説明

ポリエステルフィルムの製造方法、ポリエステルフィルム、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュール

【課題】耐加水分解性に優れた積層ポリエステルフィルムを厚みムラの発生及び製造コストの上昇を抑えて製造することができる積層ポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】IVが0.60〜0.85、AVが5〜20当量/トンであるポリエステル原料樹脂A1及びA2と、IVが0.55〜0.80、AVが35当量/トン以下であるポリエステル樹脂のリサイクル材Bを準備し、原料樹脂A1と、樹脂A2及びリサイクル材B(10〜40質量%)を含む混合原料樹脂をそれぞれ100ppm以下の含水量に乾燥させた後、Tダイから押出された溶融樹脂温度が280〜300℃となるように共押出し、樹脂A1からなる第2の溶融樹脂の膜の厚みが、樹脂A2及びリサイクル材Bからなる第1の溶融樹脂の膜よりも厚くなるように積層した状態でキャストロール上で冷却固化し、少なくとも2層からなる積層体を成形した後、二軸延伸を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの製造方法、ポリエステルフィルム、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池モジュールの太陽光入射側とは反対側に配されるバックシートには、ポリエステルなどの樹脂材料が使用されるに至っている。ポリエステルには、通常はその表面にカルボキシル基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境では加水分解を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。そのため、屋外等の常に風雨に曝されるような環境におかれる太陽電池モジュール等に用いられるポリエステルは、その加水分解性が抑えられていることが求められる。
【0003】
ポリエステル樹脂に耐加水分解性を付与する方法として、(1)低末端カルボン酸化(固相重合、末端封止材の配合等)、(2)異種ポリマー積層(例えば、特許文献1、2参照)などがある。
【0004】
固相重合による方法では、重合度の上昇に連れて高粘度化し、延伸応力が高くなり、加工しにくくなる。一般的には高粘度のポリエステル樹脂は製膜には不向きである。
また、末端封止材の配合による方法では、溶融粘度の増加は少ないもののゲル化による異物が発生し、面状を荒らす懸念がある。特に、コスト低減等を目的としてポリエステルのリサイクル原料を用いてポリエステルフィルムを製造する場合(例えば、特許文献3参照)に上記のような懸念が顕著になる。
【0005】
異種ポリマーの積層では、耐加水分解性能は優れるものの、i)製造コストが高い、ii)光劣化による着色が強い、iii)例えば、PETとPENを積層した場合、溶融粘度の差が大きく、製膜時に厚みムラが発生し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−170557号公報
【特許文献2】特開2008−85270号公報
【特許文献3】特開平7−323511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐加水分解性に優れた積層ポリエステルフィルムを厚みムラの発生及び製造コストの上昇を抑えて製造することができる積層ポリエステルフィルムの製造方法、並びに、耐加水分解性に優れるとともに厚みムラが抑制された積層ポリエステルフィルムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 極限粘度が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量が5〜20当量/トンであるポリエステル原料樹脂A1及びA2と、極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が35当量/トン以下であるポリエステル樹脂のリサイクル材Bを準備する原料準備工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A1を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第1の乾燥工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A2及び前記リサイクル材Bを含み、ポリエステル樹脂の合計質量に対する前記リサイクル材Bの割合が10〜40質量%である混合原料樹脂を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第2の乾燥工程と、
前記第1の乾燥工程で乾燥された前記ポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂と、前記第2の乾燥工程で乾燥された前記混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂とを共押出する際、それぞれTダイから押出された溶融樹脂温度が280〜300℃となる溶融押出工程と、
溶融押出された前記第1の溶融樹脂及び前記第2の溶融樹脂を、前記第2の溶融樹脂の膜の厚みが前記第1の溶融樹脂の膜よりも厚く、かつ、前記第1の溶融樹脂の膜が前記第2の溶融樹脂の膜の少なくとも一方の面に積層した状態でキャストロール上にて冷却固化し、少なくとも2層からなる積層体を成形する成形工程と、
前記積層体を長手方向及び幅方向に延伸する二軸延伸工程と、
を有する積層ポリエステルフィルムの製造方法。
<2> 前記ポリエステル原料樹脂A及び前記リサイクル材Bの少なくとも一方は、チタン化合物を重合触媒として合成されたポリエステル樹脂である<1>に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
<3> 前記溶融押出工程において、前記第1溶融樹脂及び前記第2溶融樹脂の少なくとも一方に、エポキシ化合物又はカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤を積層ポリエステルフィルム全質量に対して0.1質量%以上5質量%以下配合する<1>又は<2>に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法
<4> 前記成形工程は、溶融押出された前記第2の溶融樹脂の膜を、溶融押出された前記第1の溶融樹脂の膜で挟んだ積層状態でキャストロール上で冷却固化し、3層からなる積層構造の積層体を成形する<1>〜<3>に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
<5> 極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が7〜25当量/トンである第1のポリエステル層、及び全質量に対して10〜40質量%のポリエステル樹脂のリサイクル材を含んで形成され、極限粘度が0.55〜0.76であり、末端カルボキシル基量が8〜30当量/トンであると共に、前記第1のポリエステル層の厚みより厚い第2のポリエステル層を含む積層構造を有し、<1>〜<4>のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法により作製された、極限粘度が0.55以上であって末端カルボキシル基量が30当量/トン以下である積層ポリエステルフィルム。
<6> 前記積層構造は、前記第2のポリエステル層と、前記第2のポリエステル層を挟む2層の前記第1のポリエステル層とを含む3層構造である<5>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<7> <5>又は<6>に記載された積層ポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシート。
<8> <7>に記載された太陽電池用バックシートを備えた太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐加水分解性に優れた積層ポリエステルフィルムを厚みムラの発生及び製造コストの上昇を抑えて製造することができる積層ポリエステルフィルムの製造方法、並びに、耐加水分解性に優れるとともに厚みムラが抑制された積層ポリエステルフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するための二軸押出機の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するフローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
積層構造を有するポリエステルフィルムを製造する場合、溶融押出し時の膜厚が大きいほど厚み精度が低下し、厚さ方向の温度ムラが出易いという問題がある。また、原料樹脂の極限粘度が高いほど溶融押出しが困難となり、厚みムラが生じ易い。
