説明

ポリエーテルイミド部品を有する電子デバイス

【課題】膜キャパシタとして使用した場合、高温特性やエネルギー密度に優れたポリエーテルイミド材料を提供する。
【解決手段】電子物品10は、ある特定の化学式の繰返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂から形成される。別の実施形態は、このようなポリエーテルイミド樹脂から形成される誘電体膜12を有するキャパシタ10を記述する。キャパシタ10はさらに、誘電体膜12の第1表面に取り付けた少なくとも1つの電極16を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、電子物品に関する。特定の実施形態では、高エネルギー密度キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタは、多種多様の用途、例えばエネルギー蓄積、交流のみを通すための直流遮断及び電源出力の「平滑化」に有用な受動電子部品である。特に、高エネルギー密度キャパシタは、産業、軍事及び商業上の様々な操作でますます重要になっている。
【0003】
ポリマー系キャパシタは軽量・小型であるので、種々の陸上及び宇宙用途に魅力的である。しかし、ほとんどの誘電性ポリマーは、低エネルギー密度(多くの場合、約5J/cm3未満)を特徴とし、破壊強度が低く(約450kV/mm未満)、これらがキャパシタの動作電圧を制限することがある。高エネルギー密度を達成するため、高い比誘電率特性と高い破壊強度の両方をもつことが望ましい。これらの2つの特性のどちかを妥協することは必ずしも有利ではない。さらに、別の特性が重要性を増している、即ち約200℃超の動作温度に耐えることができる材料からキャパシタを形成する必要がある。
【0004】
高い破壊強度を示す多くの誘電性ポリマーは低い比誘電率をもつので、ポリマー系がある種の変性を必要とすることが多い。例えば、高い比誘電率セラミック充填材を用いて比誘電率を高めたポリマー複合材料を形成することができる。例えば約85体積%のように高濃度のセラミック充填材を含有させることにより絶縁耐力をさらに高めることができる。
【0005】
しかし、高濃度のセラミック充填材は、複合材料の機械的柔軟性を低減するだけでなく、界面欠陥を導入することもある。これらの欠陥は、最終的にポリマー複合材料の破壊強度を低下させるおそれがある。
【0006】
種々のポリマー系が高密度キャパシタ用に使用されている。各材料は確かに利点があるが、欠点を示すこともある。例として、ポリプロピレン材料、並びにポリカーボネート及び特定のポリエステルが薄膜キャパシタに用いられている。これらの材料の各々は、キャパシタに魅力的な幾つかの特性を示す。しかし、これらすべてのガラス転移温度(Tg)は、150℃以下であり、材料の作動温度を約120℃以下に制限する。
【0007】
シアノレジンも様々な種類のキャパシタに用いられている。これらの材料は、通常、高い比誘電率(例えば、15超のε値)を示し、膜形成用樹脂として市販されている。しかし、シアノレジンは通常、キャパシタ製造のための自立膜に加工するのに十分な機械的強度を持たない。通常、材料の脆化により膜に亀裂がはいる。
【0008】
ポリエーテルイミド材料などのポリイミドもキャパシタ膜として検討されている。あるポリエーテルイミド材料(すべてではない)は有利な高温特性を示すことが知られている。しかし、膜キャパシタとして使用した場合、これらの材料は高レベルの市販のデバイスに必要なエネルギー密度値を有さないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7542265号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
キャパシタ技術の進歩が当業界で望まれていることは明らかである。一般に、電子デバイス用の高温材料の進歩は極めて有益である。多くの場合、高温材料は、比較的高い比誘電率値及び破壊強度特性をもつ必要がある。高温材料は、また、約140℃超の温度で動作できなければならず、過酷な環境に曝露されたデバイス内で適切に機能するのに十分な頑強性(例えば、膜強度、延性及び柔軟性)をもたなければならない。また、デバイス部品の主成分となるポリマー材料を経済的な方法で形成することができれば理想的であり、これによりデバイス製造プロセス全体が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、次の式Iの繰返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂を含有する電子物品に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明の別の実施形態は、
