説明

マイクロスケール実験器具およびマイクロスケール実験キット

【課題】マイクロスケール実験部材の支持が容易なマイクロスケール実験器具を提供する。
【解決手段】試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であって、前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロスケール実験に使用する実験器具に関し、より詳細には、マルチウェルプレートとその蓋部とからなり、前記蓋部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成され、マイクロスケール実験を安定して、安全かつ簡便に行えるマイクロスケール実験器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来に比して実験スケールを1/10〜1/100程度に縮小し、使う薬品を少なくして実験する「マイクロスケール実験」が、環境に配慮するグリーンケミストリーの考えに基づいて、日本の教育現場に普及しつつある。
【0003】
このようなマイクロスケール実験として、(1)金属および金属イオンの反応、(2)酸と塩基の実験:酸性とアルカリ性、酸塩基指示薬、中和、塩の加水分解、緩衝溶液、(3)電池:ボルタ、ダニエル、鉛蓄電池、燃料電池、(4)塩化銅水溶液をはじめとするいろいろな電解質水溶液の電気分解、(5)酸化還元反応:金属のイオン化傾向、(6)化学平衡の実験、(7)化学反応の反応速度の実験、(8)水の電気分解の実験、(9)爆鳴気の実験などを例示することができる。
【0004】
水の電気分解で例示すれば、従来は、H型電気分解装置やホフマン型電気分解装置を使用し、電解質溶液である水酸化ナトリウム水溶液を使用していたが、電解質水溶液の使用量が大量であること、液だめとコックを同時操作することが難しいこと、装置などが高価であることなどの問題があった。
【0005】
しかしながら、例えばマイクロスケール実験では、図26に示すように、マルチウェルプレート(200)の1つのウェル(201)に水酸化ナトリウム水溶液(203)を2ml入れ、先端を5mm残して切断した2本のポリスポイト(210)にそれぞれマチバリ(220)を挿入し、ポリスポイトに水酸化ナトリウム水溶液を満たして前記ウェル(201)に立て、前記マチバリ(220)を電極として電源装置につなぎ約5分間、直流電圧を印加して行うことができる(非特許文献1)。マチバリ(220)に直流電圧を印加した直後から気体の発生を観察することができ、約10分間の電気分解によって発生する気体の体積比、水素:酸素=2:1を観察することができる。USBハブを利用した電源装置による電圧値は約5V、電流値は約10〜11mA、実験に必要な水酸化ナトリウム水溶液量は、約10mlである。従来の水の電気分解実験に比べ、電解質水溶液量が非常に少量であり、短時間で実験結果を得られる利点もある。
【0006】
このように、マイクロスケール実験によれば、実験時間の短縮と準備作業や後片付け作業の軽減することができる。また、マイクロスケール実験によれば、同一のマルチウェルプレートを使用して多種類の実験を行うことができる。更に、装置も小型であるため生徒が各人で実験でき、実験の体験により理解をより深め、各人の問題解決能力や創造力を育成することもできる。同時に、環境への配慮を考える力も身につけることが出来る。
【0007】
このようなマイクロスケール実験では、例えば、3×4にウェルが配列された市販の細胞培養用マルチプレートを使用することができる。マルチウェルプレートは、底面積が大きいため、少量の試薬を使用する実験でも高い実験操作の安定性を確保することができる。図27は、このような細胞培養用マルチプレートにより上記マイクロスケール実験を行っている状態を示す図である。水酸化ナトリウム溶液を収納したウェル(E)に、2本のポリスポイト(210)が挿入され、各ポリスポイトに配設されたマチバリ(220)を電極として電源装置の陽極、陰極が把持されている。
【0008】
なお、マイクロスケール実験に使用する実験器具として、たとえば、水の電気分解や電気分解で発生する気体の体積比、電極反応に関する実験では、12穴のウェルプレート、投薬ビン、プラスチックスポイト、ステンレス待ち針、三方活栓、乾電池、ミノムシリード線、炭酸ナトリウム、注射器、石鹸水、ろ紙、炭素棒、BTB溶液などがある。
【0009】
このようなマイクロスケール実験に使用されるウェルプレート(200)としては、例えば、1〜6mlの液体の収納に適するように、直径24mm、高さ18mmの中空円柱からなるウェルが3×4列に配列される構成のものがある。市販の細胞培養用マルチプレートなどを転用して使用することができるほか、真空成型や射出成型で製造することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】坂東 舞他3名、簡単にできる水の電気分解実験、マイクロスケール実験の応用、インターネット〈URL:http://natsci.kyokyo−u.ac.jp/〜rigaku/forum/7gou/bando7gou35−39.pdf#search=‘マイクロスケール実験’>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、例えば、上記した水の電気分解実験では、図27に示すように特定のウェル(E)に立てた2本のスポイト(210)が不安定であるため、これらを両手で押える必要がある。また、マイクロスケール実験は、生徒が各人で実験できる利点があるが、各生徒の両手がふさがっては、実験の安全性、確実性が損なわれる場合がある。一方、特定の支持具を配備すれば、マイクロスケール実験キットが大掛かりなものとなる。したがって、簡便に、スポイトや電極などのマイクロスケール実験部材を支持し、安全に失敗なく実験作業が行えるマイクロスケール実験器具の開発が望まれる。
【0012】
また、マイクロスケール実験は、ビーカーなどに代えてマルチウェルプレートを多用し、これによって試薬量を低減し、多種類の実験を行える点に特徴がある。実験ごとに使用する器具が相違する。このため、各種の実験に対応でき、かつ使用部材を簡便に支持しうるマイクロスケール実験器具の開発が望まれる。
【0013】
更に、マイクロスケール実験は、生徒各人が使用するものであり、安価であることが好ましい。安価に調製しうる、マイクロスケール実験器具の開発が望まれる。
上記現状に鑑み、本発明は、マイクロスケール実験に使用する実験器具であって、マイクロスケール実験に使用する部材を容易に支持しうる、マイクロスケール実験器具を提供することを目的とする。
【0014】
また本発明は、いずれのマイクロスケール実験においても、簡便に各種の使用部材を支持しうる、マイクロスケール実験器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、マイクロスケール実験に使用するマルチウェルプレートについて詳細に検討した結果、マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部を設け、その蓋部にマイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔を形成すれば、両手で部材を把持することなく安定化しうること、このような貫通孔の形状として、マイクロスケール実験で使用する各種の実験部材に対応した形状を選択すれば多様なマイクロスケール実験に対応できること、および蓋部の各ウェルの上部に小蓋部を形成し、このような小蓋部に前記貫通孔を形成すれば、必要に応じて小蓋部を装着し、マイクロスケール実験部材を支持しうること、すなわち、ウェルの上部を被覆する蓋部を、マイクロスケール実験に使用する部材の支持板として使用しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部とからなるマイクロスケール実験器具であり、前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に装着用貫通孔が形成される蓋部本体と、前記装着用貫通孔に脱着可能に嵌合される小蓋部とからなり、少なくも1つの前記小蓋部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具を提供するものである。
【0018】
本発明は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと、前記ウェルに挿入する足つき蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、前記足つき蓋部は、天面部と側面部とからなり、前記足つき蓋部の天面部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、上記マイクロスケール実験器具が収納された、マイクロスケール実験キットを提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マルチウェルプレートに蓋を設け、その蓋部に貫通孔を形成するという簡易な構成で部材を支持することができるため、生徒各人が、簡便にマイクロスケール実験を行うことができる。
【0021】