そのため、厚みが異なるポリエステル樹脂の溶融膜を共押出しによって積層フィルムを製造する場合、極限粘度が小さく、かつ、各樹脂間の極限粘度の差が小さい原料樹脂を用いて厚みの薄いフィルムを共押出して未延伸フィルムを製造することが一般的であり、極限粘度が比較的高い原料樹脂を用いて共押出しした後、二軸延伸して厚み精度が高い積層フィルムを製造することは困難であった。
また、極限粘度が高いほど、溶融押出しにおけるせん断発熱量が増加するため、溶融樹脂の温度が高くなり、熱分解を起こす。その結果、極限粘度が低下、末端カルボキシル基量も増加する。その結果、湿熱環境下でポリエステルフィルムを使用した際の機械強度が低下してしまい、耐加水分解性が低下してしまう。
【0013】
本発明者は、各層の極限粘度差が大きくても、各層の溶融押出し時に溶融粘度ができるだけ近くなるように各層の押出し機で温度差をつけることで各層の厚みを制御することができると考えた。しかし、極限粘度が高い原料樹脂の溶融粘度を下げるために押出温度を高くし溶融樹脂温度を高くすると、原料樹脂が分解して末端カルボキシル基量が上昇し、耐加水分解性が低下してしまう。
【0014】
また、原料樹脂Aはペレットと呼ばれる直径3mm以上の円筒または球、長さ3mm以上の立方体形状をしており、押出工程で溶融される場合、熱伝導率の低い樹脂は溶けている部分と未溶融部分が共存するため、溶融粘度差が発生。押出機内でスクリュによるせん断力を受けるとせん断発熱を起こし、溶融樹脂温度が高くなり、熱分解して末端カルボキシル基量が上昇、耐加水分解性が低下してしまう。それに比べ、リサイクル材料Bはフィルムを粉砕したフレーク上で厚みは2mm以下でペレットに比べ溶融しやすく、ペレットに配合した場合、押出機内での溶融粘度差が配合割合により小さくできる。その結果、せん断発熱量は小さくすることができ、溶融樹脂温度の上昇も小さく、熱分解を抑制することができる。
【0015】
そこで、本発明者は鋭意研究を重ねたところ、耐加水分解性能に優れた積層ポリエステルフィルムを製造する場合、各層を構成する原料樹脂の極限粘度を全体的に底上げするとともに、厚みが最も大きく、原料樹脂の供給が大きくなる層(コア層)の原料樹脂には極限粘度が比較的小さいリサイクル材を混ぜてコア層に積層される厚みの薄い層(スキン層)よりもせん断発熱を低く抑え、各層の溶融粘度ができるだけ近くし各層の厚みを制御して共押出しすることで積層体全体の厚み精度を向上させることができることを見出した。
【0016】
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法は、
極限粘度が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量が5〜20当量/トンであるポリエステル原料樹脂A1及びA2と、極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が35当量/トン以下であるポリエステル樹脂のリサイクル材Bを準備する原料準備工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A1を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第1の乾燥工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A2及び前記リサイクル材Bを含み、ポリエステル樹脂の合計質量に対する前記リサイクル材Bの割合が10〜40質量%である混合原料樹脂を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第2の乾燥工程と、
前記第1の乾燥工程で乾燥された前記ポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂と、前記第2の乾燥工程で乾燥された前記混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂とを共押出する際、それぞれTダイから押出された溶融樹脂温度が280〜300℃となる溶融押出工程と、
溶融押出された前記第1の溶融樹脂及び前記第2の溶融樹脂を、前記第2の溶融樹脂の膜の厚みが前記第1の溶融樹脂の膜よりも厚く、かつ、前記第1の溶融樹脂の膜が前記第2の溶融樹脂の膜の少なくとも一方の面に積層した状態でキャストロール上で冷却固化し、少なくとも2層からなる積層体を成形する成形工程と、
前記積層体を長手方向及び幅方向に延伸する二軸延伸工程と、
を有する。
以下、各工程について説明する。
【0017】
(原料準備工程)
まず、極限粘度が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量が5〜20当量/トンであるポリエステル原料樹脂A1及びA2と、極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が35当量/トン以下であるポリエステル樹脂のリサイクル材Bを準備する。
ポリエステル原料樹脂A1は、製造する積層ポリエステルフィルムの最表面層となる厚みが薄い層(「スキン層」と称する場合がある。)を形成するために使用され、ポリエステル原料樹脂A2とリサイクル材Bは、スキン層よりも厚く、積層ポリエステルフィルムの基材となる層(「コア層」と称する場合がある。)を形成するために使用される。
【0018】
<ポリエステル原料樹脂A1、A2>
ポリエステル原料樹脂A1、A2として、極限粘度(IV)が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量(AV)が5〜20当量/トンであるポリエステル樹脂を用意する。原料樹脂A1とA2は、極限粘度(IV)が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量(AV)が5〜20当量/トンであれば、同じ材料でもよいし、異なる材料でもよい。以下、ポリエステル原料樹脂A1、A2をまとめて「ポリエステル原料樹脂A」と記す場合がある。
【0019】
−IV−
原料樹脂のIVは、重合方式および重合条件によって調整することができる。具体的には、液相重合の後に固相重合を行う際、処理温度、処理時間、処理雰囲気水分、酸素濃度の調節によって極限粘度IVが0.60〜0.85のポリエステル樹脂を得ることができる。
ポリエステル樹脂の溶融押出工程では、せん断で発熱し易く、熱分解により末端カルボキシル基量が増加し易いが、IVが0.60〜0.85にあるポリエステル樹脂を用いれば、加熱溶融部において原料樹脂を十分混練して極端なせん断発熱を起こさせることなく、溶融させることができるとともに、末端カルボキシル基量の増加を効果的に抑制することができる。
IVが0.60未満である場合、末端カルボキシル基量が20当量/トン以下の原料をペレットを重合することができず、高度な耐加水分解性が得られない。一般的にポリエステルの重合反応では低温で重合した場合、末端カルボキシル基量を低く抑えることができることは知られている。但し、反応温度を低くした場合、重合時間が長くなり着色、生産性(コスト)が悪化するため、一定の範囲内で製造されている。0.85を超えると、溶融押出時のせん断発熱量が多くなり、溶融粘度が変動してしまうばかりでなく、熱分解によって末端カルボキシル基量が大きく上昇してしまう。
ポリエステル原料樹脂Aは、極限粘度(IV)が0.60〜0.80であることが好ましく、0.70〜0.80であることがさらに好ましい。
【0020】
−AV−
ポリエステル原料樹脂AのAVは、重合方式および重合条件によって調整することができる。具体的には、液相重合の後に固相重合を行う際、処理温度、処理時間、処理雰囲気水分、酸素濃度の調節によって末端カルボキシル基量(AV)が5〜20当量/トンのポリエステル樹脂を得ることができる。
ポリエステル原料樹脂AのAVが5当量/トン未満であると、分子鎖の直線性が高まり結晶化し易くなり、溶融時のせん断発熱量が高くなりAV値の増加、極限粘度の低下があり、20当量/トンを超えると、耐加水分解性が低下してしまう。
ポリエステル原料樹脂Aの末端カルボキシル基量は5〜15当量/トンであることが好ましく、8〜15当量/トンであることがさらに好ましい。
【0021】
−融点−
ポリエステル原料樹脂Aの融点Tmは、250℃〜265℃の範囲であることが好ましく、255℃〜260℃の範囲であることがより好ましい。前記融点Tmは示差走査熱量測定により求められる値である。
【0022】
(ポリエステルの重合)
ポリエステル樹脂Aは、テレフタル酸を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするジオール成分を縮重合することにより得ることができる。
【0023】
−エステル化反応−
ポリエステルを重合する際のエステル化反応において、触媒としてチタン(Ti)系化合物を用い、Ti添加量が元素換算値で、1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明のポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
Ti系化合物の量が1ppm以上であると、重合速度が速くなり、好ましいIVが得られる。また、Ti系化合物の量が30ppm以下であると、末端COOHを上記の範囲を満足するように調節することが可能であり、また良好な色調が得られる。
【0024】
