説明

モノクローナル抗体及び産生細胞

【目的】ヒト−テネイシンのアミノ酸配列のうち細胞接着に関与する部位を特異的に認識できるモノクローナル抗体を取得する。
【構成】ヒト−テネイシンの細胞接着に関与する部位を特異的に認識できるモノクローナル抗体及びこれを産生するハイブリドーマ。
【効果】ヒト−テネイシンの細胞接着機能を阻害して癌転移阻害作用を有する物質を取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ヒト−テネイシンの細胞接着活性を有する部位を特異的に認識することができるモノクローナル抗体に関する。
【0002】
【従来の技術】テネイシンは、はじめタイプVコラーゲンに対するモノクローナル抗体を得ようとした際に偶然特異な染色性を示す抗体の抗原として発見された糖蛋白質で、細胞の間質側に発現する物質として知られている。
【0003】テネイシンは、分子量が約250Kと190Kの二つのサブユニットが6量体を構成する細胞外マトリックスを構成する蛋白質として今日では知られている。歴史的にはその存在は、GP250、GMEM、マイオテンディナス抗体、ヘキサブラキオン、サイトタクチン等の名称で知られていたが、1986年に間充織−上皮間の相互作用が、形態形成に重要な胎児組織や、癌の間質に誘導されることが発見されて、一躍注目を浴びることとなった。
【0004】テネイシンは、赤血球凝集作用、細胞接着に対する作用、癌細胞の増殖促進作用等が報告されているが、その生理的機能ははっきりとは判明していない。その後、ヒト−テネイシン、マウス−テネイシン、トリ−テネイシン等の遺伝子配列が決定され、そのN末端側より、EGF、フィブロネクチン、フィブリノーゲン様の繰り返し構造(ドメイン)を有する蛋白質であることが判っている。
【0005】また、テネイシンは糖鎖の修飾を受けており、GlcNAcやシアル酸が含まれていることが判明している。これまでの研究では、遺伝子配列から計算される分子量やシアリダーゼ処理による分子量の減少からみて、分子全体の10〜20%が糖鎖にあたると思われる。ツニカマイシンをテネイシン産生細胞に添加して修飾を阻害してみると、10〜20%の分子量の減少が観察される。
【0006】テネイシンの糖鎖については、HNK−1という抗原決定基がテネイシンやJ1蛋白質上に存在するという報告もあり、この構造は硫黄を含む複雑な糖脂質であることが判っている。しかし、種差の問題もあり、すべてのテネイシンがHNK−1を持っているとは考えにくい。
【0007】テネイシンの薬理作用については上記のほか、細胞増殖や形態形成に関与する種々の作用が知られているが、これらがテネイシンの構造上のいかなる部位と関連しているか等については研究が待たれるところであった。
【0008】テネイシンを特異的に認識することができるモノクローナル抗体については種々の研究がなされており、例えば、ヒトのフィブロブラストからヒト−テネイシンを抽出した後、フィブロネクチンを除去する等して高純度のヒト−テネイシンを取得し、これにより免疫したラットの脾臓細胞を細胞融合することにより取得したハイブリドーマから目的のモノクローナル抗体を取得する方法等が知られている(特開平2−219590号)。
【0009】しかしながら、これらの方法では、ヒト−テネイシンの構造上の特定の部位を認識するモノクローナル抗体を取得するものではないから、ヒト−テネイシンの有する生理活性の薬理上有用なもののみを選択的に利用しようとする目的には適うものではなかった。
【0010】一方、細胞の癌化とこれの阻止作用については種々の研究が進んでいて、例えば、癌細胞の転移に関していえば、転移に関係している部位でのペプチドでは、細胞の接着作用が、初期の転移に直接関係することが判っている(Journal ofcellular physiology 134 287-291(1988)) 。
【0011】そこで、癌細胞の接着を阻害する物質が存在すれば、このことにより癌転移を阻止しうることが予想された。
【0012】ところで、テネイシン同様の細胞外マトリックスを構成する蛋白質であるフィブロネクチンが細胞接着の機能を有することは知られていた。フィブロネクチンの研究から、フィブロネクチンが有するアミノ酸の配列のうち接着活性を有する部位がRGD(Arg-Gly-Asp )アミノ酸配列を有する部位であることが判っていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】ヒト−テネイシンの遺伝子配列は研究により既に解明がなされており、そのことからヒト−テネイシンのアミノ酸配列のうち、細胞接着に関与する部位がいずこであるかを解明することができれば、そのアミノ酸配列を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得することができ、それにより、ヒト−テネイシンの細胞接着機能を阻害して癌転移阻害の作用を有する物質を取得することができることとなる。本発明の目的は、そのようなモノクローナル抗体を取得することにあった。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意研究の結果、上記のようなモノクローナル抗体を取得することに成功し、本発明を完成した。
