説明

ラッシュアジャスタ

【課題】雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクを非平行としたラッシュアジャスタんの初期性能を長期にわたり維持する。
【解決手段】ねじ孔21の内周に設けられた雌ねじ23に、バルブクリアランスを自動調整するアジャストスクリュ24の外周の雄ねじ25をねじ係合し、そのアジャストスクリュ24をリターンスプリング26によってねじ孔21から突出する方向に向けて付勢する。アジャストスクリュ24が押し込まれた際の軸方向荷重を受ける雄ねじ25の圧力側フランク30と雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角を相違させることによって、圧力側フランク29、30間の油膜形成を防止する。雄ねじ23のねじ山と雌ねじ25のねじ山のうち、圧力側フランクのフランク角が大きい側のねじ山の表面硬度を、圧力側フランク角の小さい側のねじ山の表面硬度より高くして、フランク角の大きな圧力側フランクが摩耗するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関における動弁装置のバルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
カムの回転によって吸気バルブや排気バルブ(以下、単にバルブという)を開閉させる動弁装置には、アームによってバルブステムを押し下げるアーム型と、カムによってバルブステムを押し下げるダイレクト型とがあり、上記アーム型動弁装置にはスイングアーム式(エンドピボット式)とロッカアーム式とが存在する。
【0003】
ここで、スイングアーム式動弁装置においては、カムの下方に配置されたアームの端部をピボットで支持し、そのアームをカムの回転によりピボットを中心に揺動させ、その揺動側の端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
【0004】
一方、ロッカアーム式動弁装置においては、カムの上方に設けられたロッカシャフトを中心にしてアームを揺動自在に支持し、上記カムの回転によりアームの一端部を押し上げ、アームの他端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
【0005】
上記いずれの動弁装置においても、機械的、熱的影響によってバルブクリアランスが形成されると、バルブリフト量が変化し、バルブを精度よく開閉させることができなくなるため、ラッシュアジャスタの組込みによってバルブクリアランスを自動調整することが行われる。
【0006】
バルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタとして、給油式ラッシュアジャスタが存在する。しかし、給油式ラッシュアジャスタにおいては、エンジンオイルを作動流体として使用しているため、エンジンの回転数による油圧の変化やオイルに含まれるコンタミ、あるいは、気泡の影響を受け易い。また、構造が複雑で、製造、組立てに多くの工数を要し、コスト的に不利である。
【0007】
上記のような不都合は、例えば、特許文献1乃至3に記載された機械式ラッシュアジャスタを採用することによって解消することができる。
【0008】
ここで、特許文献1乃至3に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、ボディの内部に設けられたねじ孔の雌ねじにアジャストスクリュの外周の雄ねじをねじ係合し、そのアジャストスクリュに弾性部材の弾性力を付与し、上記アジャストスクリュの回転による軸方向への移動によってバルブクリアランスを吸収するようにしている。
【0009】
ところで、上記各種の機械式ラッシュアジャスにおいては、アジャストスクリュに負荷される軸方向の押し込み荷重を受ける雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクのフランク角が等しくされて、一対の圧力側フランクが平行の配置とされているため、カムの回転によりアジャストスクリュに押し込み荷重が負荷された時、雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランク間に介在する潤滑用エンジン油が、スクイズ効果によって油膜を形成し易い。特に、低温時は、粘度が高いので、一対の圧力側フランク間に油膜が生じやすい。
【0010】
ここで、一対の圧力側フランク間に油膜が生じると、その油膜によって圧力側フランク間の摩擦抵抗が極めて小さくなるので、アジャストスクリュに押し込み力が負荷されたとき、アジャストスクリュの押込み量が過大となりやすい。その押し込み量が過大となると、カムが回転する毎にアジャストスクリュが押し込み方向に移動するので、動弁装置の構成部材間の隙間が過大となって、バルブがバルブシートに衝撃的に着座して異音を生じ、また、バルブリフト量の減少によって燃費が低下するおそれがある。
【0011】
そのような問題を解決するため、特許文献4に記載されたラッシュアジャスタにおいては、雌ねじの圧力側フランクのフランク角と雄ねじの圧力側フランクのフランク角を相違させるようにしている。そのフランク角の相違により、雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクは非平行となるため、スクイズ効果による油膜が生じ難くなり、アジャストスクリュの押し込み量が過大になるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭64−34407号公報
【特許文献2】特開2005−273510号公報
【特許文献3】特許第3641355公報
