説明

ポリマーセメントモルタル

【課題】勾配があるところで振動を与えても流れにくく、施工後の表面の平滑性に優れるポリマーセメントモルタルの提供。
【解決手段】(a)最大粒径5mm以下の細骨材、(b)セメント用ポリマー、(c)増粘剤及び(d)セメントを含有し、
成分(a)を少なくとも3つ以上の群に粒径で分け、前記3つ以上の群のうちの連続する3つの群を、第1群、第2群及び第3群としたときに、
第1群、第2群及び第3群の各群の細骨材の含有量が、成分(a)100質量部に対し、いずれも10質量部以上であり、
第2群の細骨材の含有量が、第1群の細骨材の含有量及び第3群の細骨材の含有量よりも、成分(a)100質量部に対し、1質量部以上低いことを特徴とするポリマーセメントモルタル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路橋等では、RC床版の輪荷重による疲労せん断破壊や鋼床版のUリブルート部からの疲労損傷が多数生じており、床版上の舗装の一部を強度の高い材料に置き換えて、床版に作用する力を低減させる対策が講じられている。
このような強度を高める方法として、前述の床版の上面を、鋼繊維補強コンクリート(特許文献1)やポリマーセメントモルタル(特許文献2)で補強する上面増厚工法が知られている。
【0003】
旧コンクリートや鋼板との接着性を高めるために、上面増厚工法で用いるポリマーセメントモルタルには流動性等が、その材料には高い充填性が、それぞれ求められている。
また、このポリマーセメントモルタルは、均一な厚さを得るために、振動締固め等によって施工されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−314992号公報
【特許文献2】特開2008−179995号公報
【特許文献3】特開2008−179993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、勾配のある床版を補強するような場合、振動締固めをするときに与える振動によってポリマーセメントモルタルが勾配下方に流れてしまい、均一な厚みを得るのが難しいばかりでなく、流れ出したモルタルが型枠から溢れ出ることもあった。
一方、振動締固めの時間を短くすると、モルタルが勾配下方に流れる量を抑えることはできるものの、表面の平滑性が十分には得られず、うねりが発生する等の問題があった。
したがって、本発明の課題は、勾配があるところで振動を与えても流れにくく、施工後の表面の平滑性に優れるポリマーセメントモルタルの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、セメント用ポリマー、増粘剤及びセメントに、特定の粒度分布に調整した最大粒径5mm以下の細骨材を含有せしめることにより、勾配があるところで振動を与えても流れにくく、施工後の表面の平滑性に優れるポリマーセメントモルタルが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、(a)最大粒径5mm以下の細骨材、(b)セメント用ポリマー、(c)増粘剤及び(d)セメントを含有し、成分(a)を少なくとも3つ以上の群に粒径で分け、前記3つ以上の群のうちの連続する3つの群を、第1群、第2群及び第3群としたときに、第1群、第2群及び第3群の各群の細骨材の含有量が、成分(a)100質量部に対し、いずれも10質量部以上であり、前記第2群の細骨材の含有量が、前記第1群の細骨材の含有量及び前記第3群の細骨材の含有量よりも、1質量部以上低いことを特徴とするポリマーセメントモルタルを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリマーセメントモルタルは、勾配があるところで振動を与えても流れにくく、施工後の表面の平滑性及び圧縮強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】振動締固め後のモルタルの厚み測定の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリマーセメントモルタルは、上記成分(a)〜(d)を含有する。まず、これら成分について詳細に説明する。
【0011】
<(a)最大粒径5mm以下の細骨材>
成分(a)の最大粒径5mm以下の細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂及び人工軽量骨材等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも、反応性及びコストが低い点で、珪砂が好ましい。
上記細骨材の粒径としては、0.01〜5mmが好ましく、0.05〜5mmがより好ましく、0.05〜3mmが特に好ましい。本発明の粒径は、後記実施例に記載のとおり、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定できる。
【0012】
上記細骨材の含有量としては、流動性、充填性、収縮量及び水和熱の点から、成分(d)100質量部に対し、50〜400質量部が好ましく、100〜350質量部がより好ましく、200〜300質量部が特に好ましい。
【0013】
ここで、本発明においては、上記成分(a)を少なくとも3つ以上の群に粒径で分け、前記3つ以上の群のうちの連続する3つの群を、第1群、第2群及び第3群としたときの、第1群、第2群及び第3群の各群の細骨材の含有量が、成分(a)100質量部に対し、いずれも10質量部以上である。
【0014】
上記粒径で分ける群の数は、3つ以上であるが、流動性及び平滑性の点から、3〜15が好ましく、3〜10がより好ましく、3〜6が特に好ましい。群分けが3つの場合は、粒径の大きい群から第1群、第2群、第3群である。一方、群分けが5つの場合は、粒径の大きい群から1〜5の5つの群のうち、1〜3、2〜4又は3〜5群が、第1群、第2群、第3群である。
【0015】
