説明

ラクトン化合物の製造方法

【課題】ジアルコール体の副生を抑えつつ、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物を製造できる方法を提供する。
【解決手段】式(1)の化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、式(2)のラクトン化合物、式(3)のラクトン化合物を製造する方法において、水素化ホウ素ナトリウムの使用量が式(1)の化合物に対して0.5〜0.9倍モルの範囲である(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、メチル基またはエチル基であり;AおよびAは、ともに水素原子である、もしくは連結して−CH−、−CHCH−、または−O−を形成する)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトン化合物は、医薬、農薬等の機能性化学品の原料として広く用いられる。特に、活性な炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物には、例えば、(メタ)アクリル酸等の重合性カルボン酸を付加させることが可能である。こうして得られたラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルを原料とした高分子化合物を含むレジスト材料は、感度、解像性、エッチング耐性に優れているため、電子線や遠紫外線による微細加工に有用である。
【0003】
分子内に炭素−炭素二重結合を有する酸無水物の還元によって、炭素−炭素二重結合を残したまま、酸無水物のみを選択的に還元してラクトン化合物を得るための還元剤と溶媒との組み合わせとしては、例えば、下記の組み合わせが知られている。
(1)水素化ホウ素ナトリウムとN,N−ジメチルアセトアミドとの組み合わせ(特許文献1)。
(2)水素化ホウ素ナトリウムとエタノールとの組み合わせ(非特許文献1)。
(3)水素化ホウ素ナトリウムと、テトラヒドロフランおよびアルコール類の混合溶媒との組み合わせ(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275215号公報
【特許文献2】特開2003−146979号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters,1994年、第35巻,第8号,p.1165−1168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらのうち(3)の組み合わせは、酸無水物を還元してラクトン化合物を得る際の反応収率に優れている。しかし、(3)の組み合わせによる酸無水物の還元では、例えば、下記式で表されるようなジアルコール体が副生する。
【0007】
【化1】

【0008】
ジアルコール体の副生については、特許文献2にはなんら記載されていない。ジアルコール体を含むラクトン化合物に、(メタ)アクリル酸等の重合性カルボン酸を付加させ、ラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルを合成した場合、ジアルコール体の2つの水酸基と(メタ)アクリル酸のカルボン酸とが反応したジエステル化体が生成する。ジエステル化体を含むラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルを原料に用いて高分子化合物を合成すると、ジエステル化体が他のモノマーと共重合することによって高分子化合物の一部が架橋する。このような高分子化合物を含むレジスト材料は、ディフェクト(現像欠陥)を増加させる可能性がある。
【0009】
本発明は、ジアルコール体の副生を抑えつつ、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物を製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のラクトン化合物の製造方法は、下記式(1)で表される化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、下記式(2)で表されるラクトン化合物およびまたは下記式(3)で表されるラクトン化合物を製造する方法において、前記水素化ホウ素ナトリウムの使用量が、下記式(1)で表される化合物に対して0.5〜0.9倍モルの範囲であることを特徴とする。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、メチル基またはエチル基であり;AおよびAは、ともに水素原子である、もしくは連結して−CH−、−CHCH−、または−O−を形成する。)
【0013】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物であり、前記式(2)で表されるラクトン化合物は、下記式(5)で表されるラクトン化合物であり、前記式(3)で表されるラクトン化合物は、下記式(6)で表されるラクトン化合物であることが好ましい。
【0014】
【化3】

【発明の効果】
【0015】
本発明のラクトン化合物の製造方法によれば、ジアルコール体の副生を抑えつつ、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のラクトン化合物の製造方法は、式(1)で表される化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、式(2)で表されるラクトン化合物およびまたは式(3)で表されるラクトン化合物を製造する方法である。
【0017】
具体的には、下記の工程(a)〜工程(c)を有する。
(a)下記式(1)で表される化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、下記式(7)で表される化合物およびまたは下記式(8)で表される化合物を得る工程(還元工程)。
(b)前記工程(a)で得られた反応液にpH調整剤を加えることによって、未反応の水素化ホウ素ナトリウムを分解して反応を停止するとともに、下記式(2)で表されるラクトン化合物およびまたは下記式(3)で表されるラクトン化合物を得る工程(pH調整工程)。
(c)必要に応じて、前記工程(b)で得られた反応液からのラクトン化合物の抽出、水洗浄等の処理を行う工程(精製工程)。
【0018】
【化4】