このようなTi化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第3996871号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特開2007−204538号公報、特許3436268号、特許第3780137号等に記載の方法を適用することができる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルム(第1樹脂層及び第2樹脂層)を形成するポリエステルは、(A)マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体と、(B)エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物と、を周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
【0026】
前記ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0027】
これらの中でより好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。
また、前記PETとしては、ゲルマニウム(Ge)化合物、アンチモン(Sb)化合物、アルミニウム(Al)化合物、及びチタン(Ti)化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるPETが好ましく、より好ましくはTi化合物を用いたものである。
【0028】
前記Ti化合物は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能であり、本発明のポリエステルフィルムにおいて、末端COOH量を所定の範囲に調整するのに好適である。
【0029】
前記Ti化合物としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0030】
前記Ti化合物の中でも、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種を好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0031】
ポリエステル原料樹脂A及びリサイクル材Bの少なくとも一方は、チタンのクエン酸錯体を重合触媒として合成されたポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0032】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、本発明の添加方法によって末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0033】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0034】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステル樹脂の製造方法により作製されるのが好ましい。
【0035】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂が得られる。
【0036】
(リン化合物)
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種を用いることができる。本発明における5価のリン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0037】
5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0038】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0039】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは65ppm以上75ppm以下となる量である。
【0040】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
【0041】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0042】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0043】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0044】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0045】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0046】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0047】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0048】
より好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。
このような積層ポリエステルフィルムに、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である構成成分(以下、「≧3官能成分」と記す場合がある。)、あるいは、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を含むことが好ましい。これらの「≧3官能成分」、「末端封止剤」は単独で使用しても良く、組合せて使用しても良い。
【0049】
本発明の積層ポリエステルフィルム中に「≧3官能成分」即ち、カルボン酸基(a)と水酸基(b)の合計(a+b)が3以上である構成成分を含有することが好ましい。ここで、カルボン酸基(a)と水酸基(b) との合計(a+b)が3以上である構成成分(≧3官能成分:p)とは、カルボン酸基数(a)が3以上のカルボン酸構成成分としては、三官能の芳香族カルボン酸構成成分として、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、三官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、四官能の芳香族カルボン酸構成成分としてベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ベリレンテトラカルボン酸等が、四官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、五官能以上の芳香族カルボン酸構成成分として、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、五官能以上の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられ、並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるがこれらに限定されない。また上述のカルボン酸構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0050】
また、水酸基数(b)が3以上の構成成分(p)の例としては、三官能の芳香族構成成分としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリン、三官能の脂肪族アルコール構成成分(p)として、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール、四官能の脂肪族アルコール構成成分として、ペンタエリスリトール等の化合物、また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた構成成分(p)も好ましく用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0051】
また、その他構成成分(p)として、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸など、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有するオキシ酸類のうち、かつカルボン酸基数(a)と水酸基数(b)との合計(a+b)が3以上であるものが挙げられる。また上述の構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、該構成成分(≧3官能成分:p)の含有量が、積層ポリエステルフィルム中の全構成成分に対して0.005モル%以上2.5モル%であることが好ましい。より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下、更好ましくは0.025モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下、更に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
