説明

マルチステップインデックス型プラスチック光導波路

【課題】量産性に優れ、低コストで実現可能なマルチステップインデックス型プラスチック光導波路を提供する。
【解決手段】透明プラスチックよりなるクラッド2と、クラッド2内に設けられた、クラッド2の構成材料よりも高屈折率の透明プラスチックよりなるコア3とを備え、コア3は、外周側ほど低屈折率となる複数の同心円状の層3A〜3Cを有しているマルチステップインデックス型プラスチック光導波路1。このマルチステップインデックス型プラスチック光導波路1は、多色押出成形によりコア3及びクラッド2が一体に成形されたものである。多色押出成形によりコアとクラッドとを一体成形することにより、マルチステップインデックス型プラスチック光導波路を高い生産性にて低コストで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周側ほど低屈折率となる複数の同心円状の層で構成されたコアを有するマルチステップインデックス型プラスチック光導波路に係り、特に、量産性に優れ、低コストに製造することが可能なマルチステップインデックス型プラスチック光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石英光ファイバを基幹に用いた大容量情報伝送システムが、石英系光導波路を利用した波長多重光情報伝送技術により実現されている。石英系光導波路は石英ガラスのもつ高い信頼性(耐熱性、耐湿性、光透過性、無偏向性等)により、分岐、結合素子からアレイ型波長フィルタ等の長距離光伝送システムのキーデバイスになっている。これらの素子は石英ガラスにより形成され、脆く、高温プロセスや反応性イオンエッチング等の真空プロセスを必要とするため、コストが高くなるという欠点を有している。
【0003】
そこで、ホームネットワーク、自動車内光LAN等では、プラスチック光導波路を用いた低コストで汎用性の高いシステムが検討されるようになり、本出願人は、このようなプラスチック光導波路における機能性の向上のための技術について種々提案を行ってきた(特開2000−39518、同39519、同39520号公報)。
【0004】
ところで、光導波路の構造についても、様々な改良がなされており、コアとクラッドとの界面のみで屈折率が不連続に変化するステップインデックス(SI:Step Index)型光導波路に対して、コアの屈折率が中心軸から外周に向かう方向に対して二次関数的に連続変化するグレーデッドインデックス(GI:Graded Index)型が提案されている。このうち、ステップインデックス型光導波路は、グレーデッドインデックス型光導波路に比べて製造が簡単で安価であるが、高速伝送・伝送距離などの特性はやや劣り、また、伝送後の波形の乱れの問題がある。即ち、ステップインデックス型光導波路では、コアとクラッドとの境界面で全反射するような角度で入射させ光を伝送するが、斜めに入射した光が中央を真っ直ぐ進む光より長い距離を進み到達時間が長くなることになり、長距離伝送後に元の波形が崩れてしまう。
【0005】
これに対して、グレーデッドインデックス型光導波路では、高速伝送が可能であり、また、このような伝送波形の乱れの問題が少ない。即ち、グレーデッドインデックス型光導波路は屈折率分布型光導波路とも呼ばれ、コアの屈折率が中心軸から外周に向かう方向に対して二次関数的に連続変化し、中心から離れるに従って屈折率が小さくなるため、光が徐々に屈折しコアに閉じ込められることになる。この際、媒質中の光の速度は屈折率に反比例するため、光の速度は中心から離れるにつれて速くなることにより、斜めに進む光と直進する光が端から端まで到達する速度は同じになり、伝送波形が崩れにくい。
【0006】
このグレーデッドインデックス型光導波路に準ずるものとして、マルチステップインデックス(MI:Multi step Index)型光導波路がある。マルチステップインデックス型光導波路は、コアの屈折率が中心軸から外周に向かう方向に対して段階的に変化するものであり、グレーデッドインデックス型光導波路と同様に優れた光伝送特性を有する。
【0007】
従来、光導波路のうち、ステップインデックス型プラスチック光導波路は、クラッド基板を作製した後にクラッドよりも高屈折率のコアを射出成形や塗布により形成する方法で製造されている。また、マルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、屈折率分布を有するプリフォームと呼ばれるプラスチック製のロッドを重合によって作製し、このロッドを熱で伸ばしてステップインデックス型のコアとし、これにクラッドを形成することにより製造されている。
【特許文献1】特開2000−39518号公報
【特許文献2】特開2000−39519号公報
【特許文献3】特開2000−39520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の如く、プラスチック光導波路は、主にホームネットワークや自動車内光LAN等の分野での適用が検討されている。これらの分野で最も重要な特性は、量産性に優れ、低コストで製品が実現できることである。
【0009】
通常のステップインデックス型プラスチック光導波路では、量産に向けて、射出成形等の技術が提案されている。しかしながら、コアの屈折率が中心から外側へ向けて段階的に小さくなる多層構造を有するマルチステップインデックス型プラスチック光導波路については、量産性に優れた製造方法が提供されておらず、このことがマルチステップインデックス型プラスチック光導波路を高価なものとし、伝送特性に優れるものであるにもかかわらず、一般家庭や乗用車等への導入を遅らせる原因となっている。
【0010】
