リチウム二次電池用基材及びリチウム二次電池用セパレータ
【課題】本発明の課題は、耐水性に優れ、フィラー粒子等の複合化物を含有する水性塗液の塗工性に優れ、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されて基材内の空隙を閉塞することがないリチウム二次電池用基材、電解液保持率と耐リチウムデンドライト性に優れるリチウム二次電池用セパレータを提供することにある。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるリチウム二次電池用基材及び該基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータ。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるリチウム二次電池用基材及び該基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用基材及びリチウム二次電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器の普及及びその高性能化に伴い、高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。この種の電池として、有機電解液を使用するリチウムイオン電池が注目されてきた。このリチウムイオン電池は、平均電圧として従来の二次電池であるアルカリ二次電池の約3倍である3.7V程度が得られることから高エネルギー密度となるが、アルカリ二次電池のように水系の電解液を用いることができないため、十分な耐酸化還元性を有する非水電解液を用いている。非水電解液は可燃性であるため発火等の危険性があり、その使用において安全性には細心の注意が払われている。発火等の危険に曝されるケースとしていくつか考えられるが、特に過充電が危険である。
【0003】
過充電を防止するために、現状の非水系二次電池では定電圧・定電流充電が行われ、電池に精密なIC(保護回路)が装備されている。この保護回路にかかるコストは大きく、非水系二次電池をコスト高にしている要因にもなっている。
【0004】
保護回路で過充電を防止する場合、当然保護回路がうまく作動しないことも想定され、本質的に安全であるとは言い難い。現状の非水系二次電池には、過充電時に保護回路が壊れ、過充電されたときに安全に電池を破壊する目的で、安全弁・PTC素子の装備、セパレータには熱ヒューズ機能を有する工夫がなされている。しかし、上記のような手段を装備していても、過充電される条件によっては、確実に過充電時の安全性が保証されているわけではなく、実際には非水系二次電池の発火事故は現在でも起こっている。
【0005】
リチウム二次電池用セパレータとしては、ポリエチレン等のポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムが多く使用されており、電池内部の温度が130℃近傍になった場合、溶融して微多孔を塞ぐことで、リチウムイオンの移動を防ぎ、電流を遮断させる熱ヒューズ機能(シャットダウン機能)があるが、何らかの状況により、さらに温度が上昇した場合、ポリオレフィン自体が溶融してショートし、熱暴走する可能性が示唆されている。そこで、現在、200℃近くの温度でも溶融及び収縮しない耐熱性セパレータが求められている。
【0006】
例えば、ポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムに、ガラス繊維で構成した不織布を積層させてポリフッ化ビニリデン等の樹脂で接着して複合化する試みが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1の複合化セパレータの場合、多孔質フィルムとガラス不織布を個別に製造した後に積層するため、どうしても厚みが厚くなってしまい、その結果、使用できる分野が限定されるという問題や、内部抵抗等の電池特性に劣るといった課題があった。
【0007】
一方、ポリオレフィンからなる多孔質フィルムではなく、不織布を用いた耐熱性セパレータが提案されている。例えば、ポリエステル系繊維で構成した不織布、ポリエステル系繊維に耐熱性繊維であるアラミド繊維を配合した不織布、水分存在下で加熱することによってゲル化しうる湿熱ゲル化樹脂と、他の繊維を含む不織布がある。リチウム二次電池では、充放電を繰り返し行ったときや、過充電したときに負極表面に金属リチウムが析出する。この析出物をリチウムデンドライトと呼ぶが、リチウムデンドライトは徐々に成長し、セパレータを貫通して正極に達し、内部短絡の原因になる場合があり、不織布を用いたセパレータは、多孔質フィルムと比較すると、孔径が大きく、この内部短絡が発生しやすいという問題があった(例えば、特許文献2〜5参照)。特許文献5のセパレータでは、湿熱ゲル化樹脂の皮膜があるため、セパレータの空隙が不十分になりやすい問題があった。皮膜の形成を少なくすると、ピンホールができやすく、この部分において、リチウムデンドライトがセパレータを貫通する問題があった。また、湿熱ゲル化の方法が複雑であるため、湿熱ゲル化樹脂の皮膜面積とセパレータの空隙率のバランスを取ることが難しい問題があった。
【0008】
また、不織布を用いたセパレータにシャットダウン特性を付与する試みも検討されている。例えば、ポリプロピレン不織布等にポリエチレン微粉末を添着したセパレータが提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、ポリプロピレンは融点が165℃付近であり、シャットダウン特性が発現しなかった場合、不織布が溶融収縮してショートし、さらなる熱暴走の可能性がある。また、不織布の繊維径や細孔径、添着するポリエチレン微粒子の粒径等についての詳細な記載がなされておらず、保液性や内部抵抗等の問題があり、十分な電池特性を発現できているとは言えない。
【0009】
また、低融点樹脂成分と高融点樹脂成分からなる極細繊維を主体とする不織布をセパレータとして用いることで、電池内部の温度が上昇した場合、低融点樹脂成分が溶融し、繊維間の細孔を塞ぐことによって、シャットダウン特性を発現させることが提案されている(例えば、特許文献7参照)。このようなセパレータにおいては、不織布の強度を発現させるため、低融点樹脂成分を溶融させて繊維間を十分に結合させる必要があるが、強度発現に必要な加熱温度とシャットダウン温度の差が小さく、強度を維持しつつ、繊維間の細孔径や細孔数を制御することは非常に困難である。また、シャットダウン特性が十分に発現しなかった場合、不織布自体が溶融収縮してショートする可能性がある。
【0010】
また、耐熱性繊維と熱溶融性樹脂材料を混合し、湿式抄造した不織布からなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、特許文献7のセパレータと同様に、耐熱性繊維からなる不織布の強度発現に必要な加熱温度と熱溶融性樹脂材料の溶融温度とのバランスを取るのが困難であり、また、シャットダウン特性を十分に発現させるためには、熱溶融性樹脂材料を多量に含有させる必要があるが、熱溶融性樹脂材料の耐熱性繊維への接着が十分とは言えず、熱溶融性樹脂材料の脱落や、繊維シートの均一性が不十分という問題があった。
【0011】
一方、不織布、織布等をそのままセパレータとして使用するのではなく、基材として使用し、各種材料を該基材に複合化させて、耐熱性やシャットダウン機能等を付与したセパレータが開示されている。例えば、基材に多孔質フィルムと貼り合わせて複合化したセパレータ、基材にフィラー粒子、樹脂、ゲル状電解質、固体電解質等を含浸・表面塗工することで複合化したセパレータが報告されている(例えば、特許文献9〜11参照)。しかしながら、これらの特許文献では、フィラー粒子や樹脂、多孔質フィルム等の複合化用の材料(以下、「複合化物」という)については詳細な検討がなされているが、基材として用いられている不織布については、何ら検討がなされていない。これまでに使用されてきた基材では、孔が大きいため、貼り合わせ、表面塗工、含浸等によって、複合化した際の表面平滑性が悪いという問題、塗工の際に塗液が裏抜けしてしまう問題があった。また、基材内部に複合化物が充填されてしまって、基材内部の空孔を閉塞するため、電解液保持性が悪くなり、セパレータの内部抵抗が高くなる問題があった。また、基材の孔が大きいため、内部短絡が発生しやすいという問題もあった。
【0012】
さらに、フィラー粒子等の複合化物を含有する塗液の媒体は、これまで有機溶媒が主流であったが、作業環境上の問題があること、廃液回収や廃液処理が煩雑であること、乾燥機などを防爆仕様にする必要があり、塗工設備や収容施設が大掛かりになる問題があるため、最近ではこれらの問題をなくすために、水性塗液が主流になりつつある。しかしながら、水性塗液の塗工性に優れ、かつ塗工後も十分な空隙を保持できる不織布がないという問題があった。例えば、特許文献5のセパレータに使用されている不織布を基材として使用した場合、湿熱ゲル化樹脂の皮膜が水性塗液をはじくため、水性塗液のしみ込みが不均一に起こり、水性塗液の濡れ性が悪い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−323878号公報
【特許文献2】特開2003−123728号公報
【特許文献3】特開2007−317675号公報
【特許文献4】特開2006−19191号公報
【特許文献5】特許第4387951号公報
【特許文献6】特開昭60−52号公報
【特許文献7】特開2004−115980号公報
【特許文献8】特開2004−214066号公報
【特許文献9】特開2005−293891号公報
【特許文献10】特表2005−536857号公報
【特許文献11】特開2007−157723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、耐水性に優れ、フィラー粒子等の複合化物を含有する水性塗液の塗工性に優れ、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されて基材内の空隙を閉塞することがないリチウム二次電池用基材、電解液保持率と耐リチウムデンドライト性に優れるリチウム二次電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンからなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなることを特徴とするリチウム二次電池用基材及び該基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータを見出した。
【発明の効果】
【0016】
本発明のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるため、極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されることによって、耐水性に優れ、フィラー粒子等の複合化物を含有する水性塗液の裏抜けがなく、塗工する際に基材が破れることや切断することがなく、塗工性に優れる。また、基材に大きな貫通孔がないため、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなく、かつ基材表面及び内部を皮膜で覆うことがないため、水性塗液の濡れ性が良い。本発明のリチウム二次電池用セパレータは、フィラー粒子等の複合化物が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによって、リチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子等の複合化物によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度(試料濃度を0.03%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度)の関係を表したグラフである。
【図2】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフの一例である。
【図3】本発明の実施例で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフである。
【図4】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図5】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図6】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]及び[II]の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合のグラフと近似直線を示した図である。
【図7】0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[i]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【図8】最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[ii]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【図9】本発明の実施例2で作製したリチウム二次電池用基材における表面の電子顕微鏡写真(1000倍率)の一例である。
【図10】本発明の実施例2で作製したリチウム二次電池用基材における断面の電子顕微鏡写真(1500倍率)の一例である。
【図11】本発明の実施例16で作製したリチウム二次電池用基材における表面の電子顕微鏡写真(1000倍率)の一例である。