(a)式Iの繰返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂で形成された誘電体膜と、
(b)誘電体膜の第1表面に取り付けられた少なくとも1つの電極と
を有するキャパシタに関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態のキャパシタの図である。
【図2】本発明の実施形態の捲回型キャパシタの図である。
【図3】本発明の実施形態の金属蒸着膜配置を有するキャパシタの図である。
【図4】本発明の実施形態の多層キャパシタの図である。
【図5】本発明の実施形態のポリエーテルイミドポリマーについて、周波数の関数として誘電応答をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して用いた近似的な表示は、それが関与する基本機能に変化をもたらすことなく変動することが許される量的表現を修飾するのに適用することがある。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、特定された正確な値に限定されない。ある例では、近似的な表示はその値を測定する計器の精度に対応する。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数表現は、文脈上明らかにそうでない場合以外は、複数も含む。ここで用いる用語「ことができる」及び「ことがある」は、一連の状況下で何かが起こる、つまり特定の性質、特徴又は機能を有する可能性を示したり、他の動詞を修飾してその修飾した動詞とともに1つ又は2つ以上の能力、性能又は可能性を表す。したがって、「ことができる」及び「ことがある」を利用する場合、修飾した用語が、表す能力、機能又は使用に対して明らかに適切、可能又は適当であることを示し、一方、ある状況では、修飾した用語が適切でも、可能でも、適当でもないことがあることを勘案している。例えば、ある状況では、事象又は能力を期待することができ、一方、別の状況ではその事象又は能力を実現することができない・この差異を用語「ことができる」及び「ことがある」によって表現する。
【0017】
ここで検討される誘電特性は、比誘電率、誘電正接、絶縁破壊電圧、即ち絶縁破壊強度及びエネルギー密度である。誘電材料の「比誘電率」は、電極間や電極の周囲の空間に誘電材料が充填されたキャパシタの電気容量と同構成をもつ電極の真空中の電気容量との比である。ここで用いる用語「誘電正接」、即ち「誘電損失(dielectric loss)」は、誘電材料中で失なわれる電力と与えられた電力との比をいう。誘電正接は通常、損失角の正接(tanδ)又は位相角の余接として求められる。
【0018】
ここで用いる用語「絶縁破壊強度」はAC又はDC電圧印加下での誘電材料の絶縁破壊耐力の大きさをいう。破壊前の印加電圧を誘電材料(例えば、ポリマー)の厚さで除して破壊強度値又は「破壊電圧」を得る。これは通常、電位差の単位/長さの単位、例えばキロボルト/ミリメートル(kV/mm)で測定される。
【0019】
キャパシタのエネルギーは通常、式E=(1/2)CV2によって計算される。式中、Cはファラッド(F)単位の電気容量であり、Vはボルト(V)単位のキャパシタの動作電圧である。これらの関係は電場「E」の関数として表すこともできる。材料の比誘電率Kが与えた電界E(V/μm)で変化しないの場合、キャパシタに蓄積された電気エネルギー密度UE(J/cm3)は次の式で計算することができる。
【0020】
E=1/2∈0KE2
式中、∈0は真空の誘電率である。材料に与えることができる最も高い電界をその絶縁破壊強度という。ここで用いる用語「高温」は、特記しない限り摂氏約100度(℃)超の温度をいう。
【0021】
上述のように、本発明の電子物品、例えばキャパシタは、ポリエーテルイミド材料で形成された1つ又は2つ以上の部品を有する。1種類の材料として、ポリエーテルイミドは当業界で既知であり、多くの文献に記載されている。具体的には、米国特許第5856421号(Schmidhauser)、第4011198号(タケコシら)及び第3983093号(Williams, IIIら)がある(これらはすべて本発明の先行技術として援用する)が、これらに限らない。ポリエーテルイミドの製造方法も上記又は別の文献に記載されている。
【0022】
本発明のポリエーテルイミド樹脂(即ち、ポリエーテルイミドポリマー)は次の式Iの繰返し単位の構造を有する。
【0023】
【化2】