【0015】本発明の要旨は、ヒト−テネイシンの接着活性を有する部位を特異的に認識するモノクローナル抗体そのものにある。本発明の要旨はまた、そのようなモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマそのものにもある。本発明に係るモノクローナル抗体は、以下のようにして取得することができる。
【0016】まず上記細胞接着に関与するRGDの配列を有するペプチドを化学的に合成する。本発明においては、Gly-26-Cysと称することができる配列番号1 のようなアミノ酸配列を有するペプチドを合成することができる。
【0017】本発明においては、抗原性を高めるために、上記のようにして取得したペプチドを、適当なキャリア(carrier) 、例えばキーホール リムペット ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin) 等に結合させて免疫することができる。
【0018】ペプチドとキャリアの結合反応には、適当な化学試薬、例えば、グルタールアルデヒド、カルボジイミド、MBS(N-(m- マレイミドベンゾイルオキシ)スクシンイミド) 等を用いることができる。
【0019】以下に、このようにして得られたものを抗原として用い、本発明に係るモノクローナル抗体を取得する方法について述べる。まず免疫化細胞の調製について説明する。これは動物の体内に抗原を投与し、その動物の細胞を取得することによって得ることができるものである。
【0020】当該動物としては、例えば、マウス等のこれまで常法として実験に供されてきた動物を使用することができる。抗原は腹腔内等に投与することが望ましい。投与は、常法によりフロインドのコンプリートアジュバンドに混合して投与するのが適当であるが、本発明においては投与後数週間の間隔で数回投与を繰り返すことが好ましい。投与間隔は、2週間で充分であるし、投与回数は2〜4回が好ましい。その後、当該動物を屠殺し、例えば、脾臓等の臓器を摘出し、常法に従って細胞を得る。
【0021】次に免疫化細胞に増殖機能を付与するための骨髄腫細胞との細胞融合について述べる。ここに用いる骨髄細胞は、例えば、SP2/0-Ag14株等を、例えば、FCS(牛胎仔血清)を含む培地で培養し、望ましくは対数増殖期にある細胞を用いる。細胞融合の方法は、免疫化細胞と骨髄腫細胞を細胞数の比で 1:1〜10:1の範囲で混合し、ポリエチレングリコール等の融合剤又は電気刺激等の方法を用いることができる。
【0022】融合後の細胞は、直ちに又は通常培地での前培養後、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを加えたいわゆるHAT培地で培養することにより、免疫化細胞と骨髄腫細胞の組み合わせで融合した細胞のみを選択することができる。本発明においては、例えば、酵素免疫測定法( ELISA法)等によって抗体価を確認しつつ抗体産生細胞の選別を行うことができる。
【0023】抗体価を確認することができた細胞は、限外希釈法、軟寒天法等の常法に従って、ウェル(Well)プレート及びシャーレによる培養を繰り返し、このあいだに抗体産生能、産生抗体の免疫化学的試験、抗原特異性試験等を行うことによって選別することができる。また、マイクロマニュピュレーター又はセルソーターを用いて選別することもできる。
【0024】本発明に係る細胞は、通常の状態において継続的に本発明に係るモノクローナル抗体を産生することができる。従って、本発明に係るモノクローナル抗体を利用するときは、本発明に係る細胞の培養液の上清液を直接そのまま本発明に係るモノクローナル抗体溶液として利用することができる。
【0025】また、本発明に係るモノクローナル抗体は、例えばマウス等の通常実験に供される動物体内に(例えば腹腔内に)、抗体産生細胞を投与し、例えば腹水等の動物体液を採取することによっても生産することができる。
【0026】本発明に係る細胞の培養液又は腹水より本発明に係るモノクローナル抗体を精製取得するためには、例えば、硫安沈澱、イオン交換クロマトグラフィー等の方法によって取得することができる。
