説明

マーキングトルクレンチ

【課題】部品点数の増大を抑制した簡単な構造であり、且つトグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻す。
【解決手段】
ボルト100に対してレンチ本体2から入力される締付力が所定値に達すると、トグル機構4が動作し、レンチ本体2がヘッド部材3に対して連結軸13を中心として傾動し、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合は、リンクアーム40を初期位置から作動位置へ回転させ、駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面に後方から正対する。従動側磁石9の後面と駆動側磁石45の前面とは同極であるため、両者間に反発力が発生し、マーキング部材19のスタンプ部6aは、ボルト100と当接する前進位置までスタンプ押し戻しバネ12の付勢力に抗して前進し、マーキングを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規定トルクで締め付けられた締結部品又は被締結部品にマーキングを行うマーキングトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、ヘッド部材に係合したナットをトルクレンチ本体を介して締め付けた際に、締付力が所定値に達するまではナットが回転し、締付力が所定値に達したときに、トグル機構が動作して、トルクレンチ本体に対しヘッド部材が首振り動作をするとともに、スタンプによって自動的にマーキングするマーキング機能付きスパナ型トルクレンチが記載されている。
【0003】
特許文献1の実施形態1及び特許文献2の構造は、第1及び第2の横リンクと縦リンクとブッシュとリンク戻しバネとを備える。第1の横リンクの一端は、ヘッド部材に固定され、第1の横リンクの他端は、縦リンクの一端に回転可能に軸止される。縦リンクは、トルクレンチ本体に回転可能に軸止され、縦リンクの他端は、第2の横リンクに回転可能に軸止されている。第2の横リンクは、トルクレンチ本体に対してスライド可能に保持されている。トグル機構による首振り動作に伴って、ヘッド部材に固定された第1の横リンクが移動し、縦リンクがリンク支点を中心にして回転し、第2の横リンクがリンク戻しバネの弾性力に抗してスライド移動し、横リンクに取り付けられた起動マグネットがインクカートリッジに固定されたスタンプ押し付けマグネットと正対し、インクカートリッジがスタンプ押し戻しバネの弾性力に抗して前進し、ナットのパイプにマーキングがなされる。
【0004】
また、特許文献1の実施形態2の構造は、駆動ピンとリンクアームと巻きバネとを備える。駆動ピンはヘッド部材に固定され、リンクアームは、トルクレンチ本体の長手方向に沿った軸心を有するピボットによってトルクレンチ本体に軸止されている。トグル機構による首振り動作に伴って、駆動ピンがリンクアームの一端に当接しながら移動し、駆動ピンの移動によってリンクアームがピボットを中心にして回転し、リンクアームの他端の起動マグネットがスタンプ押し付けマグネットに正対し、インクカートリッジがスタンプ押し戻しバネの弾性力に抗して前進し、ナットのパイプにマーキングがなされる。トグル機構が開放されると、駆動ピンが移動し、リンクアームが巻きバネで付勢されて回転し、スタンプ押し付けマグネットに対する反発力が消失し、スタンプ押し戻しバネの弾性力によってインクカートリッジが後退する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−148857号公報
【特許文献2】特開2009−154237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施形態1及び特許文献2の構造は、第1及び第2の横リンクと縦リンクとブッシュとリンク戻しバネとが必要であり、部品点数が多く、構造の複雑化及びコストの上昇を招く。
【0007】
また、特許文献1の実施形態2の構造は、トグル機構が開放された際のリンクアームの初期位置への復帰を巻きバネの付勢力によって行っているため、巻きバネの付勢力が低下すると、リンクアームが初期位置へ復帰せず、インクカートリッジが前進したまま後退しない可能性が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、部品点数の増大を抑制した簡単な構造であり、且つトグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻すことが可能なマーキングトルクレンチの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、締結部品に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作するとともに、締結部品又は締結部品と螺合する被締結部品の少なくとも一方にスタンプによって自動的にマーキングを行うマーキングトルクレンチであって、