【0019】
<工程(a)>
(式(1)で表される化合物)
式(1)で表される化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0020】
【化5】

【0021】
式(1)で表される化合物としては、良好な反応収率で反応が進行する点から、式(4)で表される化合物が好ましい。式(4)で表される化合物としては、例えば、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、2−メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0022】
式(1)で表される化合物は、1,3−ジエンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー付加反応で合成することができる。
1,3−ジエンとしては、1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、1,3−ジメチルシクロペンタジエン、1−エチルシクロペンタジエン、1−エチル−3−メチルシクロペンタジエン、1,3−ジエチルシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−メチル−1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン、1−エチル−1,3−シクロヘキサジエン、1−エチル−3−メチル−1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジエチル−1,3−シクロヘキサジエン、フラン、1−メチルフラン、1,3−ジメチルフラン、1−エチルフラン、1−エチル−3−メチルフラン、1,3−ジエチルフラン等が挙げられる。1,3−ジエンは、目的生成物に応じて適宜決めればよい。また、式(1)で表される化合物としては、市販品を用いてもよい。
【0023】
(水素化ホウ素ナトリウム)
水素化ホウ素ナトリウムとしては、市販の試薬を用いることができる。水素化ホウ素ナトリウムの使用量は、転化率向上(反応収率向上)の点から、式(1)で表される化合物の1モルに対して0.5モル以上であり、0.6モル以上が好ましい。水素化ホウ素ナトリウムの使用量は、ジアルコール体の副生を抑制する点から、式(1)で表される化合物の1モルに対して0.9モル以下であり、0.8モル以下が好ましい。
【0024】
(溶媒)
式(1)で表される化合物の水素化ホウ素ナトリウムによる還元は、通常、溶媒中で行われる。
【0025】
溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等)、エステル類(酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、アミド類(N,N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド等)、炭化水素類(トルエン、キシレン、ヘキサン等)等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
溶媒としては、反応速度が速く、水素化ホウ素ナトリウムおよび式(1)で表される化合物の溶解性が高く、ジアルコール体の副生を抑制する点から、テトラヒドロフラン、メタノール、N,N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフランとアルコール類との混合溶媒、ジメトキシエタンとアルコール類の混合溶媒が好ましく、高い反応収率で目的のラクトン化合物が得られる点や、ジアルコール体の副生を十分に抑制する点から、テトラヒドロフランとメタノールとの混合溶媒、ジメトキシエタンとアルコール類の混合溶媒が特に好ましい。
【0027】
混合溶媒の使用量は、アルコール類の種類に応じて適宜決定されるが、通常は、反応速度の点から、水素化ホウ素ナトリウムの1モルに対して0.1モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。混合溶媒の使用量は、水素化ホウ素ナトリウムの安定性の点から、水素化ホウ素ナトリウムの1モルに対して20モル以下が好ましく、10モル以下がより好ましい。
【0028】
溶媒の使用量は、反応速度の点から、式(1)で表される化合物の1質量部に対して100質量部以下が好ましく、33質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。溶媒の使用量は、反応液の粘性悪化の抑制の点から、式(1)で表される化合物の1質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。
【0029】
(還元反応)
工程(a)における還元反応は、例えば、反応器に水素化ホウ素ナトリウムおよび溶媒を仕込み、これに溶媒に溶解した式(1)で表される化合物を連続的または間欠的に滴下することによって進行させることができる。また、反応器に式(1)で表される化合物および溶媒を仕込み、これに水素化ホウ素ナトリウムまたはその懸濁液を連続的または間欠的に滴下することによっても進行させることができる。
なお、溶媒を2種以上併用して用いる場合、各々の溶媒は別途滴下してもよく、混合して加えてもよい。
【0030】
(反応条件)
最適な反応温度は、原料溶液の滴下速度や濃度によって変化するが、反応温度は、通常は、反応速度の点から、−50℃以上が好ましく、−40℃以上がより好ましく、−30℃以上がさらに好ましい。反応温度は、副反応防止の点から、100℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0031】
