説明

マクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出する方法

【課題】 本発明は、ジアセチルポリアミンとマクロファージの浸潤及び血管形成との新たな関係を見出し、この関係を利用して、ジアセチルポリアミンの診断用マーカーとしての新たな適用を提供する。
【解決手段】(1)試料中のジアセチルポリアミンを測定し、ヒトを含む動物における、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出する方法、(2)治療中の患者由来の試料を使用し、ジアセチルポリアミンの測定値又はその経時変化に対応したマクロファージの浸潤と血管形成の度合を基に、治療効果や予後の予測を判定する方法、又は(3)ヒトを含む動物において、画像診断とジアセチルポリアミンの測定を組み合わせることで、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を判定し、治療効果や予後の予測を判定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のジアセチルポリアミンを測定し、ヒトを含む動物における、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌において、マクロファージの患部への集積は癌の悪性度と相関しており、マクロファージは患部での炎症反応や組織の再構築に関与していると言われている(非特許文献1)。また、浸潤マクロファージや酸素濃度の低い領域が癌の悪性化に寄与していること、癌の形成される部分には血管組織が多く作られることが最近の研究によって明らかになりつつある。
【0003】
しかしながら、マクロファージ又は血管の数を数えたり、組織中の酸素濃度を測定するためには、生検・穿刺などの浸襲的で高度な手技の観察が必要であり、これらの指標をもとに癌の悪性度を診断する方法は現実的な方法とはいえなかった。
【0004】
本発明者は、癌細胞におけるジアセチルポリアミンの産生メカニズムを研究している過程で、まったく意外にも、ジアセチルポリアミンは癌細胞の産生する物質ではなく、マクロファージが産生するものであることを見出した。この知見を基に更に検討を重ねた結果、マクロファージにおけるジアセチルポリアミンの産生は、マクロファージの代謝状態、特にヒトを含む動物におけるマクロファージ由来の悪影響の度合いを直接反映し、癌、アルツハイマー、リウマチ、クローン病、動脈硬化症等のマクロファージが関与したあるいは関与の疑いの高い疾患、障害又は症状の悪化を直接検出できることを確認し、これを報告している(特許文献1及び非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−225605号
【非特許文献1】Breast Cancer Res.,2003,5:83−88
【非特許文献2】Cancer Letters, November 8,2006; 243(1):128−34.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マクロファージと病態との関係をさらに詳細に検討した結果、成長中の癌腫では血管形成の不足している状態が積極的に維持され、患部へのマクロファージの浸潤が定常的に起こっており、ジアセチルポリアミンの測定はその結果としての悪影響度を反映していることが明らかになった。すなわち、ジアセチルポリアミンの産生量はマクロファージ由来の悪性度を漠然と反映しているのではなく、悪性度の具体的な指標と成りうる血管形成の度合い、特に血管形成の不足度、およびマクロファージの浸潤の度合いを癌腫の成長の度合い、あるいは悪性度に応じて量的に反映していることが明らかとなったため、病態ステージにおいては、治療効果や予後の予測の判定に極めて有用な診断マーカーとなり得ることが示された。
【0007】
したがって、本発明は、ジアセチルポリアミンとマクロファージの浸潤及び血管形成との新たな関係を見出し、この関係を利用して、ジアセチルポリアミンの診断用マーカーとしての新たな適用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、インビトロでの実験結果より、ジアセチルポリアミンは酸素供給がある閾値以下に制限されているときに産生され、その産生量(D)は3つの変数を含む下記式1で表されることを見出した。
【0009】

