説明

ボーリングバー装置

【課題】安価かつコンパクトに構築することが可能なボーリングバー装置を提供する。
【解決手段】ボーリングバー装置6は、先端に工具を設けた長尺なボーリングバー本体21と、そのボーリングバー本体21を主軸頭に配置させた状態で刃物台1の主軸2の周囲にクランプさせるためのハウジング22と、主軸2のテーパ部11にクランプ可能なホルダ8とによって構成されている。そして、ハウジング22を主軸2の周囲にクランプさせると、ハウジング22の基端のカプラ9−2とホルダ8の軸心先端のカプラ9−1とが係合し、ボーリングバー本体21およびハウジング22内の配管23と、ホルダ8の配管26と、主軸2内の供給管15とが連通するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械においてワークの中ぐり加工等を施す場合に用いられるボーリングバー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械においてワークに深い中ぐり加工等を施す場合には、先端に刃物を固着させた長尺なボーリングバー(ロングボーリングバー)装置が利用される。かかるボーリングバー装置としては、特許文献1の如く、ボーリングバー本体の上面に設置されたフックを工作機械の刃物台の下面に設けられたフックに係止させることによって、刃物台の下方に装着するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3908495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のボーリングバー装置は、刃物台の通常の工具を装着した場合の加工主軸とは異なる位置に装着されるものであるので、先端の工具付近から切削液を吐出させたい場合には、ボーリングバー装置専用の流通経路(切削液の流通経路)を、通常の工具用の流通経路とは別個に設けなければならないため、安価に構築することができなかった。また、そのように専用の流通経路を通常の工具用の流通経路とは別個に設置すると、コンパクトに設計することが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、上記従来のボーリングバー装置が有する問題点を解消し、安価かつコンパクトに構築することが可能なボーリングバー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、主軸の軸心に設けられた供給管を介して主軸に取り付けた工具に切削液を供給する切削液供給装置を備えた工作機械において主軸頭に固定されるボーリングバー装置であって、先端に工具を設けた長尺なボーリングバー本体と、そのボーリングバー本体を主軸頭に配置させた状態で主軸の周囲にクランプさせるためのハウジングとを有しており、前記主軸の供給管に接続させるための配管が、前記ボーリングバー本体の基端から先端まで貫通するように設けられており、その配管の基端が、主軸の軸線方向に沿って移動可能になっていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記配管の基端部分が、主軸に設けられたクランプ装置によってクランプ可能になっていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記配管の基端部分が、ボーリングバー本体と分離可能に設けられているとともに、前記配管の基端部分と前記ボーリングバー本体との間に、主軸の軸線方向に沿って相対移動可能なカプラが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載のボーリングバー装置は、主軸頭に工具を装着する場合と同じ供給経路を利用して、切削液供給装置によって送出される切削液をボーリングバー本体の先端まで供給するものであるので、専用の切削液供給経路を設けたものに比べて安価かつコンパクトに構築することができる。また、ハウジングを主軸の周囲にクランプさせるものであるので、ボーリングバー本体を直接的に主軸頭に固着させたものに比べて、工作機械に強固に取り付けることができ、駆動主軸側からの曲げ応力等の伝達を抑制して、加工主軸側の支持構造に負担をかける事態を防止することができる。さらに、ボーリングバー本体を貫通するように設けられた配管の基端が、主軸の軸線方向に沿って移動可能であるので、ハウジングと主軸の周囲とのクランプ状態に合わせて、当該配管の基端を、主軸内の供給管に柔軟に接続させることができる。
【0010】
請求項2に記載のボーリングバー装置は、配管の基端部分が主軸に設けられたクランプ装置によってクランプ可能になっているため、工具を主軸頭に装着する際と同様の操作によって、当該配管の基端を確実に主軸内の供給管に接続させることができる。
【0011】