ポリエステルフィルム中の≧3官能成分が存在することで、重縮合に使用されなかった官能基が、塗布層中の成分と水素結合、共有結合することでより密着を向上させることができる。このような効果は≧3官能成分を本発明の結晶化度分布を持つポリエステルフィルム基材と併用することで、相乗効果が得られる。即ち結晶化度の低いところに貫入した塗布層の素材が、上記官能基と結合を形成し密着力を向上するためである。この時、貫入することで表面のみでの反応に比べ、より一層上記官能基と反応する数が増え密着力が増加し易い。このため≧3官能成分(p)の量が0.005モル%以上であれば、密着力がさらに向上し易い。一方、≧3官能成分(p)の量が2.5モル%以下であれば、ポリエステル中で結晶形成し、強度が低下し難く、その結果凝集破壊を発現し難く、密着力を向上させることができる。
【0053】
(添加剤)
本発明におけるポリエステルは、末端封止剤、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0054】
本発明におけるポリエステル樹脂A1、A2、Bの少なくとも一つには、末端封止剤が添加されていることが好ましい。末端封止剤を含有することで、末端カルボキシル基量を小さくすることができ、耐加水分解性能を向上させることができる。
【0055】
末端封止剤として好ましくは、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を含むことが好ましい。特に好ましいのはエポキシ化合物やカルボジイミド化合物である。
【0056】
但し、末端封止剤は一般的に2官能性以上の化合物を用いられるが、配合量が多くなるとポリエステルの分子鎖同士が架橋され、ゲル化し、溶融押出をした際に未溶融物となってフィルムの品質に悪影響を及ぼす。
そのため、特に好ましくは単官能性の末端封止剤を用いることであり、特に単官能性のエポキシ化合物が好ましい。
【0057】
末端封止剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上3質量%以下である。これにより、長期経時での加水分解によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果ポリエステルフィルムの機械強度の低下を抑止できる。
【0058】
本発明のポリエステル樹脂Aは、光安定化剤が添加されていることが好ましい。光安定化剤を含有することで、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、フィルム等が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。
【0059】
光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤をフィルム中に含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、フィルムによる部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、フィルムの紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0060】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、フィルム中に均一分散できることが望まれる。
【0061】
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0062】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0063】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0064】
<リサイクル材B>
リサイクル材Bとしては、ポリエステルの粉砕物、回収ポリエステルを再溶融したリサイクル材などが挙げられる。コア層を形成する原料樹脂として、ポリエステルA2のほか、極限粘度(IV)が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量(AV)が35当量/トン以下であるリサイクル材Bを10〜40質量%含む混合原料樹脂を用いることで、押出機内で溶融する際、溶融粘度差を低下させ、せん断発熱量を小さくすることができ、溶融温度が小さくなり、溶融粘度を調整し易くできるとともに、製造コストの上昇を抑制することができる。
混合原料樹脂全量に対するリサイクル材Bの含有量は、積層フィルム全体の耐加水分解性の観点から、15〜40質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
【0065】
−IV−
コア層の形成に用いるリサイクル材Bは、IVが0.55未満では配合されて積層フィルムの力学物性を低下させ、0.80を超えると溶融押出時の溶融粘度を低下させる効果が小さくなり、せん断発熱量が大きくなって、熱分解を進めてAV値を増加させ、積層フィルムの耐加水分解性が低下する。
リサイクル材のIVは、0.60〜0.80であることが好ましく、0.60〜0.75であることがさらに好ましい。
【0066】
また、コア層の形成に用いる混合原料樹脂において、リサイクル材Bの極限粘度とポリエステル樹脂A(A2)の極限粘度との差ΔIV(ポリエステル樹脂A2のIV−リサイクル材BのIV)は、0.05〜0.3であることが好ましい。この差の範囲内とすることで、押出時の発熱抑制により末端カルボキシル基量の増加をより抑えることができ、且つ、得られた積層ポリエステルフィルムの機械物性も維持できる。
ΔIVは、0.05〜0.2であることがより好ましく、0.05〜0.18であることがさらに好ましい。
【0067】
−AV−
コア層の形成に用いるリサイクル材Bは、AVが35当量/トンを超えると配合されたフィルムのAV値が大きく成り過ぎ耐加水分解性能が低下する。
リサイクル材BのAVは30当量/トン以下であることが好ましい。
【0068】
−融点−
また、リサイクル材Bの融点Tmは、255℃〜260℃の範囲であることが好ましい。
【0069】
上記の中でも、リサイクル材Bを混合原料樹脂の全質量に対して、10〜40質量%の範囲で含有し、リサイクル材Bとポリエステル樹脂A2との間の極限粘度の差ΔIVを0.05〜0.2とすることがより好ましく、更に好ましくは、リサイクル材Bを混合原料樹脂の全質量に対して、15〜35質量%の範囲で含有し、リサイクル材Bとポリエステル樹脂A2との間の極限粘度の差ΔIVを0.05〜0.18とする。
【0070】
(乾燥工程)
次いで、準備した原料樹脂を以下の第1の乾燥工程と第2の乾燥工程によって乾燥させる。
【0071】
−第1の乾燥工程−
前記ポリエステル原料樹脂A1を、100ppm以下の含水量に乾燥させる。
固相重合工程後のポリエステル原料樹脂A1を、例えば、露点温度−30℃の加熱窒素を用いて140〜170℃で2〜8時間乾燥させる。
原料樹脂の含水量は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製、MKC-520)によって測定することができる。
【0072】
−第2の乾燥工程−
前記ポリエステル原料樹脂A2及び前記リサイクル材Bを含み、ポリエステル樹脂の合計質量に対する前記リサイクル材Bの割合が15〜40質量%である混合原料樹脂を、100ppm以下の含水量に乾燥させる。
例えば、露点温度−30℃の加熱窒素を用いて140〜170℃で2〜8時間乾燥させる。
【0073】
(溶融押出工程)
前記第1の乾燥工程で乾燥された前記ポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂と、前記第2の乾燥工程で乾燥された前記混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂とを、2台の押出機を用いてそれぞれ280〜300℃の溶融樹脂温度になるように溶融し、一つのダイから共押出する。
【0074】
各原料樹脂の溶融押出に使用する押出機は特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機などを使用することができるが、本発明では、二軸押出機を好適に用いることができる。
【0075】
本発明で用いることができる二軸押出機について説明する。図1は、本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施する際に使用する二軸押出機の構成の一例を概略的に示している。図2は、本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するフローの一例を示している。
図1に示す二軸押出機は、供給口12及び押出機出口14を有するシリンダー10(バレル)と、シリンダー10内で回転する2つのスクリュ20A,20Bと、シリンダー10の周囲に配置され、該シリンダー10内の温度を制御する温度制御手段30と、を備えている。供給口12の手前には原料供給装置46が設けられている。また、押出機出口14の先には、図2に示すようにギアポンプ44と、フィルタ42と、ダイ40が設けられている。
【0076】
−シリンダー
シリンダー10は原料樹脂を供給するための供給口12と、加熱溶融された樹脂が押し出される押出機出口14を有する。
