説明

モータおよび緩衝器

【課題】 あらゆる機器に適用可能なモータを提供することと、同時に、モータを搭載した緩衝器の性能悪化を防止することである。
【解決手段】 磁石2を備えた軸1と、軸1の外周側に回転可能に設けた電機子Sと、を備えたモータM1において、回転する電機子S1の巻線に通電する通電手段V1を設けて、軸1もしくは電機子Sを選択的に固定することによって、軸1と電機子Sのいずれかを選択的に出力軸とすることが出来るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの改良および改良されたモータを搭載した緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にステータ側に電機子の巻線を備えたモータにあっては、ステータの内側に磁石を備えた軸を回転自在に挿通しているか、もしくは、ステータの外周側に回転自在に設けた筒の内周に磁石を取付けるかしており、通常、上記ステータに対し、インナーロータかアウターロータの形式の違いはあるが、軸もしくは筒がロータとして機能し、モータの出力軸は上記軸もしくは筒となる(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
他方、従来モータの通電もしくは巻線に生じる誘導起電力により発生するトルクを伸縮運動に対する減衰力や制御力として利用する緩衝器の開発が近年盛んとなりつつあり、この緩衝器にあっては、螺子軸とボール螺子ナットとで構成されるボール螺子機構を使用して車両の車体と車軸との相対運動を回転運動に変換可能としておき、螺子軸をモータの出力軸に連結しておくことで、モータの出力するトルクでボール螺子ナットの上下運動を抑制するとしている(たとえば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】(社)電機学会 精密小形電動機調査専門委員会編,小形モータ,初版第5刷,株式会社コロナ社,1999年8月20日,p.30―p.40
【特許文献1】特開平08−197931号公報(段落番号0023,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のモータにあっては、上記モータの構成からすると、インナーロータであろうがアウターロータであろうが、多重ロータを備えたモータを別にして通常、出力軸が1つである。
【0005】
したがって、従来モータを該モータによって駆動される機器に接続する場合には、その機器の構成から、モータにはインナーロータのものを使用するかアウターロータのものを使用するかをあらかじめ決定しておく必要があり、インナーロータのモータに対応する機器には、当然であるがアウターロータのモータを取付けることは出来ない。
【0006】
すなわち、モータは各々形式毎に適材適所があるので、おおよそ、一形式のモータはあらゆる機器に適用可能とはならないのである。
【0007】
また、従来モータを搭載した緩衝器にあっては、車高調整を行うには、懸架バネの反力に抗する力を発生する必要があるので、その力を発生するためにモータの巻線には絶えず電流供給をしなくてはならず、この常時通電により巻線の温度が上昇し最悪の場合には磁石が不可逆減磁を生じてモータの性能が悪化してしまい、結局のところ緩衝器の性能が悪化してしまう危険もある。
【0008】
そこで、本発明は上記不具合を解消するために創案されたものであって、その目的とするところは、あらゆる機器に適用可能なモータを提供することと、同時に、モータを搭載した緩衝器の性能悪化を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるモータは、磁石を備えた軸と、軸の外周側に回転可能に設けた電機子と、を備えたモータにおいて、回転する電機子の巻線に通電する通電手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の課題解決手段における緩衝器は、車体側部材と車軸側部材の相対運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備えた緩衝器において、運動変換機構が、螺子軸と、螺子軸が螺合される螺子ナットとで構成され、モータが、磁石を備え上記螺子軸に連結される軸と、軸の外周側に回転可能に設けた筒と、筒の内周側に設けた電機子と、回転する電機子の巻線に通電する通電手段とを備え、上記筒の回転により筒に対し軸方向へ相対移動する上方もしくは下方の懸架バネ受けとを備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の課題解決手段における他の緩衝