(式中、Aは正の定数、fは{体積あたりへの酸素供給速度}が0以上ある閾値以下の範囲に対して正の値をとる上に凸の関数を示す。)
【0010】
一方で発明者は、生体中の癌腫においては、(体積あたりのマクロファージ数)と{体積あたりへの酸素供給速度}は、癌腫成長の経過中一定の値に保たれており、ジアセチルポリアミンの産生は(癌腫の大きさ)のみに比例していることをも見出した。
【0011】
つまり、ジアセチルポリアミンの産生が行われるのは、酸素供給が一定の値以下になるときだけであり、かつ生体中の癌腫において体積あたりへの酸素供給速度は一定値に保たれていることから、ジアセチルポリアミン産生の増加は、癌腫の成長にともなって酸素不足の生じている領域が拡大していることを意味し、裏を返せば、酸素供給の不足を解消するために有効な血管形成が十分行われていないことを意味している。
【0012】
また同様に、癌腫において体積あたりのマクロファージ数は一定値であることから、癌腫の成長の度合いに応じて癌腫全体におけるマクロファージの総数も増加していると判断できる。
【0013】
さらには、一般に個々の癌腫におけるジアセチルポリアミンの産生量はそれぞれ異なっており、したがって体積あたりのマクロファージ数、および体積あたりへの酸素供給速度も癌腫ごとに固有の値をとっていると考えるのが妥当である。したがって、画像診断等によって癌腫の大きさを判断できるとき、複数の癌腫におけるジアセチルポリアミンの量を比較すれば、個別の癌腫におけるマクロファージ浸潤の度合いや酸素供給速度不足の度合いを相対的に評価できる。
【0014】
以上のように、ジアセチルポリアミンの産生は、癌の領域の大きさと性質の両方の影響によるマクロファージ浸潤と血管形成の度合い、特に血管形成の不足度を反映していることになる。
【0015】
マクロファージ浸潤やハイポキシアの生じやすさが、癌の悪性化に寄与することは現在盛んに研究されている。上記のようにジアセチルポリアミン量はマクロファージ浸潤や血管形成の不足度を反映しているものであることから、ジアセチルポリアミン量を測定することにより、癌の治療効果や予後の予測の判定をも行うことができる。
【0016】
上述したように、本発明者は、生体試料中のジアセチルポリアミンを測定することによって、癌腫全体に対するマクロファージの浸潤と血管形成の度合が簡単に検出できること、さらにはその経時的な変化を観測することで治療効果や予後の予測の判定に使用できることを見出し、本発明を完成させた。したがって本発明は以下の通りである。
【0017】
(1)試料中のジアセチルポリアミンを測定し、ヒトを含む動物における、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出する方法。
(2)治療中の患者由来の試料を使用し、ジアセチルポリアミンの測定値に対応したマクロファージの浸潤と血管形成の度合を基に、治療効果や予後の予測を判定する方法。
(3)治療中の患者から経時的に試料を採取し、当該試料中のジアセチルポリアミンを測定し、得られた測定値の経時的な変化に基づきマクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出し、治療効果や予後の予測を判定する方法。
(4)ヒトを含む動物において、画像診断とジアセチルポリアミンの測定を組み合わせることで、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を判定し、治療効果や予後の予測を判定する方法。
(5)ジアセチルポリアミンが、ジアセチルスペルミン及び/又はジアセチルスペルミジンである、上記(1)〜(4)いずれか1項に記載の方法。
(6)試料中のジアセチルポリアミンをイムノアッセイにより測定する、上記(1)〜(4)いずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明方法を用いることにより、ヒトを含む動物における、マクロファージの浸潤や血管形成の度合、特に血管形成の不足度合いを検出することが可能となった。
特に、治療中の患者由来の試料を使用し、ジアセチルポリアミンの測定値あるいはその経時的な変化を観測することで治療効果や予後の予測の判定を実施することができる。
また、画像診断とジアセチルポリアミンの測定を組み合わせることで、より精度の高い治療効果や予後の予測の判定を行うことも初めて可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書において、以下の用語は次の意味を有するものである。
「ジアセチルポリアミン」とは、ジアセチルスペルミン及び/又はジアセチルスペルミジンを意味し、具体的には、N1,N12−ジアセチルスペルミン、N1,N8−ジアセチルスペルミジンを例示することができる。
【0020】
「治療効果の判定」とは、ヒトを含む動物において、外科的手術、放射線照射、抗癌剤投与などの患者の治療が、良好に進行しているか否かの判定を意味する。
【0021】
「予後の予測の判定」とは、ヒトを含む動物において、将来病状が軽快するのか悪化するのか、あるいは健常に復するのか死に至るのかを予測することを意味する。
【0022】
