説明

ミシンの下糸巻き装置

【課題】ボビン受体の糸掛け溝に下糸を容易に掛けられるようにする。
【解決手段】ミシンの下糸巻き装置は、終端部に切断部(9c)が配置された少なくとも一つの糸掛け溝(9a)が形成されていて、ボビン(11)を受容するボビン受体(9)と、ボビン受体を回転させる回転機構部(30)と、ボビン受体周りに部分的に延びる襟部(8a)および該襟部に連結されていてボビン受体よりも下方に位置する底面部(8b)を含むボビン受体用案内部(8)とを具備し、ボビン受体用案内部には、糸掛け溝の数に応じて定まる距離だけ周方向に延びる糸案内溝(31)が底面部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンにおける下糸巻き装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭用ミシンにおいては、下糸をボビン受体の糸掛け溝に掛け、糸端の保持を切断とを行う方式が知られている。
【0003】
糸をボビン受体の糸掛け溝に掛けやすくするために、ボビン受け体を回転させて糸掛け溝を所定の向きに位置決めする必要がある。そして、通常は、特許文献1および特許文献2に開示されるように、ボビン受体の下部に取付けられたカムにより糸掛け溝を位置決めしている。
【0004】
また、特許文献3は、四つの糸掛け溝を設けたボビン受け体を開示している。このため、特許文献3においてはボビン受け体がどの位置で停止した場合であっても、糸掛け溝の少なくとも1つが、使用者の正面側に位置するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4466800号明細書
【特許文献2】特開平9−313763号公報
【特許文献3】特開2007−252414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボビン受体の糸掛け溝の先端には、ボビンの周面から突出する突起が備えられている。しかしながら、この突起は比較的小さいので、突起のみを介して糸を糸掛け溝に掛けるのは困難である。一方で、突起をボビンの周面からかなり突出させると、外観上問題がある上に、使用者に対する安全性も低下する。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2において、カム受けがボビン受体下部のカムの頂点(死点)に接触する場合には、ボビン受体の糸掛け溝を所定の位置に位置合わせできなくなるという問題がある。さらに、特許文献3においては、糸掛け溝の回転方向のバラツキを抑えることができるが、90°の角度範囲で糸掛け溝位置が定まら無いため使用者がどの位置の糸掛け溝に糸を掛けるのかがわかりにくい。また、糸掛け溝が糸巻制限板に近づくと、糸巻制限板が邪魔になって作業がやり難くなる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ボビン受体の糸掛け溝に下糸を容易に掛けることのできるミシンの下糸巻き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、終端部に切断部が配置された少なくとも一つの糸掛け溝が形成されていて、ボビンを受容するボビン受体と、該ボビン受体を回転させる回転機構部と、前記ボビン受体周りに部分的に延びる襟部および該襟部に連結されていて前記ボビン受体よりも下方に位置する底面部を含むボビン受体用案内部とを具備し、該ボビン受体用案内部には、前記糸掛け溝の数に応じて定まる距離だけ周方向に延びる糸案内溝が前記底面部に形成されている、ミシンの下糸巻き装置が提供される。
【0010】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、三つの前記糸掛け溝がボビン受体に形成されていて、前記糸案内溝が少なくとも120°だけ延びている。
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記糸案内溝の入口における前記襟部には、下方から上方に向かって斜めに延びる突出部が形成されている。
4番目の発明によれば、3番目の発明において、前記糸案内溝は、前記突出部から延びる直線部分を部分的に含む。
【発明の効果】
【0011】
1番目の発明においては、使用者が糸を糸案内溝に沿って案内すると、糸はボビン受体用案内の糸案内溝からボビン受体の糸掛け溝まで自然に移動するようになる。従って、ボビン受体に糸を容易に掛けることができる。
【0012】
2番目の発明においては、ボビン受体用案内部が大型化するのを回避できる。
