説明

ラウドスピーカー装置

本発明は、近接して配置され、音響上分離した第1および第2ラウドスピーカーエレメントを含むラウドスピーカー装置に関する。第1および第2エレメントは、それぞれ第1の信号および第2の信号を受けるように配置され、前記第1の信号の少なくとも一部は、前記第2の信号に対して逆位相にある。本発明の装置は、前記第1および第2ラウドスピーカーエレメントそれぞれに近接して位置する第3および第4ラウドスピーカーエレメントをさらに含む。前記第3のラウドスピーカーエレメントの中心は、前記第1ラウドスピーカーエレメントの中心と前記第3ラウドスピーカーエレメントの中心を通る第1の軸が水平面に対して0〜±30°の角度φで傾斜するように位置し、前記第4ラウドスピーカーエレメントの中心は、前記第2ラウドスピーカーエレメントの中心と前記第4ラウドスピーカーエレメントの中心を通る第2の軸が水平面に対して0〜±30°の角度φで傾斜するように位置する。前記第3および第4ラウドスピーカーそれぞれに送られる第1および第2信号は、ローパスフィルター処理され、このローパスフィルターのカットオフ周波数は、2.5kHz以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオステレオ信号の再生のためのラウドスピーカーに関する。特に本発明は、請求項1の前提部に記載のラウドスピーカーに関する。また本発明は、請求項19に記載のオーディオステレオ再生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
以前はモノラル再生で再生されるものより、オーディオ再生されるサウンドが期待を下回らなければ、ほとんどのリスナーは、満足していた。しかしながら、近年、例えば録音スタジオまたはライブコンサートの録音したものを高い質のステレオサウンドに再生することへの要求が高まってきている。
【0003】
従って、そのために種々のシステムが開発され、それぞれ程度の差があるにしても実際のステレオサウンドを再生することができる。
【0004】
最も簡単に思いつくシステムは、リスナーの前方にある一定の距離をおいて左側および右側にスピーカーを配置した従来のステレオ再生システムである。現在の再生システムのほとんどは、この技術を基本にしている。しかしながら、個々のラウドスピーカーの傾向およびラウドスピーカーがリスナーに対してどのように位置するかによって従来の方法は、電気ステレオ信号を誤って変換してしまうことがよくあるので、リスナーの耳によって知覚される音波間の相対強度および時差の両方の点で、電気ステレオ信号の正確な再生を最もよく知覚できる位置は、ラウドスピーカーに対する位置において1箇所しかない。
【0005】
リスナーを録音現場に移動したように仮想させる、即ち現場での異なる音源の実際の配置を感じさせるのに最も近いシステムは、バイノーラル法で録音し、バイノーラル法で再生(ヘッドホン)することである。しかしながら、多くのラウドスピーカーは、DSPによるクロストークキャンセレーションというものを採用している、例えば米国特許第3,236,949号および同第5,862,227号を参照されたい。このシステムの目的は、右のスピーカーから左の耳へおよびその逆に到達する信号を除去することである。これは、バイノーラルラウドスピーカーシステムを製造するためのものである。このようなシステムにはクロストークキャンセレーション信号自体の錯綜(complexity)によって音声信号が劣化するという不都合がある。バイノーラル法による録音、再生以外の上述の2つのスピーカーの組み合わせなどの他の方法としては、完全に架空であり、録音現場で実際に経験するものとほとんど類似性を持つ必要のない仮想の音声イメージを創出することである。
【0006】
従ってラウドスピーカーの設定および品質に関係なく、ステレオサウンドイメージを完全に再生するサウンド再生システムが必要とされている。この問題を解決する1つのシステムとして、本願出願人による特許出願WO01/39548号に記載されているものがあり、ここには入力オーディオ信号の処理および再生方法が開示されている。ここに記載されているシステムは、オーディオステレオ信号をシステムの質に関係なく、知覚されたステレオイメージに高い整合性をもった高度な忠実度でオーディオステレオ信号を再生することができる。
【0007】
しかしながら、このようにラウドスピーカーが接近して位置するシステムには、ラウドスピーカーとリスナーとの間の距離が長くなると、リスナーの位置で知覚されるステレオ効果の忠実度の点でシステムの性能が劣化し、究極的には完全に消滅してしまう。従って、改良されたサウンド再生システムが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の問題点を解決するラウドスピーカー装置を提供することである。この目的は、請求項1の特徴部に記載されているラウドスピーカー装置によって達成される。
【0009】
