説明

ポリ−γ−グルタミン酸の製造法及びその製造法に用いられる微生物

【課題】 効率よくポリ−γ−グルタミン酸を生産する方法を提供する。
【解決手段】 ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属に属する微生物を液体培地中で培養し、当該培地中にポリ−γ−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを採取する方法において、当該培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめる。例えば、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属に属する微生物を、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の存在下で培養し、培養液中にポリ−γ−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを採取する。また、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解遺伝子の発現を向上させたバチルス属細菌を液体培地に培養し、培養液中にポリ−γ−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸の製造法及びその製造法に用いられる微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ−γ−グルタミン酸は、納豆の糸引きの主体物質として知られており、食品、化粧品、医療品などの多くの分野で、種々の用途があるものと期待されている。そして、ポリ−γ−グルタミン酸は、主にポリ−γ−グルタミン酸生産能を有する微生物、例えば、バチルス属の菌株を培養してその培養物から製造されている(非特許文献1参照)。
【0003】
微生物の発酵によるポリ−γ−グルタミン酸の生産量を増大させるための方法として、これまで、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、低アンモニア生産性の変異株を培養して培養物中にポリ−γ−グルタミン酸を生産させる方法(特許文献1)、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、かつグルタミン酸合成酵素活性が欠損又は減少した変異株を培養して培養物中にポリ−γ−グルタミン酸を生産させる方法(特許文献2)などが開発されている。さらに、培養時間を延ばすと、いったん生成したポリ−γ−グルタミン酸が分解されて、ポリ−γ−グルタミン酸の蓄積が低下するという問題点があった。そこで、ポリ−γ−グルタミン酸分解に関与する酵素が探索され、ywtD遺伝子にコードされるポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が欠損又は減少した変異株を用いるポリ−γ−グルタミン酸生産法(特許文献3)、やpghA遺伝子(ywrD遺伝子)にコードされるポリ−γ−グルタミン酸を分解酵素活性が欠損又は減少した変異株を用いるポリ−γ−グルタミン酸生産法(特許文献4)が開発された。
【非特許文献1】月刊組織培養、16巻、No.10、369〜372頁、1990年
【特許文献1】特開平8−154616号公報
【特許文献2】特開2000−333690号公報
【特許文献3】特開2003−235566号公報
【特許文献4】特開2003−230384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、従来技術よりも効率よくポリ−γ−グルタミン酸を発酵生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ポリ−γ−グルタミン酸発酵を解析し、ポリ−γ−グルタミン酸の分子量が培養液の性状に大きく影響を与えるものと推定した。そして、ポリ−γ−グルタミン酸生産菌である納豆菌バチルス・ズブチリスIFO16449株を培養する際に、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を添加することで、ポリ−γ−グルタミン酸生産量が顕著に向上することを見いだした。また、ポリ−γ−グルタミン酸生産菌である納豆菌バチルス・ズブチリスIFO16449株においてエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素遺伝子の発現を向上させることで、ポリ−γ−グルタミン酸生産能が向上することを見いだした。これらの知見に基づき、本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1)ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属に属する微生物を液体培地中で培養し、当該培地中にポリ−γ−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを採取する方法において、当該培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめることを特徴とする、ポリ−γ−グルタミン酸の製造方法。
(2)エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物を培地中に添加することにより、前記培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめる、(1)記載の方法。
(3)前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物が、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を有する菌体及び当該菌体処理物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(2)記載の方法。
(4)微生物の細胞中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解活性を向上せしめることにより、前記培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめる、(1)記載の方法。
(5)前記微生物がバチルス・ズブチリスである(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素がバチルス・ズブチリスのywtD産物である(1)〜(5)のいずれか一項に記載の方法。
