説明

ポリマー電池用電極の製造装置

【課題】 一対のダイコーティングヘッド先端面に対して、水平方向に走行する基材の位置が安定化され、走行する基材両面に安定した塗工膜を形成できるポリマー電池用電極の製造装置の提供。
【解決手段】 基材5を水平方向に走行させる位置ガイドローラ4a,4bを備えた基材走行機構4と、前記基材走行機構4により走行する基材5の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤9を塗布する一対のダイコーティングヘッド7,8と、前記ダイコーティングヘッド7,8を相対的に移動させ、対向面の位置・間隔を調整するダイコーティングヘッド調整機構10a ,10b と、前記基材走行機構4に併設され、走行する基材5に塗布された電極剤9を乾燥する乾燥炉11とを有するポリマー電池用電極の製造装置であって、前記一対のダイコーティングヘッド7,8中、下側のダイコーティングヘッド8先端面の基材走行上流側に走行する基材5の位置ガイド 10a′を兼用させることを特徴とするポリマー電池用電極の製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリマー電池用電極の製造装置に係り、さらに詳しくはポリマー電池用電極の基材両面に電極剤を形成する電池用電極の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】携帯型の電話機やテレビカメラなどの電源としては、小形、軽量、薄型化や大容量、高電圧などが求められており、たとえば、正極層、ポリマ−電解質層および負極層を重ね合わせ、シート状(薄型)に一体化した構成の電極要素を備えた厚さ 0.5mm程度のポリマー型の非水溶媒電池も知られている(たとえば米国特許第 5,296,318号明細書)。
【0003】図3は、前記ポリマー電解質電池の要部構成を断面的に示したものである。図3において、1はセパレーターの機能をする電解質保持性のポリマー・電解質系(たとえばヘキサフロロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体などのポリマと、リチウム塩などのエチレンカーボネート溶液…非水電解液…との系)、2は金属酸化物などの活物質、非水電解液および電解質保持性ポリマーを含む正極層を集電体に積層して成る正極、3はリチウムイオンを吸蔵・放出する活物質、非水電解液および電解質保持性ポリマーを含む負極層を集電体に積層して成る負極である。
【0004】ここで、正極2の活物質としては、たとえばリチウムマンガン複合酸化物、二酸化マンガン、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物、リチウムを含む非晶質五酸化バナジウム、カルコゲン化合物などが挙げられる。また、負極活物質としては、たとえばビスフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルローズなどの焼成物、コークスやピッチの焼成物が挙げられ、これらは天然もしくは人口グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック,ケッチェンブラック、ニッケル粉末、ニッケル粉末などを含有した形態を採ってもよい。
【0005】さらに、ポリマー・電解質系1は、たとえばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの非水溶媒に、過塩素酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、ホウ四フッ化リチウム、六フッ化ヒ素リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムなどを 0.2〜 2mol/ l程度に溶解させたものが挙げられる。
【0006】ところで、前記ポリマー電池用電極は、一般的に、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムなどの基材に、上記電極剤(ペースト状)を片面塗布し、乾燥後に樹脂フィルムを集電体(たとえばエキスパンドメタル)に熱溶着させて製造している。しかし、この場合は、集電体に対する樹脂フィルムの熱溶着性もしくは密着性が劣ると、電池特性に悪影響が及ぶなどの問題がある。