3番目の発明においては、糸の位置が高さ方向にズレている場合であっても、糸を糸案内溝の入口部に容易に挿入できる。
4番目の発明においては、最小限の摩擦でもって糸を入口部から糸案内溝に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に基づく下糸巻き装置を備えたミシンの正面図である。
【図2】図1に示されるミシンの頂面図である。
【図3】(a)ボビン受体の頂面図である。(b)使用時におけるボビン受体等を示す図である。
【図4】下糸巻き装置の部分側断面図である。
【図5】(a)ボビン受体用案内部の頂面図である。(b)ボビン受体用案内部の側面図である。
【図6】ブラケットの頂面図である。
【図7】下糸巻き装置の側断面図である。
【図8】(a)本発明の下糸巻き装置の操作を示す第一の図である。(b)本発明の下糸巻き装置の操作を示す第二の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく下糸巻き装置を備えたミシンの正面図である。図1にはアーム部Aと脚柱部Bとベッド部Cとを備える一般的な構成のミシン1が示されている。アーム部A内には、アーム部Aに沿って延びる主軸24が配置されている。そして、主軸24の基端には、ハンドル18が取付けられている。また、アーム部Aと脚柱部Bとベッド部Cとは、プラスチック製の前カバー2により被覆されている。公知であるように、ミシンモータ(図示しない)により主軸24が回転すると針棒Dは昇降する。
【0015】
図1に示されるように、アーム部Aには、ミシン1を駆動・停止するスタートストップボタン3と、横方向に摺動してミシン1の縫製スピードおよび下糸巻きスピードを調節するスピード調節ツマミ4とが配置されている。
【0016】
図2は図1に示されるミシンの頂面図であり、図1では開放されているフラップ5が図2では省略されている。図1および図2に示されるように、アーム部Aの上部には、糸駒7が配置されている。糸駒7から延びる下糸12は糸案内部29で折返されて糸巻き糸案内6に掛けられる。
【0017】
さらに、図1において糸巻き糸案内6の右方には、ボビン受体9が配置されている。図2に示されるように、このボビン受体9はその上面にボビン11を受容するようになっている。図2においてこれらボビン受体9およびボビン11は、回転機構部30(図2には示さない)により回転する糸巻き軸10に挿入されている。そして、図1および図2に示されるように、ボビン受体9周りには、ボビン受体用案内部8が回転不能に配置されている。
【0018】
図3(a)はボビン受体の頂面図である。図3(a)に示されるように、ボビン受体9は略円形であり、その周囲部に三つの糸掛け溝9aが周方向に等間隔で形成されている。図3(a)からわかるように、これら糸掛け溝9aは、ボビン受体9の周囲部とボビン受体9の中心との間に部分的に延びている。
【0019】
糸掛け溝9aの入口には、ボビン受体9の周囲部から突出する小突起9bが形成されている。これら小突起9bは他の部材または使用者の指に接触しない程度に突出している。そして、糸掛け溝9aの終端には、糸切り刃9cが配置されている。なお、図面においては三つの糸掛け溝9aが形成されているが、二つあるいは他の数の糸掛け溝9aが形成されていてもよい。
【0020】
図3(b)は使用時におけるボビン受体等を示す図である。糸巻き糸案内6から延びる下糸12は、糸巻き軸10に装着されたボビン11に巻かれた後で、ボビン受体用案内部8によりボビン受体9の一つの糸掛け溝9aに案内される。そして、下糸12が糸掛け溝9aの終端まで到達すると、下糸12は糸切り刃9cによって切断され、下糸12は対応する糸掛け溝9aに保持される。
【0021】
図4は下糸巻き装置の部分側断面図である。図4に示されるブラケット25は図1に示されるミシン1のアーム部Aに取付けられている。ブラケット25に設けられた支点軸28には、糸巻き軸台15が取付けられている。糸巻き軸台15には糸巻き軸10が取付けられており、その下端近傍には糸巻き車16が固定されている。さらに、糸巻き車16の周囲にはゴム輪17が係合している。これら糸巻き軸10、糸巻き車16、およびゴム輪17は、ボビン受体9を回転させる回転機構部30としての役目を果たす。
【0022】
糸巻き軸10の上端には、ボビン受体9がピン27により固定されている。図示されるっように、糸巻き軸10の内部には、糸巻き軸バネ13が組込まれていて、糸巻き軸バネ13の一部分が糸巻き軸10の周面から突出している。ボビン11が糸巻き軸10に挿入されてボビン受体9の上面に受容されると、糸巻き軸バネ13によりボビン11は糸巻き軸10に固定されるようになる。このため、糸巻き軸10が回転すると、ボビン受体9およびボビン11は糸巻き軸10と一体的に回転する。
