説明

マイクロプレートおよび分離方法

【課題】本発明の目的は、検体中の目的物質を高効率でハイスループットに分離することが可能なマイクロプレートおよびそのマイクロプレートを用いた分離方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のマイクロプレートは、少なくとも1つのウェル部材を有するマイクロプレートであって、前記ウェル部材の側面に側面開口部が形成され、かつ前記側面開口部を覆うように設置されたフィルター部材が配置されていることを特徴とする。また、本発明の分離方法は、上記に記載のマイクロプレートを用いることにより、検体中の目的物質を分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプレートおよび分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプレートは生化学分野でよく利用されているデバイスであり、その形態は、シングルウェル、マルチプルウェルがある。マルチウェルプレートは、8、16、24、48、96、384個の容器(ウェル)を有する形態が典型的である。一般的にマイクロプレートは、単に液体を入れる容器(ウェル)として用いるだけでなく、その容器(ウェル)内で種々の生化学反応を行うことに広く利用されている。マルチプルウェル形態をとることによりハイスループットが可能である。
【0003】
マイクロプレートを利用する具体例な使用例として、ELISA反応が挙げられる。例えば96個の容器(ウェル)を有する場合、最大96種類のタンパク質を検出することが可能である。
【0004】
また、容器(ウェル)の底面に透析膜を導入することによって、透析を行うことも可能である。例えば96個の容器(ウェル)を有する場合、最大96種類の透析を行うことが可能である。
【0005】
マイクロプレートの容器(ウェル)部の底面に透析膜を導入することによって、ハイスループットで透析が可能となるが、容器(ウェル)の底面積によって透析効率が左右される。即ち、より透析効率を向上させるためには、容器(ウェル)の底面積を大きくする必要があるが、そのためにはプレートに含まれる容器(ウェル)の数を減らす必要があり、同時に処理できる透析の種類が限られてしまう。
【0006】
特許文献1では、容器(ウェル)部の底面に透析膜を導入したマイクロプレートが記載されている。このマイクロプレートでは容器(ウェル)の数を96個とした場合、容器(ウェル)底面の全面に透析膜を導入したとしても、1容器(ウェル)あたりの透析膜の面積はおよそ24mmとなり、高効率で透析を行うには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−181567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、検体中の目的物質を高効率でハイスループットに分離することが可能なマイクロプレートおよびそのマイクロプレートを用いた分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(11)に記載の本発明により達成される。
(1)少なくとも1つのウェル部材を有するマイクロプレートであって、前記ウェル部材の側面に側面開口部が形成され、かつ前記側面開口部を覆うように設置されたフィルター部材が配置されていることを特徴とするマイクロプレート。
(2)さらに前記フィルター部材を保持する保持部材を有するものである上記(1)に記載のマイクロプレート。
(3)前記保持部材は、側面に開口部を有するものである上記(2)に記載のマイクロプレート。
(4)前記保持部材は、前記ウェル部材の内側に配置され、前記ウェル部材との間でフィルター部材を狭持するものである上記(2)または(3)に記載のマイクロプレート。
(5)前記ウェル部材は、底部に底部開口部を有するものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のマイクロプレート。
(6)前記フィルター部材は、透析膜である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のマイクロプレート。
(7)前記透析膜は、100〜100,000ダルトンの範囲のカットオフ分子量を有するものである上記(6)に記載のマイクロプレート。
(8)前記マイクロプレートの少なくとも一部が、樹脂材料で被覆されているものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のマイクロプレート。
(9)前記樹脂材料が、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有するものである上記(8)に記載のマイクロプレート。
(10)前記樹脂材料が、プロピレングリコールを含むことを特徴とする上記(8)または(9)に記載のマイクロプレート。
(11)上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のマイクロプレートを用いることにより、検体中の目的物質を分離することを特徴とする分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検体中の目的物質を高効率でハイスループットに分離することが可能なマイクロプレートおよびそのマイクロプレートを用いた分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のマイクロプレートの分解斜視図である。
【図2】ウェルの分解斜視図である。
【図3】ウェル部材の断面図である。
【図4】ウェルの斜視図である。
【図5】保持部材の断面図である。
【図6】ウェルの側面図である。
【図7】ウェルの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のマイクロプレートについて詳細に説明する。
本発明のマイクロプレートは、少なくとも1つのウェル部材を有するマイクロプレートであって、前記ウェル部材の側面に側面開口部が形成され、かつ前記側面開口部を覆うように設置されたフィルター部材が配置されていることを特徴とする。
また、本発明の分離方法は、上記に記載のマイクロプレートを用いることにより、検体中の目的物質を分離することを特徴とする。
【0013】
(マイクロプレート)
