩擦板22は、薄板状に形成されるとともに、ウエブ14の長さ方向に組をなす長孔14a、14aの上縁部及び下縁部に、ウエブ14の長さ方向に沿って、かつ組をなす長孔14a、14aを上下方向から挟むように、3枚設けられ、各3枚の摩擦板22の表面には、薄板状のステンレス製の滑動板Sが各3枚の摩擦板22と相対的に滑動自在にそれぞれ重合される。
【0043】
他方のブレース部分1bのウエブ14表裏面には、一方のブレース部分1aのウエブ14の表裏面に重合される摩擦板22及び滑動板Sの厚さに相当する厚さを有するはさみ板17がそれぞれ重合される。
【0044】
各はさみ板17及び滑動板Sの外側には、第2圧接板であるスプライスプレート10、12がそれぞれ重合され、各スプライスプレート10、12は、一方のブレース部分1aと他方のブレース部分1bとの間に掛け渡される。各スプライスプレート10、12は、はさみ板17によってウエブ14、すなわちブレース1の表裏面と平行に設けられる。
従って、ウエブ14は、その表裏面間が対をなす摩擦板22及び滑動板Sを介して、一対のスプライスプレート10、12によって挟み込まれることになる。
【0045】
一方のブレース部分1aには、前述したように、ボルト挿通用の4つの長孔14aが形成されるとともに、他方のブレース部分1bには、ウエブ14を貫通する貫通孔19が形成されている。スプライスプレート10、12及び滑動板Sには、これら長孔14a及び貫通孔19に対応して、それぞれ孔21が形成されている。
【0046】
他方のブレース部分1bでは、ウエブ14を挟むスプライスプレート10、12間に高力ボルト16が挿通され、この高力ボルト16にナット18を螺合させることで、はさみ板17を介して一対のスプライスプレート10、12が固定的に取り付けられ、この固定的な取り付けによって一対のスプライスプレート10、12が他方のブレース部分に属する。
【0047】
一方のブレース部分1aでは、これに属するウエブ14を挟む一方のスプライスプレート10から滑動板Sを介して挿通される高力ボルト16は、摩擦板22の隙間に位置する長孔14aを介してウエブ14の反対側に達し、裏面の摩擦板22の隙間から滑動板S、スプライスプレート12を経てナット18と螺合されるようになっていて、一方のブレース部分1aは、摩擦板22と滑動板Sとの滑動面8aを介して、スプライスプレート10、12に対し相対移動自在に取り付けられている。
【0048】
ナット18の締付けによりボルトの軸力Nが発生し、この軸力Nが一対のスプライスプレート10、12に伝達されて、ウエブ14の挟み込み力として作用することとなり、ウエブ14と一対のスプライスプレート10、12とは、この挟み込み力の作用の下、両者の相対移動が許容される。
【0049】
要するに、一方のブレース部分1aに、ウエブ14の両面に重合された薄板状の一対の摩擦板22、22、薄板状の一対の滑動板S、S、並びに一対のスプライスプレート10 、12によって、板材が7層に積層された構造が構成されるとともに、これら摩擦板22や滑動板Sに、高力ボルト16とナット18で相当のボルト軸力が付加されることにより、ブレース部分1a、1b間に作用する摩擦ダンパー8が構成されるようになっている。
【0050】
高力ボルト16とナット18による締結構造部分には、高力ボルト16の頭部16aとスプライスプレート10との間に、リング状の皿ばねが複数積層された皿ばね積層体30が設けられる。皿ばね積層体30の高力ボルト16側の一端には、これに重ねて高力ボルト16の軸力を伝達する円盤状の座金32が設けられている。高力ボルト16は、その頭部16aを受ける小径の座金20を介して、座金32を貫通して皿ばね積層体30の中空内部へと挿通され、ウエブ14の長孔14aに挿入されるようになっている。ナット18の締結側には、スプライスプレート12の外側に重ねて皿ばねと同径の円盤状の板座金33が設けられ、この板座金33上でナット18相当の小径な座金20aを介してナット18が高力ボルト16に螺合されるようになっている。
【0051】
以上、ウエブ14への摩擦ダンパー8の取り付け構造について説明したが、上下一対のフランジ15、15に対しても同様に摩擦ダンパー8が取り付けられる。特に、フランジ15の表面は単一面である一方で、ウエブ14側のフランジ15の裏面はウエブ14によって分断されている。従ってフランジ15への摩擦ダンパー8の取り付けにあっては、摩擦ダンパー8はウエブ14を挟む形態で配置される。
【0052】
具体的には、フランジ15の表面側では、長孔14aはウエブ14を挟んでフランジ15の幅方向に一対それぞれ4つずつ形成され、摩擦板22はこれら長孔14aをフランジ15の幅方向双方から挟んで設けられる。滑動板S及びスプライスプレート10フランジ15の全幅に渡る大きさのものが一枚ずつ摩擦板22に重合されて取り付けられる。
【0053】
フランジ15の裏面では、ウエブ14を挟むそれぞれの側に、長孔14aをフランジ15の幅方向双方から挟む2枚の摩擦板22、22、並びにフランジ15の半幅相当の大きさの滑動板S及びスプライスプレート12が一枚ずつ摩擦板22に重合されて取り付けられる。はさみ板17が他方のブレース部分1bのフランジ部分15にこれを挟み込むように設けられることになる。
【0054】
ところで、上述したように専用の滑動板Sや摩擦板22を備えるようにしているので、後述するように、これら滑動板Sや摩擦板22に様々な材質、各種の表面仕上げを施した板材を適用することができる。従って、滑動板S及び摩擦板22双方に高耐久性の材質のものを選択することが可能であり、建物の供用期間中など摩擦ダンパー8の性能を一定に保つことができ、摩擦ダンパー8そのものをメンテナンスフリー化することも容易に可能である。
【0055】
本実施形態に用いられる摩擦板22は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成される。熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、DFK樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などがある。
【0056】
摩擦板22には、滑動板Sとの滑動面8a側に凹部として直線状の溝25を5本形成している。摩擦板22と前記滑動板Sとの滑動により生じる摩擦熱が大きいと、摩擦板22の表面温度が著しく上昇し、摩擦板22表面が炭化し、摩耗粉として脱落し、この摩耗粉が滑動面8aに滞留してしまうことがあり得る。この摩耗粉が炭化物であるため非常に硬度が高く、滑動により滑動板Sを傷つけたり、滑動面8aに摩耗粉が介在して転がる等して、摩擦係数を変動させる虞がある。このような現象が生じた場合には、摩擦抵抗力が大幅に変化し、摩擦ダンパー8の制振性能に大きな変動を生じてしまい、安定した制振効果を得難くなる懸念がある。
【0057】
このような点を考慮して、摩擦板22には溝25が備えられている。この溝25は、摩擦板22の摩擦抵抗力が発生する滑動板Sとの滑動面8Aに生じる摩擦熱を放散するとともに、滑動面8Aの摩耗粉を取り込み排出する機能を持つ。すなわち、摩擦ダンパー8の作動時の摩擦板22の摩擦熱を、溝25内の空気へ放散することで、その表面温度の上昇を防止し、摩擦板22表面の炭化、摩耗粉の脱落を防止する。また、万一摩耗粉が発生しても、溝25に取り込まれ、摩擦板22と滑動板Sとの滑動面8Aの摩耗粉の滞留を防止する。このため、滑動板Sが傷つき難くなるとともに、摩耗粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板22と滑動板S間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振効果を得ることが可能となる。さらに、摩耗粉の滞留を防止できるので、摩擦板22及び滑動板Sとの滑動面8aから、摩耗粉の噛込等に起因した異音が発生することを防止でき、制振時の騒音を著しく低減することができる。
【0058】
溝25の深さ、幅、断面形状、本数は、発生する摩耗粉の予め想定される大きさや量、並びに摩擦板22の表面温度等を勘案し設定される。すなわち、深さ、幅、断面形状は、主として摩耗粉を取り込める容積を有するように設定され、本数に関しては、表面温度が摩擦板22の材料の使用限界温度以下となるように設定される。本実施形態の場合は、溝25の断面形状は矩形で、その深さは摩擦板22の厚みの半分、その本数は5本に設定されているが、前述の要件を満たすように自由に設定可能であり、断面形状は半円形状でも良く、深さについては貫通していても良い。
【0059】
溝25の平面形状も、摩擦熱の放散効率が大きく、摩耗粉を取り込み得る容積を有していれば、直線に限るものではなく、円形等どのような形状の凹部に形成しても良い。ただし、熱の放散効率の観点から、冷却媒体である空気が流通し易いように、大気開放される溝25とするのが望ましく、また摩耗粉排出の観点からは、取り込まれた溝25内の摩耗粉が自重で落下排出されるように、溝25は、鉛直方向に直線状に貫通して形成されていることが望ましい。
【0060】
滑動板Sは、前述したステンレスやチタンなどの耐食性を有する材料によって形成される。摩擦ダンパー8を長期的に使用する場合を考えると、腐食などの径時的な変化により滑動面8aの均一性が損なわれ、滑動時に大きな摩擦音を生じたり衝撃が発生するといった点が懸念される。この点を考慮して、滑動板Sとしてはステンレスやチタンなどの耐食性のある材料を使用することとし、これをスプライスプレート10,12に取り付けるようにしている。このように滑動板Sを単体で取り付けるようにすることで、耐食性のある材料の使用量が必要最小限に抑えられ、材料費が節約されて経済設計にも繋がる。
【0061】
さらに、円滑に滑動するよう、滑動板Sの滑動面8a側表面には圧延、研磨・研削、ブラスト、塗装などの何れか、若しくは複数の処理を施して、表面粗さの均一化を図るとよい。
【0062】
また、メンテナンスフリーとするために滑動板Sの表面には、防錆塗料を塗布するなどの表面処理を併せて行なうとよい。
【0063】
