説明

メカニカルシール装置及び処理装置

【課題】その内部において滅菌状態で処理を行うための処理容器2と、この処理容器2内に大気側からその一端側を挿入して用いられる回転軸4と、の間で処理容器2の外側において回転軸4の長さ方向に沿って処理容器2側から大気側に向かって少なくとも2箇所に摺動部20が配置されたメカニカルシール装置1により回転軸4を摺動させると共に、処理容器2内及び各摺動部20の滅菌処理を行うにあたって、大気側の摺動部20についても他の摺動部20と同様に簡便に確実に滅菌処理を行う。
【解決手段】大気側の摺動部20と連通する領域を当該摺動部20の大気側において回転軸4の周方向に亘って気密にする気密領域30を設けて、各摺動部20を滅菌するために回転軸4とメカニカルシール装置1の装置本体21との間の領域であるシール流体供給領域22に供給される滅菌用ガスを当該気密領域30内に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌状態で処理を行うための処理容器と、この処理容器内にその一端側を挿入して用いられる回転軸と、の間で前記回転軸を摺動させて処理容器内と大気との間に設けるメカニカルシール装置及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば処理液などに対して撹拌処理を行うための処理装置として、例えば図9に示すように、処理液を処理容器100内に貯留すると共に、処理容器100の大気側からその一端側に例えば撹拌羽が設けられた回転軸101を挿入し、回転軸101の他方側に接続されたモータなどにより回転軸101を軸回りに回転させて撹拌を行う装置が知られている。上記の撹拌処理としては、例えば注射液の調製処理、または細胞の培養処理あるいは無菌粉末を得るための晶析などといった化学処理などのように、処理液に意図しない菌が混入しないようにして処理を行う場合がある。このような処理を上記の装置において行うにあたって、例えば処理容器100内に処理液を充填する前に、あるいは処理容器100内に処理液を充填して処理を開始する前に、例えば飽和水蒸気などの滅菌用ガスを用いて、処理容器100内や回転軸101(撹拌羽)などの滅菌処理が行われることになる。この滅菌処理は、装置を確実に滅菌するために、例えば100℃以上における飽和水蒸気を数十分供給することによって行われる。
【0003】
一方、上記の装置において処理容器100に対して回転軸101を摺動させると共に処理容器100の内部領域と大気雰囲気との間を気密にシールする方法として、特許文献1、2に記載されているように、例えばメカニカルシール102などを用いる手法が知られている。このメカニカルシール102は、回転軸101の周方向に沿って互いに摺動する摺動面を夫々持つ摺動部材103、104を処理容器100側及び回転軸101側に夫々設けて構成され、これらの摺動面同士を摺動させることによって、処理容器100に対して軸回りに回転する回転軸101を摺動させている。図9中105はこれらの摺動部材103、104を収納する筐体(ケーシング)である。
【0004】
また、処理容器100内と大気との間を気密にシールして、摺動部材103、104同士の間の摩擦を抑えると共に、摺動により発生する熱を逃がすために、これらの摺動部材103、104の摺動面同士の間の領域である摺動部110にシール流体例えばシールガスなどが供給されることになる。この時、摺動部110を介して処理容器100内から処理液などが外部へ漏出しないように、処理容器100内の圧力よりもシールガスが供給される領域の圧力を高める場合がある。具体的には、回転軸101の長さ方向に沿って上記の摺動部110が例えば2箇所形成されるように摺動部材103、104を配置してダブルメカニカルシールを構成し、これらの摺動部110の間において回転軸101と筐体105との間にリング状に気密に形成された領域であるシール流体供給領域106に対して、シール流体供給路107から処理容器100内の圧力よりも高い圧力でシールガスを供給している。従って、このシール流体供給領域106に供給されたシールガスは、処理容器100側の摺動部110を介して処理容器100内に僅かに入り込み、また大気側の摺動部110を介して大気側に漏出していくことになる。
【0005】