【図12】本発明の実施例16で作製したリチウム二次電池用基材における断面の電子顕微鏡写真(1500倍率)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウム二次電池用基材(以下、「基材」と表記することもある)とは、フィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工するための基材、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工するための基材、多孔質フィルムや不織布などの多孔質基材を積層一体化するための基材、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工するための基材であり、リチウム二次電池用セパレータの前駆体シートである。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と表記することもある)は、本発明のリチウム二次電池用基材にフィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工してなるセパレータ、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工してなるセパレータ、多孔質フィルムや不織布などの多孔質基材を積層一体化してなるセパレータ、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工してなるセパレータである。フィラーは、無機、有機のいずれでも良い。無機フィラーとしては、アルミナ、ギブサイト、ベーマイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物や無機水酸化物、窒化アルミニウムや窒化珪素などの無機窒化物、アルミニウム化合物、ゼオライト、マイカなどが挙げられる。有機フィラーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−ビニルモノマー共重合体、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。塗液には、結着剤としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムなどのゴムやその誘導体)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、アクリル樹脂などが挙げられ、これらを単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。また、多孔質フィルムとしては、フィルムを形成できる樹脂であれば、特に制限はないが、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂と言ったポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、又は超高密度ポリエチレンのようなポリエチレン系樹脂単独だけでなく、エチレンプロピレン共重合体、又はポリエチレン系樹脂と他のポリオレフィン系樹脂との混合物などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、又はプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン若しくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体などが挙げられる。
【0020】
本発明におけるリチウム二次電池とは、リチウムイオン電池やリチウムイオンポリマー電池を意味する。リチウム二次電池の負極活物質としては、黒鉛やコークスなどの炭素材料、金属リチウム、アルミニウム、シリカ、スズ、ニッケル、鉛から選ばれる1種以上の金属とリチウムとの合金、SiO、SnO、Fe2O3、WO2、Nb2O5、Li4/3Ti5/3O4等の金属酸化物、Li0.4CoNなどの窒化物が用いられる。正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウム、リチウムニッケルマンガン酸化物、リン酸鉄リチウムが用いられる。リン酸鉄リチウムは、さらに、マンガン、クロム、コバルト、銅、ニッケル、バナジウム、モリブデン、チタン、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、マグネシウム、ホウ素、ニオブから選ばれる1種以上の金属との複合物でも良い。
【0021】
リチウム二次電池の電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、これらの混合溶媒などの有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものが用いられる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウムや4フッ化ホウ酸リチウムが挙げられる。固体電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのゲル状ポリマーにリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
【0022】
本発明に用いられる分割型複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接して配置されてなる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニルを鹸化して得られる。鹸化度は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
【0023】
分割型複合繊維の断面形状は、放射状型、層状型、櫛型、碁盤型などが挙げられる。分割型複合繊維は、パルパーやミキサーなどで攪拌する方法や高圧水流を当てる方法により、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる極細繊維と、ポリプロピレンからなる極細繊維とに分割させることができるものが好ましい。分割型複合繊維をパルパーやミキサーで攪拌して分割させる際には、必要に応じて分散助剤や消泡剤を使用しても良い。分割型複合繊維の平均繊維径は3〜18μmが好ましく、3〜16μmがより好ましく、6〜16μmがさらに好ましい。3μm未満だと、分割しにくくなる場合があり、18μmより太いと、分割後の極細繊維断面の長軸が長くなるため、基材の空隙を閉塞する場合がある。
【0024】
分割して得られる極細繊維は、断面の短軸長さが1〜5μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。1μm未満だと、断面の理論扁平度が大きくなりすぎて基材の空隙を閉塞する場合や、極細繊維同士の交点や極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分になる場合があり、5μmを超えると、基材の厚みを薄くしにくくなる場合がある。短軸長さとは、極細繊維断面の短軸方向の最大長さを意味する。極細繊維の長さは0.5〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましく、1〜4mmがさらに好ましい。0.5mm未満だと、湿式抄紙の際に漉き網から抜け落ちて排水に流出する割合が多くなる場合があり、10mmより長いと、極細繊維同士が撚れて塊ができる場合がある。極細繊維の理論扁平度は、1.0〜5.0が好ましく、1.5〜3.0がより好ましい。理論扁平度とは極細繊維の長軸の最大長さを短軸長さで除した値を意味し、分割型複合繊維の繊維径と分割数から計算することができる。理論扁平度が5.0より大きいと、基材の空隙を閉塞する場合や、極細繊維同士の交点や極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分になる場合がある。
【0025】
本発明のリチウム二次電池用基材を構成する必須成分である溶剤紡糸セルロース繊維とは、セルロース誘導体を経ずに、直接、有機溶剤に溶解させて紡糸して得られるセルロース繊維を意味する。ISO規格及び日本のJIS規格に定める用語として、「リヨセル」ともいう。本発明においては、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維が用いられる。本発明においては、溶剤紡糸セルロース繊維の叩解度を変法濾水度で表す。
【0026】
本発明における変法濾水度とは、JIS P8121に規定されるカナダ標準濾水度の測定方法に対して、試料濃度若しくはふるい板のいずれか、又は試料濃度及びふるい板の両方を変更して測定した濾水度を意味する。これまで、針葉樹木材パルプ、広葉樹木材パルプ、麻パルプ、エスパルトパルプなどの天然セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係については報告されているが、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係は明らかになっていなかった。本発明では、リファイナーを用いて溶剤紡糸セルロース繊維を微細化していき、微細化の程度ごとにカナダ標準濾水度と変法濾水度を測定した結果、溶剤紡糸セルロース繊維の濾水挙動が、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動と異なることを見出した。
【0027】
図1に、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度の関係を表す。図1において、標準濾水度とはJIS P8121のカナダ標準濾水度を意味している。変法濾水度とは、試料濃度を0.03%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度を意味する。図1の横軸は長さ加重平均繊維長を示しており、右に向かうほど微細化の程度が進んでいる。カナダ標準濾水度は、長さ加重平均繊維長が0.72mmまで濾水度が0.5mlであるが、長さ加重平均繊維長が0.55mm以下では短くなるほど濾水度が大きくなっている。一方、変法濾水度は、微細化の程度が進むに従って、濾水度が大きくなっている。この濾水挙動は、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動、すなわち、微細化の程度が進むほど、カナダ標準濾水度と変法濾水度が減少する濾水挙動とは全く異なっている。
【0028】
このように微細化の程度が進むほど濾水度が大きくなる理由は、微細化が進むに従って叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が短くなっていき、特に試料濃度が薄い場合に、繊維同士の絡みが少なくなり、繊維ネットワークが形成されにくくなるため、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維自体がふるい板の穴をすり抜けてしまうからである。つまり、微細化した溶剤紡糸セルロース繊維の場合は、JIS P8121の測定方法では、正確な濾水度が計測できないのである。より詳細に説明すると、天然セルロース繊維は、微細化の程度が進むほど、繊維の幹から細いフィブリルが多数裂けた状態になるため、フィブリルを介して繊維同士が絡みやすく、繊維ネットワークを形成しやすいのに対し、溶剤紡糸セルロース繊維は、微細化処理によって繊維の長軸に平行に細かく分割されやすく、分割後の繊維1本1本における繊維径の均一性が高いため、平均繊維長が短くなるほど繊維同士が絡みにくくなり、繊維ネットワークを形成しにくいと考えられる。
【0029】
そこで、本発明では、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の正確な濾水度を測定するための検討を行った。図2は、試料濃度とふるい板の両方を変更して測定した変法濾水度の一例を表す。すなわち、JIS P8121に規定されているふるい板の代わりに80メッシュの金網を用い、試料濃度を0.1%にして測定した変法濾水度である。80メッシュの線径は直径0.14mmで、目開き0.18mmの金網(PULP AND PAPER RESEARCH INSTITUTE OF CANADA製)を使用した。図2から明らかなように、微細化の程度が進むほど濾水度は小さくなっており、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の抜けが抑えられ、より正確な濾水度を計測できたことがわかる。以下、本発明における変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度を意味し、特に断りのない限り、単に「変法濾水度」と表記する。
【0030】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長及び繊維長分布ヒストグラムは、繊維にレーザー光を当てて得られる偏向特性を利用して求める市販の繊維長測定器を用いて測定することができる。本発明では、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52「紙及びパルプの繊維長 試験方法(光学的自動計測法)」に準じてKajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して測定した。叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の「繊維長」、「平均繊維長」及び「繊維長分布」とは、上記に従って測定・算出される「長さ加重繊維長」、「長さ加重平均繊維長」及び「長さ加重繊維長分布」を意味する。
【0031】
また、微細化の条件を変えることによって、変法濾水度0〜400mlの範囲内で長さ加重平均繊維長をいかようにも調節することができるため、同程度の変法濾水度であっても、長さ加重平均繊維長の異なる叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を作製することができる。図3は、本発明の実施例1〜62で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度を表す。
【0032】
