説明

ミーリングカッタ用アーバ

【課題】カッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくして剛性を高めたアーバを、高送り加工でトラブル無く使用できるようにしたミーリングカッタ用アーバを提供する。
【解決手段】アーバ本体3の先端中心に工具取付軸を設け、その工具取付軸をカッタ10の背面中心の取付穴に挿入し、前記工具取付軸の中心のねじ孔にねじ込む取付ボルトでカッタを締付けてそのカッタをアーバ本体の先端に固定するミーリングカッタ用アーバを対象にして、そのアーバ本体3の外周に切屑排出溝6を設け、アーバ本体3との径差の小さいカッタ10を取付けて高送りの条件で加工を行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーバ本体との径差が小さいカッタと組み合わせて使用するのに適したミーリングカッタ用アーバに関する。
【背景技術】
【0002】
ミーリングカッタ用のアーバは、工作機械の主軸(スピンドル)に装着されるツールシャンクと、そのツールシャンクの先端に連設するアーバ本体とで構成される。アーバ本体の先端には、カッタ中心の取付穴に挿入される工具取付軸を同心配置にして設けており、その工具取付軸の中心に取付ボルト(キャップボルトと称される六角穴付きボルト)をねじ込み、その取付ボルトを締付けてミーリングカッタ(主としてフライスカッタ)をアーバ本体に固定する。
【0003】
この種のアーバは、例えば、下記特許文献1、2などに開示されている。特許文献1が開示しているアーバは、アーバ本体の内部の通路に通して供給するクーラントをカッタ自体にクーラント通路を設けずに切削部に供給可能となすことを目的としており、その目的を達成するために、アーバ本体の先端側を除く部分を大径にし、大径先端部に設けた噴出口からクーラントを噴出させるようにしている。
【0004】
また、特許文献2が開示しているアーバは、アーバ本体を、先端側が小径、根元側が大径のテーパ軸にしている。
【0005】
特許文献1が開示しているアーバは、アーバ本体の大径部をカッタと同径或いはそれよりも大きくしており、従って、アーバ本体を大径にした理由は剛性向上にあるわけではないが、アーバ本体が高剛性を発揮する。特許文献2が開示しているアーバも、アーバ本体とカッタの径差がさほど大きくない。加えて、アーバ本体は根元側が大径のテーパ軸にしており、従って、これも剛性に優れる。
【特許文献1】特開2004−338000号公報
【特許文献2】特開2004−237401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年のミーリングカッタは、高能率加工の要求に応えるために、切削速度を速くして使用する傾向にある。この高速切削では、アーバにより高い剛性が要求されることから、カッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくしたアーバ(カッタとアーバ本体の外径の径差が小さいアーバ)が採用される。
【0007】
前掲の特許文献1、2が開示しているアーバは、結果的にカッタ径(刃先の有効径)に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくした状態となっており、剛性に優れ、高速切削に適すると考えられる。ところが、特許文献1、2が開示しているアーバも含めて、カッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくしたアーバは、ワークに形成されるカッタの軸方向寸法よりも背の高い起立した壁面(カッタの軸心と平行な壁面)を加工するとき、或いはその壁面と交わった端面を壁面に沿って加工するときに、カッタの送りを大きくすること(高送り条件での使用)が制限されることがある。
【0008】
ワークの壁面の高さがカッタの軸方向寸法よりも大きいとアーバ本体が壁面と向かい合う位置にある状態で加工が進められ、このときにカッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくしたアーバが用いられると、アーバ本体とワークの壁面との間に形成される隙間が小さくなる。その隙間は、カッタとアーバ本体の径差が小さくなるほど小さくなる。
