説明

ラン科半数体植物

以下の(1)〜(7)の工程を含む方法によって作出されるラン科に属する半数体植物を提供する。(1)ラン科植物から花粉を採取する工程(2)採取した花粉の核を不活化する工程(3)核を不活化した花粉をラン科植物の柱頭に付着させる工程(4)花粉を柱頭に付着させたラン科植物を栽培し、果実を発達させる工程(5)果実を採取し、果実から種子を採取する工程(6)採取した種子から植物体を生育させる工程(7)生育させた植物体の中から染色体数が半減している個体を選択する工程 この半数体植物により、ラン科のF1品種の作出が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ラン科に属する半数体植物、この半数体植物から得られる半数体倍加系統の植物、及びこの半数体倍加系統の植物から得られるF植物、並びにラン科に属する半数体植物の作出方法に関する。
【背景技術】
コチョウランは、わが国において営利的に生産されるランの中で最も重要なランである。現在のコチョウランにおいて、主として用いられている種子繁殖性品種は、白の大輪品種に限られている。近年、市場の要求が多様化して、白の大輪以外の花色や花型を持つコチョウランが強く望まれるようになったが、白色以外の遺伝様式は複雑で、後代に様々な花色が出現するため、白色以外の種子繁殖性の品種は未だ得られていない。また、上述したコチョウランの品種は、集団選抜法もしくは循環選抜法によって育成されたため、園芸品種としては雑駁であり、また、元ととなった素材の範囲が狭かったことやより均一な品種が求められるようになったために、近交弱勢による生育障害も近年問題となってきた。
種子繁殖性品種の欠点を解決することを目的として、微細繁殖方法の確立に伴い、栄養繁殖性の白色をはじめとした様々な色の品種の導入が試みられている。しかし、培養変異の発生が大きな問題となることが徐々にわかり、栄養繁殖性の品種はなかなか普及しない状態にある。
コチョウランをはじめとするラン科植物において、種子繁殖性のF品種を作出できれば、斉一でしかも生育も旺盛な品種を得ることができ、栄養繁殖苗に伏在する培養変異に関する問題も回避できる。また、コチョウランでは、1株から一度に20万粒以上の極微細な種子を得ることができるので、10L程度の空間に、わが国で数年間消費されるコチョウランの在庫をF種子として蓄えることが可能となり、在庫管理の手間も栄養繁殖性品種に比べ大幅に軽減される。
種子繁殖性のF品種の作出には、遺伝的に固定された純系の作出が必要であり、また、純系は半数体を誘導し、その染色体を倍加することにより、短期間で効率的に得ることができる。従って、ラン科植物のF品種の作出には、まずラン科植物における半数体の作出法の確立が必要である。
現在までに、ラン科植物の胚ならびに、同科の異種間もしくは異属間の交雑後代に半数体が偶発的に生じた事例は報告されているが(非特許文献1、2、3、4、5及び6参照)、再現性をもって半数体のラン科植物の作出に成功した例はない。
ラン科植物以外では、現在半数体を得る方法として、葯培養、小胞子培養、未受精胚珠培養、偽受精胚珠培養等が報告されている。このうち偽受精胚珠培養では、既に、ペチュニア(非特許文献7参照)、メロン(非特許文献8参照)、ニンジン(非特許文献9参照)、タバコ(非特許文献10参照)、カーネーション(特許文献1参照)、キウイフルーツ(非特許文献11参照)、バラ(非特許文献12参照)、リンゴ(非特許文献13参照)、ブラックベリー(非特許文献14参照)、などにおいて半数体の作出に成功した事例が報告されている。しかし、偽受精胚珠培養を利用してラン科植物の半数体の作出を試みようとした例はなく、当然のことながら半数体植物の作出に成功したという報告もない。
コチョウランにおいて偽受精胚珠培養が今まで試みられなかった理由としては、コチョウランを含むラン科植物の雌性配偶子の完成時期や受精の時期が一般的な植物と大きく異なっていることが挙げられる。即ち、被子植物における胚のう形成は胚珠内で行われ、ラン科以外の植物では開花時に胚珠は既に完成しているが、コチョウランを含むほとんどのラン科植物では胚珠は開花時には全く未分化の状態である。コチョウランでは、受粉後約56日後に胚珠が完成する。また、ラン科以外の植物では、受粉後数時間から2日以内に受精するものが多いが、コチョウランでは受精までの期間が長く、受粉約90日後に受精を完了する。このように、コチョウランの雌性配偶子の形成は受粉後に始めて開始されるものであり、受精も受粉後異例とも言える長期間を経て完了する。従って、ラン科植物においては、偽受精胚珠培養により半数体を作出できるかどうかは全く予想できなかった。
〔特許文献1〕 特開平8−126444号公報
〔非特許文献1〕 前川(1971)原色日本のラン 日本ラン科植物図譜 pp316−317,誠文堂新光社(東京都千代田区)
〔非特許文献2〕 Hagerup,O.(1944)On fertilisation,polyploidy and haploidy inOrchismaculatus L.sens.lat.Dansk Botanisk Arkiv.11:1−25
〔非特許文献3〕 Maheswari,P.,and Narayanaswami(1950)Curr.Sci.India 19:249−250.