滑動板Sのスプライスプレート10、12への取付面、及び摩擦板22のウエブ14への取付面については、滑動時に両者間に相対的な滑りが生じないように、様々な工法の中から最適な方法を選択すればよい。例えば、表面に塗料を塗布(例えば、滑動板Sであれば、ステンレス鋼材専用の摩擦接合用塗料)、表面粗さの増大化を意図したブラスト処理又は研削処理等が挙げられる。
【0064】
そして、このような表面粗さの増大化処理を滑動板S及び摩擦板22の取付面に施すことにより、摩擦板22と滑動板Sとが相対的に滑動する際に、摩擦板22とウエブ14との間、及び滑動板Sとスプライスプレート10、12との間に相対的な滑りが生じるのを阻止できるので、摩擦板22と滑動板Sとを確実に相対的に滑動させることができる。
【0065】
皿ばね積層体30は、高力ボルト16の軸力Nをスプライスプレート10、12間に付加する経路に介装され、高力ボルト16の軸方向変位に対しても弾発力がほぼ一定で変動することのない非線形ばね特性を発揮するようになっている。
【0066】
皿ばね積層体30のばね特性Aは、図6に示すように、高力ボルト16の中心軸方向の変形量(見込み変化量) σに対して、荷重(弾発力)Wの変動がほぼ一定となる非線形ばね領域Pを備えており、皿ばね積層体30は、高力ボルト16に所定の軸力Nを付加した状態で、非線形ばね領域P内に設定される。本実施形態では、皿ばね積層体30は、複数枚の皿ばね単体を同一方向に積層して構成したものが用いられる。
【0067】
従って、この実施形態では、高力ボルト16の頭部16a側の座金32と一方のスプライスプレート10との間に皿ばね積層体30を介在したので、一対のスプライスプレート10、12とウエブ14との間のボルト軸方向の変動を皿ばね積層体30によって吸収することができる。そして、このときの変動吸収によって皿ばね積層体30のたわみ量が変化した場合にあっても、皿ばね積層体30が非線形ばね領域P内に設定されているため、弾発力つまり高力ボルト16の軸力をほぼ一定に維持することができる。
【0068】
つまり、振動入力がない状態では、スプライスプレート10、12とウエブ14とは、大きな静摩擦力をもって固定状態が維持されるが、振動入力によりこの固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃として現れる。しかし、皿ばね積層体30を設けたことにより、このときの反発力を皿ばね積層体30の弾性により高力ボルト16の軸力Nを変化させることなく吸収できる。従って、過大振動力が入力された場合にも、皿ばね積層体30の緩衝作用により音や衝撃の発生を抑制しつつ摩擦力による制振機能を十分に発揮することができる。
【0069】
皿ばね積層体30が非線形ばね領域Pに設定されていることにより、皿ばね積層体30の弾発力は、スプライスプレート10、12とウエブ14とが相対移動する際の滑動面、つまり、摩擦板22と滑動板Sとの間の滑動面8aにたとえ摩耗が生じたとしても、弾発力をほぼ一定に維持して摩擦抵抗力Rが低下するのを防止できる。従って、スプライスプレート10、12とウエブ14との接合部における当初の制振機能を永続して発揮することができる。
【0070】
この実施形態では、皿ばね積層体30を、一方のスプライスプレート10と高力ボルト16の頭部16a側の座金32との間に介在させた場合を示したが、これに限ることなく、一対のスプライスプレート10、12双方、つまり、両スプライスプレート10、12と高力ボルト16の頭部16a側及びナット18側の座金32、33との間に、それぞれ皿ばね積層体30を介装させることもできる。また、皿ばね積層体30を他方のスプライスプレート12とナット18側の座金33との間のみに介装させることもできる。
【0071】
皿ばね積層体30を構成する皿ばね単体の組み合わせ配置構成は、本実施形態に示したように、同一方向に複数枚を積層したものに限ることなく、これ以外にも本発明の皿ばね積層体30に求められる設定が可能である限り、種々に変更して組み合わせて構成することができ、例えば、皿ばね単体を単数で用いたり、複数枚を並列に積層したり、その積層方向を正逆交互に向けたりすることができる。
【0072】
また、この実施形態では付勢手段として皿ばね積層体30を用いた場合を示したが、これに限ることなく、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えたばねであればよい。
【0073】
ところで、上記実施形態では、摩擦板22をウエブ14に設け、滑動板Sをスプライスプレート10、12に設ける構成であったが、これとは反対に、図7に示したように、滑動板Sをウエブ14に設け、摩擦板22をスプライスプレート10、12に設けるようにしても良い。この場合、滑動板Sには、図8に示したように、ウエブ14の長孔14aと一致する孔21を設けることになる。
【0074】
さらに、上記実施形態では、皿ばね積層体30を備えることとしたが、必ずしも皿ばね積層体30を組み込む必要はない。上記実施形態の図2及び図7に対応させた図9及び図10にそれぞれ示したように、高力ボルト16とナット18による締結構造のみによって摩擦ダンパー8を構成しても良いことは勿論である。
【0075】
以上、説明した摩擦ダンパー8にあっては、一対のスプライスプレート10、12間にウエブ14を挟み込んで、これらに貫通した高力ボルト16をナット18締めするにあたって、これらスプライスプレート10、12とウエブ14との間に摩擦板22及び滑動板Sを介在させてあるので、地震や風などの外力によって例えば建物架構が振動する際に、この振動による変位力が所定値を超えると、スプライスプレート10、12とウエブ14とは、滑動板Sと摩擦板22との滑動を伴って相対移動する。このとき、滑動板Sと摩擦板22との間は、高力ボルト16の軸力Nをもって滑接されるとともに、所定の摩擦係数μが作用しており、これら滑動板Sと摩擦板22とが滑動される際には、振動エネルギーがμ×Nの摩擦抵抗力Rに変換されて振動減衰され、ブレース1における制振に寄与するようになっている。
【0076】
また、本実施形態では、ブレース部分1a、1b間に相対変位力が入力された際に、一対のスプライスプレート10、12間にウエブ14が挟まれた状態で相対移動するため、一対のスプライスプレート10、12間にボルト16の軸力N、つまり、締付け力を付加した状態で両者が滑動する際に、ボルト16が傾くなどしてこじれを生じることはなく、スムーズに相対移動することができる。
【0077】
このとき、上記摩擦板22は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、DFK樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されるので、摩擦板22は硬度が高く、かつ、強度に富む材質となって、一定の摩擦係数を有する摩耗の著しく少ない部材として形成することができる。
【0078】
従って、スプライスプレート10、12とウエブ14とが相対移動された際にも、滑動板Sと摩擦板22との間の摩擦係数μは常時ほぼ一定に維持され、かつ、滑動面8aの摩耗がほとんどないため高力ボルト16の軸力Nもほぼ一定に維持される。このため、スプライスプレート10、12とウエブ14との間の相対移動時に、摩擦係数μと軸力Nとの積として発生する摩擦抵抗力Rをほぼ一定に維持することができる。従って、摩擦ダンパー8が組み込まれたブレース1における摩擦減衰力特性、延いては、建物架構の振動に対する制振特性が安定化し、当初設定した制振構機能を長期に亘って維持することができる。
【0079】
そして、特に、ウエブ14とウエブ14を挟み込む一対のスプライスプレート10、12との間に、複合摩擦材などからなる摩擦板22とステンレス板などからなる滑動板Sを一対にして挟み込んで7層構造とし、摩擦板22と滑動板Sとの間で滑りを生じさせるようにしている。この7層構造は、ウエブ14スプライスプレート10、12との間に単に摩擦板22のみを組み込んで、摩擦板22とウエブ14若しくはスプライスプレート10、12との間で滑動させる5層構造よりも、以下の点で優れる。
【0080】
5層構造では、ウエブ14あるいはスプライスプレート10、12が摩擦板22に対する滑動板として機能されることになるが、例えば、スプライスプレートを滑動板として適用した場合、スプライスプレートはこれが接合されるブレース材や梁材、間柱材などの構造材との接合を考慮してその材質や表面仕上げが選択される、言い換えれば、スプライスプレートの材質や表面仕上げによってはこれらの構造材との接合が困難になってしまう。従って、スプライスプレートの材質や表面仕上げは構造材との接合を踏まえて選択されるので、このスプライスプレートと摩擦板との間で安定した摩擦係数および復元力特性を得ることができない場合があり、この場合、摩擦ダンパーとしての滑動荷重と滑動変位との関係が設計者の意図に反して不安定なものとなるおそれがある。この点はウエブを滑動板とした場合でも同様である。
【0081】
これに対して、本実施形態による7層構造では、滑動板Sおよび摩擦板22は、ウエブ14あるいはスプライスプレート10、12に対して別途取り付けられるものなので、ウエブ14やスプライスプレート10、12としては、構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができるとともに、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元特性が得られるように、滑動板Sと摩擦板22との最適な組み合わせを適宜に選択することが可能となる。
【0082】
また、摩擦板22及び滑動板Sは、それ専用に薄板として形成することができ、材質を新素材とし高価になっても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。
【0083】
また、滑動面8aの損耗が激しく、摩擦ダンパー8を交換する必要が生じた場合でも、7層構造であるから滑動板S若しくは摩擦板22のみを取り替えることで対応することができる。滑動板Sも摩擦板22も、ともに薄板で構成できるので、重量的にも有利であり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0084】
