説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】 耐衝撃性、伸度等の靱性と、引張り強さ、ウエルド強さ等の機械的特性の両特性に同時に優れ、しかも耐熱性、低吸水性、耐薬品性、長期耐熱性などの特性にも優れるポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形品を提供すること。
【解決手段】 テレフタル酸単位を50〜100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位とからなり、末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満であるポリアミド(I)、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、並びに繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤(III)を、特定の割合で溶融混練してなるポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリアミド、変性樹脂および充填剤を特定の割合で溶融混練してなる、耐熱性、剛性、耐衝撃性、伸度等に優れたポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6やナイロン66に代表される脂肪族ポリアミドは、耐熱性、耐薬品性、剛性、耐磨耗性、成形性などの優れた性質を有しており、しかも吸湿状態では極めて高い靭性を示すことから、従来より、電動工具、一般工業部品、機械部品、電気電子部品、自動車内外装部品、エンジンルーム内部品、自動車電装部品、摺動部品等の広範な用途に使用されてきた。しかしながら、脂肪族ポリアミドは吸水による寸法変化、物性低下だけでなく、耐薬品性にも劣ることなどが問題となり、更なる性能の向上が望まれていた。
【0003】
このような要求に対し、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンを主成分とする半芳香族ポリアミド(以下、6T系ポリアミドと略称する)が種々提案され、一部は実用化されている(特許文献1〜3などを参照)。しかしながら、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンのみから形成されるポリアミドはポリマーの分解温度を超える370℃付近に融点があるため、溶融重合や溶融成形が困難であり実用に耐えるものではなく、実際には、アジピン酸やイソフタル酸などのジカルボン酸成分、あるいはナイロン6などの脂肪族ポリアミドを30〜40モル%共重合することにより、実使用可能温度領域、すなわち280〜320℃程度にまで低融点化して用いられているのが現状である。このように多量の第3成分(場合によっては第4成分)を共重合することは、確かにポリマーの低融点化には有効なものの、一方では結晶化速度や到達結晶化度の低下を伴い、その結果、高温下での剛性、耐薬品性、寸法安定性等の諸物性が低下したり、成形サイクルの延長に伴って生産性の低下を招いたりしていた。また、吸水による寸法安定性などの諸物性の変動に関しても、芳香族基の導入により、従来の脂肪族ポリアミドに比べれば多少改善されてはいるものの、実質的な問題解決のレベルまでには達していなかった。
【0004】
このような課題を解決し、耐熱性、低吸水性および耐薬品性においてさらに優れた性能を有するポリアミド樹脂として、テレフタル酸をジカルボン酸単位とし、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンをジアミン単位とする半芳香族ポリアミドが知られている(特許文献4および5参照)。この半芳香族ポリアミドから成形された成形体は優れた低吸水性を有し、かつ該ポリアミド樹脂が耐熱性の低い第3成分(場合によっては第4成分)を含まないことから、耐熱性、耐薬品性等の諸特性にも優れたものとなる。
【0005】
ところで、強度などの力学物性を向上させる目的で、樹脂に繊維状充填剤や針状充填剤を配合した樹脂組成物が知られている。しかしながら、半芳香族ポリアミドから成形された成形体は、脂肪族ポリアミドから成形された成形体と比較して、耐衝撃性、伸度等の靭性が低いという問題を有しており、これは半芳香族ポリアミドに繊維状充填剤や針状充填剤を配合した半芳香族ポリアミド樹脂組成物でも同じ傾向にある。
【0006】
ポリアミド樹脂組成物における上記した靭性の改良手段としては既に種々の検討が試みられている。例えば、テレフタル酸成分単位からなるジカルボン酸成分単位と脂肪族ジアミン成分単位および/または脂環式ジアミン成分単位からなるジアミン成分単位とからなり、アミノ基含量が0.04〜0.2ミリ当量/gである特定の半芳香族ポリアミドと、特定の極性基含有重合体からなる樹脂組成物が知られている(特許文献6参照)。また、炭素原子数8〜10の直鎖脂肪族ジアミン成分単位および/または側鎖を有する脂肪族ジアミン成分単位からなるジアミン成分と、テレフタル酸成分単位とからなるジカルボン酸成分単位とからなり、末端アミノ基濃度が10〜150mmol/kgである特定の半芳香族ポリアミドと、特定のグラフト変性重合体からなるポリアミド樹脂組成物が知られている(特許文献7参照)。
【0007】
しかしながら、半芳香族ポリアミドに、グラフト変性重合体と繊維状充填剤および/または針状充填剤とを単純に配合した場合には、繊維状充填剤および/または針状充填剤を配合しているにもかかわらず、引張り強さ等の機械的特性が低下したり、長時間加熱条件下に晒された際に引張り強さ等の機械的特性が急速に低下し、長期耐熱性に欠けるという不具合が生じたりすることがあった。
【特許文献1】特開昭60−158220号公報
【特許文献2】特開平3−7761号公報
【特許文献3】特開平3−72565号公報
【特許文献4】特開平7−228769号公報
【特許文献5】特開平7−228772号公報
【特許文献6】特開平5−117525号公報
【特許文献7】特開2002−179910号公報
【特許文献8】国際公開第01/81473号パンフレット
【特許文献9】特開2006−213798号公報
【特許文献10】国際公開第94/23433号パンフレット