(7)前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素がバチルス・ズブチリスのywrD産物である(1)〜(5)のいずれか一項に記載の方法。
(8)ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、細胞中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性が向上するように改変したバチルス属に属する微生物。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を利用した効率的なポリ−γ−グルタミン酸の製造方法が提供される。また、本発明により、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を強化した新規細菌が提供され、この細菌を用いる、効率的なポリ−γ−グルタミン酸の製造が可能となる。
【0008】
エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の利用により、生成するポリ−γ−グルタミン酸の分子量は低下するが、ポリ−γ−グルタミン酸は利用用途により、必ずしも高い分子量のものが要求されるわけではないため、このような高い分子量のものが要求されない用途のポリ−γ−グルタミン酸の製造に、本発明の製造方法は有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<1>ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有する微生物
本明細書において、「ポリ−γ−グルタミン酸生産能」とは、ポリ−γ−グルタミン酸を菌体外に生産する能力を意味する。
【0010】
本発明において用いられるポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属微生物としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)などが挙げられる。さらに具体的には、例えば、バチルス・ズブチリスIFO3335、バチルス・ズブチリスIFO3336(M. Kunioka, and A. Goto (1994) Appl. Microbiol. Biotechnol. 40, 867-872)、バチルス・ズブチリスIFO16449、バチルス・リケニホルミスATCC9945(F. A. Troy (1973) J. Biol. Chem.248, 305-315)など、あるいは通常納豆製造に使用されている宮城野菌、高橋菌、旭川菌、松村菌、成瀬菌などの市販のものなどを挙げることができる。ま
た、これらの菌株から育種によりポリ−γ−グルタミン酸生産能を向上させたバチルス属微生物であってもよい。ポリ−γ−グルタミン酸生産能を向上させたバチルス属微生物は、例えば、グルタミン酸合成酵素遺伝子(gltA遺伝子)の破壊によりその発現を抑えることにより取得することができる(特開2000−333690)。
【0011】
<2>エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子の調製方法
本発明において用いられるエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子としては、バチルス・ズブチリス由来の遺伝子を用いることも、他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。バチルス・ズブチリス由来のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子として、ywtD遺伝子(Bacillus subtilis Genome Database Accession no. BG12535)およびywrD遺伝子(Bacillus subtilis Genome Database Accession no. BG12523)が知られており、これらの塩基配列は既に明らかにされているので、その塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いて、バチルス・ズブチリス染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White, T.J. et al, Trends Genet. 5,185(1989)参照)によって、各遺伝子を取得することができる。これらの遺伝子と相同性が高く、同様の活性を有する他の微生物のポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子も、同様にして取得され得る。
【0012】
染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito
and K. Miura, Biochem. Biophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0013】
ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素としては、配列番号8又は配列番号10に示されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。このようなポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列を有するものが挙げられる。コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他の等価のコドンに置換したものであってもよい。
【0014】
さらに、前記アミノ酸配列において、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解活性を実質的に損なわない1つ又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は付加を有するエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素であってもよい。ここで、「複数」とは、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、通常2〜200個、好ましくは2〜100個、さらに好ましくは2〜50個、最も好ましくは2〜10個である。また、配列番号8又は配列番号10に示されるアミノ酸配列に対する相同性が、通常80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有するエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素であってもよい。