〔非特許文献4〕 Kusano,S.(1915)J.Coll.Agric.Univ.Tokyo 6:7−120.
〔非特許文献5〕 Amore,T.D.,and Kamemoto,H.,(1991)Androgenesis inDendrobium.Lindleyana 6(2):117−120
〔非特許文献6〕 Miduno,T.,(1940)Cytologia 2:156−185.
〔非特許文献7〕 Raquin,C.(1985)Z.Pflanzenzuchgt.94:166−169.
〔非特許文献8〕 Sauton,A.and Dumas de Vaulx,R.(1987)Agronomie 7:141−148.
〔非特許文献9〕 Rode,J.C.and Dumas de Valux,R.(1987).C.R.Acad.Sci.Paris,305:225−229.
〔非特許文献10〕 Katoh,N.,Hagimori,M.and Iwai,S.(1993)Plant Tissue Culture Letters,10(2):130−137.
〔非特許文献11〕 Pandey,K.K.,Przywara,L.and Sanders,P.M.(1990)Euphytica 51:1−9.
〔非特許文献12〕 Meynet,J.,Barrade,R.,Duclos,A.and Siadous,R.(1994)Agronomie 2:169−175.
〔非特許文献13〕 Zhang,Y.X.and Lespinasse,Y.(1991)Euphytica 54:101−109.
〔非特許文献14〕 Naess,S.K.,Swartz,H.J.,and Bauchan,G.R.(1998)Euphytica 99:57−73.
上述のように、ラン科植物のF品種は、様々な面で既存の品種に優れている。本発明は、このようなラン科植物のF品種の作出に必要な半数体植物を作出する手段を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、不活性化した花粉による刺激によっても、胚のう形成が誘発され、半数体のコチョウランが得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
即ち、本発明は、ラン科に属する半数体植物である。
また、本発明は、上記のラン科に属する半数体植物の染色体を倍加して得られるラン科に属する半数体倍加系統の植物である。
更に、本発明は、上記のラン科に属する半数体倍化系統の植物を片親又は両親とする交配によって得られるラン科に属するF植物である。
更に、本発明は、以下の(1)〜(7)の工程を含むラン科に属する半数体植物の作出方法である。
(1)ラン科植物から花粉を採取する工程
(2)採取した花粉の核を不活化する工程
(3)核を不活化した花粉をラン科植物の柱頭に付着させる工程
(4)花粉を柱頭に付着させたラン科植物を栽培し、果実を発達させる工程
(5)果実を採取し、果実から種子を採取する工程
(6)採取した種子から植物体を生育させる工程
(7)生育させた植物体の中から染色体数が半減している個体を選択する工程
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の植物には、ラン科に属する半数体植物が含まれる。ここでいう「植物」は、あらゆる生育段階における植物を意味し、例えば、成熟した植物のほか、そのような植物へ生育する過程の未成熟な植物、あるいは、そのような未成熟な植物へ分化可能な植物組織、細胞及び種子などを包含する。
本発明のラン科に属する半数体植物は、例えば、以下の(1)〜(7)の工程を含む方法によって作出することができるが、この方法以外の方法によって作出されたラン科植物も半数体である限り、本発明に含まれる。
工程(1)は、ラン科植物から花粉を採取する工程である。使用するラン科(Orchidaceae)植物は特に限定されないが、コチョウラン又はシラン(Bletillastriata)を使用するのが好ましい。なお、ここでいう「コチョウラン」は、1)ファレノプシス(Phalaenopsis)属の種とそれらの交配種、2)ドルチス(Doritis)属(この属は1属1種)のドルチス・プルケリマ(Doritispulcherrima)、3)ファレノプシス属とドルチス属のの人工交配属であるドリテノプシス(Doritaenopsis)属の交配種などを含む。花粉の採取は、一般的な偽受精胚珠培養と同様に行うことができるが、ラン科植物の場合、花粉は花粉塊として存在するので、通常、花粉は花粉塊として採取する。
