説明

ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いた種子包装体

【課題】種子を長尺のPVA系重合体フィルムで包んでなり発芽力の弱い種子でも良好な発芽率を示すことのできる種子包装体、および、当該種子包装体に使用される長尺のPVA系重合体フィルムを提供すること。
【解決手段】種子を長尺のPVA系重合体フィルムで包んでなる種子包装体であって、当該PVA系重合体フィルムは、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、種子包装体、および、種子を包んで種子包装体とするための長尺のPVA系重合体フィルムであって、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、PVA系重合体フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子をポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)系重合体フィルムで包んでなる、野菜等の種子の播種に好適に用いられる種子包装体、および、当該種子包装体に使用されるPVA系重合体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜等の種子を水溶性や生分解性を有する長尺のフィルムあるいは多孔性シートで包装して帯状(テープ状や小袋が連なった形状を含む)や紐状の種子包装体とし、これを、畑に代表される農地などの土の上に配置し、必要に応じて上から土をかぶせることにより種子を播種する方法が知られている(例えば、特許文献1〜4などを参照)。当該播種方法では、灌漑や降雨により土中へ浸透するなどした水によってフィルムや多孔質シートが溶解(解体)したり、あるいは、土中のバクテリアによってフィルムや多孔性シートが分解されたりすることにより、封入された種子が露出し成長(発芽)する。このような種子包装体を用いれば、特別な装置や技能がなくても単位面積あたりに播く種子の数や間隔を一定にすることができるため、過剰な種子を播くことによる種子の無駄や間引きの手間を解消することができ、逆に、播く種子数の不足による農地の非効率的な運用を防止することができる。上記フィルムの素材としては、水溶性および生分解性というユニークな特徴を有するPVA系重合体が使用されている。
【0003】
従来、上記のような種子の包装用途に使用されるPVA系重合体フィルムは土中の水により速やかに溶解することが重要と考えられ、このような観点から、例えば、けん化度の異なる2種類のPVAをブレンドしてなる良好な水溶性を示すPVA系重合体フィルムが提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭38−21220号公報
【特許文献2】特公昭40−25841号公報
【特許文献3】実公昭45−8659号公報
【特許文献4】実開昭52−104818号公報
【特許文献5】特開2002−275339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、アブラナ科の植物の種子等のように、種子のサイズが比較的小さく発芽力の弱い種子については、上記の技術を用いても十分な発芽率(播いた種子の数に対する、正常に発芽した芽の数の割合)が得られないことがあり、種子が無駄になったり播種された種子が発芽せず農地を効率的に運用できないことがあった。そのため、発芽力の弱い種子でも良好な発芽率を示す種子包装体が求められていた。
【0006】
そこで本発明は、種子を長尺のPVA系重合体フィルムで包んでなり発芽力の弱い種子でも良好な発芽率を示すことのできる種子包装体、および、当該種子包装体に使用される長尺のPVA系重合体フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、水に対する溶解性と水面に浮かべた時の収縮率がそれぞれ特定の範囲にある長尺のPVA系重合体フィルムを用いることにより上記目的が達成されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]種子を長尺のPVA系重合体フィルムで包んでなる種子包装体であって、当該PVA系重合体フィルムは、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、種子包装体、
[2]前記PVA系重合体フィルムが、PVA系重合体(A)100質量部に対してデンプン(B)および無機物粉体(C)のうちの少なくとも1種を1〜30質量部含む、上記[1]の種子包装体、
[3]前記無機物粉体(C)が、タルク、シリカ、二酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[2]の種子包装体、
[4]前記種子が、アブラナ科の植物の種子である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの種子包装体、
[5]種子を包んで種子包装体とするための長尺のPVA系重合体フィルムであって、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、PVA系重合体フィルム、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発芽力の弱い種子でも良好な発芽率を示すことのできる種子包装体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の種子包装体は種子を長尺のPVA系重合体フィルムで包んでなる。当該PVA系重合体フィルムを構成するPVA系重合体(A)としては、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0011】