【特許文献4】特開2010−7659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクを非平行としたラッシュアジャスタにおいては、雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクが平行とされたラッシュアジャスタに比較して、アジャストスクリュが押し込まれた際の圧力側フランクの接触面積が小さくなり、逆に、接触面圧が高くなって、接触部で摩耗が生じ易くなる。
【0014】
ここで、雌ねじの圧力側フランクのフランク角が雄ねじの圧力側フランクのフランク角より小さい場合、雄ねじの圧力側フランクに雌ねじのねじ山における頂部が接触する。その接触によって雄ねじの圧力側フランクが摩耗すると、その摩耗の進行によって接触面の絶対角度が90°に近づき、雌ねじと雄ねじがロックする可能性がある。
【0015】
反対に、雌ねじの圧力側フランクのフランク角が雄ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合、雌ねじの圧力側フランクに雄ねじのねじ山における頂部が接触する。その接触によって雌ねじの圧力側フランクが摩耗すると、その摩耗の進行によって接触面の絶対角度が90°に近づき、雌ねじと雄ねじがロックする可能性があり、ラッシュアジャスタの初期性能を長期にわたり維持できず、その初期性能の維持を図る上において改善すべき点が残されている。
【0016】
この発明の課題は、雌ねじの圧力側フランクと雄ねじの圧力側フランクを非平行としたラッシュアジャスタにおいて、雌ねじと雄ねじの圧力側フランクにおける接触面の絶対角度の変化をなくし、初期性能を長期にわたり維持できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明においては、スクリュホルダにねじ孔を形成し、そのねじ孔の内周に設けられた雌ねじに、軸方向への移動によってバルブクリアランスを自動調整するアジャストスクリュの外周の雄ねじをねじ係合し、そのアジャストスクリュをリターンスプリングによってねじ孔から突出する方向に向けて付勢し、前記アジャストスクリュがねじ孔内に向けて押し込まれた際の軸方向荷重を受ける雄ねじの圧力側フランクと雌ねじの圧力側フランクのフランク角を相違させたラッシュアジャスタにおいて、前記雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ山のうち、圧力側フランクのフランク角が大きい側のねじ山の表面硬度を、圧力側フランクのフランク角の小さい側のねじ山の表面硬度より高くした構成を採用したのである。
【0018】
具体的には、雄ねじの圧力側フランクのフランク角が雌ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合は、雄ねじのねじ山の表面硬度を雌ねじのねじ山の表面硬度より高くし、反対に、雌ねじの圧力側フランクのフランク角が雄ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合は、雌ねじのねじ山の表面硬度を雄ねじのねじ山の表面硬度より高くする構成としたのである。
【0019】
上記のように構成すれば、雄ねじの圧力側フランクのフランク角が雌ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合、アジャストスクリュが押し込まれると、雄ねじの圧力側フランクに雌ねじのねじ山における頂部が接触することになる。このとき、雄ねじのねじ山の表面硬度が雌ねじのねじ山の表面硬度より高いため、雌ねじのねじ山の頂部が雄ねじの圧力側フランクより先に摩耗して、雄ねじの圧力側フランクは殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雄ねじの圧力側フランクのフランク角に維持される。
【0020】
反対に、雌ねじの圧力側フランクのフランク角が雄ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合、アジャストスクリュが押し込まれると、雌ねじのねじ山における圧力側フランクに雄ねじのねじ山における頂部が接触することになる。このとき、雌ねじのねじ山の表面硬度が雄ねじのねじ山の表面硬度より高いため、雄ねじのねじ山の頂部が雌ねじの圧力側フランクより先に摩耗して、雌ねじの圧力側フランクは殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雌ねじの圧力側フランクのフランク角に維持される。
【0021】
本件の発明者等は、雄ねじと雌ねじの噛み込みを完全に防止する上において、ねじ山の表面硬度差をどのようにすべきかエンジンベンチ試験したところ、その表面硬度差がJISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント未満である場合に、条件によって、ねじの噛み込みが生じることを見出した。
【0022】
そこで、この発明に係るラッシュアジャスタにおいては、表面硬度の高いねじ山と表面硬度の低いねじ山の表面硬度差を、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上として、ねじの噛み込みを防止するようにしている。
【0023】
ここで、ラッシュアジャスタは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの動弁装置に適用される。そのディーゼルエンジンの動弁装置に適用した場合、ディーゼルエンジンのエンジン油には最大十数%のカーボンスーツが混入し、その一次粒子の硬度はビッカース硬さHvで1000〜1500程度であり、上記エンジン油によって雄ねじと雌ねじのねじ係合部が潤滑された場合、高硬度のねじ山表面がカーボンスーツの粒子による三元アブレシブ摩耗を受け、接触面の絶対角度を一定に保つことができなくなる。
【0024】
そのような不都合の発生を防止するため、この発明に係るラッシュアジャスタにおいては、表面硬度の高いねじ山の表面硬度をHv1500以上としている。Hv1500を超える表面処理として、拡散浸透処理やダイヤモンドライクカーボンコーティング(DLCコーティング)を挙げることができる。