そのため、上記のように処理容器100内に雑菌が混入しないようにして行う処理の場合には、シールガスについてもクリーンなガスが用いられることになる。また、このシールガスが通流する領域(シール流体供給領域106やシール流体供給路107)の内壁面を介して雑菌が処理容器100内に混入しないように、処理容器100や回転軸101の滅菌処理を行う時に、上記の飽和水蒸気をシール流体供給路107からシール流体供給領域106に供給することにより、当該領域についても滅菌処理が行われる。従って、上記の2つの摺動部110のうち処理容器100側の摺動部110については、内周側(処理容器100側)及び外周側(シール流体供給領域106側)の両方から飽和水蒸気が供給されることになるので、当該摺動部110における飽和水蒸気の温度や圧力が維持されて、処理容器100内と同様の滅菌条件において確実に滅菌処理が行われることになる。
【0006】
一方、大気側(処理容器100の反対側)の摺動部110については、当該摺動部110から水蒸気が漏出する領域の雰囲気が例えば大気雰囲気であることから、シール流体供給領域106から大気雰囲気へと漏出する飽和水蒸気は、温度及び圧力が次第に低下して凝縮していくので、滅菌作用が弱まっていくことになる。そのため、大気側に隣接する摺動部110については、処理容器100側の摺動部110と同レベルの滅菌処理が行われているとは言えない。
【0007】
しかし、この大気側に隣接する摺動部110についても、シール流体供給領域106及び処理容器100側の摺動部110を介して処理容器100内の雰囲気と連通していることから、処理容器100内への雑菌の混入を確実に防ぐためには、当該大気側の摺動部110についても処理容器100側の摺動部110と同レベルの滅菌処理を行う必要がある。この大気側の摺動部110について、処理容器100側の摺動部110と同レベルの滅菌処理を行うためには、例えば当該摺動部110から水蒸気が漏出して温度や圧力が下がった場合においても滅菌処理に必要な温度や圧力が維持されるように、シール流体供給領域106に供給する水蒸気の温度や圧力を滅菌処理に必要な値よりも高くする方法が考えられるが、この場合には水蒸気の加熱のためのエネルギーが余分に必要になってしまうし、またメカニカルシール102を構成する部材について高い耐熱性を持たせる必要があることから、装置のコストアップに繋がってしまう。更に、特許文献3に記載されているように、メカニカルシール全体を覆うように保温カバーを設ける場合には、極めて大きな熱エネルギーが必要になってしまう。
【0008】
また、上記のメカニカルシールを回転軸の長さ方向に沿って3箇所に配置する方法も知られているが、大気側に隣接する摺動部については同様に処理容器100側の摺動部110と同レベルの滅菌処理が行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−263802
【特許文献2】特開2001−21045
【特許文献3】特開2005−133852(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、滅菌状態で処理を行うための処理容器と、この処理容器内に大気側からその一端側を挿入して用いられる回転軸と、の間で回転軸の長さ方向に沿って処理容器側から大気側に向かって少なくとも2箇所に摺動部が配置されたメカニカルシール装置により回転軸を摺動させると共に処理容器内と大気との間を気密にして、処理容器内及び各摺動部の滅菌処理を行うにあたって、大気側の摺動部についても他の摺動部と同様に簡便に確実に滅菌処理を行うことのできるメカニカルシール装置及び処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のメカニカルシール装置は、
滅菌状態で処理を行うための処理容器内に挿入された回転軸を摺動させると共に、処理容器内と大気との間に設けるメカニカルシール装置において、
前記回転軸の長さ方向に互に間隔をおいて少なくとも2箇所に配置され、各々回転軸と交差する面に沿って当該回転軸の全周に亘って設けられた回転軸側の摺動面と、
前記回転軸の周囲を覆うように配置されたケーシングの内周に沿って設けられ、前記回転軸側の各摺動面と摺動するケーシング側の摺動面と、
前記ケーシングと回転軸との間の空間を気密にするために、回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との組の少なくとも1つに設けられ、一方の摺動面に他方の摺動面を押圧するように付勢されている付勢手段と、
前記回転軸とケーシングとの間の空間であって、前記回転軸側の摺動面及びケーシング側の摺動面の一の組と他の組との間の空間にシール流体を供給し、当該シール流体を回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との間の隙間に通流させるためにケーシングに設けられたシール流体供給口と、