【0015】
このような置換、欠失、挿入又は付加を有するエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子は、バチルス・ズブチリスの変種、自然突然変異株又は人為突然変異株、バチルス・ズブチリス以外のバチルス属微生物から取得され得る。また、置換、欠失、付加又は挿入を有するエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする変異遺伝子は、配列番号8又は配列番号10に示されるアミノ酸配列を有するエンド型ポリ−γ−グルタミン酸をコードする遺伝子をインビトロ変異処理、あるいは部位特異的変異処理することによっても取得され得る。これらの突然変異処理は、当業者に周知の方法によって行うことができる。このようにして得た変異遺伝子を、適当な細胞で発現させ、発現産物のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を調べることにより、上記のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素と実質的に同一のタンパク質をコードする遺伝子が得られる。
【0016】
上記のような置換、欠失、挿入又は付加は、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が維持されるような保存的変異である。保存的変異は、代表的には保存的置換である。エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素タンパク質の元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからAsn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0017】
また、変異遺伝子又はこれを保持する細胞から、配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列を有するDNA、又はこの塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素と実質的に同一のタンパク質をコードする遺伝子が得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。この条件は個々の配列のGC含量や繰り返し配列の有無などに依存するが、一例を示せば、相同性が高いDNA分子同士、例えば65%以上の相同性を有するDNA分子同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA分子同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄の条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。洗浄の時間は、通常には、15分である。
【0018】
プローブとして、配列番号7又は配列番号9の塩基配列の一部(通常には10〜50bp)の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号7又は配列番号9の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号7又は配列番号9の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0019】
上記のような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれる可能性があるが、それらについては、市販の活性発現ベクターにつなぎエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を測定することによって容易に取り除くことができる。
【0020】
相同性の値は、BLAST法により規定値のパラメーターを用いて算出されたものである。
<3>細胞中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性が向上した微生物の調製
方法
「エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性が向上した」とは、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性が野生株と比べて高いこと、また、改変により得られた微生物の場合は、改変前の微生物に比べて高いことを意味する。
【0021】
ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属微生物細胞中のポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上させるには、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子断片を、該微生物で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組み換えDNAを作製し、これをポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属微生物に導入して形質転換すればよい。形質転換株の細胞内のポリ−γ−グルタミン酸分
解酵素をコードする遺伝子のコピー数が上昇する結果、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が向上する。
【0022】
PCR法により増幅されたポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子は、エシェリヒア・コリ及び/又はバチルス属微生物の細胞内において自律複製可能なベクターDNAに連結して組換えDNAを調製し、これをエシェリヒア・コリ細胞に導入しておくと、後の操作がしやすくなる。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとしては、プラスミドベクターが好ましく、宿主の細胞内で自立複製可能なものが好ましく、例えば pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010等が挙げられる。
【0023】