請求項3に記載のボーリングバー装置は、配管の基端部分がボーリングバー本体と分離可能に設けられているとともに、当該配管の基端部分とボーリングバー本体との間に、主軸の軸線方向に沿って相対移動可能なカプラが設けられているため、配管の基端部分をボーリングバー本体と分離して工作機械の工具マガジンに収納することができる。また、工作機械に取り付ける際には、配管の基端部分とボーリングバー本体内の配管とをきわめて容易にかつ確実に接続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】工具を装着した工作機械の刃物台を示す説明図(主軸の軸線に沿った鉛直断面図)である。
【図2】刃物台の主軸の先端部分を拡大して示す説明図である。
【図3】ボーリングバー装置を装着した工作機械の刃物台を示す説明図(主軸の軸線に沿った鉛直断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るボーリングバー装置の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
<ボーリングバー装置を装着する刃物台の構造>
図1は、本発明に係るボーリングバー装置を装着可能な工作機械の刃物台(工具が装着された状態)を示したものであり、刃物台1の主軸(加工主軸)2の軸心には、前後を貫通するように軸孔2aが設けられている。また、主軸2の先端には、基端側から先端側にかけて次第に大径となるようにテーパ部11が設けられており、当該テーパ部11が軸孔2aと連通した状態になっている。
【0015】
図2は、主軸2の先端部分を拡大して示したものであり、軸孔2aのテーパ部11との連結部分の内部には、クランプ装置として機能する複数のコレット片を有する筒状のコレット爪4が設けられている。そして、そのコレット爪4によって、工具3が保持された状態になっている。なお、工具3の基端は、主軸2のテーパ部11と合致する円錐台状に形成されており、その円錐台状部分の先端には、プルスタッド12が設けられている。また、工具3の中心には、切削液を流通させるための配管13が設けられている。
【0016】
また、主軸2の軸孔2a内には、ドローバ5が軸方向に沿って移動可能に設けられており、軸孔2a内に設けられた皿バネによって後方へ付勢された状態になっている。当該ドローバ5の先端には、押止体が固着されており、その押止体の先端が、コレット爪4の基端の鉤状部に係合された状態になっている。一方、軸孔2aのテーパ部11との連結部分の外周には、凹溝14が設けられている。さらに、軸孔2aの中心には、切削液を流通させるための供給管15が設けられており、刃物台1の外部に設けられた切削液供給装置(図示せず)に接続された状態になっている。
【0017】
加えて、主軸2の外側には、ボーリングバー装置を保持するための複数(4個)のコレット爪7,7・・が、主軸2を中心とした円周上に等間隔で散点するように設けられている。コレット爪7,7の構造は、上記したコレット爪4の構造と略同様であり、コレット爪7,7の周囲の構造も、上記したコレット爪4の周囲の構造と略同様である。すなわち、コレット爪7を設けた軸孔内には、ドローバが軸方向に沿って移動可能に設けられており、皿バネによって後方へ付勢された状態になっている。また、当該ドローバの先端には、押止体が固着されており、その押止体の先端が、コレット爪7の基端の鉤状部に係合された状態になっている。
【0018】
上記の如く構成された刃物台1においては、主軸2のドローバを皿バネの付勢力によって基端側へスライドさせると、コレット爪4の先端が軸孔2aの凹溝14から外れて工具3のプルスタッド12を内部(基端側)に引き込むことによって、工具3の基端をテーパ部11に固着させる。そのように、工具3の基端がテーパ部11に固着された状態においては、軸孔2a内の供給管15と工具3内の配管13とが連通した状態となり、切削液供給装置から供給された切削液が、工具3の先端から吐出し、被加工物の切削屑を洗い流すことが可能となる(図1,2の状態)。
【0019】
一方、主軸2のドローバを皿バネの付勢力に抗して先端側へスライドさせると、押止体の先端がプルスタッド12を押止して工具3を前方に押し出すとともに、軸孔2aの凹溝14にコレット爪4の先端が嵌まり込み、プルスタッド12とコレット爪4の先端との係合状態が解除されるため、工具の取り外しが可能となる。
【0020】
<ボーリングバー装置の構造>
図3は、上記した刃物台1に、長尺なボーリングバー装置(ロングボーリングバー装置)6を保持させた状態を示したものである。ボーリングバー装置6は、ボーリングバー本体21と、ハウジング22と、ハウジング22の基端側に接続されるホルダ8とによって構成されている。
【0021】