従って、本発明は、量産性に優れ、低コストで実現可能なマルチステップインデックス型プラスチック光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、透明プラスチックよりなるクラッドと、該クラッド内に設けられた、該クラッドの構成材料よりも高屈折率の透明プラスチックよりなるコアとを備える光導波路において、該コアは、外周側ほど低屈折率となる複数の同心円状の層を有しているマルチステップインデックス型プラスチック光導波路であって、多色押出成形により該コア及びクラッドが一体に成形されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項2のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、請求項1において、前記クラッドは(メタ)アクリル系ポリマーよりなり、前記コアはスチレン系ポリマーよりなる中心部と、該中心部の外周を取巻くスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーよりなる外皮層とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項3のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、請求項2において、前記外皮層を2層以上有することを特徴とする。
【0014】
請求項4のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、請求項3において、前記外皮層のうち中心側の層ほどスチレン含有量の多いスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーで構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記クラッド内に2本以上の前記コアが設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項6のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は、請求項5において、前記クラッドが板状であり、該クラッドの板面に沿って2本以上の前記コアが並行に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多色押出成形によりコアとクラッドとを一体成形することにより、マルチステップインデックス型プラスチック光導波路を高い生産性にて低コストで製造することができる。
【0018】
即ち、多色押出成形であれば、多色押出機を用い、コアの各層の構成材料とクラッドの構成材料をこの多色押出機に導入し、コア材の中心部を柱状に更にコア材の外周層をこの円柱状中心部を覆う管状に、そしてクラッド材を、このコア材の外側において所定の形状にそれぞれ同時に押し出すことにより、各々異なる屈折率の積層構造体を一度に成形することができ、成形速度が速く、しかも各材料が軟化状態で積層されるため、各層間の密着性にも優れたマルチステップインデックス型プラスチック光導波路を効率的に製造することができる。
【0019】
請求項2のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路であれば、多色押出成形により多層積層構造のコアとクラッドとを良好な層間密着性のものに一体成形することができる。
【0020】
請求項3によれば、コアが3以上の複数の層を有する光伝送特性に優れたマルチステップインデックス型光導波路が提供される。
【0021】
請求項4によれば、明確な層間屈折率差を有し、透明性に優れたマルチステップインデックス型のコアを良好な層間密着性のもとに一体成形することができる。
【0022】
請求項5,6によれば、クラッド内に複数のコアを有し、機能性に優れたマルチステップインデックス型プラスチック光導波路が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に図面を参照して本発明のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路の実施の形態を示す断面図である。
【0025】
図1の光導波路1は、板状のクラッド2と、このクラッド2の板面に沿って互いに並行に埋設された2本のコア3とを有する。各コア3は、中心部の第1層3Aと、中心部3Aを取巻くように同心円状に設けられた第1の外皮層としての第2層3Bと、第2の外皮層としての第3層3Cとで構成される3層積層構造とされている。
【0026】
コア3の各層の構成材料及びクラッド2の構成材料には透明性の高いものであって、コア3の構成材料は内側ほど屈折率が高く、また、クラッド2の構成材料は、コア3の最外層3Cよりも屈折率が低いものであれば良く、特に制限はないが、多色押出成形により一体成形される本発明の光導波路1は、隣接する各層の構成材料は互いになじみの良いものであることが多色押出成形による一体成形で、層間密着性に優れた光導波路を得ることができる点において好ましい。
【0027】
一般に、コア及びクラッドに好適な高透明性のプラスチック材料としては、メタアクリル系ポリマー、ポリイミド、エポキシ、ポリシクロブテン、フッ素化樹脂、シリコン等が挙げられる。これらの中から、コアがクラッドに比べて屈折率が高い組み合わせを選ぶ。
【0028】
多色押出成形により多層積層構造のコアとクラッドとを良好な層間密着性のものに一体成形するためには、クラッドとコアの中心部との間に介在されるコアの外皮層部分は、クラッドの構成材料のモノマーとコアの構成材料のモノマーとのコポリマーであることが好ましい。
【0029】
