説明

リチウム・遷移金属複合酸化物及びそれを用いてなるリチウム電池

【課題】放電容量が大きく、レート特性の優れたリチウム遷移金属複合酸化物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】Li1+x1−x(Mはニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表わされる層状岩塩型リチウム・遷移金属複合酸化物であって、酸性根の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4であることを特徴とするリチウム・遷移金属複合酸化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の電極材料などに有用なリチウム・遷移金属複合酸化物、及びそれを工業的有利に製造する方法、ならびにそれを用いてなるリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度が高く、充放電サイクル特性に優れていることから、急速に普及しており、リチウム二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウムが最もよく用いられている。しかし、コバルト資源が希少で高価であることから、近年、コバルトと、ニッケル、マンガン、鉄、銅、亜鉛、クロム等の遷移金属を複合化し、コバルトの使用量を低減させたリチウム・遷移金属複合酸化物や、あるいは、コバルトを使用せず、前記の遷移金属を複合化したものも提案されている。中でも、層状岩塩型のリチウム・遷移金属複合酸化物は放電容量が大きく、サイクル特性に優れており、とりわけ、層状岩塩型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、電池特性、安全性、コストのバランスに優れた材料として、実用化が期待されている。
【0003】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物としては、組成式:Li[LiCo1−x−y]O(Aは[MnNi1−z]を表し、0≦x≦0.16、0.1≦y≦0.3、0.4≦z≦0.65、Lixは遷移金属層に含まれる)で表されるもの(特許文献1参照)、組成式:LiMn0.5−xNi0.5−yCox+y(0.05≦x<0.3、0.05≦y<0.3、−0.1≦x−y≦0.02、0<a<1.3、x+y<0.5、MはCoなどのNi、Mn以外の元素)で表され、CuKα線を用いた粉末X線回折の2θ:18.6±1°(003面)における回折ピークに対する2θ:44.1±1°(104面)における回折ピークの相対強度比が0.65以上1.05以下であるもの(特許文献2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3571671号公報
【特許文献2】WO2002/086993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2記載のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物では、コバルト含有量をニッケル若しくはマンガンと同程度の量にまで低減したり、更にはニッケルやマンガンよりも少なくした場合に、放電容量やレート特性の点で十分ではない。そこで、本発明は、コバルト含有量を少くしても、放電容量が大きく、レート特性の優れたリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、酸性根及びアルカリ金属の含有量が少なく、層状岩塩型で結晶性が良好なリチウム・遷移金属複合酸化物は放電容量が高くレート特性が優れていること、特にリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物においては、放電容量が高いばかりでなく、通常はレート特性には不利となるコバルトの含有量がニッケル若しくはマンガンと同程度の量またはそれ以下の組成であっても、優れたレート特性を示すことを見出した。また、原料として用いる遷移金属炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングすることにより酸性根、アルカリ金属の含有量を低減でき、更に、この遷移金属炭酸塩は水系において水溶性リチウム化合物との反応性に富んでいるので、リチウムとの反応によって得られる前駆体組成物は、加熱焼成により容易に結晶性が高い均質なリチウム・遷移金属複合酸化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、Li1+x1−x(Mはニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表される層状岩塩型リチウム・遷移金属複合酸化物であって、酸性根の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4であることを特徴とするリチウム・遷移金属複合酸化物である。さらに、本発明は、上記リチウム・遷移金属複合酸化物を製造する方法であって、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属を含む遷移金属炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングし、ろ別した後、純水で洗浄してリーチング処理遷移金属炭酸塩を得る第一の工程、該リーチング処理遷移金属炭酸塩と水溶性リチウム化合物とを水系媒液中で反応させた後、固液分離してリチウム・遷移金属複合酸化物前駆体組成物を得る第二の工程、該前駆体組成物を加熱焼成してリチウム・遷移金属複合酸化物を得る第三の工程を含むことを特徴とするリチウム・遷移金属複合酸化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム・遷移金属複合酸化物は、放電容量が高く、レート特性が優れている。