バチルス属微生物の細胞内において自律複製可能なベクターとしては、pAMα1、pUB110、pUB18等が挙げられる。また、これらのベクターからバチルス属微生物でプラスミドを自律複製可能にする能力を持つDNA断片を取り出し、前記エシェリヒア・コリ用のベクターに挿入すると、エシェリヒア・コリ及びバチルス属微生物の両方で自律複製可能ないわゆるシャトルベクターとして使用することができる。このようなシャトルベクターとしては、例えばpHY300 が挙げられる。
【0024】
ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子とコリネ型細菌で機能するベクターを連結して組み換えDNAを調製するには、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結は、T4DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
【0025】
上記のように調製した組み換えDNAをバチルス属微生物に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、バチルス・ズブチリスMarburg168株について報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A., Nature, 274, 398 (1978); Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))、バチルス・ブレビスで知られているような電気パルス法による方法(Takahashi, W., Yamagata, H., Yamaguchi, K., Tsukagoshi, N., and Udaka, S., J. Bacteriol., 156, 1130 (1983))も応用できる。なお、本発明の実施例で用いた形質転換の方法は、コンピテントセル法である。
【0026】
ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする活性の向上は、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子を上記宿主の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。バチルス属微生物の染色体DNA上にポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペッティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーティッド・リピートが利用できる。この方法により、形質転換株内のポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子のコピー数が上昇する結果、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が向上する。
【0027】
ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性の向上は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上又はプラスミド上のポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。たとえば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモータ
ー、ラムダファージのPRプロモーター及びPLプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。これらのプロモーターへの置換により、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子の発現が強化されることによってポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が向上する。
【0028】
<4>エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物の調製方法
本発明において用いられるエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物には、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を有する菌体又は当該菌体処理物が含まれる。
【0029】
エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を調製する方法としては、(1)該酵素を産生する細胞または組織の培養物を原料として単離精製する方法、または(2)化学的に合成する方法等の公知手法を適宜用いることによって取得することができる。該酵素を産生する細胞には、遺伝子組換え技術等により該酵素を発現するように操作された細胞も含まれる。該酵素を発現している細胞としては、前記ywtD遺伝子又はywrD遺伝子を発現している細胞が挙げられるが、中でも好ましくは、前記<3>で述べたエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性が向上した微生物や、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素をコードする遺伝子発現プラスミドを用いて形質転換された細胞が挙げられる。
【0030】
本発明において該酵素の単離精製は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち適当な液体培地中で、該酵素を発現している細胞を培養し、得られる培養物から公知の方法で抽出、精製する。当該抽出、精製の方法は目的生成物の存在する画分に応じて適宜公知の手法が用いられる。
【0031】
具体的には次のようにして行なわれる。まず、培養物をそのまま濾過又は遠心分離等の常法に付して細胞又は上清を回収する。細胞中に該酵素が蓄積されている場合には、当該回収した細胞を適当な緩衝液剤中に懸濁して、さらに界面活性剤を適当な濃度で加えて膜を可溶化する。採取対象となる細胞が細胞壁を有する場合、リゾチームや超音波による前処理が必要である。界面活性剤としてはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)等が挙げられるが、これらは強力なタンパク質変性作用を有するので、タンパク質が生物活性を持つように折り畳まれるためには、例えばTritonX−100等の穏やかな非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。次いで得られる粗抽出液を、必要ならば界面活性剤の存在下で、一般に用いられる方法を適宜組み合わせることによって該酵素を単離精製する。なお、本発明において用いられる酵素含有物は単離精製した酵素を用いて調製することも出来るが、当該酵素活性を発揮しうる限りにおいて、当該細胞を菌体として、また、粗抽出液や粗精製液を菌体処理物として同様に用いることも出来る。