【0027】こうして取得したモノクローナル抗体は、例えば各種の緩衝液、必要に応じて塩、更にはアジド等を添加することにより、又は凍結乾燥等の方法により安定した物質として保存することができる。
【0028】これらの抗体のイミュノグロブリン各クラスの同定は、クラス特異性抗体を用いた ELISA法により行うことができる。このようにして得られたモノクローナル抗体は、以下の免疫生化学的手法により、各蛋白質に特異的に結合することを確認することができる。本発明に係るモノクローナル抗体を用い、ウエスタン・ブロッティングの手法を適用する同定方法について説明する。
【0029】この手法は、生物由来検体中の当該ペプチドの同定及び定量に応用することができる。即ち、当該ペプチド又は当該ペプチドを含む生物由来の検体を、常法に従って、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画した後、ナイロンメンブラン又はニトロセルロースメンブランにブロッティングする。メンブラン上に移行したペプチドとモノクローナル抗体とを結合させ、ついで、35S又は 125Iで標識したプロテインA(protein A)と結合させる。このとき、過剰のモノクローナル抗体とプロテインAは、そのつど充分に洗浄により除去しておく。これにより、用いたモノクローナル抗体の特異性に応じて当該ペプチドの位置に、その量に応じた35S又は 125Iが存在することになり、メンブラン上の35S又は 125IをRIスキャナー又はオートラジオグラフィーで検出することでペプチドの同定と定量を行うことができる。
【0030】次に、RIP(ラジオイミュノプレシピテイション)の手法を適用することを特徴とする当該ペプチドの同定方法について述べる。RIPにおいては、例えば、35S等で標識したメチオニン等を含む培養液中で、検体となる細胞を培養することによって検体となる細胞に取り込ませる。その後、可溶化のための緩衝液を加えた後、可溶化物(lysate)を取得する。そして、本発明に係るモノクローナル抗体を加えて混合することにより抗原抗体反応を完結させる。
【0031】その後常法に従い、プロテインA−セファロース等を加えた後、遠心分離と緩衝液による洗浄を繰り返して、本発明に係るペプチド以外の混在物を取り除く。その後、常法に従って電気泳動を行い、ラジオアイソトープの検出を行う。検体細胞に当該ペプチドが存在すれば、用いたモノクローナル抗体の特異性に応じたバンドが現れることとなる。
【0032】次にイミュノサイトケミストリーの手法を適用することを特徴とする生物中の当該ペプチドの検出方法について説明する。培養細胞の場合は、フォルムアルデヒド−リン酸緩衝液(PBS)溶液等の適切な固定液で固定し、必要に応じてトリトン処理を行い、試料とすることができる。これらの試料に、本発明に係るモノクローナル抗体を加えて抗原抗体反応を完結させた後、リン酸緩衝液で充分に洗浄する。二次抗体としてビオチン結合−抗イミュノグロブリンを反応させた後、充分に洗浄する。ここに生じたペプチド−モノクローナル抗体−ビオチン結合二次抗体の複合物に蛍光標識したアビジンを反応させ、その蛍光を蛍光顕微鏡で観察することにより細胞中のペプチドを検出することができる。
【0033】病理組織の場合には、ホルマリンその他の適切な固定液で固定し切片としたもの、又は凍結は切片をホルムアルデヒド固定したもの等を、必要に応じて界面活性剤等の処理を行った標本を試料として同様の操作によりイミュノサイトケミストリーを行うことができる。
【0034】
【実施例】以下に、本発明の実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明の一例を示すものであって、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1ヒト−テネイシンの細胞接着活性部位に対するモノクローナル抗体の作製(1) 抗原の作製遺伝子配列より予測されるアミノ酸配列のうち、1番目のグリシンから26番目のシステインまでの26個のアミノ酸を常法に従って化学合成した。このペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1 の通りである。
【0035】このペプチド10mgを精製蒸留水2mlに溶解したものを、5mg/mlのKLH溶液(カルビオケム社製フラクションVを使用)と混合し、カップリング剤として水溶性カルボジイミド(蛋白質研究奨励会製)を最終濃度 0.2M となるように加えた。
