説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】耐衝撃性及び耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と、植物性繊維と、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを含んでいる。前記植物性繊維は、バガス繊維であってもよい。前記エポキシ系可塑剤は、脂肪族エポキシ系可塑剤、例えば、C6−12アルカンジオールジグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、及びエポキシ化植物油から選択された少なくとも一種であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性及び耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス排出削減による「低炭素化社会」や、環境に調和した「資源循環型社会」の実現に向けた取り組みが強く求められており、これらの社会を実現するために新しい素材「バイオプラスチック」の普及が加速している。その中でポリ乳酸は植物由来で生分解する樹脂として利用されているが、耐熱性や強度の観点でポリプロピレンなどの石油系樹脂に劣る。
【0003】
ポリ乳酸の物性を改善するため、ポリ乳酸と繊維を組み合わせることも知られている。例えば、特開2009−132093号公報(特許文献1)には、重量平均分子量の異なる2種類以上のポリ乳酸樹脂と天然繊維とを含む天然繊維ボードが開示されている。特開2009−132094号公報(特許文献2)には、温度110℃以上の高温水蒸気で処理された改質天然繊維と、結合材としてのポリ乳酸樹脂とを含む天然繊維ボードが開示されている。これらの文献には、天然繊維が、ケナフ繊維、ジュート繊維、及びバガス繊維から選択される1種以上を含むことも記載されている。これらの天然繊維ボードは、ポリ乳酸と天然繊維とを組み合わせることにより、吸水時の厚さ膨張率を低下できる。しかし、前記天然繊維ボードでは、ポリ乳酸と繊維との界面の親和性や密着性が十分でないため、引張、曲げ、衝撃などの力を作用した場合、ポリ乳酸と繊維との界面から破断が生じ、元々耐衝撃性に劣るポリ乳酸の強度がさらに低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132093号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2009−132094号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、耐衝撃性及び耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、バイオマス由来の原料の含有率が高く、環境に優しいポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、成形性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリ乳酸に対して、植物性繊維及びエポキシ系可塑剤のうちいずれか一方の成分を配合しても、ポリ乳酸の物性を十分に改善できないにも拘わらず、植物性繊維及びエポキシ系可塑剤の双方の成分を配合すると、ポリ乳酸と植物性繊維との界面の親和性や密着性を改善できるためか、耐衝撃性及び耐熱性を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と、植物性繊維と、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを含んでいる。
【0010】
前記エポキシ系可塑剤は、脂肪族エポキシ系可塑剤、例えば、C6−12アルカンジオールジグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、及びエポキシ化植物油から選択された少なくとも一種であってもよい。前記エポキシ系可塑剤の割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、1〜100重量部程度であってもよい。
【0011】
植物性繊維はリグニンを含んでいてもよい。また、植物性繊維はバガス繊維であってもよい。植物性繊維の割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、10〜50重量部程度であってもよい。植物性繊維と前記エポキシ系可塑剤との割合(重量比)は、前者/後者=70/30〜30/70程度であってもよい。
【0012】
本発明は、ポリ乳酸と、植物性繊維と、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを溶融混練することにより、ポリ乳酸樹脂組成物を製造する方法を包含する。また、本発明は、ポリ乳酸と2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤との溶融混練物と、植物性繊維(例えば、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤を含む処理剤を含浸した植物性繊維)とを溶融混練することにより、ポリ乳酸樹脂組成物を製造する方法も包含する。
【0013】