【0032】
該酵素が培養培地中に存在する場合には、まず培養物を濾過又は遠心分離に付して沈澱物(細胞等の固形物)を除去することにより、溶液部分のみを得、それから一般に用いられる方法を適宜組み合わせることによって目的物質を単離精製する。塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS−PAGE等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法等が挙げられる。より具体的には、例えば、減圧濃縮、凍結乾燥、常用の溶媒による抽出、pH調整、陰イオン交換樹脂または陽イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂等の常用の吸着剤による処理、結晶化、再結晶化等の慣用の方法によって分離、精製することができる。
【0033】
化学合成による場合は、例えばywtD産物であれば配列番号7に示される塩基配列を基に
して、該配列の全部または一部がコードするアミノ酸を特定し、該アミノ酸をペプチド合成機を用いて合成あるいは半合成することにより行うことができる。前駆体として合成した場合には適当にプロセシングすることにより成熟型とするのが好ましい。
【0034】
<5>バチルス属微生物を用いたポリ−γ−グルタミン酸の生産
ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属微生物を培養する培地中のエンド型エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を向上せしめることにより、培養液中に著量のポリ−γ−グルタミン酸が生成蓄積される。本発明において、培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を向上せしめるとは、培地中に含まれるエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素活性を高めることであって、ポリ−γ−グルタミン酸の生産菌株中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を直接高めること(例えば、上記のようにポリ−γ−グルタミン酸分解酵素遺伝子の発現を向上させること)であってもよく、また、培地中に別途調製したエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物を添加することであってもよい。
【0035】
エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性の向上は、ポリ−γ−グルタミン酸の生産性や蓄積量が向上するのに十分なものであればよい。エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性の向上により、ポリ−γ−グルタミン酸の生産性や蓄積量が向上する理由は、生成するポリ−γ−グルタミン酸の分子量が適度に下がることで、ポリ−γ−グルタミン酸の生産性や蓄積量が向上するためと考えられる。
【0036】
ポリ−γ−グルタミン酸生産のために使用される培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機微量栄養源を含有する通常の培地であるが、培地にグルタミン酸又はその金属塩、例えば、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウムなどを含有させると、ポリ−γ−グルタミン酸が効率よく生産されるので特に好ましい。培地成分の具体例としては、次のようなものを適宜組み合わせたものが用いられる。
【0037】
まず、炭素源として、ブドウ糖、果糖、庶糖、マルトース、粗糖類、糖蜜類(例えば、甜菜糖蜜、甘藷糖蜜)、各種澱粉類(例えば、タピオカ、サゴヤシ、甘藷、馬鈴薯、トウモロコシ)又はその酸若しくは酵素糖化液など、あるいはそれらの2種以上を適宜組み合わせたものが用いられる。
【0038】
また、窒素源として、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、醤油麹若しくはその抽出物、醤油又は醤油のおりなどの醤油醸造物又はそれらの混合物、ペプトン、大豆粉、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、大豆そのもの又は脱脂大豆若しくはそれらの粉体又は粒体又はそれらの抽出液、尿素などの有機窒素類、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸などのアンモニウム塩類、アンモニアガス、アンモニア水などの無機窒素類など、あるいはそれらの2種以上を適宜組み合わせたものなどが用いられる。
【0039】
また、上記の炭素源、窒素源に加えて、微生物の生育に必要な各種無機塩類、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛などの硫酸塩類、塩酸塩類、リン酸塩類、酢酸塩類、あるいはアミノ酸類、ビタミン類などが用いられる。アミノ酸類としては、前記したグルタミン酸のほかに、必要によりアスパラギン酸、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、ヒスチジンなど、またビタミン類としてはビオチン、サイアミンなどを用いることができる。
【0040】
また、固体培養の場合の培地素材としては、例えば蒸煮した大豆、大麦、小麦、そば、トウモロコシ又はそれらの混合物、及びそれらにグルタミン酸又はその金属塩を添加したものが好適なものとして用いられる。
【0041】
バチルス属微生物を培養するには、前記の培地を通常の方法、例えば110〜140℃、8〜15分で殺菌した後、培地に微生物を添加する。液体培養する場合には、振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で行なうことが望ましい。その際の培養温度は、25〜50℃、好ましくは37〜42℃が適当である。
【0042】
また、培地のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、又はそれらの水溶液などによって調整し、pH5〜9、好ましくはpH6〜8で培養するのが望ましい。