トルクレンチと、駆動ピンと、ベース体と、マーキング部材と、付勢手段と、リンクアームとを備える。
【0010】
トルクレンチは、締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で締結部品の側面と係合する係合凹部が形成された前側のヘッド部材と、係合凹部の後方でヘッド部材に連結軸を介して連結された後側のレンチ本体とを有する。締結部品に対してレンチ本体から入力される締付力が所定値に達したとき、トグル機構が動作し、レンチ本体がヘッド部材に対して連結軸を中心として傾動する。駆動ピンは、連結軸の後方でヘッド部材から突出して連結軸と略平行に延びる。ベース体は、駆動ピンとの干渉を回避した状態でレンチ本体に固定される。ベース体は、係合凹部の後方近傍の前端開口と係合凹部から離間した後端開口との間で前後方向に直線状に延びるマーキング部材挿通孔を有する。マーキング部材は、マーキング部材挿通孔を挿通した状態でマーキング部材挿通孔にスライド移動自在に支持される棒状体である。マーキング部材は、前端開口側の前端部にインクを保持するスタンプ先端を有し、後端開口から後方に延びる後端部に従動側磁石を有する。付勢手段は、マーキング部材とベース体との間に設けられ、マーキング部材を後方の後退位置へ付勢する。
【0011】
リンクアームは、アーム前端部とアーム後端部と駆動ピン挿通孔とを一体的に有する。アーム前端部は、連結軸と駆動ピンとの間に配置されるピボット軸を中心としてベース体に回転自在に支持される。アーム後端部には、駆動側磁石が固定される。駆動ピン挿通孔は、アーム前端部とアーム後端部との間に設けられ、駆動ピン挿通孔を駆動ピンが挿通する。ベース体に対するピボット軸を中心としたリンクアームの回転位置は、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合によって規定される。従動側磁石の後面と駆動側磁石の前面とは同極である。
【0012】
駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、トグル機構が動作しない初期状態では、駆動側磁石の前面が従動側磁石の後面からずれた初期位置にリンクアームの回転位置を規定し、トグル機構が動作してレンチ本体がヘッド部材に対して傾動すると、駆動側磁石の前面が従動側磁石の後面に後方から正対する作動位置へリンクアームを初期位置から回転させる。
【0013】
上記構成では、トグル機構が動作しない非締め付け操作時の初期状態では、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、ベース体に対するリンクアームの回転位置を初期位置に規定し、駆動側磁石の前面は、従動側磁石の後面からずれた位置に待避し、マーキング部材は、付勢手段の付勢力によって後退位置に保持される。
【0014】
ヘッド部材の係合凹部に締結部品を係合し、締結部品の回転軸を中心としてレンチ本体を回転し、締結部品に対してレンチ本体から入力される締付力が所定値に達すると、トグル機構が動作し、レンチ本体がヘッド部材に対して連結軸を中心として傾動する。レンチ本体がヘッド部材に対して傾動すると、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、リンクアームを初期位置から作動位置へ回転させ、駆動側磁石の前面は、従動側磁石の後面に後方から正対する。従動側磁石の後面と駆動側磁石の前面とは同極であるため、両者間に反発力が発生し、マーキング部材は、そのスタンプ先端が締結部品又は被締結部品と当接する前進位置まで付勢手段の付勢力に抗して前進し、マーキングを施す。
【0015】
締結部品の締め付けが終了し、トグル機構が開放され、レンチ本体がヘッド部材に対して傾動前の位置(初期状態)に戻ると、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、リンクアームを作動位置から初期位置に戻し、マーキング部材は、付勢手段の付勢力によって前進位置から後退位置へ後退する。
【0016】