上記のビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステル系モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0012】
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル系重合体は、これらの他のモノマーのうち、1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0013】
上記のビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0014】
PVA系重合体(A)の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、400以上であることがさらに好ましく、500以上であることが特に好ましい。また、重合度が高すぎると水溶性が低下する傾向があることから、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが特に好ましい。なお本明細書におけるPVA系重合体の重合度とは、JIS K6726−1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA系重合体(A)の重合度は、PVA系重合体(A)を再けん化し精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求めることができる。
Po = ([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0015】
本発明において、PVA系重合体フィルムは常温以下の温度で水に溶解可能である必要があることから、PVA系重合体(A)のけん化度は95モル%以下であることが好ましい。けん化度が95モル%を超えると、PVA系重合体フィルムの水溶性が不十分になるおそれがある。PVA系重合体(A)のけん化度は、93モル%以下であることがより好ましく、91モル%以下であることがさらに好ましい。また、PVA系重合体(A)のけん化度は、65モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがさらに好ましい。ここでPVA系重合体(A)のけん化度は、PVA系重合体(A)が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVA系重合体(A)のけん化度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。なお、後述するようにPVA系重合体(A)が2種以上のPVA系重合体のブレンド物である場合には、上記けん化度は当該2種以上のPVA系重合体のブレンド物全体を基準として求められる。
【0016】
PVA系重合体フィルムを構成するPVA系重合体(A)は1種類のPVA系重合体のみからなっていてもよいし、重合度、けん化度、変性の種類や変性量などが互いに異なる2種以上のPVA系重合体のブレンド物であってもよい。特に、重合度が互いに異なる2種以上のPVA系重合体のブレンド物である場合において、当該2種以上のPVA系重合体のうちの少なくとも2種のPVA系重合体の重合度の差が800以上あると、理由は定かではないが、1種類のPVA系重合体のみからなる場合と比較して種子の発芽率が向上する傾向があり、好ましい。
【0017】
PVA系重合体フィルムが上記PVA系重合体(A)100質量部に対してデンプン(B)および無機物粉体(C)のうちの少なくとも1種を1〜30質量部含むと、種子の発芽率を向上させることができ好ましい。詳細は必ずしも明らかではないが、これはPVA系重合体フィルムが土中で溶解する際に容易に崩壊して、種子の回りに残留するPVA系重合体フィルムの量が少なくなるためと推測される。デンプン(B)および無機物粉体(C)のうちの少なくとも1種の含有量がPVA系重合体(A)100質量部に対して1質量部未満の場合は、上記の効果を十分に得られないことがある。この観点で、デンプン(B)および無機物粉体(C)の少なくとも1種の含有量は、PVA系重合体(A)100質量部に対して2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましい。また、デンプン(B)および無機物粉体(C)のうちの少なくとも1種の含有量がPVA系重合体(A)100質量部に対して30質量部を超える場合は、PVA系重合体フィルムの強度や柔軟性が損なわれたり、PVA系重合体フィルムの製膜中にピンホールなどの欠点を生じやすくなるおそれがある。この観点から、デンプン(B)および無機物粉体(C)の少なくとも1種の含有量は、PVA系重合体(A)100質量部に対して20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。
【0018】
上記のデンプン(B)としては、例えば、とうもろこしデンプン、ばれいしょデンプン等の天然デンプン;エーテル化デンプン、エステル化デンプン、架橋デンプン、グラフト化デンプン、培焼デキストリン、酵素変性デキストリン、アルファ化デンプン、酸化デンプン等の変性デンプンなどが挙げられる。デンプン(B)は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、価格・入手性の観点から天然デンプンが好ましい。
【0019】