「試料」とは、ジアセチルポリアミンを含有するものであれば特に制限されない。そのようなサンプルを具体的に例示すれば、尿、血清等を例示することができ、特に尿サンプルが使用に好適である。
【0023】
「マクロファージの浸潤の度合」とは、患部においてマクロファージが浸潤している度合いを示す。
【0024】
「血管形成の度合」とは、酸素供給速度が、患部における酸素要求をどれだけ満たしているかの度合いを指し、血管形成の不足の度合とは当該酸素要求をどれだけ満たしていないかの度合いを意味する。
【0025】
なぜなら、ジアセチルポリアミンの産生は酸素供給がある閾値以下に制限されているときに行われることを考えると、その産生量は癌などの組織・局所における酸素要求の閾値に満たない度合いを反映している。一般に、癌においては血管組織の形成が盛んに行われるが、その血管には癌特有の形態的な異常があるために、酸素供給上の支障が生じると考えられており(Cancer Res.,1999, 59:5863−5870)、酸素供給の不足は局所の酸素要求を充足しうる有効な血管の形成が行われていない度合い(血管形成の不足の度合い)を示すことになる。
【0026】
(A)ジアセチルポリアミンの測定
試料中のジアセチルポリアミンの測定は、特に制限されるものではない。その中でも、イムノアッセイが特に簡便で好適である。イムノアッセイで使用する試薬、具体的な測定手順に関しては、公知の文献(例えば、特許第3709078号公報、WO2004−81569号公報、J.Cancer Res.Clin.Oncol.,123(1997),539−545、J.Biochem.(Tokyo),132(2002),783−788)を参照して実施することができる。
【0027】
(B)マクロファージの浸潤と血管形成の度合の検出
上記方法により、癌患者の試料中ジアセチルポリアミンを測定し、特に経時的なジアセチルポリアミンの測定値を測定する。得られた測定値の変化に基づき、ジアセチルポリアミンが増加する方向への変化が大きい場合には、マクロファージの浸潤と酸素供給の不足による血管形成が十分に行われていない領域が拡大していると判断し、ジアセチルポリアミンが減少する方向への変化が大きい場合には、その領域は縮小していると判断できる。
【0028】
また、複数の癌腫について画像診断等の結果を比較したとき、大きさに対して相対的にジアセチルポリアミンの産生が大きい癌腫については、マクロファージの浸潤と血管形成の不足度合がより強く、質的に悪性の癌であると判断することができる。
【0029】
(C)治療効果と予後の予測の判定
ジアセチルポリアミンを測定し、特に経時的なジアセチルポリアミンの測定値を測定し、得られた測定値の変化に基づき、ジアセチルポリアミンが増加する方向への変化が大きい場合には、予後は不良であるか治療は良好に進行していないと判定し、再度の治療を施すか、従来とは異なる治療を施すかの判断材料の1つとして利用できる。
【0030】
ジアセチルポリアミンが横這いの場合には、再発や転移の可能性が残っており、注意深く様子を観察した方がよいと判定できる。また、ジアセチルポリアミンが減少する方向への変化が大きい場合には、予後は良好であるか治療は一応良好に進行している判定できる。
【0031】
上記のようなジアセチルポリアミンによる判定は、癌に限らず、マクロファージが随伴する血管形成を伴う疾患、たとえば骨折や動脈硬化などにも適用可能である。癌では、ジアセチルポリアミンの測定値が高値であることや上昇することは、病状が芳しくないことを意味したが、骨折では、適度な上昇が正常な治癒の過程を示す場合があると考えられる。一見矛盾するような診断の指標としての利用も、この測定値が、悪性度を漠然と反映しているのではなく、マクロファージの浸潤と血管形成の度合いを反映していると理解できるから可能になり、医療上、きわめて有用な方法になるのである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)マクロファージとジアセチルスペルミン(DAM)産生量との関係
マクロファージとして腹腔浸出細胞(PEC)を用い、マクロファージすなわちPEC数、酸素供給速度、培養日数とDAM産生量との関係を解析した。
【0034】
まず、96穴プレートのウェル中に10%ウマ血清、5mM乳酸を含み、グルコースを含まないRPMI培養液を加え、5%CO2,37℃でPECを培養した。
【0035】
1ウェルあたりのPEC数を1.0×105,1.5×105,2.0×105,2.5×105、培養液量を0.12ml,0.14ml,0.18ml,0.25mlとした。培養開始後1日目,2日目,3日目,4日目における培養液中のDAM量を公知のELISA法によって測定した。
【0036】
次に、実際のDAM産生量が前記式1で表されるかを検討した。
【0037】
1ウェルあたりのDAMの産生量をあらわす式2は、膜ポテンシャルを失ったミトコンドリアのクエン酸サイクルの構成成分が、酸素供給速度に支配される一次反応でアセチルCoAに変換されるモデルに基づいている。ただし、培養ウェル中に蓄積していく量を測定したため、前記式1を積分形に変換した以下のような式2を用いた。式1と式2の詳細な関係およびその導き出し方については、参考例にて示す。
【0038】