【特許文献11】特許第3761561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐衝撃性、伸度等の靱性と、引張り強さ、ウエルド強さ等の機械的特性の両特性に同時に優れ、しかも耐熱性、低吸水性、耐薬品性、長期耐熱性などの特性にも優れるポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した従来技術の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の末端アミノ基含量を有するポリアミド、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂、並びに繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤を特定の割合で溶融混練してなるポリアミド樹脂組成物において、使用されるポリアミドが有する末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)を特定の範囲とすることにより、上記の目的を達成することができることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] テレフタル酸単位を50〜100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位とからなり、末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満であるポリアミド(I)、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、並びに繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤(III)を、ポリアミド(I)、変性樹脂(II)および充填剤(III)の合計100質量部に対して、ポリアミド(I)が30〜90質量部、変性樹脂(II)が1〜20質量部、充填剤(III)が5〜50質量部となり、且つポリアミド(I)の末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が2.0〜9.0となる割合で溶融混練してなるポリアミド樹脂組成物、
[2] 前記炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位である上記[1]のポリアミド樹脂組成物、
[3] 前記変性樹脂(II)が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリチオエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、フッ素系樹脂およびポリアミド(I)以外のポリアミド系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂をカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性したものである上記[1]または[2]のポリアミド樹脂組成物、
[4] 前記充填剤(III)が下記の群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[3]のいずれかのポリアミド樹脂組成物、
繊維状充填剤:ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維
針状充填剤:チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイトウィスカー、ゾノトライトウィスカー
[5] 導電材を含む上記[1]〜[4]のいずれかのポリアミド樹脂組成物、
[6] 前記導電材が炭素繊維、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリルおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[5]のポリアミド樹脂組成物、
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかのポリアミド樹脂組成物からなる成形品、
[8] 自動車用燃料タンク、クイックコネクター、ベアリングリテーナー、汎用機器用燃料タンク、フューエルキャップ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダー・モジュール、ホイールキャップ、フェンダーまたはバックドアである上記[7]の成形品、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐衝撃性、伸度等の靱性と、引張り強さ、ウエルド強さ等の機械的特性の両特性に同時に優れ、しかも耐熱性、低吸水性、耐薬品性、長期耐熱性などの特性にも優れるポリアミド樹脂組成物、およびそれからなる成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の詳細な説明を行う。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、テレフタル酸単位を50〜100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位とからなり、末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満であるポリアミド(I)、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、並びに繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤(III)を溶融混練してなる。
【0013】
ポリアミド(I)を構成するジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位を50〜100モル%含有する。ジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位の含有率が50モル%未満の場合には、得られるポリアミド樹脂組成物の耐熱性が低下する。ジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位の含有率は、75〜100モル%の範囲にあることが好ましく、90〜100モル%の範囲がより好ましい。
【0014】
ポリアミド(I)を構成するジカルボン酸単位は、50モル%以下であれば、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでもよい。かかる他のジカルボン酸単位としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,2−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。ジカルボン酸単位におけるこれらの他のジカルボン酸単位の含有率は、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸から誘導される単位を溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
【0015】
ポリアミド(I)を構成するジアミン単位は、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有する。炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を上記の割合で含有するポリアミド(I)を使用すると、靱性、摺動性、耐熱性、成形性、低吸水性、軽量性に優れたポリアミド樹脂組成物が得られる。ジアミン単位における炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位の含有率は、75〜100モル%の範囲にあることが好ましく、90〜100モル%の範囲がより好ましい。
【0016】
上記の炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミンなどから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。
【0017】