前記摺動面の一の組と他の組との間の空間に滅菌用のガスを供給し、当該ガスを回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との間の隙間に通流させるためにケーシングに設けられた滅菌用のガス供給口と、
前記回転軸側の摺動面及びケーシング側の摺動面の組のうちシール流体の流れ方向において最も下流側に位置する組の摺動面間の隙間に連通しかつシール流体の流れ方向において当該隙間の下流側の空間を気密領域とするために、当該下流側の空間を囲む囲み部材とこの囲み部材及び回転軸の間をシールするシール部材とを含む気密用部材と、
前記気密領域に開口し、前記シール流体または滅菌用のガスが排出される排出口と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
前記滅菌用のガスは飽和水蒸気若しくは殺菌ガスであり、
前記シール部材は、前記気密領域に連通する摺動面間の隙間から当該気密領域に漏れ出す水蒸気により、この気密領域の圧力を高めて飽和水蒸気が得られるように、または殺菌ガスにより、この気密領域のガス濃度を高めて滅菌に必要なガス濃度が得られるように、気密シール部材として構成されていることが好ましい。
前記ケーシングまたは前記囲み部材には、前記気密領域内において凝縮した水分を排出するため、または前記気密領域内のガスを排出するための排出口が形成されていることが好ましい。
前記囲み部材には、前記気密領域に滅菌用のガスを供給するための供給口が形成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の処理装置は、
滅菌状態で処理を行うための処理容器と、
前記処理容器内に滅菌用のガスを供給するための供給口及び排出するための排出口と、
前記処理容器内にその一端側が挿入される回転軸と、
上記のいずれか一つに記載のメカニカルシール装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、滅菌状態で処理を行うための処理容器と、この処理容器内に大気側からその一端側を挿入して用いられる回転軸と、の間で回転軸の長さ方向に沿って少なくとも2箇所に摺動部が配置されたメカニカルシール装置により回転軸を摺動させると共に処理容器内と大気との間を気密にして、回転軸とメカニカルシール装置のケーシングと前記少なくとも2箇所に配置された摺動部とで囲まれる空間であって、シール流体が供給される空間であるシール流体供給領域に滅菌用のガスを供給して処理容器内及び各摺動部の滅菌処理を行うにあたって、シール流体の流れ方向において最も下流側に位置する摺動部の摺動面間における隙間に連通しかつシール流体の流れ方向において当該隙間の下流側の空間を気密にする気密領域を形成し、この気密領域にシール流体供給領域を介して滅菌用のガスを供給している。そのため、大気側の摺動部についても処理容器側の摺動部と同様に簡便に確実に滅菌処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の処理装置の一例を示す概略図である。
【図2】上記の処理装置に用いられるメカニカルシール装置の一例を示す縦断面図である。
【図3】上記のメカニカルシール装置の一例を示す斜視図である。
【図4】上記のメカニカルシール装置に対して滅菌処理を行う様子を模式的に示す縦断面図である。
【図5】上記のメカニカルシール装置に対して滅菌処理を行う様子を模式的に示す縦断面図である。
【図6】上記のメカニカルシール装置において回転軸を摺動支持する様子を模式的に示す縦断面図である。
【図7】上記のメカニカルシール装置の他の例を示す縦断面図である。
【図8】上記のメカニカルシール装置の他の例を示す縦断面図である。
【図9】従来のメカニカルシール装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のメカニカルシール装置1を適用した処理装置について、図1を参照して説明する。この処理装置は、例えば処理液などに対して撹拌処理などを行うための装置であり、処理液を貯留するための処理容器2と、この処理容器2内の処理液を撹拌するための撹拌装置3と、処理容器2に対して撹拌装置3の回転軸4を摺動させると共に、処理容器2内と大気との間を気密にするためのメカニカルシール装置1と、を備えている。図1中5及び6は、夫々回転軸4の上端側及び下端側に設けられたモーターなどの回転装置及び処理液を撹拌するための撹拌羽である。また、図1中8は、メカニカルシール装置1の上方に積層されたベアリングであり、このベアリング8によりメカニカルシール装置1に対して回転軸4を支持している。尚、この図1では、回転装置5については簡略化して描画している。