例えば、図1に示す光導波路1において、クラッド2がポリメチルメタクリレート(PMMA)等の(メタ)アクリル系ポリマーよりなり、コア3の第1層(中心部)3Aがポリスチレン(PS)よりなり、第2層3Bと第3層3Cがスチレン(ST)−メチルメタクリレート(MMA)コポリマー等のスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーよりなり、第2層3Bよりも第3層3Cの方がコポリマー中のスチレン含有量が少ないものなどが挙げられる。この場合、第2層3B、第3層3Cのコポリマー中のスチレン含有量は、目的とするコアの層間屈折率差に応じて適宜決定されるが、例えば、図1に示す3層構造のコア3では、第2層3Bが、ST:MMA=70:30(重量比)のST−MMAコポリマーよりなり、第3層3CがST:MMA=30:70(重量比)のST−MMAコポリマーよりなるものが挙げられる。
【0030】
図1の光導波路1の寸法については、特に制限はなく、使用目的に応じて適宜決定されるが、通常の場合、コア3の直径Rは5〜100μm程度であり、コア3を覆うクラッド2の層の厚さDが1μm以上であることが好ましい。また、コア3を構成する中心部の直径(第1層の直径)は3〜80μm程度であり、外皮層の各層の厚み(第2層3B及び第3層3Cの各々の厚み)は2〜20μm程度とされる。
【0031】
このような光導波路1は、多色押出機を用い、コア3の第1層3A〜第3層3Cの構成材料とクラッド2の構成材料とをそれぞれ多色押出機に導入し、第1層3Aの構成材料を円柱状に、この円柱状の第1層3Aの外周に第2層3Bの構成材料と第3層3Cの構成材料を円筒状に、更にその外側にクラッド2の構成材料を板状に同時に押し出すことにより、一度の押出成形で、容易かつ効率的に製造することができる。
【0032】
なお、図1の光導波路は、本発明の実施の形態の一例であって、本発明のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路は何ら図示のものに限定されるものではない。例えば、コアは、図1に示す如く、3層に限らず、2層或いは4層以上、例えば50層というような多層構造のものであっても良い。この場合においても外皮層のうち中心側の層ほどスチレン含有量の多いスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーで構成することにより、良好なマルチステップインデックス型コアを形成することができる。また、クラッドの形状は板状に限らず、コアと同心状の管状であっても良く、コアの延在方向に突条や凹条を有するものであっても良い。また、クラッド内のコアの数も1本であっても良く、3本以上であっても良い。また、クラッド内にコアを複数本有する光導波路において、複数のコアは互いに同様の構成である必要はなく、外皮層の積層数、寸法、構成材料や屈折率の異なるものであっても良い。
【0033】
いずれの構成を有するマルチステップインデックス型プラスチック光導波路であっても、所定の箇所に必要とする数のスクリューを設けた多色押出機を用い、コアの各層の構成材料とクラッドの構成材料をそれぞれ導入して押し出すことにより、容易に製造することができるため、製造コストの削減を図ることができる。
【0034】
なお、図1に示す構成で、
第1層:直径25μm、PS
第2層:厚み15μm、ST:MMA=70:30
第3層:厚み10μm、ST:MMA=30:70
長さ5cmで損失を測定したところ、導波路部分は1.0dB/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマルチステップインデックス型プラスチック光導波路の実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 光導波路
2 クラッド
3 コア
3A 第1層
3B 第2層
3C 第3層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチックよりなるクラッドと、
該クラッド内に設けられた、該クラッドの構成材料よりも高屈折率の透明プラスチックよりなるコアとを備える光導波路において、
該コアは、外周側ほど低屈折率となる複数の同心円状の層を有しているマルチステップインデックス型プラスチック光導波路であって、
多色押出成形により該コア及びクラッドが一体に成形されたものであることを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。
【請求項2】
請求項1において、前記クラッドは(メタ)アクリル系ポリマーよりなり、前記コアはスチレン系ポリマーよりなる中心部と、該中心部の外周を取巻くスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーよりなる外皮層とを有することを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。
【請求項3】
請求項2において、前記外皮層を2層以上有することを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。
【請求項4】
請求項3において、前記外皮層のうち中心側の層ほどスチレン含有量の多いスチレン−(メタ)アクリル系コポリマーで構成されていることを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記クラッド内に2本以上の前記コアが設けられていることを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。
【請求項6】
請求項5において、前記クラッドが板状であり、該クラッドの板面に沿って2本以上の前記コアが並行に配置されていることを特徴とするマルチステップインデックス型プラスチック光導波路。

【図1】
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【公開番号】特開2006−145623(P2006−145623A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332049(P2004−332049)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】