上記の炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位は、耐熱性、低吸水性および耐薬品性により一層優れるポリアミド樹脂組成物が得られることから、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であることが好ましい。ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を共に含む場合には、1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位のモル比は、1,9−ノナンジアミン単位/2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=95/5〜50/50の範囲にあることが好ましく、85/15〜55/45の範囲がより好ましい。
【0018】
ポリアミド(I)を構成するジアミン単位は、40モル%以下であれば、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでもよい。かかる他のジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。ジアミン単位におけるこれらの他のジアミン単位の含有率は25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0019】
また、ポリアミド(I)はアミノカルボン酸単位を含んでもよい。該アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができる。ポリアミド(I)におけるアミノカルボン酸単位の含有率は、ポリアミド(I)の全ジカルボン酸単位100モルに対して、40モル以下の割合であることが好ましく、20モル以下の割合がより好ましい。
【0020】
ポリアミド(I)は、その分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)は、40%以上であることがより好ましく、60%以上がさらに好ましい。末端封止率が10%以上のポリアミド(I)を使用すると、溶融安定性、耐熱水性などの物性がより優れたポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0021】
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを末端封止剤として使用することもできる。
【0022】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0023】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0024】
ポリアミド(I)の末端封止率は、ポリアミド(I)に存在しているカルボキシル基末端、アミノ基末端および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式(1)に従って求めることができる。各末端基の数は、H−NMRにより各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。
末端封止率(%)=[(A−B)/A]×100 (1)
[式中、Aはポリアミド(I)の分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、Bは封止されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。]
【0025】
ポリアミド(I)は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造することができる。
【0026】
ポリアミド(I)を製造する際に、前記の末端封止剤の他に、例えば、触媒として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルなどを添加することができる。上記の塩またはエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。
【0027】
ポリアミド(I)は、濃硫酸中、30℃の条件下で測定した極限粘度[η]が、0.6〜2.0dl/gの範囲にあることが好ましく、0.7〜1.9dl/gの範囲がより好ましく、0.8〜1.8dl/gの範囲がさらに好ましい。極限粘度が0.6dl/g未満のポリアミド(I)を使用すると、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的性質が低下する傾向があり、極限粘度が2.0dl/gより大きいポリアミド(I)を使用すると得られるポリアミド樹脂組成物の流動性が低下して成形性が悪化する傾向がある。
【0028】
ポリアミド(I)は、その末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満、好ましくは10μ当量/g以上50μ当量/g未満、より好ましくは10μ当量/g以上40μ当量/g未満である。末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/gに満たない場合には、ポリアミドと変性樹脂(II)との相容性および樹脂成分と充填剤(III)との密着性が不十分となり、また、60μ当量/g以上の場合には、長期耐熱性の低下やウエルド強さが低下する。
【0029】
末端アミノ基含量([NH])が上記した範囲であるポリアミド(I)は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ジカルボン酸、ジアミン、および必要に応じて触媒、末端封止剤を混合し、ナイロン塩を製造する。この際、上記の反応原料に含まれる全てのカルボキシル基のモル数(X)と全てのアミノ基のモル数(Y)が下記の式(2)
−0.5≦[(Y−X)/Y]×100≦2.0 (2)
を満足するようにすると、末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満であるポリアミド(I)を製造し易くなり好ましい。次に、生成したナイロン塩を200〜250℃の温度に加熱し、濃硫酸中30℃における極限粘度[η]が0.10〜0.60dl/gのプレポリマーとし、さらに高重合度化することにより、本発明において使用されるポリアミド(I)を得ることができる。プレポリマーの極限粘度[η]が0.10〜0.60dl/gの範囲内であると、高重合度化の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、さらに分子量分布の小さい、各種性能や成形性に優れたポリアミド(I)が得られる。高重合度化の段階を固相重合法により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下に行うことが好ましく、重合温度が200〜280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色およびゲル化を有効に抑制することができる。また、高重合度化の段階を溶融押出機により行う場合、重合温度は370℃以下であることが好ましく、かかる条件で重合を行うと、ポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の少ないポリアミド(I)が得られる。