【0007】一方、前記エキスパンドメタル主面に、電極剤を片面づつ塗布・乾燥(塗工)し、両面に電極剤層を担持させる方式も知られている。しかし、ポリマー電池用の集電体(エキスパンドメタル)は、一般に、開口率が高くて表裏両面にほぼ均一な電極剤層を形成することが困難なため、両面に同時に電極剤を塗布することも試みられている。ここで、両面同時塗りの場合は、乾燥処理を縦型の乾燥炉で行うと、集電体および塗膜の重量によって、乾燥炉内で集電体の伸び現象が生じ易く、品質ないし特性のバラツキなどを招来するので、縦型乾燥炉の高さに限界があり、生産性が劣るという問題がある。
【0008】この改善策として横型乾燥炉を使用し、電極剤を塗布した集電体をいわゆるフローティングノズルから吹き出される熱風で浮かしながら、横型乾燥炉内をほぼ水平方向に走行させる方式が開発されている。すなわち基材を水平方向に走行させるガイドローラを備えた基材走行機構と、前記基材走行機構により走行する基材の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤を塗布する一対の対称型ダイコーティングヘッドと、前記ダイコーティングヘッドを相対的に移動させ、対向面の位置・間隔を調整するダイコーティングヘッド調整機構と、前記基材走行機構に併設され、走行する基材に塗布された電極剤を乾燥する乾燥炉と、前記乾燥電極剤層を設けた基材を巻き取る手段とを有するポリマー電池用電極の製造装置が知られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記横型乾燥炉を使用したポリマー電池用電極の製造手段(装置)の場合は、一対の対称型ダイコーティングヘッドを垂直方向に移動させて、走行ガイドローラ間に架張され走行する基材(たとえば集電体)面に対する位置を調製する一方、電極剤塗工後の基材の乾燥炉内の走行がエアフローティング方式で行われる。このエアフローティング方式の採用に伴って、乾燥炉内を走行する基材の水平方向における位置の安定性が損なわれるため、対称型ダイコーティングヘッド先端面との位置関係も不安定化し、結果的に、基材両面における塗工膜の安定した電極剤塗工が行えないという不都合がある。
【0010】本発明は、このような事情に対処してなされたもので、一対のダイコーティングヘッド先端面に対して、水平方向に走行する基材の位置が安定化され、走行する基材両面に安定した塗工膜を形成できるポリマー電池用電極の製造装置の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、基材を水平方向に走行させる位置ガイドローラを備えた基材走行機構と、前記基材走行機構により走行する基材の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤を塗布する一対のダイコーティングヘッドと、前記ダイコーティングヘッドを相対的に移動させ、対向面の位置・間隔を調整するダイコーティングヘッド調整機構と、前記基材走行機構に併設され、走行する基材に塗布された電極剤を乾燥する乾燥炉とを有するポリマー電池用電極の製造装置であって、前記一対のダイコーティングヘッド中、下側のダイコーティングヘッド先端面の基材走行上流側に走行する基材の位置ガイドを兼用させることを特徴とするポリマー電池用電極の製造装置である。
【0012】請求項2の発明は、請求項1記載のポリマー電池用電極の製造装置において、下側のダイコーティングヘッドは、ほぼ垂直方向に分割され、かつ摺動的に構成されていることを特徴とする。
【0013】請求項3の発明は、請求項1もしくは請求項2記載のポリマー電池用電極の製造装置において、位置ガイドを兼用する領域が、ダイコーティングヘッド先端面の一部の突設であることを特徴とする。
【0014】請求項1〜3の発明において、基材(たとえばエキスバンドメタルなどの集電体)を水平方向に走行させる基材走行機構は、基材巻き戻しローラから巻き戻された基材を水平方向に走行させる手段であり、一定の方向に回転する一対の位置ガイドローラ(基材走行ガイドローラを兼ねる)を少なくとも備えている。ここで、基材走行機構は、後述する一対のダイコーティングヘッドおよび乾燥炉の配設領域に亘るもので、基材走行機構のコンパクト化のために、前記一対の位置ガイドローラを一対のダイコーティングヘッドおよび乾燥路出口に近接配置し、基材巻き戻しローラおよび巻き取りローラとの間は、曲折的に配置した複数のガイドローラを介して連接する。
【0015】請求項1〜3の発明において、水平方向に走行する基材の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤を塗布する一対のダイコーティングヘッドは、下側のダイコーティングヘッド先端面の基材走行上流側に、前記走行する基材の位置ガイドを兼用させる点で特徴付けられる。ここで、一対のダイコーティングヘッドは、電極剤を吐出するノズルを備えたもので、一般的には、10〜 500× 0.1〜 1mm程度の長方形の開口部を吐出口とし、かつ下側ダイコーティングヘッドの先端面が基材走行上流側を 0.1〜 1mm程度突設させた構造となっている。なお、前記ダイコーティングヘッドのうち、少なくとも下側のダイコーティングヘッドは、ほぼ垂直方向に分割され、かつ摺動的に構成し、基材走行上流側の分割体の先端面を位置ガイド兼用可能に形成しておいてもよい。