上記実施形態では、ブレース部分を例示して本発明にかかる摩擦ダンパー8の適用を説明したが、鉄骨部材としてはこの他、鉄骨柱や鉄骨梁などがあり、これらに対しても摩擦ダンパー8を適用できることは勿論である。
【0085】
図11には、変形例として、摩擦ダンパー8を間柱41へ適用例が示されている。
すなわち、上下に分断された鉄骨製の間柱41の上部間柱部分41aには、その下面から垂下させて1枚の上ガセットプレート42が設けられるとともに、下部間柱41bには、その上面から起立させて上ガセットプレート42を両側から挟み込む一対の下ガセットプレート43が設けられている。上ガセットプレート42は、上部間柱部分41aの下面に溶接などにより接合されている。下ガセットプレート43は、ベース板43a及びベース板43a上に左右一対立設されたブラケット43bに,その底部及び左右両端が溶接などにより接合され、このベース板43aが下部間柱部分41bの上面にボルトで接合されている。そして,摩擦ダンパー8は、長孔14a及び摩擦板22が上ガセットプレート42に配置されるとともに、滑動板Sが一対の下ガセットプレート43にそれぞれ配置され、皿ばね積層体30を介して高力ボルト16及びナット18による締結力が導入されることで、上下ガセットプレート42、43相互の水平方向相対移動に対して減衰力を発生して、間柱41に入力される外力を減衰するようになっている。
【0086】
以上、説明した摩擦ダンパー8を組み込んだ間柱は、柱・梁で囲まれた架構内に1本配設しても、あるいは複数本配設しても良く、必要な制振効果が得られるようにアレンジすればよい。
【0087】
図12には、摩擦ダンパー8の適用対象としての鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示す。
一般に、鉄骨柱52と鉄骨梁54とは、H形鋼によって形成されて架構を構成する。鉄骨柱52の梁接続部分には、鉄骨梁54と同じH形鋼を短尺に切断したブラケット材55を溶接して一体化し、このブラケット材55に鉄骨梁54の接続端部が結合される。ブラケット材55は、鉄骨柱52のフランジ面52aに溶接されるとともに、ブラケット材55の上下フランジ55a、55b位置に対応して、鉄骨柱52の両側フランジ52a、52b間に跨って補鋼材57が溶接されている。
【0088】
上記鉄骨梁54の接続端は、上記ブラケット材55の先端に突き合わされ、これら鉄骨梁54とブラケット材55の互いに対応される上方フランジ54aと55a、及び下方フランジ54bと55b、そして、ウエブ54cと55cとの各部に両部材間に跨ってその両面にスプライスプレート58、59が配置され、これらを貫通する高力ボルト16にナット18を螺合して締め付けることにより、鉄骨梁54とブラケット材55、つまり鉄骨柱52とが結合される。
【0089】
ここで、鉄骨柱52と鉄骨梁54との接合部において、摩擦ダンパー8は、上方フランジ54aと55a、下方フランジ54bと55b、及びウエブ54cと55cとのボルト接合部に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明によるボルト接合部の制振構造の一実施の形態を示した斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図2のC部の拡大図である。
【図5】図1の滑動板の平面図である。
【図6】皿ばねの特性図である。
【図7】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図8】図7の滑動板の平面図である。
【図9】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図10】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図11】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図12】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図13】従来のボルト接合部の一例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ブレース
8 摩擦ダンパー
10、12 スプライスプレート
14 ウエブ
14a 長孔
16 高力ボルト
18 ナット
22 摩擦板
25 溝
30 皿ばね積層体(付勢手段)
S 滑動板
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物架構を構成する各鉄骨部材を結合する際に用いられるボルト接合部に適用され、地震や強風等により発生する建物架構の振動を制振するボルト接合部の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱及び鉄骨梁を互いに結合して構成される建物架構は、一般に多層階ビルディングに適用され、この鉄骨構造の建物架構では、ブレースが地震や風等の水平力に対する抵抗要素として用いられている。
【0003】
これら鉄骨柱、鉄骨梁、ブレースなどの鉄骨部材は、溶接やボルトを介して接合してラーメン架構が構成される。特に、ボルトにより接合した場合には、大地震や強風などによって過大な水平力が作用した際に、剛結構造となるラーメン架構であっても、接合した2部材の接合部分にズレが生じる。そして、このズレによって大きな摩擦抵抗力が発生し、この摩擦抵抗力によって地震や風による振動エネルギーが消耗され、建物架構の制振機能が発揮される。
【0004】
図13にボルト接合部の一例を示す。このボルト接合部は、一方の鉄骨部材から一対の外板1、1aを突設し、他方の鉄骨部材から中板2を突設し、中板2を一対の外板1、1a間に挟み込み、これら外板1、1aと中板2との間にボルト3を挿通させて、ナット3aにより締め付けたものである。
【0005】
この場合、中板2のボルト挿通孔は長孔4に形成され、一方の鉄骨部材と他方の鉄骨部材との間に引っ張り方向又は圧縮方向への過大な相対変位力Pが入力した場合に、この長孔4によって外板1、1aと中板2との相対移動が許容される。そして、この外板1、1aと中板2との相対移動時に発生する摩擦抵抗力Rは、ボルト3の軸力Nと、外板1、1aと中板2との接触面の摩擦係数μとの積、R=μ・Nによって決定される。なお、軸力Nは、ナット3aの締付け力によって調節され、また、摩擦係数μは外板1、1aと中板2との接触面の表面粗さによって調節される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような構成のボルト接合部の制振構造にあっては、ナット3aの締付け力によってボルト3に軸力Nを発生させており、この軸力Nは外板1、1a間に直接締付け力として作用しているため、所定の摩擦抵抗力Rを発生させるためのナット3aの締付け力の調整が非常に困難である。
【0007】
また、所定の締付け力を付加しても、外板1、1aと中板2との間の相対滑りが繰り返されることにより、双方の滑動面が摩耗して摩擦係数μが徐々に小さくなってしまう。さらに、摩耗した分だけナット3aによる締付け力が減少し、ボルト3の軸力Nが小さくなってしまう。このため、予め設定した摩擦抵抗力R(=μ・N)が、μとNとの双方の減
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、互いに接合された鉄骨部材間で相対滑りが繰り返されても、常に、ほぼ一定の摩擦抵抗力を発生させることができて、安定した制振機能を発揮することができるボルト接合部の制振構造を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、互いに接合しようとする2つの鉄骨部材の一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と、他方の鉄骨部材に属する第2圧接板とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって前記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、前記第1圧接板と前記第2圧接板との間に、摩擦板と滑動板とを重合させた状態で介装させて、前記第1圧接板と前記第2圧接板との相対移動時に、前記摩擦板と前記滑動板とを相対的に滑動可能とし、前記第1圧接板及び前記第2圧接板にボルト貫通孔を形成するとともに、該第1圧接板の該ボルト貫通孔を、該第1圧接板の長さ方向に沿った長孔としたことを特徴とする。
【0009】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と他方の鉄骨部材に属する第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板とを第1圧接板の長さ方向に沿って相対的に滑動させることができることになる。
この場合、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板に別途取り付けられるので、第1圧接板及び第2圧接板に構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができる。また、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元力特性が得られるように、摩擦板と滑動板との最適な組合せを適宜に選択することができる。さらに、滑動板及び摩擦板に様々な材質を施した板材を適用することができる。
【0010】
さらに、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板と別部材として薄板で形成することができるので、材質を高価な新素材としても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。
さらに、摩擦板及び滑動板に高耐久性のものを選択して使用することができるので、建物の供用期間中など、制振構造の性能を一定に保つことができ、メンテナンスフリー化することも可能となる。