【0025】
上記拡散浸透処理には、基材の表面にクロムの炭化物層を形成するクロマイズ処理、バナジウムの炭化物層を形成するバナダイズ処理、チタンの炭化物層を形成するチタナイズ処理などがあり、クロマイズ処理を行なうと、表面硬度を約Hv1700程度とすることができる。また、バナダイズ処理を行なうと、表面硬度を約Hv2500程度とすることができ、さらに、チタナイズ処理を行なうと、表面硬度を約Hv3000程度とすることができる。
【0026】
拡散浸透処理では、表面に炭化物層を形成するため、素材にある程度の炭素含有量が必要とされる。良好な炭化物層を形成するためには、素材の炭素含有量を0.35%以上とするのが好ましいが、炭素量が多くなり過ぎると、ねじ部材をヘッダや転造といった塑性加工で形成することが困難となり、製作コストが高くなる。塑性加工性と拡散浸透処理の両立を考慮すれば、素材として、SCM435を採用するのが好ましい。拡散浸透処理は処理温度が1000℃付近まで上昇するため、焼入れ、焼き戻し処理は拡散浸透処理後に行うようにする。
【発明の効果】
【0027】
この発明においては、上記のように、雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ山のうち、圧力側フランク角が大きい側のねじ山の表面硬度を、圧力側フランク角の小さい側のねじ山の表面硬度より高くしたことにより、ねじ山の頂部が接触される圧力側フランクの摩耗を防止することができる。このため、雌ねじと雄ねじの圧力側フランクでの接触面の絶対角度の変化をなくすことができ、ラッシュアジャスタの初期性能を長期にわたり維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係るラッシュアジャスタが組み込まれたロッカアーム式動弁装置の縦断面図
【図2】図1のラッシュアジャスタの組込み部を拡大して示す断面図
【図3】図2に示すラッシュアジャスタの雄ねじの圧力側フランクのフランク角が雌ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合の断面図
【図4】ロッカアーム式動弁装置用ラッシュアジャスタの他の例を示し、雌ねじの圧力側フランクのフランク角が雄ねじの圧力側フランクのフランク角より大きい場合の断面図
【図5】雄ねじおよび雌ねじの他の例を示す断面図
【図6】雄ねじおよび雌ねじのさらに他の例を示す断面図
【図7】この発明に係るラッシュアジャスタが組み込まれたロッカアーム式動弁装置の他の例を示す縦断面図
【図8】図7のラッシュアジャスタの組付け部を拡大して示す断面図
【図9】ロッカアーム式動弁装置用ラッシュアジャスタの他の例を示す断面図
【図10】この発明に係るラッシュアジャスタが組み込まれたスイングアーム式動弁装置の縦断面図
【図11】(e)は、図10に示すラッシュアジャスタのアジャストスクリュに突出方向の荷重が負荷された状態の断面図、(f)は、アジャストスクリュに押し込み方向の荷重が負荷された状態の断面図
【図12】スイングアーム式動弁装置用ラッシュアジャスタの他の例を示し、(g)は、アジャストスクリュに突出方向の荷重が負荷された状態の断面図、(h)は、アジャストスクリュに押し込み方向の荷重が負荷された状態の断面図
【図13】スイングアーム式動弁装置用ラッシュアジャスタのさらに他の例を示す断面図
【図14】図13に示されるリターンスプリングの他の例を示す断面図
【図15】図13に示されるリターンスプリングのさらに他の例を示す断面図
【図16】図13に示されるリターンスプリングのさらに他の例を示す断面図
【図17】この発明に係るラッシュアジャスタが組み込まれたダイレクト型動弁装置の縦断面図
【図18】図17に示すラッシュアジャスタの拡大断面図
【図19】ダイレクト型動弁装置用ラッシュアジャスタの他の例を示す断面図
【図20】ダイレクト型動弁装置用ラッシュアジャスタのさらに他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、ロッカアーム式動弁装置を示す。この動弁装置においては、シリンダヘッド1の上側に配置されたロッカシャフト2によってアーム3の長さ方向中央部を支持し、そのアーム3の一端部をカム4の回転により押し上げてロッカシャフト2を中心にアーム3を揺動させ、そのアーム3の他端部でバルブステム5を押し下げてバルブ6を開放させるようにしている。
【0030】
ここで、バルブステム5は、上端にスプリングリテナ7を有し、そのスプリングリテナ7に負荷されるバルブスプリング8の押圧力によってバルブステム5は下端のバルブ6がバルブシート9に密着する方向に付勢されている。
【0031】
また、カム4の回転によってアーム3の一端部を押し上げるため、ここでは、カム4とアーム3の一端部間にタペット10およびプッシュロッド11を組込み、そのタペット10およびプッシュロッド11を介してアーム3の一端部を押し上げるようにしている。
【0032】
図1に示すように、アーム3の一端部には、バルブクリアランスを自動調整する機械式のラッシュアジャスタAが設けられている。
【0033】
ラッシュアジャスタAは、スクリュホルダとしての上記アーム3の一端部に、その一端部下面で開口するねじ孔21と、その上側にアーム3の一端部上面で開口するストレート孔22とを形成し、上記ねじ孔21の内周に形成された雌ねじ23にアジャストスクリュ24の外周の雄ねじ25をねじ係合し、上記ストレート孔22内にリターンスプリング26を組み込み、そのリターンスプリング26の弾性力をアジャストスクリュ24に付与して、アジャストスクリュ24を回転させつつねじ孔21の下端開口から下方に向けて移動させて、そのアジャストスクリュ24の下端に設けられた球面部27をプッシュロッド11の上面に形成された球面座28に接触させ、上記アジャストスクリュ24の回転による軸方向の移動によってバルブクリアランスを吸収するようにしている。