滴下時間は、温度制御の容易さの点から、0.1時間以上が好ましく、0.2時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。滴下時間は、反応液の粘性悪化の抑制の点から、30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましい。必要に応じて、滴下終了後に20時間以内の熟成時間を設けることもできる。
【0032】
反応は、水分の混入を可能な限り避けながら行う。そのためには、反応器および原料溶液の受器を不活性ガス雰囲気としておくことが好ましい。不活性ガスとしては、反応の円滑な進行を阻害しないものであればよく、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0033】
<工程(b)>
(pH調整剤)
pH調整剤としては、少なくとも酸が用いられる。酸としては、例えば、鉱酸(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等)、酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。pH調整剤としては、大量合成の取り扱いやすさ等の点から、硫酸が好ましい。
【0034】
pH調整剤を水と混合して滴下する場合、混合物中のpH調整剤の濃度(質量百分率)は、分子内環化反応が効率よく進行する点から、0.1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。pH調整剤の濃度(質量百分率)は、発泡防止の点から、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0035】
(pH調整剤の添加)
工程(b)においては、工程(a)で得られた反応液にpH調整剤および水を添加し、該反応液の水相を酸性にすることで還元反応を停止する。pH調整剤の使用量は、pH調整剤添加後の水相のpHに応じて適宜調節する。該pHは、ラクトン化合物の加水分解体生成抑制の点から、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。また、該pHは、0.1以上とする。これにより、式(2)で表されるラクトン化合物およびまたは式(3)で表されるラクトン化合物が得られる。該pHは、効率的な酸の除去を行う点から、1.0以上が好ましい。
【0036】
pH調整剤の添加終了後、必要に応じて、0.01時間以上50時間以内の保持時間を設けることが好ましい。これにより、分子内環化反応をより効率よく進行させることができる。該保持時間は、0.1〜40時間がより好ましい。
【0037】
(ラクトン化合物)
式(2)で表されるラクトン化合物または式(3)で表されるラクトン化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
式(2)で表されるラクトン化合物としては、収率がよい点から、式(5)で表されるラクトン化合物が好ましい。式(3)で表されるラクトン化合物としては、収率がよい点から、式(6)で表されるラクトン化合物が好ましい。
【0041】
<工程(c)>
ラクトン化合物の抽出は、該ラクトン化合物を溶解する有機溶媒を用いて実施できる。
抽出に用いる有機溶媒としては、エーテル類(ジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等)、ケトン類(メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、エステル類(酢酸エチル等)等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、抽出効率の点から、ラクトン化合物に対して0.05倍量以上20倍以下が好ましい。
抽出は、複数回実施してもよい。
【0043】
反応液または抽出液を水で洗浄すると、pH調整剤として用いた酸等を低減できる。
反応液または抽出液を得た後、蒸留、再結晶、クロマトグラフィ等の方法により目的のラクトン化合物を精製してもよい。純度が高い場合は必ずしも精製する必要はなく、例えば、抽出液を濃縮することによって目的のラクトン化合物を得てもよい。
【0044】
<作用効果>
以上説明した本発明のラクトン化合物の製造方法にあっては、水素化ホウ素ナトリウムの使用量が式(1)で表される化合物に対して0.5〜0.9倍モルの範囲であるため、ジアルコール体の副生を抑えつつ、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物を製造できる。具体的には、本発明のラクトン化合物の製造方法によれば、ジアルコール体の副生を1質量%未満に抑制できる。
【0045】
このようなジアルコール体の副生が抑えられた、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物に、(メタ)アクリル酸等の重合性カルボン酸を付加させ、ラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルを合成した場合、ジエステル化体の副生が抑制され、ラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルを高収率で製造することが可能となる。そして、ジエステル化体が他のモノマーと共重合し、高分子化合物の一部が架橋することによって起こるディフェクト(現像欠陥)が大幅に低減されたレジスト材料を得ることが可能になる。
【0046】
(ジアルコール体)
本発明のラクトン化合物の製造方法において、副生が抑制されるジアルコール体は、下記式(8)で表される化合物である。
【0047】
【化8】