さらに、滑り部分の損耗が激しく、制振構造部分を交換する必要が生じた場合であっても、滑動板又は摩擦板のみを取り替えることによって対応することができる。さらに、摩擦板及び滑動板を薄板に形成することができるので、重量的にも有利になり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のボルト接合部の制振構造であって、前記第1圧接板の両側には、前記第1圧接板を両側から挟むように一対の前記第2圧接板が設けられ、各第2圧接板と前記第1圧接板との間にそれぞれ前記摩擦板と前記滑動板とが重合された状態で介装され、一方の摩擦板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか一方との間、一方の滑動板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか他方との間、他方の摩擦板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか一方との間、及び他方の滑動板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか他方との間に、それぞれ前記表面粗さの増大化処理が施されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板を両側から一対の第2圧接板によって挟み込み、各第2圧接板と第1圧接板との間にそれぞれ摩擦板と滑動板とを重合した状態で介装させたので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力した場合に、一対の第2圧接板間に第1圧接板が挟まれた状態で両者が相対移動するため、一対の第2圧接板間にボルトの軸力(締付け力)を付加した状態で、各摩擦板と滑動板とが相対的に滑動しても、ボルトが傾いてこじれが生じるようなことはなく、スムーズに相対移動することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板又は前記滑動板の少なくとも何れか一方は、前記第1圧接板又は前記第2圧接板に交換可能に取り付けられていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板及び滑動板を交換することができるので、鉄骨部材はそのままとして、制振要素のみに対する交換作業で制振性能を容易に復元することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記滑動板は、耐食性を有する材料で形成されていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、滑動板は耐食性を有する材料から形成されることになるので、滑動板と摩擦板とが対峙する滑動面は腐食などによる経時的な変化に強く、特に、メンテナンスを施すことなく、長期に渡って安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1から4の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記滑動板は、ステンレスやチタンを素材として形成されていることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、良好かつ安定した制振性能を長期に渡って保証することができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1から5の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板を、一定の摩擦係数を有する摩耗の少ない部材として形成することができる。従って、第1圧接板と第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板との間の摩擦係数を一定に維持することができるので、摩擦板と滑動板とを円滑に相対滑動させることができるとともに、滑動部分の摩耗を抑制することができるので、ボルトの軸力を一定に維持することもできる。
【0018】
従って、第1圧接板と第2圧接板との間の相対移動部分に発生する、摩擦係数とボルトの軸力との積として得られる摩擦抵抗力をほぼ一定に維持することができ、この結果、2つの鉄骨部材間の減衰力特性の安定化を図ることができ、初期の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項1から6の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記摩擦板は、前記滑動板と圧接する面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込むための凹部を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板と滑動板との相対的な滑動によって摩擦熱が発生しても、その摩擦熱を凹部内の空気内に放散させることにより、摩擦板の表面温度の上昇を防止できるので、摩擦板の表面の炭化、脱落による摩耗粉の発生を抑制することができる。また、摩耗粉が発生しても、その摩耗粉を凹部内に取り込むことができるので、摩耗粉が摩擦板と滑動板との間に噛み込むことによって摩擦板及び滑動板の滑動面が傷ついたりするようなことはなく、また、摩擦粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板と滑動板との間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振性能を発揮することができる。さらに、摩耗粉の噛み込みを防止できるので、摩擦板及び滑動板の滑動面から異音が発生するのを防止でき、制振時に発生する音を著しく低減させることがきる。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1から7の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記第1圧接板と前記第2圧接板との重合部分の前記ボルト軸力を付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介在させ、該ボルトに所定の軸力を発生させた状態で、該付勢手段が前記非線形ばね領域内でたわみ変形するように設定したことを特徴とする。
【0022】
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板と第2圧接板との間の隙間の変動を付勢手段によって吸収することができるので、このときの変動吸収によって付勢手段のたわみ量が変化した場合であっても、付勢手段が非線形ばね領域に設定されているので、弾発力(ボルトの軸力)をほぼ一定に維持することができる。
【0023】
すなわち、振動入力がない状態では、第1圧接板と第2圧接板とは大きな静摩擦力によって固定状態が維持されるが、所定値以上の振動変位力の入力によって固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃となって現れるが、このときの反発力を付勢手段によってボルトの軸力を変化させることになく吸収することができる。従って、皿ばねを入れることによって緩衝作用が生じ、過大な振動力が入力した場合にも、音や衝撃の発生を抑制しつつ制振性能を十分に発揮することができる。
【0024】
また、付勢手段は、第1圧接板及び第2圧接板が相対移動する際の滑動面に摩耗が生じた場合にも、その弾発力がほぼ一定に維持されるので、摩擦抵抗力が低下するのを防止することができ、当初の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0025】
請求項9に係る発明は、請求項1から8の何れかに記載のボルト接合部の制振構造であって、前記鉄骨部材はH形やI形などの形鋼であり、前記第1圧接板及び前記第2圧接板がこれら形鋼に属する板部分であることを特徴とする。
本発明によるボルト接合部の制振構造によれば、鉄骨部材が形鋼であれば、それが有する板部分を利用して簡単に制振構造を構成することができるので、制振作用を簡単に確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の請求項1に記載のボルト接合部の制振構造によれば、一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と他方の鉄骨部材に属する第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板とを第1圧接板の長さ方向に沿って、摩擦板と滑動板とを相対的に確実に滑動させることができる。従って、摩擦板と滑動板との相対的な滑動による所定の制振性能が確実に得られることになり、入力する振動を効果的に減衰することができる。
【0027】
また、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板に別途取り付けられているので、第1圧接板及び第2圧接板に構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができるとともに、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元力特性が得られるように、摩擦板と滑動板との最適な組合せを適宜に選択することができる。さらに、滑動板及び摩擦板に様々な材質を施した板材を適用することができる。さらに、摩擦板及び滑動板は、第1圧接板又は第2圧接板と別部材として薄板で形成することができるので、材質を高価な新素材としても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。さらに、摩擦板及び滑動板に高耐久性のものを選択して使用することができるので、建物の供用期間中など、制振構造の性能を一定に保つことができ、メンテナンスフリー化することも可能となる。