一方、ミーリングカッタによる加工では、カッタの送りを大きくするほど厚みの厚い切屑が生成される。このため、1)カッタとアーバ本体の径差が小さい。2)カッタが高送りされて厚みの厚い切屑が生成されるの2つの条件が重なると、生成された切屑がアーバとの間に噛み込まれる懸念が生じる。
【0009】
径差の小さいカッタとアーバを組み合わせて行う加工では、上記の懸念を払拭するために、カッタの送りを制限していた。しかしながら、加工能率をさらに高めるためには、カッタの高送りが不可欠になる。
【0010】
この発明は、カッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくして剛性を高めたアーバを、高送り加工でトラブル無く使用できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、アーバ本体の先端中心に工具取付軸を設け、その工具取付軸をカッタの中心の取付穴に挿入し、前記工具取付軸の中心のねじ孔にねじ込む取付ボルトでカッタを締付けてそのカッタをアーバ本体の先端に固定するミーリングカッタ用アーバのアーバ本体の外周に切屑排出溝を設けた。
【0012】
アーバ本体は、円柱状をなすもの(テーパ軸でないもの)が好ましい。また、アーバ本体の外周に設ける切屑排出溝はねじれ溝が好ましい。この切屑排出溝は、周方向に間隔をあけて複数設けると好ましく、さらに、その深さがアーバ本体の外径との比で20%にも満たないような浅い溝がアーバ本体の剛性低下が小さく抑えられて好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明のアーバは、アーバ本体の外周に切屑排出溝を設けており、生成された切屑がその切屑排出溝の中を通って排出される。従って、アーバ本体とワークの壁面との間に形成される隙間が小さいときにカッタの送りを大きくしても切屑の噛み込みが起こらない。そのために、カッタ径に対してアーバ本体の外径を相対的に大きくして剛性を高めたアーバを使用し、そのアーバに取付けたカッタを高送りして加工を行うことが可能になる。
【0014】
なお、ワークの垂直な壁面を加工するときに特許文献2が示しているようなテーパ軸のアーバ本体を用いると、ワークとの干渉回避のためにアーバ本体の最大径部をカッタ径よりも小さくすることになってアーバの高剛性確保が難しくなる。これに対し、円柱状をなすアーバ本体は、カッタ径に対して全長にわたる領域で外径を相対的に大きくして剛性を
大きく高めることができる。従って、アーバ本体は、円柱状をなすものが好ましい。
【0015】
また、ねじれた切屑排出溝は、アーバの回転によって排出される切屑に推進力を与え、
切屑排出性を高める。
【0016】
この切屑排出溝は、深さのあまり大きくないもの、言い換えれば、アーバ本体の減肉が小さく抑えられるものを複数設けると、アーバ本体の剛性低下を抑えて不足のない切屑排出性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面の図1〜図4に基づいて、この発明のアーバの実施の形態を説明する。例示のミーリングカッタ用アーバ1は、ツールシャンク2の先端にアーバ本体3を一体に設けて構成されている。
【0018】
アーバ本体3は、先端中心に本体と同心の工具取付軸4を有する。また、アーバ本体3の前面から前方に突出させるトルク伝達用のキー5(これはアーバ本体3の前面の溝に埋め込まれている)を工具取付軸4の周囲に複数個(図示のアーバは2個)有している。
【0019】
さらに、ねじれ角の一定したねじれた切屑排出溝6を外周に有している。その切屑排出溝6は、アーバ本体3の全長に渡る領域に周方向に定ピッチで複数条設けられている。例示のアーバ1に設けたその切屑排出溝6は、図2に示すように、溝底6aが平坦な溝になっており、加工性に優れる。この切屑排出溝6は、ここでは、2つの面(溝底6aと側壁6b)とが直角に交わって構成される溝にしている。側壁6bは、径方向に起立する壁にして90°の角度で割り出された基準線BLの位置から角度θ=30°回転した位置に設け、その側壁6bに片端がアーバ本体3の外周に切り抜ける平坦な溝底6aを直角に交わらせている。
【0020】