上記の無機物粉体(C)としては、例えば、タルク、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、グラスファイバー、マイカ、ワラストナイトなどが挙げられる。無機物粉体(C)は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、PVA系重合体中の分散性・価格・入手性・フィルム外観などの観点から、タルク、シリカ、二酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0020】
デンプン(B)と無機物粉体(C)とは、どちらか一方を用いてもよいし、両方を併用してもよいが、どちらか一方を用いる場合には、デンプン(B)に比べ無機物粉体(C)の方が、より少ない量で種子の発芽率を向上させることができることから好ましい。
【0021】
PVA系重合体フィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがあり、それらの問題を防止するために、PVA系重合体フィルムに可塑剤(D)を含有させることが一般的に行われている。加えて、この可塑剤(D)の種類と量を適切に選択すれば、PVA系重合体フィルムの水に対する溶解性を制御することができる。
【0022】
上記可塑剤(D)としては多価アルコールを好ましく使用することができる。当該多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの可塑剤(D)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、PVA系重合体との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
【0023】
PVA系重合体フィルムにおける可塑剤(D)の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して1〜30質量部の範囲内であることが好ましい。可塑剤(D)の含有量がPVA系重合体100質量部に対して1質量部未満では、上記の効果が十分に得られないおそれがある。この観点で、可塑剤(D)の含有量はPVA系重合体100質量部に対して3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、可塑剤(D)の含有量がPVA系重合体100質量部に対して30質量部を超える場合は、可塑剤(D)がPVA系重合体フィルムの表面にブリードアウトしたり、PVA系重合体フィルムが柔軟になりすぎて取り扱い性が低下したりする場合がある。この観点で、可塑剤(D)の含有量はPVA系重合体100質量部に対して25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0024】
PVA系重合体フィルムを後述するように水などの液体媒体を用いて製膜する際、液体媒体の含有率が高い状態の時にPVA系重合体フィルムが製膜装置に付着しやすい傾向があり、それに起因する膜面欠陥などの問題を生じることがある。また、一般にPVA系重合体フィルム同士のスリップ性は、他のプラスチックフィルムに比べて良くないため、ロール形状に巻き取る時などにシワが発生したり、あるいは種子を包む時の工程通過性に問題を生じたりするおそれがある。それらの問題を防止するために、PVA系重合体フィルムあるいはPVA系重合体フィルムの製膜に使用される製膜原液に界面活性剤(E)を含有させることが好ましい。使用される界面活性剤(E)の種類に特に制限はないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0025】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの界面活性剤の中でも、製膜時の膜面異常の低減効果に優れることから、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0026】
PVA系重合体フィルムあるいはPVA系重合体フィルムの製膜に使用される製膜原液における界面活性剤(E)の含有量は、PVA系重合体(A)100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.7質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01〜0.5質量部の範囲内であることがさらに好ましい。上記含有量が0.001質量部より少ないと製膜時の膜面異常の低減効果が現れにくく、1質量部より多いとPVA系重合体フィルムの表面に溶出して逆にブロッキングの原因になるおそれがある。
【0027】
PVA系重合体フィルムには、上述のPVA系重合体(A)、デンプン(B)、無機物粉体(C)、可塑剤(D)、界面活性剤(E)以外の他の成分を、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、肥料(種子の成長に有効な成分)、農薬、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。PVA系重合体フィルム中に占める上記他の成分の含有率は、当該他の成分の種類にもよるが、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