【0030】
また、末端アミノ基含量([NH])が異なる複数種のポリアミドを併用することによっても、所望とする末端アミノ基含量([NH])を有するポリアミド(I)とすることができる。この場合、複数種のポリアミドは、変性樹脂(II)および充填剤(III)と溶融混練する前に予め混合して使用しても、予め混合していない状態で使用してもよい。つまり、本発明のポリアミド樹脂組成物は、末端アミノ基含量([NH])が互いに異なる複数種のポリアミド(I)、または、複数種のポリアミドのうちの一部または全部において、末端アミノ基含量([NH])の規定のみが本発明の規定を満たさない複数種のポリアミドを、当該複数種のポリアミド全体における末端アミノ基含量([NH])が本発明の規定を満たす割合で用いることにより全体としてポリアミド(I)であるとみなして、これら複数種のポリアミド、変性樹脂(II)および充填剤(III)を溶融混練してなるポリアミド樹脂組成物を包含する。
【0031】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)におけるカルボキシル基を有する不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸等のα,β−不飽和カルボン酸などが挙げられる。また、酸無水物基を有する不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フタル酸等のα,β−不飽和結合を有するジカルボン酸無水物などが挙げられる。カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物としては、α,β−不飽和結合を有するジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0032】
変性樹脂(II)における、カルボキシル基および酸無水物基の含有量は、10〜200μ当量/gの範囲内であることが好ましく、50〜100μ当量/gの範囲内がより好ましい。上記した官能基の含有量が10μ当量/g未満である場合には、耐衝撃性の改良効果が充分ではないことがあり、一方200μ当量/gを越える場合には、得られるポリアミド樹脂組成物の流動性が低下して成形性が低下することがある。
【0033】
本発明において使用されるカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)における変性前の樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリブタジエン等のポリオレフィン系樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド等のポリエーテル樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルホン等のポリチオエーテル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン等のポリケトン系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリニトリル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のポリメタクリレート系樹脂;ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン−メチルアクリレート共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体等のフッ素系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ポリへキサメチレンテレフタラミド(PA6T)、ポリノナメチレンテレフタラミド(PA9T)、ポリデカメチレンテレフタラミド(PA10T)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(PA12T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(PACM12)やこれらを形成するポリアミド原料モノマー及び/または上記ポリアミド原料モノマーを数種用いた共重合体等のポリアミド系樹脂(ただし、ポリアミド(I)以外)などが挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)としては、得られる成形品の耐衝撃性や機械的特性および耐熱性がより一層向上することから、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリチオエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、フッ素系樹脂およびポリアミド系樹脂(ただし、ポリアミド(I)以外)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂をカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性したものであることが好ましく、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種をカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性したものであることがより好ましい。
【0034】
本発明において使用される充填剤(III)は繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤である。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸またはイソフタル酸との縮合物から得られる繊維など)、ホウ素繊維、液晶ポリエステル繊維などが挙げられる。また、針状充填剤としては、例えば、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイトウィスカー、ゾノトライトウィスカー、珪酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、セピオライト、黒鉛ウィスカーなどが挙げられる。充填剤(III)としては、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。上記した中でも、得られる成形品の機械的特性および耐熱性がより一層向上することから、充填剤(III)としては、下記の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
繊維状充填剤:ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維
針状充填剤:チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイトウィスカー、ゾノトライトウィスカー
【0035】
使用される充填剤(III)の平均長は、良好な成形性の保持および得られる成形品の機械的特性や耐熱性の向上の観点から、1μm〜20mmの範囲内にあることが好ましく、5μm〜10mmの範囲内がより好ましく、10μm〜5mmの範囲内がさらに好ましい。また、充填剤(III)のアスペクト比は5〜2000の範囲内にあることが好ましく、30〜600の範囲内がより好ましい。