なお、例示のアーバ1は、JIS規格BT50のツールシャンク2の先端に、外径φD=47mm、長さL=200mmのアーバ本体3を一体に設けており、図2に示す溝深さd=7mm(d/D≒15%)とした。
【0021】
工具取付軸4の中心には、取付ボルトをねじ込むためのねじ孔7(図2参照)が工具取付軸4の先端に開口して設けられている。
【0022】
このように構成したアーバ1は、図4に示すようなカッタ10と組み合わせて使用する
。図4のカッタ10は、フライスカッタである。このようなカッタ10を工具取付軸4の外周に嵌め、アーバ本体の先端のトルク伝達用のキー5をカッタ本体11の背面に対応して設けたキー溝12に係合させ、この状態で取付ボルト(図示せず)を締付けてアーバ本体3の先端にカッタ10を固定する。
【0023】
カッタ本体11の背面中心には、取付穴(これも図示せず)が設けられており、その取付穴にアーバ先端の工具取付軸4を嵌合させてカッタの心出しがなされる。
【0024】
カッタ本体11の外周には各々が切屑ポケット14を伴うチップ座13が周方向に間隔をあけて複数形成されており、各チップ座にクランプ駒やクランプねじなどの周知のクランプ手段15(図のそれはクランプねじ)を用いて切れ刃チップ16が装着される。
【0025】
例示のカッタ10は、カッタ本体11の外径φD1をアーバ本体3の外径φDと等しくしており、カッタ径(有効径、φD1より大きい)とアーバ本体3の径差は、半径で約1.5mm程度になっている。
【0026】
このように、カッタ10とアーバ本体3の径差が小さいと、図4の状態で加工を行うとき、即ち、アーバ本体3がワークWの起立した壁面Fに沿う位置までワーク側に入り込んだ状態で壁面Fを加工するときに、壁面Fとアーバ本体3間に確保される隙間Gが小さくなるので、従来のアーバを使用したときには、厚みの大きい切屑が生成される条件での加工、例えば軸方向への送りを大きくした加工を行うことができなかった。この発明のアーバは、その不具合が解消され、高送り加工を行って加工能率をさらに向上させることができる。
【0027】
なお、アーバ本体の外径、長さカッタとの径差、切屑排出溝の深さなどについて示した数値はあくまでも一例にすぎず、適宜変更される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明のアーバの一例を示す側面図
【図2】図1のアーバのアーバ本体の正面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】図1のアーバにカッタを取付けた状態の側面図
【符号の説明】
【0029】
1 ミーリングカッタ用アーバ
2 ツールシャンク
3 アーバ本体
4 工具取付軸
5 キー
6 切屑排出溝
6a 溝底
6b 側壁
7 ねじ孔
10 カッタ
11 カッタ本体
12 キー溝
13 チップ座
14 切屑ポケット
15 クランプ手段
16 切れ刃チップ
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーバ本体(3)の先端中心に工具取付軸(4)を設け、その工具取付軸(4)をカッタ(10)の中心の取付穴に挿入し、前記工具取付軸(4)の中心のねじ孔(7)にねじ込む取付ボルトでカッタ(10)を締付けてそのカッタ(10)をアーバ本体(3)の先端に固定するミーリングカッタ用アーバにおいて、
前記アーバ本体(3)の外周に切屑排出溝(6)を設けたことを特徴とするミーリングカッタ用アーバ。
【請求項2】
アーバ本体(3)を円柱状にし、その円柱状アーバ本体(3)の外周にねじれた切屑排出溝(6)を周方向に間隔をあけて複数設けた請求項1に記載のミーリングカッタ用アーバ。
【請求項3】
前記切屑排出溝(6)の深さdを、アーバ本体(3)の直径φDとの比で20%以下にした請求項1又は2に記載のミーリングカッタ用アーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−12600(P2008−12600A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183048(P2006−183048)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(593087950)株式会社ビーシーテック (2)
【Fターム(参考)】