本発明において用いられる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度は、0〜400mlであることが好ましく、0〜300mlであることがより好ましく、0〜250mlであることがさらに好ましい。400mlを超えると、太い繊維径の割合が多くなり、基材に大きな貫通孔ができて塗液が裏抜けする場合や、厚み斑や地合斑を生じる場合がある。
【0033】
本発明における溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、0.10〜2.00mmであることが好ましく、0.20〜1.50mmがより好ましく、0.20〜1.00mmがさらに好ましい。長さ加重平均繊維長が0.10mm未満だと、湿式抄紙の際に漉き網が目詰まりして、濾水性が悪くなり、抄紙性が悪くなる場合がある。2.00mmより長いと、繊維同士が撚れてダマになる場合がある。
【0034】
さらに、本発明では、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmである叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、その繊維長分布ヒストグラムを詳細に検討した結果、下記に説明する第一の繊維長分布を有する場合、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制し、基材の表面平滑性を向上させる効果が得られ、第二の繊維長分布を有する場合、抄紙性と表面平滑性を両立させる効果が得られるため、より好ましいことを見出した。
【0035】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第一の繊維長分布は、該繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と良く絡み合い、極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制する。その結果、湿式抄紙して得られる基材の表面に極細繊維が束状に堆積することがなく、基材の表面平滑性が高くなるため、フィラー粒子や樹脂を塗工して得られる塗工面や多孔質フィルムを貼り合わせて積層一体化させて得られる面における表面平滑性が高くなる。また、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である場合、極細繊維との絡みがより良くなり、結果的に基材の表面平滑性及び塗工等の複合化を行った面の表面平滑性がより優れていて、さらに好ましいことを見出した。
【0036】
図4及び図5は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。フィラー粒子や樹脂等の表面塗工等により複合化した後の表面平滑性という点で、より好ましくは、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が12%以上である。なお、複合化する際における基材の破損防止という点において、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合はより高い方が好ましいが、50%程度あれば十分である。
【0037】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であることが好ましく、−2.5以上−0.8以下がより好ましく、−2.0以上−1.0以下がさらに好ましい。傾きが−3.0より小さい場合、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維との絡みが弱くなり、極細繊維がスラリーの水面に浮き、基材の表面に極細繊維が束状に堆積しやすくなる場合がある。また傾きが−0.5を超えると緻密性が向上しない場合がある。図4及び図5に示すように、「傾きが大きい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が広い状態である。「傾きが小さい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が狭く、より繊維長が揃っている状態である。なお、図4の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の傾きは、−2.9であり、図5の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の傾きは、−0.6である。
【0038】
なお、「1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き」とは、図6に示したように1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の値に対し、最小二乗法により近似直線を算出し、得られた近似直線の傾きを意味する。
【0039】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第二の繊維長分布は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、濾水性が相対的に良く、抄紙速度を上げることができ、抄紙性と表面平滑性を両立できる。また、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する場合、このようなピークを有さない溶剤紡糸セルロース繊維よりも濾水性が良く、より抄紙速度を上げることができる。
【0040】
図7は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。フィラー粒子や樹脂等の表面塗工や多孔質フィルムの貼合せ等により複合化した後の表面平滑性という点において、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が55%以上であることがより好ましい。1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合は高い方が望ましいが、75%程度あれば十分である。
【0041】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、図8に示したように、上記の最大頻度ピーク以外に、1.50〜3.50mmの間にピークを有することがより好ましく、1.75〜3.25mmの間にピークを有することがさらに好ましく、1.90〜3.00mmの間にピークを有することが特に好ましい。この範囲にピークを有することにより、さらに濾水性が良く、より抄紙速度を上げることができるため好ましい。該ピークの繊維長が1.50mmより短い場合、濾水性が悪くなり、抄紙速度を上げにくくなる場合がある。また3.50mmを超えると、ダマが発生して厚み斑になり、基材や塗工面の表面平滑性が悪くなる場合や、塗液が裏抜けする場合がある。
【0042】
本発明における叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を得るには、溶剤紡糸セルロースの短繊維を適度な濃度で水などに分散させ、これをリファイナー、ビーター、ミル、ホモミキサー、トップファイナー、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、高圧ホモジナイザーなどに通して処理すればよい。これらの装置を1種類だけ用いても良く、2種類以上用いても良い。これら装置の刃の形状、流量、処理回数、処理速度、処理濃度、内刃と外刃の間隔、ローターとステーターの間隔などの条件を調節して叩解すれば良い。処理濃度は0.1〜4.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。処理濃度が0.1質量%未満だと、処理効率が悪くなる場合がある。4.0質量%を超えると、処理が不十分になりやすく、繊維同士が撚れてダマになる場合がある。例えば、処理回数を増やした場合や、処理速度を上げた場合には、繊維長は短くなる方向になる。内刃と外刃の間隔、ローターとステーターの間隔を狭くすると、繊維長は短くなる方向になる。これらの叩解により、溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維長軸に平行に分割するとともに繊維長が短くなる。そのため、基材の空孔が比較的均一に形成され、塗工時の塗液の裏抜けを防止する。また、塗液の裏抜けが抑えられることから、フィラー粒子等が基材内部の空孔を閉塞することがない。
【0043】
本発明のリチウム二次電池用基材において、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維と溶剤紡糸セルロース繊維との質量比率は、8:2〜2:8が好ましく、7:3〜4:6がより好ましい。分割型複合繊維の比率が8:2より多いと、湿式不織布の熱処理の際に著しく収縮し、しわになる場合や基材の空隙が閉塞される場合があり、2:8より少ないと、基材の耐水強度が弱くなり、塗工時に破損する場合がある。
【0044】
本発明のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維を含有しても良い。例えば、天然セルロース繊維、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、溶剤紡糸セルロースの短繊維、合成樹脂からなる短繊維(以下、「合成短繊維」と表記することもある)、フィブリッド、パルプ化物、フィブリル化物、無機繊維を含有しても良い。天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物は、カナダ標準濾水度0〜700mlが好ましく、0〜500mlがより好ましい。無機繊維としては、ガラス、アルミナ、シリカ、セラミックス、ロックウールが挙げられる。無機繊維を含有する場合は、基材の耐熱寸法安定性や突刺強度が向上するため好ましい。合成短繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ジエン、ポリウレタン、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、フッ素、シリコーン、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン、これらの誘導体などの樹脂からなる短繊維が挙げられる。本発明におけるアクリルとは、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニルなどを共重合させたものを指す。ポリアミドとは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドを指す。半芳香族ポリアミドとは、主鎖の一部に脂肪鎖などを有する芳香族ポリアミドを指す。
【0045】
合成短繊維の平均繊維径は、0.1〜15μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。合成短繊維の平均繊維径が15μmを超えた場合、厚さ方向における繊維本数が少なくなるため、塗液が裏抜けする場合や厚みを薄くしにくくなる。0.1μm未満だと、合成短繊維の添加効果が現れにくい。
【0046】
合成短繊維の繊維長としては、1〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましい。繊維長が10mmを超えた場合、地合不良となることがある。一方、繊維長が1mm未満の場合には、基材の機械的強度が低くなって、塗工等の複合化の際に基材が破損する場合がある。
【0047】
本発明のリチウム二次電池用基材は、湿式抄紙法で製造される。具体的には、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割させて得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を水に分散して均一なスラリーとし、このスラリーを抄紙機で漉きあげて湿式不織布を作製する。スラリーには、必要に応じて分散助剤、消泡剤、増粘剤、剥離剤などの薬品を添加しても良い。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合抄紙機が挙げられる。湿式不織布を製造する工程においては、必要に応じて、水流交絡処理を施しても良い。
【0048】
本発明においては、湿式不織布を140〜175℃で熱処理して、ポリプロピレンの少なくとも一部を溶融させ、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点を接着させることが好ましい。本発明における熱処理は、加熱したロールに非加圧下で湿式不織布の片面又は両面を所定時間接触させる方法、加熱したロール間に湿式不織布を通して加圧する方法、ホットプレス機を用いて所定時間加圧処理する方法等で行うことができる。本発明においては、巻取りを連続的に処理でき、極細繊維を溶融劣化させずに繊維形状を維持させやすいことから、非加圧下で加熱したロールに接触させる方法が好ましい。加熱するロールは樹脂製、金属製のいずれでも良い。加熱したロールの温度が140℃未満だと、極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が弱く、耐水性が不十分になることがあり、175℃を超えると、熱量が過剰となり、ポリプロピレンからなる極細繊維が繊維形状を消失し、薄い皮膜を形成するため、基材表面及び内部の空隙が少なくなるとともに基材が脆くなり、耐水強度が不十分になることがある。また、薄く形成された皮膜により塗液をはじき、水性塗液のしみ込みが不均一になることもある。熱処理の後、必要に応じてカレンダー処理して厚みを調整する。
【0049】
図9は、本発明の実施例2で作製した基材表面の電子顕微鏡写真の一例である。極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンにより接着されていることがわかる。図10は、本発明の実施例2で作製した基材断面の電子顕微鏡写真の一例である。図9及び10から、本発明の基材は表面及び内部を覆う皮膜が形成されておらず、十分な空隙が残っていることがわかる。図11は、本発明の実施例16で作製した基材表面の電子顕微鏡写真の一例である。極細繊維の大部分が溶融して繊維形状を消失しており、薄い皮膜が形成されていることがわかる。図12は、本発明の実施例16で作製した基材断面の電子顕微鏡写真の一例である。基材内部にも皮膜が形成されており、空隙が少ないことがわかる。