【0036】
充填剤(III)は、マトリックス樹脂、特にポリアミド(I)との接着性が改善され、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性が大幅に向上することから、表面処理が施されていることが好ましい。該表面処理における表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等のカップリング剤や、集束剤などが挙げられる。好適に使用されるカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。また、好適に使用される集束剤としては、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、カルボン酸系化合物、ウレタン/マレイン酸変性化合物、ウレタン/アミン変性系化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に、カップリング剤と集束剤を併用すると、充填剤(III)とマトリックス樹脂、特にポリアミド(I)との接着性が一層改善され、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性がより向上する。表面処理された充填剤(III)は、625±20℃で10分間以上加熱したときの質量減少が、表面処理された充填剤(III)の全質量に基づいて0.01〜8.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜5.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物は導電材を含有することができる。導電材を含有することにより、例えば、燃料系部品に成形した際に静電スパークの発生を抑制することができ、また自動車部品に成形し、さらに静電塗装を施す際に要求される導電性を付与することができる。本明細書における導電材とは、体積固有抵抗が10Ω・cm以下であるものと定義する。
【0038】
導電材としては、例えば、炭素繊維、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリル、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属粉末、金属フレーク、金属酸化物粉末、金属被覆繊維などが挙げられるが、低比重であり、導電性付与効果および補強効果のバランスに優れることから、導電材は、炭素繊維、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリルおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、本明細書においては上記充填剤(III)が導電材を兼ねる場合がある。例えば、炭素繊維、カーボンフィブリル、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属被覆繊維等は、充填剤(III)であると同時に導電材でもある場合がある。
【0039】
上記の炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系のいずれの炭素繊維でもよいが、PAN系炭素繊維の方が弾性率、耐衝撃性の点で優れており好ましい。炭素繊維の平均繊維長は、良好な成形性の保持、および得られる成形品の機械的特性や耐熱性の向上の観点から、溶融混練前の状態で1〜20mmの範囲内であることが好ましく、3〜10mmの範囲内がより好ましく、5〜8mmの範囲内がさらに好ましい。炭素繊維のアスペクト比は100〜5000の範囲内であることが好ましく、300〜2000の範囲内がより好ましい。
【0040】
上記の導電性カーボンブラックとしては、例えば、特許文献8や9において導電用カーボンブラックとして記載されているカーボンブラック等を使用することができる。また市販されている導電性カーボンブラックを使用することも可能であり、ケッチェンブラックインターナショナル株式会社から入手可能なケッチェンブラックEC600JD、EC300J;キャボット社から入手可能なバルカンXC−72、XC−305;デグッサ社から入手可能なPrintexXE2B;東海カーボン株式会社から入手可能な#5500、#4500;三菱化学株式会社から入手可能な#5400B等を使用することができる。
【0041】
上記のカーボンフィブリルとしては、特許文献10に記載されている微細な炭素繊維等を使用することができる。また市販されているカーボンフィブリルを使用することも可能であり、ハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル社から入手可能なBNフィブリル等を使用することができる。
また、カーボンナノチューブとしては、特許文献11に記載されている多層カーボンナノチューブ等を使用することができる。
【0042】
導電材の含有量としては、導電性と機械的特性のバランスに優れることから、ポリアミド樹脂組成物に対して0.1〜30質量%の範囲内であることが好ましく、0.2〜25質量%がより好ましく、0.3〜20質量%がさらに好ましい。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて、ポリアミド(I)および変性樹脂(II)以外の他の樹脂、充填剤(III)および導電材以外の他の充填剤、結晶核剤、銅系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤などの他の成分を含んでもよい。
他の充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、二硫化モリブデン等の粉末状充填剤;ハイドロタルサイト、ガラスフレーク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のフレーク状充填剤などが挙げられる。
結晶核剤としては、ポリアミド樹脂の結晶核剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、タルク、シリカ、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、これらの任意の混合物などが挙げられる。これらのうちでも、タルクがポリアミド樹脂の結晶化速度を増大させる効果が大きいことから好ましい。結晶核剤はポリアミド樹脂との相容性を向上させる目的で、シランカップラー、チタンカップラーなどで処理されていてもよい。
ポリアミド樹脂組成物におけるこれらの他の成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記のポリアミド(I)、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、充填剤(III)、並びに必要に応じて導電材や、上記の他の成分を溶融混練することにより製造することができる。ポリアミド(I)、変性樹脂(II)および充填剤(III)の使用割合は、ポリアミド(I)、変性樹脂(II)および充填剤(III)の合計100質量部に対して、ポリアミド(I)が30〜90質量部、変性樹脂(II)が1〜20質量部、充填剤(III)が5〜50質量部であり、ポリアミド(I)が45〜85質量部、変性樹脂(II)が3〜15質量部、充填剤(III)が10〜40質量部であることが好ましく、ポリアミド(I)が60〜80質量部、変性樹脂(II)が5〜10質量部、充填剤(III)が15〜35質量部であることがより好ましく、ポリアミド(I)が60〜75質量部、変性樹脂(II)が5〜8質量部、充填剤(III)が20〜35質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