まず、本発明のマイクロプレートについて、好適な図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明のマイクロプレートの分解斜視図である。また、図2は、本発明のマイクロプレートのウェルを説明するための分解斜視図である。
【0014】
<第1実施形態>
図1に示すように、マイクロプレート100は、板状のプレート本体1を有し、プレート本体1には、複数のウェル2(第1実施形態では、24個のウェル2)が形成されている。第1実施形態では、24個のウェル2が4行×6列で配置されている。
【0015】
図2に示すように、それぞれのウェル2は、先端(図2中の下端)に向かって縮径する円筒状のウェル部材21と、フィルター部材3と、保持部材4によって形成されている。
【0016】
ウェル部材21は、筒状の基部211と、側面に設けられた2本の支持部212と、底板213とを有し、基部211と、底板213とが支持部212を介して支持されている。支持部212に隣接して、ウェル部材21の側面に側面開口部214が設けられている(図3)。
【0017】
上述したようなプレート本体1を構成する材料としては、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびポリカーボネートの中から選ばれる1以上の樹脂が好ましい。これにより、マイクロプレート100の透明性を向上することができる。
【0018】
ウェル部材21の側面にある側面開口部214の開口率は、特に限定されないが、ウェル部材21の側面の30%以上であることが好ましく、特に40〜70%であることが好ましい。開口率が前記範囲内であると、特に検体中の目的物質を高効率で分離することができ、かつマイクロプレート100の強度にも優れる。
【0019】
この側面開口部214を覆うようにフィルター部材3が設けられる。フィルター部材3は、ウェル部材21と、保持部材4との間に狭持されている。これにより、フィルター部材3を接着剤等を用いること無く、固定することができ、不純物の混入等を防止することができる。
【0020】
本発明では、上述したように側面開口部214を設け、その側面開口部214を覆うようにフィルター部材3が設けられている。したがって、ウェル部材21の底面のみに透析膜等を設けるのに比較して大面積のフィルター部材3を配置することができ、それによって、フィルター効率(透析効率)を向上させることができる。
【0021】
また、フィルター部材3としては、例えばセルロースアセテート、再生セルロース膜等のセルロース系透析膜、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート等の合成高分子系透析膜等の透析膜、濾紙等が挙げられる。これらの中でも透析膜が好ましい。これにより、安定して目的物質を分離することができる。
【0022】
また、前記透析膜は、特に限定されないが、100〜100,000ダルトンの範囲のカットオフ分子量を有するものであることが好ましく、特に1,000〜50,000ダルトンの範囲のカットオフ分子量を有するものであることが好ましい。前記範囲内であると、特に目的物質の分離効率に優れる。
【0023】
図4に示すように、側面開口部214を有するウェル部材21と、保持部材4とでフィルター部材3を挟持できるように、保持部材4が配置される。
【0024】
保持部材4は、ウェル部材21と同様に、先端に向かって縮径する円筒状である。保持部材4は、筒状の基部41と、側面に設けられた2本の支持部42と、底板43とを有し、基部41と、底板43とが支持部42を介して支持されている。支持部42に隣接して、保持部材4の側面に側面開口部44が設けられている(図5)。
【0025】
保持部材4の内径は、ウェル部材21に挿入して、フィルター部材3を挟持するために、ウェル部材21の外径よりも大きくなっている。このように、フィルター部材3を狭持するだけなので、フィルター部材3の選択が容易となる。
【0026】
ここで、ウェル部材21の支持部212と、保持部材4の支持部42とが重なるようにして、フィルター部材3を狭持することが好ましい。これにより、側面の開口部を大きくすることができ、それによってフィルター効率をより向上することができる。
【0027】
このような保持部材4の側面開口部44の開口率は、特に限定されないが、保持部材4の側面の30%以上であることが好ましく、特に40〜70%であることが好ましい。開口率が前記範囲内であると、特に検体中の目的物質を高効率で分離することができ、かつマイクロプレート100の強度にも優れる。
【0028】
このような保持部材4を構成する材料としては、プレート本体1と同様のものを用いることができる。
【0029】
上述したプレート本体1は、特に限定されないが、その少なくとも一部(特にウェル2の内部)が樹脂材料で被覆されているものであることが好ましい。これによりプレート本体1への目的物質の吸着を抑制することができる。
また、保持部材4もその表面が樹脂材料で被覆されていることが好ましい。これにより、保持部材4への目的物質の吸着を抑制することもできる。
【0030】
前記樹脂材料としては、例えばポリエチレングリコールを含むもの、ポリメトキシエチルアクリレートを含むもの、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有するもの等が挙げられる。これらの中でもリン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有するものであることが好ましい。これにより、プレート本体1への目的物質の吸着を抑制できる。
また、プロピレングリコールを含むことが好ましい。これにより、プレート本体1への目的物質の吸着を特に抑制できる。
【0031】
このような側面に側面開口部214を有し、その側面開口部214を覆うように設けられたフィルター部材3を有するウェル部材21を備えたマイクロプレート100は、フィルター効率(透析効率)に優れているものである。
【0032】
なお、本実施形態では、ウェル部材21の外側にフィルター部材3が配置され、フィルター部材3がウェル部材21と保持部材4との間に狭持されるものについて説明したが、これに限定されず、ウェル部材21の内側にフィルター部材3が配置されるようにウェル部材21と保持部材4とが構成されているものでも構わない。
【0033】
(分離方法)
本発明のマイクロプレート100の使用方法(分離方法)の一例(検体をウェル2の内部に充填し、目的物質以外の物質をマイクロプレート100の外側に排出する例)について説明する。