器は、車体側部材と車軸側部材の相対運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備えた緩衝器において、運動変換機構が、螺子軸と、螺子軸が螺合される螺子ナットとで構成され、モータが、磁石を備え上記螺子軸に連結される軸と、軸の外周側に回転可能に設けた筒と、筒の内周側に設けた電機子と、回転する電機子の巻線に通電する通電手段とを備え、上記筒の回転により緩衝器本体を車体もしくは車軸に対し相対移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモータによれば、軸と電機子のどちらでも出力軸として機能することができる、すなわちインナーロータ形式およびアウターロータ形式のどちらにも対応できることとなり、これによりモータにより駆動されるあらゆる機器に適用可能となるのである。
【0013】
また、裏を返せば、あらゆる機器に適用可能であるから、モータを多数製造しておいても無駄にはならず、製造者にとっては、その生産管理が飛躍的に容易となる効果もある。
【0014】
さらに、軸と電機子の固定を選択的に行えば、インナーロータ形式のモータとしてもアウターロータ形式のモータとしても使用できるので、非常に便利となる。
【0015】
また、本発明の緩衝器によれば、車高調整後は、その車高を維持するためにモータへの通電の必要が無いので省電力であり、常時の電流供給による経済性の悪化、モータの発熱による磁石の熱減磁に起因するトルク変化、トルク特性の悪化という弊害がなくなり、これにより緩衝器の性能劣化が防止される利点がある。
【0016】
さらに、モータを1つだけ搭載することによって減衰力の発生および車高調整を行うことができるから、緩衝器を小形、軽量かつ安価にすることができ、さらに、その基本長も従来緩衝器と同等に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図に基づき説明する。図1は、本発明の一実施の形態におけるモータの縦断面図である。図2は、本発明の一実施の形態におけるモータの通電手段の斜視断面図である。図3は、他実施の形態におけるモータの縦断面図である。図4は、一実施の形態のモータが具現化した緩衝器の縦断面図である。図5は、緩衝器のモータの拡大縦断面図である。図6は、一実施の形態のモータが具現化した他の緩衝器の縦断面図である。図7は、他の緩衝器のモータの拡大縦断面図である。
【0018】
図1に示すように、一実施の形態におけるモータM1は、軸1と、軸1の外周に装着された磁石たる永久磁石2と、電機子Sと、通電手段V1とを備え、いわゆるブラシレスモータとして構成されている。
【0019】
以下、各部につき詳細に説明すると、電機子Sは、筒3と、筒3の内周に装着された筒状のコア4と、コア4に巻回された巻線5とで構成されている。
【0020】
そして、上記筒3は、その上端開口部はボールベアリング16を介して有底筒状のキャップ体17によって閉塞され、他方、下端開口部にはボールベアリング18を介して環状部材19が取付けられている。
【0021】
また、上記キャップ体17の底部17aには、筒部17bが垂下されており、この筒部17bの内周には、ボールベアリング6の外輪が嵌合しており、さらに、環状部材19の内周側にもボールベアリング7の外輪が嵌合している。
【0022】
他方、軸1は、上記ボールベアリング6,7の内輪に嵌挿されて筒3に対して回転自在に挿通され、また、軸1の外周には、永久磁石2が装着されており、永久磁石4は電機子Sに対向させている。
【0023】
そして、この電機子Sの巻線5は、この場合、UVWの三相2極巻線として構成されており、U相、V相およびW相の各巻線は、その一端でY字型に結線されているが、Δ結線とされても良い。
【0024】
さらに、上記巻線5の各相の他端は、モータM1の図1中上方側に導かれるとともに、各々の端部が、モータM1の上方に設けた3つのリング10,11,12に対応して接続されている。
【0025】
この各リング10,11,12は、図1および図2に示すように、ぞれぞれ同径でドーナツ板状に形成されて、一定の間隔を空けて配置されるとともに、上記キャップ体17の側部17cと筒部17bとの間の空間内に収納されており、具体的には、巻線5がコア4に巻回する上でコイルボビン9を介装させてあり、このコイルボビン9の図1中内方側に樹脂性の筒30を延設し、この筒30にリング10,11,12を保持させてある。
【0026】
そうすることでリング10,11,12が電機子Sと一体化されるので、電機子Sの回転よるリング10,11,12のガタつき等を防止でき、リング10,11,12を電機子Sと一体的に回転させることができる。