上記第1群の細骨材の含有量としては、流動性及び平滑性の点から、成分(a)100質量部に対し、15〜50質量部が好ましく、20〜40質量部がより好ましく、20〜30質量部がより好ましく、25〜28質量部が特に好ましい。
【0016】
上記第2群の細骨材の含有量としては、流動性及び平滑性の点から、成分(a)100質量部に対し、10〜25質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましく、12〜18質量部がより好ましく、13.5〜15.5質量部が特に好ましい。
また、第2群の細骨材の含有量は、前記第1群の細骨材の含有量及び前記第3群の細骨材の含有量よりも、1質量部以上低い量であるが、流動性及び平滑性の点から、5〜30質量部低いのが好ましく、10〜20質量部低いのが特に好ましい。
【0017】
上記第3群の細骨材の含有量としては、流動性及び平滑性の点から、成分(a)100質量部に対し、15〜50質量部が好ましく、20〜40質量部がより好ましく、20〜35質量部がより好ましく、28〜35質量部が特に好ましい。
【0018】
上記第1群、第2群及び第3群に含まれる細骨材の粒径の範囲としては、例えば、0.01mm以上0.15mm未満、0.15mm以上0.3mm未満、0.3mm以上0.6mm未満、0.6mm以上1.18mm未満、1.18mm以上2.26mm未満、2.26mm以上5mm以下が挙げられる。
第1群、第2群及び第3群の組み合わせとしては、流動性及び平滑性の点から、第1群の粒径が1.18mm以上2.26mm未満であり、第2群の粒径が0.6mm以上1.18mm未満であり、及び第3群の粒径が0.3mm以上0.6mm未満である組み合わせ;第1群の粒径が0.6mm以上1.18mm未満であり、第2群の粒径が0.3mm以上0.6mm未満であり、及び第3群の粒径が0.15mm以上0.3mm未満である組み合わせが好ましい。
【0019】
<(b)セメント用ポリマー>
成分(b)のセメント用ポリマーとしは、JIS A 6203「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」に規定されるポリマーが好ましい。このようなセメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂が挙げられる。ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム系;天然ゴム系;ゴムアスファルト系;エチレン酢酸ビニル系;アクリル酸エステル系;樹脂アスファルト系が好ましい。この中でも、合成ゴム系が好ましく、合成ゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニルがより好ましく、旧コンクリートや鋼板との接着性の点から、スチレンブタジエンゴムが特に好ましい。
【0020】
上記セメント用ポリマーの含有量としては、接着性及び施工性の点から、成分(d)100質量部に対し、9〜30質量部が好ましく、15〜20質量部がより好ましい。9質量部以上とすることにより、接着性が向上し、旧コンクリートや鋼板に対する優れた追従性が得られる。一方、30質量部以下とすることにより、優れた施工性が得られる。
【0021】
<(c)増粘剤>
成分(c)の増粘剤としては、保水作用を示す観点から、セルロース系やアクリル系等多糖類系若しくは合成系の水溶性高分子、又は多糖類系の不水溶性高分子を主成分とするものが好ましく、多糖類を主成分とするものが好ましい。
上記多糖類としては、セルロース系水溶性高分子、デンプン、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン等が挙げられる。
【0022】
上記増粘剤の含有量としては、成分(d)100質量部に対し、0.002〜2.0質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましい。0.01〜0.5質量部とすることにより、振動締固めによる施工性や充填性が向上する。
【0023】
<(d)セメント>
成分(d)のセメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;アルミナセメント;速硬性セメント;フライアッシュ、高炉スラグ、又はシリカや石灰石微粉末等をポルトランドセメントに混合した各種混合セメントが挙げられる。
これらの中でも、水和発熱や長期材齢強度の点から、ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0024】
本発明のポリマーセメントモルタルは、上記成分(a)〜(d)の他に、(e)水、(f)短繊維、(g)減水剤を含んでいてもよい。
【0025】
成分(e)の水の含有量は、通常、成分(d)100質量部に対し、25〜45質量部程度であるが、流動性及び施工性の点から、26〜32質量部が好ましい。
【0026】
成分(f)の短繊維としては、例えば、鋼繊維、ガラス繊維、合成繊維、炭素繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
上記短繊維の含有量は、通常、成分(d)100質量部に対し、0.01〜0.3質量部程度である。
【0027】
成分(g)の減水剤としては、例えば、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、流動化剤を含む減水剤が好ましい。このような減水剤としては、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。
これらの中でも、ポリカルボン酸系のもの、ナフタレン系のもの、リグニンスルホン酸系のもの、アクリル系のものが好ましい。
上記減水剤の含有量は、通常、成分(d)100質量部に対し、0.1〜5質量部程度である。
【0028】
なお、本発明のポリマーセメントモルタルは、上記成分(a)〜(g)の他に、モルタルに通常使用されるもの、例えば、遅延剤、硬化促進剤、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、顔料、撥水剤、白華防止剤等を含んでいてもよい。