【0016】請求項1〜3の発明において、前記ダイコーティングヘッドは、垂直方向に相対的に移動されるように、それぞれ支持されるとともに、たとえばエアシリンダーやオイルシリンダーなどのダイコーティングヘッド調整機構によって、対向面の位置・間隔が調整される。また、乾燥炉は、前記ダイコーティングヘッドに隣接し、かつ基材走行機構に併設されて、走行する基材にダイコーティングヘッドで塗布された電極剤を乾燥する役割をなすものである。ここで、乾燥炉は、前記電極剤の塗布膜を非接触的に乾燥するため、基材を浮かせた状態で走行させ得るように、フローティングノズルを備えた型が選ばれる。
【0017】請求項1〜3の発明では、基材を水平方向に走行させる一方、この水平方向に走行する基材両面に、所定の位置に対向して設置された一対のダイコーティングヘッドのうち、下方のダイコーティングヘッドが、電極剤の塗工に支障しない状態で走行する基材の位置ガイドを行う。すなわち、浮かされた状態で走行する電極剤塗工基材は、乾燥過程でのフローティングによる揺れが発生しても、電極剤の塗工位置では、予め位置決めされた状態が維持されるので、前記フローティングの影響も低減され、安定した膜厚の電極剤塗工を行うことができる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、図1および図2を参照して実施例を説明する。
【0019】図1は、この発明に係るポリマー電池用電極の製造装置の概略構成を示す要部の側面図である。図1R>1において、4は基材5を水平方向に走行させる位置ガイドローラ4a,4bを備えた基材走行機構であり、基材巻き出しローラ6aおよび基材巻き取りローラ6b間に架張され、かつ屈曲型に配置された走行ガイドローラ4c,4d,4e,4f,4c′,4d′,4e′を介して基材5を水平方向に走行させる。
【0020】また、7,8は前記基材走行機構4により走行する基材5の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤を塗布する一対のダイコーティングヘッドである。ここで、ダイコーティングヘッド7,8は、図2に要部構成を側面的に示すように、軸方向(垂直方向)に分割されたダイコーティングヘッド片7a,7bおよび8a,8bの各対向面にパッキング7c,8cをそれぞれ介挿し、 250× 0.5mm程度の空間部を設けたものであり、前記空間部を電極剤の流通路として、基材5の両面に電極剤9を塗工する。そして、このダイコーティングヘッド7,8は、ダイコーティングヘッド調整機構10a ,10b 、たとえばエアーシリンダーによって相対的に移動させ、対向面の位置・間隔が調整される。なお、前記ダイコーティングヘッド8を構成するダイコーティングヘッド片8a,8bのうち、基材5の走行上流側のダイコーティングヘッド片8a先端面は、ダイコーティングヘッド片8bの先端面より突設しており、この突設面8a′が走行する基材5の位置ガイドをする。
【0021】さらに、11は前記基材走行機構4に沿って配置(併設)され、水平方向に走行する基材5に塗布された電極剤9を乾燥する乾燥炉であり、非対称的にフローティングノズル 11a, 11bが配置された構造と成っている。そして、このフローティングノズル 11a, 11bの配置面間を、フローティングノズル 11a, 11bから吹き出される温風(熱風)によって、前記電極剤が塗布された基材5を浮かしながら(非接触に)走行する一方、塗布された電極剤を乾燥する。
【0022】次に、上記構成の製造装置の動作について説明する。
【0023】先ず、基材巻き出しローラ6aから巻き戻された基材5は、ガイドローラ4c,4d,4e,4fを介して、ガイドローラ4a,4bを備えた基材走行機構4を水平方向に走行される。この走行過程において、基材5はガイドローラ4a,4b間で水平に架張されて、乾燥炉11内ではフローティングノズル 11a, 11bから吹き出される温風(熱風)で浮かされた状態で(非接触に)走行する。この乾燥炉11内の走行に先立って、一対のダイコーティングヘッド7,8によって、水平方向に走行する基材5の両面に電極剤9が塗布(塗工)される。