【0027】
なお、他の方法によってリング10,11,12のガタつき等を防止するとしてもよい。
【0028】
そして、この各リング10,11,12には、それぞれキャップ体17の側部からキャップ体17内に挿通される接点部材たる各ブラシ13,14,15の一端を摺接させている。
【0029】
なお、キャップ体17は、絶縁性の材料で形成されることが好ましいが、導電性材料で形成される場合には、上記リング10,11,12およびブラシ13,14,15をキャップ体17に対する絶縁の配慮がなされればよい。
【0030】
また、上記各ブラシ13,14,15の他端側は、それぞれモータM1の駆動に必要な駆動回路に接続されており、駆動回路としては、ブラシレスモータの駆動を行うトランジスタ等を備えた周知のものを使用すればよい。
【0031】
したがって、この実施の形態においては、通電手段V1は、上記リング10,11,12およびブラシ13,14,15とで構成されている。
【0032】
そして、このモータM1には、その駆動に必要な軸の回転角を検出するために回転角検出手段K1が設けられており、この場合、回転角検出手段K1は、軸1の上端側に装着されたセンシング用磁石20と、キャップ体17の筒部17b内周に装着されセンシング用磁石20に対向させたホール素子やMR素子等を備えた磁気センサ21とで構成されており、この回転角検出手段K1の磁気センサ21は、上述の巻線5への電流供給を制御する駆動回路中の図示しないトランジスタにパルス信号を伝達して該トランジスタにスイッチング動作させるべく、駆動回路に図示しない信号線で結ばれている。
【0033】
さらに、上記回転角検出手段K1とは別に電機子S側を駆動するために必要な電機子Sの回転角を検出する回転角検出手段K2が設けられ、この場合、回転角検出手段K2は、コイルボビン9の筒30の上端側に装着されたセンシング用磁石22と、キャップ体17の側部17c内周に装着されセンシング用磁石22に対向させたホール素子やMR素子等を備えた磁気センサ23とで構成されており、この回転角検出手段K2の磁気センサ23にあっても、上述の巻線5への電流供給を制御する駆動回路中の図示しないトランジスタにパルス信号を伝達して該トランジスタにスイッチング動作させるべく、駆動回路に図示しない信号線で結ばれている。
【0034】
なお、このモータM1にあっては、後述するように軸1を固定しておくことにより筒3側を回転させることができるので、上記回転角検出手段K1と回転角検出手段K2から得られる軸1と電機子Sの回転角を把握できるようになっている。
【0035】
また、上述したところでは、軸1および電機子Sの回転角を検出するのに、センシング用磁石20,22と磁気センサ21,23としているが、これをセンシング用磁石20,22に換えて、ロータコイルもしくはレゾルバコアとし、磁気センサ21をステータコイルとしたレゾルバとしてもよく、また、光学式等のロータリエンコーダを使用して軸1および電機子Sの回転角を検出するとしてもよい。
【0036】
さらに、本実施の形態においては回転角検出手段K1,K2を軸1および電機子S側で2つ設けているが、これを上記した通電手段V1と同様の構造、すなわち、磁気センサの信号線および電流供給用のリード線をそれぞれリングに接続しておくとして、回転角検出手段を1つのみ設けるとしてもよいが、この場合、磁気センサには、信号線が多数ある場合があり、さらに、電流供給も行わなくてはならないので、通電手段の構造が複雑となる。
【0037】
さて、上記のように構成されたモータM1は、筒3側を固定して使用する場合には、巻線5に上記リング10,11,12およびブラシ13,14,15を介して電流供給を行うと、通常のブラシレスモータと同様に、軸1が回転駆動され、この軸1が出力軸となる。
【0038】
反対に、軸1を固定して巻線5に上記リング10,11,12およびブラシ13,14,15を介して電流供給を行うと、筒3、すなわち、電機子Sが回転駆動され、この筒3が出力軸となるが、通電手段V1が上記リング10,11,12およびブラシ13,14,15で構成されており、電機子Sがリング10,11,12とともに回転しても各ブラシ13,14,15は、リング10,11,12上を接しつつ滑って巻線5に電流供給をしつづけることが可能であるから、電機子Sはそのまま回転しつづけることが可能となる。
【0039】
したがって、本実施の形態におけるモータM1にあっては、軸1と筒3のどちらでも出力軸として機能することができる、すなわちインナーロータ形式およびアウターロータ形式のどちらにも対応できることとなり、これによりモータにより駆動されるあらゆる機器に適用可能となるのである。
【0040】