本発明によれば、貫通孔の形状を多種配設することで、各種のマイクロスケール実験に対応することができる。
本発明のマイクロスケール実験器具によれば、蓋部に貫通孔が形成されたものであり、他の支持部材を必要としないため、安価にマイクロスケール実験キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレートを説明する図であり、図1(a)は、底面部に中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートの平面図であり、図1(b)は、図1(a)のX−X'線の横断面図である。底面部に垂設する側壁が底面部の全周にわたって形成されている。
【図2】図2は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレートを説明する図であり、図1に示すマルチウェルプレート3(a)との相違は、底面部に側壁が形成されていない点である。
【図3】図3は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレートを説明する図であり、図3(a)は、天面部に中空柱状の凹部を形成してウェルとしたマルチウェルプレートの平面図であり、図3(b)は、図3(a)のX−X'線の横断面図である。
【図4】図4は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成する蓋部を説明する図であり、図4(a)は、蓋部の平面図、図4(b)は図4(a)のX−X'線の横断面図である。
【図5】図5は、図1に示すマルチウェルプレート(10)に、図4に示す蓋部(20)を被覆した態様の横断面図である。
【図6】図6は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成する蓋部を説明する図であり、図6(a)は、蓋部の平面図、図6(b)は図6(a)のX−X'線の横断面図である。図4との相違は、蓋部の内側に環状突出部が形成されていない点にある。
【図7】図7は、図1に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図4に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔の番号を説明する図である。
【図8】図8は、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(A)の使用方法を説明する図であり、図8(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図8(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図8(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図9】図9は、従来のマイクロスケール実験の方法を説明する図であり、ウェル(B)に硫酸銅溶液と銅板(250)を入れ、ウェル(C)に硫酸亜鉛溶液と亜鉛板(240)を入れ、ウェル(B)とウェル(C)とを塩橋(260)で架橋し、亜鉛板(240)と銅板(250)とを電極でつなぐ態様を示す図である。
【図10】図10は、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(B)、環状突出部(C)の使用方法を説明する図であり、図10(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図10(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図10(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図11】図11は、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が少なくとも1つ形成された環状突出部(D)の使用方法を説明する図であり、図11(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図11(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図11(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図12】本発明のマイクロスケール実験器具を使用し、2本のポリスポイトを蓋部で支持し、マイクロスケール実験行っている態様を説明する図である。
【図13】図13は、環状突出部(27)の内側に、同径の2つの中円形の貫通孔(15)が形成された環状突出部(E)の使用方法を説明する図であり、図13(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図13(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。2本のポリスポイトが貫通孔に支持される態様を示す。図13(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図14】図14は、図13のポリスポイトに代えて、シリンジを使用する態様を説明する図である。
【図15】従来の方法で、塩化銅の電気分解のマイクロスケール実験を行う態様を説明する図である。
【図16】図16は、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が形成された環状突出部(F)と、環状突出部の内側に大円形の貫通孔が形成された環状突出部(H)の使用方法を説明する図であり、図16(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図16(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図16(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図17】従来のろ紙片の塩橋を使用したダニエル電池のマイクロスケール実験を、従来のマルチウェルプレートを使用して行う態様を説明する図である。
【図18】図18は、環状突出部の内側に弧状の貫通孔と線状の貫通孔とが形成された環状突出部(G)の使用方法を説明する図であり、図18(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図18(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図18(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図19】図19は、環状突出部の内側に中円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が1つ形成された環状突出部(I)の使用方法を説明する図であり、図19(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図19(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図19(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図20】従来の電気分解の実験を説明する図であり、ウェル(J)に塩化銅水溶液を入れ、ウェル(J)とウェル(K)との縁を利用して炭素棒などの棒状の(+)電極を固定し、ウェル(J)とウェル(I)との縁を利用して棒状の(−)電極で固定する態様を示す図である。
【図21】図21は、環状突出部の内側に2つの中円形の貫通孔が形成された環状突出部(J)の使用方法を説明する図であり、図21(a)は、その使用態様の一例の部分横断面図であり、図21(b)は、貫通孔の平面視した形状を説明する図である。図21(b)では、使用した貫通孔を実線で示した。
【図22】図22は、貫通孔(15)を有しない蓋部であって、ウェル(15)の上端部との嵌合方法を説明する図である。
【図23】図23は、装着用貫通孔(28)が形成された蓋部本体(20')と小蓋部(30)とからなる蓋部の平面図である。
【図24】図24は、図23に示す小蓋部(30)が、蓋部本体(20')に形成された装着用貫通孔(28)に係止される態様を説明する図である。
【図25】図25は、本発明の足つき蓋部を説明する図である。図25(a)は、図1に示すマルチウェルプレートの1つのウェルに装着する足つき蓋部(40)の平面図、図25(b)はウェル(15)に前記足つき蓋部(40)を挿入した態様の横断面図、図25(c)は、ウェルの直径より大きな天面部を有する足つき蓋部の横断面図である。
【図26】従来の、マルチウェルプレートの一つのウェルを使用して、水の電気分解を行う方法を説明する説明図であり、ウェルに2本のポリスポイトが倒れて挿入される態様を説明する横断面図である。
【図27】従来のマルチウェルプレートを使用した水の電気分解方法の平面図である。
【図28】本発明のマイクロスケール実験キットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具である。以下、図面を参照して本発明を説明する。