特に、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、コバルトの含有量が少ないので安価であり、また、前記のように大きな放電容量を有することに加え、コバルトの含有量が少ないにも係らずレート特性が優れているので、これを電極活物質として用いると、高出力のリチウム電池が得られる。また、本発明の製造方法は、酸性根及びアルカリ金属の含有量が少なく、且つ、結晶性が高く均質なリチウム・遷移金属複合酸化物が工業的に有利に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例5の前駆体組成物(試料e)のX線回折チャートである。
【図2】実施例5(試料E)のX線回折チャートである。
【図3】比較例6(試料S)のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、層状岩塩型リチウム・遷移金属複合酸化物であって、Li1+x1−x(Mはニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表され、酸性根の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4であることを特徴とする。酸性根やアルカリ金属が多量に存在すると、電池特性を、特に放電容量を阻害すると考えられ、本発明では、酸性根及びアルカリ金属の含有量が前記のように少ないので放電容量が高い。一方、結晶構造が層状岩塩型である本発明において、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度をそれぞれのI(003)、I(104)とした場合のピーク強度比(I(003)/I(104))が、少なくとも1.4であることは、結晶性が優れ、層状構造が高度に発達していることを示している。このため、本発明のリチウム・遷移金属複合酸化物は、優れたレート特性を有している。本発明において酸性根とは、硫酸根(SO)及び塩素根(Cl)を意味し、それらの総量が多くとも1500ppmであり、好ましくは多くとも1000ppmである。また、本発明においてアルカリ金属とはナトリウム及びカリウムを意味し、それらの総量が多くとも2000ppmであり、好ましくは1500ppmである。また、上記ピーク強度比が少なくとも1.5であると、更に好ましい。
【0011】
本発明のリチウム・遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属Mは、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムであれば、一種であっても二種以上であってもよく、二種以上であれば遷移金属種の組合せは特に制限を受けない。中でも遷移金属の少なくとも一種がニッケルである複合酸化物は、特徴的な電池特性を示すので好ましい。例えば、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト・チタン複合酸化物などが挙げられる。
【0012】
特に、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、電池特性、安全性、コストのバランスに優れており、好ましいリチウム・遷移金属複合酸化物である。一般に、層状岩塩型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物では、ニッケルの原子価は2価または3価であるとされている。2価のニッケルとリチウムはイオン半径が近似しているので、ニッケルがリチウム層に混入する所謂カチオンミキシングを生じ易い。このカチオンミキシングによる層状構造の不規則性は、コバルト含有量が少ない場合はより一層生じ易いとされている。リチウム層に混入したニッケルは、充放電反応中のリチウムの挿入脱離を阻害し、レート特性を低下させると推測される。本発明において、特に、遷移金属Mの組成がNi(1−y+z)/2Mn(1−y−z)/2Co(0<y≦0.35、−0.05≦z≦0.05)で表されるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、前記のように放電容量が高いばかりでなく、コバルトの含有量がニッケル若しくはマンガンと同程度の量またはそれ以下であっても、カチオンミキシングによる層状構造の不規則性がほとんど無いかまたは非常に少ないと推測され、優れたレート特性を有している。また、コバルト含有量の少ない場合には、更に遷移金属としてチタンを用い、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト・チタン複合酸化物にすると、熱安定性やレート特性が改良されるので好ましい。中でも、Ni(1−w−y+z)/2Mn(1−w−y−z)/2CoTi(0<w≦0.1、0≦y≦0.35、−0.05≦z≦0.05)の組成のものが、いっそう好ましい。
【0013】
なお、本発明では、電池特性を改良する目的で、リチウム及び前記遷移金属以外の異種元素を、上記の結晶性(ピーク強度比)を阻害しない範囲で、その結晶格子中にドープすることができる。異種元素としては、例えば熱安定性を改良する目的ではAl等が挙げられ、またサイクル特性を改良する目的ではMg、Ca、Al、B等が挙げられる。あるいは、複合酸化物の粒子表面に、これらの異種元素を、酸化物、複合酸化物等の形態で被覆することもできる。
【0014】