【0023】
図4に示されるように、糸巻き軸台15の上方には、ボビン受体用案内部8が配置されている。このボビン受体用案内部8は糸巻き軸10に挿入されているものの、糸巻き軸10およびボビン受体9には直接的に接触していない。このため、糸巻き軸10が回転している場合であっても、ボビン受体用案内部8は回転しない。
【0024】
図5(a)はボビン受体用案内部の頂面図であり、図5(b)はボビン受体用案内部の側面図である。これら図面に示されるように、ボビン受体用案内部8は、糸巻き軸台15に連結される案内部土台8cと一体的に形成されている。そして、ボビン受体用案内部8は、糸巻き軸10に対して平行に延びる襟部8aと、襟部8aに連結された底面部8bとを主に含んでいる。図4および図5(a)から分かるように、襟部8aはボビン受体9周りに部分的に延びており、底面部8bはボビン受体9よりも下方に位置している。
【0025】
図5(a)に示されるように、ボビン受体用案内部8の底面部8bには周方向に延びる糸案内溝31が形成されている。また、図3(a)からわかるように、糸案内溝31はボビン受体9の糸掛け溝9aに概ね対応する位置に形成されている。そして、糸案内溝31の長さは、糸掛け溝9aの数に応じて定まる。三つの糸掛け溝9aが形成されている場合には、糸案内溝31は120°よりも大きい角度だけ周方向に延びている。
【0026】
あるいは、二つの糸掛け溝9aのみをボビン受体用案内部8に形成してもよく、この場合には、糸案内溝31は180°よりも大きい角度だけ周方向に延びているのが好ましい。四つの糸掛け溝9aをボビン受体用案内部8に形成する場合には、糸案内溝31は90°よりも大きい角度だけ周方向に延びているのが好ましい。しかしながら、三つの糸掛け溝9aが形成されているのがより好ましく、この場合には、ボビン受体用案内部8の糸案内溝31が大型化するのを回避しつつ、ボビン受体9の構成を比較的単純にできるのが分かるであろう。
【0027】
さらに、図5(a)からわかるように、糸案内溝31の両側部は円弧状に形成されている。しかしながら、糸案内溝31の入口部35においては、糸案内溝31の外方の側部は直線部分32を含んでいる。この直線部分32は、下糸12を最小限の摩擦でもって入口部35から糸案内溝31に挿入するのを助勢する。
【0028】
また、図5(b)に示されるように、入口部35においては、襟部8aの下方から上方に向かって斜めに延びる突出部33が形成されている。この突出部33によって、使用者は、下糸12の位置が高さ方向にズレている場合であっても、下糸12を入口部35に容易に挿入することができる。突出部33によって吸収できる高さ方向のズレは、襟部8aの高さに応じて定まる。
【0029】
図6はブラケットの頂面図である。図6に示されるように、糸巻きバネ26の一端がブラケット25に固定されると共に、他端が糸巻き軸台15に固定されている。糸巻き軸10等を支点軸28を支点として右側に回動させると、下糸12をボビン11に巻き付ける糸巻状態となる。これに対し、糸巻き軸10等を支点軸28を支点として左側に回動させると、糸巻き状態は解除され、ミシン1による縫製が可能となる。
【0030】
図7は下糸巻き装置の側断面図である。糸巻き軸10等を右側に回動させて糸巻き状態にした場合には、糸巻き軸10の下端が、主軸24に挿入されたクラッチ切換カラー20を押圧して右方に移動させる。これにより、クラッチ切換カラー20とベルト車22との間のバネ21が圧縮され、クラッチ切換カラー20は主軸24に固定されたピン19から解放される。
【0031】
このことと同時に、ゴム輪17は、主軸24に挿入されたベルト車22のローレット部22aに接触する。従って、ベルト車22の回転がゴム輪17に伝達されて、糸巻き軸10およびボビン11が回転するようになる。なお、ベルト車22の外周部には、モータ(図示しない)に係合するタイミングベルト(図示しない)のための歯形が形成されている。
【0032】
図8(a)および図8(b)は、本発明の下糸巻き装置の操作を示す第一の図である。以下、本発明の下糸巻き装置の動作について説明する。はじめに、使用者は前述した手順で、糸巻き軸10等を右側に回動させて糸巻き状態を形成する。そして、ボビン11を糸巻き軸10に挿入して糸巻き軸バネ13により固定する。
【0033】