【0039】
内径一定のウェルでは、液の深さは培養液量に比例していることから、PEC105個あたりへの酸素供給速度は液深に、すなわち培養液量に反比例していると想定し、(酸素供給速度)を1/細胞数(×105)/培養液量(ml)として算出した。また、(ウェルあたりのマクロファージ(PEC)数)が本文中での(体積あたりのマクロファージ数)に相当し、本文中での(癌腫の大きさ)は、ウェル数によって表される。
【0040】
さらに式2中では、実験的に求められた、PEC105個あたりの最大DAM産生量(ミトコンドリア中のクエン酸量に等しい)を113.4とし、DAM産生が生ずる酸素供給速度上限を5.59とし、DAM産生に使われるアセチルCoAを生成するクエン酸リアーゼの酸素供給速度への依存性を1.04とし、それぞれの数値を当てはめて使用している。
【0041】
結果、図1に示したように、実線で示されるシミュレーションによるDAM産生量の予想値と、それぞれのポイントで表される実測値とは非常によく一致することが明らかとなった。すなわち、実際のマクロファージにおけるDAMの産生は、式2のシミュレーションで算定・適用できるものであり、前記式1で算出するDAM産生量の予測値は、実際のDAM産生量とほぼ一致することを確認することができた。
【0042】
(実施例2)癌腫の大きさとジアセチルスペルミン産生量との関係
Balb/cマウスのそけい部に癌細胞株のColon26を接種し、14日後より3日毎における癌の大きさを測定するとともに、尿中DAMの量もELISA法にて測定し、両者の関係を図2に示した。なお、尿のDAM濃度はクレアチニン濃度(酵素法により測定)によって補正した値を用いた。また、癌の大きさは長さ(cm)×幅2(cm2)×1/2として算出した。
【0043】
図2に示すように、癌の成長期ではDAMの産生は(癌腫の大きさ)のみに比例しており、体積あたりのマクロファージ数、および体積あたりへの酸素供給速度はほぼ定数になっていることが強く推測された。すなわち、体積あたりのマクロファージ数と体積あたりへの酸素供給速度がある定数であるのは、癌側あるいは宿主側あるいは両者の相互作用により、これら2変数が定数になるような調節が働いていることが原因と考えられる。
【0044】
このため、体積あたりのマクロファージ数および酸素供給速度が一定となっていることをもとにすれば、DAMの産生量を測定することによって相対的な癌腫の大きさを評価することができるとともに、癌腫の大きさにともなった総量としてのマクロファージの浸潤の度合いと有効な血管形成が不足の度合い(酸素供給の不足の度合)をも量的に判定できる。
【0045】
また、複数の癌腫の大きさが画像診断等によって明らかになっている場合は、DAMの産生量を組み合わせることで、癌腫ごとの体積あたりのマクロファージ数および血管形成の不足の度合を相対的に評価でき、癌腫の相対的悪性度の評価を精度よく行うことができる。
【0046】
(参考例)
当モデルでは、膜ポテンシャルを失ったミトコンドリアから漏出したクエン酸がクエン酸リアーゼによりアセチルCoAとなり、さらに未知のアセチル化酵素によりモノアセチルスペルミンと反応してDAMを生成するものとし、クエン酸リアーゼの反応に必要なATP濃度は酸素供給速度[sO2]に比例し、漏出したクエン酸はこの反応のみで消費され、クエン酸濃度[cit]について一次反応で減少するものとした。
【0047】
先に、マクロファージ数105あたりのDAM産生量について考えてみる。比例定数をA、時間(日)をtとすると、クエン酸濃度[cit]について、以下式3が成り立つ。
【0048】