【0024】
構造中の各芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換することができる。これらの樹脂は、本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)に記載されている。以下に説明するように、このアリールシアノポリエーテルイミド構造単位が樹脂に存在すると、種々の電子物品に組み込まれた場合に大きな効果を与えることができる。シアノ基自体は通常、高極性であり、非常に大きな双極子モーメントを有する。シアノ基は、移動度も非常に高く、電界下で分子が再配向するのを可能にする。その結果、得られたポリエーテルイミドポリマーは高い比誘電率値になることができる。
【0025】
本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)に記載されているように、樹脂のシアノ(CN)−フェニル末端ビスフェノール構造(簡単にするために式Iの下位構造xとして表示)は、構造II(上記同日付け出願に記載)を有するモノマー塩から製造することができる。その例では、フェニルの幾つか又はすべての位置は、通常水素と置き換えて種々の基又は原子を結合することができる。具体的には、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、シクロアルキル及びアリールがあるが、これらに限らない。
【0026】
本発明の好ましい実施形態に用いる樹脂材料は次の式のコポリマーとして表すことができる。
【0027】
[A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造のものであり、
【0028】
【化3】

【0029】
Bは次の構造のものである。
【0030】
【化4】

【0031】
式A及びB各々について、幾つか又はすべての芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換することができる。
【0032】
構造Aと構造Bの相対比率(即ち、ビスフェノールA由来材料対アリールシアノビスフェノール由来材料)は広い範囲で変化することがある。比率の選択に影響を与える要因には、所望のレベルの引張強さ、比誘電率値、誘電損失値、エネルギー密度、詳細なポリエーテルイミドの種類、樹脂を使用する電子デバイスの種類及びデバイスの動作時間及び方式(例えば、連続又は不連続)がある。ある例では、アリールシアノ含量を増加するとTg値、エネルギー密度及び比誘電率を増加することができるが、誘電正接(dissipation loss factor)も増加する。さらに、比誘電率は、アリールシアノ含量がもっと高いレベル、例えば総ビスフェノール由来含量の割合として約50%超に増加すると、横ばい状態になるか低下し始めることがある。
【0033】
ビスフェノールA由来材料とアリールシアノビスフェノール由来材料の比率は、最終ポリマーの含量に基づいて表すことができる。したがって、ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、構造A及びBの総ポリマー含量に基づき約10%以上の構造Bを含有する。特定の実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、約50%以下の構造B、好ましくは約40%以下の構造Bを含有する。多くのキャパシタ最終用途では、ポリエーテルイミド樹脂は、約15%〜約40%の構造B、場合によっては約20%〜約30%の構造Bを含有する。
【0034】
ポリエーテルイミドの分子量は、ある程度まで調節することができ、上記の多くの要因に依存する。ある例では、分子量(重量平均)は約35,000〜約100,000の範囲である。さらに特定の実施形態は、範囲は約40,000〜約70,000であるが、最も適切な範囲は特定の最終用途に合わせる。
【0035】
また、上述のように、ポリエーテルイミド樹脂の引張強さを、例えば、モノマーの比率を加減することにより調節することもできる。約1μm〜約100μmの厚さのポリエーテルイミド膜では、引張強さ(例えば、ASTM D−638標準に準ずる)が、約5,000psi超であることが多く、場合によっては、約15,000psi超である。
【0036】
ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は約200℃超である。本発明の高性能キャパシタで例示することができる高温用途では、Tgは約220℃超、場合によっては、約230℃超、さらに、約250℃超にすることができる。上述のように、本発明のポリエーテルイミド材料は、引張強さなどの機械特性、Tgなどの熱特性及び特定の最終用途のための他の特性、例えば種々の電気特性の間で所望のバランスをもつように設計される。
【0037】
本発明のポリエーテルイミド樹脂は、本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)に記載された方法により製造することができる。ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、少なくとも2つのビスフェノール化合物を(好ましくは塩の形態で)下記の構造IIIのm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)と反応することにより形成される。
【0038】
【化5】