また、裏を返せば、このモータM1にあっては、あらゆる機器に適用可能であるから、モータM1を多数製造しておいても無駄にはならず、製造者にとっては、その生産管理が飛躍的に容易となる効果もある。
【0041】
さらに、上述のように、軸1と筒3の固定を選択的に行えば、インナーロータ形式のモータとしてもアウターロータ形式のモータとしても使用できるので、非常に便利となる。
【0042】
また、このモータM1の外周に、すなわち、筒3の外周に、たとえば、従動側歯車を装着し、さらに、上記従動側歯車に他のモータの出力軸に連結された駆動歯車を噛合した場合を考えると、筒3を他のモータで回転駆動しておき、さらに、モータM1の軸1を電機子Sで駆動すると、軸1の回転速度を増減速することができるので、多重ロータモータのように複雑なモータを必要とせずに簡易にモータの出力軸の増減速を行うことができる。
【0043】
つづいて、他の実施の形態におけるモータM2について説明する。このモータM2は、図3に示すように、軸1と、軸1の外周に装着された磁石たる永久磁石2と、電機子Sと、通電手段V2とを備え、いわゆるブラシレスモータとして構成され、上述の一実施の形態のモータM1と異なる部分は、その通電手段V2である。
【0044】
なお、一実施の形態と同様の部分については、同様の符号を付するのみとして、その詳細な説明を省略することとする。
【0045】
さて、一実施の形態におけるモータM1と異なる通電手段V2であるが、他の実施の形態におけるモータM2にあっては、巻線5の各相の一端側に接点部材であるブラシ31,32,33を設けて、他方のリング34,35,36は、キャップ体17の側部17cに固定して構成されている。
【0046】
すなわち、このモータM2にあっては、ブラシ31,32,33が電機子Sともに回転し、回転しないリング34,35,36上を接しながら滑るようにしてあり、これによっても、電機子Sが回転しても巻線5に通電することが可能であるから、上記一実施の形態におけるモータM1と同様の作用効果を奏することができる。
【0047】
なお、上述したところでは、各リング10,11,12,34,35,36は、ドーナツ板状に形成されているが、筒状とされてもよく、また、全てを同径とする必要はなく、異径とされてもよい。
【0048】
また、接点部材については、これをブラシ以外にも巻線5側に設けた、もしくは駆動回路側に設けたリングに接しつつ滑ることができるものであれば使用可能である。
【0049】
つづいて、上記した一実施の形態のモータが具現化された緩衝器について説明する。この緩衝器D1は、図4に示すように、車体側部材たる車体と車軸側部材の相対運動を回転運動に変換する運動変換機構Tと、上記回転運動が伝達されるモータM3と、上方懸架バネ受け40とを備えている。
【0050】
モータM3は、図4および図5に示すように、基本的には、上記したモータM1同様に、軸1と、軸1の外周に装着された磁石たる永久磁石2と、電機子Sと、通電手段V1とを備えて構成されるが、電機子Sの筒3の外周には、雄螺子となる螺子部41が形成されるとともに、その図4中上端開口部から延設される鍔部42が設けられ、また、有底筒状のキャップ体17は、その外周側に筒3の鍔部42に対向する摩擦板(図示せず)を備えた環状の電磁クラッチC1が取付けられ、さらに、キャップ体17の筒部17b内には、軸1の上端面に対向する電磁石C2が収納固定され、加えて、キャップ体17の上端外周には鍔部45が延設されている点が、モータM1と異なる。
【0051】
そして、上記したモータM3におけるキャップ体17の鍔部45は、防振ゴム49に抱持され、さらに、この防止ゴム49は、車両の車体Bに固定したブラケット50により抱持され、これによりモータM3は、車体Bに取付けられている。
【0052】
さらに、上記した電磁クラッチC1は、詳しく図示はしないが、電流供給時には、電磁クラッチC1の摩擦板(図示せず)が筒3の鍔部42に当接して筒3がキャップ体17に対して回転することが規制され、逆に、非通電時には、上記摩擦板が鍔部42から離れて筒3のキャップ体17に対する回転が許容されるようになっている。
【0053】
なお、鍔部42の上記摩擦板に対向する面には、摩擦板に対しすべりを生じないように、摩擦板を設けるかして電磁クラッチC1の摩擦板との間の摩擦係数の高くしておくとよい。
【0054】
また、軸1には、その上端から開口する断面非円形の孔46が設けられ、この孔46内には、この孔46の断面に符合する断面を備えた棒体47が摺動自在に挿入され、さらに、この棒体47の図4中上端には、板48が設けられている。
【0055】