本発明によるラウドスピーカー装置は、互いに近接して配置された第1および第2ラウドスピーカーエレメントを含み、これら第1および第2のラウドスピーカーエレメントは、第1の伝播方向に音を発するように配置され、音響上互いに分離され、それぞれ第1および第2の信号を受け取るために配置され、第1の信号の少なくとも1部は、第2の信号に対して逆位相にあり、この装置は、さらに第1の方向に音を伝播するために配された第3および第4のラウドスピーカーシステムを含む。この第3のスピーカーは、第1のラウドスピーカーエレメントに近接して位置し、第1の信号の少なくとも一部を受け取るように構成されている。第4のスピーカーは、第2のラウドスピーカーエレメントに近接して位置し、第2の信号の少なくとも一部を受け取るように構成されている。第3のラウドスピーカーエレメントの中心は、第1のラウドスピーカーエレメントの中心と第3のラウドスピーカーエレメントの中心を通る第1の軸が水平面に対して角度φをもって傾斜するように位置している。第4のラウドスピーカーエレメントの中心は、第2のラウドスピーカーエレメントの中心と第4のラウドスピーカーエレメントの中心を通る第2の軸が水平面に対して角度φをもって傾斜するように位置し、角度φは、0°から±30°である。これら第3と第4のエレメントは、第1および第2の軸が等しいφの値を有し、第1および第2のエレメントとの間を通過する垂直軸のある点で実質的に交わる。第3および第4のエレメントへの信号は、ローパスフィルター処理され、そのローパスフィルターのカットオフ周波数は、2.5kHz以下である。
【0010】
このことは、かなり大きな径のラウドスピーカーエレメントと同じような効果、即ちスピーカーエレメントが装置からさらに離れたダイポールとして機能し、その結果、ラウドスピーカーからある程度離れたリスナーによって知覚されるステレオ効果が、特にラウドスピーカーエレメントのfから2.5kHzの範囲の周波数に対して改善される。ここでfはラウドスピーカーエレメントの共振周波数を表す。第3および第4のラウドスピーカーへの信号をローパスフィルター処理することによって高周波数のローブパターン(lobe pattern)の変化(alternation)を避けることができる。さらに本発明のラウドスピーカーエレメント構造を使用することによって、スピーカーエレメントの寸法、特に高さが制限されている用途におけるステレオ再生を向上させることができる。
【0011】
上記第1のエレメントの中心と第3のエレメントの中心との間および上記第2のエレメントの中心と第4のエレメントの中心との間の距離Dは、本発明の利点を最大限に生かすために第1のエレメントと第2のエレメントの直径dの2倍以下であるのが好ましい。
【0012】
さらに別のラウドスピーカーエレメントを第1および第2のエレメントおよび/または第3および第4のエレメントの近傍に配置してもよい。これによって特定の周波数で知覚されるステレオ効果がさらに向上するという利点がある。
【0013】
上記第1および第2のラウドスピーカーは、一組の同一のラウドスピーカーエレメントを構成してもよく、エレメントによって発生される最も短い波長の1/4未満の範囲内で位置してもよく、エレメントによって発生される最も短い周波数が68cm未満の場合、17cm未満となる。
【0014】
さらに上記第1の信号は、ミッド入力信号(M)とサイド入力信号(S)の合計と等しくてもよく、第2の信号は、ミッド入力信号(M)と180°位相シフトされたサイド信号(S)との合計と等しくてもよい。
【0015】
さらにサイド入力信号(S)またはミッド入力信号(M)の少なくとも一部は、第1および第2の信号を作る前または作る際に約45°から135°位相シフトされてもよい。
【0016】
上記装置は、スタジオモニター、ハイファイシステム、ホームシネマシステム、コンパクトハイファイシステム、パーソナルラジオシステム、テレビ、ラップトップコンピューター、PCモニター、パーソナルコンピューター、マルチメディアスピーカー、携帯電話、PDAからなる群から選択されるものを構成する装置の一体部品であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、従来のラウドスピーカー装置10を示す。このラウドスピーカー装置10は、第1の部分13と、第2の部分14とを含む。第1部分は、第1のラウドスピーカーエレメント11を含み、第2部分は、第2のラウドスピーカーエレメント12を含む。図示した装置10は、入力ステレオ信号をステレオ再生するためのものであり、ラウドスピーカー装置10は、共通のエンクロージャーで構成されているが、ラウドスピーカーエレメント11および12の共振器容積または空洞部は、互いに音響的に分離している。本明細書および特許請求の範囲でいう「音響的に分離」なる用語は、1つの共振器容積から他へ音が全くまたはほとんど移動しないことを意味する。
【0018】