【0017】
この処理装置は、例えば注射液の調製処理、または細胞の培養処理あるいは無菌粉末を得るための晶析などといった化学処理などのように、処理液に意図しない菌が混入しないようにして撹拌処理を行うための装置である。そのため、この装置は、後述するように、メカニカルシール装置1の摺動部20(シール流体供給領域22)に供給されるシール流体として、例えばフィルタ処理された清浄なシール流体例えばクリーンエア(無菌空気)を空気貯留部10からシール流体供給路11を介して供給して用いるように構成されている。空気貯留部10からメカニカルシール装置1に向かって伸びるシール流体供給路11は、第1供給路11a及び第2供給路11bの2本に分岐して、夫々メカニカルシール装置1及び処理容器2に接続されている。
【0018】
また、この処理装置は、処理液に対して処理を行う前などに処理容器2の内部領域、回転軸4及び撹拌羽6を滅菌できるように、更にはメカニカルシール装置1の内部において処理容器2の内部雰囲気と連通する領域(シール流体供給路11、摺動部20及びシール流体供給領域22)についても滅菌できるように構成されている。図1中12は、滅菌用ガス例えば120℃〜130℃程度の飽和水蒸気が貯留された水蒸気貯留部であり、水蒸気供給路13から上記の第1供給路11a及び第2供給路11bを介して夫々メカニカルシール装置1の内部領域及び処理容器2内に飽和水蒸気を供給できるように構成されている。
【0019】
上記の第2供給路11b及びメカニカルシール装置1(後述の排液路33)には、処理容器2内及びメカニカルシール装置1の内部領域から気体を排出するための排気ライン14が夫々接続されている。図1中15は水分排出ラインであり、この水分排出ライン15には、内部を通流する水蒸気中の凝縮した水を排出して水蒸気を装置側に戻すためのスチームトラップSが各々介設されている。上記の供給路11a、11bにおいても、メカニカルシール装置1側及び処理容器2側にドレン(水分)が供給されないように、上記のスチームとラップSが介設された水分排出ライン15、15が夫々接続されている。メカニカルシール装置1及び処理容器2に接続された水分排出ライン15には、当該水分排出ライン15内を通流する気体や水蒸気の温度を測定するための温度検出部16が設けられている。尚、この図1に示すように、各々の水分排出ライン15は、水分を排出しやすくするために、処理装置の下方側に設置されている。
【0020】
また、図1中17は供給路11a、11b内及び排液路33内を通流する気体や水蒸気の圧力を測定するための圧力検出部であり、Vは気体や水蒸気の給断を行うためのバルブである。図1中2a及び2bは、夫々処理容器2内に飽和水蒸気を供給する供給口及び処理容器2内からドレン(水分)を排出する排出口であり、夫々処理容器2の上端側及び下端側に形成されている。尚、後述するように、処理容器2内の気体は、この供給口2a及び既述の第2供給路11bを介して排気ライン14から排気されることになる。また、図1中R1、R2は、シール流体供給路11内を通流するクリーンエアの圧力と、第2供給路11b内を通流する水蒸気の圧力と、を夫々調整するためのレギュレーターである。
【0021】
次に、上記のメカニカルシール装置1の内部構造について図2及び図3を参照して説明する。メカニカルシール装置1は、回転軸4の周囲に設けられたスリーブ7を周方向に亘って隙間を介して囲むようにリング状に形成されたケーシングである装置本体21を備えており、回転軸4の長さ方向に沿って処理容器2側から大気側に向かって2箇所に摺動部20が配置されたダブルメカニカルシールとして構成されている。この摺動部20は、装置本体21の内周側に設けられた本体摺動部材24と、回転軸4側(スリーブ7側)に設けられた回転摺動部材25と、の組における摺動面同士の間の間隙(隙間)であり、これらの組の摺動面が各々回転軸4の周方向(回転軸4の長さ方向と交差する面)に亘って互いに摺動することにより、装置本体21に対して回転軸4を摺動させることができるように構成されている。
【0022】