【0034】
図3(a)に示すように、ねじ孔21の内周に形成された雌ねじ23とアジャストスクリュ24の外周に形成された雄ねじ25は、カム4からの押し込み力を受ける圧力側フランク29、30のフランク角が遊び側フランク31、32のフランク角より大きい鋸歯状ねじとされ、その鋸歯状ねじ山にリターンスプリング26によってアジャストスクリュ24が回転しつつ軸方向に移動するリード角が設けられている。
【0035】
雄ねじ25における圧力側フランク30のフランク角αと雌ねじ23における圧力側フランク29のフランク角βは相違しており、図3では、雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αは雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βより大きくされている。そして、圧力側フランクのフランク角が大きな雄ねじ25のねじ山の表面硬度は雌ねじ23のねじ山の表面硬度より高くされている。
【0036】
ここで、雄ねじ25のねじ山の表面硬度と雌ねじ23のねじ山の表面硬度の硬度差がJISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント未満の場合、雌ねじ23と雄ねじ25のねじ係合部で噛み込みを生じるおそれがある。その噛み込みを防止するため、ここでは、雄ねじ25のねじ山の表面硬度と雌ねじ23のねじ山の表面硬度の硬度差を、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上としている。
【0037】
また、カーボンスーツが混入するエンジン油によって雌ねじ23と雄ねじ25のねじ係合部が潤滑された場合、そのカーボンスーツによって雄ねじ25の圧力側フランク30が摩耗するおそれがある。その摩耗を避けるため、ここでは、雄ねじ25のねじ山の表面硬度をHv1500以上としている。Hv1500を超える表面処理として、拡散浸透処理やダイヤモンドライクカーボンコーティング(DLCコーティング)を挙げることができる。
【0038】
上記拡散浸透処理として、前述のように、基材の表面にクロムの炭化物層を形成するクロマイズ処理、バナジウムの炭化物層を形成するバナダイズ処理、チタンの炭化物層を形成するチタナイズ処理がある。
【0039】
図3に示すように、雄ねじ25における遊び側フランク32のフランク角は雌ねじ23における遊び側フランク31のフランク角と同じとされている。
【0040】
図2に示すように、リターンスプリング26として、ここでは、捩りコイルばねが採用されている。リターンスプリング26は、捩り弾性力をアジャストスクリュ24に付与する。その捩り弾性力の付与のため、上端に形成された内向きの係止片33をストレート孔22の上側開口内に圧入されたキャップ部材34の下端部の係止孔35に係止し、また、下端部に設けられた角形巻回部36をアジャストスクリュ24の上端に形成された角軸部37に嵌合している。
【0041】
なお、リターンスプリング26の上端部に角形の巻回部を設け、その巻回部をキャップ部材34の下端部に形成された角筒部に嵌合してもよい。
【0042】
実施の形態で示す動弁装置は上記の構造からなり、エンジンの作動時、シリンダヘッド1の熱膨張によってバルブステム5とアーム3の他端部間にバルブクリアランスが生じると、リターンスプリング26からアジャストスクリュ24に負荷される捩りトルクにより、アジャストスクリュ24は雌ねじ23の圧力側フランク29に沿って回転しつつ下降するような動きとなる。
【0043】
このとき、アジャストスクリュ24はプッシュロッド11に当接して非可動の支持であるため、アーム3の一端部が持ち上げられることになり、上記アーム3がロッカシャフト2を中心に揺動してバルブクリアランスを吸収する。
【0044】
反対に、バルブシート9の摩耗等によりカム4とアジャストスクリュ24の下端間の距離が縮まると、アジャストスクリュ24はプッシュロッド11から負荷される軸方向の変動荷重により、図3の上方向に押し上げられて上方に移動する。
【0045】
このとき、雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角と雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角の相違によって、雌ねじ23の圧力側フランク29と雄ねじ25の圧力側フランク30は非平行とされているため、スクイズ効果によって圧力側フランク29、30間に油膜が生じることがなく、アジャストスクリュ24の押し込み量が過大になるようなことはない。
【0046】
また、アジャストスクリュ24の上方に向けての移動により、雄ねじ25の圧力側フランク30が雌ねじ23のねじ山の頂部23aと接触し、その接触部で滑りが生じ、アジャストスクリュ24は回転しつつねじ孔21内に没入する方向(上方向)に向けて移動し、カム4のベース円4aがタペット10と接触するバルブ閉鎖時にバルブ6が不完全に閉鎖するのを防止する。
【0047】
ここで、雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αと雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βとの相違から、上記のように、雄ねじ25の圧力側フランク30が雌ねじ23のねじ山の頂部23aと接触すると、圧力側フランク同士が面接触する場合に比較して接触面積が小さく、逆に面圧が高くなって、接触部に摩耗が生じ易くなる。
【0048】
このとき、雄ねじ25の圧力側フランク30が摩耗すると、その摩耗の進行によって接触面の絶対角度が90°に近づき、雌ねじ23と雄ねじ25がロックする可能性がある。
【0049】