次に、本発明は、リチウム・遷移金属複合酸化物の製造方法であって、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属を含む遷移金属炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングし、ろ別した後、純水で洗浄してリーチング処理遷移金属炭酸塩を得る第一の工程、該リーチング処理遷移金属炭酸塩と水溶性リチウム化合物とを水系媒液中で反応させた後、固液分離してリチウム・遷移金属複合酸化物前駆体組成物を得る第二の工程、該前駆体組成物を加熱焼成してリチウム・遷移金属複合酸化物を得る第三の工程を含むことを特徴とする。本発明により、酸性根及びアルカリ金属の含有量が少なく、結晶性が優れ、層状構造が高度に発達したリチウム・遷移金属複合酸化物が得られる。
【0015】
先ず、第一の工程では、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属を含む遷移金属炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングし、ろ別した後、純水で洗浄してリーチング処理遷移金属炭酸塩を得る。第一の工程で用いる遷移金属炭酸塩は、水系媒液中で、ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン、クロムイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属イオンを、少なくとも炭酸イオンと反応させて得ることができる。炭酸イオンと反応させる方法としては、(1)水溶性ニッケル化合物、水溶性マンガン化合物、水溶性コバルト化合物、水溶性鉄化合物、水溶性銅化合物、水溶性亜鉛化合物、水溶性クロム化合物、水溶性チタン化合物、水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の水溶性遷移金属化合物を、水系媒液中で塩基性炭酸化合物を含む塩基性化合物で中和する方法、あるいは、(2)水溶性ニッケル化合物、水溶性マンガン化合物、水溶性コバルト化合物、水溶性鉄化合物、水溶性銅化合物、水溶性亜鉛化合物、水溶性クロム化合物、水溶性チタン化合物、水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の水溶性遷移金属化合物を水系媒液中で、炭酸ガスを吹き込みながら塩基性化合物で中和する方法が好ましい。用いる前記遷移金属の水溶性化合物としては、これらの硫酸塩、塩化物、硝酸塩等が挙げられ、塩基性炭酸化合物としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。また、(1)の方法において用いる塩基性化合物として塩基性炭酸化合物のほかに塩基性水酸化物を併用してもよい。その場合、塩基性水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが出来る。(2)の方法において用いる塩基性化合物としては、塩基性炭酸化合物、塩基性水酸化物等が挙げられ、特に塩基性炭酸化合物を用いて炭酸ガスと併用すると、重質な複合炭酸塩が生成されるので好ましい。
【0016】
(1)の方法において、前記遷移金属の水溶性化合物と塩基性炭酸化合物を含む塩基性化合物との反応は、前記遷移金属の水溶性化合物を混合水溶液とし、この混合水溶液中に、塩基性炭酸化合物を含む塩基性化合物の水溶液を添加して行っても、その逆の添加順序でもよく、あるいは、水系媒液中に前記混合水溶液、塩基性炭酸化合物を含む塩基性化合物の水溶液を並行添加して行ってもよい。また、(2)の方法においても、前記混合水溶液中に、炭酸ガスを通気しながら、塩基性水酸化物を含む塩基性化合物の水溶液を添加しても、逆に、塩基性水酸化物を含む塩基性化合物の水溶液中に、炭酸ガスを通気しながら、前記混合水溶液を添加してもよく、あるいは、水系媒液中に炭酸ガスを通気しながら、前記混合水溶液と塩基性水酸化物を含む塩基性化合物の水溶液とを並行添加して行ってもよい。特に、(1)、(2)いずれの方法でも、並行添加を行うと、粒度分布が整った複合炭酸塩が得られ易く、このものを用いると電池特性が優れたリチウム・遷移金属複合酸化物が得られ易いので好ましい。並行添加は、1〜20時間かけて徐々に行うと、一層粒度分布が整ったものが得られ易いので好ましく、3〜12時間の範囲が更に好ましい。反応温度は、いずれの方法でも、0〜90℃以下の範囲であると、反応が進み易いので好ましく、15〜80℃の範囲が更に好ましい。(1)の方法における塩基性炭酸化合物は、前記遷移金属の水溶性化合物の中和当量から2.5倍当量の範囲で用いるのが好ましい。塩基性水酸化物を併用する場合は、塩基性炭酸化合物と同当量以下の量を用いるのが好ましい。塩基性水酸化物の使用量が塩基性炭酸化合物と同当量より多くなると、複合炭酸塩以外にも、前記遷移金属の水酸化物が副生しやすくなる。(2)の方法においては、塩基性化合物を、中和当量から2倍当量の範囲で用いるのが好ましく、炭酸ガスの使用量は、複合炭酸塩を形成するのに必要な化学量論量以上であれば、特に制限は無い。
【0017】
前記遷移金属の水溶性化合物の配合割合は、目的とするリチウム・遷移金属複合酸化物の組成に応じて適宜設定することができる。
【0018】
第一の工程で用いる遷移金属炭酸塩を上記(1)又は(2)の方法で製造する場合、得られる遷移金属炭酸塩は、遷移金属を1種含む場合、炭酸ニッケル、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸鉄、炭酸銅、炭酸亜鉛、炭酸クロムであり、遷移金属を2種以上含む場合は、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウム等の複合炭酸塩である。チタン、ジルコニウムは、それぞれ単独の炭酸塩は知られていないが、他の遷移金属との複合炭酸塩は形成し得ると考えられる。これらは、何れも六方晶の結晶構造を有する化合物であり、粉末X線回折を測定することにより確認することができる。