この例では、回転軸4の長さ方向に沿って上下2箇所に本体摺動部材24、24が全周に亘って配置され、これらの本体摺動部材24、24間に回転摺動部材25が設けられている。また、回転摺動部材25は、上下に移動自在に設けられた2つの押圧部材26、26と、これらの押圧部材26、26間においてスリーブ7に固定された支持部材27と、押圧部材26及び支持部材27の間に回転軸4の周方向に沿って各々複数箇所に設けられた弾性体例えばバネなどの付勢手段28と、により構成されており、本体摺動部材24の摺動面に対して回転摺動部材25の摺動面(押圧部材26)を各々押圧することによって、回転軸4を摺動させている。この回転摺動部材25の摺動面は、例えば回転軸4の長さ方向に沿って互いに逆方向を向くように配置されており、大気側の摺動面及び処理容器2側の摺動面が夫々大気側及び処理容器2側を向いている。
【0023】
また、上記の2つの摺動部20、20と、スリーブ7の外周面と、装置本体21の内周面と、の間にリング状に形成された領域はシール流体供給領域22をなし、摺動部20、20により処理容器2側の処理雰囲気及び大気側の雰囲気から区画されている。このシール流体供給領域22の側方側における装置本体21の壁面には、クリーンエア及び飽和水蒸気を供給するためのシール流体供給口23が開口している。このシール流体供給口23から側方側に伸びる既述のシール流体供給路11には、空気貯留部10及び水蒸気貯留部12が接続されている。そのため、例えばシール流体供給領域22にクリーンエアや飽和水蒸気が供給されて当該領域22の内圧が高まると、上記の付勢手段28の付勢力に抗して押圧部材26が本体摺動部材24から僅かに離れて、シール流体供給領域22の内部雰囲気は処理容器2側(下側)の摺動部20を介して処理容器2の内部雰囲気と連通し、また大気側(上側)の摺動部20を介して処理容器2の外部の雰囲気(後述の気密領域30)と連通することになる。上記のように、この例ではシール流体供給口23が滅菌用ガス供給口を兼ねていることになる。
【0024】
また、メカニカルシール装置1は、上記の大気側の摺動部20を介してシール流体供給領域22と連通する領域を気密に塞ぐために、装置本体21の上端部から上方に向かって周方向に亘って伸び出す囲み部材29と、この囲み部材29とスリーブ7との間を周方向に亘って気密に接続して気密領域30を形成するための耐圧シール部材31と、を含む気密用部材38を備えている。耐圧シール部材31は、例えば縦断面形状が概ねコ字型となるように下端側の中央部が周方向に亘って概略矩形に開口するリング状のPTFEなどの樹脂からなるシール部材であり、下端側の内周縁及び外周縁が夫々内周側のスリーブ7及び外周側の囲み部材29に対して押圧されることにより、スリーブ7との間において摺動しながら気密領域30を気密に保つように構成されている。そのため、後述するように、大気側の摺動部20を介してシール流体供給領域22から気密領域30に水蒸気が漏出すると、当該気密領域30において圧力が陽圧に維持されて次第に内圧が高くなっていき、飽和水蒸気が得られることになる。
【0025】
大気側の本体摺動部材24には、気密領域30において凝縮した水分及びクリーンエアを排出するための排出口(排気口)32が形成されており、この排出口32から伸びる排液路33は、既述のスチームトラップSが介設された水分排出ライン15により図示しない排液部(スチームドレン)に接続され、また排気ライン14により図示しない気体排気部に接続されている。そのため、シール流体供給領域22から当該気密領域30に漏出する流体のうち、滅菌処理を行う時に用いられる水蒸気の凝縮液(液体)がスチームトラップSにおいて水分排出ライン15から排出されると共に水蒸気(気体)が気密領域30に保持され、一方撹拌処理を行う時に用いられるクリーンエアが排気ライン14から排気されることになる。また、装置本体21の下面には、シール流体供給領域22にて凝縮した水分を排出するための排出路34の一端側が開口しており、この排出路34の他端側は、スチームトラップSが介設された水分排出ライン15により図示しない排液部に接続されている。
【0026】
装置本体21及び囲み部材29には、夫々シール流体供給領域22及び気密領域30内の温度を測定するための温度測定部35、36が夫々周方向に沿って複数箇所例えば4箇所に設けられており、これらの領域22、30における水蒸気の温度を測定できるように構成されている。
【0027】