【0039】
化合物IIIの製造例は本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)に記載されている。(簡単にするために、この化合物を「ニトロフタルイミド化合物」、場合によっては、「ニトロPAMI」ということもある)。この材料はニトロ置換の無水フタル酸を芳香族ジアミンと反応させることにより製造できる。
【0040】
上述のように、ビスフェノール化合物の少なくとも1つは、ビスフェノールAであり、ビスフェノール化合物の少なくとも1つは構造IIのようなアリールシアノビスフェノール化合物(本明細書で説明したように種々の置換基を有することができるもの)である。本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)で示されるようにほとんどの場合、ビスフェノール化合物を塩の形態で使用する。
【0041】
ポリエーテルイミド樹脂を形成する反応は通常、1種以上の極性非プロトン性溶剤及び1種以上の芳香族溶剤を含有する溶媒系で行う。好ましい実施形態では、ビスフェノール化合物は溶媒系中で予め混合する。その後、m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を無水環境でビスフェノール混合物に添加する。最終反応が迅速に起こり、ポリエーテルイミドポリマー生成物が反応溶液から沈殿する。ほかの様々な詳細は、本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)及び本明細書の実施例の1つに示されている。
【0042】
ある実施形態では、本発明に用いるポリエーテルイミド樹脂の比誘電率は20℃及び1kHzで約3超である。実施形態によっては、樹脂の比誘電率は20℃及び1kHzで約5超である。さらに、ある実施形態では、本発明の樹脂の誘電正接は約0.01未満である。
【0043】
上述のように、ポリエーテルイミド樹脂を電子デバイス内で膜(フィルム)として用いることが多く、これらの膜を本明細書では「誘電体膜」ということもある。実施形態によっては、ポリエーテルイミド誘電体膜の厚さは約0.05μm〜約20μmの範囲である。特定の例では、誘電体膜の厚さは約0.1μm〜約10μmの範囲であるが、ある最終用途では、誘電体膜の厚さを約50μmのように厚くすることがある。膜の絶縁破壊強度は膜厚に反比例する。したがって、選択される誘電体膜の厚さは、必要なエネルギー密度及び加工の実現性にある程度依存する。
【0044】
膜の絶縁破壊強度は、膜の組成物、膜厚並びに通常、表面欠陥、膜堆積及び表面化学変性として定義される膜質によってある程度制御される。薄い誘電体膜は通常、高い破壊強度値を示し、誘電体膜の破壊強度は膜の厚さを減らすことにより向上することができる。通常、本発明の一般的な実施形態では、約1μm〜約100μmの範囲の厚さをもつ誘電性ポリエーテルイミド膜の破壊強度は、約200kV/mm(直流)以上、ある例では、約500kV/mm以上である。ある実施形態では、誘電体膜の破壊強度は約200kV/mm〜約800kV/mmの範囲である。好ましい実施形態では、誘電体膜の破壊強度は約300kV/mm〜約800kV/mmの範囲である。
【0045】
本発明のある実施形態では、電子物品は、上述のようにキャパシタであり、例えば、本発明の先行技術として援用する米国特許出願公開第2008/0123250号(QiTanら)に記載されている。ほとんどの場合、キャパシタは、誘電体膜及び誘電体膜に取り付けられた少なくとも1つの電極を有する。図1は、キャパシタ10の概略図であり、誘電体膜12が基板14上に堆積されている。誘電体膜12は本発明のポリエーテルイミド樹脂の1つを含有する。誘電体膜12に電極16が取り付けられている(各層は、見やすいように示されており、相対的な厚さを示すものではない)。通常、電極16は導電性ポリマー又は金属の層を有する。一般に用いられる金属には、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、亜鉛及び銅がある。電極層は通常薄く、約50オングストローム〜約500オングストローム程度である。ある実施形態では、キャパシタは多層キャパシタにすることができる。これらの場合、多数の誘電体膜及び電極層を交互に配置して多層構造を形成することができる。様々な種類のキャパシタは、本発明の先行技術として援用する米国特許第7542265号(Tanら)に記載されている。なお、本発明の一般的特徴及び材料が存在すれば、本発明は特定の種類のキャパシタに限定されるものではない。
【0046】
高い比誘電率及び破壊強度値を与える本発明のポリエーテルイミド膜を用いると、比較的高エネルギー密度値をもつキャパシタの設計が容易になる。一実施形態では、キャパシタのエネルギー密度は約2J/cm3以上である。別の実施形態では、キャパシタのエネルギー密度は約5J/cm3以上である。他の実施形態では、キャパシタのエネルギー密度は約10J/cm3以上である。
【0047】
キャパシタは所望により、誘電体膜上に設けた封止層を含む。適当な封止層材料の例には、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエーテルイミド、フルオロポリマー、パリレン、アクリレート、酸化ケイ素、窒化ケイ素及びポリフッ化ビニリデンがあるが、これらに限らない。特定の実施形態では、封止層の厚さは誘電体膜の厚さの約10%未満である。封止層は、表面欠陥を埋めたり、緩和したりするのに有用であり、したがって、膜の破壊強度を向上することができる。