PVA系重合体フィルムは長尺である限りそのサイズに特に制限はなく種子包装体の使用形態などによって種々変更することができるが、種子を包装する直前の状態(後述するようにPVA系重合体フィルムを半分の幅に折る場合には折る前の状態)において、フィルムの長さを幅で除して得られる値が5以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。上記値の上限に特に制限はないが、当該値は1,000,000以下であることが好ましい。PVA系重合体フィルムの幅は、種子の種類や包装方法、種子包装体の使用形態などによっても異なるが、例えば、種子を包装する直前の状態において、0.5〜20cmの範囲内であることが好ましく、1〜10cmの範囲内であることがより好ましい。またPVA系重合体フィルムの長さは、30cm以上であることが好ましく、1m以上であることがより好ましい。PVA系重合体フィルムの長さの上限に特に制限はないが、当該長さは10,000m以下であることが好ましい。
【0029】
PVA系重合体フィルムの厚みに特に制限はないが、厚みが厚いほど水溶性が低下する傾向にあり、この観点から厚みは50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。また厚みがあまりに薄い場合、PVA系重合体フィルムのハンドリング性や強度に問題が生じるおそれがあることから、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。なお、PVA系重合体フィルムの厚みは任意の10箇所(例えば、PVA系重合体フィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0030】
本発明において、PVA系重合体フィルムを5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒の範囲内にあることが必要である。当該溶解時間が5秒未満のPVA系重合体フィルムの場合、ロール状に巻いたPVA系重合体フィルムでブロッキングを生じたり、あるいは種子をPVA系重合体フィルムで包む際にハンドリングが難しくなるなどの問題を生じやすい。この観点で、上記溶解時間は7秒以上であることが好ましく、9秒以上であることがより好ましい。一方、上記溶解時間が30秒を超える場合、アブラナ科の植物の種子等のように、種子のサイズが比較的小さく発芽力の弱い種子では十分な発芽率が得られないおそれがある。この観点で、上記溶解時間は20秒以下であることが好ましく、18秒以下であることがより好ましく、16秒以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明において、PVA系重合体フィルムを5℃の水に浸漬した時の溶解時間は、以下のようにして測定することができる。
<1>種子包装体を解体するなどして得られた、測定対象となる長尺のPVA系重合体フィルムを20℃−65%RHに調整した恒温恒湿器に16時間以上置いて、調湿する。
<2>調湿したフィルムから、長さ40mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出し、50mm×50mmのプラスチック板に長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)を開けたもの2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつサンプルが窓の幅方向ほぼ中央に位置するように挟み込んで固定する。
<3>500mlのビーカーに300mlの水を入れ、回転数280rpmで3cm長のバーを備えたマグネティックスターラーで攪拌しつつ、水温を5℃に調整する。
<4>上記<2>においてプラスチック板に固定したサンプルをマグネティックスターラーのバーに接触させないように注意しながら、ビーカー内に浸漬する。
<5>水に浸漬してから、水中に分散したサンプル片が完全に消失するまでの時間を測定する。
【0032】
上記の溶解時間は、使用するPVA系重合体(A)の種類(重合度、けん化度、変性の種類や変性量など)、フィルムの厚み、可塑剤(D)などの添加剤の種類と量、製膜方法やその条件などを適宜調整することによって容易に上記範囲とすることができる。具体的には、例えば、使用するPVA系重合体(A)において、重合度を下げる;けん化度を下げる;変性種(上記したビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーに由来する構造単位の種類)としてより親水性のものを採用する;その変性量を多くするなどすることによって、あるいは、PVA系重合体フィルムの厚みを薄くする;可塑剤(D)としてより親水性のものを採用する;可塑剤(D)の含有量を増やす;フィルムへの熱処理条件を弱めるなどすることによって、上記の溶解時間を短くすることができる。
【0033】
また、PVA系重合体フィルムを20℃の水面に浮かべた時の、PVA系重合体フィルムの長さ方向(長尺のPVA系重合体フィルムの長手方向)の収縮率が15%以下であることが、特に発芽率の観点から重要である。詳細は必ずしも明らかではないが、これはPVA系重合体フィルムが土中で溶解し始める時に、PVA系重合体フィルムの収縮率が大きいと種子の周りにPVA系重合体が凝集・残留して、種子の発芽を阻害するためと推測される。この観点で、上記の収縮率は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明において、PVA系重合体フィルムを20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率は、以下のようにして測定することができる。
<1>種子包装体を解体するなどして得られた、測定対象となる長尺のPVA系重合体フィルムを20℃−65%RHに調整した恒温恒湿器に16時間以上置いて、調湿する。
<2>調湿したフィルムから、長さ150mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出す。