上記遅延剤としては、例えば、フッ化物、リン酸塩、ホウ酸塩等の無機物や糖類、リグニンスルホン酸塩、クエン酸塩等の有機物が挙げられる。
【0029】
本発明のポリマーセメントモルタルは、ふるい分け、混合等の操作によって成分(a)最大粒径5mm以下の細骨材を得た後、常法に従い製造できる。
そして、本発明のポリマーセメントモルタルは、勾配があるところで振動を与えても流れにくく、施工後の表面の平滑性及び圧縮強度に優れる。
したがって、勾配のある道路(路盤等)及び床版や、建築物の壁面(外壁等)の施工、或いは振動締固めによる上面増圧工法に用いるのに特に有用である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例で使用したポリマーセメントモルタルの材料は、以下のとおりである。
細骨材(珪砂):前田建材工業(株)、山形珪砂;高野商事(株)、鹿島珪砂
セメント用ポリマー:太平洋マテリアル(株)、太平洋CX−B(主成分:スチレンブタジエンゴム)
増粘剤:BASFポゾリス(株)、スタービス(主成分:多糖類)
セメント:太平洋セメント(株)、普通ポルトランドセメント
繊維(ガラス繊維(繊維長:10mm)):太平洋マテリアル(株)、アンチクラック
減水剤(アクリル系):昭和電工(株)、メルメント
【0031】
<ポリマーセメントモルタルの製造>
(実施例1)
前述の複数の市販品の細骨材を混合し、これを、電動式ロータップふるい振動機を用いてふるいにかけ、以下のA〜Fに粒径でわけた。次いで、これら粒径の異なる細骨材を混ぜ合わせ、表1に示す粒径分布の細骨材を得た。なお、細骨材の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて確認した。
A:2.26mm以上
B:1.18mm以上2.26mm未満
C:0.6mm以上1.18mm未満
D:0.3mm以上0.6mm未満
E:0.15mm以上0.3mm未満
F:0.15mm未満
次いで、得られた細骨材、セメント及び増粘剤を混合し、これに水及びセメント用ポリマーを添加し、ハンドミキサで90秒間攪拌し、以下に示す配合処方のポリマーセメントモルタルを得た。
【0032】
細骨材:300質量部
セメント用ポリマー:18質量部
増粘剤:0.02質量部
セメント:100質量部
水:27質量部
【0033】
(実施例2〜4及び比較例1〜4)
細骨材の粒径分布を表1に示す粒径分布に換えた以外は実施例1と同様にしてポリマーセメントモルタルを得た。
なお、下記表1中、実施例1〜3のB及び実施例4のCが第1群であり、実施例1〜3のC及び実施例4のDが第2群であり、実施例1〜3のD及び実施例4のEが第3群である。
【0034】
【表1】

【0035】
<ポリマーセメントモルタルの評価>
前記の操作で得られた各ポリマーセメントモルタルについて、以下に示す評価及び試験を行った。結果を表2に示す。
【0036】
(振動締固め後のモルタルの厚み測定)
図1に示すような縦3000mm×横1600mmの鋼板(横断勾配8%)に40mm高さでポリマーセメントモルタルを振動締固めにより敷き均した後、5分間放置し、モルタルの厚み(mm)を測定した。
測定箇所は施工面上端から横断方向に、0mm、400mm、800mm、1200mm、1600mmとした。
【0037】
(平滑性の評価)
目視および指触による評価
○:部分的な凹凸が少なく、モルタル表面の波打ちが見られない。
△:部分的に2〜3mmの凹凸があり、モルタル表面が波打つ部分がある。
【0038】
(圧縮強度の測定)
直径5cm×高さ10cmの供試体を3体作製し、供試体を材齢28日まで気中養生した後、JSCE−G505−1999「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じて、圧縮強度を測定した。圧縮強度25N/mm2以上であれば「良好」と判断した。
【0039】
【表2】

【0040】
上記試験結果より、実施例1〜4のポリマーセメントモルタルは、勾配があるところで振動締固めにより施工しても、モルタルがダレにくく、厚みが均一になり、表面の平滑性にも優れることがわかった。
【0041】
(実施例5及び6)
細骨材、セメント増粘剤、水及びセメント用ポリマーに加えて、表3に記載の成分を使用した以外は実施例1と同様にしてポリマーセメントモルタルを得た。
得られたポリマーセメントモルタルについて、前述の測定法と同様にして、振動締固め後のモルタルの厚みを測定した。結果を表4に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)最大粒径5mm以下の細骨材、(b)セメント用ポリマー、(c)増粘剤及び(d)セメントを含有し、
成分(a)を少なくとも3つ以上の群に粒径で分け、前記3つ以上の群のうちの連続する3つの群を、第1群、第2群及び第3群としたときに、
第1群、第2群及び第3群の各群の細骨材の含有量が、成分(a)100質量部に対し、いずれも10質量部以上であり、
前記第2群の細骨材の含有量が、前記第1群の細骨材の含有量及び前記第3群の細骨材の含有量よりも、1質量部以上低いことを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項2】
さらに、(f)短繊維及び(g)減水剤から選ばれる1種以上を含有する請求項1記載のポリマーセメントモルタル。
【請求項3】
振動締固めによる上面増圧工法に用いるためのものである請求項1又は2記載のポリマーセメントモルタル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−140265(P2012−140265A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292991(P2010−292991)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】