ボーリングバー本体21は、長尺な円柱状に形成されており、先端に刃物(工具)が設けられている。また、ボーリングバー本体21の基端には、フランジ状(中空で扁平な円柱状)に形成されたハウジング22が、ボーリングバー本体21と同心状に固着されている。当該ハウジング22のリング状の底面には、複数(6個)のプルスタッド24,24・・が、周方向に沿って等間隔に設置されている(主軸2の周囲のコレット爪7,7・・と同一の配置で設置されている)。なお、各プルスタッド24,24・・は、ハウジング22の底面に形成された凹状部内に、外向きに突設された状態になっている。そして、ボーリングバー本体21およびハウジング22には、切削液を流通させるための配管23が、軸心に沿って前後を貫通するように設けられており、ハウジング22の基端に設けられたカプラ9−2(たとえば、Pascal社製 ミニカプラの雄側)と連通した状態になっている。
【0022】
また、ホルダ8の構造は、上記した工具3の基端側の構造と同様であり、基端側が、主軸2のテーパ部11と合致する円錐台状に形成されており、当該円錐台状部分の先端に、プルスタッド25が設けられている。さらに、ホルダ8の軸心には、切削液を流通させるための配管26が前後を貫通するように設けられており、軸心の先端に設けられたカプラ9−1(たとえば、Pascal社製 ミニカプラの雌側)と連通した状態になっている。
【0023】
ハウジング22の基端に設けられたカプラ9−2、および、ホルダ8の先端に設けられたカプラ9−1は、主軸2の軸方向に沿って互いに係合可能に形成されており、両者を係合させた状態においては、カプラ9−1、9−2それぞれの軸心に位置した弁体が内部に押し込まれるとともに、カプラ9−1の軸心の周囲に位置した弁体が内部に押し込まれて、切削液を通過させることが可能となり、両者の係合が解除されると、各カプラ9−1,9−2において、弁体が閉じられた状態となり、液体が流出しない状態となる。
【0024】
上記の如く構成されたボーリングバー装置6を刃物台1に装着する場合には、主軸2のテーパ部11にホルダ8を挿入した状態で、主軸2のドローバを皿バネの付勢力によって基端側へスライドさせる。そのようにドローバを基端側へスライドさせると、コレット爪4の先端が軸孔2aの凹溝14から外れてホルダ8のプルスタッド25を内部(基端側)に引き込むため、ホルダ8が主軸2のテーパ部11に固着される(クランプされる)。
【0025】
そして、上記の如くホルダ8を主軸2のテーパ部11に固着させた状態で、ハウジング22の底面に設けられたプルスタッド24,24・・を、刃物台1の主軸2の周囲に設けられたコレット爪7,7・・に係合させる(すなわち、ドローバを基端側へスライドさせて、各コレット爪7,7・・の先端によって各プルスタッド24,24・・を刃物台1の内部に引き込む)。そのようにハウジング22の底面のプルスタッド24,24・・を刃物台1のコレット爪7,7・・に係合させると、ボーリングバー装置6の軸心においては、カプラ9−2が、ホルダ8の先端に設けられたカプラ9−1と係合し、ボーリングバー本体21およびハウジング22内の配管23と、ホルダ8の配管26と、主軸2内の供給管15とが連通した状態となり、切削液供給装置から供給された切削液が、ボーリングバー本体21の先端から吐出し、被加工物の切削屑を洗い流すことが可能となる(図3の状態)。
【0026】
一方、ボーリングバー装置6を刃物台1から取り外す場合には、主軸2の周囲のコレット7,7・・の設置部分において、ドローバを皿バネの付勢力に抗して先端側へスライドさせると、ハウジング22のプルスタッド24,24・・とコレット爪7,7・・の先端との係合状態が解除されて、ハウジング22を刃物台1から取り外すことが可能となる。そして、主軸2において、ドローバを皿バネの付勢力に抗して先端側へスライドさせると、ホルダ8のプルスタッド25とコレット爪4の先端との係合状態が解除されて、ホルダ8を刃物台1から取り外すことが可能となる。
【0027】
<ボーリングバー装置の効果>
ボーリングバー装置6は、上記の如く、先端に工具を設けた長尺なボーリングバー本体21と、そのボーリングバー本体21を主軸頭に配置させた状態で主軸2の周囲にクランプさせるためのハウジング22とを有しており、主軸2の供給管15に接続させるための配管(配管23および配管26)が、ボーリングバー本体21の基端から先端まで貫通するように設けられており、その配管の基端(配管26)が、主軸2の軸線方向に沿って移動可能になっている。それゆえ、主軸頭に工具3を装着する場合と同じ供給経路を利用して、切削液供給装置によって送出される切削液をボーリングバー本体21の先端まで供給することができるので、専用の切削液供給経路を設けたものに比べて安価かつコンパクトに構築することができる。また、ハウジング22を主軸2の周囲にクランプさせるものであるので、ボーリングバー本体21を直接的に主軸頭に固着させたものに比べて、刃物台1に強固に取り付けることができ、駆動主軸側からの曲げ応力等の伝達を抑制して、主軸2側の支持構造に負担をかける事態を防止することができる。さらに、ボーリングバー本体21を貫通するように設けられた配管の基端(配管26)が、主軸2の軸線方向に沿って移動可能であるので、ハウジング22と主軸2の周囲とのクランプ状態に合わせて、当該配管の基端(配管26)を、主軸2内の供給管15に柔軟に接続させることができる。