【0019】
上記遷移金属炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングし、ろ別した後、純水で洗浄してリーチング処理遷移金属炭酸塩を得る。リーチング処理により、酸性根及びアルカリ金属の含有量を低減させる。後述する前駆体組成物に、酸性根及びアルカリ金属が多量に含まれていると、第三の工程で加熱焼成することにより得られるリチウム・遷移金属複合酸化物中にも多量の酸性根、アルカリ金属が含まれ、電池特性を、特に放電容量を阻害する。複合炭酸塩は酸性根と塩を形成し難く、塩基性水溶液は酸性根の除去能力が高いので、本発明では複合炭酸塩を塩基性水溶液でリーチングすることで、従来は困難であった酸性根の除去を比較的容易に行うことができ、更に純水洗浄により、アルカリ金属が除去される。塩基性水溶液としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア等の水溶液が挙げられ、特に、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物が洗浄性がよく好ましい。複合炭酸塩のリーチングは、遷移金属を塩基性水溶液でろ過・洗浄してもよいが、遷移金属を一旦固液分離し、水系媒液中に再分散させスラリー化し、塩基性水溶液でスラリーのpHを8〜11.5、より好ましくは8.5〜11の範囲に調整すると、酸性根の含有量を低減させ易く好ましい。pHが8以下であると酸性根の低減が困難であり、また11.5以上にすると、塩基性水溶液の使用量が多くなり過ぎ、水洗してもアルカリ成分の除去が困難となる。塩基性水溶液を添加後は、例えば、10分〜2時間程度撹拌するなどして一定の時間保持するのが好ましい。酸性根は、出発物質となる前記遷移金属の水溶性化合物に由来するSOやCl等であり、アルカリ金属は塩基性炭酸化合物や中和剤に由来し、実質的にナトリウムとカリウムである。第一の工程では、複合炭酸塩中の酸性根の含有量が総量で多くとも2000ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも3000ppmになるように、塩基性水溶液リーチング及び純水洗浄を行うと好ましい。
【0020】
次いで、第二の工程では、該リーチング処理遷移金属炭酸塩と水溶性リチウム化合物とを、水系媒液中で反応させた後、固液分離してリチウム・遷移金属複合酸化物前駆体組成物を得る。第一の工程で得られるリーチング処理遷移金属炭酸塩は、水溶性リチウム化合物との反応性に富んでいるため、反応温度は常圧で反応が行える100℃未満であれば特に制限は無く、遷移金属元素の種類に応じて適宜設定するが、通常は、室温以上90℃未満の範囲の温度が好ましく、室温以上60℃以下の範囲が更に好ましい。水溶性リチウム化合物としては、水酸化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム等が挙げられ、中でも水酸化リチウムは該リーチング処理遷移金属炭酸塩との反応性に優れているので、これを用いるのが好ましい。水溶性リチウム化合物の添加量はLi成分が、遷移金属炭酸塩に含まれる前記遷移金属の合計量に対してモル比で1.0〜1.4に相当する量に設定すればよい。リーチング処理遷移金属炭酸塩と水溶性リチウム化合物との反応は、前記遷移金属炭酸塩に含まれる炭酸成分と、リチウム化合物に含まれるリチウムとが反応して炭酸リチウムを生成させ、一方で、遷移金属が、水酸化物を生成させるものと推測され、前駆体組成物は、これら炭酸リチウムと遷移金属水酸化物とを含む組成物であり、粉末X線回折を測定することにより確認することができる。
【0021】
反応後、得られた前駆体組成物をろ別する。本発明では、ろ別により前駆体組成物を固液分離すると共に、第一の工程後も残留する酸性根、アルカリ金属を除去でき、これらの含有量をいっそう低減できる。ろ別には公知のろ過装置を用いることができ、特に制限は無いが、工業的にはロールプレス、フィルタープレス等が好ましい。但し、ろ別中またはろ別後に、洗浄やリーチングを行うと、前駆体組成物からリチウムが溶出し易くなるので好ましくない。前駆体組成物中の酸性根の含有量は総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量は総量で多くとも2000ppmとするのが好ましく、それぞれを多くとも1000ppm、1500ppmとするのが更に好ましい。ろ別後は乾燥し、次の第三の工程に供するのが好ましい。
【0022】
尚、リーチング処理遷移金属炭酸塩及び前駆体組成物中の酸性根、アルカリ金属の含有量は、これらを120℃の温度で5時間乾燥した後、測定したものである。
【0023】
第三の工程では、第二の工程で得られた前駆体組成物を加熱焼成してリチウム・遷移金属複合酸化物を得る。加熱焼成温度は、概ね700〜1100℃の範囲が好ましい。粒子の焼結を防ぐためには、1000℃以下とするのが好ましいので、より好ましい加熱焼成温度は700〜1000℃の範囲である。また加熱時間は1〜20時間であればよく、3〜10時間であれば更に好ましい。加熱焼成で複合酸化物への転化が均質に進み、非常に結晶性が高く層状構造の発達したリチウム・遷移金属複合酸化物が得られ易くなる。例えば、層状岩塩型結晶構造を有するものであれば、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度をそれぞれI(003)、I(104)とすると、ピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4、好ましくは1.5以上の値を示す。加熱焼成後、得られた複合酸化物が焼結、凝集していれば、必要に応じてフレーククラッシャ、ハンマミル、ピンミルなどを用いて粉砕してもよい。