しかし、実施の形態では、雄ねじ25のねじ山の表面硬度が雌ねじ23のねじ山の表面硬度より高いため、雌ねじ23のねじ山の頂部23aが雄ねじ25の圧力側フランク30より先に摩耗して、雄ねじ25の圧力側フランク30は殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αに維持される。その結果、ラッシュアジャスタの初期性能は長期にわたり維持されることになる。
【0050】
図3では、雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αを雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βより大きくしたが、図4で示すように、雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βを雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αより大きくしてもよい。
【0051】
この場合、図4の上方向にアジャストスクリュ24に押し上げ力が負荷された際、雌ねじ23の圧力側フランク29に雄ねじ25のねじ山の頂部25aが接触することになるため、雌ねじ23のねじ山の表面硬度を雄ねじ25のねじ山の表面硬度より高くして、雌ねじ23の圧力側フランク29の摩耗を防止する。
【0052】
図2では、リターンスプリング26として捩りコイルばねを採用するようにしているが、圧縮コイルばねを採用するようにしてもよい。捩りコイルばねをリターンスプリング26として採用する場合、雌ねじ23および雄ねじ25は、図5に示すように、三角ねじとしてもよく、あるいは、図6に示すように、台形ねじとしてもよい。
【0053】
図5および図6では、雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βを雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αより大きくし、その雌ねじ23のねじ山の表面硬度を雄ねじ25のねじ山の表面硬度より高くしているが、図3に示す場合と同様に、雄ねじ25の圧力側フランク30のフランク角αを雌ねじ23の圧力側フランク29のフランク角βより大きくし、その雄ねじ25のねじ山の表面硬度を雌ねじ23のねじ山の表面硬度より高くしてもよい。
【0054】
図7は、OHCエンジン用ロッカアーム式動弁装置に適用されるラッシュアジャスタAを示す。このOHCエンジン用ロッカアーム式動弁装置においては、シリンダヘッド41の上側に配置されたロッカシャフト42によってアーム43の長さ方向中央部を支持し、そのアーム43の一端部に設けられた回転可能なローラ43aをカム44の回転により押し上げてロッカシャフト42を中心にアーム43を揺動させ、そのアーム43の他端部でバルブステム45を押し下げてバルブ46を開放させるようにしている。
【0055】
ここで、バルブステム45は、上端にスプリングリテナ47を有し、そのスプリングリテナ47に負荷されるバルブスプリング48の押圧力によってバルブステム45は下端のバルブ46がバルブシート49に密着する方向に付勢されている。
【0056】
アーム43の他端部には、バルブステム45と同軸上に上下に貫通する嵌合孔50が形成され、その嵌合孔50内にバルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタAが組み込まれている。
【0057】
図8に示すように、ラッシュアジャスタAは、嵌合孔50内に嵌合されるスクリュホルダとしての円柱状のボディ51を有している。ボディ51は、その下端部の外周に設けられたフランジ52と上端部の外周に圧入されたキャップ53によって嵌合孔50から抜け出るのが防止され、上記フランジ52の外周一部に形成された平坦面54とアーム43の他端部下側に形成された垂直面55との係合によって回り止めされている。
【0058】
ボディ51には、その下端面で開口するねじ孔56と、その上方にストレート孔57が形成され、上記ねじ孔56の内周の雌ねじ58にアジャストスクリュ59の外周の雄ねじ60がねじ係合されている。一方、ストレート孔57内にはスプリングシート61と、圧縮コイルばねからなるリターンスプリング62とが組み込まれ、そのリターンスプリング62によってアジャストスクリュ59がねじ孔56の下端開口に向けて付勢されている。
【0059】
ねじ孔56の雌ねじ58およびアジャストスクリュ59の雄ねじ60は、アジャストスクリュ59の下面に負荷される押し込み方向の荷重を受ける圧力側フランク63、64のフランク角が遊び側フランク65、66のフランク角より大きい鋸歯状とされ、その鋸歯状ねじ山にリターンスプリング62の押圧によって回転しつつ軸方向に移動するリード角が設けられている。
【0060】
また、雌ねじ58の圧力側フランク63のフランク角βは、雄ねじ60の圧力側フランク64のフランク角αより大きくされ、そのフランク角の大きな雌ねじ58のねじ山の表面硬度は、雄ねじ60のねじ山の表面硬度より高くされている。
【0061】
雌ねじ58と雄ねじ60のねじ山における表面硬度差は、図3と同様に、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上とされる。また、カーボンスーツが混入するエンジン油によって雌ねじ58と雄ねじ60のねじ係合部が潤滑された場合、そのカーボンスーツによって雌ねじ58の圧力側フランク63が摩耗するおそれがある。その摩耗を避けるため、ここでは、雌ねじ58のねじ山の表面硬度をHv1500以上としている。
【0062】
上記の構成からなるラッシュアジャスタAにおいては、アジャストスクリュ59の回転による軸方向への移動によってバルブクリアランスを吸収する。
【0063】