このように、トグル機構が動作した際にヘッド部材及びレンチ本体に対して可動する部材としてリンクアームのみを設ければよいので、構造が簡単であり、部品点数の増大及びコストの上昇を抑えることができる。
【0017】
また、トグル機構が開放された際に、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合によってリンクアームが作動位置から初期位置に復帰するので、マーキング部材を前進位置から確実に後退させることができる。
【0018】
また、上記マーキング部材挿通孔は、前進したマーキング部材のスタンプ先端が係合凹部に達するように、連結軸の直交面に対して傾斜してもよい。
【0019】
上記構成では、締結部品の開放面側に突出部分(例えば締結部品から一体的に突出する部分や締結部品と螺合する非締結部品(例えばスタッドボルトの軸)など)が存在しない場合であっても、マーキングを確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、部品点数の増大を抑制した簡単な構造のマーキングトルクレンチを得ることができる。また、トグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態のマーキングトルクレンチの全体の外観図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図1(a)の拡大図である。
【図3】図1(b)の要部断面図である。
【図4】ヘッド部材の平面図である。
【図5】レンチ本体の平面図である。
【図6】ベース体を構成するヘッドの平面図である。
【図7】ベース体を構成するベース本体の平面図である。
【図8】リンクアーム及びマーキング部材の動きを説明する平面図であり、(a)は初期状態を、(b)マーキング状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、マーキングトルクレンチの長手方向のうち、締結部品と係合する側を前方とし、作業者が回転操作する側を後方として説明する。また、上下方向は、図1(b)の上下方向である。
【0023】
本実施形態のマーキングトルクレンチ(マーキング機能付きスパナ型トルクレンチ)1は、ボルト(締結部品)100に対する締付力(締付トルク)が所定値(所定トルク)に達したときにトグル機構4が動作するとともに、ボルト100の開放端面(頂面)にスタンプによって自動的にマーキングを行うものである。
【0024】
図1〜図3に示すように、マーキングトルクレンチ1は、トルクレンチ10と、駆動ピン11と、ベース体20と、マーキング部材19と、スタンプ押し戻しバネ(付勢手段)12と、リンクアーム40とを備える。
【0025】
トルクレンチ10は、前側のヘッド部材3と後側のレンチ本体2とを備える。ヘッド部材3は板形状である。レンチ本体2は、筒形状の前側部分と、締結作業を行う作業者によって把持される後側部分(把持部16)とを一体的に有する。
【0026】
ヘッド部材3の前端には、ボルト100の回転軸方向の両側を開放した状態でボルト100の頭部側面と係合する係合凹部3aが形成され、レンチ本体2とヘッド部材3とは、係合凹部3aの後方で連結軸13を介して相対回転自在に連結されている。係合凹部3aにボルト100を係合して締め付ける際に、連結軸13はボルト100の回転軸と略平行となる。レンチ本体2の前端部とヘッド部材3とには、連結軸13が挿通される連結孔14,15(図4及び図5参照)がそれぞれ形成されている。
【0027】
ヘッド部材3の後部は、レンチ本体2の前部内側に挿入されている。ヘッド部材3の後端部は、レンチ本体2に設けたトグル機構4の一方側に連結され、トグル機構4の他方側はレンチ本体2側に連結されている。トグル機構4は、ボルト100に対してレンチ本体2から入力される締付力が所定値に達したとき(規定トルク締め付け時)に、トグル動作によってレンチ本体2側とヘッド部材3側の固定状態を解除する。これにより、ヘッド部材3は、レンチ本体2に加わる締付力に追従して回転せず、レンチ本体2に対して連結軸13を中心として所定角度で傾動(首振り動作)する。なお、トグル機構4の構成は特定のものに限定をされるものではなく、公知の様々な構成を用いることができる。
【0028】
駆動ピン11は、連結軸13の後方でヘッド部材3の上面から上方へ突出し、連結軸13と略平行に延びる。レンチ本体2と後述するベース体20のベース本体21とには、駆動ピン11を挿通する駆動ピン貫通孔17,18(レンチ本体2の駆動ピン貫通孔17は図5参照)が形成されている。駆動ピン貫通孔17,18は、後述する駆動ピン挿通孔43とは異なり、トグル機構4が動作してレンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動する際に、駆動ピン11と干渉しない大きさ及び形状に設定されている。