【0024】この電極剤9の塗布(塗工)においては、前記ダイコーティングヘッド8の先端面8a′が、基材5の水平方向走行の位置ガイドとして機能する。すなわち、基材5の水平方向に走行は、ガイドローラ4a,4bだけでなく、ダイコーティングヘッド8の先端面8a′によっても位置ガイドされ、実際的に浮かされた状態での走行間隔が短縮される。
【0025】したがって、前記乾燥炉11内でフローティングノズル 11a, 11bによって走行する基材5が水平方向の乱れ(上下方向の移動・振れ)が生じても、その乱れは容易に防止低減されるため、走行する基材5面に対するダイコーティングヘッド7,8の先端面(電極剤吐出面)の位置・間隔が一定に保持される。つまり、乾燥炉11内において、走行する基材5に水平方向の乱れが生じても、基材5は電極剤の塗工部に近接して位置ガイドされるため、ダイコーティングヘッド7,8の先端面に対する位置関係が、常時、一定に保たれるので、基材5両面にほぼ一定膜厚の電極剤層を安定した状態で塗工形成できる。換言すると、歩留まりよく、高品質のポリマ電池用電極を、量産的に製造できる。
【0026】このようにして、安定した状態の電極剤層を塗工形成した基材5は、装置のコンパクト化のために、屈曲的に配置された走行ガイドローラ4c′,4d′,4e′を介して巻き取りローラ6bに巻き取られる。
【0027】なお、本発明は上記例示に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形を採ることができる。たとえばダイコーティングヘッドの進退駆動機構としては、エアシリンダーの代りに、オイルシリンダーなどを使用した構成でもよい。
【0028】
【発明の効果】請求項1ないし3の発明によれば、高品質なポリマー電池用電極を歩留まりよく、かつ量産的に提供することができる。すなわち、集電体などの基材を水平方向に走行させながら、その基材両面に、同時に電極剤を塗工乾燥するポリマー電池用電極の製造において、ダイコーティングヘッド先端面の一部に位置ガイドを兼用させるようにしている。そして、電極剤の塗工部に近接して位置ガイドを付設したことに伴って、ダイコーティングヘッド先端面に対する走行する基材の位置の変動も大幅に抑制防止されるため、基材両面に均一な塗工を行えるので、高品質なポリマー電池用電極の量産的な提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るポリマー電池用電極の製造装置の概略構成を示す側面図。
【図2】図1に図示したポリマー電池用電極の製造装置におけるダイコーティングヘッド部の概略構成を示す側面図。
【図3】ポリマー電池の電極要素の概略構成を示す断面図。
【符号の説明】
4……基材走行機構
4a,4b……位置ガイドローラ
5……基材(集電体)
6a,6b……基材巻き戻し、巻き取りローラ
7……上側ダイコーティングヘッド
8……下側ダイコーティングヘッド
8a′……ダイコーティングヘッドの位置ガイド面
9……電極剤
10a ,10b ……ダイコーティングヘッド調整機構
11……乾燥炉
11a ,11b ……フローティングノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材を水平方向に走行させる位置ガイドローラを備えた基材走行機構と、前記基材走行機構により走行する基材の両主面に対し挟着的に配置され、電極剤を塗布する一対のコーティングヘッドと、前記コーティングヘッドを相対的に移動させ、対向面の位置・間隔を調整するコーティングヘッド調整機構と、前記基材走行機構に併設され、水平方向に走行する基材に塗布された電極剤を乾燥する乾燥炉とを有するポリマー電池用電極の製造装置であって、前記一対のコーティングヘッド中、下側のコーティングヘッド先端面の基材走行上流側に走行する基材の位置ガイドを兼用させることを特徴とするポリマー電池用電極の製造装置。
【請求項2】 下側のコーティングヘッドは、ほぼ垂直方向に分割され、かつ摺動的に構成されていることを特徴とする請求項1記載のポリマー電池用電極の製造装置。
【請求項3】 位置ガイドを兼用する領域が、コーティングヘッド先端面の一部の突設であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載のポリマー電池用電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平11−339785
【公開日】平成11年(1999)12月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−141722
【出願日】平成10年(1998)5月22日
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)