<3>水面が15cm×20cm以上の面積になるように容器に水を5〜10cmの深さに張り、20℃の室内に置いて水温が20℃になるまで放置する。
<4>20℃の水面上に、上記したサンプルを折れ曲がらないようにしながら静かに浮かべる。
<5>水面に浮かべてからサンプルが溶解するまでの間の時間において、サンプルの150mmの辺が一番短くなった時の当該辺の長さ(以下、「最小の長さ」ということがある)を測定する。なお、サンプルを水面に浮かべてから溶解するまでにサンプルが曲がった場合は、150mmの辺の両端を構成する頂点間の直線距離(2つあるうちの短い方)を辺の長さとする。得られた最小の長さと水面に浮かべる前の長さ(150mm)とから、以下の式によって収縮率を算出する。
収縮率(%) = 100 × ([水面に浮かべる前の長さ]−[最小の長さ])/[水面に浮かべる前の長さ]
なお、水面に浮かべた時にサンプルが収縮せずに広がる場合には上記収縮率は0%とする。
【0035】
本発明において、PVA系重合体フィルムを製造するための具体的な方法としては、例えば、PVA系重合体(A)と必要に応じて上記したデンプン(B)、無機物粉体(C)、可塑剤(D)、界面活性剤(E)および他の成分のうちの少なくとも1種を水などの液体媒体に溶解および/または分散してなる製膜原液を使用する、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVA系重合体フィルムを得る方法)、またはこれらを組み合わせた製膜方法や、あるいは、水などの液体媒体を含浸させたPVA系重合体(A)と必要に応じて上記したデンプン(B)、無機物粉体(C)、可塑剤(D)、界面活性剤(E)および他の成分のうちの少なくとも1種を押出機などに供給して溶融し、得られた製膜原液をTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法など、任意の方法を採用することができる。これらの中でも、流延製膜法および溶融押出製膜法が、透明性が高く着色の少ないPVA系重合体フィルムが得られることから好ましい。
【0036】
上記製膜原液の揮発分濃度(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50〜90質量%の範囲内であることが好ましく、55〜80質量%の範囲内であることがより好ましい。揮発分濃度が50質量%未満であると、粘度が高くなり製膜が困難になる場合がある。一方、揮発分濃度が90質量%を超えると、粘度が低くなり得られるPVA系重合体フィルムの厚み均一性が損なわれることがある。
【0037】
上記の製膜原液の調製方法に特に制限はなく、例えば、水などの液体媒体にPVA系重合体(A)を溶解させ、必要に応じて上記したデンプン(B)、無機物粉体(C)、可塑剤(D)、界面活性剤(E)および他の成分のうちの少なくとも1種を添加する方法や、押出機を使用して水などの液体媒体を含浸させたPVA系重合体(A)を溶融混練し、必要に応じて上記したデンプン(B)、無機物粉体(C)、可塑剤(D)、界面活性剤(E)および他の成分のうちの少なくとも1種を共に溶融混練する方法などが挙げられる。これらの中でも前者の方法が、使用した各成分の均一な溶解および/または分散の観点などから好ましい。
【0038】
上記の製膜原液を使用して流延製膜法または溶融押出製膜法によりPVA系重合体フィルムを製膜する場合、製膜装置の各工程を通過するに従い流延されたまたは押出された膜の水分率が徐々に低下して、最終的に乾燥されたフィルム形態に成形加工されるが、この時の加工条件は、得られたPVA系重合体フィルムを20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率に影響を与える。
【0039】
すなわち、一般にフィルムの製膜工程ではフィルムの搬送ロールでの蛇行や、巻き取り工程でのシワなどの問題を回避するために、フィルムに一定の張力をかけるが、この張力が過大な場合、あるいは溶融押出製膜法におけるインフレ製膜や意図的な一軸あるいは二軸延伸フィルムの製膜などの場合、製膜後のフィルムに残留応力を生じ、水面に浮かべた時のフィルムの収縮率が高くなる。
【0040】
そのため、例えば、流延製膜法または溶融押出製膜法によって連続的にPVA系重合体フィルムを製造する場合に、ダイスから製膜原液が吐出される支持体(キャストロールやベルトなど)における膜の速度に対する最終的に製膜されたPVA系重合体フィルムの巻き取り速度の倍率(延伸倍率)が1.5倍以下であることが、長さ方向の収縮率が上記範囲内にある長尺のPVA系重合体フィルムを効率的に得ることができ好ましい。連続的に製造しない場合においても、長尺のPVA系重合体フィルムにおいて長さ方向となる方向への延伸倍率(延伸前の長さに対する延伸後の長さの倍率)が1.5倍以下であることが、長さ方向の収縮率が上記範囲内にある長尺のPVA系重合体フィルムを効率的に得ることができ好ましい。長尺のPVA系重合体フィルムにおいて長さ方向の収縮率をより効率的に上記範囲内にすることができることから、上記延伸倍率は1.3倍以下であることがより好ましく、1.1倍以下であることがさらに好ましく、実質的に1.0倍であることが特に好ましい。
【0041】
また、製膜後のフィルムに適度な熱処理を加えることは、フィルムに残留する収縮応力を緩和することができるため好ましい。但し、過剰な熱処理を行った場合、フィルムの水溶性が低下するおそれがあることから、熱処理温度は50〜160℃の範囲内であることが好ましく、60〜150℃の範囲内であることがより好ましく、70〜140℃の範囲内であることがさらに好ましい。熱処理時間は、熱処理温度にもよるが、熱処理を効率的に行うことができるとともに、水溶性の低下が小さくて劣化の少ないPVA系重合体フィルムを効率的に得ることができることから、0.1〜300秒の範囲内であることが好ましく、0.2〜250秒の範囲内であることがより好ましく、0.5〜200秒の範囲内であることがさらに好ましい。
