説明

ポルトランドセメントクリンカにおけるアーライトの結晶形の制御方法

【課題】結果的に、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形が変更されて、ポルトランドセメントクリンカの性能が改善されるように、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形を制御する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形が変更されて、ポルトランドセメントクリンカの性能が改善されるように、セメントクリンカを熱処理して、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形を制御する方法に関する。本方法は簡素で実施可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドセメントクリンカにおけるアーライトの結晶形の制御方法、特にポルトランドセメントクリンカの性能の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
中国においてセメント産業は急速に発展している。2008年における中国のセメント生産量は約14.5億トンで、世界のセメント総生産量の約50%を占め、24年連続世界一であった。中国経済が急速な発展段階にはいっていることにより、中国のセメント生産量は年率10%で増加し続けると予想されている。多くのセメントが中国で生産されているにも関わらず、全体的なセメントの品質は相対的に低く、それによりコンクリート製品の寿命が影響を受けている。したがってセメント性能が改善されなければならない。ポルトランドセメントは主にポルトランドセメントクリンカ、石膏、複合材料から構成される。ポルトランドセメントの性能を向上させるためには、ポルトランドセメントクリンカの性能が向上しなくてはならない。ポルトランドセメントクリンカは主に、エーライト、ビーライト、アルミン酸三カルシウム(CA(3CaO・Al))、鉄アルミン酸四カルシウム(CAF(4CaO・3Al・Fe))から構成される。エーライトはポルトランドセメントクリンカのゲル化特性の主要な供給源である一方、エネルギー消費の主要な原因でもある。したがってポルトランドセメントクリンカのゲル化特性を改善するためには、クリンカ内のCSの含有量あるいはその活性を改善しなければならない。しかし、クリンカ内のCSの含有量を増加させることは、エネルギー消費の増加につながる。よって省エネルギーと排出量低減の国家的な要請のもとでは、セメントクリンカの性能を改善することの1つの効果的な尺度は、ポルトランドクリンカ内のエーライトの活性を改善することである。現在では、高活性のエーライトがその結晶形の修正によって得られるようなドーピングが、エーライトの活性を改善する最も広く用いられる方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、結果的に、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形が変更されて、ポルトランドセメントクリンカの性能が改善されるように、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形を制御する処理を提供して、ポルトランドセメントクリンカの性能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を達成するために、本発明の技術的特徴は、ポルトランドセメントクリンカ内のエーライトの結晶形を制御する方法であって、以下のステップを含む。
(1)準備されたポルトランドセメント原料を焼成する。
(2)ポルトランドセメント原料を毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏1400度ないし1600度まで昇温させて、その温度で保持し、それから自然冷却する。
(3)その温度が摂氏600ないし800度になったら、毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏700度ないし1300度まで昇温させて、その温度で保持し、それから自然冷却する。
(4)冷却されたクリンカを、ボールミルを用いて粉状に挽く。
あるいは以下のステップを含む。
(1B)準備されたポルトランドセメント原料を焼成する。
(2B)ポルトランドセメント原料を、毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏1400度ないし1600度まで昇温させて、その温度で保持する。それから冷却器に搬送し、その温度を毎分摂氏40ないし80度の速さで低下させる。
(3B)摂氏700度ないし1300度に達したら、その温度を維持する。