【0024】
リチウム及び前記遷移金属以外の異種元素を、その結晶格子中にドープするには、例えば、複合酸化物の表面に異種金属の化合物を沈着させた後、加熱焼成する等の公知の方法に従ってもよい。あるいは、本発明の第一または第三の工程において、異種元素の水溶性化合物を添加してもよい。
【0025】
更に、本発明はリチウム電池であって、前記リチウム・遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることを特徴とする。リチウム電池用正極は、該複合酸化物に、カーボンブラックなどの導電材とフッ素樹脂などのバインダを加え、適宜成形または塗布して得られる。リチウム電池は、前記の正極、負極及び電解液とからなる。負極材料としては、金属リチウム、リチウム合金など、あるいはグラファイト、コークスなどの炭素系材料などが用いられる。また、電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、などの溶媒にLiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiBFなどのリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0027】
実施例1
(第一の工程)
遷移金属炭酸塩の調製
硫酸ニッケル、硫酸マンガン及び硫酸コバルトの混合水溶液(ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオン換算でそれぞれ0.7モル)700ミリリットルと、炭酸水素カリウム水溶液(炭酸イオン換算で4.72モル)1575ミリリットルとを、70℃の温度の純水500ミリリットル中に、温度を維持し撹拌しながら10時間かけて並行添加して中和し、ろ別した後、純水で洗浄複合炭酸塩を得た。
【0028】
複合炭酸塩の塩基性水溶液リーチング及び水洗
ろ別・洗浄した複合炭酸塩を、純水に分散させて400ミリリットルのスラリーとし、炭酸カリウム水溶液を添加してスラリーのpHを9に調整し、1時間攪拌後、再度ろ別した後、純水で洗浄した。尚、この複合炭酸塩に含まれる酸性根としてはSOが1710ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが150ppm、カリウムが100ppmであった。
【0029】
(第二の工程:前駆体組成物の調製)
ニッケル、マンガン及びコバルトの合量換算で100gに相当するリーチング・水洗した複合炭酸塩を、純水に分散させて400ミリリットルのスラリーとした。このスラリーに攪拌しながら水酸化リチウム(一水塩)83gを室温下、常圧下で添加し1時間攪拌した後、ろ過・乾燥して前駆体組成物を得た。尚、この前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが800ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが120ppm、カリウムが70ppmであった。
【0030】
(第三の工程:前駆体組成物の加熱焼成)
前駆体組成物を、大気中900℃の温度で10時間加熱焼成を行い、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料A)を得た。
【0031】
実施例2
第一の工程において、炭酸カリウムに替えて水酸化ナトリウムを使用してpHを10に調整してリーチングしたこと以外は実施例1と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料B)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが500ppm、アルカリ金属成分はナトリウムが90ppm、カリウムが10ppmであった。
【0032】
実施例3
(第一の工程)
遷移金属炭酸塩の調製
70℃の温度の純水500ミリリットル中に、炭酸ガスを毎分1リットルの流量で吹込みながら、硫酸ニッケル、硫酸マンガン及び硫酸コバルトの混合水溶液(ニッケルイオン、マンガンイオン及びコバルトイオン換算でそれぞれ0.8モル)800ミリリットルと、炭酸ナトリウム水溶液(炭酸イオン換算で3.2モル)1000ミリリットルとを、温度を維持し攪拌しながら10時間かけて並行添加して中和し、ろ別した後、純水で洗浄して複合炭酸塩を得た。
【0033】
複合炭酸塩の塩基性水溶液リーチング及び水洗
ろ別・洗浄した複合炭酸塩を、純水に分散させて500ミリリットルのスラリーとし、炭酸ナトリウム水溶液を添加してスラリーのpHを9に調整し、1時間攪拌後、再度ろ別した後、純水で洗浄した。尚、この複合炭酸塩に含まれる酸性根としてはSOが810ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが2890ppm、カリウムが20ppmであった。
【0034】
(第二の工程:前駆体組成物の調製)
ニッケル、マンガン及びコバルトの合量換算で100gに相当するリーチング・水洗した複合炭酸塩を、純水に分散させて500ミリリットルのスラリーとした。このスラリーに攪拌しながら水酸化リチウム(一水塩)85gを室温下、常圧下で添加し1時間攪拌した後、ろ過・乾燥して前駆体組成物を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが10ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが1350ppm、カリウムが10ppmであった。
【0035】
(第三の工程:前駆体組成物の加熱焼成)
前駆体組成物を、大気中900℃の温度で10時間加熱焼成を行い、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料C)を得た。
