説明

マイクロミキサー

【課題】本発明は、μTAS(MicroTotal Analysis System)に代表されるマイクロ流体素子における流体混合操作に関して、特別な攪拌子を配置せずとも流路形状のみで効果的な混合が進むスタティックマイクロミキサーの流路構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】合流後の流路(主流流路 1)の左右一方の側を主流流路の底部よりさらに深く掘りこみ、下流にむけて、主流流路の左右別の側まで斜めに掘り込む流路(支流流路 2)を適切な形状寸法で形成することによって、流路形成領域を流れる流体の流動断面が縦横に伸縮回転し重ね合わさる効果を起こさしめ、混合流路の下流に向けて、この効果を繰り返し起こさせることによって、流体要素の層間距離を縮小し混合を促進する手段をとる。図2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体(数μm 〜数100μmオーダーの流路寸法を流れる流体)の混合操作(マイクロミキシング)において、その混合操作部の構造およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学分析装置、生化学分析装置等の小型化を目的としたμTAS(μ Total Analysis System)が注目され、遺伝子分析チップ、化学合成チップ、生化学合成チップ、環境分析チップ等への応用が期待されている。これらの小型化が実現すると、従来の分析装置と比較して試料、試薬、廃液等の少量化、測定時間の短縮、システム全体の消費電力の低減、低コスト化、携帯性等の有益性が期待されることから、多種多様な研究が行われている。これらの分析システムの構成要素の一つに、微小領域で混合を行うためのマイクロミキサーがある。一方、マイクロ流路(マイクロチャネル)では、チャネルの寸法、流速が共に小さいことから、レイノルズ数が200以下程度である事例が多い。レイノルズ数が小さい場合、マイクロチャネル内において乱流が起こりにくく、層流が支配的となる。したがって、流体の混合は、流体同士の接触界面による拡散混合が主となり、単に合流させるだけでは、効率的な混合ができない。
【0003】
この混合を効率的に行うために、たとえば、特許文献1では、マイクロ流路の底面・側面に斜めの凹凸を配置した流路によって、また特許文献2では、流路内部に螺旋の突起(または凸凹状螺旋)をつけた流路によって、ともに流体の螺旋流れを生み出し混合効率を上げる方法が提案されている。また特許文献3では、主流とは別に製作された支流から流体を流入させカオス混合による混合効率の向上が述べられている。
【特許文献1】特開2005-199245
【特許文献2】特開2006-142210
【特許文献3】特許第3629575
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来提案されてきた文献1に示される断続的に形成された凹凸溝や、文献2に示される主流内部につけられた凹凸状の螺旋溝のみでは、螺旋流れが起こるが、混合効率が小さいという問題がある。また文献3の方法では、複数の支流流路と流体制御のためのポンプが必要になり、分析機器に求められる小型化・低コスト化とはならない問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、安価で混合効率が大きいマイクロミキサーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、マイクロ流路の主流流路から分岐した別の連続的な支流流路を主流流路の下部に形成することで、主流と支流が流れ方向に大きく交互に流体移動を繰り返す手段を提案する。この手段によれば、流動方向の流動断面の引きのばしと折りたたみが繰り返し起こり、流体層間の距離が指数関数的に減少する。図2は層間距離の減少の様子を示したものである。すなわち、同図の1〜7の順番に断面の伸縮と回転重ね合わせの操作を繰り返す場合を考える。支流流路の効果はどの場合も同じであるので、1→2と同じ回転操作を繰り返すこととみなせる。ここで、1→2の操作は、1の着色領域を縦に伸ばし横に縮小し、2の着色領域に並行に移り、また1の白領域は、縦に伸びて横に縮小させた白領域を180°回転させて着色領域の右に合わせる操作である。以上のように、一回の操作で、層間距離は1/2となるので、n番目には層間距離はもとの(1/2)n-1となる。n=7では、(1/2)6=1/64となる。
【0007】
また、本発明においては、主流と支流を機械的加工手段(除去加工または成形加工)によって製作することから、深さ方向に変化をもたせた3次元流路構造を、簡単に短時間に作ることができる。また構造変化も簡単に変更でき、特許文献1に提示された半導体露光プロセスを応用した製造方法に比べ、製作コストを小さくできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、主流から分岐する別の支流流路によって、主流の流体要素の引き伸ばしと折りたたみが起こり、この操作を繰り返すことで、流体要素の層間距離を減少させ、短時間に拡散が促進される。その結果、マイクロミキサーの小型化を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
混合操作の実施には、Y字ミキサーと呼ばれる混合流路を基準とし、Y字ミキサーの主流流路1から分流する形で支流流路3を主流流路の下部に形成した。ここでY字ミキサーとは、2種類の液体を2本の入り口から流入させ、1本に合流させて混合し、所定長さの混合部を経て、排出するものである。図1。
【0010】
ミキサーの性能評価は、異なる色のついた2種類の液体(赤色と白色)を2本の入口にシリンジポンプで流入させ、混合部を通過中の色の入れ替わり(回転)を調べる方法(特許文献1)と、混合程度を画像数値データ(RGB数値)により定量化する方法で行った。画像数値データの定量化の方法は、混合部以前の色データを0,1の数値に規格化し、混合後の画像数値データの標準偏差を計算して行った。完全な分離であれば標準偏差s=0.5であり、完全混合の場合、標準偏差s=0である。なお色のついた溶液は、水溶性絵の具の赤と白を純水9ccに1g添加して作成した。溶液の動粘性係数νをオストワルド相対粘度計で測定したところ、白溶液は1.64 mm2/sであり、赤溶液では1.43 mm2/sであった(レイノルズ数計算には、平均1.50 mm/sを動粘性係数として用いた)。
【0011】
これらの溶液をマイクロシリンジポンプで使用し、流体流入路2の各々に流量13mm/minの流体を流入させ、主流流路1を流れる流体流量の合計が26mm/minになるようにした。この流量をマイクロミキサーの流路寸法から平均流速を計算すると、幅200μm深さ50μmでは、約43mm/sであり、幅200μm深さ100μmの流路では流速21.6mm/sである。また、この場合のレイノルズ数は、それぞれ3.9と3.2となる。ただし、チャネル代表寸法はそれぞれ133μm、80μmである。
【実施例1】
【0012】
主流流路1から分流した支流流路3の混合効果(色混合の定量化と回転程度)を調べた。支流流路は主流の下部位置に切削加工により形成し、Y字ミキサーの合流点から2mmの位置から10mmの間に20本(ピッチは0.5mm)支流流路を形成した。このミキサーに、流量26mm/min一定条件で前述した赤白の溶液を流した。また主流と支流、それぞれの流路深さの組合せ効果を調べた。表1は、主流流路の流路深さMdと支流流路の流路深さSdの組合せ実験を示す。
表1.主流流路の深さMdと支流流路の深さSdの組合せ実験表