そして、電磁石C2に通電すると、板48は棒体47が孔46から抜けることなく該電磁石C2に吸引されて、これにより、軸1のキャップ体17に対する回転が阻止され、逆に、電磁石C2の非通電時には、板48が吸引されないので、軸1はキャップ体17に対し自由に回転することができるようになっている。
【0056】
すなわち、軸1および筒3の回転を選択的に規制する規制手段は、この場合、電位クラッチC1および電磁石C2とで構成されていることになるが、これ以外の構造、方法を利用して軸1および筒3の回転を選択的に規制するとしてもよい。
【0057】
なお、キャップ体17は、この実施の形態の場合、電磁クラッチC1および電磁石C2が固定されるため、これらの発する磁気が磁気センサ21に影響を及ぼすこともあるので、たとえば、ステンレス等の非磁性体材料で形成されることが望ましい。
【0058】
さらに、上方懸架バネ受け40は、環状に形成されるとともに、その内周側には、筒3の螺子部41に螺合可能なように、螺子部40aが形成されており、さらに、上方懸架バネ受け40には、その外縁から複数キー40bが突設されている。
【0059】
このキー40bは、キャップ体17の 鍔部45の下面から結合される筒体65の内周側に形成したキー溝66内に摺動自在に挿入され、これにより上方懸架バネ受け40が筒3に対して回り止めされている。
【0060】
すなわち、筒3が回転すると、上方懸架バネ受け40は回り止めされているので、図4中上下方向に移動せしめられるようになっている。
【0061】
なお、筒3の外周に形成される螺子部41の形状は、上方懸架バネ受け40が大きな力を受けた際に筒3を回転させてしまわないような形状とされている。
【0062】
転じて、運動変換機構Tは、螺子ナットたるボール螺子ナット51と、ボール螺子ナット51内に回転自在に螺合される螺子軸52とで構成され、該螺子軸52の上端は、上記モータM3の軸1の下端にカップリングCPを介して連結されている。
【0063】
そして、螺子軸52は、ボールベアリング53,54を介して、環状部材19の下端に連結される内筒55に回転自在に支持されている。
【0064】
他方、螺子軸52に螺合されている螺子ナットたるボール螺子ナット51は、内筒55より小径の連携筒56の図4中上端に回動不能に連結されており、この連携筒56は、詳しくは図示しないが、その下端で緩衝器D1を車軸側部材に連結するブラケット57を介して外筒58に結合され、また、この外筒58内には、内筒55が軸受61,62を介して摺動自在に挿入されている。
【0065】
すなわち、ボール螺子ナット51は、連携筒56およびブラケット57を介して車両の車軸側(図示せず)に連結され、ボール螺子ナット51が螺子軸52に対し図4中上下方向の直線運動を呈すると、ボール螺子ナット51は、車軸側に固定される連携筒56により回転運動が規制されているので、螺子軸52は強制的に回転駆動され、逆に、モータM3の軸1を回転駆動して螺子軸52を回転させると、ボール螺子ナット51の回転が規制されているので、これによりボール螺子ナット51を上下方向に移動せしめることができる。
【0066】
また、外筒58の側部外周には、下方懸架バネ受け68が設けられており、小の下方懸架バネ受け68と上方懸架バネ受け40との間には、懸架バネ69が介装されている。
【0067】
なお、外筒58と内筒55との間には軸受61,62が設けられているので、外筒58に対する内筒55の軸ぶれが防止され、結果的に、ボール螺子ナット51に対する螺子軸52の軸ぶれが防止され、これにより、ボール螺子ナット51の一部のボール(図示せず)に集中して荷重がかかることを防止でき、上記ボールもしくは螺子軸52の螺子溝が劣化する事態を避けることが可能である。
【0068】
また、上記ボールもしくは螺子軸52の螺子溝の劣化を防止できるので、螺子軸52のボール螺子ナット51に対する回転および緩衝器D1の伸縮方向への移動の各動作の円滑さを保つことができ、上記各動作の円滑を保てるので、緩衝器D1としての機能も損なわれず、ひいては、緩衝器D1の劣化を防止できる。
【0069】
さらに、上記螺子軸52とボール螺子ナット51は、内筒55および外筒58内に収容されているので、外部からの飛び石等の干渉を受けないので、この点でも緩衝器D1の劣化を防止できる。
【0070】
さて、上述のように構成された電磁緩衝器D1にあっては、路面から力を受けて車体と車軸とが直線相対運動すると、車軸側に連結されるボール螺子ナット51と車体B側にモータM3を介して連結される螺子軸52とが直線相対運動を呈し、この相対運動が上記のように螺子軸52の回転運動に変換され、この螺子軸52の回転運動がモータM3の軸1に伝達される。
【0071】