また、アーム43からアジャストスクリュ59に押し込み力が負荷されると、そのアジャストスクリュ59がねじ孔56内に向けて移動(上昇)する。このとき、雌ねじ58の圧力側フランク63のフランク角βと雄ねじ60の圧力側フランク64のフランク角αは相違して、雌ねじ58の圧力側フランク63と雄ねじ60の圧力側フランク64は非平行の状態とされているため、スクイズ効果により、圧力側フランク63、64間に油膜が形成されるのが防止される。
【0064】
また、アジャストスクリュ59の上昇により、雌ねじ58の圧力側フランク63に雄ねじ60のねじ山における頂部60aが接触する。このとき、雌ねじ58のねじ山の表面硬度が雄ねじ60のねじ山の表面硬度より高くされているため、雄ねじ60のねじ山の頂部60aが雌ねじ58の圧力側フランク63より先に摩耗して、雌ねじ58の圧力側フランク63は殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雌ねじ58の圧力側フランク63のフランク角βに維持される。その結果、この実施の形態におけるラッシュアジャスタAにおいても、初期性能を長期にわたり維持することになる。
【0065】
図8では、ボディ51にねじ孔56とストレート孔57とを設けるようにしたが、図9に示すように、アーム43の他端部に、その下面で開口する下部大径の段付き孔67を形成し、その段付き孔67の大径孔部に嵌合され、加締めにより抜止めされたボディ51にアジャストスクリュ59がねじ係合されるねじ孔56を設け、上記段付き孔67の上部の小径孔部にリターンスプリング62を組込み、そのリターンスプリング62でアジャストスクリュ59をねじ孔56の下方から抜け出る方向に向けて付勢してもよい。
【0066】
また、図8では、リターンスプリング62として圧縮コイルばねからなるものを示したが、図9に示すように、捩りコイルばねを採用し、その捩りコイルばねの捩り弾性力をアジャストスクリュ59に付与して、アジャストスクリュ59をねじ孔56の下端開口から抜け出る方向に移動させるようにしてもよい。
【0067】
リターンスプリング62として捩りコイルばねを採用する場合、アジャストスクリュ59の雄ねじ60およびねじ孔56の雌ねじ58を、図9に示すように、三角ねじとしてもよく、あるいは、図6に示す場合と同様に、台形ねじとしてもよい。
【0068】
図10は、スイングアーム式動弁装置に適用されるラッシュアジャスタAを示す。スイングアーム式動弁装置においては、シリンダヘッド71の上部に嵌合孔72を形成し、その嵌合孔72内に組込まれたラッシュアジャスタAによりアーム73の一端部を支持し、そのアーム73の中途に支持された回転可能なローラ74をカムシャフト75に設けられたカム76の回転により押し下げてアーム73を揺動させ、そのアーム73の他端部でバルブステム77を押し下げて、バルブステム77の下端に設けられたバルブ78を開放させるようにしている。
【0069】
ここで、バルブステム77は、上端にスプリングリテナ79を有し、そのスプリングリテナ79に負荷されるバルブスプリング80の押圧力によってバルブステム77は下端のバルブ78がバルブシート81に密着する方向に付勢されている。また、アーム73の一端部の下面には半球状の球面座82が形成されている。
【0070】
ラッシュアジャスタAは、嵌合孔72に嵌合されるスクリュホルダとしてのボディ83を有し、そのボディ83に形成されたねじ孔84の内周の雌ねじ85にアジャストスクリュ86の外周に形成された雄ねじ87がねじ係合されている。
【0071】
また、ボディ83の下端開口は蓋体83aの取り付けによって閉塞され、その蓋体83aとアジャストスクリュ86の下面間にスプリングシート88とリターンスプリング89とが組込まれ、そのリターンスプリング89によってアジャストスクリュ86はボディ83の上端開口から突出する方向に付勢されている。ここで、リターンスプリング89として、圧縮コイルばねが採用されている。
【0072】
アジャストスクリュ86の上記ボディ83の上端開口から外部に位置する上端部にはアーム73の一端部に形成された球面座82を支持する半球状のピボット部90が形成されている。
【0073】
図11(e)に示すように、ボディ83の雌ねじ85とアジャストスクリュ86の雄ねじ87におけるねじ山は、アジャストスクリュ86に負荷される押込み力を受ける圧力側フランク91、92のフランク角が遊び側フランク93、94のフランク角より大きい鋸歯状とされ、その鋸歯状ねじ山にリターンスプリング89の押圧によってアジャストスクリュ86が回転しつつ軸方向に移動するリード角が設けられている。
【0074】
また、雌ねじ85の圧力側フランク91のフランク角βは、雄ねじ87の圧力側フランク92のフランク角αより大きくされ、そのフランク角の大きな雌ねじ85のねじ山の表面硬度は、雄ねじ87のねじ山の表面硬度より大きくされている。
【0075】
雌ねじ85と雄ねじ87のねじ山における表面硬度差は、図3と同様に、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上とされる。また、カーボンスーツが混入するエンジン油によって雌ねじ85と雄ねじ87のねじ係合部が潤滑された場合、そのカーボンスーツによって雌ねじ85の圧力側フランク91が摩耗するおそれがある。その摩耗を避けるため、ここでは、雌ねじ85のねじ山の表面硬度をHv1500以上としている。
【0076】
上記の構成からなるラッシュアジャスタAにおいては、アジャストスクリュ86の回転による軸方向への移動によってバルブクリアランスを吸収する。
【0077】
また、アーム73からアジャストスクリュ86に押し込み力が負荷されると、そのアジャストスクリュ86がねじ孔84内に向けて移動(下降)する。このとき、雌ねじ85の圧力側フランク91のフランク角βと雄ねじ87の圧力側フランク92のフランク角αは相違して、雌ねじ85の圧力側フランク91と雄ねじ87の圧力側フランク92は非平行の状態とされているため、スクイズ効果により、圧力側フランク91、92間に油膜が形成されるのが防止される。
【0078】