【0042】
上記のようにして製膜されたPVA系重合体フィルムを一定幅にスリットしてテープ状のPVA系重合体フィルム(長尺のPVA系重合体フィルム)にした後、当該テープ状のPVA系重合体フィルムで種子を包むことにより種子包装体とすることができる。種子の包み方に特に制限はないが、例えば、当該テープ状のPVA系重合体フィルムを(長手方向に)半分の幅に折って、できた谷間部分に一定間隔に種子を置いていき、種子が封入されるようにPVA系重合体フィルムを捩る方法;テープ状のPVA系重合体フィルム上に一定間隔に種子を置いていき、種子が封入されるようにテープ状のPVA系重合体フィルムを筒状に丸め、強度向上や加工性の向上のため生分解性糸などの糸をさらに絡ませる方法;2枚のテープ状のPVA系重合体フィルムの間に一定間隔で種子を置いていき、接着剤等で2枚のテープ状のPVA系重合体フィルムを固定することにより種子を挟み込む方法など、公知の方法を採用することができる。これらの方法によって、帯状または紐状の種子包装体を得ることができる。
【0043】
本発明において包装される種子の種類に特に制限はないが、アブラナ科の植物の種子等のように、種子のサイズが比較的小さく発芽力が弱いために、発芽を阻害する要因が存在した場合に発芽率の低下に繋がりやすい種子において本発明の効果が特に顕著に奏されることから、当該種子はアブラナ科の植物の種子であることが好ましい。アブラナ科の植物としては、例えば、アブラナ、ミズナ、カブ、ノザワナ、コマツナ、パクチョイ、チンゲンサイ、ハクサイ等が挙げられる。また、本発明において使用される種子は、ニンジンなど、アブラナ科以外の植物であってもよい。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例および対照例において採用された、5℃の水に浸漬した時の溶解時間、および、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率の各測定方法を以下に示す。
【0045】
5℃の水に浸漬した時の溶解時間
以下の実施例、比較例または対照例で得られた種子包装用フィルムを20℃−65%RHに調整した恒温恒湿器に20時間置いて調湿した。調湿したフィルムから、長さ40mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出し、50mm×50mmのプラスチック板に長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)を開けたもの2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつサンプルが窓の幅方向ほぼ中央に位置するように挟み込んで固定した。
一方、500mlのビーカーに300mlの水を入れ、回転数280rpmで3cm長のバーを備えたマグネティックスターラーで攪拌しつつ、水温を5℃に調整しておき、上記したプラスチック板に固定したサンプルをマグネティックスターラーのバーに接触させないように注意しながら、ビーカー内に浸漬した。水に浸漬してから、水中に分散したサンプル片が完全に消失するまでの時間を測定し、これを溶解時間とした。
【0046】
20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率
以下の実施例、比較例または対照例で得られた種子包装用フィルムを20℃−65%RHに調整した恒温恒湿器に20時間置いて調湿した。調湿したフィルムから、長さ150mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出した。
一方、水面が15cm×20cm以上の面積になるように容器に水を8cmの深さに張り、20℃の室内に置いて水温が20℃になるまで放置しておき、その後、水面上に、上記したサンプルを折れ曲がらないようにしながら静かに浮かべた。水面に浮かべてからサンプルが溶解するまでの間の時間において、サンプルの150mmの辺が一番短くなった時の当該辺の長さ(最小の長さ)を測定した。得られた最小の長さと水面に浮かべる前の長さ(150mm)とから、以下の式によって収縮率を算出した。
収縮率(%) = 100 × ([水面に浮かべる前の長さ]−[最小の長さ])/[水面に浮かべる前の長さ]
なお、水面に浮かべた時にサンプルが収縮せずに広がった場合には上記収縮率は0%とした。
【0047】
[対照例1]
20cm×70cmのプラスチック製プランターに培養土を入れ、プランターの長手方向に深さ約6mmの溝を3本掘った。溝の間隔は約5cmであった。この溝にカブの種子(タキイ種苗株式会社製:カブ・耐病ひかり)を、そのまま約5cm間隔で置いて、種子の上に軽く土をかけた。種子の数は溝1本当たり12個であった。従って、プランター1つ当りの種子の数は36個である。このプランターを2つ準備して、4月1日より23℃に温調した部屋の東側の窓際に置き、毎日適量の水をやった。2週間後に、発芽している種子の数を数えたところ、70個であった。従って、発芽率は97%である。
【0048】
[実施例1]
重合度1700、けん化度88.5モル%のPVA(ポリ酢酸ビニルのけん化物)のチップ100質量部、タルク(平均粒径80μm)10質量部、グリセリン14質量部および界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド)0.1質量部を、室温で900質量部の脱イオン水中に入れ、ウォーターバスを用いて90℃まで攪拌しながら昇温し、90℃に達してから2時間攪拌して、PVA水溶液を作製した。このPVA水溶液を表面温度60℃の金属ロール(表面を硬質クロムメッキで鏡面処理した物)の上に流延し、そのまま30分間保持して乾燥し、フィルムに製膜した。このフィルムを、張力をかけないようにしながら金属枠にクリップで固定し、熱風乾燥機中で120℃、2分間の熱処理を行い、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