【0050】
本発明のリチウム二次電池用基材の厚みは、4〜45μmが好ましく、10〜35μmがより好ましく、15〜30μmがさらに好ましい。45μmを超えると、セパレータの抵抗値が高くなる場合があり、4μm未満であると、基材の強度が弱くなりすぎて、基材の取り扱い時や塗工等の複合化時に破損する恐れがある。
【0051】
本発明のリチウム二次電池用基材の密度は、0.250〜0.750g/cm3が好ましく、0.300〜0.650g/cm3がより好ましく、0.400〜0.600g/cm3がさらに好ましい。密度が0.250g/cm3未満だと、塗液が裏抜けする場合があり、0.750g/cm3超だと、セパレータの抵抗値が高くなる場合がある。
【0052】
本発明のリチウム二次電池用基材は、ASTM−F316−86で規定される最大孔径0.1〜10μmであることが好ましい。0.1μm未満だと、電解液保液率が低くなる場合があり、10μmより大きいと、塗液が裏抜けする場合や、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されてしまい、基材の空隙を閉塞する場合がある。
【0053】
本発明のリチウム二次電池用基材は、流れ方向の耐水強度が200N/m以上であることが好ましく、250N/m以上であることがより好ましい。耐水強度とは、基材に水をしみ込ませた状態での流れ方向の引張強度を指す。流れ方向とは、基材巻取りの流れ方向を意味する。耐水強度が200N/m未満だと、塗工性に支障を来たす場合がある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0055】
≪実施例1〜16、比較例1〜7≫
表1に、実施例1〜16、比較例1〜7で使用した分割型複合繊維、合成短繊維、溶剤紡糸セルロース繊維を示した。表1中の分割型複合繊維の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンの配置が放射状型であることを意味する。芯鞘複合繊維F4は、芯部にポリプロピレン、鞘部に高密度ポリエチレンを配してなり、芯部と鞘部の断面積比は50:50である。
【0056】
【表1】
【0057】
[基材の作製]
実施例1、2、4〜9、11〜14
表2に示したスラリー1〜11を調製した。表3に示したように、実施例1、2、4〜9、11〜14に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例1、2、4〜9、11〜14の基材を作製した。
【0058】
実施例3、10
表3に示したように、実施例3及び10に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、実施例3及び10の基材とした。
【0059】
(比較例1)
表2に示したスラリー12を調製し、2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、比較例1の基材を作製した。
【0060】
(比較例2)
表2に示したスラリー13を調製し、2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、比較例2の基材を作製した。
【0061】
(比較例3〜6)
表2に示したスラリー14〜17を調製した。表3に示したように比較例3〜6に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布をカレンダー処理して厚み調整し、比較例3〜6の基材を作製した。
【0062】
実施例15
スラリー2を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、135℃に加熱した金属ロールに湿式不織布の表裏面をそれぞれ30秒ずつ接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例15の基材を作製した。
【0063】
実施例16
スラリー2を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、180℃に加熱した金属ロールに湿式不織布の表裏面をそれぞれ5秒ずつ接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例16の基材を作製した。
【0064】
(比較例7)
表2に示したスラリー18を調製し、円網抄紙機と短網抄紙機の複合抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を135℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布を体積比率でフッ素:酸素:窒素=1:73:26の混合ガス中に1分間曝した。その後、60℃の湯で洗浄し、熱風乾燥機で70℃雰囲気に通して乾燥させた。この湿式不織布に水分を噴霧して100質量%含浸させ、130℃に加熱した一対の金属ロールに線圧500N/cm、速度3.3m/minで通してエチレン−ビニルアルコール共重合体をゲル皮膜化し、比較例7の基材を作製した。
【0065】
【表2】
【0066】
表2中の原料の記号は、表1の記号に該当する。
【0067】
[セパレータの作製]
酸化珪素(平均粒径:1μm)300g、水1000g、濃度50質量%のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス60gを容器に入れ、撹拌機(商品名:スリーワンモーター、新東科学(株)製)で1時間攪拌して分散させ、酸化珪素:スチレン−ブタジエン共重合体の質量比100:10、濃度24質量%の均一な水性塗液を作製した。実施例及び比較例の基材に、アプリケーターを用いて、この水性塗液を塗工し、乾燥機で乾燥し、片面あたりの厚さが3μmの酸化珪素層を有するセパレータを得た。
【0068】
[評価]
実施例及び比較例の基材及び該基材を用いて作製したセパレータについて、下記の評価を行い、結果を表3に示した。
【0069】
<基材の厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0070】
<基材の密度>
JIS P8124に準拠して基材の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値を密度とした。
【0071】
<耐水強度>
基材を50mm幅、250mm長の短冊状に切り揃えた。250mm長は基材の流れ方向とした。試験片を水に浸漬し、完全にしみ込ませた後、キムタオル(登録商標)で余剰水分を拭き取り、引張強度を測定した。引張強度は、試験片の上下を卓上型材料試験機((株)オリエンテック製)のチャックに100mm間隔で固定し、100mm/minの一定速度で試験片が切断するまで引き上げていったときの最大荷重とした。1つの基材につき、5本以上の試験片を測定し、その平均値を20倍して1m幅あたりの値にした。試験片を水に浸したときに、試験片が崩壊して引張強度の測定が不可能だった場合を×とした。
【0072】
<塗工性A>
基材に塗工したときの基材の状態を観察した。基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0073】
<濡れ性>
基材に塗工したときの基材の濡れ性について評価した。塗液が基材全体にすぐにしみ込んだ場合を「○」、基材表面の全体又は一部が塗液をはじき、塗液のしみ込み斑が生じた場合を「×」とした。
【0074】
<裏抜け>
セパレータの製造工程において、塗液が基材を全く裏抜けしなかった場合を「○」、若干裏抜けしたが、裏面が塗工装置のロールに貼りつくなどの支障がなかった場合を「△」、裏抜けして裏面がロールに貼りついて円滑な塗工ができないなどの支障を来たした場合を「×」とした。
【0075】
<塗工性B>
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量300000)100gをN−メチル−2−ピロリドン1800gに溶解させた溶液を調製し、これを実施例及び比較例の基材に、アプリケーターを用いて塗工した。このとき、基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0076】
<空隙>
セパレータの断面を電子顕微鏡で観察し、基材内部の空隙を確認した。基材内部への酸化珪素の充填がほとんどなく、基材内部の空隙がほぼ残存している場合を「A」、酸化珪素の一部が基材内部に充填されているが、電解液を十分保持できる空隙が残存している場合を「B」、酸化珪素が充填されて、空隙をほとんど閉塞している場合を「C」、酸化珪素の充填はほとんどないが、基材そのものの空隙が不十分な場合を「D」とした。「A」が最も良好で、「B」は実用上問題なく、「C」及び「D」は実用上問題があることを意味する。
【0077】
<電解液保持率>
セパレータについて、100mm幅×100mmに切り揃え、電解液に1分間浸漬した後、1分間吊るして余剰電解液を切り、セパレータの質量W1を測定した。W1から電解液を保持させる前のセパレータの質量W0を差し引いて得られる値W2をW0で除して100倍した値を電解液保持率(%)とした。電解液としては、LiPF6を1mol/l溶解させた混合溶液を使用した。混合溶液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを質量比率で3:7としたものである。
【0078】
<耐デンドライト性>
セパレータの片面に金属リチウム箔を、セパレータの反対側に正極を配置して積層し、電解液を注入してラミネートセルを100個ずつ作製した。0.5mA/cm2で3.6Vまで定電流充電し、さらに3.6Vを24時間印加し、過充電した。この過充電中に異常電流が流れた場合を内部短絡したと見なし、過充電を中止し、ラミネートセルを開封してリチウムデンドライトの発生状態を確認した。過充電により、リチウムデンドライトが発生して基材を貫通したセルの割合を耐デンドライト性とした。この割合が少ないほど、耐デンドライト性に優れることを意味する。正極には、活物質のコバルト酸リチウム、導電助剤のアセチレンブラック、結着剤のポリフッ化ビニリデンを質量比率で90:5:5に混合したスラリーをアルミニウム集電体の両面に塗布したものを用いた。電解液は、<電解液保持率>の評価に記載したものと同様である。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例1〜14のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるため、極細繊維同士及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されていて、耐水強度が強く、フィラー粒子を含有する水性塗液の濡れ性が良く、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の塗工性に優れており、フィラー粒子が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなかった。実施例1〜14のリチウム二次電池用基材は、湿式不織布が140〜175℃で熱処理されてなるため、極細繊維同士及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されていて、かつ、ポリプロピレンからなる極細繊維が繊維形状を維持しており、それが骨組みを形成するため強い耐水強度を示した。実施例1〜14で作製したリチウム二次電池用セパレータは、基材内部の空隙が残存したため、電解液保持率が高かった。また、フィラー粒子が基材表面に集中的に担持されたため、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0081】
一方、比較例1のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維のみで構成されているため、耐水強度は強く、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の塗工性は良好だったが、水性塗液の濡れ性は悪かった。また、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有しないため、基材内部の空隙が少なかった。比較例1のリチウム二次電池用基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータは、耐デンドライト性は良かったが、電解液保持率は悪かった。
【0082】
比較例2のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、それ以外の合成短繊維からなるため、耐水強度は強く、水性塗液の濡れ性は良かったが、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有しないため、大きな貫通孔が存在し、水性塗液が裏抜けした。また、基材内部にフィラー粒子が充填されてしまい、基材内部の空孔が閉塞された。比較例2のリチウム二次電池用基材を用いてなるセパレータは、電解液保持率と耐デンドライト性が悪かった。
【0083】
比較例3のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維100%からなるため、耐水強度がなく、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液は塗工できなかった。そのため、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0084】
比較例4〜6のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維と合成短繊維からなり、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維を含有しないため、耐水強度がなく、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液は塗工できなかった。そのため、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0085】