また、アジャストスクリュ86の下降により、図11(f)に示すように、雌ねじ85の圧力側フランク91に雄ねじ87のねじ山における頂部87aが接触する。このとき、雌ねじ85のねじ山の表面硬度が雄ねじ87のねじ山の表面硬度より高くされているため、雄ねじ87のねじ山の頂部87aが雌ねじ85の圧力側フランク91より先に摩耗して、雌ねじ85の圧力側フランク91は殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雌ねじ85の圧力側フランク91のフランク角βに維持される。その結果、この実施の形態におけるラッシュアジャスタAにおいても、初期性能を長期にわたり維持することになる。
【0079】
図11(e)においては、雌ねじ85の圧力側フランク91のフランク角βを雄ねじ87の圧力側フランク92のフランク角αより大きくしたが、図12(g)に示すように、雄ねじ87の圧力側フランク92のフランク角αを雌ねじ85の圧力側フランク91のフランク角βより大きくしてもよい。
【0080】
この場合、図12(h)の矢印で示すように、アジャストスクリュ86に押し下げ力が負荷された際、雌ねじ85のねじ山における頂部85aが雄ねじ87の圧力側フランク92に接触することになるため、雄ねじ87のねじ山の表面硬度を雌ねじ85のねじ山の表面硬度より高くして、雄ねじ87の圧力側フランク92の摩耗を防止する。
【0081】
図13は、スイングアーム式動弁装置用ラッシュアジャスタの他の例を示す。このラッシュアジャスタAにおいては、アジャストスクリュ86を、スクリュ部材86aとピボット部材86bとに分割し、その分割面間に皿ばねからなる弾性部材96を組み込んで、スクリュ部材86aとピボット部材86bとを離反する方向に付勢している点、および、上記スクリュ部材86aの下方に配置されたリターンスプリング89を捩りコイルばねとし、そのリターンスプリング89の捩り弾性力をスクリュ部材86aに付与して、スクリュ部材86aをピボット部材86bに向けて移動させるようにしている点で図10および図11に示すラッシュアジャスタAと相違する。このため、図10および図11と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
図13のラッシュアジャスタAにおいては、エンジンが高温の状態で停止し、その後、エンジンが冷却して動弁装置の構成部材間の収縮差が生じたときに、スクリュ部材86aとピボット部材86b間の弾性部材96が圧縮変形して、その収縮差が吸収される。そのため、エンジンの再始動時に、動弁装置の構成部材間の収縮差による隙間が図10に示すバルブ78とバルブシート81間に生じず、圧縮漏れが生じない。
【0083】
図13では、リターンスプリング89として円筒状の捩りコイルばねを採用したが、図14に示すように、円すい形の捩りコイルばねをリターンスプリング89として用いるようにしてもよい。また、図15に示すように、渦巻きばねをリターンスプリング89とし、あるいは、図16に示すように、竹の子ばねをリターンスプリング89として使用してもよい。
【0084】
また、図13では、ボディ83の雌ねじ85およびスクリュ部材86aの雄ねじ87を鋸歯状ねじとしているが、図15に示すように、三角ねじであってもよく、図16に示すように、台形ねじであってもよい。
【0085】
図17は、ダイレクト型動弁装置に適用されるラッシュアジャスタAを示す。ダイレクト型動弁装置においては、シリンダヘッド101に案内孔102を形成し、その案内孔102内にラッシュアジャスタAを組み込み、そのラッシュアジャスタA上に設けられたカム103の回転によりラッシュアジャスタAを介してバルブステム104を押し下げ、バルブステム104の下端に設けられたバルブ105を開放させるようにしている。
【0086】
ここで、バルブステム104は、スプリングリテナ106を上端に有し、そのスプリングリテナ106に負荷されるバルブスプリング107の押圧力によってバルブステム104は上方に付勢されている。
【0087】
図17および図18に示すように、ラッシュアジャスタAは、案内孔102内にスライド自在に嵌合されたスクリュホルダとしての筒状のボディ110を有し、そのボディ110の上側端板111の中央部にねじ孔112を形成し、そのねじ孔112の内周に形成された雌ねじ113にアジャストスクリュ114の外周に形成された雄ねじ115をねじ係合し、そのアジャストスクリュ114と上側端板111の上面に重ね合わせたシム116との間に圧縮コイルばねからなるリターンスプリング117とスプリングシートSとを組み込んで、シム116をカム103に圧接させ、かつ、アジャストスクリュ114の下面をバルブステム104の上面に圧接させるようにしている。
【0088】
ここで、ねじ孔112の雌ねじ113とアジャストスクリュ114の雄ねじ115におけるねじ山は、アジャストスクリュ115に負荷される押込み力を受ける圧力側フランク118、119のフランク角が遊び側フランク120、121のフランク角より大きい鋸歯状とされ、その鋸歯状ねじ山にリターンスプリング117の押圧によってアジャストスクリュ114が回転しつつ軸方向に移動するリード角が設けられている。
【0089】
また、雌ねじ113の圧力側フランク118のフランク角βは、雄ねじ115の圧力側フランク119のフランク角αより大きくされ、そのフランク角の大きな雌ねじ113のねじ山の表面硬度は、雄ねじ115のねじ山の表面硬度より大きくされている。
【0090】
雌ねじ113と雄ねじ115のねじ山における表面硬度差は、図3と同様に、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上とされる。また、カーボンスーツが混入するエンジン油によって雌ねじ113と雄ねじ115のねじ係合部が潤滑された場合、そのカーボンスーツによって雌ねじ113の圧力側フランク118が摩耗するおそれがある。その摩耗を避けるため、ここでは、雌ねじ113のねじ山の表面硬度をHv1500以上としている。
【0091】