【0048】
式中、R〜R、AおよびAは、式(1)と同様である。
式(9)で表される化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0049】
【化9】

【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(HPLC測定)
4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン、5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物および(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの濃度の測定は、下記の条件にてHPLCで行った。
カラム:イナートシルODS−3V(4.6φ×250mm)、
移動相:0.1質量%のリン酸水溶液とアセトニトリルとを質量比50:50で混合した溶液、
流速:1.0mL/min、
検出器:示差屈折検出器(RI検出器)、
カラム温度:40℃。
【0052】
また、4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオン、4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンおよび(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの濃度の測定は、下記の条件にてHPLCで行った。
カラム:YMC Pack Pro C18(4.6φ×150mm)
移動相:0.1質量%のリン酸水溶液とMeOHとを質量比95:5で混合した溶液、
流速:0.5mL/min、
検出器:示差屈折検出器(RI検出器)、
カラム温度:40℃。
【0053】
5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物の濃度は、下記の式によって求めた。
(5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物の面積)/(5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物の面積+4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0054】
4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの濃度は、下記の式によって求めた。
(4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの面積)/(5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物の面積+4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0055】
(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの濃度は、下記の式によって求めた。
((3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)/(5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物の面積+4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0056】
4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオンの濃度は、下記の式によって求めた。
(4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオンの面積)/(4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオンの面積+4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0057】
4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンの濃度は、下記の式によって求めた。
(4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンの面積)/(4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオンの面積+4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0058】
((3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの濃度は、下記の式によって求めた。
((3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)/(4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオンの面積+4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3−オンの面積+(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの面積)×100
【0059】
H−NMR測定)
H−NMRは、超伝導FT−NMR(日本電子社製、JNM−GX270型)を用いて、約5質量%の(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの溶液(重水素化クロロホルム溶液)または(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの溶液(重水素化クロロホルム溶液)を直径5mmφのサンプル管に入れ、観測周波数:270MHz、シングルパルスモードにて、H 32回の積算を行った。溶媒に用いる重水素化クロロホルムは、試料調整直前にアンプル瓶を開封して用いた。測定温度は20℃で行った。
【0060】
〔実施例1〕
容量50mLの側管付き滴下ロート、温度計および逆流冷却器を付した容量50mLの三頸丸底フラスコ(反応器)に磁気撹拌子を入れ、窒素ガスを流しながら加熱乾燥した。ここに順次、テトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)の2.07gと水素化ホウ素ナトリウムの0.62g(0.016mol)を仕込んだ。滴下ロートに、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(式(4)におけるR〜Rがすべて水素原子である化合物)の3.00g(0.018mol)、THFの9.68g、メタノールの0.59g(0.061mol)を仕込み、溶解させた。反応器を氷浴で5℃に冷却し、撹拌しつつ、滴下ロートから原料溶液を15分で滴下した。その間、反応液の温度は10〜15℃に保たれた。
【0061】
滴下終了後、反応液の温度を13〜17℃に保ちながら撹拌を続け、滴下終了から30分後、90分後、150分後に反応液の0.2mLを10mLメスフラスコに分取した。分取した反応液の質量を計り、続いて0.2mLの30%硫酸水溶液を加え、よく撹拌した。その後、HPLCの移動相を加えて10mLにメスアップし、よく撹拌した後にHPLCにて分析した。結果を表1に示す。
【0062】
〔実施例2〕
実施例1において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだTHFを1.83gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.55g(0.015mol)に変更した以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表1に示す。