また、使用されるポリアミド(I)の末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)は2.0〜9.0であることが必要である。該比(M/MII)が2.0未満である場合には、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性全般において劣り、また9.0を超える場合には、ウエルド強さが低下する。ウエルド強さの低下は、過度の相容化により変性樹脂(II)の中にポリアミド(I)が取り込まれ、変性樹脂(II)の見かけの体積分率が増加することにより発生すると考えられる。ウエルド強さを含めた機械的特性全般において、物性を向上させる観点から、比(M/MII)は、2.2〜8.0の範囲内であることが好ましく、3.0〜6.0の範囲内がより好ましい。
【0046】
溶融混練方法としては、従来より公知の方法を採用することができ、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混練機を使用して行うことができる。その際に使用する装置の種類や溶融混練条件などは特に限定されないが、例えば、約280〜350℃の範囲内の温度で1〜30分間混練することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物を得ることができる。なお、本明細書において溶融混練とは、少なくともポリアミド(I)が溶融する条件で行う混練を意味する。
【0047】
溶融混練して本発明のポリアミド樹脂組成物を得る際には、押出機等において、ポリアミド(I)と変性樹脂(II)を溶融混練し、充填剤(III)を該押出機等の中〜下流供給口からサイドフィードすると、機械的特性により優れたポリアミド樹脂組成物が得られることから好ましい。
【0048】
また、特に導電材を使用する場合には、上流部供給口と、下流部供給口をそれぞれ1箇所以上備えた同方向回転二軸押出機(a)を用いて、ポリアミド(I)、変性樹脂(II)および導電材を予め混合して、上流部供給口に一括投入して溶融混練し、下流部供給口から導電材以外の充填剤(III)を投入して溶融混練する方法[混練法A]、予めポリアミド(I)の一部または全量の溶融物と導電材を混合してマスターバッチを作製しておき、このマスターバッチとポリアミド(I)の残部および変性樹脂(II)とを混合して、上記同方向回転二軸押出機(a)の上流部供給口に投入して溶融混練し、下流部供給口から導電材以外の充填剤(III)を投入して溶融混練する方法[混練法B]、ポリアミド(I)および導電材を予め混合して、上流部供給口、中流部供給口および下流部供給口をそれぞれ1箇所以上備えた同方向回転二軸押出機(b)の上流部供給口に一括投入して溶融混練し、中流部供給口から変性樹脂(II)を投入して溶融混練し、さらに下流部供給口から導電材以外の充填剤(III)を投入して溶融混練する方法[混練法C]、予めポリアミド(I)の一部または全量の溶融物と導電材を混合してマスターバッチを作製しておき、このマスターバッチとポリアミド(I)の残部とを混合して、上記同方向回転二軸押出機(b)の上流部供給口に投入して溶融混練し、中流部供給口から変性樹脂(II)を投入して溶融混練し、さらに下流部供給口から導電材以外の充填剤(III)を投入して溶融混練する方法[混練法D]、予めポリアミド(I)の一部または全量と変性樹脂(II)を予め混合して、上記同方向回転二軸押出機(b)の上流部供給口に一括投入して溶融混練し、中流部供給口から導電材とポリアミド(I)の残部を投入して溶融混練し、さらに下流部供給口から導電材以外の充填剤(III)を投入して溶融混練する方法[混練法E]を好ましく採用することができる。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物を、目的とする成形品の種類、用途、形状などに応じて、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形など、熱可塑性重合体組成物に対して一般に用いられている成形方法によって成形することにより、各種の成形品を製造することができる。また上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することもできる。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物と他のポリマーなどとを複合成形することもできる。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物からなる成形品の例としては、例えば、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、フェンダー、バックドア等の自動車用外装部品;シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバー、エンジン・カバー等の自動車用エンジンルーム内部品;フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクター、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプ、フューエルフィラーネック等の自動車用燃料系部品;シフトレバー・ハウジング、プロペラシャフト等の自動車用駆動系部品;スタビライザーバー・リンケージロッド等の自動車用シャシー部品;ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、アクセルペダル、ペダル・モジュール、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギア、アクチュエーター等の自動車用機能部品;ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、エンキャプシュレーション、イグニッションコイル、ディストリビューター・キャップ等の自動車用エレクトロニクス部品;汎用機器(刈り払い機、芝刈り機、チェーンソー等)用燃料タンク等の汎用機器用燃料系部品;コネクタ、LEDリフレクタ等の電気電子部品などが挙げられるが、本発明のポリアミド樹脂組成物は耐衝撃性、伸度等の靱性と、引張り強さ等の機械的特性の両特性に同時に優れ、しかも、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、長期耐熱性などの特性にも優れることから、特に、自動車用燃料タンク、クイックコネクター、ベアリングリテーナー、汎用機器用燃料タンク、フューエルキャップ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダー・モジュール、ホイールキャップ、フェンダーまたはバックドアとして好ましく使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、末端アミノ基含量([NH])、成形品(試験片)の作製方法、引張り強さ、引張り破断伸び、ウエルド強さ、耐衝撃性(ノッチ付きシャルピー衝撃強さ)および長期耐熱性の評価方法を以下に示す。