シリンダー10の内壁面は、耐熱、耐磨耗性、及び腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材を用いることが必要である。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、タングステン等の耐腐食性、耐磨耗性素材合金をシリンダー10の内壁面にライニングさせたバイメタリックシリンダーを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
【0077】
シリンダー10には真空を引くためのベント16A,16Bが設けられている。ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダー10内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント16A,16Bを適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレークなど)や製膜途中で出たフィルムの粉砕屑(フラフ)等をそのまま原料樹脂として使用することができる。
ベント16A,16Bは脱気効率との関係で、開口面積やベントの数を適正にすることが求められる。本発明で用いる二軸押出機100は、1箇所以上のベント16A,16Bを有することが望ましい。なお、ベント16A,16Bの数が多過ぎると、溶融樹脂がベントから溢れ出るおそれ、滞留劣化異物増加の懸念があるので、ベントは1箇所又は2箇所設けることが好ましい。
また、ベント付近の壁面に滞留した樹脂や析出した揮発成分が押出機100(シリンダー10)の内部に落下すると、製品に異物として顕在化する可能性があり、注意が必要である。滞留については、ベント蓋の形状の適正化や、上部ベント、側面ベントの適正な選定が有効であり、揮発成分の析出は、配管等の加熱で析出を防止する手法が一般的に用いられる。
【0078】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を押出す場合、加水分解、熱分解、酸化分解の抑制が製品(フィルム)の品質に大きな影響を及ぼす。
例えば、樹脂供給口12を真空化したり、窒素パージを行うことで酸化分解を抑えることができる。
また、ベント16A,16Bを複数箇所に設けることで、原料水分量が2000ppm程度の場合でも、50ppm以下に乾燥した樹脂を単軸で押出した場合と同様の押出しが可能である。
剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲でニーディング等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュ出口(押出機出口)14の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベント16A,16Bによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口14の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0079】
ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダー内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がシリンダー10の外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベント16A,16Bから溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は0.01Torr〜5Torr(1.333Pa〜666.5Pa)とすることが好ましく、0.01Torr〜4Torr(1.333Pa〜533.2Pa)とすることがより好ましい。
【0080】
−二軸スクリュ−
シリンダー10内には、モータおよびギアを含む駆動手段21によって回転する2つのスクリュ20A,20Bが設けられている。スクリュ径Dが大きくなるほど、大量生産が可能である一方、溶融ムラが生じ易い。スクリュ径Dは、30〜250mm以下が好ましく、より好ましくは50〜200mm以下である。
【0081】
二軸押出機は、2つのスクリュ20A,20Bの噛み合い型と非噛み合い型に大別され、噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きい。本発明では、噛み合い型と非噛み合い型のいずれのタイプでも良いが、原料樹脂を十分混練して溶融ムラを抑制する観点から、噛み合い型を用いることが好ましい。
2つのスクリュ20A,20Bの回転方向もそれぞれ同方向と異方向に分かれる。異方向回転スクリュ20A,20Bは同方向回転型よりも混練効果が高く、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。
さらに軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。
【0082】
本発明で用いる二軸押出機では、様々な形状のスクリュセグメントを用いることができる。スクリュ20A,20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリュが用いられる。
加熱溶融部に、ニーディングディスクやローターなどの剪断を付与するセグメントを用いることで、原料樹脂をより確実に溶融することができる。また、逆スクリュやシールリングを用いることにより、樹脂をせき止め、ベント16A,16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。例えば、図1に示すように、ベント16A,16B付近に、上記のような原料樹脂の溶融を促進する混練部24A,24Bを設けることができる。
【0083】
押出機100の出口付近では溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)が有効である。剪断発熱よりもシリンダー10の伝熱効率が高い場合は、例えば、温調ゾーン(冷却部)にピッチの短いスクリュ28を設けることで、シリンダー10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。
【0084】
−温度制御手段−
シリンダー10の周囲には、温度制御手段30が設けられている。図1に示す押出機100では、原料供給口12から押出機出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9が温度制御手段30を構成している。このようにシリンダー10の周囲に分割して配置された加熱/冷却装置C1〜C9によって、例えば加熱溶融部C1〜C7と冷却部C8,C9の各領域(ゾーン)に区画し、シリンダー10内を領域ごとに所望の温度に制御することができる。
【0085】
加熱は、通常バンドヒーターまたはシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、これらに限定されず、例えば熱媒循環加熱方法も用いることができる。一方、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、シリンダー10の周囲に巻き付けたパイプ(通水路)に水または油を流す方法もある。
【0086】
−ダイ−
シリンダー10の押出機出口14には、押出機出口14から押出された溶融樹脂をフィルム状(帯状)に吐出するためのダイ40が設けられている。また、シリンダー10の押出機出口14とダイ40との間には、フィルムに未溶融樹脂や異物が混入することを防ぐためのフィルタ42が設けられている。
【0087】
−ギアポンプ−
厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機100とダイ40との間にギアポンプ44を設けてもよい。ギアポンプ44から一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸スクリュ押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプ44による押出安定化を図ることが好ましい。
【0088】
ギアポンプ44を用いることにより、ギアポンプ44の2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュ先端部の圧力を上げることなしにフィルタによる濾過が可能なことから、樹脂温度の上昇の防止、輸送効率の向上、及び押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルタの濾圧上昇が原因で、スクリュから供給される樹脂量が経時変動することも防止できる。ただし、ギアポンプ44を設置すると、設備の選定方法によっては設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり注意が必要である。
【0089】