【0029】
ベース体20は、ベース本体21とヘッド22とカバー23とを備える。ヘッド22は、筒形状のヘッド本体22aと、ヘッド本体22aの後端部から突出する板状のフランジ22bとを一体的に有する。ヘッド22は、フランジ22bのボルト挿通孔24を挿通してベース本体21のボルト孔25に螺合する複数のネジ26によってベース本体21の前端面に締結固定される。カバー23は、カバー23のボルト挿通孔27を挿通してベース本体21のボルト孔28(図7参照)に螺合する複数のネジ29によって、ベース本体21の上面に締結固定され、後述するベース本体21のアーム収容部30の上方を覆う。ベース本体21は、ベース本体21のボルト挿通孔31(図7参照)を挿通してレンチ本体21のボルト孔32(図5参照)に螺合する複数のネジ33(図2参照)によって、レンチ本体2の上面に締結固定される。なお、レンチ本体21にベース体20が固定された状態では、駆動ピン11は、上述のように駆動ピン貫通孔18を挿通するため、ベース体20は駆動ピン11と干渉しない。
【0030】
ベース本体21には、リンクアーム40が収容される凹状のアーム収容部30と、ベース本体21の前端面からアーム収容部30へ貫通する貫通孔が形成されている。この貫通孔は、ヘッド本体22aの内径部と直線状に連通し、ヘッド本体22aの内径部とともにマーキング部材挿通孔34を形成する。マーキング部材挿通孔34は、ヘッド部材3の係合凹部3aの後方近傍に配置される前端開口34aと係合凹部3aから離間した後端開口34bとの間で、前後方向に直線状に延びる。マーキング部材挿通孔34は、その前部が後部よりも細径であり、前部と後部との間(ヘッド22の内部)に段差部35が形成されている。
【0031】
マーキング部材19は、マーキング押し付けロッド5とインクカートリッジ6とを備えた棒状体であり、マーキング部材挿通孔34を挿通した状態でマーキング部材挿通孔34にスライド移動自在に支持される。マーキング押し付けロッド5は、インクカートリッジ6の後部に取り付けられて後方へ延び、マーキング押し付けロッド5の後端には、プッシャー5aが嵌め込まれている。プッシャー5aの後端には、後面を着磁面とする従動側磁石9が固定されている。また、インクカートリッジ6は、スタンプ部(スタンプ先端)6aとカートリッジ本体6bとを有する。スタンプ部6aは、カートリッジ本体6bから前方へ延び、カートリッジ本体6bからインクが供給される。すなわち、マーキング部材19は、マーキング部材挿通孔34の前端開口34a側となる前端部にスタンプ部6aを有し、後端開口34bから後方に延びる後端部に従動側磁石9を有する。
【0032】
スタンプ部6aは、カートリッジ本体6bよりも細径であり、スタンプ部6aの前端部分を除く中間部分は、インクの付着を防止するためのシート材によって覆われている。カートリッジ本体6bは、マーキング部材挿通孔34の細径部分よりも太径であり、マーキング部材挿通孔34のうち段差部35よりも後方の太径部分を移動する。
【0033】
スタンプ押し戻しバネ12は、コイルバネであり、カートリッジ本体6bの前端部と段差部35との間でマーキング部材挿通孔34の太径部分に収容され、スタンプ部6aがスタンプ押し戻しバネ12の内部を挿通する。スタンプ押し戻しバネ12の後端は、カートリッジ本体6bの前端部に係止され、スタンプ押し戻しバネ12の前端は、段差部35に後方から当接する。これにより、マーキング部材19が前進すると、スタンプ押し戻しバネ12が収縮してマーキング部材19を後方の後退位置へ付勢する。
【0034】
また、マーキング部材挿通孔34は、前進したスタンプ部6aの前端が係合凹部3aの上面に達するように、連結軸13の直交面に対して傾斜(傾斜角度θ)している。
【0035】