【0028】
さらに、滑り部分の損耗が激しく、制振構造部分を交換する必要が生じた場合であっても、滑動板又は摩擦板のみを取り替えることによって対応することができる。さらに、摩擦板及び滑動板を薄板に形成することができるので、重量的にも有利になり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0029】
さらに、本発明の請求項2に記載のボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板を両側から一対の第2圧接板によって挟み込み、各第2圧接板と第1圧接板との間にそれぞれ摩擦板と滑動板とを重合した状態で介装させたので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力した場合に、一対の第2圧接板間に第1圧接板が挟まれた状態で両者が相対移動するため、一対の第2圧接板間にボルトの軸力(締付け力)を付加した状態で、各摩擦板と滑動板とが相対的に滑動しても、ボルトが傾いてこじれが生じるようなことはなく、スムーズに相対移動することができる。
従って、摩擦板と滑動板との相対的な滑動による所定の制振性能が確実に得られることになり、入力する振動を効果的に減衰することができる。
【0030】
さらに、本発明の請求項3に記載のボルト接合部の制振構造によれば、制振要素のみに対する交換作業で制振性能を容易に復元することができる。
【0031】
さらに、本発明の請求項4に記載のボルト接合部の制振構造によれば、滑動板は耐食性を有する材料から形成されることになるので、滑動板と摩擦板とが対峙する滑動動面は腐食などによる経時的な変化に強く、特に、メンテナンスを施すことなく、長期に渡って安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することができる。
【0032】
さらに、本発明の請求項5に記載のボルト接合部の制振構造によれば、良好かつ安定した制振性能を長期に渡って保証することができる。
【0033】
さらに、本発明の請求項6に記載のボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板を、一定の摩擦係数を有する摩耗の少ない部材として形成することができるので、第1圧接板と第2圧接板との相対移動時に、摩擦板と滑動板との間の摩擦係数を一定に維持することができるので、摩擦板と滑動板とを円滑に相対滑動させることができるとともに、滑動部分の摩耗を抑制することができるので、ボルトの軸力を一定に維持することもできる。従って、第1圧接板と第2圧接板との間の相対移動部分に発生する、摩擦係数とボルトの軸力との積として得られる摩擦抵抗力をほぼ一定に維持することができ、この結果、2つの鉄骨部材間の減衰力特性の安定化を図ることができ、初期の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0034】
さらに、本発明の請求項7に記載のボルト接合部の制振構造によれば、摩擦板と滑動板との相対的な滑動によって摩擦熱が発生しても、その摩擦熱を凹部内の空気内に放散させることにより、摩擦板の表面温度の上昇を防止できるので、摩擦板の表面の炭化、脱落による摩耗粉の発生を抑制することができる。また、摩耗粉が発生しても、その摩耗粉を凹部内に取り込むことができるので、摩耗粉が摩擦板と滑動板との間に噛み込むことによって摩擦板及び滑動板の滑動面が傷ついたりするようなことはなく、また、摩擦粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板と滑動板との間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振性能を発揮することができる。さらに、摩耗粉の噛み込みを防止できるので、摩擦板及び滑動板の滑動面から異音が発生するのを防止でき、制振時に発生する音を著しく低減させることがきる。
【0035】
さらに、本発明の請求項8に記載のボルト接合部の制振構造によれば、第1圧接板と第2圧接板との間の隙間の変動を付勢手段によって吸収することができるので、このときの変動吸収によって付勢手段のたわみ量が変化した場合であっても、付勢手段が非線形ばね領域に設定されているので、弾発力(ボルトの軸力)をほぼ一定に維持することができる。すなわち、振動入力がない状態では、第1圧接板と第2圧接板とは大きな静摩擦力によって固定状態が維持されるが、所定値以上の振動変位力の入力によって固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃となって現れるが、このときの反発力を付勢手段によってボルトの軸力を変化させることになく吸収することができる。従って、皿ばねを入れることによって緩衝作用が生じ、過大な振動力が入力した場合にも、音や衝撃の発生を抑制しつつ制振性能を十分に発揮することができる。また、付勢手段は、第1圧接板及び第2圧接板が相対移動する際の滑動面に摩耗が生じた場合にも、その弾発力がほぼ一定に維持されるので、摩擦抵抗力が低下するのを防止することができ、当初の制振性能を長期に渡って維持することができる。
【0036】
さらに、本発明の請求項9に記載のボルト接合部の制振構造によれば、鉄骨部材が形鋼であれば、それが有する板部分を利用して簡単に制振構造を構成することができるので、制振作用を簡単に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1〜図6には、本発明によるボルト接合部の制振構造の一実施の実施形態が示されていて、図1は要部分解斜視図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図1のB−B線断面図、図4は図2のC部の拡大図、図5は図1の滑動板の平面図、図6は図1の皿ばねの特性図である。
【0038】
すなわち、このボルト接合部の制振構造は、Y型、K型、W型、X型などの各種のブレースに適用したものであって、H形鋼又はI形鋼(この実施の形態においてはH形鋼)からなるブレース1を適宜の位置で互いに間隔を隔てるように分断し、この分断箇所に摩擦ダンバー8を組み込んで構成したものである。
【0039】
H形鋼は、図1に示すように、ウエブ14と、ウエブ14の上下に一体に形成される一対のフランジ15、15とから構成され、ウエブ14、各フランジ15にそれぞれ摩擦ダンパー8が取り付けられている。この場合、ウエブ14、フランジ15が第1圧接板として機能し、後述するスプライスプレート10、12が第2圧接板として機能する。
【0040】
各摩擦ダンパー8は、同様の構成を有しているので、以下、ウエブ14に取り付けられる摩擦ダンパー8を例にとって説明する。
【0041】
図1〜図3に示すように、分断されたブレース部分1a及びブレース部分1bは、間隔を隔てることで互いに接離する方向に相対移動可能となっており、一方のブレース部分1aのウエブ14には、両ブレース部分1a、1b同士の相対移動方向に沿ってボルト挿通用の長孔14aが形成されている。この長孔14aは、ウエブ14の長さ方向に2箇所一組で、かつウエブ14の高さ方向に一対形成され、合計4箇所に形成されている。
【0042】
ブレース部分1aのウエブ14の表裏面(図1中、手前側を表面、奥側を裏面とする。)には、後述する複合摩擦材料からなる摩擦板22がそれぞれ重合される。摩擦板22は、薄板状に形成されるとともに、ウエブ14の長さ方向に組をなす長孔14a、14aの上縁部及び下縁部に、ウエブ14の長さ方向に沿って、かつ組をなす長孔14a、14aを上下方向から挟むように、3枚設けられ、各3枚の摩擦板22の表面には、薄板状のステンレス製の滑動板Sが各3枚の摩擦板22と相対的に滑動自在にそれぞれ重合される。
【0043】
他方のブレース部分1bのウエブ14表裏面には、一方のブレース部分1aのウエブ14の表裏面に重合される摩擦板22及び滑動板Sの厚さに相当する厚さを有するはさみ板17がそれぞれ重合される。
【0044】
各はさみ板17及び滑動板Sの外側には、第2圧接板であるスプライスプレート10、12がそれぞれ重合され、各スプライスプレート10、12は、一方のブレース部分1aと他方のブレース部分1bとの間に掛け渡される。各スプライスプレート10、12は、はさみ板17によってウエブ14、すなわちブレース1の表裏面と平行に設けられる。
従って、ウエブ14は、その表裏面間が対をなす摩擦板22及び滑動板Sを介して、一対のスプライスプレート10、12によって挟み込まれることになる。
【0045】
一方のブレース部分1aには、前述したように、ボルト挿通用の4つの長孔14aが形成されるとともに、他方のブレース部分1bには、ウエブ14を貫通する貫通孔19が形成されている。スプライスプレート10、12及び滑動板Sには、これら長孔14a及び貫通孔19に対応して、それぞれ孔21が形成されている。
【0046】
他方のブレース部分1bでは、ウエブ14を挟むスプライスプレート10、12間に高力ボルト16が挿通され、この高力ボルト16にナット18を螺合させることで、はさみ板17を介して一対のスプライスプレート10、12が固定的に取り付けられ、この固定的な取り付けによって一対のスプライスプレート10、12が他方のブレース部分に属する。
【0047】
一方のブレース部分1aでは、これに属するウエブ14を挟む一方のスプライスプレート10から滑動板Sを介して挿通される高力ボルト16は、摩擦板22の隙間に位置する長孔14aを介してウエブ14の反対側に達し、裏面の摩擦板22の隙間から滑動板S、スプライスプレート12を経てナット18と螺合されるようになっていて、一方のブレース部分1aは、摩擦板22と滑動板Sとの滑動面8aを介して、スプライスプレート10、12に対し相対移動自在に取り付けられている。
【0048】
ナット18の締付けによりボルトの軸力Nが発生し、この軸力Nが一対のスプライスプレート10、12に伝達されて、ウエブ14の挟み込み力として作用することとなり、ウエブ14と一対のスプライスプレート10、12とは、この挟み込み力の作用の下、両者の相対移動が許容される。
【0049】