(4B)それから自然冷却する。冷却されたセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉状に挽く。
【0005】
好適には、ステップ(2)、(3)、(2B)、(3B)での保持時間は、それぞれ5ないし120分である。好適には、ステップ(4)、(4B)の粉状物の比表面積は340ないし360m/kgである。
【0006】
ステップ(1)、(1B)において、準備されたセメント原料は、標準の処理パラメータのもとで、クリンカを形成するように焼成される。それに加えて、焼成されたクリンカは、続く熱処理に直接用いられてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形が変更されて、ポルトランドセメントクリンカの性能が改善されるように、セメントクリンカを熱処理して、ポルトランドセメントクリンカにおけるエーライトの結晶形を制御する処理に関する。本処理は簡素で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1−1】熱処理なしのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=32ないし33度)を示す図。
【図1−2】熱処理なしのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=51.5ないし52.7度)を示す図。
【図2−1】熱処理後のセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=32ないし33度)を示す図。
【図2−2】熱処理後のセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=51.0ないし52.5度)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、異なった2θでのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトルである(クリンカはHuaihaiセメントファクトリによって製造された)。ここで図1−1は熱処理なしのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=32ないし33度)、図1−2は熱処理なしのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=51.5ないし52.7度)である。
【0010】
図2は、異なった2θでのセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトルである(クリンカはHuaihaiセメントファクトリによって製造され熱処理された)。ここで図2−1は熱処理後のセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=32ないし33度)、図2−2は熱処理後のセメントクリンカ内のエーライトのXRDスペクトル(2θ=51.0ないし52.5度)である。
【0011】
(実施例)
本発明を以下の例によってさらに説明する。しかし本発明は以下の例には限定されない。
【0012】
(例1)
(1)準備されたポルトランドセメント原料を摂氏1450度まで昇温し、1時間焼成して冷却する。
【0013】
(2)ポルトランドセメント原料を、摂氏1450度に達するまで毎分摂氏5度の速さで昇温し、その温度を30分維持してから自然冷却した。
【0014】
(3)冷却されたクリンカを、摂氏800度以下の温度まで昇温する。摂氏1100度に達するまで温度は毎分摂氏10度の速さで昇温し、その温度を60分維持してから、自然冷却した。
【0015】
(4)冷却されたクリンカをボールミルを用いて粉状に挽いた。比表面積は340m/kgとした。上記クリンカ内のエーライトのXRDスペクトルと、Xuchou Huauhaiセメントファクトリの熱処理なしのクリンカ内のエーライトのXRDスペクトルとが図1と図2に示されている。摂氏1100度で60分間の焼成後に、Huauhaiセメントファクトリのポルトランドセメントクリンカ内のエーライトの結晶形がM3からM1に変化していることがわかる。
【0016】
(5)最終的に得られた96gのセメントクリンカに4gの石膏を加えて、一様に混合した。その後、29mLの水(水セメント比w/c=0.29)を加えて、混合して、20×20×20mmのサンプルへ成型した。そして3日、28日の圧縮強度を計測した。サンプルは、まず養生ケース(curing case)内で24時間養生(cure)された。その際、相対湿度は90%、温度は摂氏20±2度とした。それから、離型されたサンプルを水養生ケース(water curing case)のなかで摂氏20±1度で養生した。その結果得られた強度の比較が表1に示されている。
【0017】
【表1】