工程(2)は、採取した花粉の核を不活化する工程である。花粉の核を不活化する方法は特に限定されないが、軟X線照射によって行うのが好ましい。X線照射量は特に限定されないが、10〜200KRが好ましく、50〜100KRが更に好ましい。
工程(3)は、核を不活化した花粉をラン科植物の柱頭に付着させる工程である。花粉を付着させるラン科植物は、通常は、花粉を採取した植物と同一の植物であるが、異なる植物としてもよい。柱頭への花粉の付着は、一般的な偽受精胚珠培養と同様に行うことができる。
工程(4)は、花粉を柱頭に付着させたラン科植物を栽培し、果実を発達させる工程である。ここでの栽培は特別な方法を用いる必要はなく、一般的なラン科植物と同様に行うことができる。通常、花粉を柱頭に付着させてから、軟X線を照射した花粉を交配した花では、120〜200日程度で、種子を採取できる程度に果実が発達する。
工程(5)は、果実を採取し、果実から種子を採取する工程である。果実の採取及び種子の採取は、一般的なラン科植物と同様に行うことができる。
工程(6)は、採取した種子から植物体を生育させる工程である。植物体への生育は、一般的なラン科植物と同様に行うことができる。
工程(7)は、生育させた植物体の中から染色体数が半減している個体を選択する工程である。染色体が半減しているかどうかは、染色体を顕微鏡等で観察することにより判断してもよいが、フローサイトメトリーを利用することが好ましい。
材料として用いたラン科植物(工程(4)で花粉を付着させる植物)が2倍体(2n)の場合は、以上の(1)〜(7)の工程により半数体(n)の植物が得られる。しかし、ラン科植物の品種の中には2倍体(2n)ではなく、4倍体(4n)として存在するもある。このような4倍体の植物を材料として用いた場合、得られる植物は半数体ではなく、2倍体である。このような場合には、再度(1)〜(7)の工程を繰り返すことにより、半数体の植物を得ることができる。
本発明の植物には、上述した半数体の植物のほか、半数体の植物の染色体を常法(例えば、コルヒチン処理など)に従って倍加することにより得られる半数体倍加系統の植物や、この半数体倍加系統の植物を片親又は両親とする交配によって得られるF植物も含まれる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、4倍体のコチョウランのフローサイトメトリーによる検定結果を示す図である。
第2図は、2倍体のコチョウランのフローサイトメトリーによる検定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
供試材料には、Phalaenopsis White Dream″Fores″を20株用いた。白色の大輪コチョウラン品種のそのほとんどがそうであるように、本実施例で用いたコチョウラン品種″Forest″も4倍体である。組織培養により増殖した苗を、1999年10月に杉皮バークを用いて4.5寸の素焼き鉢に1個体ずつ植え込んだ。さらその外側に5寸の素焼き鉢を重ね、水管理を容易にした。栽培は年間を通して、最高気温を23−29度の範囲に、また最低気温は18度以上に設定した冷暖房付きの空調温室において行った。光は寒冷紗により70%遮光し、葉焼けを防いだ。潅水頻度は天候に影響されるが、概ね2から4日に一度、鉢底から水が流れ出すまで、十分に潅水した。肥料は1ヶ月に一度液肥を与えた。組織培養によって増やした株は遺伝的に均一であるので、処理間の比較をする場合に、より精緻な実験を行うことが可能となる。
2002年2月10日から2月20日の間に開花を始めた16株を実験に用いた。交配は同年3月13日に行った。16株を3グループに分けて、交配の際に花粉を不活化させるために行う軟X線の線量が、半数体の作出の可否とその頻度に及ぼす影響について検討した。
各花序の基部に位置する開花後約3週間の花を、1花序に付き1つずつ用いた。1花には2つの花粉塊が存在するが、これらすべてを注意深く花から取り出し、プラスティックシャーレに入れた。なお、本実施例において使用した温室は防虫網が張られていることと、本邦にはコチョウランを積極的に受粉させる媒介生物が特に見当らないので、袋がけによる目的外の花粉の侵入を防ぐ必要は無い。
集めた花粉塊に対する軟X線処理は、0KR(無処理区)、50KR、100KRの3区で行った。また、供試株数は0KR区では4株、50KR区には6株、100KR区にも6株を供試した。