得られたPVAフィルムをフィルム長さ(製膜方向の長さ)350mm×フィルム幅15mmのサイズにカットして種子包装用フィルムとし、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定した。結果を表1に示した。なお、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率の測定において、フィルムは全く収縮せずに溶解した。
【0049】
上記と同様にして得られた別の種子包装用フィルム(フィルム長さ350mm×フィルム幅15mm)の15mm幅の中央部付近に、対照例1で使用したのと同じ種子を1個ずつ約5cm間隔で置き(計6個)、種子がこぼれないようにしながら種子包装用フィルムを筒状に丸め、さらにその回りをレーヨンの糸で軽くしばって、長さ約350mmの紐状の種子包装体を作製した。同様のものを12本作製した。次に対照例1と同様に、20cm×70cmのプラスチック製プランターに培養土を入れ、プランターの長手方向に深さ約6mmの溝を約5cm間隔で3本掘り、この溝に作製した種子包装体を、溝1本につき直列に2本置き、上に軽く土をかけた。このプランターを2つ準備して、4月1日より23℃に温調した部屋の東側の窓際に置き、毎日適量の水をやった。2週間後に、発芽している種子の数を数えたところ、66個であった。従って、発芽率は92%である。
【0050】
[実施例2]
実施例1において、重合度1700、けん化度88.5モル%のPVAのチップ100質量部を使用する代わりに、重合度1700、けん化度88.5モル%のPVAのチップ30質量部と重合度500、けん化度88.7モル%のPVAのチップ70質量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例3]
実施例2において、タルクの添加量をPVAチップ100質量部に対して10質量部から4質量部に変更したこと以外は実施例2と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0052】
[実施例4]
実施例1において、タルク、グリセリンおよび界面活性剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0053】
[実施例5]
実施例2において、フィルムの厚みを18μmから12μmに変更したこと以外は実施例2と同様にして、熱処理されたPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0054】
[実施例6]
実施例1において、タルクを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0055】
[実施例7]
実施例1において、熱処理温度を120℃から80℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0056】
[実施例8]
実施例1において、タルク10質量部の代わりにシリカ(平均粒径30μm)10質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0057】
[実施例9]
実施例1において、タルク10質量部の代わりにとうもろこしデンプン(平均粒径70μm)10質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、フィルムの厚みを18μmから60μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、熱処理されたPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0059】
[比較例2]
実施例1において、重合度1700、けん化度88.5モル%のPVAのチップ100質量部を使用する代わりに、重合度1300、けん化度93.5モル%のPVAのチップ70質量部と重合度500、けん化度88.7モル%のPVAのチップ30質量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0060】
[比較例3]
実施例2において作製したPVA水溶液を、実施例1と同様に金属ロールの上に流延・乾燥し、厚み35μmのフィルムに製膜した。このフィルムを、フィルムの長手方向(金属ロールの回転方向)に2.0倍の長さに引き伸ばしながら、金属枠にクリップで固定し、熱風乾燥機中で120℃、2分間の熱処理を行った。従って、このフィルムの種子包装用フィルムにおける長さ方向への延伸倍率は2.0倍となる。得られた熱処理されたPVAフィルムの厚みは18μmであった。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0061】
[比較例4]