(1)マルチウェルプレート
図1(a)は、本発明のマイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレート(10)の平面図であり、図1(b)は、図1(a)のX−X'線の横断面図である。図1では、底面部(11)に、中空柱状のウェル(15)が3×4で配列される態様を示す。また、底面部には、これに垂設される側壁部(16)が底面部の全周にわたって形成されている。
【0024】
本発明で使用するウェルは、中空柱状であればよく、柱状は円柱に限定されるものではない。したがって、三角形、正方形、長方形、五角形などの多角形や半円形その他の不定形の柱状であってもよく、これらが2以上組み合わされたものであってもよい。また、各ウェル(15)のサイズもマイクロスケール実験に好適に使用できるよう、内容量が0.5〜10mlとなるようにその高さや面積を選択することができる。また、ウェルの配列も3×4に限定されるものでなく、マイクロスケール実験に応じて適宜選択することができる。
【0025】
また、図2(a)、(b)に示すように、図1に示すマルチウェルプレート(10)において、底面部(11)に側壁部(16)が形成されていないものであってもよい。この態様であれば、たとえば気体が発生する実験など、ウェル(15)内での変色や沈殿、気泡の発生などがウェル(15)の側面から容易に観察できるからである。なお、図2(a)は、このような本発明のマイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレート(10)の平面図であり、図2(b)は、図2(a)のX−X'線の横断面図である。
【0026】
また、前記中空柱状のウェルは、マルチウェルプレート(10)の底面部(11)に形成されるものに限定されない。天面部(17)に中空柱状の凹部を形成してウェル(15)としたマルチウェルプレート(10)を図3に示す。図3(a)は、マルチウェルプレートの平面図、図3(b)は図3(a)のX−X'線の横断面図である。図3では、天面部(17)から中空柱状のウェル(15)が3×4で配列される態様を示す。
【0027】
なお、図3(b)に示すマルチウェルプレート(10)は、天面部(17)から垂設される側壁部(16)を有するが、このような側壁部(16)はなくてもよい。図2で説明したと同様に、側壁部(16)がない場合には、ウェル(15)側方からの観察が明瞭となるからである。