【0048】
本発明の実施形態のポリエーテルイミドポリマーマトリックスは、種々の添加剤及び試薬を含有して特定のデバイス用途のための特性を高めることができる。例としては、強化剤、抑制剤(例えば、酸化抑制剤)及び様々な種類の界面活性剤があるが、これらに限らない。有効な界面活性剤の一例は、フッ素系界面活性剤(通常、非イオン性)であり、これは、湿潤特性及び表面張力を低減する特性を与えるとともに、化学及び熱安定性を高めることができる。市販品にはMasurf(登録商標)の界面活性剤がある。
【0049】
Tanの米国特許第7542265号に記載されているように、捲回型キャパシタが好ましいことがある。図2は、捲回型キャパシタ20の例を示す。このような実施形態では、誘電性ポリマー膜22及び電極層24を捲回してキャパシタを形成する。ある実施形態では、図3に示すように膜及びホイル配置23を用いる。別の実施形態では、同じく図3に示すように金属蒸着膜配置25を用いる。誘電体膜が著しく薄い場合、普通、誘電体膜を図3に示すように支持するためのキャリヤ基板26、例えば膜、薄い金属ホイル又はシリコンウエハの上に堆積する。さらに、キャパシタは上述のように1つ又は2つ以上の封止層28を有することができる(上述のように、電極層24は通常導電性ポリマー又は金属を有することができる。)。上述のように、電極層は通常薄い。
【0050】
多層キャパシタに関する実施形態では、図4は、多数の誘電性ポリマー層32を有するキャパシタ30の例である。誘電性ポリマー層32及び電極層34を交互に配置して多層構造を形成することができる。これらの実施形態では、多層構造を基板36上に設けることが多い。
【0051】
電子デバイスに使用するポリエーテルイミドポリマーの製造や使用の一般的な方法は当業者に既知である。通常、まずポリマーを適当な溶剤に溶解して溶液を調製する。種々の要因、例えば沸点及びポリマーをデバイスに組み込む方法に基づいて多くの種類の溶剤を用いることができる。溶剤には、塩化メチレン、クロロホルム、o−ジクロロベンゼン(ODCB)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ベラトロール(1,2−ジメトキシベンゼン)、ニトロメタン及びこれらの溶剤の様々な組合せがあるが、これらに限らない。
【0052】
米国特許第7542265号に記載されているように、ポリマーを含有する溶液を基板上に被覆して誘電性ポリマー膜を形成することができる。適当な被覆方法の例には、テープキャスティング、ディップ被覆、スピン被覆、化学蒸着、溶融押出、物理蒸着、例えばスパッタリングがあるが、これらに限らない。好ましい実施形態では、テープキャスティング法によって膜を設ける。膜厚が非常に薄い場合、溶液系の被覆方法、例えばスピン被覆又はディップ被覆を用いることができる。一実施形態では、スピン被覆法によって膜を設けることが好ましい。Tanらの特許に記載されているように、キャパシタ形成の追加の工程には、既知の方法によるパッケージング工程及び電気端子を設ける工程がある。
【0053】
本発明の高エネルギー密度のキャパシタは、多数の陸上及び宇宙用途に魅力的である。特に魅力的であるのは、パルスパワー用途、例えば電気装甲、電動ガン、粒子ビーム加速器、高出力のマイクロ波源及び弾道ミサイル用途である。通信デバイスも高性能キャパシタから利益をえることができ、例としては携帯電話及びページャがある。さらに、小型、軽量、高信頼性などの別の属性を考慮すると、これらのキャパシタは、電動パワーステアリング、触媒コンバーターの予熱、電動エアコンなどを含むハイブリッド電気自動車にも適している。
【0054】
キャパシタを具体例としたが、本発明は、多くの別のデバイス及び別の種類の物品の形態で用いることができる。多くの例では、変性ポリエーテルイミドの優れた特性は上記の薄膜の形態で発現されるが、別の形状及び寸法(例えば、厚さ)の樹脂も可能である。本発明は、センサ、バッテリー、フレキシブルプリント回路基板、キーボードメンブレン、モーター/変圧器の電気絶縁材、ケーブル被覆材、工業用テープ又は内装材の実施形態をとることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明の特定の実施形態をさらに説明する。これらの実施例はいかなる意味でも本発明を限定するためのものではない。
【0056】
実施例1
4つの試料を種々の電気及び機械特性について評価した。
【0057】
試料1は、SABIC Innovative Plastics社からUltem(登録商標)1000にて市販されているポリエーテルイミド樹脂であった。
【0058】
試料2は、メチルシアノ変性ポリエーテルイミド樹脂であり、下記の試料4のところで説明する方法にしたがってm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を以下のメチルシアノビスフェノール化合物(IV)の塩と反応させることにより製造した。得られたポリマーの分子量は46,000であった。
【0059】
【化6】