【0036】
実施例4
第一の工程において、純水の温度を25℃として並行添加中の温度も25℃に維持したこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料D)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが630ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが1250ppm、カリウムが10ppmであった。
【0037】
実施例5
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンを、それぞれ0.875、0.875、0.35モルとしたこと以外は実施例1と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料E)を得た。尚、前駆体組成物(試料e)に含まれる酸性根としてはSOが530ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが100ppm、カリウムが40ppmであった。
【0038】
実施例6
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、コバルトイオン、マンガンイオンを、それぞれ1.0、1.0、0.4モルとしたこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料F)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが420ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが1260ppm、カリウムが10ppmであった。
【0039】
実施例7
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンを、それぞれ1.0、1.0、0.4モルとし、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに水酸化ナトリウムを使用し、pHを10に調整したこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料G)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが330ppm、アルカリとしてはナトリウムが590ppm、カリウムが10ppmであった。
【0040】
実施例8
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液の替わりに塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルトの混合水溶液を用い、該水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンを、それぞれ1.0、1.0、0.4モルとし、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに炭酸カリウムを使用すること以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料H)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはClが130ppm、SOが10ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが80ppm、カリウムは20ppmであった。
【0041】
実施例9
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンをそれぞれ1.15、1.15、0.1モルとしたこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料I)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが160ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが1100ppm、カリウムが10ppmであった。
【0042】
実施例10
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンをそれぞれ1.15、1.15、0.1モルとし、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに水酸化ナトリウムを使用し、pHを10に調整したこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料J)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはSOが140ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが630ppm、カリウムが10ppmであった。
【0043】
実施例11
第一の工程中の遷移金属炭酸塩の調製において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液の替わりに塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルトの混合水溶液を用い、該水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンをそれぞれ1.15、1.15、0.1モルとし、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに炭酸カリウムを使用すること以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料K)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはClが60ppm、SOが20ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが110ppm、カリウムが40ppmであった。