【0013】
図3は、主流流路深さと支流流路深さの組合せにおける混合程度を示す。図にみられるように、Md=50μm、Sd=100μmの組合せが最も混合している。さらに、主流流路幅200μm、支流流路幅100μmを考慮し、主流流路断面積Sm、支流流路断面積Ssで評価すると、Sm/Ss≦1で混合が適当である。
【0014】
(比較例1)
比較例1では、支流流路を設けないY字ミキサーである。流路幅200μm、深さ50μmである。
【0015】
(比較例2)
比較例2は、特許文献1(実施例1)のマイクロミキサーである。
【0016】
(評価)
図4は、Md=50μm Sd=100μm の条件における、混合状況を示す。またY字ミキサーも同様に示す。上下の入れ替わり(0.5回転)に要する流路長さは、1.0mmである。なお比較例1でのY字ミキサーでは、回転しない。
【0017】
比較例2では、14mmで2回転であること(特許文献1の実施例1)から、0.5回転に要する長さは、3.5mmと計算できる。これは、本発明の1.0mmの3.5倍の長さを要することが分かる。
【0018】
以上のことから、主流流路とは別に形成された支流流路が、マイクロ流体の混合に有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、混合効率が大きいという基本性能に加え、構造が簡単で安価に製造が可能であるということから、医療診断用分析機器、医薬用製造装置、化学分析機器への広い応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のマイクロミキサー(Y字ミキサーに支流流路を付与したもの)の一例を示す概略平面図および支流流路の概略構造図である。
【図2】流動断面の変換の繰り返しによる混合メカニズムを示す図である。
【図3】実施例1における混合程度(標準偏差)を示す図である。
【図4】実施例1および比較例1(支流流路を設けないY字ミキサー)における流動状況を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1.主流流路
2.入口流路
3.支流流路
4.角取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板上に製作した複数の流路を合流させ混合させる凹状流路において、合流後の流路(主流流路 1)の左右一方の側を主流流路の底部よりさらに深く掘りこみ、下流にむけて、主流流路の左右別の側まで斜めに掘り込む流路(支流流路 2)を形成したことを特徴とするマイクロミキサー。
【請求項2】
前記平板上に形成された流路断面について、主流流路断面積Sm、支流流路断面積Ssとするとき、Sm/Ss≦1であることを特徴とするマイクロミキサー。
【請求項3】
前記主流流路から支流流路への分岐領域および支流流路から主流への合流領域にそれぞれ流動抵抗をより小さくするための角取り領域を設けたことを特徴とするマイクロミキサー。
【請求項4】
これら主流流路、支流流路、分岐領域と合流領域の角取り部を、機械的除去加工(切削加工、研作加工)あるいは工具・型プレスによる成形加工あるいは金型射出成形あるいは、これら加工の組合せによって製作することを特徴とするマイクロミキサーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212882(P2008−212882A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56475(P2007−56475)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】