軟X線照射装置は、秋田県立大学生物資源科学部に設置されている『照射用軟X線発生装置』(型式OM−100RE)、株式会社オーミック(東京渋谷区)製を用いた。50KR区では電圧80KVp、電流4mA、線源から150mmの条件で23分56秒処理を行った。100KR区では照射時間のみを変え47分53秒間照射した。両区では1分間につき20.88Gyが照射される。
処理後直ちに花粉塊を温室に運び込み、交配を行った。1花につき2個の花粉塊をピンセットで注意深く柱頭に置いた。柱頭は粘着物質で覆われているので容易に花粉塊が付着する。1株に付き1つの花を交配した。なお、無処理区も温室で花粉塊を採取後、処理区の花粉塊と同様に室内に持ち込み約1時間放置した後、温室に移して交配に用いた。
交配した花は、花粉塊の軟X線処理の有無に関わらず1日後にしおれ始め、2日後には完全にしおれた。しかし、交配した16花のすべてで果実の発達が認められた。
交配180日から200日後の間の3回にわけて、1回につき2−4果を収穫し、中の種子を播種した。なお、0KR区では3果、50KR区では4果を、100KR区では任意に選んだ3果を培養に供試した。
通常、大輪のコチョウランの自殖した果実では、果実が裂開するまで10ヶ月程度かかるが、100KR区の6つの果実の内1果は交配6ヶ月後に裂開した。これは、果実内の有胚種子の数が少なかった為と想像出来る。
収穫した果実の最大径と果実長に処理間で顕著な差は認められなかった。収穫した果実は、クリーンベンチ内で有効塩素濃度を1%含むNaOCl水溶液によって殺菌したのち、滅菌水で5回すすいだ。滅菌した果実は、滅菌済みの濾紙上において、果皮の一部を切り取り開口部を作り、そこから中の種子を取り出した。取り出した種子塊は糸状の組織とともに、径9cmのプラスティックシャーレ入れた20mLの固形のNDM培地(表1)上に置床した。置床したのみでは糸状の組織が培地と接しないので、滅菌水を約5mL程度滴下し、さらにピンセットで培地に圧着した。

播種直後の顕微鏡による観察では0KR区(非照射区)の種子は、9割以上の種子が胚を持つ有胚種子であった。50KR区ならびに100KR区の種子をプラスティックシャーレの蓋をとおして観察したが、糸状組織に覆われていることと水が反射して観察しにくいこともあり、有胚種子は観察できなかった。なお、非照射区では約1,000個の有胚種子を1シャーレに播種した。一方、50KRならび100KR照射区では1つの果実の種子を、均等に6つのシャーレに播種した。播種したシャーレは25度、約10μmol/cm−2/s−1の弱光下で培養を行なった。非照射の花粉を用いた非照射区では約3週間後には肉眼でも多くの緑色のプロトコームが確認できた。照射区では約4週間後から、1シャーレに0−5個の非照射区に比べると小さなプロトコームを観察した。
培養開始3ヶ月後のプロトコーム数を表2に示す。

非照射区では、96.3%の種子が有胚種子であり、発芽率も90%を超えており、1シャーレ当り800個以上のプロトコームが観察された。培養開始3ヶ月後の果実当りのプロトコーム数は照射線量の影響を受け、100KR区は50KR区の約半数の64.3個であった。なお、緑色を保っていたプロトコームは、NDM培地に移植した。
培養開始3ヶ月後には、一部のプロトコームは植物体に成長した。培養開始12ヶ月後には多数の植物体が得られたが、これらの植物体の中から一部を任意に選び、その倍数性を、倍数性検定機(Ploidy analyzer、ドイツ、Partec社製(型番PA))を用いてフローサイトメトリーにより検定した(表3)。

その結果、50、100KRのいずれの区においても約半数の個体は、供試材料の.White Dream″Forest″の約半数のDNA含量を示す2倍体であった。また、50KR区では約1/4の個体は供試材料と同じDNA含量の4倍体であった。また、1/4の個体では、検定の際に用いる根端の組織が微細なために、充分な検定材料が得られず、倍数性検定機におけるDNAピークが不明瞭であり判定が出来なかった。これらの個体については、試験管内でさらに個体を大きくして充分な太さの根端が得られ次第、再検定を行う予定である。
なお、4倍体及び2倍体の個体のフローサイトメトリーによる検定結果をそれぞれ図1及び図2に示す。2倍体(図2)では、4倍体(図1)の1/2の蛍光強度の位置にピーク(矢印で示す)が現れる。
試験管内においてプロトコームやプロトコームから2次的にプロトコームを生じたプロトコーム様体塊は、幼植物体を得るためにさらに移植を重ねる予定である。
【実施例2】
シラン(Bletillastriata Reichb.)を実験材料に用いた。2002年4月に0、50、100、150KRの軟X線を照射した花粉を各区14−16果ずつ交配した。交配から6ヶ月後に、各照射区における着果の状態を観察した。この結果を表4に示す。