【0044】
実施例12
第一の工程において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液の替わりに塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルトの混合水溶液を用い、該水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンをそれぞれ1.15、1.15、0.1モルとし、純水の温度を25℃として並行添加中の温度も25℃に維持したこと、及び、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに炭酸カリウムを使用したこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料L)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはClが50ppm、SOが20ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが90ppm、カリウムが20ppmであった。
【0045】
実施例13
第一の工程において、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液の替わりに塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルト及び四塩化チタンの混合水溶液を用い、該水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、チタンイオンをそれぞれ1.14、1.14、0.1、0.02モルとし、リーチングにおいて炭酸ナトリウムの替わりに炭酸カリウムを使用したこと以外は実施例3と同様にして、本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト・チタン複合酸化物(試料M)を得た。尚、前駆体組成物に含まれる酸性根としてはClが60ppm、SOが10ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが100ppm、カリウムが20ppmであった。
【0046】
比較例1
リーチングを行わなかったこと以外は、実施例3と同様にしてリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料N)を得た。尚、複合炭酸塩に含まれる酸性根としてはSOが2540ppm、アルカリ金属としてはナトリウムが8100ppm、カリウムが70ppmであり、前駆体組成物に含まれるSOが840ppm、ナトリウムが4500ppm、カリウムが40ppmであった。
【0047】
比較例2
硫酸ニッケル、硫酸マンガン及び硫酸コバルトの混合水溶液(ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオン換算でそれぞれ0.8)800ミリリットルと、水酸化ナトリウム水溶液(水酸イオン換算で6.2モル)1000ミリリットルとを、50℃の温度の純水600ミリリットル中に、温度を維持し撹拌しながら6時間かけて並行添加して中和し、ろ別、純水で洗浄後、乾燥して複合水酸化物を得た。この複合水酸化物には酸性根としてSO3が4230ppm、アルカリ金属としてナトリウムが2200ppm含まれていた。ニッケル、マンガン及びコバルトの合量換算で50gに相当する複合水酸化物に、水酸化リチウム(一水塩)42gをサンプルミルを用いて混合し、この混合物を大気中900℃で10時間加熱焼成し、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料O)を得た。
【0048】
比較例3
水酸化ナトリウム水溶液の替わりに水酸化リチウム水溶液を用い、その添加量を水酸イオン換算で6.2モルとしたこと以外は比較例2と同様にして、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料P)を得た。参考として、この複合水酸化物には、酸性根としてSOが14040ppm含まれていた。
【0049】
比較例4
硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンを、それぞれ1.0、1.0、0.4モルとし、水酸化ナトリウム水溶液の替わりに水酸化リチウム水溶液を用い、その添加量を水酸イオン換算で6.2モルとしたこと以外は比較例2と同様にして、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料Q)を得た。参考として、この複合水酸化物には、酸性根としてSOが13400ppm含まれていた。
【0050】
比較例5
硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの混合水溶液中のニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンを、それぞれ1.15、1.15、0.1モルとし、水酸化ナトリウム水溶液の替わりに水酸化リチウム水溶液を用い、その添加量を水酸イオン換算で6.2モルとしたこと以外は比較例2と同様にして、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料R)を得た。参考として、この複合水酸化物には酸性根としてSO3が12300ppm含まれていた。