要するに、一方のブレース部分1aに、ウエブ14の両面に重合された薄板状の一対の摩擦板22、22、薄板状の一対の滑動板S、S、並びに一対のスプライスプレート10 、12によって、板材が7層に積層された構造が構成されるとともに、これら摩擦板22や滑動板Sに、高力ボルト16とナット18で相当のボルト軸力が付加されることにより、ブレース部分1a、1b間に作用する摩擦ダンパー8が構成されるようになっている。
【0050】
高力ボルト16とナット18による締結構造部分には、高力ボルト16の頭部16aとスプライスプレート10との間に、リング状の皿ばねが複数積層された皿ばね積層体30が設けられる。皿ばね積層体30の高力ボルト16側の一端には、これに重ねて高力ボルト16の軸力を伝達する円盤状の座金32が設けられている。高力ボルト16は、その頭部16aを受ける小径の座金20を介して、座金32を貫通して皿ばね積層体30の中空内部へと挿通され、ウエブ14の長孔14aに挿入されるようになっている。ナット18の締結側には、スプライスプレート12の外側に重ねて皿ばねと同径の円盤状の板座金33が設けられ、この板座金33上でナット18相当の小径な座金20aを介してナット18が高力ボルト16に螺合されるようになっている。
【0051】
以上、ウエブ14への摩擦ダンパー8の取り付け構造について説明したが、上下一対のフランジ15、15に対しても同様に摩擦ダンパー8が取り付けられる。特に、フランジ15の表面は単一面である一方で、ウエブ14側のフランジ15の裏面はウエブ14によって分断されている。従ってフランジ15への摩擦ダンパー8の取り付けにあっては、摩擦ダンパー8はウエブ14を挟む形態で配置される。
【0052】
具体的には、フランジ15の表面側では、長孔14aはウエブ14を挟んでフランジ15の幅方向に一対それぞれ4つずつ形成され、摩擦板22はこれら長孔14aをフランジ15の幅方向双方から挟んで設けられる。滑動板S及びスプライスプレート10フランジ15の全幅に渡る大きさのものが一枚ずつ摩擦板22に重合されて取り付けられる。
【0053】
フランジ15の裏面では、ウエブ14を挟むそれぞれの側に、長孔14aをフランジ15の幅方向双方から挟む2枚の摩擦板22、22、並びにフランジ15の半幅相当の大きさの滑動板S及びスプライスプレート12が一枚ずつ摩擦板22に重合されて取り付けられる。はさみ板17が他方のブレース部分1bのフランジ部分15にこれを挟み込むように設けられることになる。
【0054】
ところで、上述したように専用の滑動板Sや摩擦板22を備えるようにしているので、後述するように、これら滑動板Sや摩擦板22に様々な材質、各種の表面仕上げを施した板材を適用することができる。従って、滑動板S及び摩擦板22双方に高耐久性の材質のものを選択することが可能であり、建物の供用期間中など摩擦ダンパー8の性能を一定に保つことができ、摩擦ダンパー8そのものをメンテナンスフリー化することも容易に可能である。
【0055】
本実施形態に用いられる摩擦板22は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成される。熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、DFK樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などがある。
【0056】
摩擦板22には、滑動板Sとの滑動面8a側に凹部として直線状の溝25を5本形成している。摩擦板22と前記滑動板Sとの滑動により生じる摩擦熱が大きいと、摩擦板22の表面温度が著しく上昇し、摩擦板22表面が炭化し、摩耗粉として脱落し、この摩耗粉が滑動面8aに滞留してしまうことがあり得る。この摩耗粉が炭化物であるため非常に硬度が高く、滑動により滑動板Sを傷つけたり、滑動面8aに摩耗粉が介在して転がる等して、摩擦係数を変動させる虞がある。このような現象が生じた場合には、摩擦抵抗力が大幅に変化し、摩擦ダンパー8の制振性能に大きな変動を生じてしまい、安定した制振効果を得難くなる懸念がある。
【0057】
このような点を考慮して、摩擦板22には溝25が備えられている。この溝25は、摩擦板22の摩擦抵抗力が発生する滑動板Sとの滑動面8Aに生じる摩擦熱を放散するとともに、滑動面8Aの摩耗粉を取り込み排出する機能を持つ。すなわち、摩擦ダンパー8の作動時の摩擦板22の摩擦熱を、溝25内の空気へ放散することで、その表面温度の上昇を防止し、摩擦板22表面の炭化、摩耗粉の脱落を防止する。また、万一摩耗粉が発生しても、溝25に取り込まれ、摩擦板22と滑動板Sとの滑動面8Aの摩耗粉の滞留を防止する。このため、滑動板Sが傷つき難くなるとともに、摩耗粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板22と滑動板S間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振効果を得ることが可能となる。さらに、摩耗粉の滞留を防止できるので、摩擦板22及び滑動板Sとの滑動面8aから、摩耗粉の噛込等に起因した異音が発生することを防止でき、制振時の騒音を著しく低減することができる。
【0058】
溝25の深さ、幅、断面形状、本数は、発生する摩耗粉の予め想定される大きさや量、並びに摩擦板22の表面温度等を勘案し設定される。すなわち、深さ、幅、断面形状は、主として摩耗粉を取り込める容積を有するように設定され、本数に関しては、表面温度が摩擦板22の材料の使用限界温度以下となるように設定される。本実施形態の場合は、溝25の断面形状は矩形で、その深さは摩擦板22の厚みの半分、その本数は5本に設定されているが、前述の要件を満たすように自由に設定可能であり、断面形状は半円形状でも良く、深さについては貫通していても良い。
【0059】
溝25の平面形状も、摩擦熱の放散効率が大きく、摩耗粉を取り込み得る容積を有していれば、直線に限るものではなく、円形等どのような形状の凹部に形成しても良い。ただし、熱の放散効率の観点から、冷却媒体である空気が流通し易いように、大気開放される溝25とするのが望ましく、また摩耗粉排出の観点からは、取り込まれた溝25内の摩耗粉が自重で落下排出されるように、溝25は、鉛直方向に直線状に貫通して形成されていることが望ましい。
【0060】
滑動板Sは、前述したステンレスやチタンなどの耐食性を有する材料によって形成される。摩擦ダンパー8を長期的に使用する場合を考えると、腐食などの径時的な変化により滑動面8aの均一性が損なわれ、滑動時に大きな摩擦音を生じたり衝撃が発生するといった点が懸念される。この点を考慮して、滑動板Sとしてはステンレスやチタンなどの耐食性のある材料を使用することとし、これをスプライスプレート10,12に取り付けるようにしている。このように滑動板Sを単体で取り付けるようにすることで、耐食性のある材料の使用量が必要最小限に抑えられ、材料費が節約されて経済設計にも繋がる。
【0061】
さらに、円滑に滑動するよう、滑動板Sの滑動面8a側表面には圧延、研磨・研削、ブラスト、塗装などの何れか、若しくは複数の処理を施して、表面粗さの均一化を図るとよい。
【0062】
また、メンテナンスフリーとするために滑動板Sの表面には、防錆塗料を塗布するなどの表面処理を併せて行なうとよい。
【0063】
滑動板Sのスプライスプレート10、12への取付面、及び摩擦板22のウエブ14への取付面については、滑動時に両者間に相対的な滑りが生じないように、様々な工法の中から最適な方法を選択すればよい。例えば、表面に塗料を塗布(例えば、滑動板Sであれば、ステンレス鋼材専用の摩擦接合用塗料)、表面粗さの増大化を意図したブラスト処理又は研削処理等が挙げられる。
【0064】
そして、このような表面粗さの増大化処理を滑動板S及び摩擦板22の取付面に施すことにより、摩擦板22と滑動板Sとが相対的に滑動する際に、摩擦板22とウエブ14との間、及び滑動板Sとスプライスプレート10、12との間に相対的な滑りが生じるのを阻止できるので、摩擦板22と滑動板Sとを確実に相対的に滑動させることができる。
【0065】
皿ばね積層体30は、高力ボルト16の軸力Nをスプライスプレート10、12間に付加する経路に介装され、高力ボルト16の軸方向変位に対しても弾発力がほぼ一定で変動することのない非線形ばね特性を発揮するようになっている。
【0066】
皿ばね積層体30のばね特性Aは、図6に示すように、高力ボルト16の中心軸方向の変形量(見込み変化量) σに対して、荷重(弾発力)Wの変動がほぼ一定となる非線形ばね領域Pを備えており、皿ばね積層体30は、高力ボルト16に所定の軸力Nを付加した状態で、非線形ばね領域P内に設定される。本実施形態では、皿ばね積層体30は、複数枚の皿ばね単体を同一方向に積層して構成したものが用いられる。
【0067】
従って、この実施形態では、高力ボルト16の頭部16a側の座金32と一方のスプライスプレート10との間に皿ばね積層体30を介在したので、一対のスプライスプレート10、12とウエブ14との間のボルト軸方向の変動を皿ばね積層体30によって吸収することができる。そして、このときの変動吸収によって皿ばね積層体30のたわみ量が変化した場合にあっても、皿ばね積層体30が非線形ばね領域P内に設定されているため、弾発力つまり高力ボルト16の軸力をほぼ一定に維持することができる。
【0068】
つまり、振動入力がない状態では、スプライスプレート10、12とウエブ14とは、大きな静摩擦力をもって固定状態が維持されるが、振動入力によりこの固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃として現れる。しかし、皿ばね積層体30を設けたことにより、このときの反発力を皿ばね積層体30の弾性により高力ボルト16の軸力Nを変化させることなく吸収できる。従って、過大振動力が入力された場合にも、皿ばね積層体30の緩衝作用により音や衝撃の発生を抑制しつつ摩擦力による制振機能を十分に発揮することができる。
【0069】