表4に示すように、150KRの軟X線を照射した花粉を用いた交配では果実が得られなかった。
着果した50KR区及び100KR区の植物から果実を採取し、播種した。果実は切り取ってから、水で軽く洗浄した後、有効塩素1%の次亜塩素酸ナトリウム溶液で10分間殺菌した。その後、蒸留水ですすいだ。殺菌した果実をクリーンベンチ内において無菌的に剃刀で切り開き、種子を培地に播種した。培地はNDM培地を使用した。
播種後2週間間隔で12週間観察した。50KR区では14系統中11系統が発芽し、100KR区では15系統中11系統が発芽した。観察が終了した時点で、得られた個体を試験管のNDM培地に移植した。植物が第3葉を展開した時点で、フローサイトメーター(パルテック社製、Ploidy Analyzer(PA))を用いて、倍数性を計測した。クリーンベンチ内で無菌的に約3〜4mm角の大きさに第3葉を切り取り、氷冷したCystain UV植物DNA分析試薬キット(Partec社)のCystain UV precise P Nuclei Extraction Buffer(A液)内で刻んだ。核の懸濁液を30μmのCell Tricsフィルターを通し、残滓を除去した。濾液にCystain UV植物DNA分析キットのCystain UV precise P staining Buffer(B液)を濾液の4倍量以上加えて、核のDNAを染色した。染色した試料のDNA含量は、水銀高圧ランプを備えたフローサイトメーターを用いて測定した。
倍数性の計測結果を表5に示す。

表5に示すように、50KR区では得られた個体のうち半分が半数体だった。また100KR区においても、得られた個体の1/4が半数体であった。
以上の結果から、シランにおける偽受精胚珠培養においてもコチョウランと同様に効率的にかつ安定的に半数体が得られることが判明した。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2002−296945号の明細書および/または図面に記載されている内容を包含する。また、本発明で引用したすべての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明により、ラン科植物のF品種の作出に必要な半数体植物が得られるようになる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラン科に属する半数体植物。
【請求項2】
以下の(1)〜(7)の工程を含む方法によって作出される請求項1記載のラン科に属する半数体植物。
(1)ラン科植物から花粉を採取する工程
(2)採取した花粉の核を不活化する工程
(3)核を不活化した花粉をラン科植物の柱頭に付着させる工程
(4)花粉を柱頭に付着させたラン科植物を栽培し、果実を発達させる工程
(5)果実を採取し、果実から種子を採取する工程
(6)採取した種子から植物体を生育させる工程
(7)生育させた植物体の中から染色体数が半減している個体を選択する工程
【請求項3】
花粉を採取するラン科植物が、コチョウラン又はシランである請求項2記載のラン科に属する半数体植物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載のラン科に属する半数体植物の染色体を倍加して得られるラン科に属する半数体倍加系統の植物。
【請求項5】
請求項4記載のラン科に属する半数体倍化系統の植物を片親又は両親とする交配によって得られるラン科に属するF植物。
【請求項6】
以下の(1)〜(7)の工程を含むラン科に属する半数体植物の作出方法。
(1)ラン科植物から花粉を採取する工程
(2)採取した花粉の核を不活化する工程
(3)核を不活化した花粉をラン科植物の柱頭に付着させる工程
(4)花粉を柱頭に付着させたラン科植物を栽培し、果実を発達させる工程
(5)果実を採取し、果実から種子を採取する工程
(6)採取した種子から植物体を生育させる工程
(7)生育させた植物体の中から染色体数が半減している個体を選択する工程

【国際公開番号】WO2004/032607
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542822(P2004−542822)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012632
【国際出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(502322589)
【Fターム(参考)】