【0060】
試料3は、シアノ基を有する変性ポリエーテルイミド樹脂であった。この試料は、本発明の先行技術として援用する米国特許第5357033号(Bendlerら)の実施例2で製造した材料に類似していた(Bendlerの特許ではこの材料を「シアノメチル双極性基」を有するポリエーテルイミドということがある。)。試料は、m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を以下のシアノビスフェノール化合物(V)の塩と反応させることにより製造した。得られたポリマーの分子量は42,000であった。
【0061】
【化7】

【0062】
試料4は、本発明の実施形態の変性ポリエーテルイミド樹脂であった。この試料は、本出願人の同日付け出願(整理番号241840−2)に記載されている通りに製造した。ドライボックス中の機械式攪拌機を備えた2リットルの三つ口丸底フラスコに81.702g(0.3009モル)のビスフェノールAの二ナトリウム塩及び35.989g(0.10015モル)の以下に示したアリールシアノビスフェノール二ナトリウム塩(VI)を量り入れた。
【0063】
【化8】

【0064】
乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(Aldrich社Sure−sealボトル入り)で塩を反応容器に洗い入れた。合計460mlのDMSOを添加した。次に容器に50mlの乾燥トルエン(4Åのモレキュラーシーブで乾燥)を添加した。反応容器に栓をし、ドライボックスから取り出した。その後、温度を126℃に設定した油浴に反応容器を入れた。反応容器に窒素導入管と背圧バブラーを有する冷却器/受器とを取り付けた。攪拌した混合物はすぐに透明な溶液になり、約4時間かけて、トルエンを容器から蒸留除去した。
【0065】
油浴の温度を79℃に下げ、油浴を反応フラスコから外し、反応混合物を放冷した。その後、フラスコに栓をし、ドライボックスに戻した。容器を約1.5時間放冷したが、すべての塩はまだ溶解していた。次に、ビス(4−ニトロフタルイミド)を秤量した(183.443g、0.40023モル)。この固体材料を反応容器に注意深く移し、別に270mlの乾燥DMSOを用いてビス(4−ニトロフタルイミド)を反応容器中にすすぎ入れた。反応容器に栓をし、ドライボックスから取り出した。その後、反応容器を油浴に再び浸けて79℃に保った。窒素導入管を冷却器/受器とともに再び取り付けた。攪拌機をゆっくりと作動させ、反応が進むにつれて攪拌速度をゆっくり上げた。
【0066】
反応は迅速に16〜18分間で起こり、ポリマーが大きな固体の塊として沈殿したときに反応を停止させた。少量の低分子量ポリマー及び副生物の亜硝酸ナトリウムのほとんどを含有するDMSO溶液を容器から注ぎ出した。その後、得られたポリマーの塊をクロロホルムに溶解させ、6.0mlの酢酸で奪活した。次に、1.5μmのガラス繊維フィルターで溶液を濾過して、微量の吸蔵亜硝酸ナトリウムを除去した。その後、ポリマーを高速ブレンダーを用いてメタノール溶液中で沈殿させた。ポリマーのGPC分子量はMw64,889、Mn22,834であった。Tg235℃。収量225g。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、すべての試料は、許容レベルの強度及び柔軟性を示し、目視により亀裂又は別の劣化の形跡は認められなかった。しかし、本発明の材料に基づいた試料4は、非常に高いTg値を示し、他のデバイスより高温で用いたり、組み立てたりする電子デバイスへのこの材料の使用を可能にした。さらに、試料4の低い誘電正接(dissipation loss factor)Dfは、ここで示したキャパシタなどの種々のデバイスに非常に重要な高密度値をもたらすことができる。
【0069】
図5は、本発明のポリエーテルイミド樹脂に対して周波数及び温度の関数として比誘電率値(ある例では複素誘電率の非常に重要な特徴)をプロットしたものである。図は、周波数及び温度の広い範囲でアリールシアノ変性のポリエーテルイミドが4.7超の比誘電率を維持することを示す。さらに、ポリエーテルイミドの誘電応答の周波数分散は非常に小さい。換言すれば、誘電応答は、広い周波数範囲で比較的一定のままである。この種の安定性は、多くの電気及び電子用途にとって非常に有利になることがある。
【0070】
実施例2
試料5〜8は、ビスフェノールA及びアリールシアノビスフェノール(即ち、各々の塩)の比率を変えた以外は試料4の上記方法と同様に製造した。試料の膜(平均膜厚約5〜25μm)を形成した後、表2に示す特性を測定した(測定値における実施例1との相違は、用いた試料組成及び/又は試験手順のわずかな違いによるものである。)
【0071】
【表2】