なお、本明細書中、数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ポリ乳酸と植物性繊維と特定のエポキシ系可塑剤とを含んでいるため、耐衝撃性を向上できる。また、本発明では、植物性繊維を含有するため、耐熱性に優れており、光学純度の高いポリ乳酸を用いることにより、耐熱性をより一層向上できる。さらに、本発明では、ポリ乳酸を含んでいるにも拘わらず、特定のエポキシ系可塑剤と組み合わせるので、成形加工性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(又はポリ乳酸と植物性繊維との複合体)は、ポリ乳酸と植物性繊維と2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを含んでいる。本発明では、特定のエポキシ系可塑剤を介して、ポリ乳酸と植物性繊維とが接着又は密着できるためか、機械的特性を大きく向上できる。
【0016】
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸(ポリ乳酸系樹脂)は、乳酸成分を重合成分とするポリマーである。乳酸成分としては、例えば、乳酸(D−乳酸、L−乳酸、DL−乳酸)、乳酸の反応性誘導体[例えば、ラクチド(乳酸二量体)、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステルなど]などが含まれる。乳酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0017】
ポリ乳酸は、乳酸成分を主成分とするポリマーであればよく、乳酸成分の単独重合体(例えば、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD,L−乳酸など)であってもよく、乳酸成分と共重合成分との共重合体であってもよい。乳酸成分と共重合可能な共重合成分としては、ジオール成分(例えば、エチレングリコールなどのC2−6アルカンジオール成分など)、ジカルボン酸成分(例えば、アジピン酸又はそのエステル形成性誘導体などのC6−12アルカンジカルボン酸成分など)、ヒドロキシカルボン酸又はラクトン(例えば、グリコール酸などのヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、グリコリドなどのC4−10ラクトンなど)などが挙げられる。これらの共重合成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。共重合体において、乳酸成分の割合は、例えば、全構成モノマーの70モル%以上(例えば、75〜99.5モル%程度)、好ましくは80モル%以上(例えば、85〜99モル%程度)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、92〜98モル%程度)であってもよい。
【0018】
ポリ乳酸の光学純度(全乳酸成分に対するD−又はL−乳酸の割合)は、耐熱性の点から、例えば、90%以上、好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、97〜100%)程度である。
【0019】
なお、ポリ乳酸は、異なる種類(又は重合組成)のポリ乳酸を2種以上組み合わせて構成してもよい。
【0020】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)において、ポリスチレン換算で、例えば、5000〜1000000の範囲から選択でき、10000〜800000(例えば、20000〜700000)、好ましくは30000〜600000、さらに好ましくは50000〜500000程度であってもよい。
【0021】
ポリ乳酸のガラス転移温度(Tg)は、例えば、50〜65℃、好ましくは55〜60℃程度であってもよい。なお、ガラス転移温度は、慣用の方法、例えば、示差走査熱量計により測定できる。
【0022】
ポリ乳酸のメルトフローレートは、190℃および荷重2.16kgの条件下で、例えば、1〜30g/10分、好ましくは2〜20g/10分、さらに好ましくは3〜15g/10分、特に4〜10g/10分程度であってもよい。
【0023】
ポリ乳酸の酸価は、例えば、0.1〜100mgKOH/g、好ましくは0.2〜80mgKOH/g、さらに好ましくは0.3〜60mgKOH/g程度であってもよい。ポリ乳酸の水酸基価もまた、上記と同様の範囲から選択できる。
【0024】
(植物性繊維)
植物性繊維は、充填剤又は補強剤などとして作用し、ポリ乳酸の物性を改善できる。また、植物性繊維は、再生可能なバイオマス(生物資源)であり、環境に優しい。植物性繊維としては、特に制限されず、例えば、木材、草本類、パルプ、及びパルプ含有成形体から選択された少なくとも一種に由来する繊維(天然セルロース繊維)であってもよい。
【0025】
木材としては、マツ、スギ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤなどの針葉樹、シイ、サクラ、柿などの広葉樹、竹類などが例示できる。なお、木材は、間伐材などであってもよく、木材の破砕物、例えば、木粉、木材チップ、単板くずなどの形態で利用でき、廃材(建築廃材など)を利用してもよい。
【0026】