リンクアーム40は、L形状であり、アーム前端部41とアーム後端部42と駆動ピン挿通孔43とを一体的に有する。アーム前端部41は、連結軸13と駆動ピン11との間に配置されて連結軸13と略平行に延びるピボット軸44を中心として、ベース体20に回転自在に支持される。アーム後端部42には、前面を着磁面とする駆動側磁石45が固定される。この駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面と同極である。駆動ピン挿通孔43は、アーム前端部41とアーム後端部42との間のL形状の前部に形成され、駆動ピン挿通孔43を駆動ピン11が挿通する。ベース体20に対するピボット軸44を中心としたリンクアーム40の回転位置は、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合(駆動ピン11の外周と駆動ピン挿通孔43の内周縁との当接)によって規定される。換言すると、駆動ピン挿通孔43の大きさ及び形状は、駆動ピン11と係合してリンクアーム40を所望の回転位置に規定するように設定されている。
【0036】
駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合は、トグル機構4が動作しない初期状態では、駆動側磁石45の前面が従動側磁石9の後面からずれた初期位置(図8(a)参照)にリンクアーム40の回転位置を規定し、トグル機構4が動作してレンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動すると、駆動側磁石45の前面が従動側磁石9の後面に後方から正対する作動位置(図8(b)参照)へリンクアーム40を初期位置から回転させる。
【0037】
本実施形態によれば、トグル機構4が動作しない非締め付け操作時の初期状態では、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合は、ベース体20に対するリンクアーム40の回転位置を初期位置(図8(a)参照)に規定し、駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面からずれた位置に待避し、マーキング部材19は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力によって後退位置に保持される。
【0038】
ヘッド部材3の係合凹部3aにボルト100を係合し、ボルト100の回転軸を中心としてレンチ本体2を回転し、ボルト100に対してレンチ本体2から入力される締付力が所定値に達すると、トグル機構4が動作し、レンチ本体2がヘッド部材3に対して連結軸13を中心として傾動する。駆動ピン11はヘッド部材3から突出し、駆動ピン挿通孔43はレンチ本体2に固定されたベース体20に形成されているため、レンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動すると、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合により、リンクアーム40が初期位置から作動位置(図8(b)参照)へ回転し、駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面に後方から正対する。従動側磁石9の後面と駆動側磁石45の前面とは同極であるため、両者間に反発力が発生し、マーキング部材19は、スタンプ部6aがボルト100の上面と当接する前進位置までスタンプ押し戻しバネ12の付勢力に抗して前進し、マーキングを施す。
【0039】
ボルト100の締め付けが終了し、トグル機構4が開放され、レンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動前の位置(初期状態)に戻ると、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合により、リンクアーム40が作動位置から初期位置へ戻り、マーキング部材19は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力によって前進位置から後退位置へ後退する。
【0040】
このように、トグル機構4が動作した際にヘッド部材3及びレンチ本体2に対して可動する部材としてリンクアーム40のみを設ければよいので、構造が簡単であり、部品点数の増大及びコストの上昇を抑えることができる。
【0041】
また、トグル機構4が開放された際に、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合によってリンクアーム40が作動位置から初期位置に復帰するので、マーキング部材19を前進位置から確実に後退させることができる。
【0042】
また、マーキング部材挿通孔34は、前進したスタンプ部6aの前端が係合凹部3aの上面に達するように、連結軸13の直交面に対して傾斜(傾斜角度θ)しているので、ボルト(締結部品)100の開放面側に突出部分(例えば締結部品から一体的に突出する部分や締結部品と螺合する非締結部品(例えばスタッドボルトの軸)など)が存在しない場合であっても、マーキングを確実に行うことができる。