ただし、下の漏出したクエン酸の式とあわせるため5.59で除しておいた。
【0049】
最初に漏出したクエン酸を[cit]0としてこの微分方程式を解くと、
【0050】

が導かれる。
【0051】
漏出するクエン酸は、DAMが産生される[sO2]が上限値(=産生されない下限、実測値では5.59なのでこの数字を代入する)のとき0、[sO2]が0のとき(マクロファージ数105あたりの)全クエン酸濃度[TC]となる、[sO2]に関する一次式で表されると考えられるので、[cit]0は以下のようにあらわすことができる。
【0052】

【0053】
生成したアセチルCoAはすべてDAMに変換される([TC]が、外挿して得られるDAM最大産生量に一致することが実施例1の実験で実証された。以下ではDAM最大産生量の113.4を用いる)ので、ウェル中に蓄積する(マクロファージ数105あたりの)[dam]は、
【0054】

となる。
【0055】
ところで比例定数Aにはクエン酸リアーゼの反応定数が含まれているが、本酵素は(酸素供給によって作られる)ATPによる修飾によって活性化されることが知られているので、実験的にAの[sO2]に対する依存性をみたところ、
【0056】

であった。
【0057】
式7を式6に代入し、さらに1ウェルあたりのマクロファージ数cをかければ、下式8のように、ウェルあたりのDAM量DAM/wellが求まる。式8と前記式2は同じであることから、実施例1における式2が導かれた。
【0058】

【0059】
次に、式1を導き出す。実施例1における1ウェル中での解析が相当している、癌腫の体積あたりでのできごとを考える。ウェル中の解析では蓄積量を求めたが、尿サンプルの測定を行う場合は産生されたDAMは次々排泄されていくので、測定値は産生速度、つまりクエン酸減少の時間による微分が表していることになる。あるマクロファージが時刻T(Tは負の数)に癌腫に浸潤したとすると、サンプリング時刻0におけるマクロファージ数105あたりのDAMの産生速度は、以下のように算出される。
【0060】

(式9)
見やすくする為にパラメータはウェル解析のままにした。別の値が入ることもありうるが本質的な違いはない。
【0061】
ところで、癌腫中のマクロファージは浸潤した時刻についてある分布をしているはずである。本シミュレーションで扱われる時間の大きさはほぼ数日で、ヒトの癌の経過において十分に小さいため、癌腫は定常状態にあり、(大きさや)マクロファージ等の構成に変化はないものとして扱いうる。それを考慮して以下の2種の分布について考える。
【0062】
(A) まず、浸潤期間がL日以内のc×105個のマクロファージが均等に存在している場合(これはL日より長くなったとたんにマクロファージは消滅する意味になりやや非現実的である)、全体のDAM産生速度は、
【0063】