【0051】
比較例6
実施例4で得られた遷移金属炭酸塩を、ニッケル、マンガン及びコバルトの合量換算で50gに相当する量を用い、これに炭酸リチウム37gをサンプルミルを用いて混合し、この混合物を大気中900℃で10時間加熱焼成してリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(試料S)を得た。
【0052】
評価1:酸性根及びアルカリ金属の含有量、I(003)/I(104)値の測定
実施例1〜13、比較例1〜6の試料A〜Sの化学組成、酸性根及びアルカリ金属の含有量を表1に示す。これらの試料の粉末X線回折(X線:Cu−Kα)を測定し、このX線回折チャートから、六方晶に帰属される(003)及び(104)のピークの強度I(003)、I(104)を読み取り、強度比(I(003)/I(104))を算出した結果を表1に示す。本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、いずれも酸性根の含有量が総量で1500ppm以下、アルカリ金属成分の含有量が総量で2000ppm以下で、I(003)/I(104)が1.5以上である。
【0053】
【表1】

【0054】
評価2:充放電特性及びレート特性の評価
実施例1〜13及び比較例1〜6で得られたリチウム・遷移金属複合酸化物(試料A〜S)を正極活物質とした場合のリチウムニ次電池の充放電容量とレート特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0055】
試料A〜Sと、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末をN−メチル−2−ピロリドン中で混練し、試料と導電剤及び結着剤が重量比で100:10:10の割合で混合されたペーストを調製した。このペーストをアルミ箔上に塗布し、120℃で脱溶媒した後、直径10mmの円形に打ち抜き、14.7MPaでプレスして作用極とした。
【0056】
この作用極を120℃で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに正極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径14mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0057】
正極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液をスポイドで滴下した。さらにその上に負極及び厚み調整用の0.5mm厚スペーサーとスプリング(ともにSUS316製)をのせ、プロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。
【0058】
電圧範囲を2.5V〜4.3Vに設定し、充電電流を40mA/g、放電電流を40mA/gとした時の放電容量C、充電電流を40mA/g、放電電流を320mA/gとした時の放電容量Cを測定し、Cを放電容量、(C/C)×100(%)(容量維持率)をレート特性とした。
【0059】
試料A〜Sの放電容量及び容量維持率を、表2に示す。本発明のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、放電容量が高く、レート特性に優れており、特にコバルト含有量の少ない試料においても良好な負荷特性を示していることが分かる。
【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のリチウム・遷移金属、特にリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、レート特性が優れ、高容量のリチウム電池に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li1+x1−x(Mはニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表される層状岩塩型リチウム・遷移金属複合酸化物であって、酸性根の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4であることを特徴とするリチウム・遷移金属複合酸化物。
【請求項2】
遷移金属MがNi(1−y+z)/2Mn(1−y−z)/2Co(0<y≦0.35、−0.05≦z≦0.05)であることを特徴とする請求項1記載のリチウム・遷移金属複合酸化物。
【請求項3】
遷移金属MがNi(1−w−y+z)/2Mn(1−w−y−z)/2CoTi(0<w≦0.1、0≦y≦0.35、−0.05≦z≦0.05)であることを特徴とする請求項1記載のリチウム・遷移金属複合酸化物。
【請求項4】
請求項1に記載のリチウム・遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることを特徴とするリチウム電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−282982(P2010−282982A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211658(P2010−211658)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【分割の表示】特願2006−260105(P2006−260105)の分割
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】