草本類としては、ケナフ、ワラ、バガス(サトウキビ残滓又は製糖工業副産物)、麻、楮などが例示できる。パルプとしては、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、木綿パルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなどが例示できる。パルプ含有成形体としては、パルプから調製される紙、古紙などが例示できる。
【0027】
なお、植物性繊維は、植物の任意の部位(木質部、葉部、茎部、根部など)に由来する繊維であってもよい。
【0028】
これらの植物性繊維は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの植物性繊維のうち、高弾性率、靱性などの点から、バガス繊維、麻繊維、竹繊維(特に、バガス繊維)が好ましい。
【0029】
植物性繊維は、植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子(リグニン)を含んでいてもよく、慣用の分離手段(水洗など)により脱リグニン化され、リグニンを実質的に含んでいなくてもよい。本発明では、植物性繊維中にリグニンを含んでいると、耐衝撃性を向上できるとともに、溶融混練しても褐色に着色するのを有効に抑制できる。その理由は明確ではないが、リグニンのフェノール性水酸基が、後述のエポキシ系可塑剤と反応し化学結合を形成することが考えられる。
【0030】
植物性繊維中のリグニンの含有量は、例えば、1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは10〜25重量%程度であってもよい。
【0031】
植物性繊維の平均繊維径は、例えば、10nm〜100μm、好ましくは100nm〜80μm、さらに好ましくは1〜50μm程度である。植物性繊維の平均繊維長は、例えば、1μm以上(好ましくは10μm以上)であればよく、10〜500μm(好ましくは20〜200μm)程度であってもよく、0.5〜15mm(好ましくは1〜10mm)程度であってもよい。なお、樹脂組成物を溶融混練により調製する場合、植物性繊維は破断し短くなる場合があり、その場合の平均繊維長は、1μm〜10mm(例えば、5μm〜1mm)程度であってもよい。
【0032】
植物性繊維の表面及び/又は内部にポリ乳酸の可塑剤を含有又は添着させてもよい。特に、植物性繊維の少なくとも表面にポリ乳酸の可塑剤を担持又は付着させると、ポリ乳酸を効率よく可塑化し、耐衝撃性などの機械的特性を向上できる。ポリ乳酸の可塑剤としては、特に限定されないが、少なくとも後述のエポキシ系可塑剤(例えば、脂肪族エポキシ系可塑剤)が好ましい。植物性繊維中のポリ乳酸の可塑剤の含有量(植物性繊維に対するポリ乳酸の可塑剤の付着量)は、例えば、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜7重量%程度であってもよい。
【0033】
植物性繊維にポリ乳酸の可塑剤を含有させる方法は、特に限定されず、例えば、ポリ乳酸の可塑剤を含む処理剤を植物性繊維に含浸させる方法(例えば、浸漬、噴霧など)であってもよい。前記処理剤は、通常、ポリ乳酸の可塑剤と溶媒とで構成されている。溶媒としては、水、有機溶媒[例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのC1−4アルカノールなど)、エーテル類(テトラヒドロフランなどの環状エーテルなど)、セロソルブ類(セロソルブなど)など]などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。ポリ乳酸の可塑剤の割合は、溶媒100重量部に対して、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部程度である。可塑剤の割合が小さすぎると、可塑剤の特性を十分に付与できない。また、可塑剤の割合が大きすぎると、粘度が高くなり、可塑剤を均一に分散できなかったり、溶媒の乾燥後にべたつきが生じ、取扱性が低下する。
【0034】
植物性繊維の割合は、耐衝撃性、耐熱性などの点から、ポリ乳酸100重量部に対して、0.1〜50重量部(例えば、0.5〜45重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、1〜40重量部、好ましくは5〜35重量部、さらに好ましくは10〜30重量部(例えば、15〜25重量部)程度であってもよい。
【0035】
(エポキシ系可塑剤)
エポキシ系可塑剤(エポキシ系接着性向上剤)は、ポリ乳酸を可塑化すると共に、ポリ乳酸と植物性繊維との親和性や密着性を改善し、界面の剥離に起因する破断を低減できる。この理由としては、エポキシ系可塑剤が、ポリ乳酸の末端のカルボキシル基やヒドロキシル基と反応するとともに、植物性繊維のセルロース骨格のヒドロキシル基や植物性繊維に含まれるリグニンのフェノール性水酸基と反応することにより、ポリ乳酸と植物性繊維とを化学結合し、接着性を向上できることが考えられる。また、エポキシ系可塑剤が、植物性繊維と反応性を有し、植物性繊維の近傍で高濃度に存在することにより、植物性繊維の近傍のポリ乳酸が可塑化され、粘度が大きく低下することにより、密着性が向上することも考えられる。
【0036】
エポキシ系可塑剤は、前記作用を有する限り、特に制限されず、例えば、2つ以上のエポキシ基を有する化合物(又は樹脂)であってもよい。エポキシ基の数は、1分子中に2以上[例えば、2〜6、好ましくは2〜4(例えば、3〜4)]程度である。エポキシ系可塑剤は、分子末端及び/又は分子内にエポキシ基を有していてもよい。