【0043】
また、培養期間は、通常2〜4日間程度でよい。また、固体培養の場合においても前記液体培養の場合と同様に、培養温度は25〜50℃、好ましくは37〜42℃、培養時のpHは5〜9、好ましくはpH6〜8が採用される。このようにして培養すると、ポリ−γ−グルタミン酸は、主として菌体外に蓄積されて培養物中に含まれる。
【0044】
培地中に、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物を添加する場合にあっては、培地100ml当たり、2〜50mg、酵素活性に換算して20〜500ミリユニット程度を培養の適当な段階に添加すればよく、適宜培養途中で追加することも可能である。酵素活性は、(Suzuki, T. et al, J. bacteriol. 185, 2379 (2003)の方法により測定することができ、本明細書ではこの条件にて1分間に1μmolのL-グルタミン酸を生成する酵素量を1ユニットとする。
【0045】
この培養物からポリ−γ−グルタミン酸を分離、採取するには、公知の方法、例えば、(1)固体培養物から20%以下の食塩水により抽出分離する方法(特開平3−30648号)、(2)硫酸銅による沈殿法(Throne.B.C., C.C.Gomez,N.E.Noues and R.D.Housevright:J.Bacteriol.,68巻、307頁、1954年)、(3)アルコール沈殿法(R.M.Vard,R.F.Anderson and F.K.Dean:Biotechnology and Bioengineering,5巻、41頁、1963年、沢純彦、村川武雄、村尾沢夫、大亦正次郎:農化、47巻、159〜165頁、1973年、藤井久雄:農化、37巻、407〜412頁、1963年など)、(4)架橋化キトサン成形物を吸着剤とするクロマトグラフィー法(特開平3−244392号)、(5)分子限外濾過膜を使用する分子限外濾過法、(6)前記(1)〜(5)を適宜組合せた方法などが採用できる。このようにして分離、採取したものは、必要により公知の方法で濃縮、熱風乾燥、凍結乾燥などの操作を施して、ポリ−γ−グルタミン酸の含有液、又は粉末としてもよい。
【0046】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はそれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
(バチルス・ズブチリスIFO16449株の培養における精製ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素YwtDの添加効果)
<1.バチルス・ズブチリスIFO16449株のywtD遺伝子産物の精製>
鈴木らの報告(J Bacteriol 185, 2379-82 (2003))に従って、以下のようにバチルス・ズブチリスIFO16449株のywtD遺伝子をクローニングし、ywtD遺伝子産物を精製した。
【0048】
バチルス・ズブチリスのデータバンク中のywtD遺伝子の配列を基に下記のプライマーを合成した。YD1(フォワード)5'-GGA TCC GTT AAA ACT GCA AAA AGA GG(配列番号1)、YD2(リバース)5'- TTT CTC GAG TTG CAC CCG TAT ACT TC(配列番号2)。上記プライマーを用いてバチルス・ズブチリスIFO16449株の染色体DNAを鋳型にして
、PCR法を用いて約1.3kbpのywtD遺伝子断片を増幅した。この断片を制限酵素BamHIおよびXhoI(宝酒造社製)で切断し、1%アガロースゲルで電気泳動して増幅断片を回収した。この1.3kbの断片をpET23a(+)(NOVAGEN社製)のBamHIおよびXhoIサイトへ挿入し、C末端にヒスチジンタグの融合したタンパク質として発現させるための発現用プラスミド(以下、「pYWTD1」という)を作製した。
【0049】
次に、C末端にヒスチジンタグの結合したywtD遺伝子産物(H−YwtD)を大腸菌で大量発現させ、精製酵素標品を調製した。常法によりプラスミドpYWTD1で大腸菌(E.coli) BL21(DE3)株(ノバジェン社製)を形質転換し、プラスミドpYWTD1を保持する株を得た。これをアンピシリン50μg/mlを含有するLB培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)100mlに植菌し、37℃で培養した。600nmの吸光度が0.5まで菌が生育した時点で、0.4mMのIPTG(イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド)(宝酒造社製)を添加して、さらに5時間培養した。
【0050】
培養液から遠心分離で回収した菌体を5mlの50mMリン酸バッファー(pH7.0)に懸濁し、4℃で5分間超音波処理を行って菌体を破砕した。処理液を遠心分離して不溶性画分を除き、無細胞抽出液を調製した。これを500mMのNaClおよび10mMのイミダゾールを含む20mMリン酸バッファー(pH7.5)で平衡化したHiTrap chelating Sepharoseカラム(担体1ml、アマシャム ファルマシア バイオテク社製品)に吸着させた。カラムを同緩衝液で洗浄後、500mMのNaClと、50mM又は100mMのイミダゾールを含む20mMリン酸バッファー(pH7.5)によるステップワイズ溶出で酵素を溶出した。活性画分を集め、限外ろ過により濃縮し、精製H−YwtDタンパク0.5mgを調製した。
【0051】
<2.バチルス・ズブチリスIFO16449株の培養における精製ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素YwtDの添加効果>
バチルス・ズブチリスIFO16449株を3mlの前培養培地(2% グルコース、0.4%硫酸アンモニウム、0.4% KH2PO4、0.03%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.002%硫酸マンガン、27 ml/l大豆塩酸加水分解液(総窒素3.5%を含む)、水酸化カリウムでpH7.0に調整)に植菌し、37℃で16時間培養した。
【0052】
この前培養液1mlを30mlの本培養培地(6% グルコース、6%硫酸アンモニウム、0.4% KH2PO4、0.03%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.005%硫酸マンガン、32 ml/l大豆塩酸加水分解液(総窒素3.5%を含む)、4.5%グルタミン酸ナトリウム、水酸化カリウムでpH7.0に調整)および5%炭酸カルシウムを含む500ml坂口フラスコに接種し、37℃で振とう培養した。培養開始13時間後に、0.45μm滅菌フィルター(ミリポア社製)でフィルター滅菌したH−YwtD溶液(11.7mg/ml)300μlを添加し、37℃で培養を続けた。適当な時間で培養液をサンプリングし、生成したポリ−γ−グルタミン酸を定量した。