(2)蓋部
本発明のマイクロスケール実験器具を構成する蓋部(20)の構成を図4を使用して説明する。図4(a)は、蓋部(20)の平面図、図4(b)は図4(a)のX−X'線の横断面図である。図4(a)、図4(b)に示すように、蓋部は、天面部(21)と側面部(23)とからなり、天面部(21)には、少なくも1つのウェル(15)と対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔(25)が形成されている。
【0028】
また、同図に示す蓋部(20)には、前記貫通孔(25)の外周に、環状突出部(27)が形成されている。便宜のため、図1に示すマルチウェルプレート(10)に、図4に示す蓋部(20)を被覆した態様の横断面図を図5に示す。図5に示す蓋部(20)には、蓋部(20)の前記ウェル(15)に対応し、かつ前記ウェル(15)の上端部の外側に環状突出部(27)が形成されている。なお、貫通孔(15)は、前記環状突出部(27)の内側に形成されている。環状突出部(27)により、各ウェルとの境界部を形成したり、ウェル(15)の上端部と嵌合させて蓋部(20)のガタツキを抑え、また環状突出部(27)によってウェル内の液密を確保し、溶液の蒸発などを防止することができる。なお、図5では、ウェル(15)の上端部の外側に嵌合するように環状突出部(27)が形成されているが、環状突出部(27)は、ウェル(15)の上端部の内側に嵌合するように環状に突出するように形成されるものであってもよい。また、蓋部(20)とウェル(15)の上端部とのガタツキを防止できれば、ウェル(15)の上端部の全周に形成される環状に限定されるものでもない。
【0029】
さらに、前記環状突出部(27)の形成は任意であり、蓋部(20)の内側に存在しなくてもよい。このような蓋部を図6に示す。図6(a)は、蓋部(20)の天面部(21)に、ウェルと対向する位置にマイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔(25)が形成され、環状突出部(27)が形成されない態様を示す。
【0030】
例えば、前記図3に示すマルチウェルプレート(10)は、各ウェル(15)が天面部(17)で連接されているため、これに使用する蓋部(20)には、構造上、ウェル(15)の上端部の外側に突出する環状突出部(27)を形成することができない。また、図3に示すマルチウェルプレート(10)は、各ウェル(15)が天面部(17)で連接され、天面部(17)が幅広くかつ平坦であるため、蓋部(20)の天面部(21)の内側に環状突出部(27)が無くても、マルチウェルプレート(10)の天面部(17)との密着性に優れ、ウェル(15)内の溶液の蒸発などを防止しうるからである。

(3)貫通孔
本発明のマイクロスケール実験器具において、前記蓋部(20)に形成する貫通孔(25)の形状は、マイクロスケール実験部材を容易に支持しうるものであれば、特に限定はない。以下、マイクロスケール実験の実際の使用に対応させつつ、貫通孔の形状や使用方法を説明する。なお、マイクロスケール実験では、ウェル(15)に試薬やマイクロスケール実験部材を投入して使用するため、本願明細書では、マルチウェルプレートのウェル(15)と、そのウェル(15)に対向する蓋部(20)の環状突出部(27)とを同じ符号で示す。図7に、図1に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図4に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔に番号を付した説明図を示す。図7に示すように、ウェル(A)に対応する環状突出部を環状突出部(A)と称し、前記環状突出部(A)の内側に形成される貫通孔(25)を、貫通孔(a1)、貫通孔(a2)、貫通孔(a3)などで特定し、以下、説明に使用する。

(3−1)環状突出部(A)
環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(A)有する蓋部(20)を使用して、ボルタ電池の実験を行うことができる。
【0031】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用し、例えば、図7のウェル(A)に希硫酸をいれ、ウェル(A)の上部を環状突出部(A)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a2)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a4)から銅板(250)を挿入する。電圧計で前記亜鉛板(240)と銅板(250)とをつなぎ、電圧を測定する。なお、メロディをつなぐと音をならすことができる。このような態様の部分横断面図を図8(a)に、貫通孔の平面視した形状を図8(b)に示す。
【0032】
本発明のマイクロスケール実験器具によれば、亜鉛板(240)や銅板(250)を手で把持することなく、貫通孔(a2)や貫通孔(a4)でこれらを固定し、安定したマイクロスケール実験を行うことができる。

(3−2)環状突出部(B)、環状突出部(C)
環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(B)、環状突出部(C)とを有する蓋部(20)を使用して、ろ紙片の塩橋を使用したダニエル電池の実験を行うことができる。
【0033】
従来は、図9に示すように、ウェル(B)に硫酸銅溶液と銅板(250)を入れ、ウェル(C)に硫酸亜鉛溶液と亜鉛板(240)を入れ、ウェル(B)とウェル(C)とを塩橋(260)で架橋し、亜鉛板(240)と銅板(250)とを電極でつなぎ、起電力を観察していた。
【0034】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図7のウェル(B)に硫酸銅溶液と銅板(250)とを入れ、ウェル(C)に硫酸亜鉛溶液と亜鉛板(240)を入れ、ウェル(B)、ウェル(C)の上部を環状突出部(B)、環状突出部(C)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(B)に形成された線状の貫通孔(b2)から銅板(250)を挿入し、環状突出部(C)に形成された線状の貫通孔(c4)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(B)や環状突出部(C)の内側に形成された線状の貫通孔(b4、c2)から、ウェル(B)、ウェル(C)をまたぐ様にろ紙の塩橋(260)を挿入する。このような態様の部分横断面図を図10(a)に、貫通孔の平面視した形状を図10(b)に示す。
【0035】
これにより、マイクロスケール実験部材を手で把持することなく、各部材を固定することができる。