実施例15のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維からなるが、熱処理温度が140℃未満だったため、極細繊維同士の交点及び該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分な箇所があった。そのため、耐水強度は測定できたものの、実施例1〜14と比較して弱く、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液の塗工性が悪かった。また、水性塗液を用いた場合、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0086】
実施例16のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維からなるが、熱処理温度が175℃を超えていたため、熱量が過剰になり、ポリプロピレンからなる極細繊維の大部分が溶融して繊維形状を消失し、基材の表面及び内部に薄い皮膜が形成されたため、実施例1〜15と比較して、水性塗液の濡れ性が悪く、基材内部の空隙が少なくなった。また、薄い皮膜は脆いため、基材の耐水強度は測定できたものの、実施例1〜14と比較して弱く、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液の塗工性が悪かった。そのため、水性塗液を用いた場合、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0087】
比較例7のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のゲル皮膜が基材表面及び内部に形成されているため耐水強度は強かったが、水性塗液の濡れ性が悪く、基材内部の空隙が少なかった。また、分割型複合繊維と合成短繊維よりも微細な繊維がないため、大きな貫通孔が存在し、水性塗液が部分的に裏抜けした。比較例7のリチウム二次電池用基材を用いてなるセパレータは、電解液保持率が悪く、耐デンドライト性が劣っていた。
【0088】
≪実施例17〜31≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
(2)長さ加重平均繊維長:「平均繊維長」
を表6に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0089】
表4に、本発明の実施例17〜31で使用した分割型複合繊維、合成短繊維、溶剤紡糸セルロース繊維を示した。表4中の分割型複合繊維の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンの配置が放射状型であることを意味する。芯鞘複合繊維F4は、芯部にポリプロピレン、鞘部に高密度ポリエチレンを配してなり、芯部と鞘部の断面積比は50:50である。
【0090】
【表4】
【0091】
[基材の作製]
実施例17〜31
表5に示したスラリーを調製し、実施例17〜28、比較例8〜10に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表6に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例17〜31の基材を作製した。次に、実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表6に示した。
【0092】
【表5】
【0093】
表5中の原料の記号は、表4の記号に該当する。
【0094】
[評価]
<基材の厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0095】
<基材の密度>
JIS P8124に準拠して基材の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値を密度とした。
【0096】
<抄紙性>
高速で基材を安定して湿式抄紙できた場合を「◎」、やや高速で安定して湿式抄紙できた場合を「○」、10m/min以上の低速で安定して湿式抄紙できた場合を「△」、10m/min未満の抄紙速度でしか安定して湿式抄紙できなかった場合を「×」とした。抄紙速度が速いほど、抄紙性が良いことを意味する。
【0097】
<浮き>
基材を湿式抄紙する際に、原料スラリーを円網抄紙機に送液する途中の希釈種箱の中で、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮いているか否か目視確認した。浮いている極細繊維の量が多い場合を「多」、少ない場合を「少」、多くもなく少なくもない場合を「中」とした。
【0098】
<耐水強度>
基材を50mm幅、250mm長の短冊状に切り揃えた。250mm長は基材の流れ方向とした。試験片を水に浸漬し、完全にしみ込ませた後、キムタオル(登録商標)で余剰水分を拭き取り、引張強度を測定した。引張強度は、試験片の上下を卓上型材料試験機((株)オリエンテック製)のチャックに100mm間隔で固定し、100mm/minの一定速度で試験片が切断するまで引き上げていったときの最大荷重とした。1つの基材につき、5本以上の試験片を測定し、その平均値を20倍して1m幅あたりの値にした。
【0099】
<塗工性>
基材に塗工したときの基材の状態を観察した。基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0100】
<濡れ性>
基材に塗工したときの基材の濡れ性について評価した。塗液が基材全体にすぐにしみ込んだ場合を「○」、基材表面の全体又は一部が塗液をはじき、塗液のしみ込み斑が生じた場合を「×」とした。
【0101】
<裏抜け>
セパレータの製造工程において、塗液が基材を全く裏抜けしなかった場合を「○」、若干裏抜けしたが、裏面が塗工装置のロールに貼りつくなどの支障がなかった場合を「△」、裏抜けして裏面がロールに貼りついて円滑な塗工ができないなどの支障を来たした場合を「×」とした。
【0102】
<空隙>
セパレータの断面を電子顕微鏡で観察し、基材内部の空隙を確認した。基材内部への酸化珪素の充填がほとんどなく、基材内部の空隙がほぼ残存している場合を「A」、酸化珪素の一部が基材内部に充填されているが、電解液を十分保持できる空隙が残存している場合を「B」、酸化珪素が充填されて、空隙をほとんど閉塞している場合を「C」とした。「A」が最も良好で、「B」は実用上問題なく、「C」は実用上問題があることを意味する。
【0103】
<電解液保持率>
セパレータについて、100mm幅×100mmに切り揃え、電解液に1分間浸漬した後、1分間吊るして余剰電解液を切り、セパレータの質量W1を測定した。W1から電解液を保持させる前のセパレータの質量W0を差し引いて得られる値W2をW0で除して100倍した値を電解液保持率(%)とした。電解液としては、LiPF6を1mol/l溶解させた混合溶液を使用した。混合溶液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを質量比率で3:7としたものである。
【0104】
<耐デンドライト性>
セパレータの片面に金属リチウム箔を、セパレータの反対側に正極を配置して積層し、電解液を注入してラミネートセルを100個ずつ作製した。0.5mA/cm2で3.6Vまで定電流充電し、さらに3.6Vを24時間印加し、過充電した。この過充電中に異常電流が流れた場合を内部短絡したと見なし、過充電を中止し、ラミネートセルを開封してリチウムデンドライトの発生状態を確認した。過充電により、リチウムデンドライトが発生して基材を貫通したセルの割合を耐デンドライト性とした。この割合が少ないほど、耐デンドライト性に優れることを意味する。正極には、活物質のコバルト酸リチウム、導電助剤のアセチレンブラック、結着剤のポリフッ化ビニリデンを質量比率で90:5:5に混合したスラリーをアルミニウム集電体の両面に塗布したものを用いた。電解液は、<電解液保持率>の評価に記載したものと同様である。
【0105】
<表面平滑性>
セパレータの表面について、任意の10か所の厚みを測定し、その標準偏差(μm)を算出し、表面平滑性の指標とした。標準偏差の値が小さいほど表面平滑性に優れている。
【0106】
【表6】
【0107】
実施例17〜24、28〜31のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであるため、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されており、耐水強度が強く、フィラー粒子を含有する水性塗液の裏抜けがないか、塗工に支障がない程度であり、塗工する際に基材が破れることや切断することがなく、塗工性に優れていた。また、基材に大きな貫通孔がないため、フィラー粒子が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなく、且つ、基材表面及び内部を皮膜で覆うことがないため、水性塗液の濡れ性が良かった。さらに、フィラー粒子が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによって、リチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0108】
一方、実施例25のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が0.10mm未満であるため、濾水性が悪く、抄紙性が悪かった。該基材の濡れ性、塗工性は良好で、裏抜けは発生せず、該基材を用いたセパレータの空隙、電解液保持率、耐デンドライト性は良好であった。
【0109】
実施例26のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が2.00mmを超えていたため、濡れ性と塗工性は良かったが、フィラー粒子を含有する水性塗液が裏抜けし、フィラー粒子が基材内部の空隙を閉塞した。従って、該基材を用いたセパレータは、電解液保持率が低く、耐デンドライト性が悪かった。
【0110】
実施例27のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が400mlを超え、且つ、長さ加重平均繊維長が2.00mmを超えているため、塗工性と濡れ性は良かったが、フィラー粒子を含有する水性塗液が裏抜けし、フィラー粒子が基材内部の空隙を閉塞した。従って、該基材を用いたセパレータは、電解液保持率が低く、耐デンドライト性が悪かった。
【0111】
≪実施例32〜47≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(2)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(3)繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き:「割合の傾き」
(4)長さ加重平均繊維長:「長さ加重平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
を表7に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維C12〜C23は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0112】
【表7】
【0113】
[基材の作製]
表8に示したスラリーを調製し、実施例32〜47に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表9に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例32〜47の基材を作製した。実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表9に示した。
【0114】
【表8】
【0115】
表8中の原料の記号は、表4及び表7の記号に該当する。
【0116】
【表9】
【0117】
実施例32〜47で作製したセパレータは、フィラー粒子が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによってリチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0118】
実施例32〜41、44〜47で作製したリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるため、耐水性及び塗工性に優れ、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の濡れ性が良いだけでなく、抄紙性が良好であった。分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制し、基材の表面平滑性が向上したため、塗工面の表面平滑性が良好であった。
【0119】
実施例42の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有さないため、スラリーの水面に極細繊維が多く浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜41、44〜47よりも塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0120】
実施例43の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%未満であるため、スラリーの水面に極細繊維が多く浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜41、44〜47よりも塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0121】