図示したラウドスピーカー装置は、従来の入力オーディオステレオ信号が左入力ステレオ信号Lと右入力ステレオ信号Rとを含む図2に示した方法によって音を再生するために使用することができる。LおよびR信号は、左入力ステレオ信号Lと右入力ステレオ信号Rの合計および左入力ステレオ信号Lと右入力ステレオ信号Rの差にそれぞれ対応するミッド信号Mとサイド信号Sを得るために使用される。出力ステレオ信号LOUTは、左側の音声再生ユニット、この場合は第1部分のラウドスピーカーエレメント11に送られ、サイド信号Sと例えば−3dbから−15dbの範囲の減衰定数αが乗じられたミッド信号Mとの合計を構成し、一方右側の音声再生ユニット(この場合、右側14のラウドスピーカーエレメント12)に送られるサウンド再生出力ステレオ信号ROUTは、反転サイド信号Sと減衰定数αが乗じられたミッド信号Mとの合計である。
【0019】
図1に示すようなラウドスピーカー装置と伴に行われるこの信号処理によって、電気オーディオステレオ信号を知覚されるステレオイメージに高い整合性をもった高度な忠実度で再生することができる。1〜5kHZ超の周波数で知覚されるステレオ効果の忠実度を向上させるために図に示したように出力ステレオ信号LOUTおよびROUTを作る前に位相シフト手段によってサイド信号Sを−90°位相シフトしてもよい。この方法は、国際特許出願WO2005/009078号に詳しく説明されている。90°の位相シフトの代わりに、45〜135°の範囲で位相シフトを行ってもよく、サイド信号Sではなく、ミッド信号Mで行ってもよい。
【0020】
上述のシステムでは、最適な性能を発揮するために、近接して位置するラウドスピーカーエレメント11および12は、ラウドスピーカーエレメント間の干渉による、発せられたサウンドパターンのロービングによって生じるカラレーションを最小限にするように位置するのが好ましい。これはラウドスピーカーエレメント間の距離が発せられる音声の波長の1/4より短い場合に達成される。これは、より高い周波数のラウドスピーカーエレメントをより低い周波数のラウドスピーカーエレメントより接近させて配置したほうがよいということを意味する。実際にはこれは2つのエレメントの中心同士の距離がエレメントが発する最も短い波長の1/4未満より短いことを意味する、またはエレメントが発する最も短い波長が68cm未満(即ち周波数>500Hz)の場合、2つのエレメントの中心の間の距離は、少なくとも17cm以下であり、好ましくはそれより近くなることを意味する。このようにエレメント11、12を配置することによって、エレメントはダイポールとして機能することになる。
【0021】
ラウドスピーカーエレメントがダイポールとして機能する際のλ(波長)がスピーカーエレメントの直径に対して短い周波数、即ち高周波数の場合のローブパターンを図3aに示す。この図から明らかなようにエレメント11および12は、ローブパターンが分離する前にラウドスピーカーエレメントから距離Aまでダイポールとして作用し、このダイポール効果は、リスナーの耳のところで失われる。エレメント11、12がダイポールとして機能する場合、これらは互いにエネルギーを消費し合う、即ち信号が重なり合う領域で信号が相殺または一部相殺され、この相殺がリスナー16の位置で知覚されるステレオ効果となる。従って、満足のいくステレオ効果がラウドスピーカーエレメントから最大の距離Aの所にいるリスナーに供される。もしリスナーがエレメント11、12からさらに離れた所にいると、ステレオ効果が低下する、または全くステレオ効果がリスナーに感じられなくなる。しかしながら、高い周波数の信号の場合、距離Aは、通常、ほとんどの場合に長くなる。
【0022】
しかしながら、波長が増加するにつれて、即ちλ<delement、でdelementが各エレメントの直径である低周波数の場合、同じセットのラウドスピーカーエレメント11、12は、図3bに示すローブパターンを呈する。即ち、エレメント11および12は、ダイポールとして作用するが、ここではローブパターンは、ラウドスピーカーからのB<Aの距離で分かれ、ダイポール効果は、Bを越えたところで失われる。従って、ラウドスピーカー装置10から距離Aのところにいる図3aのリスナーは、これらの低周波数に関して満足のいくステレオ効果を味わえず、また距離Bは、一般的なリビングルームでは短すぎると考えられる。
【0023】
この効果は、周波数が減少するにつれて悪化する。これに関連する周波数間隔は、ラウドスピーカーエレメントの共振周波数fから約1.5〜2.5kHzまでの周波数間隔であり、これ以上の周波数間隔では、図3aの状況が生じる。図3aの状況が1.5kHzに対応し、図3bの状況が750Hzに対応する場合、その状況は、図3cに示すように悪くなり、2〜300Hzの周波数については、ダイポール効果が距離C、C<B<Aで分かれる。これは、満足のいくステレオ効果が装置10に非常に接近した位置でのみ得られることを意味し、テレビまたはハイファイシステムなどの家庭用電化製品の場合には実用的でなく、リスナーは近すぎると感じることになる。従って、少なくとも上述の問題点を軽減し、低い周波数に対して満足のいくステレオ効果をリスナーが体験できる距離を長くする改良されたラウドスピーカー装置が必要とされている。
【0024】
図4に本発明の1つの実施態様によるラウドスピーカー装置を示す。このラウドスピーカー装置は、図1の装置に類似しているが、この例ではエレメント41、42が設けられ、さらにこれらに類似した2つのエレメント46、47が設けられている。エレメント46、47の周波数帯域は、少なくとも部分的にエレメント41、42の周波数帯域と重なってもよく、エレメント41、42の周波数帯域と同一であってもよく、この場合、これらのエレメントは、同じ周波数帯域の出力信号によって給電される。エレメント46、47は、低周波数のステレオ再生を向上させるために加えられたものであり、ラウドスピーカーエレメント表面を加えることによって向上させている。特定の周波数で作動するエレメント表面を増加させることによって、ダイポール効果が位置Aで達成される最大波長が増加し、即ちλ<delementがより長い周波数で有効になるので、所望の機能が低い周波数で得られる。エレメント41(42)に等しい表面を有するエレメント46(47)を加えることは、√2*d41の直径を有する単独のエレメント41’(42’)(図示せず)を使用することに等しい、即ちエレメント41(42)の直径より41%大きいものを使用することに等しい。従って、本発明は、かなり径の大きいラウドスピーカーエレメントを使用した場合と同じ効果を奏する。本発明による構成を利用することによって、スピーカーエレメントの寸法、特に高さが制限されるような用途においてステレオ再生を向上させるという利点が得られる。このような寸法の制限は、例えば家庭用電化製品または携帯電話では一般的である。さらにエレメント41、42の直径およびそれらの中央と中央との間の距離が大きくなり過ぎる場合、即ちスピーカーエレメントのダイポール効果が伴に失われる場合、そのローブパターンは、バイポールのローブパターンに等しくなる。これを図3dに示す。この図に示すようにエレメントから発生したローブは、相互作用せず、よってリスナーの位置では知覚されるステレオ効果が減少する、または完全に損なうことになる。従って互いに近接してエレメント41、42を配置することができるということは、極めて重要であり、この要件を本発明は満たすことができる。
【0025】
最適な性能を発揮するためにエレメント41と46ならびに42と47それぞれの分離は、d=Dで表される関係を満たすことが好ましい、即ちラウドスピーカーエレメント46、47の径がエレメント41(42)の中心とエレメント46(47)の中心との距離Dに等しくなるのが好ましい。もしこの条件を満たすことができない場合、エレメント46、47の径dを満足のいくステレオ再生を確実にするために距離Dの2倍以下にすることが好ましい。上述の空間的制限により、たとえば装置の高さおよび/または幅を小さくするために楕円形のラウドスピーカーエレメントを使用するのが一般的である。このようなエレメントを使用する場合、径dは、楕円の短い方の軸を表し、これにより楕円の偏心率を制限する。
【0026】
しかしながら、追加のエレメント46、47を使用することは、図5に示すようにこれらのエレメントが個々のさらなるローブによって装置の全ローブパターンに影響を与えるという不都合が生じる。これは、これらのローブパターンがエレメント41、42のローブパターンを干渉し、これにより低周波数の再生を向上させることができるが、高周波数の再生の質が低下することを意味する。従って、エレメント46、47へ送られる信号は、ローパスフィルター処理される。これは、エレメント41、42が入力信号をフルレンジで、即ちエレメントの能力を全て使用して、またはこれらエレメントに割り当てられた周波数レンジの部分を再生し、エレメント46、47が特定の周波数までの同じ信号だけを再生することを意味する。
【0027】
エレメント46、47に送られる信号は、ラウドスピーカーエレメントのカットオフ周波数が2.5kHzまたはc/3D以下になるようにローパスフィルター処理されるのが好ましい。ここでcは、媒体中の音の速度であり、例えば室温空気中で〜340m/sである。その結果、エレメント41、42のローブパターンは、ローパスフィルターのカットオフ周波数より上の周波数で実質的に乱されなくなる。カットオフ周波数は、例えば〜1.5kHzに設定される。
【0028】
図4に示した態様は、距離Bおよび/またはCを空間的要件がある場合に本発明を実施することを可能にしながら、長くし、これによりリスナーがラウドスピーカー装置40から離れることができ、それでも高い周波数でのステレオ再生を実質的に妨げることなく、広い周波数レンジで満足のいくステレオ再生を維持することができるという利点がある。
【0029】
さらに入力ステレオオーディオ信号を再生する能力を向上させるために、さらに多くのラウドスピーカーエレメントを加えてもよい。この例を図6に示す。ここでは図1との比較のため、各側に2つづつ、4つのエレメント66−69を追加している。これによって効果的なラウドスピーカーエレメント領域がさらに増加するという利点がある。エレメント66、67に関し、これらを給電する信号は、上述のようにローパスフィルター処理されるのが好ましい。同じ理由からエレメント68、69に送られる信号もローパスフィルター処理されるのが好ましく、ここでは対応する式c/3Dが当てはまり、Dは、最も中央に位置するエレメント(61または62)の中央と特定のエレメントx、例えばエレメント68との距離として定義される。
【0030】
ここまでエレメントを水平軸に沿って配置されるものとして説明してきたが、用途的に許容できるのであれば、最も中央に位置するエレメントに対して斜めにこれら追加のエレメントを配置してもよい。例えば最も中央に位置するエレメントにのみ空間的制限が加えられ、外方のエレメントをより自由に配置することができる場合である。図7に一例を示す。ここではエレメント76、77がエレメント71、72に対して斜めに配置されている。エレメント76の中心は、エレメント71の中心とエレメント76の中心を通る第1の軸が水平面に対して0〜±30°の角度φで傾斜するように位置する。さらにエレメント77の中心は、エレメント72の中心とエレメント77の中心を通る第2の軸が水平面に対して0〜±30°の角度φで傾斜するように位置する。この傾斜角度は、垂直方向のローブパターンを乱さないように±30°を超えないようにするのが好ましい。好ましくはエレメント76、77は、第1と第2の軸が同じ絶対値のφを有し、かつ、エレメント71、72の間を通過する垂直軸上の一点を通るように配置される。
【0031】
さらに図8に2つの追加のエレメント86、88および87、89それぞれが中央に位置するエレメント81、82に対して斜めに配置されている別の例を示す。
【0032】
上記の例では、本発明を1つのセットのエレメントからなるものとして示した。図9に異なる周波数レンジを有する信号を再生する異なるセットのエレメントからなる別の態様を示す。この図に示した装置は、第1のセットのエレメント91−92を含み、これらは高周波数再生に使用され、即ち例えば2.5kHzを超える周波数レンジのハイパスフィルター処理された部分である装置の最も高い周波数レンジを再生するためのものである。エレメント101−104のセットは、上述のエレメントのように機能し、第1のセットより低い周波数を再生する。ミッドレンジエレメントは、基本的に大きな径を有するので、c/3D以下のローパスフィルターカットオフ周波数によって適切に機能する。その結果、この態様は、高い周波数レンジが別のラウドスピーカーエレメントセットによって処理されるので、より大きいエレメント表面を小さい周波数用に得ることができるという利点がある。さらに上述したようにより小さい周波数のラウドスピーカーエレメントをダイポール効果を失わずにより広い間隔をあけて配することができる。
【0033】
さらにこの装置は、ラウドスピーカーエレメント105−106を含み、これらのエレメントは、最も低い周波数レンジ、例えば200Hz未満の周波数の再生に使用される。当然のことながら、本発明による追加のエレメントは、エレメント105、106に使用することができる。
【0034】
上記の説明では、本発明を従来のツースピーカーステレオシステムの従来のラウドスピーカー装置に代わるものとして説明してきたが、本発明は、接近して配置されたラウドスピーカーエレメントがステレオサウンドを再生するために使用されるあらゆる場合に利用可能である。そのような装置としては、スタジオモニター、ハイファイスピーカー、ホームシネマ、コンパクトハイファイ、パーソナルラジオ、カーステレオシステム、テレビ、ラップトップパソコン、パーソナルコンピューター用モニター、マルチメディアスピーカー、携帯電話などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
例えば、携帯電話では、2つのフルレンジラウドスピーカーエレメントをステレオサウンドの再生に使用してもよい。携帯電話では、多くの場合、利用できるスペースが限られており、ラウドスピーカーエレメントは、可能な径に関して制約を受ける場合があり、これは上述したように低周波数のステレオ再生に悪影響を与えることになる。さらに現代の多くのテレビは、ほとんどの場合、スクリーンの下にラウドスピーカーエレメントが配置されるので、可能な限りエレメントの径を小さくしなければならず、よって同じ問題が生じる。本発明による追加のスピーカーエレメントセットを使用することによって、好ましくは外方のエレメントへの信号をローパスフィルター処理することによって携帯電話およびテレビのステレオ質を向上させてもよい。
【0036】
上記の説明では、本発明のラウドスピーカー装置を一体型ユニットとして説明してきたが、これとは別に互いに接近して配置される、または互いに接触して配置される2つの別個のユニットで構成することも可能である。