次いで、使用者は、図1に示される糸駒7をアーム部Aの上部に配置し、糸駒7からの下糸12を糸案内部29および糸巻き糸案内6に掛ける。そして、図8(a)に示されるように、下糸12をボビン11に数回巻き付ける。
【0034】
その後、使用者は下糸12を突出部33の傾斜側部に沿って移動させる。そして、図8(b)に示されるように、下糸12を入口部35から糸案内溝31に挿入させる。下糸12を糸案内溝31に沿って移動させると、下糸12はボビン受体用案内部8の糸案内溝31からボビン受体9の一つの糸掛け溝9aに自然に移行する。
【0035】
図3(a)を参照して分かるように、糸案内溝31は120°よりも大きい角度で延びているので、下糸12を糸案内溝31の終端まで移動させる前に、下糸12は一つの糸掛け溝9aに必ず遭遇してこれに移行するのが分かるであろう。従って、本発明においては、下糸12をボビン受体用案内部8の糸案内溝31に沿って単に移動させることのみによって、下糸12をボビン受体9の糸掛け溝9aに容易に掛けることができる。その後、下糸12を糸掛け溝9aの終端までさらに移動させると、下糸12は糸切り刃9cに接触して切断され、糸掛け溝9aに保持されるようになる。
【0036】
最終的に、図1に示されるスタートストップボタン3を押圧すると、モータ(図示しない)の回転がベルト車22に伝達される。そして、ベルト車22の回転がローレット部22aを介してゴム輪17に伝達され、それにより、糸巻き軸10が回転するようになる。これにより、ボビン11も糸巻き軸10と一緒に回転し、その結果、下糸12がボビン11に巻かれるようになる。なお、このときには、クラッチ切換カラー20がピン19から離間しているので、主軸24は回転しない。
【0037】
また、図6に示される糸巻き軸10等を左側に回動させると、糸巻き状態は解除され、図7に示されるバネ21によってクラッチ切換カラー20が左方に移動してピン19に係合する。このときには、ゴム輪17もベルト車22から離間するようになる。このような状態において、スタートストップボタン3を押圧すると、モータ(図示しない)の回転は主軸24のみに伝達され、縫製が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 ミシン
2 前カバー
3 スタートストップボタン
4 スピード調節ツマミ
5 フラップ
6 糸巻き糸案内
7 糸駒
8 ボビン受体用案内部
8a 襟部
8b 底面部
8c 案内部土台
9 ボビン受体
9a 糸掛け溝
9b 小突起
9c 糸切り刃(切断部)
10 糸巻き軸
11 ボビン
12 下糸
13 糸巻き軸バネ
15 糸巻き軸台
16 糸巻き車
17 ゴム輪
18 ハンドル
19 ピン
20 クラッチ切換カラー
21 バネ
22 ベルト車
24 主軸
25 ブラケット
26 糸巻きバネ
27 ピン
28 支点軸
29 糸案内部
30 回転機構部
31 糸案内溝
32 直線部分
33 突出部
35 入口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
終端部に切断部が配置された少なくとも一つの糸掛け溝が形成されていて、ボビンを受容するボビン受体と、
該ボビン受体を回転させる回転機構部と、
前記ボビン受体周りに部分的に延びる襟部および該襟部に連結されていて前記ボビン受体よりも下方に位置する底面部を含むボビン受体用案内部とを具備し、
該ボビン受体用案内部には、前記糸掛け溝の数に応じて定まる距離だけ周方向に延びる糸案内溝が前記底面部に形成されている、ミシンの下糸巻き装置。
【請求項2】
三つの前記糸掛け溝がボビン受体に形成されていて、前記糸案内溝が少なくとも120°だけ延びている請求項1に記載の下糸巻き装置。
【請求項3】
前記糸案内溝の入口における前記襟部には、下方から上方に向かって斜めに延びる突出部が形成されている、請求項1または2に記載の下糸巻き装置。
【請求項4】
前記糸案内溝は、前記突出部から延びる直線部分を部分的に含む請求項3に記載の下糸巻き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139329(P2012−139329A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293432(P2010−293432)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(391003819)ハッピー工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】