【0037】
エポキシ系可塑剤は、脂肪族エポキシ系可塑剤と芳香族エポキシ系可塑剤に分類できる。脂肪族エポキシ系可塑剤としては、脂肪族ジ又はポリグリシジルエーテル類(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどのC2−12アルカンジオールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンジ乃至トリグリシジルエーテル、グリセロールジ乃至トリグリシジルエーテルなどのアルカントリオールのジ乃至トリグリシジルエーテル;ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのアルカンテトラ乃至ヘキサオールのポリグリシジルエーテル)、脂肪族ジ又はポリグリシジルエステル類[例えば、脂肪族ジカルボン酸ジグリシジルエステル(例えば、アジピン酸ジグリシジルエステルなど)、不飽和脂肪酸トリグリセライドのエポキシ化物(例えば、エポキシ化植物油など)など]などが例示できる。
【0038】
前記ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテルにおいて、C2−4アルキレンオキシドの付加モル数(オキシC2−4アルキレン単位数)は、例えば、2以上(2〜100)、好ましくは2〜50、さらに好ましくは2〜30程度であってもよい。
【0039】
前記エポキシ化植物油において、植物油としては、構成脂肪酸がエポキシ化可能な不飽和高級脂肪酸(例えば、不飽和C12−24脂肪酸など)であるトリグリセライドを含む植物油、例えば、オレイン酸型植物油(オリーブ油など)、リノール酸型植物油(大豆油など)、エルシン酸型植物油(からし油など)、リノレン酸型植物油(あまに油など)などが例示できる。
【0040】
芳香族エポキシ系可塑剤としては、例えば、芳香族ジ又はポリグリシジルエーテル(例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテルなどのビスフェノール類のジグリシジルエーテルなど)、芳香族ジカルボン酸ジグリシジルエステル(例えば、フタル酸ジグリシジルエステルなど)などが例示できる。
【0041】
これらのエポキシ系可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのエポキシ系可塑剤のうち、可撓性を付与でき、耐衝撃性を向上させる点から、脂肪族エポキシ系可塑剤が好ましい。脂肪族エポキシ系可塑剤のうち、可撓性や耐衝撃性をより一層改善する点から、長鎖脂肪族エポキシ系可塑剤、例えば、C6−12アルカンジオールジグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ化植物油が好ましい。
【0042】
エポキシ系可塑剤のエポキシ当量(g/eq)は、例えば、50〜2000、好ましくは80〜1000、さらに好ましくは100〜700程度であってもよい。
【0043】
エポキシ系可塑剤の割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、例えば、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度であってもよい。エポキシ系可塑剤の割合が小さすぎると、ポリ乳酸を十分に改質できず、大きすぎると、ポリ乳酸の粘度が低下しすぎたり、ポリ乳酸が軟化しすぎることにより、植物性繊維の強化効果が打ち消される。
【0044】
エポキシ系可塑剤と植物性繊維との割合(重量比)は、前者/後者=99/1〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、90/10〜10/90、好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは70/30〜30/70程度である。なお、上述の通り、エポキシ系可塑剤の一部又は全部は、植物性繊維に含有又は付着されている場合がある。
【0045】
ポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分[例えば、ポリ乳酸以外の樹脂(生分解性樹脂など)、添加剤(例えば、エポキシ系可塑剤以外の可塑剤、安定剤、難燃剤、軟化剤、滑剤、帯電防止剤、結晶核剤、着色剤、防腐剤、防カビ剤など)]を含んでいてもよい。なお、ポリ乳酸樹脂組成物は、増粘作用を有するポリマー(グリシジル(メタ)アクリレートを重合成分とするポリマーなど)、エステル系可塑剤(脂肪族ジカルボン酸エステルなど)などを含んでいない場合が多い。
【0046】
ポリ乳酸樹脂組成物は、慣用の方法、例えば、ポリ乳酸と、必要により処理剤で処理された植物性繊維と、エポキシ系可塑剤とを混合することにより調製できる。なお、各成分の混合順序は、特に制限されず、ポリ乳酸と植物性繊維とエポキシ系可塑剤とを一括して混合してもよく;ポリ乳酸とエポキシ系可塑剤とを混合してポリ乳酸コンパウンドを形成した後、このポリ乳酸コンパウンドと植物性繊維とを混合してもよい。後者の方法では、ポリ乳酸100重量部に対して、エポキシ系可塑剤を1〜50重量部、好ましくは2〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度の割合で用いてもよい。また、ポリ乳酸コンパウンド100重量部に対して、植物性繊維を1〜50重量部、好ましくは2〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度の割合で用いてもよい。