(3−3)環状突出部(D)
環状突出部の内側に小円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が少なくとも1つ形成された環状突出部(D)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。
【0036】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用し、例えば、図7のウェル(D)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(D)の上部を環状突出部(D)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(D)に形成された小円形の貫通孔(d1)、貫通孔(d5)に鉛筆の芯などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(d3)からろ紙(280)を挿入して前記電極(270)を仕切り、前記電極(270)に電流電圧を印加する。硫酸ナトリウムが電気分解され、ろ紙で仕切った一方の電極側に水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。このような態様の部分横断面図を図11(a)に、貫通孔の平面視した形状を図11(b)に示す。
【0037】
本発明のマイクロスケール実験器具によれば、電極やろ紙を手で把持することなく、貫通孔(d1)、貫通孔(d3)、貫通孔(d5)で電極(270)やろ紙(280)を固定し、安定したマイクロスケール実験を行うことができる。
【0038】
なお、環状突出部(A)、環状突出部(B)、環状突出部(C)、環状突出部(D)は、いずれもその内側に小円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が3つ形成されたものであるが、上記(3−1)〜(3−3)に示すように、同じ形状の貫通孔が形成されたものでも、使用する貫通孔を各種選択することで、異なるマイクロスケール実験を行うことができる。

(3−4)環状突出部(E)
環状突出部(27)の内側に、同径の2つの中円形の貫通孔(15)が形成された環状突出部(E)を有する蓋部(20)を使用して、電気分解と気体の発生を観察するマイクロスケール実験を行うことができる。
【0039】
電気分解と気体の発生を観察するマイクロスケール実験では、従前は、前記図27に示すように、ウェル(E)にマチバリ(220)を指したポリスポイト(210)2本を挿入して行っていたが、本発明のマイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図7のウェル(E)に水酸化ナトリウム水溶液などの電解質溶液を収納し、ウェル(E)の上部を環状突出部(E)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)からそれぞれポリスポイト(210)を挿入する。このような使用例の平面図を図12に示し、その部分横断面図を図13(a)に、使用された蓋部(20)の環状突出部(E)の内側に形成された貫通孔の平面図を図13(b)に示す。
【0040】
図13(a)に示すように、環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)によってポリスポイト(210)がそれぞれ直立に支持されるため、実験者が実験器具を把持することなく、安定してマイクロスケール実験を行うことができる。
【0041】
なお、この実験は、ポリスポイト(210)に変えて三方活栓を装着したシリンジ(210')とマチバリ(220)とを使用して行うこともできる。シリンジ(210')を使用するとメモリが正確であり、より正確な実験を行うことができる。このようなシリンジ(210')を使用した態様を図14(a)、図14(b)に示す。

(3−5)環状突出部(F)、環状突出部(H)
環状突出部の内側に小円形の貫通孔が形成された環状突出部(F)と、環状突出部の内側に大円形の貫通孔が形成された環状突出部(H)とを有する蓋部(20)を使用して、爆鳴気と呼ばれる燃焼実験を行うことができる。
【0042】
従来は、図15(a)に示すように、予めマチバリ(220)などの電極を差し込んだポリスポイト(210)に水酸化ナトリウム水溶液を約3ml入れ、図15(b)に示すようにマルチウェルプレート(10)のウェル(F)に洗剤液を入れ、前記ポリスポイト(210)をウェル(H)に載置し、ポリスポイト(210)の先端を前記ウェル(F)の洗剤液に挿入し、電極に直流電圧を印加し、次いで、ウェル(F)に溜まった気体を洗剤液の泡に閉じ込め、この泡に点火していた。
【0043】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図7のウェル(F)に洗剤液を入れ、ウェル(F)、ウェル(H)の上部を環状突出部(F)、環状突出部(H)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(H)に形成された大円形の貫通孔(h)からウェル(H)にポリスポイト(210)を挿入し、ポリスポイト(210)の先端を環状突出部(F)の貫通孔(f2)から洗剤液を入れたウェル(F)に導入して、実験をすることができる。電極に直流電圧を印加し、ウェル(F)に溜まった気体を洗剤液の泡に閉じ込め、この泡に点火すればよい。この様な使用例の部分横断面図を図16(a)に、貫通孔の平面視した形状を図16(b)に示す。
【0044】
環状突出部(H)の内側に形成された大円形の貫通孔(h)によってポリスポイトの胴部を支持することができ、環状突出部(F)の内側に形成された貫通孔(f2)によってポリスポイトの先端を支持することができ、実験者が実験器具を把持することなく、安定してマイクロスケール実験を行うことができる。

(3−6)環状突出部(G)
環状突出部の内側に弧状の貫通孔と線状の貫通孔とが形成された環状突出部(G)を有する蓋部(20)を使用して、半透膜を使用するダニエル電池の実験を行うことができる。
【0045】
従来は、図17に示すように、ウェル(G)に硫酸銅水溶液をいれ、袋状の半透膜(230)に硫酸亜鉛溶液を入れたものを前記ウェル(G)に立て、銅板(250)を前記硫酸銅溶液に、亜鉛板(240)を前記硫酸亜鉛溶液に立て、銅板(250)と亜鉛板(240)とを電極でつなぎ、起電力を観察していた。
【0046】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図7に示すウェル(G)に硫酸銅水溶液をいれ、ウェル(G)の上部を環状突出部(G)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(G)に形成された弧状の貫通孔(g2)からウェル(G)に亜鉛板(240)が挿入された前記半透膜(230)を挿入し、線状の貫通孔(g1)に銅板(250)を挿入する。この態様の部分断面図を図18(a)に、貫通孔の平面視した形状を図18(b)に示す。
【0047】
前記環状突出部(G)の内側に形成された弧状の貫通孔(g2)によって半透膜(230)を支持し、線状の貫通孔(g1)によって銅板(24)を支持することができ、実験者が実験器具を把持することなく、安定してマイクロスケール実験を行うことができる。