ギアポンプ44は1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプ44の負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内、好ましくは15MPa、更に好ましくは10MPa以内とする。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプ44の一次圧力を一定にするために、押出機のスクリュ回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0090】
温度制御手段30によりシリンダー10を加熱するとともにスクリュを回転させ、供給口12からポリエステル樹脂の原料(原料樹脂)を供給する。なお、供給口12は、原料樹脂のペレット等が加熱されて融着しないようにすることと、モータなどのスクリュ駆動設備を保護するため、伝熱防止として冷却することが好ましい。
【0091】
シリンダー内に供給された原料樹脂は、温度制御手段30による加熱のほか、スクリュ20A,20Bの回転に伴う樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュ20A,20Bやシリンダー10との摩擦などによる発熱によって溶融されるとともに、スクリュの回転に伴って押出機出口14に向けて徐々に移動する。
シリンダー内に供給された原料樹脂は融点Tm(℃)以上の温度に加熱されるが、樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイ40からの吐出が困難になるおそれがあり、樹脂温度が高過ぎると熱分解によって末端COOHが著しく増加して耐加水分解性の低下を招くおそれがある。
【0092】
本発明では、前記第1の乾燥工程で乾燥された前記ポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂と、前記第2の乾燥工程で乾燥された前記混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂とを共押出する際、それぞれTダイから押出された溶融樹脂温度が280〜300℃となるように共押出する。
ここで、溶融樹脂温度とは、Tダイから押出された溶融樹脂を接触式温度計によって測定される温度を意味する。
【0093】
本発明では、温度制御手段30による加熱温度及びスクリュ20A,20Bの回転数を調整することにより、溶融樹脂温度を280〜300℃の範囲に制御して溶融押出しを行う。
溶融樹脂温度が280℃未満であると、溶融樹脂の一部が固化して未溶融樹脂が発生し、300℃を超えると、熱分解により末端COOHが増大して耐加水分解性が低下し易くなる。
熱分解による末端COOHの発生をより抑制できる点で、押出し機内を窒素置換して行なうことがより好ましい。
【0094】
スキン層を形成するためのポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂の溶融樹脂温度は、285〜300℃であることが好ましく、285〜295℃であることがより好ましい。
コア層を形成するためのリサイクル材Bとポリエステル原料樹脂A2との混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂の溶融樹脂温度は、280〜300℃であることが好ましく、280〜290℃であることがより好ましい。
スキン層とコア層を合流させてTダイより押出し際の垂れ幕の溶融樹脂温度は、280〜300℃であることが好ましく、280〜295℃であることがより好ましい
【0095】
(成形工程)
溶融押出された前記第1の溶融樹脂及び前記第2の溶融樹脂を、前記第2の溶融樹脂の膜の厚みが前記第1の溶融樹脂の膜の厚みよりも厚く、かつ、前記第1の溶融樹脂の膜が前記第2の溶融樹脂の膜の少なくとも一方の面に積層した状態でキャストロール上で冷却固化し、少なくとも2層からなる積層体を成形する。
【0096】
シリンダー10の押出機出口14からそれぞれ押し出された樹脂(第1溶融樹脂、第2溶融樹脂)を、ギアポンプ44、フィルタ42に通してダイ40からキャストロール(冷却ロール)上に押し出してフィルム状に成形する。このとき、第2の溶融樹脂の膜の厚みが第1の溶融樹脂の膜の厚みよりも厚く、かつ、第1の溶融樹脂の膜が第2の溶融樹脂の膜の少なくとも一方の面に積層されるようにそれぞれ押出ダイから共押出して積層する。第1の溶融樹脂膜は第2の溶融樹脂膜の片面に積層して2層構造としてもよいし、両面に積層して3層構造としてもよい。
【0097】
ダイ40から各メルト(溶融樹脂)を押出した後、キャストロールに接触させるまでの間(エアギャップ)は、湿度を5%RH〜60%RHに調整することが好ましく、15%RH〜50%RHに調整することがより好ましい。エアギャップでの湿度を上記範囲にすることで、フィルム表面のCOOH量やOH量を調節することが可能であり、低湿度に調節することで、フィルム表面のカルボン酸量を減少させることができる。
【0098】
押出ダイから共押出された各メルトは、キャストロール(冷却ロール)を用いて冷却され、固化される。冷却が不充分な場合には、球晶が発生しやすく、これが延伸ムラを引き起こし、厚みムラを発生させることがある。
キャストロールの温度は、10℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以上70℃以下、さらに好ましくは20℃以上60℃以下である。さらに、メルトとキャストロールとの間で密着性を高め、冷却効率を上げる観点からは、キャストロールにメルトが接触する前に静電気を印加しておくことが好ましい。さらに、キャストロール反対面から冷風を当てたり、冷却ロールを接触させ、冷却を促すことも好ましい。これにより、厚手のフィルムであっても、効果的に冷却が行なえる。
【0099】
スキン層となる第1の溶融樹脂膜の厚みは、コア層となる第2の溶融樹脂膜よりも薄くなるように製膜する。
第1の溶融樹脂膜と第2の溶融樹脂膜の厚み比は、1/150〜1/4であることが好ましく、1/100〜1/8であることがより好ましい。
ポリエステル原料樹脂Aを使っており、AV値が小さく結晶化し易い第1の溶融樹脂膜の厚みを薄くすることで、押出されたメルトがガラス転移温度(Tg)以下に冷却するまでの所要時間を短くすることができる。その結果、スキン層の結晶化が抑制され積層フィルムの透明性が向上する。
【0100】
未延伸の積層体全体としての厚みは、500〜4000μmであることが好ましい。積層体全体の厚みが500μm未満では、スキン層の厚みが薄く成り過ぎ、スキン層を幅方向に均一にコア層上に積層できなくなる。一方、積層体全体の厚みが4000μmを超えると、厚みムラが大きくなったり、結晶化が進み、延伸が難しくなるほか、延伸しても厚みムラの精度が低下するおそれがある。
【0101】
(二軸延伸工程)
成形工程により作製された積層体(未延伸の積層ポリエステルフィルム)を長手方向(MD)及び幅方向(TD)にそれぞれ延伸して二軸延伸(縦延伸及び横延伸)を行う。
【0102】
例えば、積層体を、70℃以上140℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸し、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却する。続いて、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、80℃以上150℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向(幅方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸する。
【0103】
延伸率は、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするのが好ましい。また、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上15倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以上であると、得られる二軸延伸積層ポリエステルフィルムの反射率や隠蔽性、フィルム強度が良好であり、また面積倍率が15倍以下であると、延伸時の破れを回避することができる。
【0104】
二軸延伸する方法としては、上述のように、長手方向と幅方向の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法のほか、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
また、積層ポリエステルフィルムの強度を向上させる目的で、多段縦延伸、再縦延伸、再縦横延伸、横・縦延伸など公知の延伸フィルムに用いられる延伸を行ってもよい。縦延伸と横延伸の順序を逆にしてもよい。
【0105】
(熱固定工程)
−熱固定工程−
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、二軸延伸フィルムの熱固定処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱固定処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルムが耐加水分解性に劣ることがある。