【0047】
本発明では、ポリ乳酸を含んでいるにも拘わらず成形性に優れるため、ポリ乳酸樹脂組成物は、各成分を溶融混練することにより得てもよい。溶融混練には、慣用の方法、例えば、押出機(一軸又は二軸押出機など)により溶融混練する方法などが利用できる。溶融混練温度は、例えば、120〜220℃、好ましくは150〜200℃(例えば、180〜200℃)程度であってもよい。なお、溶融混練物は、慣用の方法により、ペレット化してもよい。
【0048】
成形体は、前記ポリ乳酸樹脂組成物を、公知の成形方法[例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法(例えば、Tダイ法、インフレーション法など)、カレンダー法、熱成形法(特に、熱プレス法)、トランスファー成形法、ブロー成形法、キャスティング成形法など]で成形することにより得ることができる。本発明では、成形性に優れるため、射出成形しても成形体に凹凸が生成するのを有効に防止できる。
【0049】
なお、成形体は、必要により、加熱処理し、ポリ乳酸の結晶化を進行させて、さらに機械的特性を改善できる。加熱温度は、ポリ乳酸の融点以下の温度、例えば、50〜100℃、好ましくは60〜90℃程度である。加熱時間は、例えば、1〜5時間、好ましくは2〜4時間程度である。
【0050】
成形体の形状は、特に制限されず、フィルム又はシート状などの2次元形状であってもよく、立体形状などの3次元形状であってもよい。
【0051】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物及びその成形体は、高弾性率、耐衝撃性などの機械的特性(特に、耐衝撃性)に優れている。衝撃強度は、アイゾット衝撃試験ASTM D256に準拠して、例えば、7kJ/m以上、好ましくは8kJ/m以上、さらに好ましくは9kJ/m以上(例えば、10〜15kJ/m程度)にすることもできる。
【0052】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物及びその成形体は、耐熱性に優れており、熱変形を有効に防止できる。80℃での熱変形量は、例えば、5mm以下、好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下(例えば、0.1〜2mm程度)にすることもできる。なお、熱変形量は、JIS K7195の「ヒートサグ試験」に準拠した方法、例えば、成形体の一方の端部を所定の位置で固定し、他端は自由の状態で、80℃で所定の時間保持したとき、成形体の変形量(自由端に生じたたわみ量など)として測定できる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、「部」は、特に断りのない限り、重量基準とする。また、各成分の内容及び評価方法は、以下の通りである。
【0054】
[各成分の内容]
植物性繊維:製糖工場から排出された後、温水洗浄を行い、温風にて十分洗浄し乾燥させたバガス繊維(平均繊維径20μm、平均繊維長10mm程度、リグニン含有)
ポリ乳酸:REVODE110(浙江海正生物材料社製)[融点163℃、D体含有量2.5%、MFR(190℃、荷重2.16kg)5g/10分]
[評価方法]
(アイゾッド衝撃強度)
アイゾット衝撃試験は、ASTM D256に準拠して、幅1mm及び厚み3mmの試験片を用いて、室温中、ノッチなしの条件で行った。
【0055】
(熱変形量)
熱変形量は、幅10mm、長さ125mm及び厚み3mmの試験片の一端を端部から30mmの位置で固定し、他端は自由の状態で、熱風炉中80℃で3時間保持したとき、試験片の変形量(自由端に生じたたわみ量)として測定した。
【0056】
実施例1及び5
ポリ乳酸100部に対して、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを15部加え、190℃で混練することにより、ポリ乳酸コンパウンドを得た。このポリ乳酸コンパウンド100部に対して、表面処理(1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのメタノール5%溶液に浸漬し、80℃で24時間乾燥)した植物性繊維を20部加え、190℃で混練し、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0057】
実施例2
メタノール5%溶液に代えて、メタノール1%溶液を用いる以外、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0058】
実施例3
ポリ乳酸コンパウンドに対して、植物性繊維(表面処理されていない植物性繊維)を加える以外、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0059】
実施例4
ポリ乳酸コンパウンドに代えて、ポリ乳酸(コンパウンド化されていないポリ乳酸)を用いる以外、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0060】
実施例6