ここで、上記した電磁クラッチC1および電磁石C2には、通電しない状態としておくことにより、軸1のみの回転が許容され、軸1が回転運動を呈すると、モータM3内の巻線5が磁石2の磁界を横切ることとなり、該巻線5に誘導起電力を発生させることよりモータM3にエネルギ回生させて電磁力を発生させ、モータM3の軸1には誘導起電力に起因する電磁力による回転トルクが作用し、上記回転トルクが軸1の回転運動を抑制することとなる。
【0072】
この軸1の回転運動を抑制する作用は、上記螺子軸52の回転運動を抑制することとなり、螺子軸52の回転運動が抑制されるのでボール螺子ナット51の直線運動を抑制するように働き、緩衝器D1は、上記電磁力によって、この場合減衰力として働く制御力を発生し、振動エネルギを吸収緩和する。
【0073】
このとき、積極的に巻線5に外部電源から電流供給する場合には、軸1に作用する回転トルクを調節することで緩衝器D1の伸縮を自由に制御、すなわち、緩衝器D1の制御力を発生可能な範囲で自由に制御することが可能であるので、緩衝器D1の減衰特性を可変としたり、緩衝器D1をアクチュエータとして機能させたりすることも可能であり、また、上述のエネルギ回生による減衰力にあわせて緩衝器D1をアクチュエータとして機能させて適切な制御を行う場合には、緩衝器D1をアクティブサスペンションとしても機能させることも可能である。
【0074】
なお、上述のように積極的にアクチュエータとして機能させる必要が無い場合、すなわち、減衰力を発生させるだけであれば、後述する車高調整時以外では積極的にモータM3に通電する必要はなく、モータM3の軸1が強制的に回転させられるときに巻線5に生じる誘導起電力により、すなわち、エネルギ回生のみにより発生する電磁力に起因する回転トルクで螺子軸52とボール螺子ナット51との直線相対運動を抑制するとしてもよいことは勿論である。
【0075】
つづいて、電磁クラッチC1および電磁石C2に通電すると、上記とは逆に、筒3の回転が自由となり軸1の回転が阻止されるので、巻線5に電流供給すると筒3が回転駆動されることとなる。
【0076】
すると、筒3の回転により上方懸架バネ受け40が上下移動せしめられることとなり、これにより、車高調整を行うことが可能となる。
【0077】
また、同時に、上記回転角検出手段K1,K2により、筒3の回転運動の状況(回転角等)と筒3の螺子部41のピッチから上方懸架バネ受け40の移動量を把握して、狙った車高となるように筒3の回転量が制御される。
【0078】
なお、上記のように車高制御を、筒3の回転量に基づいて行うことができ、当然のごとくモータM3の駆動には、上記回転角検出手段K1,K2が搭載されることから、新たに車高を検知するセンサの搭載は不必要であるので経済的となる。
【0079】
また、回転角検出手段K1,K2の他に、別途に車高を検出するセンサを設けることは不経済となるが差し支えない。
【0080】
さらに、上方懸架バネ受け40は、筒3が回転駆動されないとその位置を維持しつづけることから、車高調整終了後は、上方懸架バネ受け40の位置を維持するためのモータM3および電磁クラッチC1および電磁石C2への通電等の必要が無いので省電力であり、経済的である。
【0081】
また、上記した緩衝器D1にあっては、車高調整を行うのに減衰力を発生するため使用されるモータM3に常に車高を維持するためトルクを発生させておく必要、すなわち、従来のモータを搭載した緩衝器では、モータに常に通電して螺子軸にトルクを与えておく必要があるが、本実施の形態の緩衝器D1にあってはその必要はなく、車高調整のために常に電流を供給しておく不都合、すなわち、常時の電流供給による経済性の悪化、モータM3の発熱による磁石の熱減磁に起因するトルク変化、トルク特性の悪化という弊害がなくなり、これにより緩衝器D1の性能劣化が防止される利点がある。
【0082】
またさらに、従来のモータを搭載した緩衝器では、上記した車高調整を行うときの不具合を解消しようとする場合には、車高調整用のモータ、アクチュエータ、空油圧源等を別途搭載する必要があるが、本実施の形態の緩衝器D1にあっては、モータM3を1つだけ搭載することによって上記不具合を解消可能であるから、緩衝器D1を小形、軽量かつ安価にすることができ、さらに、その基本長も従来緩衝器と同等に確保することができる。
【0083】
また、緩衝器D1の場合には、車両走行中、電磁クラッチC1および電磁石C2への通電、非通電により軸1と筒3の回転を選択的に許容阻止可能であるので、その組み合せとモータM3の電流制御によって、きめ細かな車体姿勢制御を行うことが可能となる利点もある。
【0084】