【0052】
末端アミノ基含量([NH])
半芳香族ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解し、メタノールを2mL混合し、試料溶液とした。チモールブルーを指示薬とし、0.01規定のHCl水溶液を使用した滴定を実施し、末端アミノ基含量([NH]、単位:μ当量/g)を測定した。
【0053】
成形品(試験片)の作製
東芝機械株式会社製の射出成形機(型締力:80トン、スクリュ径:φ32mm)を使用して、シリンダ温度320℃および金型温度150℃の条件下で、Tランナー金型を用いてISO多目的試験片A型ダンベルを作製し、引張り破断伸び、引張り強さおよび長期耐熱性の評価に用いた。また、ISO多目的試験片A型ダンベルから直方体試験片(寸法:長さ×幅×厚さ=80mm×10mm×4mm)を切り出し、耐衝撃性の評価に用いた。また、二重Tランナー金型を用いてISO多目的試験片A型のウエルドダンベルを作製し、ウエルド強さの評価に用いた。さらに、導電性評価用に直方体試験片(寸法:長さ×幅×厚さ=80mm×50mm×3mm)を作製した。
【0054】
耐衝撃性の評価
上記の方法で作製した試験片を用いて、ISO179/1eAに準じて、シャルピー衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、23℃および−40℃におけるノッチ付シャルピー衝撃値を測定して耐衝撃性を評価した。
【0055】
引張り破断伸び、引張り強さおよびウエルド強さの評価
上記の方法で作製した試験片を用いて、ISO527−1に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における引張り破断伸びと引張り強さ(引張降伏強度)を測定した。また、同様の方法でウエルドダンベルを使用してウエルド強さ(ウエルド降伏強度)を測定した。
【0056】
長期耐熱性の評価
上記の方法で作製した試験片を用いて、熱風乾燥機中で170℃、1000時間熱処理した。その後、ISO527−1に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における熱処理前後の引張り強さ(引張降伏強度)を測定した。そして、「熱処理前の試験片の引張り強さ」に対する「熱処理後の試験片の引張り強さ」の割合(%)を求め、長期耐熱性(%)とした。
【0057】
導電性評価
上記の方法で作製した試験片を用いて、JIS K 7194に準じて、低抵抗率計(ロレスタ−GP、三菱化学株式会社製)を使用して、90Vの印加電圧で試験片中央部の1点の表面抵抗率を測定した。測定は5個の異なる試験片を用いて行い、その加算平均値を表面抵抗率(平均値)として導電性を評価した。
【0058】
[参考例1] 半芳香族ポリアミド(PA9T−1)の製造
テレフタル酸4537.7g(27.3モル)、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]4496.5g(28.4モル)、安息香酸84.4g(0.69モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水2.5リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.15dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、融点が300℃、極限粘度[η]が1.17dl/g、末端アミノ基含量([NH])が90μ当量/g、末端カルボキシル基含量が4μ当量/g、末端封止率が83%である白色のポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9T−1」と略称する。
【0059】
[参考例2] 半芳香族ポリアミド(PA9T−2)の製造
テレフタル酸4601.0g(27.7モル)、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]4432.1g(28.0モル)、安息香酸116.0g(0.95モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水2.5リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.17dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、融点が300℃、極限粘度[η]が1.22dl/g、末端アミノ基含量([NH])が8μ当量/g、末端カルボキシル基含量が65μ当量/g、末端封止率が85%である白色のポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9T−2」と略称する。
【0060】
以下の実施例および比較例では、下記のポリアミド、変性樹脂(II)、充填剤(III)および導電材を使用した。
【0061】
ポリアミド
上記参考例1および2で製造したPA9T−2をそのまま使用するか、あるいはPA9T−1およびPA9T−2をそれぞれ下記の表1または2に記載した割合で併用した。
【0062】
変性樹脂(II)
EBR−1:無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学製「タフマーMH7020」、酸無水物基の含有量:100μ当量/g)
EBR−2:無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学製「タフマーMH7010」、酸無水物基の含有量:50μ当量/g)
なお、変性樹脂(II)の酸無水物基の含有量は、該変性樹脂(II)のペレット5gをトルエン170mLに溶解し、さらにエタノールを30mL加えて調製した試料溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1規定のKOHエタノール溶液にて中和滴定することにより求めた。
【0063】
充填剤(III)
GF:ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製「CS03JA−FT2A」)
導電材(充填剤(III))
CF:炭素繊維(東邦テナックス株式会社製「TENAX HTA−C6−NR」、体積固有抵抗:1.5×10−3Ω・cm、溶融混練前の平均繊維長:6mm、アスペクト比:860)
【0064】
<実施例1〜4および比較例1〜9>
ポリアミド、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、並びに導電材を下記の表1または2に示す割合で予備混合した後、二軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所製「BTN−32」)に供給してシリンダ温度320℃の条件下に溶融混練し、サイドフィーダーを用いて充填剤(III)を供給した後に押出し、冷却、切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を製造した。得られたポリアミド樹脂組成物を用いて各種物性評価を行った。結果を下記の表1および2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1から、本発明において規定する各要件を具備する実施例1〜4のポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃性や引張り破断伸び等の靱性、引張り強さやウエルド強さ等の機械的特性および長期耐熱性に優れていることが分かる。