皿ばね積層体30が非線形ばね領域Pに設定されていることにより、皿ばね積層体30の弾発力は、スプライスプレート10、12とウエブ14とが相対移動する際の滑動面、つまり、摩擦板22と滑動板Sとの間の滑動面8aにたとえ摩耗が生じたとしても、弾発力をほぼ一定に維持して摩擦抵抗力Rが低下するのを防止できる。従って、スプライスプレート10、12とウエブ14との接合部における当初の制振機能を永続して発揮することができる。
【0070】
この実施形態では、皿ばね積層体30を、一方のスプライスプレート10と高力ボルト16の頭部16a側の座金32との間に介在させた場合を示したが、これに限ることなく、一対のスプライスプレート10、12双方、つまり、両スプライスプレート10、12と高力ボルト16の頭部16a側及びナット18側の座金32、33との間に、それぞれ皿ばね積層体30を介装させることもできる。また、皿ばね積層体30を他方のスプライスプレート12とナット18側の座金33との間のみに介装させることもできる。
【0071】
皿ばね積層体30を構成する皿ばね単体の組み合わせ配置構成は、本実施形態に示したように、同一方向に複数枚を積層したものに限ることなく、これ以外にも本発明の皿ばね積層体30に求められる設定が可能である限り、種々に変更して組み合わせて構成することができ、例えば、皿ばね単体を単数で用いたり、複数枚を並列に積層したり、その積層方向を正逆交互に向けたりすることができる。
【0072】
また、この実施形態では付勢手段として皿ばね積層体30を用いた場合を示したが、これに限ることなく、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えたばねであればよい。
【0073】
ところで、上記実施形態では、摩擦板22をウエブ14に設け、滑動板Sをスプライスプレート10、12に設ける構成であったが、これとは反対に、図7に示したように、滑動板Sをウエブ14に設け、摩擦板22をスプライスプレート10、12に設けるようにしても良い。この場合、滑動板Sには、図8に示したように、ウエブ14の長孔14aと一致する孔21を設けることになる。
【0074】
さらに、上記実施形態では、皿ばね積層体30を備えることとしたが、必ずしも皿ばね積層体30を組み込む必要はない。上記実施形態の図2及び図7に対応させた図9及び図10にそれぞれ示したように、高力ボルト16とナット18による締結構造のみによって摩擦ダンパー8を構成しても良いことは勿論である。
【0075】
以上、説明した摩擦ダンパー8にあっては、一対のスプライスプレート10、12間にウエブ14を挟み込んで、これらに貫通した高力ボルト16をナット18締めするにあたって、これらスプライスプレート10、12とウエブ14との間に摩擦板22及び滑動板Sを介在させてあるので、地震や風などの外力によって例えば建物架構が振動する際に、この振動による変位力が所定値を超えると、スプライスプレート10、12とウエブ14とは、滑動板Sと摩擦板22との滑動を伴って相対移動する。このとき、滑動板Sと摩擦板22との間は、高力ボルト16の軸力Nをもって滑接されるとともに、所定の摩擦係数μが作用しており、これら滑動板Sと摩擦板22とが滑動される際には、振動エネルギーがμ×Nの摩擦抵抗力Rに変換されて振動減衰され、ブレース1における制振に寄与するようになっている。
【0076】
また、本実施形態では、ブレース部分1a、1b間に相対変位力が入力された際に、一対のスプライスプレート10、12間にウエブ14が挟まれた状態で相対移動するため、一対のスプライスプレート10、12間にボルト16の軸力N、つまり、締付け力を付加した状態で両者が滑動する際に、ボルト16が傾くなどしてこじれを生じることはなく、スムーズに相対移動することができる。
【0077】
このとき、上記摩擦板22は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、DFK樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されるので、摩擦板22は硬度が高く、かつ、強度に富む材質となって、一定の摩擦係数を有する摩耗の著しく少ない部材として形成することができる。
【0078】
従って、スプライスプレート10、12とウエブ14とが相対移動された際にも、滑動板Sと摩擦板22との間の摩擦係数μは常時ほぼ一定に維持され、かつ、滑動面8aの摩耗がほとんどないため高力ボルト16の軸力Nもほぼ一定に維持される。このため、スプライスプレート10、12とウエブ14との間の相対移動時に、摩擦係数μと軸力Nとの積として発生する摩擦抵抗力Rをほぼ一定に維持することができる。従って、摩擦ダンパー8が組み込まれたブレース1における摩擦減衰力特性、延いては、建物架構の振動に対する制振特性が安定化し、当初設定した制振構機能を長期に亘って維持することができる。
【0079】
そして、特に、ウエブ14とウエブ14を挟み込む一対のスプライスプレート10、12との間に、複合摩擦材などからなる摩擦板22とステンレス板などからなる滑動板Sを一対にして挟み込んで7層構造とし、摩擦板22と滑動板Sとの間で滑りを生じさせるようにしている。この7層構造は、ウエブ14スプライスプレート10、12との間に単に摩擦板22のみを組み込んで、摩擦板22とウエブ14若しくはスプライスプレート10、12との間で滑動させる5層構造よりも、以下の点で優れる。
【0080】
5層構造では、ウエブ14あるいはスプライスプレート10、12が摩擦板22に対する滑動板として機能されることになるが、例えば、スプライスプレートを滑動板として適用した場合、スプライスプレートはこれが接合されるブレース材や梁材、間柱材などの構造材との接合を考慮してその材質や表面仕上げが選択される、言い換えれば、スプライスプレートの材質や表面仕上げによってはこれらの構造材との接合が困難になってしまう。従って、スプライスプレートの材質や表面仕上げは構造材との接合を踏まえて選択されるので、このスプライスプレートと摩擦板との間で安定した摩擦係数および復元力特性を得ることができない場合があり、この場合、摩擦ダンパーとしての滑動荷重と滑動変位との関係が設計者の意図に反して不安定なものとなるおそれがある。この点はウエブを滑動板とした場合でも同様である。
【0081】
これに対して、本実施形態による7層構造では、滑動板Sおよび摩擦板22は、ウエブ14あるいはスプライスプレート10、12に対して別途取り付けられるものなので、ウエブ14やスプライスプレート10、12としては、構造材との接合上好ましい通常の鋼材等を用いることができるとともに、設計で意図した安定した摩擦係数及び復元特性が得られるように、滑動板Sと摩擦板22との最適な組み合わせを適宜に選択することが可能となる。
【0082】
また、摩擦板22及び滑動板Sは、それ専用に薄板として形成することができ、材質を新素材とし高価になっても、材料コストを下げることができ、経済性にも優れる。
【0083】
また、滑動面8aの損耗が激しく、摩擦ダンパー8を交換する必要が生じた場合でも、7層構造であるから滑動板S若しくは摩擦板22のみを取り替えることで対応することができる。滑動板Sも摩擦板22も、ともに薄板で構成できるので、重量的にも有利であり、交換時の作業性、経済性の面で優れている。
【0084】
上記実施形態では、ブレース部分を例示して本発明にかかる摩擦ダンパー8の適用を説明したが、鉄骨部材としてはこの他、鉄骨柱や鉄骨梁などがあり、これらに対しても摩擦ダンパー8を適用できることは勿論である。
【0085】
図11には、変形例として、摩擦ダンパー8を間柱41へ適用例が示されている。
すなわち、上下に分断された鉄骨製の間柱41の上部間柱部分41aには、その下面から垂下させて1枚の上ガセットプレート42が設けられるとともに、下部間柱41bには、その上面から起立させて上ガセットプレート42を両側から挟み込む一対の下ガセットプレート43が設けられている。上ガセットプレート42は、上部間柱部分41aの下面に溶接などにより接合されている。下ガセットプレート43は、ベース板43a及びベース板43a上に左右一対立設されたブラケット43bに,その底部及び左右両端が溶接などにより接合され、このベース板43aが下部間柱部分41bの上面にボルトで接合されている。そして,摩擦ダンパー8は、長孔14a及び摩擦板22が上ガセットプレート42に配置されるとともに、滑動板Sが一対の下ガセットプレート43にそれぞれ配置され、皿ばね積層体30を介して高力ボルト16及びナット18による締結力が導入されることで、上下ガセットプレート42、43相互の水平方向相対移動に対して減衰力を発生して、間柱41に入力される外力を減衰するようになっている。
【0086】
以上、説明した摩擦ダンパー8を組み込んだ間柱は、柱・梁で囲まれた架構内に1本配設しても、あるいは複数本配設しても良く、必要な制振効果が得られるようにアレンジすればよい。
【0087】
図12には、摩擦ダンパー8の適用対象としての鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示す。
一般に、鉄骨柱52と鉄骨梁54とは、H形鋼によって形成されて架構を構成する。鉄骨柱52の梁接続部分には、鉄骨梁54と同じH形鋼を短尺に切断したブラケット材55を溶接して一体化し、このブラケット材55に鉄骨梁54の接続端部が結合される。ブラケット材55は、鉄骨柱52のフランジ面52aに溶接されるとともに、ブラケット材55の上下フランジ55a、55b位置に対応して、鉄骨柱52の両側フランジ52a、52b間に跨って補鋼材57が溶接されている。
【0088】
上記鉄骨梁54の接続端は、上記ブラケット材55の先端に突き合わされ、これら鉄骨梁54とブラケット材55の互いに対応される上方フランジ54aと55a、及び下方フランジ54bと55b、そして、ウエブ54cと55cとの各部に両部材間に跨ってその両面にスプライスプレート58、59が配置され、これらを貫通する高力ボルト16にナット18を螺合して締め付けることにより、鉄骨梁54とブラケット材55、つまり鉄骨柱52とが結合される。
【0089】