【0063】
〔実施例3〕
実施例1において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだTHFを1.60gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.48g(0.013mol)に変更した以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例4〕
実施例1において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだTHFをDME6.97gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.70g(0.018mol)に変更し、滴下ロートに仕込んだ5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン−3,5−ジオン3.40g(0.020mol)に、THFをDME39.10gに、メタノール0.59g(0.061mol)を0.66g(0.020mol)に変更した以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表2に示す。
【0065】
〔実施例6〕
実施例4において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだDMEを6.19gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.62g(0.016mol)に変更した以外は、実施例4と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表2に示す。
【0066】
〔実施例7〕
実施例4において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだDMEを4.65gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.46g(0.012mol)に変更した以外は、実施例4と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表2に示す。
【0067】
〔比較例1〕
実施例1において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだTHFを2.30gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.69g(0.018mol)に変更した以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表1に示す。
【0068】
〔比較例2〕
実施例4において、三頸丸底フラスコ(反応器)に仕込んだDMEを7.74gに、水素化ホウ素ナトリウムを0.77g(0.020mol)に変更した以外は、実施例4と同様の反応操作および後処理操作を行なった。結果を表2に示す。
【0069】
((3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの合成)
比較例1で得られた反応液を10〜20℃に保持しながら、30%硫酸水溶液の6.0g(0.018mol)を60分かけて滴下した。滴下終了後、反応液を20℃に保ちながら1時間保持し、12gのトルエンを加えて抽出を3回行った。トルエン相に対して4gの飽和重曹水で一回水洗し、さらに4gの水で一回水洗した。得られたトルエン相を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィにて精製を行ない、0.04gの(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールを得た。
(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールのH−NMR測定結果を以下に示す。
1.3−1.4ppm 2H (C7−H2), 2.5−2.6ppm 2H(C2−H,C3−H), 2.8ppm 2H(C1−H, C4−H), 3.3−3.7ppm 6H (OH,−O−C−H2), 6.0ppm 2H (C5−H, C6−H)
【0070】
((3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの合成)
比較例2で得られた反応液を用いたこと以外は(3−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールの合成と同様の操作を行い、(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノール0.05gを得た。
(3−ヒドロキシメチル−7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エン−2−イル)−メタノールのH−NMR測定結果を以下に示す。
1.9−2.0ppm 2H (C2−H, C3−H), 3.5−3.6ppm 2H(OH), 3.7−3.9ppm 4H(−O−C−H2), 4.6−4.7ppm 2H (C1−H,C4−H), 6.4ppm 2H (C5−H, C6−H)
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1、2に示すとおり、還元反応の際に、水素化ホウ素ナトリウムの使用量が、上記式(1)で表される化合物に対して0.6〜0.9倍モルの範囲の場合(実施例1〜6)には、特に、反応終了30分後のジアルコール体の副生を1質量%未満に抑制できることが確認された。一方、水素化ホウ素ナトリウムの使用量が、上記式(1)で表される化合物に対して1.0倍モルの場合(比較例1、2)には、反応終了30分後のジアルコール体の副生が1質量%未満には抑制できないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法で得られた、炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物は、レジスト材料に用いられる高分子化合物の原料であるラクトン骨格含有(メタ)アクリル酸エステルの原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、下記式(2)で表されるラクトン化合物およびまたは下記式(3)で表されるラクトン化合物を製造する方法において、
前記水素化ホウ素ナトリウムの使用量が、下記式(1)で表される化合物に対して0.5〜0.9倍モルの範囲である、ラクトン化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、メチル基またはエチル基であり;AおよびAは、ともに水素原子である、もしくは連結して−CH−、−CHCH−、または−O−を形成する。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物であり、
前記式(2)で表されるラクトン化合物は、下記式(5)で表されるラクトン化合物であり、
前記式(3)で表されるラクトン化合物は、下記式(6)で表されるラクトン化合物である、請求項1に記載のラクトン化合物の製造方法。
【化2】


【公開番号】特開2013−82668(P2013−82668A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129242(P2012−129242)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】