(3−7)環状突出部(I)
環状突出部の内側に中円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が1つ形成された環状突出部(I)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。
【0048】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用し、例えば、図7のウェル(I)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(I)の上部を環状突出部(I)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(I)に形成された中円形の貫通孔(i1)、貫通孔(i3)に炭素棒などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(i2)からろ紙(280)を挿入し、前記電極に電流を流す。硫酸ナトリウムが電気分解され、水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。このような態様の部分横断面図を図19(a)に、貫通孔の平面視した形状を図19(b)に示す。
【0049】
本発明のマイクロスケール実験器具によれば、炭素棒からなる電極(270)やろ紙(280)を手で把持することなく、貫通孔(i1)、貫通孔(i2)、貫通孔(i3)でこれらを固定し、安定した実験を行うことができる。
【0050】
なお、前記したように、環状突出部(D)を使用して指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができるが、環状突出部(D)では小円形の貫通孔(d1、d5)が形成されているため、鉛筆の芯などの細い電極を支持するのに適し、環状突出部(I)は、中円形の貫通孔(i1、i2)が形成されているため、炭素棒などの鉛筆の芯より太い電極の支持に好適に使用することができる。
【0051】
本発明のマイクロスケール実験器具によれば、適宜貫通孔を選択することで、使用する実験器具のサイズなどに合わせたマイクロスケール実験を行うことができる。

(3−8)環状突出部(J)
環状突出部の内側に2つの中円形の貫通孔が形成された環状突出部(J)が形成された蓋部を使用して塩化銅水溶液の電気分解の実験を行うことができる。
【0052】
従来は、図20に示すように、ウェル(J)に塩化銅水溶液を入れ、ウェル(J)とウェル(K)との縁を利用して炭素棒などの棒状の(+)電極を固定し、ウェル(J)とウェル(I)との縁を利用して棒状の(−)電極で固定し、(+)電極では、気体の発生を観察し、(−)電極では、付着物の発生を観察していた。
【0053】
本発明のマイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図7のウェル(J)に塩化銅水溶液を入れ、ウェル(J)の上部を環状突出部(J)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(J)に形成された中円形の貫通孔(j1)、貫通孔(j3)からウェル(J)に電極(270)を挿入して、電極を固定することができる。このような使用例の部分断面図を図21(a)に、貫通孔の平面視した形状を図21(b)に示す。
【0054】
環状突出部(J)の内側に形成された中円形の貫通孔(j1,j3)によって電極を安定して支持し、ウェル(J)の塩化銅水溶液中で(+)電極と(−)電極とが接触するのを防止することができる。

(3−9)全開の環状突出部
本発明のマイクロスケール実験器具を構成する蓋部は、前記貫通孔として、ウェルの直径と同じものを含んでいてもよい。前記図7では、各ウェルに対応する環状突出部の全てが貫通孔を有する態様を示すが、これに限定されるものではなく、ウェルの直径と同じものや、更にはウェルの直径よりもやや大きなものを含んでいてもよい。マイクロスケール実験の種類によってはウェルと同径の実験器具を使用する場合があり、ウェルの直径より小さいサイズの貫通孔が不適切な場合もあるからである。

(3−10)貫通孔のない環状突出部
本発明のマイクロスケール実験器具を構成する蓋部は、特定のウェルに対抗する位置に、貫通孔がないものを含む場合であってもよい。前記図4では、各ウェルに対応する位置の全てに貫通孔が形成される態様を示すが、全てのウェルの上部に貫通孔が形成される必要はない。すなわち、少なくとも1つのウェルの上部に貫通孔があればよい。例えば、蓋部(20)に環状突出部(27)が形成される場合には、蓋部(20)の特定のウェルに対向する環状突出部(27)の内側に貫通孔が形成されないものを含んでいてもよい。
【0055】
このような環状突出部(27)を有する蓋部の部分横断面図を図22(a)に示す。図22(a)では、図4と同様にウェル(15)の上端部の外側に環状に突出するように環状突出部(27)が形成されている。なお、環状突出部(27)は、図22(b)に示すように、ウェル(15)の上端部の内側に環状に突出するように形成されるものであってもよい。
【0056】
また、貫通孔のない態様として、図22(c)に示すように、ウェルの上端部の外周に嵌入する凸部(26)が形成されるものであってもよい。更にこの態様で、ウェル(15)の上端部の外側に環状に突出する環状突出部(27)が存在してもよい。なお、図22(c)では、ウェル(15)の上端部の外側に環状に突出する環状突出部(27)の無い態様を示す。いずれの態様であっても、ウェルの上端部を被覆し、粉塵その他の侵入を防止し、溶液の蒸発などを防止し、かつウェルと蓋部とが嵌合するため、ガタツキを回避することができる。なお、前記したように、環状突出部(27)は、ウェル(15)の上端部のガタツキを防止し、または液密を確保できれば、環状に限定されるものではない。また、環状突出部は、蓋部の特定のウェルの上端部に対向する箇所に形成されなくてもよい。