重合度800、けん化度72.1モル%のPVAのチップ60質量部、重合度2400、けん化度78.4モル%のPVAのチップ40質量部、とうもろこしデンプン(平均粒径70μm)25質量部および可塑剤としてポリエチレングリコール5質量部を、室温で900質量部の脱イオン水中に入れ、実施例1と同様にしてPVA水溶液を作製した。このPVA水溶液を、実施例1と同様に金属ロールの上に流延・乾燥し、厚み30μmのフィルムに製膜した。このフィルムを、フィルムの長手方向(金属ロールの回転方向)に2.0倍の長さに引き伸ばしながら、金属枠にクリップで固定し、熱風乾燥機中で105℃、8分間の熱処理を行った。従って、このフィルムの種子包装用フィルムにおける長さ方向への延伸倍率は2.0倍となる。得られた熱処理されたPVAフィルムの厚みは15μmであった。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0062】
[比較例5]
実施例2において、熱処理温度を120℃から200℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0063】
[実施例10]
重合度1700、けん化度88.5モル%のPVAのチップ30質量部、重合度500、けん化度88.7モル%のPVAのチップ70質量部、タルク(平均粒径80μm)10質量部、グリセリン14質量部および界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド)0.1質量部をドライブレンドした混合物に水170質量部を含浸させ、二軸押出機にて押出温度150℃で溶融混練して、脱泡後、得られたPVA溶融物をTダイから表面温度90℃の金属ロール上に膜状に溶融押出した。金属ロール表面での膜の走行速度(ロール表面での線速度)は5.0m/分であった。この金属ロール上で固化したフィルムは、加熱乾燥された後、105℃で0.5分間の熱処理をされて、巻き取りロールによってロール状に巻き取られた。巻き取りロール上でのフィルムの走行速度は5.5m/分であった。従って、金属ロール上での膜の走行速度に対する巻き取りロール上でのフィルムの走行速度の倍率(延伸倍率)は1.1倍となる。得られた熱処理されたPVAフィルムの厚みは18μmであった。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0064】
[比較例6]
実施例10において、PVA溶融物の金属ロール上への押出量を実施例10の1.6倍にして、巻き取りロール上でのフィルムの走行速度を5.5m/分から9.0m/分に変更したこと以外は実施例10と同様にして、熱処理された厚み18μmのPVAフィルムを得た。この時の金属ロール上での膜の走行速度に対する巻き取りロール上でのフィルムの走行速度の倍率(延伸倍率)は1.8倍となる。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0065】
[実施例11]
実施例2において作製したPVA水溶液を、実施例1と同様に金属ロールの上に流延・乾燥し、厚み29μmのフィルムに製膜した。このフィルムを、フィルムの長手方向(金属ロールの回転方向)に1.6倍の長さに引き伸ばしながら、金属枠にクリップで固定し、熱風乾燥機中で120℃、2分間の熱処理を行った。従って、このフィルムの種子包装用フィルムにおける長さ方向への延伸倍率は1.6倍となる。得られた熱処理されたPVAフィルムの厚みは18μmであった。
このPVAフィルムを用いて、実施例1と同様にして種子包装用フィルムを作製後、上記した方法に従って5℃の水に浸漬した時の溶解時間および20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率を測定するとともに、実施例1と同様にして発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0066】
[対照例2]
比較例3において、カブの種子に代えてトウモロコシの種子(タキイ種苗株式会社製:スイートコーン・キャンベラ90)を使用したこと以外は比較例3と同様にして、発芽した種子の数を調べた。結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、発芽力の弱い種子でも良好な発芽率を示す種子包装体が得られるため、種子の無駄や間引きの手間を解消することができるとともに、播く種子数の不足や播種された種子が発芽しなかったことによる農地の非効率的な運用を防止することができ、結果として、野菜等の作物の生産コストを抑えることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子を長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムで包んでなる種子包装体であって、当該ポリビニルアルコール系重合体フィルムは、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、種子包装体。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムが、ポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対してデンプン(B)および無機物粉体(C)のうちの少なくとも1種を1〜30質量部含む、請求項1に記載の種子包装体。
【請求項3】
前記無機物粉体(C)が、タルク、シリカ、二酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の種子包装体。
【請求項4】
前記種子が、アブラナ科の植物の種子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の種子包装体。
【請求項5】
種子を包んで種子包装体とするための長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムであって、5℃の水に浸漬した時の溶解時間が5〜30秒であり、20℃の水面に浮かべた時の長さ方向の収縮率が15%以下である、ポリビニルアルコール系重合体フィルム。