【0068】
一方、比較例1により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(I)の末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が低すぎるため、引張り強さ等の機械的特性に劣り、また、引張破断伸びも低下した。
【0069】
比較例2により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(I)の末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が高すぎるため、ウエルド強さに劣り、長期耐熱性も低下した。
【0070】
比較例3により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの末端アミノ基含量([NH])が低すぎるため、引張り破断伸びに劣り、引張り強さ等の機械的特性も低下した。
【0071】
比較例4により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの末端アミノ基含量([NH])が高すぎるため、ウエルド強さ等の機械的特性や長期耐熱性が劣った。
【0072】
比較例5により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの末端アミノ基含量([NH])が低すぎ、また、ポリアミドの末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が低すぎるため、引張り強さやウエルド強さ等の機械的特性および引張り破断伸びに劣った。
【0073】
比較例6により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの末端アミノ基含量([NH])が高すぎ、また、ポリアミドの末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が高すぎるため、長期耐熱性に劣り、ウエルド強さも低下した。
【0074】
比較例7により得られたポリアミド樹脂組成物は、充填剤(III)を含まないため、引張り強さ等の機械的特性および耐衝撃性に著しく劣り、長期耐熱性も低下した。
【0075】
比較例8により得られたポリアミド樹脂組成物は、変性樹脂(II)を含まないため、耐衝撃性に著しく劣った。
【0076】
比較例9により得られたポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの末端アミノ基含量([NH])が高すぎるため、ウエルド強さ等の機械的特性や長期耐熱性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃性、伸度等の靱性と、引張り強さ、ウエルド強さ等の機械的特性の両特性に同時に優れ、しかも耐熱性、低吸水性、耐薬品性、長期耐熱性などの特性にも優れることから、自動車用燃料タンク、クイックコネクター、ベアリングリテーナー、汎用機器用燃料タンク、フューエルキャップ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダー・モジュール、ホイールキャップ、フェンダー、バックドアをはじめとする各種成形品を構成する素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸単位を50〜100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位とからなり、末端アミノ基含量([NH])が10μ当量/g以上60μ当量/g未満であるポリアミド(I)、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性樹脂(II)、並びに繊維状充填剤および針状充填剤から選ばれる少なくとも1種の充填剤(III)を、ポリアミド(I)、変性樹脂(II)および充填剤(III)の合計100質量部に対して、ポリアミド(I)が30〜90質量部、変性樹脂(II)が1〜20質量部、充填剤(III)が5〜50質量部となり、且つポリアミド(I)の末端アミノ基の全モル数(M)と変性樹脂(II)が有するカルボキシル基および酸無水物基の全モル数(MII)との比(M/MII)が2.0〜9.0となる割合で溶融混練してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性樹脂(II)が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリチオエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、フッ素系樹脂およびポリアミド(I)以外のポリアミド系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂をカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性したものである請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記充填剤(III)が下記の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
繊維状充填剤:ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維
針状充填剤:チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイトウィスカー、ゾノトライトウィスカー
【請求項5】
導電材を含む請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記導電材が炭素繊維、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリルおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項8】
自動車用燃料タンク、クイックコネクター、ベアリングリテーナー、汎用機器用燃料タンク、フューエルキャップ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダー・モジュール、ホイールキャップ、フェンダーまたはバックドアである請求項7に記載の成形品。

【公開番号】特開2008−179753(P2008−179753A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91930(P2007−91930)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】