説明

ボールペン

【課題】筆記部材としてのボールを、その一部が一部突出した状態で回転自在に抱持するボールホルダーのインキ吐出口の少なくとも開口部分を熱可塑性接着材料で閉塞してなるボールペンにおいて、インキ吐出口の少なくとも開口部分に付けた熱可塑性接着材料が経時的にボールから取れにくくなり書き味が劣化する不具合を解決し、熱可塑性接着材料がボール表面において外れやさを維持することが出来るようにすることを提供する。
【解決手段】筆記部材としてのボールを、その一部が一部突出した状態で回転自在に抱持するボールホルダーのインキ吐出口の少なくとも開口部分を熱可塑性接着材料で閉塞してなるボールペンにおいて、前記熱可塑性接着材料に脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルを添加したボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてのボールを、その一部が突出した状態で回転自在に抱持するボールホルダーのインキ吐出口の少なくとも開口部分(以下、チップ先端と称する)を、融解させた熱可塑性接着材料(以下、ホットメルト接着剤と称する)を付着させ固化させて閉塞してなるボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンのボールには、炭化タングステンや炭化クロムを主成分にしてコバルトやニッケルやクロムなどのバインダーを加えて焼成した超硬合金ボールや、炭化珪素やジルコニアや窒化珪素を焼成したセラミックボールなどがある。これらの中で、表面を滑らかに加工できるため、筆記時の抵抗が少なく書き味が良い、超硬合金ボールが一般的に使用されている。
ボールペンには、キャップをとる手間が要らないように、僅かな操作によってボールペンチップが外装体の先端より出没する、ペン先出没式の形態がある。また、外装を繰り返し使うために、ボールペン用リフィルが外装体を伴わない状態で売られる場合がある。これらのボールペンやリフィルは、製造してから実際に使用するまでの期間、ペン先のインキの乾燥やインキ洩れを防止するために、ホットメルト接着剤で密封することが知られている(特許文献1、2)。
また、ホットメルト接着剤の軟化剤としてパラフィン系オイルを添加することが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−222950号公報
【特許文献2】特開平09−099691号公報
【特許文献3】特開2006−181894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にホットメルト接着剤には、接着性を付与するエチレン−酢酸ビニル共重合体やポリオレフィン化合物やポリアミド化合物に加えて、融解時の粘度や硬化時間を調整するためにロジンやワックスが添加されている。
チップ先端に、融解させたホットメルト接着剤を付着させ固化閉塞する具体的方法は、例えば次のようにする。
温調器付きのホットプレート等の加熱機器上に置いた耐熱性の容器にホットメルト接着剤を適量入れ、ホットメルト接着剤指定の温度で融解する。ボールペンチップを下向きにして、チップ先端を融解したホットメルト接着剤に浸し、約1秒後に引き上げ、室温で5秒以上放置してホットメルト接着剤を冷却固化する。
形成されたペン先封止材は筆記する前に取り外すので、指先の軽い力で簡単に取れることが求められるが、経時的に付着力が増大してホットメルト接着剤の一部がボール表面に残って書き味が劣化する不具合があった。
ホットメルト接着剤にパラフィン系オイルを添加した場合にも経時で書き味が劣化する不具合は解決できないものであった。
チップ先端に付けたホットメルト接着剤が経時的にボールから取れにくくなり、書き味が劣化する不具合を解決することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、チップ先端をホットメルト接着剤で閉塞してなるボールペンにおいて、前記ホットメルト接着剤に脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルから選ばれる1種若しくは2種以上を添加したボールペンを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
脂肪酸、脂肪酸2量体、脂肪酸エステル、及びその誘導体が経時的にホットメルト接着剤がボールに残る不具合を防止する理由は定かではないが、次のように推測される。
ホットメルト接着剤が経時的にボール表面から外れにくくなるのは、ホットメルト接着剤のロジンやワックス中の揮発成分が蒸発して収縮し、ボール表面の凹凸への接着面積が増えて摩擦力が大きくなるためと考えられる。脂肪酸、脂肪酸2量体、脂肪酸エステルはホットメルト接着剤と混ぜても徐々にしみ出し、その一部がボール表面に到達すると、分子鎖中に親油性部と親水性部を持つのでボール表面と馴染みが良いため、ボール表面の凹凸に入り込むものと推察され、その結果、経時的にホットメルト接着剤が収縮しても、ボール表面の凹凸に入り込んだ脂肪酸、脂肪酸2量体、脂肪酸エステルが障害になってボール表面の凹凸に入り込めないので、接着面積が増えないので外れ易さを維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ホットメルト接着剤は市販の製品を限定なく使用できる。例えば、エチレン−酢酸ビニル系としては、HM200、HM207、HM215(以上、セメダイン(株)製)、ハイボン9800、ハイボン9822、ハイボン9877、ハイボン9880P、ハイボン9880L(以上、日立化成ポリマー(株)製)、EC3738、EC3762(以上、住友スリーエム(株)製)、ポリオレフィン系としては、PPET1204、PPET2001、PPET2111(以上、東亜合成(株)製)、EC3797(住友スリーエム(株)製)、ポリアミド系では、ハイボンXH005−8、TCL160(以上、日立化成ポリマー(株)製、EC3779、JA7375(以上、住友スリーエム(株)製)などがあるが、これらに限定されるものではない。これらは一種もしくは二種以上を混合して使用しても良い。更に、ポリエチレン樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合樹脂、エチレン・イソブチルアクリレート共重合樹脂、ブチラール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂などの樹脂や、タルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、ゼオライト、シリカゲル等の充填剤や、顔料、染料等の着色剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0008】
脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルの例としては、具体的には以下のものが挙げられる。脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、トール油、脂肪酸二量体としては、ミリスチン酸二量体、パルミチン酸二量体、ステアリン酸二量体、イソステアリン酸二量体、オレイン酸二量体、リノール酸二量体、リノレン酸二量体、トール油二量体、脂肪族エステルとしては、ラウリン酸ポリグリセリル、ミリスチル酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、イソステアリン酸ポリグリセリルなどがあるが、これに限定されるものではない。また、これらは一種もしくは二種以上を混合して使用しても良い。また、脂肪酸、脂肪酸二量体とアクリル酸の共重合物、同マレイン酸共重合物を使用しても良い。
【0009】
上述のようなホットメルト接着剤と脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルの1種若しくは2種以上との混合物は、加熱融解したホットメルト接着剤に脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルを加えて攪拌混合することで容易に得ることが出来る。また、ホットメルト接着剤を製造する際に添加しても良い。
【0010】
ボールの材質としては、炭化タングステンや炭化クロムを主成分としてこれに、コバルト、クロム、ニッケルなどのバインダーを混合して焼結し、研磨して所定の球形にしたものや、ステンレスボールや、炭化珪素やジルコニアや窒化珪素などのセラミクスと超硬合金を混合して焼結したボールが使用できる。市販品としては、PB−11、G2、ルビーロイ(以上、ツバキ・ナカシマ(株)製)、CE20、CR−5、CR−24、TC657(以上、ITI社製、米国)、TGS、44A(以上、Hoover社製、米国)などの超硬合金ボールや、炭化珪素やジルコニアや窒化珪素などのセラミクスと超硬合金を混合して焼結したボールであるKDN−15(ITI社製、米国)があるが、使用できる含金属ボールはこれらに限定されるものではない。
【0011】
ボールホルダーはボールを回転自在に先端開口部より突出した状態で抱持するもので、ステンレス、洋白を使用した金属ホルダーや、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリレート等の合成樹脂を使用した樹脂ホルダーが使用できる。
【0012】
ボールペンに使用されるインキは、従来公知の水性タイプと油性タイプの両方使用できる。着色剤には染料、顔料、あるいはそれらの混合品が使用できる。インキに粘度調整剤を加えても良い。定着剤、防錆剤、防黴剤、消泡剤、脱気泡剤、pH調整剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、キレート剤など、従来公知の添加剤を加えても良い。筆跡を消去もしくは隠蔽する修正液を使用しても良い。
【0013】
インキを収容するインキタンクは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、シリコン樹脂等の高分子化合物や金属の中空体を使用する。これらの中空体がペン外装を兼ねても良い。また、インキがインキタンクの内壁に付着することを抑制するためなど、必要に応じてインキタンク内面にシリコン樹脂やフッ素樹脂などを塗布して撥水処理をすることもできる。後端開口するインキタンクの場合には、インキの洩れや乾燥を抑制するために、インキフォロアーを配置してもよい。逆流防止体は不揮発性液体をゲル化したものやスポンジ状のものやプラスチック製のフロートなど各種公知のものを単独あるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0014】
ボールペンチップは直接インキタンクに付けてもよいが、チップホルダーを介しても良い。
【0015】
ボールペンチップのボールとボールホルダーとの隙間の密閉性を高めるために、ボールホルダー内にコイルスプリング等の弾性体を配置して、ボールを外側に付勢し、ボールホルダーの内壁にボールを押し付けても良いし、逆流防止の弁構造をボールホルダーやチップホルダーに設置しても良い。
【0016】
ボールペンの製造は従来公知の方法で行うことができる。製造工程中に遠心処理などの脱泡工程を入れても良い。加圧、減圧、加熱、冷却、自然放置、不活性雰囲気などを組み入れても構わない。
【0017】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。「部」は重量パーセントを表す。
【0018】
試験に使用したインキ
<成分>
ダイワブルーNo.1WB(青色染料、ダイワ化成(株)製) 3.50部
ダイワレッド106WB(赤色染料、ダイワ化成(株)製) 0.80部
エチレングリコール 9.00部
チオジグリコール 9.00部
オレオイルサルコシンナトリウム 5.00部
プロクセルGXL(S)(防腐剤、アビシア(株)製) 0.20部
ケルザンT(キサンタンガム、三晶(株)製) 0.40部
イオン交換水 72.1部
上記成分を混合して、攪拌機で2時間攪拌した後、1マイクロメートルフィルターで濾過して得た、青色ボールペン用水性染料インキ。
【0019】
試験サンプルボールペン
ぺんてる(株)製KN123用リフィル(直径0.35mmの超硬合金製のボール、ステンレス製ボールホルダー、合成樹脂製チップホルダー、透明合成樹脂製中空パイプで構成されたノック式ボールペン用リフィル)の部材を使用して、インキを0.8g、シリコンオイルインキフォロワーを0.1g充填した。脱泡処理をして試験サンプルボールペンとした。