【0028】
また、ボーリングバー装置6は、配管の基端部分(配管26)を設けたホルダ8が、主軸2に設けられたクランプ装置(クランプ爪4)によってクランプ可能になっているため、工具3を主軸頭に装着する際と同様の操作によって、当該配管の基端部分(配管26)を確実に主軸2内の供給管15に接続させることができる。
【0029】
さらに、ボーリングバー装置6は、配管の基端部分(配管26)を設けたホルダ8が、ボーリングバー本体21と分離可能に設けられているとともに、配管の基端部分(配管26)とボーリングバー本体21との間に、主軸2の軸線方向に沿って相対移動可能なカプラ9−1,9−2が設けられているため、配管の基端部分(配管26)を設けたホルダ8を、ボーリングバー本体21と分離して工作機械の工具マガジンに収納することができる。また、工作機械に装着する際には、配管の基端部分(配管26)とボーリングバー本体21内の配管23とをきわめて容易にかつ確実に接続させることができる。
【0030】
<ボーリングバー装置の変更例>
本発明に係るボーリングバー装置の構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、ボーリングバー本体、ハウジング、ホルダ、配管、カプラ等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、ボーリングバー装置を装着する工作機械(刃物台)の構成も、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、クランプ手段(コレット爪)、供給管、カプラ等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0031】
たとえば、ボーリングバー装置および刃物台は、供給装置から送出された切削液をボーリングバー本体の先端から吐出させるものに限定されず、コンプレッサ等から送出されたエアーをボーリングバー本体の先端から吐出させるもの等に変更することも可能である。
【0032】
また、ボーリングバー装置は、ハウジングの底面に設けられたプルスタッドを、主軸の周囲に設けられたコレット爪に係合させることによって刃物台に装着するものに限定されず、ハウジングの底面にコレット爪が設けられており、当該コレット爪に、主軸の周囲に突設されたプルスタッドを係合させことによって刃物台に装着するもの等に変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のボーリングバー装置は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、中ぐり加工等をする際の工作機械のアタッチメントとして、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1・・刃物台
2・・主軸
3・・工具
4・・コレット爪
6・・ボーリングバー装置
8・・ホルダ
9−1,9−2・・カプラ
15・・供給管
21・・ボーリングバー本体
22・・ハウジング
23・・配管
26・・配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸の軸心に設けられた供給管を介して主軸に取り付けた工具に切削液を供給する切削液供給装置を備えた工作機械において主軸頭に固定されるボーリングバー装置であって、
先端に工具を設けた長尺なボーリングバー本体と、
そのボーリングバー本体を主軸頭に配置させた状態で主軸の周囲にクランプさせるためのハウジングとを有しており、
前記主軸の供給管に接続させるための配管が、前記ボーリングバー本体の基端から先端まで貫通するように設けられており、その配管の基端が、主軸の軸線方向に沿って移動可能になっていることを特徴とするボーリングバー装置。
【請求項2】
前記配管の基端部分が、主軸に設けられたクランプ装置によってクランプ可能になっていることを特徴とする請求項1に記載のボーリングバー装置。
【請求項3】
前記配管の基端部分が、ボーリングバー本体と分離可能に設けられているとともに、
前記配管の基端部分と前記ボーリングバー本体との間に、主軸の軸線方向に沿って相対移動可能なカプラが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のボーリングバー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−73102(P2011−73102A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228041(P2009−228041)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】