特に、実施例32〜35、37〜40、44〜47で作製したリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であるため、極細繊維との絡みが良好で、極細繊維の浮きが少なく、塗工面の表面平滑性が優れていた。
【0122】
実施例36の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0よりもマイナス側であるため、スラリーの水面に極細繊維がやや多めに浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜35、37〜40、44〜47よりも、塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0123】
実施例41の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−0.5よりもプラス側である。そのため、抄紙性は良かったが、スラリーの水面に極細繊維がやや多めに浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜35、37〜40、44〜47よりも塗工面の表面平滑性がやや劣っていた。
【0124】
≪実施例48〜62≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について
(1)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(2)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(3)最大頻度ピーク以外のピークの繊維長:「第2ピークの繊維長」
(4)長さ加重平均繊維長:「長さ加重平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度:「変法濾水度」
を表10に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維C24〜C34は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0125】
【表10】
【0126】
[基材の作製]
表11に示したスラリーを調製し、実施例48〜62に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表12に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例48〜62の基材を作製した。実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表12に示した。
【0127】
【表11】
【0128】
表11中の原料の記号は、表4及び表10の記号に該当する。
【0129】
【表12】
【0130】
実施例48〜56、59〜62で作製したリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上であるため、耐水性及び塗工性に優れ、水性塗液の裏抜けがないか、塗工に支障がない程度であり、水性塗液の濡れ性が良いだけでなく、抄紙性がさらに良好であった。
【0131】
実施例57で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有さず、1.00mm超に最大頻度ピークを有するため、抄紙性は良かったが、塗液が若干裏抜けし、実施例48〜56、59〜62より塗工面の表面平滑性が悪かった。該基材を用いてなるセパレータは、フィラー粒子の一部が基材内部に充填されたため、実施例48〜56、59〜62よりも電解液保持率が低かったが、耐デンドライト性は良好であった。
【0132】
実施例58で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有するが、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が5%と少なく、且つ、最大頻度ピーク以外のピークを有さないため、抄紙性が劣っていた。
【0133】
特に、実施例48〜50、52〜55、59〜62で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有するため、抄紙性に優れていた。実施例51で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に存在するピークが1.50mmより短いため、実施例48〜50、52〜55、59〜62よりも抄紙性で劣っていた。実施例56で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に存在するピークが3.50mmより長いため、塗液が若干裏抜けし、実施例48〜50、52〜55、59〜62より、塗工面の表面平滑性が悪かった。該基材を用いてなるセパレータは、フィラー粒子の一部が基材内部に充填されたため、実施例48〜50、52〜55、59〜62よりも電解液保持率が低かったが、耐デンドライト性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のリチウムイオン二次電池用基材及びリチウム二次電池用セパレータは、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等のリチウムイオン二次電池に好適に使用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用基材及びリチウム二次電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器の普及及びその高性能化に伴い、高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。この種の電池として、有機電解液を使用するリチウムイオン電池が注目されてきた。このリチウムイオン電池は、平均電圧として従来の二次電池であるアルカリ二次電池の約3倍である3.7V程度が得られることから高エネルギー密度となるが、アルカリ二次電池のように水系の電解液を用いることができないため、十分な耐酸化還元性を有する非水電解液を用いている。非水電解液は可燃性であるため発火等の危険性があり、その使用において安全性には細心の注意が払われている。発火等の危険に曝されるケースとしていくつか考えられるが、特に過充電が危険である。
【0003】
過充電を防止するために、現状の非水系二次電池では定電圧・定電流充電が行われ、電池に精密なIC(保護回路)が装備されている。この保護回路にかかるコストは大きく、非水系二次電池をコスト高にしている要因にもなっている。
【0004】
保護回路で過充電を防止する場合、当然保護回路がうまく作動しないことも想定され、本質的に安全であるとは言い難い。現状の非水系二次電池には、過充電時に保護回路が壊れ、過充電されたときに安全に電池を破壊する目的で、安全弁・PTC素子の装備、セパレータには熱ヒューズ機能を有する工夫がなされている。しかし、上記のような手段を装備していても、過充電される条件によっては、確実に過充電時の安全性が保証されているわけではなく、実際には非水系二次電池の発火事故は現在でも起こっている。
【0005】
リチウム二次電池用セパレータとしては、ポリエチレン等のポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムが多く使用されており、電池内部の温度が130℃近傍になった場合、溶融して微多孔を塞ぐことで、リチウムイオンの移動を防ぎ、電流を遮断させる熱ヒューズ機能(シャットダウン機能)があるが、何らかの状況により、さらに温度が上昇した場合、ポリオレフィン自体が溶融してショートし、熱暴走する可能性が示唆されている。そこで、現在、200℃近くの温度でも溶融及び収縮しない耐熱性セパレータが求められている。
【0006】
例えば、ポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムに、ガラス繊維で構成した不織布を積層させてポリフッ化ビニリデン等の樹脂で接着して複合化する試みが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1の複合化セパレータの場合、多孔質フィルムとガラス不織布を個別に製造した後に積層するため、どうしても厚みが厚くなってしまい、その結果、使用できる分野が限定されるという問題や、内部抵抗等の電池特性に劣るといった課題があった。
【0007】
一方、ポリオレフィンからなる多孔質フィルムではなく、不織布を用いた耐熱性セパレータが提案されている。例えば、ポリエステル系繊維で構成した不織布、ポリエステル系繊維に耐熱性繊維であるアラミド繊維を配合した不織布、水分存在下で加熱することによってゲル化しうる湿熱ゲル化樹脂と、他の繊維を含む不織布がある。リチウム二次電池では、充放電を繰り返し行ったときや、過充電したときに負極表面に金属リチウムが析出する。この析出物をリチウムデンドライトと呼ぶが、リチウムデンドライトは徐々に成長し、セパレータを貫通して正極に達し、内部短絡の原因になる場合があり、不織布を用いたセパレータは、多孔質フィルムと比較すると、孔径が大きく、この内部短絡が発生しやすいという問題があった(例えば、特許文献2〜5参照)。特許文献5のセパレータでは、湿熱ゲル化樹脂の皮膜があるため、セパレータの空隙が不十分になりやすい問題があった。皮膜の形成を少なくすると、ピンホールができやすく、この部分において、リチウムデンドライトがセパレータを貫通する問題があった。また、湿熱ゲル化の方法が複雑であるため、湿熱ゲル化樹脂の皮膜面積とセパレータの空隙率のバランスを取ることが難しい問題があった。
【0008】
また、不織布を用いたセパレータにシャットダウン特性を付与する試みも検討されている。例えば、ポリプロピレン不織布等にポリエチレン微粉末を添着したセパレータが提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、ポリプロピレンは融点が165℃付近であり、シャットダウン特性が発現しなかった場合、不織布が溶融収縮してショートし、さらなる熱暴走の可能性がある。また、不織布の繊維径や細孔径、添着するポリエチレン微粒子の粒径等についての詳細な記載がなされておらず、保液性や内部抵抗等の問題があり、十分な電池特性を発現できているとは言えない。
【0009】
また、低融点樹脂成分と高融点樹脂成分からなる極細繊維を主体とする不織布をセパレータとして用いることで、電池内部の温度が上昇した場合、低融点樹脂成分が溶融し、繊維間の細孔を塞ぐことによって、シャットダウン特性を発現させることが提案されている(例えば、特許文献7参照)。このようなセパレータにおいては、不織布の強度を発現させるため、低融点樹脂成分を溶融させて繊維間を十分に結合させる必要があるが、強度発現に必要な加熱温度とシャットダウン温度の差が小さく、強度を維持しつつ、繊維間の細孔径や細孔数を制御することは非常に困難である。また、シャットダウン特性が十分に発現しなかった場合、不織布自体が溶融収縮してショートする可能性がある。
【0010】
また、耐熱性繊維と熱溶融性樹脂材料を混合し、湿式抄造した不織布からなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、特許文献7のセパレータと同様に、耐熱性繊維からなる不織布の強度発現に必要な加熱温度と熱溶融性樹脂材料の溶融温度とのバランスを取るのが困難であり、また、シャットダウン特性を十分に発現させるためには、熱溶融性樹脂材料を多量に含有させる必要があるが、熱溶融性樹脂材料の耐熱性繊維への接着が十分とは言えず、熱溶融性樹脂材料の脱落や、繊維シートの均一性が不十分という問題があった。
【0011】
一方、不織布、織布等をそのままセパレータとして使用するのではなく、基材として使用し、各種材料を該基材に複合化させて、耐熱性やシャットダウン機能等を付与したセパレータが開示されている。例えば、基材に多孔質フィルムと貼り合わせて複合化したセパレータ、基材にフィラー粒子、樹脂、ゲル状電解質、固体電解質等を含浸・表面塗工することで複合化したセパレータが報告されている(例えば、特許文献9〜11参照)。しかしながら、これらの特許文献では、フィラー粒子や樹脂、多孔質フィルム等の複合化用の材料(以下、「複合化物」という)については詳細な検討がなされているが、基材として用いられている不織布については、何ら検討がなされていない。これまでに使用されてきた基材では、孔が大きいため、貼り合わせ、表面塗工、含浸等によって、複合化した際の表面平滑性が悪いという問題、塗工の際に塗液が裏抜けしてしまう問題があった。また、基材内部に複合化物が充填されてしまって、基材内部の空孔を閉塞するため、電解液保持性が悪くなり、セパレータの内部抵抗が高くなる問題があった。また、基材の孔が大きいため、内部短絡が発生しやすいという問題もあった。
【0012】
さらに、フィラー粒子等の複合化物を含有する塗液の媒体は、これまで有機溶媒が主流であったが、作業環境上の問題があること、廃液回収や廃液処理が煩雑であること、乾燥機などを防爆仕様にする必要があり、塗工設備や収容施設が大掛かりになる問題があるため、最近ではこれらの問題をなくすために、水性塗液が主流になりつつある。しかしながら、水性塗液の塗工性に優れ、かつ塗工後も十分な空隙を保持できる不織布がないという問題があった。例えば、特許文献5のセパレータに使用されている不織布を基材として使用した場合、湿熱ゲル化樹脂の皮膜が水性塗液をはじくため、水性塗液のしみ込みが不均一に起こり、水性塗液の濡れ性が悪い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−323878号公報
【特許文献2】特開2003−123728号公報
【特許文献3】特開2007−317675号公報
【特許文献4】特開2006−19191号公報
【特許文献5】特許第4387951号公報
【特許文献6】特開昭60−52号公報
【特許文献7】特開2004−115980号公報
【特許文献8】特開2004−214066号公報
【特許文献9】特開2005−293891号公報
【特許文献10】特表2005−536857号公報