【0053】
ポリ−γ−グルタミン酸(PGA)は以下の条件でHPLCを用いて定量した。カラム:Asahipak GF7M HQ (7.6 × 300 mm) + Asahipak GS-1G(7.6 × 50 mm) (shodex社製)、移動層:10 mM Tris-HClバッファー(pH 8.6), 10 g/l NaCl、流速:0.9 ml/min、検出:UV220nm,
温度:50℃, 注入量:30 μl、平均分子量30 kDaのポリ−γ−グルタミン酸(味の素製)を標品として用い、面積比からポリ−γ−グルタミン酸量を算出した。また平均分子量3.6, 4.8, 8.0, 31.0 kDaのサンプルを用いて検量線を作成し、保持時間より生成PGAの分子量を求めた。
【0054】
ポリ−γ−グルタミン酸蓄積および生成したポリ−γ−グルタミン酸の分子量の経時変化を図1および図2に示した。H−YwtDを添加するとポリ−γ−グルタミン酸の分子量が低下したが、それに伴ってポリ−γ−グルタミン酸生成速度が上がり、最終的なポリ−γ−グルタミン酸の蓄積量も高くなった。このようにポリ−γ−グルタミン酸の蓄積量が高く、生成したポリ−γ−グルタミン酸により培地が高粘度となるような培養条件においては、ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素YwtDを添加することにより、培養液中に蓄積されるポリ−γ−グルタミン酸の分子量が低下し、ポリ−γ−グルタミン酸の生産速度および蓄積が向上することが示された。
【実施例2】
【0055】
(ywtD遺伝子高発現バチルス・ズブチリスIFO16449株によるポリ−γ−グルタミン酸の生産)
<1.納豆菌バチルス・ズブチリスIFO16449株のywtD遺伝子高発現株の作製>
バチルス・ズブチリスのデータバンク中のywtD遺伝子の配列を基に下記のプライマーを合成した。YD3(フォワード)5'-CGA ATT CTT GCC CAG CAT ATT CAT TCT G(配列番号3),YD4(リバース)5'- TTT CTC GAG TTG CAC CCG TAT ACT TC(配列番号4)。上記プライマーを用いてバチルス・ズブチリスIFO16449株の染色体DNAを鋳型にして、PCR法を用いてywtD遺伝子を含む約1.4kbpの断片を増幅した。この断片を制限酵素EcoRIおよびXbaI(宝酒造社製)で切断し、1%アガロースゲルで電気泳動して増幅断片を回収した。この1.4kbの断片をpHY300PLK(+)(宝酒造社製)のEcoRIおよびXbaIサイトへ挿入し、ywtD遺伝子発現プラスミド(以下、「pYWTD2」という)を構築した。常法によりプラスミドpYWTD2で大腸菌(E.coli) W3110株を形質転換し、プラスミドpYWTD2を保持する株を得た。これをテトラサイクリン(Tet)4μg/mlを含有するLB培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)50mlに植菌し、37℃で培養した。培養液から遠心分離で回収した菌体よりQIAGEN Plasmid midi kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドYWTD2を精製した。
【0056】
バチルス・ズブチリスIFO16449株を2×TY培地(1.6%ポリペプトン、1%酵母エキス、0.5% NaCl、pH7)20mlに植菌し、37℃、200rpmで1晩培養した。この培養液200μlを20mlのSPI培地(0.6% KH2PO4、1.4% K2HPO4、0.2%硫酸アンモニウム、0.1%クエン酸ナトリウム、0.02%硫酸マグネシウム、0.5%グルコース、0.02%カザミノ酸、0.1%酵母エキス、50mg/mlトリプトファン、50mg/mlロイシン)に移植して、対数増殖後期まで培養した。さらにこの培養液10mlを100mlのSPII培地(0.6% KH2PO4、1.4% K2HPO4、0.2%硫酸アンモニウム、0.1%クエン酸ナトリウム、0.02%硫酸マグネシウム、0.5%グルコース、75mg/ml CaCl2、508mg/ml MgCl2)に移植して、37℃、200rpmで90分間振とう培養し、コンピテントセルを調製した。
【0057】
調製したコンピテントセルの培養液10mlを20ml容三角フラスコに入れ、先に作製したプラスミドpYWTD2を10μg添加し、37℃、120rpmで60分間培養した。培養液100μlを4μg/mlのテトラサイクリン(Tet)を含む2×YTプレートにプレーティングした。37℃で約16時間培養して、プラスミドpYWTD2を保持する株を得、これをバチルス・ズブチリスIFO16449/pYWTD2株と命名した。
【0058】
<2.ywtD遺伝子高発現バチルス・ズブチリスIFO16449株によるポリ−γ−
グルタミン酸の生産>
YwtD高発現株であるバチルス・ズブチリスIFO16449/pYWTD2株およびバチルス・ズブチリスIFO16449株を3mlの前培養培地(2% グルコース、0.4%硫酸アンモニウム、0.4% KH2PO4、0.03%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.002%硫酸マンガン、27 ml/l大豆塩酸加水分解液(総窒素3.5%を含む)、水酸化カリウムでpH7.0に調整)に植菌し、37℃で16時間培養した。
【0059】
この前培養液1mlを30mlの本培養培地(6% グルコース、6%硫酸アンモニウム、0.4% KH2PO4、0.03%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.005%硫酸マンガン、32 ml/l大豆塩酸加水分解液(総窒素3.5%を含む)、4.5%グルタミン酸ナトリウム、水酸化カリウムでpH7.0に調整)および5%炭酸カルシウムを含む500ml坂口フラスコに接種し、37℃で48時間振とう培養した。実施例1の方法で生成したポリ−γ−グルタミン酸を定量したところ、バチルス・ズブチリスIFO16449株が11.6g/lのPGAを蓄積したのに対し、バチルス・ズブチリスIFO16449/pYWTD2株は12.7g/lのPGAを蓄積し、本培養条件においてはYwtD遺伝子高発現株のほうが高いポリ−γ−グルタミン酸の蓄積を示した。
【実施例3】
【0060】