次に、上記の処理装置に作用について説明する。先ず、この処理装置において例えば撹拌処理を行う前に、処理容器2の内部領域、回転軸4、撹拌羽6及びメカニカルシール装置1の内部領域の滅菌処理を行う場合について説明する。始めに、処理容器2内に処理液を充填する前に、処理容器2を気密にすると共に、図4(a)に示すように、水蒸気貯留部12からシール流体供給路11を介してシール流体供給領域22及び処理容器2内に飽和水蒸気を供給する。この時、処理容器2内には、第2供給路11bの上流側に介設されたレギュレータR2により、滅菌可能な範囲の圧力においてシール流体供給領域22に供給する水蒸気の圧力よりも低い圧力で飽和水蒸気を供給する。ここで、飽和水蒸気は例えば温度や圧力については夫々121℃程度以上及び110kPaG(ゲージ)程度以上に適宜設定される。
【0028】
この飽和水蒸気によって、シール流体供給路11、シール流体供給領域22及び処理容器2の内部が滅菌されていく。そして、シール流体供給領域22の内圧が高くなっていくと、既述のように押圧部材26が僅かに支持部材27側に移動して、摺動部20が開口して飽和水蒸気がシール流体供給領域22から摺動部20を介して処理容器2及び気密領域30に漏出していく。処理容器2側の摺動部20については、内周側(処理容器2側)及び外周側(シール流体供給領域22側)から夫々滅菌に必要な飽和水蒸気が供給されることになるので、この飽和水蒸気の温度及び圧力が保たれて、当該摺動部20も滅菌されていく。
【0029】
一方、大気側(上方側)の摺動部20については、気密領域30内の温度や圧力がシール流体供給領域22よりも低いので、当該摺動部20を介して気密領域30に漏出した飽和水蒸気は、次第に温度及び圧力が低くなっていき、例えば凝縮して水分となる。そして、シール流体供給領域22への飽和水蒸気の供給を続けると、気密領域30が耐圧シール部材31により気密状態となっていることから、摺動部20から漏出する水蒸気により、当該領域30内の温度及び圧力が次第に高くなっていき、図4(b)に示すようにシール流体供給領域22内と同様に飽和水蒸気が得られる。この気密領域30において水蒸気の凝縮により生成した水分は、スチームトラップSが介設された水分排出ライン15を介して排出されることになる。この時、水分排出ライン15に介設された温度検出部16により各領域22、30及び処理容器2内の最低保証温度が測定され、各領域22、30及び処理容器2内において水蒸気が飽和しているか否かが確認される。
【0030】
その後、水分排出ライン15に介設された温度検出部16によりシール流体供給領域22及び気密領域30の温度が滅菌処理に必要な温度となったことが確認されてから所定の滅菌時間例えば20分以上が経過するまで飽和水蒸気の供給を続けることにより、シール流体供給路11、処理容器2、シール流体供給領域22、回転軸4、撹拌羽6及び2つの摺動部20の滅菌が完了することになる。ここで、上記のように、メカニカルシール装置1及び処理容器2から離れた位置に温度検出部16を設けて、当該温度検出部16において飽和水蒸気の温度を測定することにより、メカニカルシール装置1の内部領域及び処理容器2内において、確実に滅菌に必要な飽和水蒸気が保持されていることが確認できる。
【0031】
この時、温度検出部16、圧力検出部17において、水蒸気の温度や圧力が測定され、装置の各部位が滅菌処理に必要な環境となるように水蒸気の供給量や供給時間などが調整されることになる。滅菌処理が終了した時に各領域22、30に凝縮液(水分)が残っている場合には、図5に示すように、例えばクリーンエアにより水分排出ライン15を介して水分が排出されることになる。尚、上記の図4についてはメカニカルシール装置1の片側(右側)だけを描画している。
【0032】
次いで、処理装置において撹拌処理を行う場合には、図6に示すように、回転軸4を軸回りに回転させると共に、シール流体供給領域22にシール流体としてクリーンエアを供給することになる。この場合にも、シール流体供給領域22の内部領域が処理容器2内よりも高い圧力に保たれるので、クリーンエアが摺動部20を介して処理容器2及び気密領域30に漏出するが、処理容器2側及び気密領域30側の摺動部20、20のいずれについても確実に滅菌されていることから、処理容器2内への雑菌の混入が抑えられることになる。この時、シール流体供給領域22から気密領域30に漏出したクリーンエアは、排液路33を介して排気ライン14へと排気されていく。
【0033】