【0018】
(例2)
(1)準備されたポルトランドセメント原料を摂氏1480度まで昇温し、0.5時間焼成して冷却する。
【0019】
(2)そのポルトランドセメント原料を、摂氏1500度に達するまで毎分摂氏10度の速さで昇温し、その温度を60分維持してから自然冷却した。
【0020】
(3)冷却されたクリンカを、摂氏700度以下の温度まで昇温する。摂氏1000度に達するまで毎分摂氏15度の速さで昇温し、その温度を90分維持してから、自然冷却した。冷却されたクリンカをボールミルを用いて粉状に挽いた。比表面積は350m/kgとした。
【0021】
(4)最終的に得られた96gのセメントクリンカに4gの石膏を加えて、一様に混合した。その後、29mLの水(水セメント比w/c=0.29)を加えて、混合して、20×20×20mmのサンプルへ成型した。そして3日、28日の圧縮強度を計測した。サンプルは、まず養生ケース内で24時間養生された。その際、相対湿度は90%、温度は摂氏20±2度とした。それから、離型されたサンプルを水養生ケースのなかで摂氏20±1度で養生した。その結果得られた強度の比較が表2に示されている。
【0022】
【表2】

【0023】
(例3)
(1)準備されたポルトランドセメント原料を摂氏1450度まで昇温し、1時間焼成して冷却した。
【0024】
(2)そのポルトランドセメント原料を、摂氏1450度に達するまで毎分摂氏5度の速さで昇温し、その温度を60分維持してから、冷却装置に入れて、温度を毎分摂氏55度の速さで低下させた。
【0025】
(3)温度を摂氏1000度まで冷却し、その温度を60分維持した。
【0026】
(4)その後自然冷却した。冷却されたクリンカをボールミルを用いて粉状に挽いた。比表面積は360m/kgとした。
【0027】
(5)最終的に得られた96gのセメントクリンカに4gの石膏を加えて、一様に混合した。その後、29mLの水(水セメント比w/c=0.29)を加えて、混合して、20×20×20mmのサンプルへ成型した。そして3日、28日の圧縮強度を計測した。サンプルは、まず養生ケース内で24時間養生(cure)された。その際、相対湿度は90%、温度は摂氏20±2度とした。それから、離型されたサンプルを水養生ケース(water curing case)のなかで摂氏20±1度で養生した。その結果得られた強度の比較が表3に示されている。
【0028】
【表3】

【0029】
(例4)
(1)準備されたポルトランドセメント原料を摂氏1450度まで昇温し、1時間焼成して冷却した。
【0030】
(2)そのポルトランドセメント原料を、摂氏1500度に達するまで毎分摂氏15度の速さで昇温し、その温度を30分維持してから、冷却装置に入れて、温度を毎分摂氏50度の速さで低下させた。
【0031】
(3)温度を摂氏1100度まで冷却し、その温度を30分維持した。
【0032】
(4)その後自然冷却した。冷却されたクリンカをボールミルを用いて粉状に挽いた。比表面積は350m/kgとした。
【0033】
(5)最終的に得られた96gのセメントクリンカに4gの石膏を加えて、一様に混合した。その後、29mLの水(水セメント比w/c=0.29)を加えて、混合して、20×20×20mmのサンプルへ成型した。そして3日、28日の圧縮強度を計測した。サンプルは、まず養生ケース内で24時間養生された。その際、相対湿度は90%、温度は摂氏20±2度とした。それから、離型されたサンプルを水養生ケースのなかで摂氏20±1度で養生した。その結果得られた強度の比較が表4に示されている。
【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカ内のエーライトの結晶形を制御する方法であって、
準備されたポルトランドセメント原料を焼成する第1ステップと、
そのポルトランドセメント原料を毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏1400度ないし1600度まで昇温させて、その温度で保持し、それから自然冷却する第2ステップと、
そのセメントクリンカの温度が摂氏600ないし800度になったら、毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏700度ないし1300度まで昇温させて、その温度で保持し、それから自然冷却する第3ステップと、
その冷却されたセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉状に挽く第4ステップと、
を備えるか、あるいは、
準備されたポルトランドセメント原料を焼成する第1Bステップと、
ポルトランドセメント原料を、毎分摂氏1ないし35度の速さで摂氏1400度ないし1600度まで昇温させて、その温度で保持し、それから冷却器に搬送し、その温度を毎分摂氏40ないし80度の速さで低下させる第2Bステップと、
そのクリンカの温度が摂氏700度ないし1300度に達したら、その温度を保持する第3Bステップと、
そのクリンカを自然冷却し、冷却されたクリンカを、ボールミルを用いて粉状に挽く第4Bステップと、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2ステップ、第3ステップ、第2Bステップ、第3Bステップでの保持時間は、それぞれ5ないし120分である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第4ステップ、第4Bステップの粉状物の比表面積は340ないし360m/kgである請求項1に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公表番号】特表2013−510784(P2013−510784A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538173(P2012−538173)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/CN2010/075183
【国際公開番号】WO2011/057505
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(511171888)南京工▲業▼大学 (2)
【氏名又は名称原語表記】NANJING UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.200 North Zhongshan Road Nanjing,Jiangsu 210009,China