【0043】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲では適宜の変更が可能である。
【0044】
例えば、締結部品がナットの場合、マーキングの対象もナットである。また、ナットをスタッドボルト101(図1(b)に二点差線で示す)に締め付ける場合、マーキングの対象はスタッドボルト101(締結部品に螺合する被締結部品)であってもよい。ヘッド部材3の係合凹部3aの形状は、締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で締結部品の側面と係合可能であればよく、上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0045】
1:マーキングトルクレンチ
2:レンチ本体
3:ヘッド部材
3a:係合凹部
4:トグル機構
5:スタンプ押し付けロッド
6:インクカートリッジ
6a:スタンプ部(スタンプ先端)
9:従動側磁石
10:トルクレンチ
11:駆動ピン
12:スタンプ押し戻しバネ(付勢手段)
13:連結軸
19:マーキング部材
20:ベース体
21:ベース本体
22:ヘッド
23:カバー
30:アーム収容部
34:マーキング部材挿通孔
40:リンクアーム
41:アーム前端部
42:アーム後端部
43:駆動ピン挿通孔
44:ピボット軸
45:駆動側磁石
43:駆動ピン挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部品に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作するとともに、前記締結部品又は該締結部品と螺合する被締結部品の少なくとも一方にスタンプによって自動的にマーキングを行うマーキングトルクレンチであって、
前記締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で該締結部品の側面と係合する係合凹部が形成された前側のヘッド部材と、前記係合凹部の後方で前記ヘッド部材に連結軸を介して連結された後側のレンチ本体とを有し、前記締結部品に対して前記レンチ本体から入力される締付力が所定値に達したときに、前記トグル機構が動作して前記レンチ本体が前記ヘッド部材に対して前記連結軸を中心として傾動するトルクレンチと、
前記連結軸の後方で前記ヘッド部材から突出して前記連結軸と略平行に延びる駆動ピンと、
前記係合凹部の後方近傍の前端開口と前記係合凹部から離間した後端開口との間で前後方向に直線状に延びるマーキング部材挿通孔を有し、前記駆動ピンとの干渉を回避した状態で前記レンチ本体に固定されるベース体と、
前記マーキング部材挿通孔を挿通した状態で該マーキング部材挿通孔にスライド移動自在に支持される棒状体であり、前記前端開口側の前端部にインクを保持するスタンプ先端を有し、前記後端開口から後方に延びる後端部に従動側磁石を有するマーキング部材と、
前記マーキング部材と前記ベース体との間に設けられ、前記マーキング部材を後方の後退位置へ付勢する付勢手段と、
前記連結軸と前記駆動ピンとの間に配置されるピボット軸を中心として前記ベース体に回転自在に支持されるアーム前端部と、駆動側磁石が固定されるアーム後端部と、前記アーム前端部と前記アーム後端部との間で前記駆動ピンが挿通する駆動ピン挿通孔とを一体的に有し、前記ベース体に対する前記ピボット軸を中心とした回転位置が前記駆動ピンと前記駆動ピン挿通孔との係合によって規定されるリンクアームと、を備え、
前記従動側磁石の後面と前記駆動側磁石の前面とは同極であり、
前記駆動ピンと前記駆動ピン挿通孔との係合は、前記トグル機構が動作しない初期状態では、前記駆動側磁石の前面が前記従動側磁石の後面からずれた初期位置に前記リンクアームの回転位置を規定し、前記トグル機構が動作して前記レンチ本体が前記ヘッド部材に対して傾動すると、前記駆動側磁石の前面が前記従動側磁石の後面に後方から正対する作動位置へ前記リンクアームを前記初期位置から回転させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のマーキングトルクレンチであって、
前記マーキング部材挿通孔は、前進した前記マーキング部材のスタンプ先端が前記係合凹部に達するように、前記連結軸の直交面に対して傾斜する
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate