説明

ラクトコッカス属菌の菌種の同定方法

【課題】ラクトコッカス属の菌種・亜種を、容易に同定する方法、特に、1度のPCRで従来になく多くの種類のラクトコッカス属の菌種・亜種を区別することが可能な同定方法の提供。
【解決手段】(a)ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNAの可変領域中に菌種特異的に存在する塩基配列を特異的に認識する特異的プライマーと、ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に共通して存在する塩基配列を特異的に認識する共通プライマーとを用いて、被験菌から抽出された核酸を鋳型としてPCRを行う工程、及び(b)前記工程(a)により得られたPCR産物を検出し、検出されたPCR産物の大きさに基づいて、前記被験菌のラクトコッカス属の菌種を同定する工程、を有することを特徴とするラクトコッカス属菌の菌種同定方法、並びに、前記特異的プライマー及び前記共通プライマーを含むラクトコッカス属菌の菌種同定キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種を同定する方法、並びに、該方法に好適なプライマー及び菌種同定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトコッカス属菌は、自然界に広く存在する中温性乳酸菌であり、古くから、チーズをはじめとする発酵乳製品に幅広く用いられている。近年では、特徴的な菌株を用いることによって特徴的な風味を有する乳発酵製品を作る試みも複数報告されている(例えば、特許文献1参照。)。また、乳酸菌及びその発酵物は、腸管内の腐敗防止作用など様々な生理活性を有することが報告されている。例えばラクトコッカス属菌では、プロテアーゼ処理した乳製品に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ産生能を有するラクトコッカス属菌を接種して培養することにより、血圧低下作用を有するγーアミノ酪酸(GABA)を含有する発酵乳を製造する方法が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。また、老化抑制作用と密接な関わりがある抗酸化能を有するラクトコッカス属菌も報告されている(例えば、特許文献3参照。)。このような様々な生理活性を有する菌株は、産業的価値の非常に高い乳酸菌として注目されている。
【0003】
新しい乳酸菌株を自然界から得るためには、多種多様の微生物から分離・同定を行う必要がある。一般的に菌種の同定方法は、主に表現形質、すなわち、糖分解性状、発酵生産物、一般生物学的性状等を検査することにより行われている。しかしながら、表現形質を基にした同定法は、操作が煩雑であり、かつ多大な時間と労力を要し、さらに試験者の熟練を必要とする。また、乳酸菌の中には継代することで複数のコロニー形態を有する菌株が存在するため、コロニー形態から株を同定するには限界がある。
【0004】
近年では、分子生物学的手法の進歩により、16S rRNA遺伝子配列に基づく菌種同定方法が普及している。16SrRNA遺伝子配列には、9箇所の可変領域が存在し、それぞれV1〜9領域と呼ばれている。これらの可変領域は、一般的に菌種特異的な配列であることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、このため、16S rRNA遺伝子のなかでも、可変領域をターゲットとする菌種特異的なプライマーが多く報告されている。
【0005】
現在、ラクトコッカス属菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)、ラクトコッカス・ガルビアエ(Lactococcus garvieae)、ラクトコッカス・ピシウム(Lactococcus piscium)、及びラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)の5菌種が報告されている。このうち、ラクトコッカス・ラクティスは、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)、及びラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ(Lactococcus lactis subsp.hordniae)の3亜種に分類されている。ラクトコッカス属菌に対しても、菌種特異的プライマーを用いたPCR(Polymerase Chain Reaction)によって、これらの菌種及び亜種を同定する方法も試みられており、様々な菌種特異的なプライマーが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0006】
菌種を同定する対象である微生物から抽出された核酸を鋳型として、菌種特異的プライマーを用いてPCR等を行うことによって菌種を同定する場合、可能性のある全ての菌種に対して、それぞれ特異的なプライマーを用いてPCRを行う必要がある。通常は、プライマーの種類ごとに別個にPCRを行い、1反応液で1菌種を同定する。例えば、ラクトコッカス属菌の菌種・亜種を同定するためには、全部で7種類の反応溶液を別々に調製し、各プライマーに適した反応条件でそれぞれPCRを行うことになる。よって、菌種の数が多くなるほど、作業労力が過大となってしまう。
【0007】
複数種類の菌種に対する特異的プライマーを1の反応溶液に添加して同時にPCRを行う、いわゆるマルチプレックスPCRを行うことにより、この手間を軽減することができる。しかしながら、複数種類のプライマーを1反応溶液中で反応させる場合には、互いに結合してプライマーダイマーを形成しないように、各プライマーを設計する必要がある。このようなプライマーの塩基配列の特異性を調べる作業は、プライマーの組み合わせが多くなればなるほど煩雑性を増し、困難となることが容易に想像できる。
【0008】
また、一般的には、菌種を同定する対象である微生物から抽出された核酸を鋳型として、菌種特異的プライマーを用いてPCRを行う場合、PCR産物の有無や得られたPCR産物の長さ(大きさ)によって、当該微生物の菌種を同定する。このため、マルチプレックスPCRを行う場合、各組み合わせのプライマーから増幅されたPCR産物の長さが区別可能であることが重要である。例えば、非特許文献2に記載の方法では、複数種類のプライマーを用いたマルチプレックスPCRを行い、得られたPCR産物の長さの差によりラクトコッカス属の各菌種を区別しているが、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス及びラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスはPCR産物の長さがほぼ同程度であり、また、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、及びラクトコッカス・プランタラムも、各PCR産物の長さがほぼ同程度である。このため、1度のPCRによって同定可能な菌種はラクトコッカス・ガルビアエのみであり、他の菌種は、得られたPCR産物をさらに制限酵素処理を行う必要があった。このように、1度のPCRによってラクトコッカス属菌の菌種・亜種を区別することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−109756号公報
【特許文献2】特開2001−120179号公報
【特許文献3】特開2006−256993号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jean-Marc Neefs、他4名、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)、第21巻、第3025〜3049ページ、1993年。
【非特許文献2】Z. Y. Pu、他3名、ジャーナル・オブ・アプライド・マイクロバイオロジー(Journal of Applied Microbiology)、第93巻、第353〜361ページ、2002年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ラクトコッカス属の菌種・亜種を、容易に同定する方法、特に、1度のPCRで従来になく多くの種類のラクトコッカス属の菌種・亜種を区別することが可能な同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ラクトコッカス属の複数株の16SrRNA遺伝子配列情報を解析し、各菌種(亜種も含む)のみに特異的に存在している配列(菌種特異的配列)と、全ての菌種に共通する配列(共通配列)とを見出した。さらに、これらの菌種特異的配列と共通配列とにより挟まれる領域をPCR等により増幅した場合に、得られる増幅産物の長さが、菌種ごとに異なるように、菌種特異的配列と共通配列との組み合わせを決定することにより、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) (a)ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に菌種特異的に存在する塩基配列を特異的に認識する特異的プライマーと、ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に共通して存在する塩基配列を特異的に認識する共通プライマーとを用いて、被験菌から抽出された核酸を鋳型としてPCRを行う工程、及び
(b)前記工程(a)により得られたPCR産物を検出し、検出されたPCR産物の大きさに基づいて、前記被験菌のラクトコッカス属の菌種を同定する工程、
を有することを特徴とするラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(2) 前記特異的プライマーが、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーからなる群より選択される1種類又は複数種類であることを特徴とする前記(1)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(3) 前記共通プライマーが、配列番号10で表される塩基配列からなることを特徴とする前記(2)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(4) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、380〜400bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種(Lactococcus lactis subsp.)と同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(5) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)として同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(6) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、440〜460bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)として同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(7) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、240〜260bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエ(Lactococcus garvieae)として同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(8) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウム(Lactococcus piscium)として同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(9) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、160〜180bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)として同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(10) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ(Lactococcus lactis subsp.hordniae)として同定することを特徴とする前記(4)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(11) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーとを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする前記(3)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(12) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを全て用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、
380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして、
380〜400bp及び540〜560bpの領域にそれぞれ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして、
塩基対長が440〜460bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして、
塩基対長が240〜260bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして、
塩基対長が540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして、
塩基対長が160〜180bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする前記(3)に記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(13) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
前記工程(b)において、380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする前記(12)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
【0014】
(14) 前記共通プライマーが、配列番号9で表される塩基配列で表される塩基配列からなることを特徴とする前記(2)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(15) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、810〜830bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種として同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(16) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、970〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(17) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、870〜890bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(18) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、670〜700bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(19) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、980〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(20) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、600〜620bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(21) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする前記(15)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(22) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーとを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする前記(14)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(23) 前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを全て用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、
810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして、
810〜830bp及び970〜1000bpの領域にそれぞれ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして、
870〜890bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして、
670〜700bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして、
980〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして、
600〜620bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする前記(14)に記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
(24) さらに、(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、を有し、
前記工程(b)において、810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする前記(23)記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法、
【0015】
(25) 請求項1〜24のいずれか一項に記載のラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種同定方法に用いられるキットであって、
配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーからなる群より選択される1種類又は複数種類の特異的プライマー、並びに
配列番号9で表される塩基配列又は配列番号10で表される塩基配列からなる共通プライマー、
を含むことを特徴とする、ラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種同定キット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のラクトコッカス属菌の菌種の同定方法により、ラクトコッカス属菌であるか否か、並びに、ラクトコッカス属菌の菌種及び亜種のうち、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス及びラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ以外の全5種の菌種について、PCRにより容易に同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】全菌種の特異的プライマーと共通プライマーとを1のPCR反応溶液に添加してPCRを行った結果に得られたPCR産物の電気泳動像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のラクトコッカス属菌の菌種の同定方法は、ラクトコッカス属の菌種・亜種にそれぞれ特異的な特定の塩基配列を有する特異的プライマーと、ラクトコッカス属の全菌種に共通する特定の塩基配列を有する共通プライマーとを用いることを特徴とする。本発明において用いられる特異的プライマーと共通プライマーは、以下の手法により設計された。
【0019】
1.ラクトコッカス属菌の各菌種の特異的プライマー及び共通プライマーの設計
(1)16SrRNA遺伝子の可変領域のみの検討
16SrRNA遺伝子の可変領域には、菌種特異的な塩基配列が存在する、という一般的な知見に基づき、まず、ラクトコッカス属菌の菌種・亜種の全7種について、16SrRNA遺伝子の可変領域を解析し、各菌種特異的な塩基配列を調べた。具体的には、各菌種の基準株(Type Strain)の16SrRNA遺伝子の塩基配列を基にして、公知の塩基配列解析ソフトウェアを用いて、各菌種特異的な配列部位を特定した。なお、各菌株の16SrRNA遺伝子の塩基配列は、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)、NCBI(National center for Biotechnology Information)のGenbank等の公知の国際的な塩基配列データベースから得た。
【0020】
【表1】

【0021】
表1は、16SrRNA遺伝子の可変領域V1〜9に、ラクトコッカス属の菌種特異的な塩基配列が存在するか否かを示したものである。表中、「○」は、当該領域に、菌種特異的な塩基配列が存在していることを示す。表1に記載された菌種は、同じラクトコッカス属菌であることから、可変領域といえども、菌種に特異的な部位は少ない。実際に、可変領域V4〜9領域には、プライマー作成に適した菌種特異的な塩基配列は見出せなかった。また、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス及びラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエについては、V1〜9の全ての可変領域において、菌種特異的な塩基配列は見出せなかった。
【0022】
表1の結果から、菌種の同定のためのPCRに用いる2種類のプライマー(フォワードプライマーとリバースプライマー)を作成する際に、例えば、ラクトコッカス・ラフィノラクティス及びラクトコッカス・ガルビアエに特異的なプライマーを、V1及びV2領域中に存在する各菌種特異的な塩基配列に基づいてそれぞれ設計することは、比較的容易である。しかしながら、この場合には、得られたPCR産物の長さがほぼ同等(100bp程度)となってしまうため、マルチプレックスPCRを行った場合には、電気泳動法によっては両菌種を区別することは不可能となる。このため、菌種ごとに別々にPCR反応を行わなくてはならない。
【0023】
この問題を解決するために、2種類のプライマーを、例えば、ラクトコッカス・ラフィノラクティスはV1とV2領域で、ラクトコッカス・ガルビアエはV1とV3領域で、それぞれ作成することにより、得られたPCR産物を電気泳動により区別することが可能となる。但し、V1からV4の可変領域は、16SrRNA遺伝子配列上にほぼ等間隔で存在するため、V1領域に設計したプライマーとV2領域に設計したプライマーとで得られるPCR産物と、V2領域に設計したプライマーとV3領域に設計したプライマーとで得られるPCR産物とはほぼ同じ長さとなり、電気泳動により判断することは困難である。つまり、菌種の同定のためのPCRに用いる2種類のプライマーを、V1〜4の菌種特異的な塩基配列部位のみを用いて設計する場合には、得られるPCR産物の長さは、3種類しかない。よって、マルチプレックスPCRを行った場合には、最大3種類の菌種のみしか区別して同定することができないことになる。
【0024】
(2)16SrRNA遺伝子の全領域の検討
そこで、本発明者らは、菌種の同定のためのPCRに用いるプライマーを、可変領域に限らず、16SrRNA遺伝子の全領域から検討し、設計することにした。
まず、各菌種の基準株の16SrRNA遺伝子の塩基配列を基にして、公知の塩基配列解析ソフトウェアを用いて、各菌種特異的な配列部位(特異的配列部位)と、全7種の菌種全てに共通する配列部位(共通配列部位)とを探索した。
探索された配列群から、近縁種等のラクトコッカス属菌以外の細菌と共通する配列を除いた。残った配列群から、各菌種の特異的配列部位と共通配列部位との組み合わせを検討し、特異的配列部位と共通配列部位とで挟まれる領域の長さが、菌種ごとに異なるような組み合わせを探索した。検討の結果に得られた組み合わせの塩基配列をターゲットとしてプライマーを設計し、invitrogen社のオリゴプライマー作成サービスを利用してプライマーを合成した。その一部を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2中、「lac−spp.MULTI_1」はラクトコッカス・ラクティス亜種の特異的配列部位に、「rafMULTI_1」はラクトコッカス・ラフィノラクティスの特異的配列部位に、「creMULTI_1」はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスの特異的配列部位に、「garMULTI_1」及び「garMULTI_2」はラクトコッカス・ガルビアエの特異的配列部位に、「pisMULTI_1」はラクトコッカス・ピシウムの特異的配列部位に、「plaMULTI_1」及び「plaMULTI_2」はラクトコッカス・プランタラムの特異的配列部位に、それぞれ基づいて設計されたプライマーである。また、「LcMULTI−R_1」及び「LcMULTI−R_2」は、ラクトコッカス属菌の共通配列部位に基づいて設計されたプライマーである。また、表2中、「フォワード」がPCRの際にフォワードプライマーとして用いることができるものであり、「リバース」がPCRの際にリバースプライマーとして用いることができるものである。
【0027】
2.各プライマーの特異性の確認1
上記1.で設計・合成したプライマーが、実際に特定の菌種に対してのみ特異性を有しているかを確認するため、ラクトコッカス属の全菌種の基準株と、比較対照としてストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli、大腸菌)の各基準株とを鋳型とした場合のプライマー反応性を検討した。
まず、全ての細菌を、それぞれ嫌気的に一晩純粋培養した。なお、ラクトコッカス属の全菌種、ストレプトコッカス・サーモフィラス、及びエンテロコッカス・フェカリスの培養には、M17培地(ニッスイ社製)にブドウ糖0.5%(w/w)を加えた培地を用いた。エッシェリヒア・コリの培養には、GAM培地(栄研社製)を用いた。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。
次いで、抽出されたDNAをPCRの鋳型DNAとして用い、表2に記載の各プライマーのうち、フォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせにより、それぞれPCRを行った。具体的には、鋳型DNA溶液と、フォワードプライマー及びリバースプライマーを各1種類ずつとを含み、総液量が25μLであるPCR反応液を、Ex Taq(タカラバイオ社製)を用いて調製した。これらのPCR反応液に対して、94℃1分間の後、94℃20秒間、66℃20秒間、72℃40秒間を1サイクルとし、これを30サイクル行った後、さらに72℃5分間を行う反応条件によるPCRを行った。なお、PCRは、Veriti 200(アプライド・バイオシステム社製)を用いて行った。得られたPCR産物を、2%アガロースゲルを用いて電気泳動し、バンドパターンを確認した。
【0028】
この結果、フォワードプライマー7(plaMULTI_1)は、ラクトコッカス・ラクティス亜種にも反応してしまい、特異性に問題が認められた。また、フォワードプライマー4(garMULTI_1)は、ラクトコッカス・ガルビアエに特異的に反応を示したが、フォワードプライマー1(lac−spp.MULTI_1)により増幅されたラクトコッカス・ラクティス亜種に検出されるバンドと、長さが約40bpしか異ならなかった。このため、フォワードプライマー4(garMULTI_1)とフォワードプライマー1(lac−spp.MULTI_1)とを用いてマルチプレックスPCRを行ったとしても、ラクトコッカス・ガルビアエとラクトコッカス・ラクティス亜種を区別することは困難であると判断された。よって、最終的には、本発明においては、ラクトコッカス・ラクティス亜種の特異的プライマーとしてフォワードプライマー1(lac−spp.MULTI_1)が、ラクトコッカス・ラフィノラクティスの特異的プライマーとしてフォワードプライマー2(rafMULTI_1)が、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスの特異的プライマーとしてフォワードプライマー3(creMULTI_1)が、ラクトコッカス・ガルビアエの特異的プライマーとしてフォワードプライマー5(garMULTI_2)が、ラクトコッカス・ピシウムの特異的プライマーとしてフォワードプライマー6(pisMULTI_1)が、ラクトコッカス・プランタラムの特異的プライマーとしてフォワードプライマー8(plaMULTI_2)が、ラクトコッカス属菌の共通プライマーとしてリバースプライマー9(LcMULTI−R_1)又はリバースプライマー10(LcMULTI−R_2)が、それぞれ適切であると判断された。
【0029】
表3に、各特異的プライマーを用いて、特異的に認識する菌種の16SrRNA遺伝子を鋳型としてPCRを行った場合に得られるPCR産物の塩基対長を示した。表中、「ラクトコッカス・ラクティス亜種」は、3種の亜種(ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス、及びラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ)の全てを含む。
【0030】
【表3】

【0031】
ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスを鋳型としてフォワードプライマー3を用いて得られるPCR産物と、ラクトコッカス・ピシウムを鋳型としてフォワードプライマー6を用いて得られるPCR産物とは、ほぼ同程度の大きさとなる。このため、フォワードプライマー3とフォワードプライマー6とを同時に用いてマルチプレックスPCRを行った場合には、得られたPCR産物の大きさからは、被検菌がラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとラクトコッカス・ピシウムのどちらの菌であるかを同定することが困難なこともある。しかしながら、フォワードプライマー1を同時に用いることにより、大きさの異なる2種類のPCR産物が得られた被検菌はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスであり、1種類のPCR産物のみが得られた被検菌はラクトコッカス・ピシウムである、と同定することができる。
【0032】
現在、16SrRNA遺伝子配列はweb上のデータベースから容易に入手が可能であるものの、塩基配列解析ソフトウェアによるシュミレーションにより設計されるプライマーは、PCRを実施した際に期待した結果と異なるケースが認められる。特に今回のような複数のプライマーを用いる方法では、上記のように、プライマーの特異性及び反応性を確認する必要があり、結果によっては再度プライマーの設計を行う、といった繰返し作業が必要となる。実際に、配列番号7で表される塩基配列は、ラクトコッカス・ラクティス亜種の塩基配列とはホモロジーが十分低く、シュミレーションの結果では問題がなかったが、フォワードプライマー7を用いてPCRを行ってみると、ラクトコッカス・ラクティス亜種も認識してしまった。このように、同属の菌種同士を区別可能であって、マルチプレックスPCRも可能な菌種特異的なプライマーの設計は、通常のPCRにのみ用いられる菌種特異的プライマーの作成よりも非常に困難である。
【0033】
3.各プライマーの特異性の確認2
上記2.で決定した全菌種の特異的プライマーと共通プライマーとを1のPCR反応溶液に添加して同時にPCRを行った。具体的には、表2に記載のプライマーのうち、フォワードプライマー1、2、3、5、6、8、及びリバースプライマー10を添加した以外は、上記2.と同様にして、総液量が25μLであるPCR反応液を調製してPCRを行った。
【0034】
図1は、得られたPCR産物の電気泳動像である。図1中、Mは分子量マーカーDNA ladder 100bp(タカラバイオ社製)、Aはラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス ATCC19435株、Bはラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ JCM1180株、Cはラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス NBRC 100676株、Dはラクトコッカス・ラフィノラクティス JCM5706株、Eはラクトコッカス・ガルビアエ JCM10343株、Fはラクトコッカス・ピシウム JCM11055株、Gはラクトコッカス・プランタラム JCM11056株、Hはエッシェリヒア・コリ JCM1649株、Iはストレプトコッカス・サーモフィラス ATCC19258株、Jはエンテロコッカス・フェカリス JCM5803株を、それぞれ流したレーンである。
【0035】
この結果、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(図1のレーンA)とラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ(図1のレーンB)では、380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された。ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(図1のレーンC)では、380〜400bpの領域と540〜560bpの領域に、それぞれ単一のバンドが検出された。ラクトコッカス・ラフィノラクティス(図1のレーンD)では440〜460bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・ガルビアエ(図1のレーンE)では240〜260bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・ピシウム(図1のレーンF)では540〜560bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・プランタラム(図1のレーンG)では160〜180bpの領域に単一のバンドが検出された。これに対して、エッシェリヒア・コリ(図1のレーンH)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(図1のレーンI)、及びエンテロコッカス・フェカリス(図1のレーンJ)では、全くバンドは検出されなかった。これらのバンドパターンは、表3の結果と一致していた。
【0036】
4.各プライマーの特異性の確認3
リバースプライマー10に替えてリバースプライマー9を用いて、上記3.と同様にして、PCRを行い、得られたPCR産物を電気泳動法により分離した。この結果、得られたバンドパターンは、表3の結果と一致していた。具体的には、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエでは、810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された。ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスでは、810〜830bpの領域と970〜1000bpの領域に、それぞれ単一のバンドが検出された。ラクトコッカス・ラフィノラクティスでは870〜890bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・ガルビアエでは670〜700bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・ピシウムでは980〜1000bpの領域に単一のバンドが検出され、ラクトコッカス・プランタラムでは600〜620bpの領域に単一のバンドが検出された。エッシェリヒア・コリ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、及びエンテロコッカス・フェカリスでは、全くバンドは検出されなかった。
【0037】
上記3.及び4.の結果から、上記2.で決定した全菌種の特異的プライマーと共通プライマーとの組み合わせは、1のPCR反応溶液中に混合して同時に用いた場合であっても、高い特異性を有していることが確認された。さらに、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエを除き、得られるPCR産物の種類及び長さによってラクトコッカス属菌の菌種・亜種を区別することが可能であることも確認された。
【0038】
本発明のラクトコッカス属菌の菌種の同定方法(以下、本発明の菌種同定方法)は、より詳細には、下記工程(a)及び(b)を有することを特徴とする。
(a)ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNAの可変領域中に菌種特異的に存在する塩基配列を特異的に認識する特異的プライマーと、ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に共通して存在する塩基配列を特異的に認識する共通プライマーとを用いて、被験菌から抽出された核酸を鋳型としてPCRを行う工程。
(b)前記工程(a)により得られたPCR産物を検出し、検出されたPCR産物の大きさに基づいて、前記被験菌のラクトコッカス属の菌種を同定する工程。
【0039】
工程(a)において用いられる特異的プライマーとしては、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー1)、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー2)、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー3)、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー5)、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー6)、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマー(フォワードプライマー8)からなる群より選択されるプライマーを用いることが好ましい。また、共通プライマーとしては、配列番号9で表される塩基配列からなるプライマー(リバースプライマー9)又は配列番号10で表される塩基配列からなるプライマー(リバースプライマー10)を用いることが好ましい。
【0040】
工程(a)において、被験菌からの核酸抽出及びPCRは、当該技術分野において公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。また、PCRの反応条件は、使用するポリメラーゼの種類等を考慮して、適宜決定することができる。
【0041】
工程(b)において、PCR産物の検出は、PCR産物の大きさ(塩基対長)を指標としてPCR産物を検出する場合に用いられる公知のいずれの方法で行ってもよい。具体的には、塩基対の長さを識別して検出することができる電気泳動法や、定量的PCR法等が挙げられる。電気泳動法としては、例えば、アガロース電気泳動法や、シーケンサーを用いたキャピラリー電気泳動等が挙げられる。また、定量的PCR法では、塩基対長が長いほど、又はGC含量が高いほど、DNAの解離温度(Tm)が高くなることを利用し、PCR装置等を用いて反応溶液中の2本鎖核酸の解離温度を測定することにより、PCR産物を種類ごとに識別して検出することができる。その他、分子量を測定することが可能なクロマトグラフィー法(ゲル濾過法)や、マススペクトル法等を用いてPCR産物を検出することもできる。本発明においては、PCR産物を電気泳動法により分離してバンドを検出する方法で検出することが好ましい。
【0042】
検出されたPCR産物の大きさと、表3に記載されているPCR産物の大きさとを比較することにより、被験菌を同定することができる。
具体的には、フォワードプライマー1とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が380〜400bpであるPCR産物が検出された被験菌(PCR産物を電気泳動法により分離した場合には、380〜400bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌)を、ラクトコッカス・ラクティス亜種として同定することができる。
フォワードプライマー3とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が540〜560bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして同定することができる。
フォワードプライマー2とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が440〜460bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして同定することができる。
フォワードプライマー5とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が240〜260bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして同定することができる。
フォワードプライマー6とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が540〜560bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして同定することができる。
フォワードプライマー8とリバースプライマー10との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が160〜180bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することができる。
【0043】
また、フォワードプライマー1とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が810〜830bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種として同定することができる。
フォワードプライマー3とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が970〜1000bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして同定することができる。
フォワードプライマー2とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が870〜890bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして同定することができる。
フォワードプライマー5とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が670〜700bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして同定することができる。
フォワードプライマー6とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が980〜1000bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして同定することができる。
フォワードプライマー8とリバースプライマー9との組み合わせを用いた場合には、塩基対長が600〜620bpであるPCR産物が検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することができる。
【0044】
本発明の菌種同定方法においては、特異的プライマーとして、フォワードプライマー1、2、3、5、6、及び8のうち、1種類を用いてもよく、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。例えば、特異的プライマーとしてフォワードプライマー1のみを用いた場合、1種類のPCR産物が得られた場合には、被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種に属する微生物であると同定することができる。また、フォワードプライマー1とフォワードプライマー3とを組み合わせて用いた場合に、2種類のPCR産物が得られた被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスに属する微生物であり、1種類のPCR産物のみが得られた被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエに属する微生物である、と同定することができる。
【0045】
本発明の菌種同定方法においては、特異的プライマーとして、フォワードプライマー1、2、3、5、6、及び8の全6種類を同時に用いることが好ましい。全6種類を用いることにより、1回のPCRによって得られたPCR産物の種類や長さから、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエを除く全てのラクトコッカス属菌の菌種・亜種を同定することができるためである。
【0046】
全6種類のフォワードプライマーとリバースプライマー10とを用いてPCRを行った場合には、塩基対長が380〜400bpである1種類のPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエであり、380〜400bp及び540〜560bpである2種類のPCR産物が検出された被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスであり、440〜460bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ラフィノラクティスであり、240〜260bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ガルビアエであり、540〜560bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ピシウムであり、160〜180bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・プランタラムである、と同定することができる。
同様に、全6種類のフォワードプライマーとリバースプライマー9とを用いてPCRを行った場合には、塩基対長が810〜830bpである1種類のPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエであり、810〜830bp及び970〜1000bpである2種類のPCR産物が検出された被験菌はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスであり、870〜890bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ラフィノラクティスであり、670〜700bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ガルビアエであり、980〜1000bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・ピシウムであり、600〜620bpであるPCR産物のみが検出された被験菌はラクトコッカス・プランタラムである、と同定することができる。
【0047】
本発明の菌種同定方法において用いられる表2記載のフォワードプライマー1、2、3、5、6、8、及びリバースプライマー9、10は、各菌種の16S RNA遺伝子に対する特異的な認識能を阻害しない限り、表2記載の塩基配列以外の付加的な塩基配列を有していてもよい。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列等がある。また、菌種特異的プライマーを、蛍光物質等により標識しておくことにより、得られた増幅産物の検出等を容易にすることもできる。なお、プライマーの標識は常法により行うことができる。
【0048】
表3及び図1に示すように、特異的プライマーとして、フォワードプライマー1、2、3、5、6、及び8を全て同時に用いたとしても、PCR産物の大きさのみからでは、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとを区別することはできないが、PCR産物のバンドパターンとラクトース資化性から、両菌種を区別して同定することができる。ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスはラクトース資化能を有しているのに対して、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエは有していないためである。
【0049】
よって、工程(a)及び(b)に加えて、さらに、工程(c)として、前記被験菌のラクトース(乳糖)資化能の有無を検出する工程を行うことにより、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとを識別することができる。具体的には、フォワードプライマー1を用いてPCR産物が得られた被検菌がラクトース資化能を有していなければ、当該被検菌はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエである、と同定することができる。また、フォワードプライマー1を用いてPCR産物が得られ、かつラクトース資化能を有している被検菌のうち、フォワードプライマー3を用いてPCR産物が得られた菌はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスであり、フォワードプライマー3を用いてPCR産物が得られた菌はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスである、と同定することができる。
【0050】
なお、工程(a)及び(b)と工程(c)とは、どちらを先に行ってもよい。被検菌のラクトース資化能を調べる方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの手法を用いてもよい。例えば、被検菌を炭素原としてラクトースのみを含む培地中で培養し、生育の有無を観察することにより、ラクトース資化能を調べることができる。
【0051】
その他、炭素原としてラクトースのみを含む培地を用いて分離された細菌や、炭素原としてラクトースのみを含む分離源から得られた細菌を被検菌とした場合、例えば炭水化物のほとんどがラクトースである乳製品等から分離された菌を被検菌とした場合には、被検菌のラクトース資化能を別個に調べない場合であっても、フォワードプライマー1とフォワードプライマー3を用いてPCRを行うことにより、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス及びラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエを区別して同定することができる。炭素原としてラクトースのみを含む培地を用いて分離された細菌は、ラクトース資化能を有していることが明らかなためである。
【0052】
本発明の菌種同定方法において用いられる1種又は2種以上の特異的プライマーと、少なくとも1種の共通プライマーとを、キット化することも好ましい。このような菌種同定キットを用いることにより、ラクトコッカス属菌の菌種・亜種の同定をより簡便に行うことができる。本発明においては、菌種同定キットとしては、全6種の特異的プライマーを含んでいることがより好ましい。このような菌種同定キットには、特異的プライマー及び共通プライマーの他に、被検菌の核酸抽出用試薬や、PCR用試薬等を含めることができる。例えば、市販されているPCRキットに、本発明の特異的プライマー及び共通プライマーを追加したものを、ラクトコッカス属菌の菌種同定キットとすることができる。
【実施例】
【0053】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下、表2記載のプライマーのうち、フォワードプライマー1、2、3、5、6、及び8、並びにリバースプライマー9からなるセットをプライマーセットA、フォワードプライマー1、2、3、5、6、及び8、並びにリバースプライマー10からなるセットをプライマーセットBという。
【0054】
[実施例1] 未殺菌牛乳からのラクトコッカス属の分離・同定
未殺菌牛乳をMRS培地(Difco社製)、BCP培地(栄研化学社製)、TOSプロピオン酸培地(ヤクルト薬品工業社製)、SM酢酸培地(SM 7g、酢酸Na・3HO 1.5g、クエン酸3アンモニウム 0.2g、寒天 1.5g、DW 100mL、酢酸 0.132mL)を用いたプレートで25〜48℃にて嫌気培養した。得られたコロニーをグラム染色で確認後、グラム陽性菌192株をMRS液体培地で25〜48℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットBを含み、総液量を25μLとした反応液をEx Taq (タカラバイオ社製)を用いて調製し、Veriti 200(アプライド・バイオシステム社製)を用いて、94℃1分間の後、94℃20秒間、66℃20秒間、72℃40秒間を1サイクルとし、これを30サイクル行った後、72℃5分間を行う反応条件でPCRを行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は43株であった。うち390bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された菌株は15株、390bp付近と550bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスと推定された菌株は17株、450bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラフィノラクティスと推定された菌株は6株、250bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ガルビアエと推定された菌株は5株、550bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ピシウムと推定された菌株は1株であった。390bp付近にバンドが検出された菌株は、すべてラクトース資化能を有していたため、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであると判断された。バンドが検出された43株を含む192株について、16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された43株は、PCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった菌株の中には、ラクトコッカス属と同定された菌株はおらず、エンテロコッカス属やラクトバチラス属、ストレプトコッカス属などが主であった。以上の結果より、本発明の同定方法は、様々な細菌が生息する未殺菌牛乳から、ラクトコッカス属の菌種を効率よく同定する最適な手法であることが明らかとなった。
【0055】
[実施例2] チーズからのラクトコッカス属の分離・同定
日本国産のチェダーチーズ(森永乳業社製)10gを40mLの2%クエン酸3ナトリウム溶液に加えた後にホモジナイズし、溶解したサンプルを、MRS培地(Difco社製)に0.5%の炭酸カルシウムを加えたプレートで25〜37℃にて嫌気培養した。得られたコロニーからランダムで10個を選抜し、MRS液体培地で25〜37℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。実施例1と同様にして、得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットBを含み、総液量を25μLとした反応液を調製し、PCR反応を行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は8株であった。うち390bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された菌株は5株、390bp付近と550bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスと推定された菌株は3株であった。390bp付近にバンドが検出された菌株は、すべてラクトース資化能を有していたため、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであると判断された。16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された8株は、PCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった2菌株は、ロイコノストック属細菌であった。以上の結果より、本発明の同定方法は、高頻度にラクトコッカス・ラクティス亜種が生息するナチュラルチーズから、ラクトコッカス菌種を効率よく同定する最適な手法であることが明らかとなった。
【0056】
[実施例3] キムチからのラクトコッカス属の分離・同定
日本の家庭で漬けたキムチを生理食塩水で適宜希釈し、SM酢酸培地及びMRS培地(Difco社製)に0.5%の炭酸カルシウムを加えたプレートで25〜48℃にて嫌気培養した。得られたコロニーからランダムで20個を選抜し、MRS液体培地で25〜48℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。実施例1と同様にして、得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットBを含み、総液量を25μLとした反応液を調製し、PCR反応を行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は3株であった。うち390bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された菌株は1株、170bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・プランタラムと推定された菌株は2株であった。390bp付近にバンドが検出された菌株は、すべてラクトース資化能を有していたため、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであると判断された。16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された3株は、PCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった17菌株は、ラクトバチラス属細菌であった。以上の結果より、本発明の同定方法は、植物性発酵食品から、ラクトコッカス属細菌を効率よく分離・同定する手法であることが明らかとなった。
【0057】
[実施例4] 植物からのラクトコッカス属の分離・同定
ゴム手袋を用いて採取したモモの葉を2cm四方に切断後、生理食塩水に浸し、MRS培地(Difco社製)に0.5%の炭酸カルシウムを加えたプレートで25〜37℃にて嫌気培養した。得られたコロニーに対してグラム染色及びカタラーゼ試験を行い、乳酸菌と考えられるコロニーからランダムで20個を選抜し、MRS液体培地で25〜37℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。実施例1と同様にして、得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットAを含み、総液量を25μLとした反応液を調製し、PCR反応を行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は4株であった。うち820bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された菌株は2株、610bp付近にバンドが検出され、ラクトコッカス・プランタラムと推定された菌株は2株であった。820bp付近にバンドが検出された2菌株を、乳糖を単一の炭素源とするM17培地(ニッスイ社製)で培養した結果、1株のみが良好に生育した。生育した菌株はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであり、生育しなかった株はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエであると判断された。16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された4株は、PCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった16菌株は、主にエンテロコッカス属、ラクトバチラス属細菌であった。以上の結果より、本発明の同定方法は、自然界から、ラクトコッカス属細菌を効率よく分離・同定する手法であることが明らかとなった。
【0058】
[実施例5] ラクトコッカス・ラクティス亜種及びその他乳酸菌を用いて製造した発酵乳より分離した菌株の同定
10%(w/w)還元脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス FERM BP−10746株のシードカルチャーを30mL接種し、25℃16時間培養した。一方、0.2%(w/w)酵母エキス入り10%(w/w)脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ビフィドバクテリウム・ロンガム FERM BP−7787株、ラクトバチラス・ブルガリカス ATCC11842株、及びストレプトコッカス・サーモフィラス JCM20026株のシードカルチャーをそれぞれ100mL、10mL、及び30mL接種し、37℃6時間培養した。これとは別に、脱脂粉乳、全粉乳及び蔗糖等の原料を混合溶解し、乳脂肪3.0%(w/w)、無脂乳固形分9.0%(w/w)、蔗糖6.0%(w/w)からなるベース50Lを、90℃で10分間殺菌し,40℃に冷却した。該殺菌したベースに、前記の通り前培養を行ったカルチャー50mLを接種し、37℃6時間培養して発酵乳を得た。得られた発酵乳10gを40mLの2%クエン酸3ナトリウム溶液に加えた後にホモジナイズし、溶解したサンプルをMRS培地(Difco社製)プレートで25〜37℃にて嫌気培養した。得られたコロニーからランダムで10個を選抜し、MRS液体培地で25〜37℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。実施例1と同様にして、得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットBを含み、総液量を25μLとした反応液を調製し、PCR反応を行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は5株であり、すべて390bp付近にバンドが検出されたことから、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された。390bp付近にバンドが検出された菌株は、すべてラクトース資化能を有していたため、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであると判断された。16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された5株はPCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった5菌株は、4菌株がストレプトコッカス・サーモフィラス、1菌株がビフィドバクテリウム・ロンガムであった。以上の結果より、本発明の同定方法は、ラクトコッカス・ラクティス亜種を用いて製造した発酵乳から、ラクトコッカス菌種を効率よく同定する最適な手法であることが明らかとなった。
【0059】
[実施例6] アセプティック食品からのラクトコッカス・ラクティス亜種の検出
脱イオン水を70℃に加温し、これにカゼインナトリウム4.5%、デキストリン13.6%、及びミルクフレーバーを加えて混合した。これとは別に、容器中で大豆油を70℃に加温した後に乳化剤を加えたものを、先に調製した水溶液に加えて混合した。得られた混合物について、高圧ホモジナイザーを使用して49MPs(500kgf/cm)にて1回乳化を行った。得られた乳化物を121℃20分間処理により滅菌することによって、アセプティック食品を調製した。得られたアセプティック食品に実施例5で作成した発酵乳を0.1%(v/v)混合し、擬似汚染食品を作製した。得られた擬似汚染食品10gを40mLの2%クエン酸3ナトリウム溶液に加えた後にホモジナイズし、溶解したサンプルをMRS培地(Difco社製)プレートで25〜37℃にて嫌気培養した。得られたコロニーからランダムで10個を選抜し、MRS液体培地で25〜37℃にて培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。実施例1と同様にして、得られた鋳型DNA溶液及びプライマーセットBを含み、総液量を25μLとした反応液を調製し、PCR反応を行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動したところ、バンドが検出された株は3株であり、すべて390bp付近にバンドが検出されたことから、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスもしくはホルドニアエと推定された。390bp付近にバンドが検出された菌株は、すべてラクトース資化能を有していたため、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスであると判断された。16S rRNA遺伝子配列の5’末端側600bp程度を解析し菌種を同定したところ、バンドが検出された3株はPCR産物の長さから推定された結果とすべて一致した。バンドが検出されなかった7菌株は、すべてストレプトコッカス・サーモフィラスであった。以上の結果より、本発明の同定方法は、ラクトコッカス属が混入した食品から、ラクトコッカス属を効率よく同定する最適な手法であることが明らかとなった。
【0060】
[実施例7] 菌種同定キットを用いたラクトコッカス属の検出の検出
TaKaRa Taq、TaKaRa Ex Taq、TaKaRa Ex Taq Hot Start Version、もしくはPrimeSTAR HS DNA Polymerase (いずれも、タカラバイオ社製)、又はrTaq DNA PolymeraseもしくはKOD−Plus−Neo(TOYOBO社製)のいずれかに含まれるdNTPs溶液に、プライマーセットA又はプライマーセットBを、全プライマーの総量が100nmolとなるように添加したキットを作製した。これらのキットを用いて、実施例1と同様にして、実施例1で分離したグラム陽性菌192株の菌種の同定を行った。得られた結果は実施例1と全く同様であった。
【0061】
[参考例1] ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエの識別
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地にラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス ATCC 19435株もしくはラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ JCM1180株を1%接種し、25℃で一晩培養した。ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス ATCC 19435株は培地が凝固し、生育が認められたが、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ JCM1180株は生育が認められなかった。以上より、炭素原としてラクトースのみを含む培地を用いて培養することによって、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとホルドニアエの識別が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の菌種同定方法により、ラクトコッカス属菌の菌種・亜種を容易に同定することができるため、本発明の菌種同定方法は、飲食品の製造等の、ラクトコッカス属菌を使用する様々な分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種を同定する方法であって、
(a)ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に菌種特異的に存在する塩基配列を特異的に認識する特異的プライマーと、ラクトコッカス属に属する微生物の16S rRNA中に共通して存在する塩基配列を特異的に認識する共通プライマーとを用いて、被験菌から抽出された核酸を鋳型としてPCRを行う工程、及び
(b)前記工程(a)により得られたPCR産物を検出し、検出されたPCR産物の大きさに基づいて、前記被験菌のラクトコッカス属の菌種を同定する工程、
を有することを特徴とするラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項2】
前記特異的プライマーが、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーからなる群より選択される1種類又は複数種類であることを特徴とする請求項1記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項3】
前記共通プライマーが、配列番号10で表される塩基配列からなることを特徴とする請求項2記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、380〜400bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種(Lactococcus lactis subsp.)と同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)として同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、440〜460bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)として同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項7】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、240〜260bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエ(Lactococcus garvieae)として同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウム(Lactococcus piscium)として同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、160〜180bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)として同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項10】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ(Lactococcus lactis subsp.hordniae)として同定することを特徴とする請求項4記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項11】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーとを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする請求項3記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項12】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを全て用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、
380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして、
380〜400bp及び540〜560bpの領域にそれぞれ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして、
塩基対長が440〜460bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして、
塩基対長が240〜260bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして、
塩基対長が540〜560bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして、
塩基対長が160〜180bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする請求項3に記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項13】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
前記工程(b)において、380〜400bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする請求項12記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項14】
前記共通プライマーが、配列番号9で表される塩基配列で表される塩基配列からなることを特徴とする請求項2記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項15】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、810〜830bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種として同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項16】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、970〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項17】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、870〜890bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項18】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、670〜700bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項19】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、980〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項20】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、600〜620bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項21】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする請求項15記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項22】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーとを用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする請求項14記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項23】
前記工程(a)において、特異的プライマーとして、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーを全て用い、
前記工程(b)において、前記工程(a)により得られたPCR産物を電気泳動法により分離し、
810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして、
810〜830bp及び970〜1000bpの領域にそれぞれ単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスとして、
870〜890bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ラフィノラクティスとして、
670〜700bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ガルビアエとして、
980〜1000bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・ピシウムとして、
600〜620bpの領域に単一のバンドが検出された被験菌をラクトコッカス・プランタラムとして同定することを特徴とする請求項14に記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項24】
さらに、
(c)前記被験菌のラクトース資化能の有無を検出する工程、
を有し、
前記工程(b)において、810〜830bpの領域にのみ単一のバンドが検出された被験菌のうち、
前記工程(c)においてラクトース資化能が検出された被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスとして、ラクトース資化能が検出されなかった被験菌をラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエとして同定することを特徴とする請求項23記載のラクトコッカス属菌の菌種同定方法。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載のラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種同定方法に用いられるキットであって、
配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号2で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマー、配列番号6で表される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーからなる群より選択される1種類又は複数種類の特異的プライマー、並びに
配列番号9で表される塩基配列又は配列番号10で表される塩基配列からなる共通プライマー、
を含むことを特徴とする、ラクトコッカス(Lactococcus)属菌の菌種同定キット。

【図1】
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【公開番号】特開2011−217734(P2011−217734A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46496(P2011−46496)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】