(式10)
と算出される。整理して定数部分を改めてAとおけば
【0064】

とあらわされる。
【0065】
(B)
次に、浸潤時刻がT(Tは負の数)のマクロファージが半減期M日の指数関数で減少していく場合(より現実的である)は、全体の産生速度は
【0066】

と算出される。ただし、
【0067】

で除して細胞数を規格化した。整理して定数部分を改めてAとおけば
【0068】

とあらわされる。
【0069】
式11、式14ともに、c×A以外の部分が式1における関数fを示している。式11および14は体積あたりのDAM産生量を示すものであるので、すなわち(A)(B)どちらの場合も、癌腫全体におけるDAM産生速度は式1の形であらわされることが分かる。
【0070】
さらに(A)(B)両方の場合ともに、数値を代入してシミュレーションを行った結果、酸素供給速度に対して上に凸になることがわかった(図3)。かけはなれた2つのマクロファージ分布シミュレーションで似たような曲線を描くことから、現実の分布においても式1中の関数fは上に凸の関数になることが推定された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、腹腔浸出細胞(PEC)によるジアセチルスペルミン(DAM)の産生が、式2で表される様子を示している。図中A、B、C、Dのグラフはそれぞれ、1ウェルあたりのPEC数を1.0×105,1.5×105,2.0×105,2.5×105個とした場合を表している。縦軸はDAM産生量、横軸は培養液量(酸素供給速度を反映)を表している。実線は導出した式に基づく、培養日数ごとの酸素供給速度に対するDAM産生量のシミュレーション値、またそれぞれのポイントは実際に測定されたDAM産生量を示す。
【図2】図2は、癌の大きさと尿中DAM産生量との関係を示している。縦軸はクレアチニン量で補正した尿中DAM産生量、横軸は癌腫の体積を表している。
【図3】図3は、式11および式14が上に凸の関数であることを、数値を代入することによってシミュレーションした結果を示している。Xの図は実施例3の(A)の場合、Yの図は実施例3の(B)の場合のシミュレーション結果をそれぞれ表す。横軸は酸素供給速度[sO2]、縦軸は算出されたDAM産生量のシミュレーション値を表している。また、それぞれのポイントおよび実線は、Xでは実施例3(A)におけるマクロファージ浸潤の期間L(日)を、Yでは実施例3(B)におけるマクロファージの半減期M(日)をそれぞれ0.1日、1日、2日、5日と仮定してシミュレーションした結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のジアセチルポリアミンを測定し、ヒトを含む動物における、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出する方法。
【請求項2】
治療中の患者由来の試料を使用し、ジアセチルポリアミンの測定値に対応したマクロファージの浸潤と血管形成の度合を基に、治療効果や予後の予測を判定する方法。
【請求項3】
治療中の患者から経時的に試料を採取し、当該試料中のジアセチルポリアミンを測定し、得られた測定値の経時的な変化に基づきマクロファージの浸潤と血管形成の度合を検出し、治療効果や予後の予測を判定する方法。
【請求項4】
ヒトを含む動物において、画像診断とジアセチルポリアミンの測定を組み合わせることで、マクロファージの浸潤と血管形成の度合を判定し、治療効果や予後の予測を判定する方法。
【請求項5】
ジアセチルポリアミンが、ジアセチルスペルミン及び/又はジアセチルスペルミジンである、請求項1〜4いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
試料中のジアセチルポリアミンをイムノアッセイにより測定する、請求項1〜4いずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−257899(P2009−257899A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106427(P2008−106427)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)