本発明では、二軸延伸フィルムの熱固定処理を行う際、150〜250℃とすることが好ましく、180〜230℃とすることがより好ましい。
【0106】
(熱緩和工程)
また必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の緩和(弛緩)処理を施してもよい。
熱固定されたポリエステルフィルムは通常Tg以下まで冷却され、ポリエステルフィルム両端のクリップ把持部分をカットしロール状に巻き取られる。この際、最終熱固定処理温度以下、Tg以上の温度範囲内で、幅方向及び/または長手方向に1〜12%弛緩処理することが好ましい。
また、冷却は、最終熱固定温度から室温までを毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが寸法安定性の点で好ましい。特に、Tg+50℃からTgまでを、毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特
に限定はないが、特に複数の温度領域で順次冷却しながら、これらの処理を行うことが、ポリエステルフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。
【0107】
<積層ポリエステルフィルム>
上記のような工程を経て、本発明では、極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が7〜25当量/トンである第1のポリエステル層(スキン層)、及び全質量に対して10〜40質量%のポリエステル樹脂のリサイクル材を含んで形成され、極限粘度が0.55〜0.76であり、末端カルボキシル基量が8〜30当量/トンであると共に、前記第1のポリエステル層の厚みより厚い第2のポリエステル層(コア層)を含む積層構造を有し、極限粘度が0.55以上であって末端カルボキシル基量が30当量/トン以下である二軸配向した積層ポリエステルフィルムを製造することができる。
【0108】
なお、第2のポリエステル層と、第2のポリエステル層を挟む2層の第1のポリエステル層とを含む3層構造、すなわち、コア層の両面にぞれぞれスキン層が積層された積層ポリエステルフィルムとすることもできる。
【0109】
<用途>
本発明により製造される積層ポリエステルフィルムは、電気絶縁性に優れるほか、厚みムラが小さく、高温高湿度下での耐加水分解性が優れているため、電気電子部材に好適であり、特に、太陽電池部材用ポリエステルフィルム、具体的には、太陽電池発電モジュールの太陽光入射側とは反対側の裏面に配置される裏面保護シート(いわゆる太陽電池用バックシート)、バリアフィルム基材等の用途に好適である。
【0110】
太陽電池発電モジュールの用途では、電気を取り出すリード配線で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様が挙げられる。
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
‐二軸押出機‐
押出機として、図1に示すように2箇所にベントが設けられたシリンダー内に下記構成のスクリュを備え、シリンダーの周囲には長手方向に9つのゾーンに分割して温度制御を行うことができるヒータ(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。
スクリュ径D:65mm
長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(1ゾーンの幅:3.5D)
スクリュ形状:第1ベント直前に可塑化混練部、第2ベント直前に脱気促進混練部
【0113】
二軸押出機の押出機出口以降には、図2に示すように、下記構成のギアポンプ、金属繊維フィルタおよびダイを接続し、ダイを加熱するヒータの設定温度は280℃とし、平均滞留時間は10分とした。
ギアポンプ:2ギアタイプ
フィルタ:金属繊維焼結フィルタ(孔径20μm)
ダイ:リップ間隔4mm
【0114】
‐原料‐
ポリエステル樹脂Aとしては、触媒としてTi−クエン酸錯体を用いて製造したポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.8dl/g、末端COOH量AV:13eq/t、乾燥後の含水率:45ppm)のペレット(PET1)を用意した。
リサイクル材Bとしては、ポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.76dl/g、末端COOH量AV:15eq/t、乾燥後の含水率:48ppm)のリサイクルチップ1を用意した。
【0115】
‐溶融押出し‐
コア層の形成にはPET1及びリサイクルチップ1を「PET1:リサイクルチップ1=80:20」の比率(質量比)で混合した材料を、スキン層の形成にはPET1をそれぞれ用いて共押出しにより積層体(未延伸フィルム)を形成した。
各押出機のバレル設定温度を280℃に、スクリュの回転数を80rpmにそれぞれ設定した。供給口から各原料を供給して加熱溶融し溶融押出を行った。Tダイから押出された溶融樹脂温度は291℃であった。
【0116】
押出機出口から押出された溶融体(メルト)をギアポンプ、金属繊維フィルタ(孔径20μm)を通した後、ダイから冷却(チル)ロールに押出した。押出されたメルトは、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールは、中空のキャストロールを用い、この中に熱媒として水を通して温調できるようになっている。
なお、ダイ出口から冷却ロールまでの搬送域(エアギャップ)は、この搬送域を囲い、この中に調湿空気を導入することにより、湿度を30%RHに調節してある。押出機の押出量及びダイのスリット幅の調整により、メルト厚みを平均で約3300μmとした。
【0117】
−二軸延伸−
次いで、得られた未延伸フィルムの二軸延伸を行った。延伸倍率は、縦延伸:3倍、横延伸:4.2倍とした。これにより、厚さ250μmの積層PETフィルムを得た。
【0118】
<評価>
製造したPETフィルムについて以下の方法により評価を行い、結果を表1に示した。
【0119】
−PETフィルム(全層)の極限粘度の測定−
極限粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステル樹脂を1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求めた。
【0120】
−PETフィルム(全層)の末端カルボキシル基量の測定−
0.1gの試料をベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下した。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求めた。
【0121】
−末端COOH量の測定−
原料のPETペレット、リサイクルチップ、得られたPETフィルムについては、0.1gの試料をベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下した。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求めた。
【0122】
−耐加水分解性−
120℃×100%RH条件で湿熱処理(サーモ処理)をした際、処理前後での引張破断伸度保持率が50%となった時間が100時間が未満の場合を×、100時間以上の場合を○、120時間を越えた場合を◎とした。引張試験はJIS K 7127に則った。
破断伸度保持率[%]=(サーモ処理後の破断伸度)/(サーモ処理前の破断伸度)×100
【0123】
−ヘイズ−
ヘイズの測定は、JIS K 7136に則った。2%未満であれば◎、2%以上3%未満であれば○、3%以上であれば×とした。
【0124】
−着色−
厚み250μmサンプルをカラーメーター(ND−101D(日本電色工業(株)製))で測定し、フィルムb値が2を超える場合は×、1を超え2以下であれば○、1以下であれば◎。
【0125】
−厚みムラ−
フィルム断面をかみそりで切断し、光学顕微鏡を使って観察した。表層の厚みムラが30%以上変化した場合は×、20%を越え、30%未満であれば○、20%未満であれば◎。
【0126】
−面状ムラ−
5m長のフィルムを目視で確認した際、スジ状の5mm以上の連続ムラが確認できれば×、5mm以下の部分ムラが確認できるだけであれば○、全く確認できなければ◎。
【0127】
−総合評価−
5段階評価とし、4点以上を合格とした。
5:全て項目(ヘイズ、着色、厚みムラ、面状ムラ、耐候性)が◎
4:○が一つでもある場合
3:耐候性が○以上で、その他×が一つだけある場合
2:耐候性が×で、他の物性に○以上が2以上ある場合
1:耐候性が×で、その他に×が3つある場合
【0128】
(実施例2〜15)
原料及び押出し条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造して評価を行った。なお、表1中、「触媒1」はTi−クエン酸錯体(ジョンソン・マッセイ社製、VERTEC AC−420)、「触媒2」はTiO(住友金属工業社製)である。また、実施例14、15では、末端封止剤として、カルボジイミド系化合物:ラインケミー社製「タバクゾールP100」、エポキシ系化合物:Hexion Speciality Chemicals社製「カージュラE10P」をそれぞれ使用し、樹脂原料と一緒に押出機に添加して配合した。