【0036】pHが 6.0になるように維持しながら、30分から1時間のあいだpHの変動がなくなるまでカップリング反応を行わせた後、4℃でPBS(−)で透析し、ゲル濾過カラムを通して未反応物を除く。このようにして12mgのペプチド−KLH結合体を得た。
【0037】(2) 免疫化細胞の調製10週令のBALB/C雌性マウスの腹腔内に、 (1)で得られた物質 100μg を含む溶液 0.1mlと、フロインドのコンプリートアジュバンド(DIFCO社製) 0.1mlとの混合液を投与する。その後2週間間隔で2回、上記溶液とインコンプリートアジュバンド(DIFCO社製) との混合溶液を腹腔内に投与する。その後、そのマウスを頸椎脱臼により致死させ、無菌的に脾臓を採取する。
【0038】セレクター(BELCO社製) に上記脾臓約1g を乗せ、ダルベッコ変法 MEM(D-MEM) 培地を供給しながら約10μのメッシュを通過させて D-MEMに懸濁状態の脾臓細胞を得る。これを100G、5分間の遠心分離にかけて、脾臓細胞を採取する。0.84 %の塩化アンモニウム溶液に20mMのヘペス(HEPES)緩衝液( pH 7.4) を加えた溶液1ml中に上記細胞を入れて溶血させる。1,000G、5分間の遠心分離にかけて細胞を取得する。再び D-MEM培地に懸濁させる。
【0039】(3) 骨髄腫細胞の調製8-アザグアニン耐性でかつイミュノグロブリン非分泌型のマウス骨髄腫細胞株SP2/0-Ag14 株を、20%のウシ胎児血清(FCS) を含む D-MEM培地で、10%CO2 ・37℃インキュベーター内で培養し、対数増殖期にある細胞を集め、次の操作に用いた。1,000G、5分間の遠心分離にかけて細胞のみを取得し、更に D-MEM培地に懸濁して、血球計算盤で細胞数をカウントする。再び1,000G、5分間の遠心分離にかけて後、 D-MEM培地に懸濁させる。
【0040】(4) 細胞の融合(2)で得た免疫化細胞108 〜3×108 個を含む D-MEM培地と、 (3)で得た骨髄腫細胞108 個を含む D-MEM培地とを混合し一様にした後、1,000G、5分間の遠心分離にかける。上清を除き沈渣を取得し、これに25%(w/v) のポリエチレングリコール1500(PEG 1500 。ベーリンガー社製) とヘペス緩衝液 37.5mM を含む溶液1mlを1分間にわたって滴下する。その後、 D-MEM培地でゆっくり希釈して全体を10mlとする。
【0041】これに20% FCSを含む D-MEM培地10mlを加えて、1,000G、5分間の遠心分離にかける。得られた細胞に20% FCSを含む D-MEMを加えて106 cell/mlになるようにし、コーニング社製の24穴培養プレートに1ml/well の割合となるように乗せる。10%CO2 ・37℃インキュベーター中で24時間培養する。その後、HAT 溶液を添加して融合細胞以外の細胞を除き、更に2週間培養を続ける。
【0042】(5) ELISA法による抗体価の測定ダイナテック・ラボラトリー社製マイクロタイタープレート(No.001-010-2101) の各wellを、 (1)で得たペプチド1μg /ml及び精製テネイシン1μg /mlでコーティングする。測定対象となる抗体を含む上清液 150μl をwellに採り、37℃インキュベーター内で2時間放置し、その後PBS(リン酸緩衝液) で洗浄した。これにペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗マウス全抗体を加え、37℃インキュベーターで1時間放置し、PBS で洗浄後発色剤(ABTS)を加えて15分間発色させ、停止液( 0.1Mクエン酸− 0.02 %ナトリウムアジド) を加えて反応を停止させた後、タイターテック社製マルチスキャンでwellの吸光度を測定して、抗体価を算出した。
【0043】(6) 抗体産生細胞の選別ELISA法で確認されたwell内の細胞を、60mmφのシャーレ内の軟寒天培地上に撒く。10%CO2 ・37℃インキュベーター内で2週間培養し、コロニーを形成させる。できたコロニーを採り、24穴培養プレートにのせる。再び ELISA法によって抗体活性を確認する。抗体活性の確認されたwell内の細胞を、60mmφのシャーレ内の軟寒天培地上に撒く。10%CO2 ・37℃インキュベーター内で2週間培養し、コロニーを形成させる。できたコロニーを採り、24穴培養プレートにのせる。再び ELISA法によって抗体活性を確認し、有用な細胞を選別した。
【0044】(7) 抗体の取得■ (6)で得た抗体産生細胞は、本発明抗体を常時産生するので、この抗体産生細胞を培養した培養液の上清液は、直接、本発明抗体溶液として使用することができる。