【0072】
試料5〜8のデータは、2つのビスフェノールモノマーの比を変えた場合の誘電率、誘電損失及び破壊強度の変化を示す。しかし、あるレベルのアリールシアノモノマーを用いる利点がすべての例で明らかである。ある実施形態では、約25モル%のアリールシアノモノマー、即ち25モル%付近の範囲を用いることが好ましい。
【0073】
本発明を特定の実施形態について説明したが、このような実施形態は、本発明の具体例にすぎず、いかなる意味でも本発明を限定するためのものではない。したがって、本発明の要旨及び特許請求の範囲内で変更が可能であることは明らかである。さらに、上記のすべての特許文献、非特許文献は本発明の先行技術として本明細書に援用する。
【符号の説明】
【0074】
10 電子物品
12 誘電体膜
14 基板
16 電極
20 キャパシタ
22 誘電性ポリマー膜
24 電極層
26 基板
28 封止層
30 キャパシタ
32 誘電性ポリマー層
34 電極層
36 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iの繰返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂を含有する電子物品(10)。
【化1】

【請求項2】
ポリエーテルイミド樹脂が少なくとも1つの薄膜(12)の形態である、請求項1記載の電子物品(10)。
【請求項3】
キャパシタ、センサ、バッテリー、フレキシブルプリント回路基板、キーボードメンブレン、モーター/変圧器の電気絶縁材、ケーブル被覆材、工業用テープ又は内装材を含む、請求項1記載の電子物品(10)。
【請求項4】
ポリエーテルイミド樹脂が次の式のものである、請求項1記載の電子物品(10)。
[A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造のものであり、
【化2】

Bは次の構造のものである。
【化3】

【請求項5】
(a)次の式Iの繰返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂で形成された誘電体膜(12)と、
【化4】

(b)誘電体膜(12)の第1表面に取り付けられた少なくとも1つの電極(16)と
を備えるキャパシタ(10)。
【請求項6】
ポリエーテルイミド樹脂が次の式のものである、請求項5記載のキャパシタ(10)。 [A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造のものであり、
【化5】

Bは次の構造のものである。
【化6】

【請求項7】
誘電体膜(12)を形成するポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が約220℃超である、請求項6記載のキャパシタ(10)。
【請求項8】
ポリエーテルイミド樹脂が約500kV/mm以上の破壊強度及び約3超の比誘電率を有する、請求項6記載のキャパシタ(10)。
【請求項9】
エネルギー密度が約2J/cm3以上である、請求項6記載のキャパシタ(10)。
【請求項10】
誘電体膜(22)及び電極(24)を捲回して捲回型キャパシタを形成する、請求項6記載のキャパシタ(20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−80099(P2012−80099A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−213596(P2011−213596)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】