まず、図1に示すプレート本体1の円筒状のウェル部材21に、フィルター部材3および保持部材4を設置する。これにより、複数のウェル2が形成されたマイクロプレート100が得られる。なお、フィルター部材3は、目的物質の分子量に応じて適宜決定する。
【0034】
次に、各ウェル2に、例えばピペット等を用いて目的物質を含む検体(例えば目的物質として抗体、抗原を含むようなタンパク溶液等)を、フィルター部材3の上面が隠れる程度に充填する。ここで、各ウェル2には、全て同じ検体を充填しても異なる検体を充填しても良いが、異なる検体を充填することが好ましい。これにより、複数の検体を同時に処理することができる。
【0035】
次に、マイクロプレート100が載置可能な角シャーレ(不図示)に、展開液(例えば各種緩衝液等)を添加する。この展開液を添加された角シャーレに各ウェル2に検体が充填されたマイクロプレート100を浸す。ここで、展開液の体積は、マイクロプレート100の各ウェル2中に充填される検体液の体積の500〜1000倍とすることが好ましい。ここで、展開液は、最初の数時間は1〜2時間毎に交換することが好ましい。展開液が添加された角シャーレにマイクロプレート100を24時間以上静置する。これにより、各ウェル2内部の検体がフィルター部材3により透析され、検体中の目的物質のみがウェル2内部に残存するようになる。
【0036】
そして、マイクロプレート100を、角シャーレから取り出し、ウェル2内部に残っている目的物質を、ピペット、ディスペンサー等で取り出し、測定、評価等に用いる。ここで、本発明のマイクロプレート100は、フィルター部材3の面積が大きいため分離効率に優れるものである。
【0037】
<第2実施形態>
次に、図6を用いて第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明する。
図6に示すマイクロプレート100は、保持部材4を用いない以外は第1実施形態と同様である。
図6に示すように、フィルター部材3は、ウェル部材21の側面開口部214の外側に接着または融着されている。接着する方法としては、例えばエポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて接着する。融着する方法としては、例えば熱融着、超音波融着、高周波融着等で融着する。これらの中でも融着する方法が、接着剤等による第3成分の影響を低減することができる点で好ましい。
【0038】
<第3実施形態>
次に、図7を用いて第3実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明する。
図7に示すウェル部材21は、ウェル部材21の底板213にも開口部215が設けられ、保持部材4の底板43にも開口部45が設けられ、その開口部215、43を円形状のフィルター部材31で覆っている以外は第1実施例と同様である。これにより、フィルター部材の面積が増えるので、検体中の目的物質を分離する分離効率をより向上することができる。ここで、フィルター部材3とフィルター部材31とは、同じであることが好ましい。これにより、目的物質の分離をより効率良く実施できる。
さらに、上述したような実施形態の場合、展開液がフィルター部材3を覆わない場合であっても、フィルター部材31(下部のみ)により目的物質を分離することが可能となる。
【0039】
以上、説明したように本発明のマイクロプレート100は、フィルター部材の面積が大きいものであり、検体中の目的物質を高効率でハイスループットに分離することができるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 プレート本体
2 ウェル
21 ウェル部材
211 基部
212 支持部
213 底板
214 側面開口部
215 開口部
3 フィルター部材
31 フィルター部材
4 保持部材
41 基部
42 支持部
43 底板
44 側面開口部
45 開口部
100 マイクロプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウェル部材を有するマイクロプレートであって、
前記ウェル部材の側面に側面開口部が形成され、かつ前記側面開口部を覆うように設置されたフィルター部材が配置されていることを特徴とするマイクロプレート。
【請求項2】
さらに前記フィルター部材を保持する保持部材を有するものである請求項1に記載のマイクロプレート。
【請求項3】
前記保持部材は、側面に開口部を有するものである請求項2に記載のマイクロプレート。
【請求項4】
前記保持部材は、前記ウェル部材の内側に配置され、前記ウェル部材との間でフィルター部材を狭持するものである請求項2または3に記載のマイクロプレート。
【請求項5】
前記ウェル部材は、底部に底部開口部を有するものである請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項6】
前記フィルター部材は、透析膜である請求項1ないし5のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項7】
前記透析膜は、100〜100,000ダルトンの範囲のカットオフ分子量を有するものである請求項6に記載のマイクロプレート。
【請求項8】
前記マイクロプレートの少なくとも一部が、樹脂材料で被覆されているものである請求項1ないし7のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項9】
前記樹脂材料が、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有するものである請求項8に記載のマイクロプレート。
【請求項10】
前記樹脂材料が、プロピレングリコールを含むことを特徴とする請求項8または9に記載のマイクロプレート。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載のマイクロプレートを用いることにより、検体中の目的物質を分離することを特徴とする分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189270(P2011−189270A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57218(P2010−57218)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】