【0129】
(比較例1〜10)
原料及び押出し条件を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造して評価を行った。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
実施例1〜15では、厚みムラが小さく、耐候性(耐加水分解性)に優れていた。
コア層の形成にリサイクルチップ用いていない比較例1では、押出工程におけるせん断発熱が大きく溶融樹脂温度が300℃を超え、IVの低下とAVの上昇が大きかった。その結果、耐加水分解性能が低下する。
【0133】
また、比較例2ではスキン層の樹脂極限粘度が低下したため、分子量が低下した結果、分子の運動性が高まり結晶化速度が速くなり、製膜時の冷却工程で結晶化・結晶サイズが大きくなりヘイズが高くなってしまった。また、押出後流路内でスキン層とコア層の樹脂を合流させた際、スキンとコアの溶融粘度差が大きく、スキン層の層厚みが変動し、面状にムラが生じた。このフィルムを耐加水分解性評価にかけた結果、面状ムラが起点となって破断が起こり易くなり、100時間後の伸度保持率が50%未満となった。
【0134】
比較例3では逆に原料A1、A2の極限粘度を上昇させたため、押出機内での溶融粘度が高くなった結果、せん断発熱量が増加し、熱分解を進みフィルムが着色した。また、冷却に時間がかかるコア部では、原料の熱分解が進んだ結果、分子の運動性が上昇し結晶化速度が上昇し、結晶化によるヘイズの上昇が起こった。また、スキンとコア層の溶融粘度差も大きく、比較例2同様面状ムラが発生し、耐加水分解性能が低下した。
【0135】
比較例4ではスキン層の原料樹脂の乾燥温度を130℃に設定したため、乾燥不足となり含水率が上昇した。その結果、押出工程での加水分解を発生させてしまい、スキン層の溶融粘度が大幅に低下した。その結果、コア層の溶融樹脂との溶融粘度差が大きくなり、厚みムラが大きくなるとともに、面状ムラも発生し、比較例2、3同様耐加水分解性能が低下した。
【0136】
比較例5ではリサイクル材Bとして、極限粘度が小さく、且つ末端カルボキシル基量が大きな材料を利用した。その結果、フィルムの末端カルボキシル基量が30eq/トンを超え、耐加水分解性能が低下した。その他厚みムラ・面状ムラも同様に悪化した。
【0137】
比較例6ではリサイクル材Bとして、極限粘度が高く、且つ末端カルボキシル基量が小さな材料を利用した。その結果、押出機内での溶融粘度が高くなった結果、せん断発熱量が増加し、熱分解を進みフィルムが着色した。また、冷却に時間がかかるコア部では、原料の熱分解が進んだ結果、分子の運動性が上昇し結晶化速度が上昇し、結晶化によるヘイズの上昇が起こった。また、スキンとコア層の溶融粘度差も大きく、同様面状ムラが発生し、且つ、末端カルボキシル基量も30eq/トンを超え、耐加水分解性能が低下した。
【0138】
比較例7ではリサイクル材Bの配合量を50質量%へ増加させた結果、コア層におけるせん断発熱量が低下し、未溶融が発生するばかりか溶融粘度も増加したため、未溶融物が結晶核剤として働き結晶化速度が上昇し、製膜時の冷却工程でコア層内の結晶化・結晶サイズが大きくなりヘイズが高くなってしまった。また、押出後流路内でコア層の溶融温度が低下してスキン層に比べ溶融粘度が大きくなった結果、厚みムラ・面状ムラが生じた。このフィルムを耐加水分解性評価にかけた結果、面状ムラが起点となって破断が起こり易くなり、100時間後の伸度保持率が50%未満となった。
【0139】
比較例8ではリサイクル材Bの乾燥温度を130℃に設定したため、乾燥不足となり含水率が上昇した。その結果、押出工程での加水分解を発生させてしまい、コア層の溶融粘度が大幅に低下した。その結果、スキン層の溶融樹脂との溶融粘度差が大きくなり、厚みムラが大きくなるとともに、面状ムラも発生し、耐加水分解性能が低下した。
【0140】
一般的には溶融粘度差の大きな樹脂を積層する場合、溶融温度を上げ、全体の溶融粘度を低下させて、溶融粘度差を小さくすることが試みられる。比較例9ではバレルの設定温度を高くした。その結果、溶融粘度は小さくなりせん断発熱量は小さくなったものの、バレルからの加熱で溶融樹脂温度が上昇し過ぎ、熱分解が生じた結果、スキンとコア層の溶融粘度にムラが発生。それが厚みムラ・面状ムラを発生させたばかりでなく、末端カルボキシル基量も増加したため、耐加水分解性能が低下した。
【符号の説明】
【0141】
10 シリンダー
12 供給口
14 押出機出口
16A,16B ベント
20A,20B スクリュ
22 フライト
30 温度制御手段
40 ダイ
42 フィルタ
44 ギアポンプ
46 原料供給装置
100 二軸押出機
C1〜C9 加熱/冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度が0.60〜0.85であり、末端カルボキシル基量が5〜20当量/トンであるポリエステル原料樹脂A1及びA2と、極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が35当量/トン以下であるポリエステル樹脂のリサイクル材Bを準備する原料準備工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A1を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第1の乾燥工程と、
前記ポリエステル原料樹脂A2及び前記リサイクル材Bを含み、ポリエステル樹脂の合計質量に対する前記リサイクル材Bの割合が10〜40質量%である混合原料樹脂を、100ppm以下の含水量に乾燥させる第2の乾燥工程と、
前記第1の乾燥工程で乾燥された前記ポリエステル原料樹脂A1を溶融した第1の溶融樹脂と、前記第2の乾燥工程で乾燥された前記混合原料樹脂を溶融した第2の溶融樹脂とを共押出する際、それぞれTダイから押出された溶融樹脂温度が280〜300℃となる溶融押出工程と、
溶融押出された前記第1の溶融樹脂及び前記第2の溶融樹脂を、前記第2の溶融樹脂の膜の厚みが前記第1の溶融樹脂の膜よりも厚く、かつ、前記第1の溶融樹脂の膜が前記第2の溶融樹脂の膜の少なくとも一方の面に積層した状態でキャストロール上で冷却固化し、少なくとも2層からなる積層体を成形する成形工程と、
前記積層体を長手方向及び幅方向に延伸する二軸延伸工程と、
を有する積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル原料樹脂A及び前記リサイクル材Bの少なくとも一方は、チタン化合物を重合触媒として合成されたポリエステル樹脂である請求項1に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記溶融押出工程において、前記第1溶融樹脂及び前記第2溶融樹脂の少なくとも一方に、エポキシ化合物又はカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤を積層ポリエステルフィルム全質量に対して0.1質量%以上5質量%以下配合する請求項1又は請求項2に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記成形工程は、溶融押出された前記第2の溶融樹脂の膜を、溶融押出された前記第1の溶融樹脂の膜で挟んだ積層状態でキャストロール上で冷却固化し、3層からなる積層構造の積層体を成形する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
極限粘度が0.55〜0.80であり、末端カルボキシル基量が7〜25当量/トンである第1のポリエステル層、及び
全質量に対して10〜40質量%のポリエステル樹脂のリサイクル材を含んで形成され、極限粘度が0.55〜0.76であり、末端カルボキシル基量が8〜30当量/トンであると共に、前記第1のポリエステル層の厚みより厚い第2のポリエステル層
を含む積層構造を有し、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法により作製された、極限粘度が0.55以上であって末端カルボキシル基量が30当量/トン以下である積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記積層構造は、前記第2のポリエステル層と、前記第2のポリエステル層を挟む2層の前記第1のポリエステル層とを含む3層構造である請求項5に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載された積層ポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシート。
【請求項8】
請求項7に記載された太陽電池用バックシートを備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−22927(P2013−22927A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162633(P2011−162633)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】