さらに、図6に示した一実施の形態のモータが具現化した他の緩衝器D2について説明する。この緩衝器D2は、基本的には上記した緩衝器D1と同様の構成となるが、緩衝器D2におけるモータM4にあっては、モータM3のキャップ体17における鍔部45の下面に結合される筒体65が廃される換わりに鍔45の外周に複数のキー71が突設されている点で上記した緩衝器D1におけるモータM3と異なる。
【0085】
また、図6および図7に示すように、このモータM4の外周側には、防振ゴム76を介して車体Bに取付けられる筒体72が配されており、この筒体72は、筒3の螺子部41に螺合される小径部73と、小径部73の上端から延設される大径部74とを備え、この大径部74の内周側には複数のキー溝75が設けられ、このキー溝75内にはキャップ体17における鍔部45に設けた複数のキー71を挿入してある。
【0086】
したがって、モータM4は、筒体72を介して車体Bに支持され、また、キャップ体17は、上記キー71およびキー溝75の係合により回り止めされ、このモータM4は、筒3が回転駆動されると、筒体72に対して図5中上下方向に移動することができるようになっている。
【0087】
また、緩衝器D2にあっては、上方懸架バネ受け80は、内筒55の上端近傍に取付けられており、この上方懸架バネ受け80と、下方懸架バネ受け68との間には、緩衝器D1同様に懸架バネ69が介装される。
【0088】
そして、この緩衝器D2は、上記した以外については、上述の緩衝器D1と同様の構成となっているので、詳しい説明を省略する。
【0089】
この緩衝器D2の場合、筒3の回転により上方懸架バネ受け40を上下移動させて車高調整を行う緩衝器D1と異なり、筒3の回転によりモータM4を上下移動、すなわち、緩衝器D2自体を車体Bに対して上下移動させて車高調整を行うものであるが、異なるのはその点のみであり、減衰力の発生については緩衝器D1と同様である。
【0090】
つまり、電磁クラッチC1および電磁石C2に通電すると筒3の回転が自由となり、この状態でモータM4に通電すると筒3が回転駆動され、車高調整を行うことができ、逆に、電磁クラッチC1および電磁石C2に通電しない場合には、軸1の回転が自由となり、螺子軸52とボール螺子ナット51の運動を抑制して減衰力を発揮できる。
【0091】
そして、この緩衝器D2にあっても、車高調整時には、回転角検出手段K1,K2により、筒3の回転運動の状況(回転角等)と筒3の螺子部41のピッチから緩衝器D2の車体Bに対する移動量を把握して、狙った車高となるように筒3の回転量が制御される。
【0092】
さらに、緩衝器D2は、筒3が回転駆動されないとその位置を維持しつづけることから、車高調整終了後は、緩衝器D2の位置を維持するためのモータM4および電磁クラッチC1および電磁石C2への通電等の必要が無いので省電力であり、経済的である。
【0093】
また、上記した緩衝器D2にあっても、車高調整を行うのに減衰力を発生するため使用されるモータM4に常に車高を維持するためトルクを発生させておく必要、すなわち、従来のモータを搭載した緩衝器では、モータに常に通電して螺子軸にトルクを与えておく必要があるが、本実施の形態の緩衝器D4にあってはその必要はなく、車高調整のために常に電流を供給しておく不都合、すなわち、常時の電流供給による経済性の悪化、モータM3の発熱による磁石の熱減磁に起因するトルク変化、トルク特性の悪化という弊害がなくなり、これにより緩衝器D2の性能劣化が防止される利点がある。
【0094】
またさらに、従来のモータを搭載した緩衝器では、上記した車高調整を行うときの不具合を解消しようとする場合には、車高調整用のモータ、アクチュエータ、空油圧源等を別途搭載する必要があるが、本実施の形態の緩衝器D2にあっても、モータM4を1つだけ搭載することによって上記不具合を解消可能であるから、緩衝器D2を小形、軽量かつ安価にすることができ、さらに、その基本長も従来緩衝器と同等に確保することができる。
【0095】
また、緩衝器D2の場合にも、車両走行中、電磁クラッチC1および電磁石C2への通電、非通電により軸1と筒3の回転を選択的に許容阻止可能であるので、その組み合せとモータM4の電流制御によって、きめ細かな車体姿勢制御を行うことが可能となる利点もある。
【0096】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態におけるモータの縦断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるモータの通電手段の斜視断面図である。
【図3】他実施の形態におけるモータの縦断面図である。
【図4】一実施の形態のモータが具現化した緩衝器の縦断面図である。
【図5】緩衝器のモータ部分の拡大縦断面図である。