(バチルス・ズブチリスIFO16449株の培養におけるポリ−γ−グルタミン酸分解酵素YwrDの添加効果)
バチルス・ズブチリスのデータバンク中のywrD遺伝子の配列を基に下記のプライマーを合成した。YWR1(フォワード)5'-CGG GAT CCA TTT GTT TTC GAA ATG AAT GCG AAA ATA TC(配列番号5)、YWR2(リバース)5'- CCC AAG CTT ACA CAC AAA TGG ATC GAA ATC
AC(配列番号6)。上記プライマーを用いてバチルス・ズブチリスMarburg168株の染色体DNAを鋳型にして、PCR法を用いて約2.0kbpのywrD遺伝子断片を増幅した。この断片を制限酵素BamHIおよびHindIII(宝酒造社製)で切断し、1%アガロースゲルで電気泳動して増幅断片を回収した。この2.0kbの断片をpHY300PLK(+)(宝酒造社製)のBamHIおよびHindIIIサイトへ挿入し、ywrD遺伝子発現プラスミド(以下、「pYWRD」という)を構築した。常法によりプラスミドpYWRDで大腸菌(E.coli) W3110株を形質転換し、プラスミドpYWRDを保持する株を得た。これをテトラサイクリン(Tet)4μg/mlを含有するLB培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)50mlに植菌し、37℃で培養した。培養液から遠心分離で回収した菌体よりQIAGEN Plasmid midi kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドpYWRDを精製した。このプラスミドpYWRDを用い、実施例2の方法と同じ方法でバチルス・ズブチリスISW1214株を形質転換し、プラスミドpYWRDを保持する株を得た。
【0061】
プラスミドpYWRDを保持するバチルス・ズブチリスISW1214株をテトラサイクリン(Tet)4μg/mlを含有するLB培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)50mlに植菌し、30℃で18時間培養した。合計400mlの培養液から遠心分離により菌体を集菌し、40mlの0.1Mトリス−塩酸緩衝液に懸濁した。これを4℃、20分で超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を調製した。これに40%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃で4時間インキュベートした後、遠心分離にて沈殿したタンパク質を除いた。この上清液に60%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃で4時間インキュベートした後、遠心分離にてタンパク質を沈殿させた。得られた沈殿物を4mlの0.1Mトリス−塩酸緩衝液に懸濁し、40−60%硫安画分とした。SDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて、この画分にYwrDタンパク質が濃縮されたことを確認した。
【0062】
バチルス・ズブチリスIFO16449株を実施例1と同じ培地にて培養した。培養開始13時間後、および32時間後に、0.45μm滅菌フィルター(ミリポア社製)でフィルター滅菌した40−60%硫安画分(タンパク濃度9.3mg/ml)1mlを添加し、37℃で培養を続けた。62時間培養後のポリ−γ−グルタミン酸を定量したところ、無添加の場合のポリ−γ−グルタミン酸蓄積が12.0g/lであったのに対し、粗精製YwrDを添加するとポリ−γ−グルタミン酸蓄積が13.1g/lに上がり、YwrDの添加効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ポリ−γ−グルタミン酸蓄積の経時変化を示す。
【図2】ポリ−γ−グルタミン酸の分子量の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有するバチルス属に属する微生物を液体培地中で培養し、当該培地中にポリ−γ−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを採取する方法において、当該培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめることを特徴とする、ポリ−γ−グルタミン酸の製造方法。
【請求項2】
エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物を培地中に添加することにより、前記培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素含有物が、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素、エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素を有する菌体及び当該菌体処理物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
微生物の細胞中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解活性を向上せしめることにより、前記培地中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性を向上せしめる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記微生物がバチルス・ズブチリスである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素がバチルス・ズブチリスのywtD産物である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素がバチルス・ズブチリスのywrD産物である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、細胞中のエンド型ポリ−γ−グルタミン酸分解酵素の活性が向上するように改変したバチルス属に属する微生物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−109793(P2006−109793A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302632(P2004−302632)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】