【0037】
本発明を種々の変更、修正および変形が可能であり、その中のいくつかは、本明細書中で詳述しているが、本明細書を通して説明された、または添付の図面に示した全ての事柄は、あくまで例示を目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来のラウドスピーカー装置を示す。
【図2】ステレオ信号を処理するための従来のシステムを例示するブロック図。
【図3a】図1のシステムが発する周波数のローブパターンを示す。
【図3b】図1のシステムが発する周波数のローブパターンを示す。
【図3c】図1のシステムが発する周波数のローブパターンを示す。
【図3d】より間隔をおいて配されたラウドスピーカーのローブパターンを示す。
【図4】本発明のラウドスピーカーの一態様を示す。
【図5】バイポールとして機能する2つの近接して位置するラウドスピーカーからのローブパターンを示す。
【図6】本発明の別の態様を示す。
【図7】本発明の別の態様を示す。
【図8】本発明の別の態様を示す。
【図9】本発明の別の態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接して位置する第1および第2ラウドスピーカーエレメントを含むラウドスピーカー装置であって、これらラウドスピーカーエレメントは、第1の伝播方向に音を発するように配置され、さらにこれらラウドスピーカーエレメントは、互いに音響的に分離され、それぞれ第1の信号および第2の信号を受けるために配置され、前記第1の信号の少なくとも一部は、前記第2の信号に対して逆位相にあり、さらに前記装置は、前記第1の方向に音を伝播するために配置された第3および第4ラウドスピーカーエレメントを含み、
前記第3ラウドスピーカーエレメントは、前記第1ラウドスピーカーエレメントに近接して位置し、前記第1信号を受けるために配置され、前記第3ラウドスピーカーエレメントの中心は、前記第1ラウドスピーカーエレメントの中心と前記第3ラウドスピーカーエレメントの中心を通る第1の軸が、水平面に対して0°〜±30°の範囲の角度φをもって傾斜するように位置し、
前記第4ラウドスピーカーエレメントは、前記第2ラウドスピーカーエレメントに近接して位置し、前記第1信号の少なくとも一部を受けるために配置され、前記第4ラウドスピーカーエレメントの中心は、前記第2ラウドスピーカーエレメントの中心と前記第4ラウドスピーカーエレメントの中心を通る第2の軸が、水平面に対して0°〜±30°の範囲の角度φをもって傾斜するように位置しているラウドスピーカー装置において、
前記第3および第4ラウドスピーカーエレメントにそれぞれ送られる第1および第2信号は、ローパスフィルター処理され、このローパスフィルターのカットオフ周波数が2.5kHz以下であることを特徴とするラウドスピーカー装置。
【請求項2】
前記第1および第2ラウドスピーカーエレメントの中心を通る軸が実質的に水平であることを特徴とする請求項1に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルターの前記カットオフ周波数がc/3D以下であり、ここでcは媒体中の音の速度であり、前記周波数が2.5kHz以下のいずれの場合において、距離Dは、前記第1エレメントの中心と前記第3エレメントの中心との距離および/または前記第2エレメントの中心と前記第4エレメントの中心との距離であることを特徴とする請求項1または2に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項4】
前記第3および第4エレメントが前記第1および第2軸が同じ絶対値のφを有し、前記第1および第2エレメントの間を通過する垂直軸のある点で交差するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項5】
前記第3および第4ラウドスピーカーエレメントが個々の共振器容積によって個々に音響上、分離されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項6】
前記第1および第3ラウドスピーカーが共通の共振器容量によって音響上、分離されており、前記第2および第4ラウドスピーカーエレメントが共通の共振器容量によって音響上、分離されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項7】
前記第1エレメントの中心と前記第3エレメントの中心との間および前記第2エレメントの中心と前記第4エレメントの中心との間の距離Dが前記第1および第2エレメントの径dの2倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項8】
前記第3および第4エレメントの径dが前記第1エレメントの中心と前記第2エレメントの中心との間の距離Dの2倍以下であることを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項9】