【0020】
実施例1
HM200(エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤、セメダイン(株)製)100部
オレイン酸 2部
HM200を150℃〜180℃で加熱融解したところにオレイン酸を加え、プロペラ攪拌機で十分に混合した。この中に試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0021】
実施例2
HM200(エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤、セメダイン(株)製)100部
ハリダイマー200(トール油二量体、ハリマ化成(株)製) 5部
HM200を150℃〜180℃で加熱融解したところにハリダイマー200を加え、プロペラ攪拌機で十分に混合した。この中に試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0022】
実施例3
JA7399(ポリオレフィン系ホットメルト接着剤、住友スリーエム(株)製)
100部
DIACID−1550(トール油アクリル酸重合物、ハリマ化成(株)製) 10部
JA7399とDIACID−1550を混合して170℃から200℃で加熱融解し、プロペラ攪拌機で十分に混合した。この中に試験ペンのペン先を1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0023】
実施例4
Hi−BON TCL160(ポリアミド系ホットメルト接着剤、日立化成ポリマー(株)
製) 100部
NIKKOL DGMO−CV(オレイン酸ポリグリセリル、日光ケミカルズ(株)製)
5部
Hi−BON TCL160とNIKKOL DGMO−CVとを混合して180℃から200℃で加熱融解し、プロペラ攪拌機で十分に攪拌した。この中に試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0024】
比較例1
HM200 (前述)のみを150℃から180℃で加熱融解したところに、試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0025】
比較例2
JA7399(前述)のみを170℃から200℃で加熱融解したところに、試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0026】
比較例3
Hi−BON TCL160(前述)を180℃から200℃で加熱融解したところに、試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0027】
比較例4
HM200(前述) 100部
KF96(シリコーンオイル、信越化学(株)製) 5部
HM200を150℃から180℃で加熱融解したところにKF96を加え、プロペラ攪拌機で十分に混合した。この中に試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0028】
比較例5
HM200(前述) 100部
ダウニーオイルKP−32(パラフィン系オイル、流動パラフィン、出光興産(株)製)
5部
HM200とダウニーオイルKP−32を混合して150℃から180℃で加熱融解し、プロペラ攪拌機で十分に攪拌した。この中に、試験サンプルボールペンのボールペンチップの先端から1mm程度浸し、約1秒後に引き上げ、1分以上室温に置いた。
【0029】
実施例1〜4、比較例1〜5のボールペンは、ホットメルト接着剤を付ける前に評価1を行った。その後ホットメルト接着剤を付けて60℃湿度80%の恒温高湿庫に置き、経時加速試験を行った。1ヶ月間後に取り出し、室温に戻してから、ペン先のホットメルト接着剤を剥がし、評価2を行った。数値が小さいほどホットメルト接着剤が剥がれ易いことを示す。また、同サンプルで再び評価1を行った。評価1の数値の差が小さいほど書き味が劣化しないことを示す。
【0030】
評価1 筆記抵抗値(書き味の滑らかさ)
自動筆記抵抗測定機(SEIKI KOGYO LAB製)にて、筆記荷重が100gf、筆記角度が70°、筆記速度が7cm/sにて筆記した際の抵抗値を測定した。ボール表面にホットメルト接着剤が残っている程、筆記抵抗値が大きくなる。
【0031】
評価2 ボール表面のホットメルト接着剤被覆率
光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ VHX−900、(株)キーエンス製)にて、ボール表面を観察し、付着したホットメルトの被覆面積を付属のソフトウエアで求めた。ボール表面は湾曲しているが、簡単のために平面と見なして計算した。値が小さいほどボールからホットメルト接着剤が剥がれやすいことを示す。
被覆率(%)=(ホットメルト付着面積/露出した部分のボールの面積)×100
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1、2と比較例1の比較、実施例3と比較例2の比較、実施例4と比較例3の比較から、ホットメルト接着剤に脂肪酸や脂肪酸二量体や脂肪酸二量体とアクリル酸の重合物を添加すると、経時加速試験後でもホットメルト接着剤がボールから剥がれやすく、書き味が損なわれていないことが分かる。また、親水性がないシリコーンオイルやパラフィン系オイルを添加したホットメルト接着剤は、加速経時試験後にはボール表面から完全にホットメルト接着剤が剥がれず、書き味が劣化してしまうものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記部材としてのボールを、その一部が突出した状態で回転自在に抱持するボールホルダーのインキ吐出口の少なくとも開口部分を熱可塑性接着材料で閉塞してなるボールペンにおいて、前記熱可塑性接着材料に脂肪酸、脂肪酸二量体、脂肪酸エステルの1種若しくは2種以上を添加したボールペン。

【公開番号】特開2012−76229(P2012−76229A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220436(P2010−220436)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】