■ (6)で得た抗体産生細胞の培養液に硫酸アンモニウムを最終濃度30%となるように加える。遠心分離し、沈渣をとり、これにpH 7.4のリン酸緩衝液20mMを加え、同じリン酸緩衝液(0.02 %ナトリウムアジドを含む) を用いて透析して硫酸アンモニウムを除く。透析後の液体を凍結乾燥して、白色粉末を得る。
【0045】■ BALB/C雄性マウス腹腔内に、プリスタン 0.5mlを注射し、2週間飼育する。(6)で得た抗体産生細胞を106 〜3×106 cell/マウスとなるように注射し、10日間飼育する。腹腔内にたまった腹水約10mlを注射筒を用いて採取する。この腹水に硫酸アンモニウムを最終濃度30%となるように加える。その後、これにpH7.4 のリン酸緩衝液20mMを加え、同じリン酸緩衝液(0.02 %ナトリウムアジドを含む) を用いて透析して硫酸アンモニウムを除く。透析後の液体を凍結乾燥して、白色粉末を得る。
【0046】(8) イミュノグロブリン各クラスの同定イミュノグロブリン各クラスの同定は、クラス特異性抗体(IgA, IgG1, IgG2a,IgG2b, IgG3, IgM は、バイオライド社製のものを用いた) を加え、37℃、2時間反応させた後、PBS で充分に洗浄した。これにペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗マウス全抗体を加え、37℃インキュベーターで1時間放置し、PBS で洗浄後、発色剤(ABTS)を加えて15分間発色させ、各クラスの判定を行った。この結果の一部を表1に示す。
【0047】
【表1】


試験例1モノクローナル抗体の細胞接着阻害活性の確認ほぼConfluent な状態にまで培養したHBL100細胞を、トリプシン−EDTA処理で回収し、細胞数をカウントする。細胞をヒト−テネイシンでコーティングした96穴マイクロプレートに105 cells/mlの濃度で分注した。実施例1で取得したモノクローナル抗体は細胞と同時に培地中に加えた。
【0048】1時間後のシャーレに接着する細胞の状態を撮影した写真を図1及び図2として示した。図中、Aは培地のみを、Bは培地に緩衝液のみを加えたもの、Cはフィブロネクチンに対するモノクローナル抗体(30-8)(宝酒造社製)を加えたもの、Dは実施例1で取得したモノクローナル抗体のうち整理番号1のもの、Eは同じく整理番号4のもの、Fは同じく整理番号9のもの、を表す。
【0049】ヒト−テネイシンの存在により細胞接着が発生する。これは培地のシャーレへの細胞の接着という形で表れる(A及びB)。これに細胞接着阻害活性を有することが判っているフィブロネクチンに対するモノクローナル抗体(30-8)を加えると、シャーレへの細胞の接着は阻害される(C)。実施例1により取得したモノクローナル抗体のうち整理番号1のものは接着阻害を起こさないが、同4及び同9では接着損害を起こしている。モノクローナル抗体が1: 10の希釈度で阻害活性がある。
【0050】本発明に係るモノクローナル抗体が、ヒト−テネイシンの細胞接着に関与する部位を認識してこれの活性を阻害していることが明白である。
【配列表】
【0051】配列番号:1配列の長さ:26配列の型:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド配列

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、試験例1の結果を表す写真である。シャーレ上の細胞を 100倍で撮影した顕微鏡写真である。Aは培地のみを、Bは培地に緩衝液のみを加えたもの、Cはフィブロネクチンに対するモノクローナル抗体(30-8)(宝酒造社製)を加えたものを、それぞれ表す。
【図2】図2は、試験例1の結果を表す写真である。シャーレ上の細胞を 100倍で撮影した顕微鏡写真である。Dは実施例1で取得したモノクローナル抗体のうち整理番号1のもの、Eは同じく整理番号4のもの、Fは同じく整理番号9のものを、それぞれ表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒト−テネイシンの細胞接着活性を有する部位を特異的に認識するモノクローナル抗体。
【請求項2】 請求項1のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−111390
【公開日】平成5年(1993)5月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−302472
【出願日】平成3年(1991)10月21日
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)