ここで、鉄骨柱52と鉄骨梁54との接合部において、摩擦ダンパー8は、上方フランジ54aと55a、下方フランジ54bと55b、及びウエブ54cと55cとのボルト接合部に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明によるボルト接合部の制振構造の一実施の形態を示した斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図2のC部の拡大図である。
【図5】図1の滑動板の平面図である。
【図6】皿ばねの特性図である。
【図7】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図8】図7の滑動板の平面図である。
【図9】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図10】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図11】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図12】本発明によるボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示した要部断面図である。
【図13】従来のボルト接合部の一例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ブレース
8 摩擦ダンパー
10、12 スプライスプレート
14 ウエブ
14a 長孔
16 高力ボルト
18 ナット
22 摩擦板
25 溝
30 皿ばね積層体(付勢手段)
S 滑動板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合しようとする2つの鉄骨部材の一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と、他方の鉄骨部材に属する第2圧接板とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって前記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、
前記第1圧接板と前記第2圧接板との間に、摩擦板と滑動板とを重合させた状態で介装させて、前記第1圧接板と前記第2圧接板との相対移動時に、前記摩擦板と前記滑動板とを相対的に滑動可能とし、
前記第1圧接板及び前記第2圧接板にボルト貫通孔を形成するとともに、該第1圧接板の該ボルト貫通孔を、該第1圧接板の長さ方向に沿った長孔としたことを特徴とするボルト接合部の制振構造。
【請求項2】
前記第1圧接板の両側には、前記第1圧接板を両側から挟むように一対の前記第2圧接板が設けられ、各第2圧接板と前記第1圧接板との間にそれぞれ前記摩擦板と前記滑動板とが重合された状態で介装され、
一方の摩擦板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか一方との間、一方の滑動板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか他方との間、他方の摩擦板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか一方との間、及び他方の滑動板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか他方との間に、それぞれ表面粗さの増大化処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項3】
前記摩擦板又は前記滑動板の少なくとも何れか一方は、前記第1圧接板又は前記第2圧接板に交換可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項4】
前記滑動板は、耐食性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項5】
前記滑動板は、ステンレスやチタンを素材として形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項6】
前記摩擦板は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項7】
前記摩擦板は、前記滑動板と圧接する面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込むための凹部を有していることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項8】
前記第1圧接板と前記第2圧接板との重合部分の前記ボルト軸力を付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介在させ、該ボルトに所定の軸力を発生させた状態で、該付勢手段が前記非線形ばね領域内でたわみ変形するように設定したことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項9】
前記鉄骨部材はH形やI形などの形鋼であり、前記第1圧接板及び前記第2圧接板がこれら形鋼に属する板部分であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項1】
互いに接合しようとする2つの鉄骨部材の一方の鉄骨部材に属する第1圧接板と、他方の鉄骨部材に属する第2圧接板とを互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動可能にボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力する所定値以上の振動変位力により両圧接板間の相対移動が許容され、このときに両圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって前記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、
前記第1圧接板と前記第2圧接板との間に、摩擦板と滑動板とを重合させた状態で介装させて、前記第1圧接板と前記第2圧接板との相対移動時に、前記摩擦板と前記滑動板とを相対的に滑動可能とし、
前記第1圧接板及び前記第2圧接板にボルト貫通孔を形成するとともに、該第1圧接板の該ボルト貫通孔を、該第1圧接板の長さ方向に沿った長孔としたことを特徴とするボルト接合部の制振構造。
【請求項2】
前記第1圧接板の両側には、前記第1圧接板を両側から挟むように一対の前記第2圧接板が設けられ、各第2圧接板と前記第1圧接板との間にそれぞれ前記摩擦板と前記滑動板とが重合された状態で介装され、
一方の摩擦板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか一方との間、一方の滑動板と第1圧接板又は一方の第2圧接板の何れか他方との間、他方の摩擦板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか一方との間、及び他方の滑動板と第1圧接板又は他方の第2圧接板の何れか他方との間に、それぞれ表面粗さの増大化処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項3】
前記摩擦板又は前記滑動板の少なくとも何れか一方は、前記第1圧接板又は前記第2圧接板に交換可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項4】
前記滑動板は、耐食性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項5】
前記滑動板は、ステンレスやチタンを素材として形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項6】
前記摩擦板は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー、アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項7】
前記摩擦板は、前記滑動板と圧接する面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込むための凹部を有していることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項8】
前記第1圧接板と前記第2圧接板との重合部分の前記ボルト軸力を付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介在させ、該ボルトに所定の軸力を発生させた状態で、該付勢手段が前記非線形ばね領域内でたわみ変形するように設定したことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【請求項9】
前記鉄骨部材はH形やI形などの形鋼であり、前記第1圧接板及び前記第2圧接板がこれら形鋼に属する板部分であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載のボルト接合部の制振構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−109014(P2009−109014A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276818(P2008−276818)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【分割の表示】特願2005−9329(P2005−9329)の分割
【原出願日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【分割の表示】特願2005−9329(P2005−9329)の分割
【原出願日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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