【図6】一実施の形態のモータが具現化した他の緩衝器の縦断面図である。
【図7】他の緩衝器のモータ部分の拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 軸
2 磁石たる永久磁石
3 筒
4 コア
5 巻線
6,7,16,18,53,54 ボールベアリング
9 コイルボビン
10,11,12,34,35,36 リング
13,14,15,31,32,33 接点部材たるブラシ
17 キャップ体
17a 底部
17b 筒部
17c 側部
19 環状部材
20,22 センシング用磁石
21,23 磁気センサ
30 筒
40,80 上方懸架バネ受け
40a 螺子部
40b,71 キー
41 螺子部
42,45 鍔部
46 孔
47 棒体
48 板
49,76 防振ゴム
50,57 ブラケット
51 螺子ナットたるボール螺子ナット
52 螺子軸
55 内筒
56 連携筒
58 外筒
61,62 軸受
65,72 筒体
66,75 キー溝
68 下方懸架バネ受け
69 懸架バネ
72 筒体
73 小径部
74 大径部
B 車体
C1 電磁クラッチ
C2 電磁石
CP カップリング
D1,D2 緩衝器
M1,M2,M3,M4 モータ
K1,K2 回転角検出手段
S 電機子
T 運動変換機構
V1,V2 通電手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石を備えた軸と、軸の外周側に回転可能に設けた電機子と、を備えたモータにおいて、回転する電機子の巻線に通電する通電手段を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
通電手段が、巻線端部に設けたリングと、リングに摺接する接点部材とを備えてなる請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
通電手段が、巻線に設けた接点部材と、接点部材に摺接するリングとを備えてなることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項4】
車体側部材と車軸側部材の相対運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備えた緩衝器において、運動変換機構が、螺子軸と、螺子軸が螺合される螺子ナットとで構成され、モータが、磁石を備え上記螺子軸に連結される軸と、軸の外周側に回転可能に設けた筒と、筒の内周側に設けた電機子と、回転する電機子の巻線に通電する通電手段とを備え、上記筒の回転により筒に対し軸方向へ相対移動する上方懸架バネ受けとを備えたことを特徴とする緩衝器。
【請求項5】
懸架バネ受けが環状であって内周に螺子部を備えるとともに筒に対し回り止めされてなり、筒の外周に上方懸架バネ受けの螺子部に螺合する螺子部が形成されてなることを特徴とする請求項4に記載の緩衝器。
【請求項6】
車体側部材と車軸側部材の相対運動を回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転運動が伝達されるモータを備えた緩衝器において、運動変換機構が、螺子軸と、螺子軸が螺合される螺子ナットとで構成され、モータが、磁石を備え上記螺子軸に連結される軸と、軸の外周側に回転可能に設けた筒と、筒の内周側に設けた電機子と、回転する電機子の巻線に通電する通電手段とを備え、上記筒の回転により緩衝器本体を車体もしくは車軸に対し相対移動させることを特徴とする緩衝器。
【請求項7】
車体側もしくは車軸側に内周に螺子部を備えた螺子部材を設け、筒体の外周に上記筒の螺子部に螺合する螺子部が形成されてなることを特徴とする請求項6に記載の緩衝器。
【請求項8】
軸および筒の回転を選択的に規制する規制手段を設けたことを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項9】
通電手段が、巻線端部に設けたリングと、リングに摺接する接点部材とを備えてなる請求項4から8のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項10】
通電手段が、巻線に設けた接点部材と、接点部材に摺接するリングとを備えてなることを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−67723(P2006−67723A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248378(P2004−248378)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】