(4)小蓋部付き蓋部
本発明の第二は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部とからなるマイクロスケール実験器具であり、前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に装着用貫通孔が形成される蓋部本体と、前記装着用貫通孔に脱着可能に嵌合される小蓋部とからなり、少なくも1つの前記小蓋部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具である。
【0057】
第一の発明との相違は、前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部の前記ウェルと対向する位置に、ウェルの直径と略同形の装着用貫通孔が形成される蓋部本体と、前記装着用貫通孔に脱着可能な小蓋部とからなる点である。
【0058】
小蓋部の形状は、前記装着用貫通孔に係止できる形状であれば特に限定はなく、例えば、装着用貫通孔と略同形の平板であり、これに図4などに示す貫通孔が形成されるものを例示することができる。
【0059】
図23に、このような小蓋部(30)が装着された本発明のマイクロスケール実験器具の好適な態様の一例を示す。なお、図23(a)は、例えば3×4に配列されたマルチウェルプレートに装着するマイクロスケール実験器具であって、蓋部本体(20')に形成された装着用貫通孔(28)に円盤型の小蓋部(30)が装着されたものの平面図であり、図23(b)は図23(a)のX−X'線での横断面図である。なお、図4との相違を明確にするため、小蓋部(30)に形成する貫通孔は、図4と同じものを採用した。
【0060】
図23(a)、図23(b)に示すように、蓋部本体(20')には各ウェルに対向する位置に、ウェルの直径と略同形の円形の貫通孔からなる装着用貫通孔(28)が形成され、この装着用貫通孔(28)に脱着可能に円盤状の小蓋部(30)が嵌合されている。
【0061】
図23(b)の部分拡大図を図24(a)に示す。蓋部本体(20')には、ウェルの直径と略同形の装着用貫通孔(28)が形成され、前記装着用貫通孔(28)の内周には、フランジ(32)が形成され、小蓋部(30)が載置される。
【0062】
一方、小蓋部(30)の形状は、平板に限定されるものではない。例えば、平板の小蓋部(30)に、前記装着用貫通孔(28)に挿入しうる環状突出部(37)が形成されるものであってもよい。この態様を図24(b)に示す。略円盤状の平板の下側に、前記装着用貫通孔(28)の内周に嵌合できるように環状突出部(37)が形成されている。小蓋部(30)に環状突出部(37)が形成されている場合には、前記蓋部本体(20')の装着用貫通孔(28)にフランジを形成することなく、蓋部本体(20')に安定して小蓋部(30)を嵌合させることができる。
【0063】
本発明では、このように小蓋部(30)と蓋部本体(20')と脱着自在に構成することで、マイクロスケール実験に好適な貫通孔を自在に選択することができ、マルチウェルプレートにおけるウェル使用方法の自由度を向上させることができる。
【0064】
なお、前記小蓋部(30)は、少なくともマルチウェルプレートの1つのウェルに対向する位置にあればよいが、全てのウェルの上部に形成されるものであってもよい。また、小蓋部(30)に形成する貫通孔(35)の形状は、前記図4に例示するものが好適であるが他の形状であってもよく、マイクロスケール実験部材に応じて適宜選択することができる。

(5)足つき蓋部
本発明の第三は、試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと、前記ウェルに挿入する足つき蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、前記足つき蓋部は、天面部と側面部とからなり、前記足つき蓋部の天面部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具である。
【0065】
第二の発明との相違は、足つき蓋部が、マイクロウェルプレートの全面を被覆するものではなく、各ウェルの上部を被覆する点にある。図25(a)に、図1に示すマルチウェルプレートの1つのウェルに装着する足つき蓋部(40)の平面図、図25(b)、図25(c)にウェル(15)に他の足つき蓋部(40)を挿入した態様の横断面図を示す。
【0066】
図25(b)で示すように、足つき蓋部(40)は、天面部(41)と側面部(43)とからなり、天面部(41)に貫通孔(45)が形成されている。側面部(43)の高さは、ウェル(15)の深さと同じである必要はなく、マイクロスケール実験における実験部材を支持できるものであれば、これよりも短くても長くてもよい。
【0067】
天面部(41)の形状は、ウェルと同形かこれより小型である場合には、図25(b)に示すように、足つき蓋部(40)をウェルの内周に挿入することができる。
一方、天面部(41)の形状が、ウェルの上端部よりも大型である場合には、ウェルの上端部に載置することができる。例えば、天面部(41)の外周をフランジとして機能させ、このフランジを介してウェル(15)の上端部に載置するものであってもよい。この態様を図25(c)に示す。この際、図25(c)に示すように、このフランジの下方に、短い側面部(43)を形成するものであってもよい。この側面部(43)を足としてウェルに嵌合し、固定することができる。
【0068】
なお、足つき蓋部(40)の天面部(41)の形状は、ウェルと同形である場合に限定されず、異なる形状であってもよい。足つき蓋部(40)がウェルの内周に挿入できる場合であっても、円柱状のウェルと同形である必要はない。例えば、ウェルが円柱形である場合に、挿入する足つき蓋部(40)が、方形の天面部(41)を有するものであってもよい。
【0069】
本発明において、前記足つき蓋部(40)は、少なくともマルチウェルプレート(10)の1つのウェル(15)に装着できればよく、全てのウェルに装着されるものに限定されない。マルチウェルプレート(10)に形成された複数のウェルが、異なる直径で形成される場合には、それぞれの直径に対応する足つき蓋部(40)を複数配備することで、ウェル使用の自由度を向上させることができる。
【0070】
本発明において、足つき蓋部(40)に形成する貫通孔(45)の形状は、前記図4に例示するものが好適であるが、他の形状であってもよく、マイクロスケール実験部材に応じて適宜選択することができる。