【特許文献11】特開2007−157723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、耐水性に優れ、フィラー粒子等の複合化物を含有する水性塗液の塗工性に優れ、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されて基材内の空隙を閉塞することがないリチウム二次電池用基材、電解液保持率と耐リチウムデンドライト性に優れるリチウム二次電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンからなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなることを特徴とするリチウム二次電池用基材及び該基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータを見出した。
【発明の効果】
【0016】
本発明のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるため、極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されることによって、耐水性に優れ、フィラー粒子等の複合化物を含有する水性塗液の裏抜けがなく、塗工する際に基材が破れることや切断することがなく、塗工性に優れる。また、基材に大きな貫通孔がないため、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなく、かつ基材表面及び内部を皮膜で覆うことがないため、水性塗液の濡れ性が良い。本発明のリチウム二次電池用セパレータは、フィラー粒子等の複合化物が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによって、リチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子等の複合化物によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度(試料濃度を0.03%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度)の関係を表したグラフである。
【図2】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフの一例である。
【図3】本発明の実施例で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフである。
【図4】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図5】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図6】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]及び[II]の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合のグラフと近似直線を示した図である。
【図7】0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[i]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【図8】最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[ii]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【図9】本発明の実施例2で作製したリチウム二次電池用基材における表面の電子顕微鏡写真(1000倍率)の一例である。
【図10】本発明の実施例2で作製したリチウム二次電池用基材における断面の電子顕微鏡写真(1500倍率)の一例である。
【図11】本発明の実施例16で作製したリチウム二次電池用基材における表面の電子顕微鏡写真(1000倍率)の一例である。
【図12】本発明の実施例16で作製したリチウム二次電池用基材における断面の電子顕微鏡写真(1500倍率)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウム二次電池用基材(以下、「基材」と表記することもある)とは、フィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工するための基材、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工するための基材、多孔質フィルムや不織布などの多孔質基材を積層一体化するための基材、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工するための基材であり、リチウム二次電池用セパレータの前駆体シートである。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と表記することもある)は、本発明のリチウム二次電池用基材にフィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工してなるセパレータ、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工してなるセパレータ、多孔質フィルムや不織布などの多孔質基材を積層一体化してなるセパレータ、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工してなるセパレータである。フィラーは、無機、有機のいずれでも良い。無機フィラーとしては、アルミナ、ギブサイト、ベーマイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物や無機水酸化物、窒化アルミニウムや窒化珪素などの無機窒化物、アルミニウム化合物、ゼオライト、マイカなどが挙げられる。有機フィラーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−ビニルモノマー共重合体、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。塗液には、結着剤としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムなどのゴムやその誘導体)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、アクリル樹脂などが挙げられ、これらを単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。また、多孔質フィルムとしては、フィルムを形成できる樹脂であれば、特に制限はないが、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂と言ったポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、又は超高密度ポリエチレンのようなポリエチレン系樹脂単独だけでなく、エチレンプロピレン共重合体、又はポリエチレン系樹脂と他のポリオレフィン系樹脂との混合物などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、又はプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン若しくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体などが挙げられる。
【0020】
本発明におけるリチウム二次電池とは、リチウムイオン電池やリチウムイオンポリマー電池を意味する。リチウム二次電池の負極活物質としては、黒鉛やコークスなどの炭素材料、金属リチウム、アルミニウム、シリカ、スズ、ニッケル、鉛から選ばれる1種以上の金属とリチウムとの合金、SiO、SnO、Fe2O3、WO2、Nb2O5、Li4/3Ti5/3O4等の金属酸化物、Li0.4CoNなどの窒化物が用いられる。正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウム、リチウムニッケルマンガン酸化物、リン酸鉄リチウムが用いられる。リン酸鉄リチウムは、さらに、マンガン、クロム、コバルト、銅、ニッケル、バナジウム、モリブデン、チタン、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、マグネシウム、ホウ素、ニオブから選ばれる1種以上の金属との複合物でも良い。
【0021】
リチウム二次電池の電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、これらの混合溶媒などの有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものが用いられる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウムや4フッ化ホウ酸リチウムが挙げられる。固体電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのゲル状ポリマーにリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
【0022】
本発明に用いられる分割型複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接して配置されてなる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニルを鹸化して得られる。鹸化度は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
【0023】
分割型複合繊維の断面形状は、放射状型、層状型、櫛型、碁盤型などが挙げられる。分割型複合繊維は、パルパーやミキサーなどで攪拌する方法や高圧水流を当てる方法により、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる極細繊維と、ポリプロピレンからなる極細繊維とに分割させることができるものが好ましい。分割型複合繊維をパルパーやミキサーで攪拌して分割させる際には、必要に応じて分散助剤や消泡剤を使用しても良い。分割型複合繊維の平均繊維径は3〜18μmが好ましく、3〜16μmがより好ましく、6〜16μmがさらに好ましい。3μm未満だと、分割しにくくなる場合があり、18μmより太いと、分割後の極細繊維断面の長軸が長くなるため、基材の空隙を閉塞する場合がある。
【0024】
分割して得られる極細繊維は、断面の短軸長さが1〜5μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。1μm未満だと、断面の理論扁平度が大きくなりすぎて基材の空隙を閉塞する場合や、極細繊維同士の交点や極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分になる場合があり、5μmを超えると、基材の厚みを薄くしにくくなる場合がある。短軸長さとは、極細繊維断面の短軸方向の最大長さを意味する。極細繊維の長さは0.5〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましく、1〜4mmがさらに好ましい。0.5mm未満だと、湿式抄紙の際に漉き網から抜け落ちて排水に流出する割合が多くなる場合があり、10mmより長いと、極細繊維同士が撚れて塊ができる場合がある。極細繊維の理論扁平度は、1.0〜5.0が好ましく、1.5〜3.0がより好ましい。理論扁平度とは極細繊維の長軸の最大長さを短軸長さで除した値を意味し、分割型複合繊維の繊維径と分割数から計算することができる。理論扁平度が5.0より大きいと、基材の空隙を閉塞する場合や、極細繊維同士の交点や極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分になる場合がある。
【0025】
本発明のリチウム二次電池用基材を構成する必須成分である溶剤紡糸セルロース繊維とは、セルロース誘導体を経ずに、直接、有機溶剤に溶解させて紡糸して得られるセルロース繊維を意味する。ISO規格及び日本のJIS規格に定める用語として、「リヨセル」ともいう。本発明においては、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維が用いられる。本発明においては、溶剤紡糸セルロース繊維の叩解度を変法濾水度で表す。
【0026】
本発明における変法濾水度とは、JIS P8121に規定されるカナダ標準濾水度の測定方法に対して、試料濃度若しくはふるい板のいずれか、又は試料濃度及びふるい板の両方を変更して測定した濾水度を意味する。これまで、針葉樹木材パルプ、広葉樹木材パルプ、麻パルプ、エスパルトパルプなどの天然セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係については報告されているが、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係は明らかになっていなかった。本発明では、リファイナーを用いて溶剤紡糸セルロース繊維を微細化していき、微細化の程度ごとにカナダ標準濾水度と変法濾水度を測定した結果、溶剤紡糸セルロース繊維の濾水挙動が、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動と異なることを見出した。
【0027】
図1に、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度の関係を表す。図1において、標準濾水度とはJIS P8121のカナダ標準濾水度を意味している。変法濾水度とは、試料濃度を0.03%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度を意味する。図1の横軸は長さ加重平均繊維長を示しており、右に向かうほど微細化の程度が進んでいる。カナダ標準濾水度は、長さ加重平均繊維長が0.72mmまで濾水度が0.5mlであるが、長さ加重平均繊維長が0.55mm以下では短くなるほど濾水度が大きくなっている。一方、変法濾水度は、微細化の程度が進むに従って、濾水度が大きくなっている。この濾水挙動は、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動、すなわち、微細化の程度が進むほど、カナダ標準濾水度と変法濾水度が減少する濾水挙動とは全く異なっている。