上述の実施の形態によれば、滅菌状態で処理を行うための処理容器2と、この処理容器2内に大気側からその一端側を挿入して用いられる回転軸4と、の間で回転軸4の長さ方向に沿って2箇所に摺動部20が配置されたメカニカルシール装置1により回転軸4を摺動させて、シール流体供給領域22にシール流体を供給して処理容器2と大気との間を気密にすると共に、処理容器2内及び各摺動部20の滅菌処理を行うにあたって、大気側の摺動部20と連通する領域を当該摺動部20の大気側において回転軸4の周方向に亘って気密にする気密領域30を設けているので、シール流体供給領域22に供給される滅菌用ガスを当該気密領域30内において陽圧となるように気密に保持することができる。従って、大気側の摺動部20についても処理容器2側の摺動部20と同様に簡便に確実に滅菌処理を行うことができる。そのため、大気側の摺動部20の滅菌処理を行うために過剰な熱エネルギーを加える必要がないので、メカニカルシール装置1についても過剰な耐熱性や複雑な構造を持たせる必要がなくなり、従って装置のコストを抑えて確実な滅菌処理を行うことができる。また、大気側の摺動部20について、処理容器2内や処理容器2側の摺動部20と同じ滅菌条件により滅菌処理を行うことができるので、装置全体に対する滅菌処理の信頼性を高めることができると共に、雑菌の汚染のリスクをより一層明確に把握することができる。
【0034】
更に、気密領域30を形成するにあたって、例えば飽和水蒸気を用いた滅菌処理においては、耐圧性の低いシールなどではなく、上記の耐圧シール部材31を用いていることから、当該気密領域30において容易に圧力を高めて飽和水蒸気を得ることができる。
【0035】
ここで、図7に示すように、気密領域30に飽和水蒸気を供給するための供給口40を囲み部材29に形成しても良い。この場合において上方側の摺動部20を滅菌する時には、シール流体供給領域22から気密領域30に飽和水蒸気が漏出して当該気密領域30内の温度や圧力が高くなっていく時に、供給口40からも飽和水蒸気を供給することによって、気密領域30内の温度や圧力を速やかに高めることができるので、滅菌処理を速やかに行うことができる。
【0036】
更に、図8に示すように、回転軸4の長さ方向に沿って2箇所以上例えば4箇所に摺動部20を設けても良い。そして、処理容器2から最も離れた上方側の摺動部20を覆うように、既述の気密領域30が形成される。この場合は、例えば処理容器2側から2箇所目の摺動部20と3箇所目の摺動部20との間における装置本体21の壁面部に、シール流体供給領域22からシール流体を排出する排出口41を形成してもよい。このように摺動部20を4箇所設けると共に排出口41を形成することにより、処理容器2側から1箇所目と2箇所目との間から供給されたシール流体を大気放出せずに回収できるので、例えば処理容器2側から1箇所目と2箇所目との間にあるシール流体供給領域22内の雰囲気を、環境や作業者などに与える影響によって大気に放出し難い流体、例えば空気以外の可燃性流体などを処理容器2側から1箇所目と2箇所目との間に供給するシール流体として用いて処理容器2内の雰囲気と同じ雰囲気にすることができる。
【0037】
上記の例では、滅菌用ガスとして飽和水蒸気を用いたが、例えば過酸化水素水やエチレンオキサイド(EOG)ガスなどの殺菌ガスであっても良い。この場合には、飽和水蒸気が得られる程度にまで気密領域30の内圧が高くならないので、あるいは気密領域30の内圧と大気との間の差圧がそれ程大きくならないので、上記の耐圧シール部材31としては、気密領域30を気密にできる程度の気密シール部材であっても良い。これらの滅菌用ガスを用いた場合においても、気密領域30とシール流体供給領域22との間の摺動部20では滅菌処理に必要な濃度となるように、気密領域30において滅菌用ガスが気密に保持されて所定の圧力となるので、良好な滅菌処理が行われることになる。
【0038】
また、シール流体としては、クリーンエア以外にも、無菌の液体を用いても良い。更に、摺動部20としては、本体摺動部材24の摺動面と回転摺動部材25の摺動面とを接触させて摺動させるメカニカルシール装置1について説明したが、シール流体によりこれらの摺動面同士を非接触状態で保持するメカニカルシール装置1に本発明を適用しても良い。更にまた、温度測定部35、36に代えて、あるいはこれらの温度測定部35、36と共に、各領域22、30内の水蒸気の圧力を測定する圧力測定部を設けても良い。また、上記の温度検出部16に記録計を接続し、温度の履歴を記録するようにしても良い。
【0039】
また、上記の図2において、回転軸4の長さ方向に沿って互いに逆方向を向くように2つの回転摺動部材25の摺動面を配置したが、これらの摺動面のいずれについても下側あるいは上側を向くように配置しても良い。更に、処理容器2に対して上方側から回転軸4を挿入する処理装置について説明したが、下方側あるいは側方側から回転軸4を挿入しても良い。更にまた、摺動部20において、回転軸4の長さ方向に対して直交するように摺動面を形成したが、回転軸4の中心軸を中心として左右対称となるように摺動面を傾斜させると共に回転軸4の長さ方向に交差するように、いわば「ハ」字状に摺動面を形成しても良い。