上記の構成からなるラッシュアジャスタAにおいては、アジャストスクリュ114の回転による軸方向への移動によってバルブクリアランスを吸収する。
【0092】
また、カム103の回転によりボディ110を押し下げ、アジャストスクリュ114を押し上げる方向の荷重が負荷されると、アジャストスクリュ114がねじ孔112内に向けて移動(上昇)する。このとき、雌ねじ113の圧力側フランク118のフランク角βと雄ねじ115の圧力側フランク119のフランク角αは相違して、雌ねじ113の圧力側フランク118と雄ねじ115の圧力側フランク119は非平行の状態とされているため、スクイズ効果により、圧力側フランク118、119間に油膜が形成されるのが防止される。
【0093】
また、アジャストスクリュ114の上昇により、図3に示す場合と同様に、雌ねじ113の圧力側フランク118に雄ねじ115のねじ山における圧力側フランク119が接触する。このとき、雌ねじ113のねじ山の表面硬度が雄ねじ115のねじ山の表面硬度より高くされているため、雄ねじ115のねじ山の頂部が雌ねじ113の圧力側フランク118より先に摩耗して、雌ねじ113の圧力側フランク118は殆ど摩耗しないことになり、接触面の絶対角度は雌ねじ113の圧力側フランク118のフランク角βに維持される。その結果、この実施の形態におけるラッシュアジャスタAにおいても、初期性能を長期にわたり維持することになる。
【0094】
図18では、ボディ110の上側端板111にねじ孔112を設けるようにしたが、図19および図20に示すように、フランジ126を上部に有するナット部材125をボディ110内に組込み、そのナット部材125にねじ孔112を形成するようにしてもよい。この場合、図19に示すように、ボディ110の内周上部に皿ばね127を取付け、その皿ばね127でフランジ126を端板111の下面に押し付けてナット部材125を固定する。
【0095】
図18では、リターンスプリング117として圧縮コイルばねを採用したが、図19および図20に示すように、捩りコイルばねを用いるようにしてもよい。捩りコイルばねをリターンスプリング117に採用する場合、図20に示すように、雌ねじ113および雄ねじ115を台形ねじとしてもよく、あるいは、図5に示す場合と同様に、三角ねじとしてもよい。
【符号の説明】
【0096】
3 アーム(スクリュホルダ)
21 ねじ孔
23 雌ねじ
24 アジャストスクリュ
25 雄ねじ
26 リターンスプリング
29 圧力側フランク
30 圧力側フランク
51 ボディ(スクリュホルダ)
56 ねじ孔
58 雌ねじ
59 アジャストスクリュ
60 雄ねじ
62 リターンスプリング
63 圧力側フランク
64 圧力側フランク
83 ボディ(スクリュホルダ)
84 ねじ孔
85 雌ねじ
86 アジャストスクリュ
87 雄ねじ
89 リターンスプリング
91 圧力側フランク
92 圧力側フランク
110 ボディ(スクリュホルダ)
112 ねじ孔
113 雌ねじ
114 アジャストスクリュ
115 雄ねじ
117 リターンスプリング
118 圧力側フランク
119 圧力側フランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュホルダにねじ孔を形成し、そのねじ孔の内周に設けられた雌ねじに、軸方向への移動によってバルブクリアランスを自動調整するアジャストスクリュの外周の雄ねじをねじ係合し、そのアジャストスクリュをリターンスプリングによってねじ孔から突出する方向に向けて付勢し、前記アジャストスクリュがねじ孔内に向けて押し込まれた際の軸方向荷重を受ける雄ねじの圧力側フランクと雌ねじの圧力側フランクのフランク角を相違させたラッシュアジャスタにおいて、
前記雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ山のうち、圧力側フランクのフランク角が大きい側のねじ山の表面硬度を、圧力側フランクのフランク角の小さい側のねじ山の表面硬度より高くしたことを特徴とするラッシュアジャスタ。
【請求項2】
前記表面硬度の高いねじ山と表面硬度の低いねじ山の表面硬度差を、JISに規定されるビッカース硬さHvで200ポイント以上とした請求項1に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項3】
前記表面硬度の高いねじ山の表面硬度が、Hv1500以上とされた請求項1又は2に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項4】
前記表面硬度の高いねじ山が、拡散浸透処理によって硬化処理された請求項1乃至3のいずれかの項に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項5】
前記拡散浸透処理が、クロマイズ処理である請求項4に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項6】
前記拡散浸透処理が、バナダイズ処理である請求項4に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項7】
前記拡散浸透処理が、チタナイズ処理である請求項4に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項8】
前記表面硬度の高いねじ山が、DLCコーティングによって硬化処理された請求項1乃至3のいずれかの項に記載のラッシュアジャスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−104301(P2013−104301A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246441(P2011−246441)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】