前記装置がさらに
前記第1および/または第3ラウドスピーカーエレメントに隣接して位置する第5のラウドスピーカーエレメントと、
前記第2および/または第4ラウドスピーカーエレメントに隣接して位置する第6のラウドスピーカーとを含むことを特徴とする請求項1乃至8いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項10】
前記第5および第6ラウドスピーカーエレメントへ供給される信号がローパスフィルター処理され、前記ローパスフィルターのカットオフ周波数がc/3D以下であり、ここでcは媒体中の音の速度であり、前記周波数が2.5kHz以下のいずれの場合において、距離Dは、前記第1エレメントの中心と前記第5エレメントの中心との距離および/または前記第2エレメントの中心と前記第6エレメントの中心との距離であることを特徴とする請求項9に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項11】
少なくとも前記第1、第2、第3および第4ラウドスピーカーエレメントは、同一のラウドスピーカーエレメントであることを特徴とする請求項1乃至10いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項12】
少なくとも前記第1、第2、第3および第4ラウドスピーカーエレメントは、実質的に同じ径を有することを特徴とする請求項1乃至11いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項13】
少なくとも前記第1、第2、第3および第4ラウドスピーカーエレメントは、実質的に同じ周波数帯域を再生するように設計されていることを特徴とする請求項1乃至12いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項14】
前記第1および第2ラウドスピーカーエレメントが一組の同一のラウドスピーカーエレメントを構成し、これらエレメントが発する最も短い波長の1/4未満またはこれらエレメントが発する最も短い波長が68cm未満の場合、17cm未満の距離をおいて互いに配置されていることを特徴とする請求項1乃至13いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項15】
前記ラウドスピーカーエレメントの中心がこれらエレメントが発する最も短い波長の1/4未満、またはこれらエレメントが発する最も短い波長が68cm未満の場合、17cm未満の距離をおいて配置されていることを特徴とする請求項14に記載のラウドスピーカーエレメント。
【請求項16】
前記第1信号がミッド入力信号(M)とサイド入力信号(S)との和である、または同等であり、前記第2信号がミッド入力信号(M)と180°位相シフトされたサイド入力信号(S)との和に等しい、または同等であることを特徴とする請求項1乃至15いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項17】
前記サイド入力信号(S)またはミッド入力信号(M)の少なくとも一部が第1および第2信号を作る前または作る際に約45°〜135°位相シフトされることを特徴とする請求項16に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項18】
前記第1および第2ラウドスピーカーエレメントが個々の共振器容積によって個々に音響上、分離されていることを特徴とする請求項1乃至17いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置。
【請求項19】
請求項1乃至18いずれか1項に記載のラウドスピーカー装置を含むことを特徴とする装置。
【請求項20】
スタジオモニター、ハイファイスピーカー、ホームシネマ、コンパクトハイファイ、パーソナルラジオ、カーステレオシステム、テレビ、ラップトップパソコン、パーソナルコンピューター用モニター、マルチメディアスピーカー、携帯電話およびPDAからなる群のいずれかを構成することを特徴とする請求項19に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−534915(P2009−534915A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506445(P2009−506445)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000373
【国際公開番号】WO2007/120103
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(502181997)エンブレイシング サウンド エクスペリエンス アーベー (3)
【Fターム(参考)】