また、この処理装置において処理を行う処理液としては、液体だけでなく、例えば粒子状の固体が分散した液体やスラリーあるいは粉体や気体などであっても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 メカニカルシール装置
2 処理容器
3 撹拌装置
4 回転軸
10 空気貯留部
12 水蒸気貯留部
20 摺動部
21 装置本体
22 シール流体供給領域
23 シール流体供給口
24 本体摺動部材
25 回転摺動部材
29 囲み部材
30 気密領域
31 耐圧シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌状態で処理を行うための処理容器内に挿入された回転軸を摺動させると共に、処理容器内と大気との間に設けるメカニカルシール装置において、
前記回転軸の長さ方向に互に間隔をおいて少なくとも2箇所に配置され、各々回転軸の長さ方向と交差する面に沿って当該回転軸の全周に亘って設けられた回転軸側の摺動面と、
前記回転軸の周囲を覆うように配置されたケーシングの内周に沿って設けられ、前記回転軸側の各摺動面と摺動するケーシング側の摺動面と、
前記ケーシングと回転軸との間の空間を気密にするために、回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との組の少なくとも1つに設けられ、一方の摺動面に他方の摺動面を押圧するように付勢されている付勢手段と、
前記回転軸とケーシングとの間の空間であって、前記回転軸側の摺動面及びケーシング側の摺動面の一の組と他の組との間の空間にシール流体を供給し、当該シール流体を回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との間の隙間に通流させるためにケーシングに設けられたシール流体供給口と、
前記摺動面の一の組と他の組との間の空間に滅菌用のガスを供給し、当該ガスを回転軸側の摺動面とケーシング側の摺動面との間の隙間に通流させるためにケーシングに設けられた滅菌用のガス供給口と、
前記回転軸側の摺動面及びケーシング側の摺動面の組のうちシール流体の流れ方向において最も下流側に位置する組の摺動面間の隙間に連通しかつシール流体の流れ方向において当該隙間の下流側の空間を気密領域とするために、当該下流側の空間を囲む囲み部材とこの囲み部材及び回転軸の間をシールするシール部材とを含む気密用部材と、
前記気密領域に開口し、前記シール流体または滅菌用のガスが排出される排出口と、を備えたことを特徴とするメカニカルシール装置。
【請求項2】
前記滅菌用のガスは飽和水蒸気若しくは殺菌ガスであり、
前記シール部材は、前記気密領域に連通する摺動面間の隙間から当該気密領域に漏れ出す水蒸気により、この気密領域の圧力を高めて飽和水蒸気が得られるように、または殺菌ガスにより、この気密領域のガス濃度を高めて滅菌に必要なガス濃度が得られるように、気密シール部材として構成されていることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール装置。
【請求項3】
前記ケーシングまたは前記囲み部材には、前記気密領域内において凝縮した水分を排出するため、または前記気密領域内のガスを排出するための排出口が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のメカニカルシール装置。
【請求項4】
前記囲み部材には、前記気密領域に滅菌用のガスを供給するための供給口が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のメカニカルシール装置。
【請求項5】
滅菌状態で処理を行うための処理容器と、
前記処理容器内に滅菌用のガスを供給するための供給口及び排出するための排出口と、
前記処理容器内にその一端側が挿入される回転軸と、
請求項1ないし4のいずれか一つに記載のメカニカルシール装置と、を備えたことを特徴とする処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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