1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの代わりに、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量300g/eq)を用い、ポリ乳酸100部に対してポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを20部加える以外、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0061】
実施例7
1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの代わりに、エポキシ化大豆油(エポキシ当量230g/eq)を用い、ポリ乳酸100部に対してエポキシ化大豆油を20部加える以外、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0062】
比較例1
ポリ乳酸と植物性繊維を190℃で混練することによりポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0063】
比較例2
1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの代わりに、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)を用いる以外、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0064】
実施例及び比較例のポリ乳酸樹脂組成物を190℃で射出成形し、試験片を作製した。実施例5では、作製した試験片を70℃で3時間、熱処理した。なお、実施例では良好に成形できたのに対して、比較例では、溶融混練し押し出されたストランド状の樹脂組成物が切れやすく、この樹脂組成物で射出成形した射出成形品(試験片)には凹凸が生成した。
【0065】
各試験片について、アイゾッド衝撃強度及び熱変形量を評価した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、比較例に比べ、実施例ではアイゾッド衝撃強度が大きく、熱変形量が小さく、耐衝撃性及び耐熱性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と植物性繊維と特定のエポキシ系可塑剤とを含んでいるため、耐衝撃性、耐熱性に優れており、軽量、安価で、実用的な成形体材料として利用できる。また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、植物由来成分の比率が大きく、環境に優しい材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、植物性繊維と、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ系可塑剤が、脂肪族エポキシ系可塑剤である請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ系可塑剤が、C6−12アルカンジオールジグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、及びエポキシ化植物油から選択された少なくとも一種である請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ系可塑剤の割合が、ポリ乳酸100重量部に対して、1〜100重量部である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
植物性繊維がリグニンを含む請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
植物性繊維がバガス繊維である請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
植物性繊維の割合が、ポリ乳酸100重量部に対して、10〜50重量部である請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
植物性繊維とエポキシ系可塑剤との割合(重量比)が、前者/後者=70/30〜30/70である請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
ポリ乳酸と、植物性繊維と、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤とを溶融混練することにより、ポリ乳酸樹脂組成物を製造する方法。
【請求項10】
ポリ乳酸と2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤との溶融混練物と、植物性繊維とを溶融混練することにより、ポリ乳酸樹脂組成物を製造する方法。
【請求項11】
植物性繊維が、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系可塑剤を含む処理剤を含浸した植物性繊維である請求項10記載の方法。

【公開番号】特開2013−1719(P2013−1719A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130960(P2011−130960)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】