(5)製造方法
本発明のマイクロスケール実験器具は、マルチウェルプレート(10)と蓋部(20)とからなり、射出成型や真空整形、プラスチックシート成型などで製造することができる。蓋部が、小蓋部付き蓋部(30)や足つき蓋部(40)である場合も同様である。
【0071】
また、天面部と側面部とからなる既存のプラスチックケースに、切削加工や抜き打ち加工などで貫通孔を形成して調製することができる。特に、射出成型やシート成型によれば、安価に製造することができる。
【0072】
本発明のマイクロスケール実験器具を構成する部材としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ABS、ASなどを例示することができる。

(6)マイクロスケール実験キット
本発明の第四は、前記マイクロスケール実験器具が収納された、マイクロスケール実験キットである。
【0073】
マイクロスケール実験は、各学年に適した実験を構成することができ、前記した水の電気分解と爆鳴気、ダニエル電池、塩化銅水溶液の電気分解の他にも指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験などが例示できる。本発明では、このようなマイクロスケール実験に使用する試薬や部材と、上記マイクロスケール実験器具とを収納し、マイクロスケール実験キットとすることができる。前記マイクロスケール実験器具としては、本発明の第一のマルチウェルプレートとその全面を被覆する蓋部とからなるマイクロスケール実験器具を使用してもよく、第二の小蓋部付き蓋部が使用されたマイクロスケール実験器具や、第三の足つき蓋部が使用されたマイクロスケール実験器具のいずれであってもよく、これらを併用してもよい。
【0074】
マイクロスケール化学の実験例として、水の電気分解実験および爆鳴気として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、ポリピペット、ステンレス待ち針、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質、石鹸水を使用する。また、体積比に関する実験としては、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、注射器A、注射器B、ステンレス針、ゴム管、三方活栓、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質を使用する。また、ダニエル電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、半透膜、硫酸銅水溶液、硫酸亜鉛水溶液、電圧計、メロディを使用する。また、鉛蓄電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、鉛板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、ボルタ電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、炭素棒、硫酸ナトリウム、BTB、フェノールフタレイン溶液を使用する。本発明の好適なマイクロスケール実験キットの斜視図を、図28に示す。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、従来のマイクロスケール実験に使用するマルチウェルプレートとして、ウェルの上部に所定形状の貫通孔が形成された蓋部を装着してマイクロスケール実験器具とすることができ、安価に操作性に優れるマイクロスケール実験キットを調製することができ、有用である。
【符号の説明】
【0076】
10・・・本発明で使用しうるマルチウェルプレート、
11・・・マルチウェルプレートの底面部、
15・・・中空柱状のウェル、
16・・・マルチウェルプレートの側壁部、
17・・・マルチウェルプレートの天面部、
20・・・蓋部、
20'・・・蓋部本体、
21・・・蓋部の天面部、
22・・・蓋部に小蓋部が形成される場合のフランジ、
23・・・蓋部の側面部、
25・・・蓋部の貫通孔、
27・・・蓋部の環状突出部、
28・・・蓋部本体(20')の装着用貫通孔、
30・・・蓋部に嵌合される小蓋部、
35・・・小蓋部に形成される貫通孔、
37・・・小蓋部に形成される環状突出部、
40・・・足つき蓋部、
41・・・足つき蓋部の天面部、
43・・・足つき蓋部の側面部、
45・・・足つき蓋部の貫通孔、
200・・・マルチウェルプレート、
201・・・ウェル、
203・・・水酸化ナトリウム水溶液、
210・・・ポリスポイト、
220・・・マチバリ,
230・・・半透膜、
240・・・亜鉛板、
250・・・銅板、
260・・・塩橋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、
前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具。
【請求項2】
前記蓋部は、全てのウェルに、前記貫通孔が形成されるものである、請求項1記載のマイクロスケール実験器具。
【請求項3】
試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部とからなるマイクロスケール実験器具であり、
前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に装着用貫通孔が形成される蓋部本体と、前記装着用貫通孔に脱着可能に嵌合される小蓋部とからなり、
少なくも1つの前記小蓋部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具。
【請求項4】
前記小蓋部は、全てのウェルの上部に形成されることを特徴とする、請求項3記載のマイクロスケール実験器具。
【請求項5】
前記蓋部は、少なくも1つの前記ウェルと対向する位置に、ウェルに嵌入する凸部が形成されることを特徴とする、請求項1または3に記載のマイクロスケール実験器具。
【請求項6】
試料を収納する中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートと、前記ウェルに挿入する足つき蓋部とからなる、マイクロスケール実験器具であり、
前記足つき蓋部は、天面部と側面部とからなり、
前記足つき蓋部の天面部には、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔が形成されることを特徴とする、マイクロスケール実験器具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロスケール実験器具が収納された、マイクロスケール実験キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−16069(P2011−16069A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161904(P2009−161904)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】