【0028】
このように微細化の程度が進むほど濾水度が大きくなる理由は、微細化が進むに従って叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が短くなっていき、特に試料濃度が薄い場合に、繊維同士の絡みが少なくなり、繊維ネットワークが形成されにくくなるため、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維自体がふるい板の穴をすり抜けてしまうからである。つまり、微細化した溶剤紡糸セルロース繊維の場合は、JIS P8121の測定方法では、正確な濾水度が計測できないのである。より詳細に説明すると、天然セルロース繊維は、微細化の程度が進むほど、繊維の幹から細いフィブリルが多数裂けた状態になるため、フィブリルを介して繊維同士が絡みやすく、繊維ネットワークを形成しやすいのに対し、溶剤紡糸セルロース繊維は、微細化処理によって繊維の長軸に平行に細かく分割されやすく、分割後の繊維1本1本における繊維径の均一性が高いため、平均繊維長が短くなるほど繊維同士が絡みにくくなり、繊維ネットワークを形成しにくいと考えられる。
【0029】
そこで、本発明では、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の正確な濾水度を測定するための検討を行った。図2は、試料濃度とふるい板の両方を変更して測定した変法濾水度の一例を表す。すなわち、JIS P8121に規定されているふるい板の代わりに80メッシュの金網を用い、試料濃度を0.1%にして測定した変法濾水度である。80メッシュの線径は直径0.14mmで、目開き0.18mmの金網(PULP AND PAPER RESEARCH INSTITUTE OF CANADA製)を使用した。図2から明らかなように、微細化の程度が進むほど濾水度は小さくなっており、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の抜けが抑えられ、より正確な濾水度を計測できたことがわかる。以下、本発明における変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度を意味し、特に断りのない限り、単に「変法濾水度」と表記する。
【0030】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長及び繊維長分布ヒストグラムは、繊維にレーザー光を当てて得られる偏向特性を利用して求める市販の繊維長測定器を用いて測定することができる。本発明では、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52「紙及びパルプの繊維長 試験方法(光学的自動計測法)」に準じてKajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して測定した。叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の「繊維長」、「平均繊維長」及び「繊維長分布」とは、上記に従って測定・算出される「長さ加重繊維長」、「長さ加重平均繊維長」及び「長さ加重繊維長分布」を意味する。
【0031】
また、微細化の条件を変えることによって、変法濾水度0〜400mlの範囲内で長さ加重平均繊維長をいかようにも調節することができるため、同程度の変法濾水度であっても、長さ加重平均繊維長の異なる叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を作製することができる。図3は、本発明の実施例1〜62で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度を表す。
【0032】
本発明において用いられる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度は、0〜400mlであることが好ましく、0〜300mlであることがより好ましく、0〜250mlであることがさらに好ましい。400mlを超えると、太い繊維径の割合が多くなり、基材に大きな貫通孔ができて塗液が裏抜けする場合や、厚み斑や地合斑を生じる場合がある。
【0033】
本発明における溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、0.10〜2.00mmであることが好ましく、0.20〜1.50mmがより好ましく、0.20〜1.00mmがさらに好ましい。長さ加重平均繊維長が0.10mm未満だと、湿式抄紙の際に漉き網が目詰まりして、濾水性が悪くなり、抄紙性が悪くなる場合がある。2.00mmより長いと、繊維同士が撚れてダマになる場合がある。
【0034】
さらに、本発明では、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmである叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、その繊維長分布ヒストグラムを詳細に検討した結果、下記に説明する第一の繊維長分布を有する場合、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制し、基材の表面平滑性を向上させる効果が得られ、第二の繊維長分布を有する場合、抄紙性と表面平滑性を両立させる効果が得られるため、より好ましいことを見出した。
【0035】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第一の繊維長分布は、該繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と良く絡み合い、極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制する。その結果、湿式抄紙して得られる基材の表面に極細繊維が束状に堆積することがなく、基材の表面平滑性が高くなるため、フィラー粒子や樹脂を塗工して得られる塗工面や多孔質フィルムを貼り合わせて積層一体化させて得られる面における表面平滑性が高くなる。また、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である場合、極細繊維との絡みがより良くなり、結果的に基材の表面平滑性及び塗工等の複合化を行った面の表面平滑性がより優れていて、さらに好ましいことを見出した。
【0036】
図4及び図5は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。フィラー粒子や樹脂等の表面塗工等により複合化した後の表面平滑性という点で、より好ましくは、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が12%以上である。なお、複合化する際における基材の破損防止という点において、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合はより高い方が好ましいが、50%程度あれば十分である。
【0037】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であることが好ましく、−2.5以上−0.8以下がより好ましく、−2.0以上−1.0以下がさらに好ましい。傾きが−3.0より小さい場合、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維との絡みが弱くなり、極細繊維がスラリーの水面に浮き、基材の表面に極細繊維が束状に堆積しやすくなる場合がある。また傾きが−0.5を超えると緻密性が向上しない場合がある。図4及び図5に示すように、「傾きが大きい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が広い状態である。「傾きが小さい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が狭く、より繊維長が揃っている状態である。なお、図4の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の傾きは、−2.9であり、図5の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の傾きは、−0.6である。
【0038】
なお、「1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き」とは、図6に示したように1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の値に対し、最小二乗法により近似直線を算出し、得られた近似直線の傾きを意味する。
【0039】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第二の繊維長分布は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、濾水性が相対的に良く、抄紙速度を上げることができ、抄紙性と表面平滑性を両立できる。また、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する場合、このようなピークを有さない溶剤紡糸セルロース繊維よりも濾水性が良く、より抄紙速度を上げることができる。
【0040】
図7は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。フィラー粒子や樹脂等の表面塗工や多孔質フィルムの貼合せ等により複合化した後の表面平滑性という点において、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が55%以上であることがより好ましい。1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合は高い方が望ましいが、75%程度あれば十分である。
【0041】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、図8に示したように、上記の最大頻度ピーク以外に、1.50〜3.50mmの間にピークを有することがより好ましく、1.75〜3.25mmの間にピークを有することがさらに好ましく、1.90〜3.00mmの間にピークを有することが特に好ましい。この範囲にピークを有することにより、さらに濾水性が良く、より抄紙速度を上げることができるため好ましい。該ピークの繊維長が1.50mmより短い場合、濾水性が悪くなり、抄紙速度を上げにくくなる場合がある。また3.50mmを超えると、ダマが発生して厚み斑になり、基材や塗工面の表面平滑性が悪くなる場合や、塗液が裏抜けする場合がある。
【0042】
本発明における叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を得るには、溶剤紡糸セルロースの短繊維を適度な濃度で水などに分散させ、これをリファイナー、ビーター、ミル、ホモミキサー、トップファイナー、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、高圧ホモジナイザーなどに通して処理すればよい。これらの装置を1種類だけ用いても良く、2種類以上用いても良い。これら装置の刃の形状、流量、処理回数、処理速度、処理濃度、内刃と外刃の間隔、ローターとステーターの間隔などの条件を調節して叩解すれば良い。処理濃度は0.1〜4.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。処理濃度が0.1質量%未満だと、処理効率が悪くなる場合がある。4.0質量%を超えると、処理が不十分になりやすく、繊維同士が撚れてダマになる場合がある。例えば、処理回数を増やした場合や、処理速度を上げた場合には、繊維長は短くなる方向になる。内刃と外刃の間隔、ローターとステーターの間隔を狭くすると、繊維長は短くなる方向になる。これらの叩解により、溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維長軸に平行に分割するとともに繊維長が短くなる。そのため、基材の空孔が比較的均一に形成され、塗工時の塗液の裏抜けを防止する。また、塗液の裏抜けが抑えられることから、フィラー粒子等が基材内部の空孔を閉塞することがない。
【0043】
本発明のリチウム二次電池用基材において、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維と溶剤紡糸セルロース繊維との質量比率は、8:2〜2:8が好ましく、7:3〜4:6がより好ましい。分割型複合繊維の比率が8:2より多いと、湿式不織布の熱処理の際に著しく収縮し、しわになる場合や基材の空隙が閉塞される場合があり、2:8より少ないと、基材の耐水強度が弱くなり、塗工時に破損する場合がある。
【0044】
本発明のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維を含有しても良い。例えば、天然セルロース繊維、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、溶剤紡糸セルロースの短繊維、合成樹脂からなる短繊維(以下、「合成短繊維」と表記することもある)、フィブリッド、パルプ化物、フィブリル化物、無機繊維を含有しても良い。天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物は、カナダ標準濾水度0〜700mlが好ましく、0〜500mlがより好ましい。無機繊維としては、ガラス、アルミナ、シリカ、セラミックス、ロックウールが挙げられる。無機繊維を含有する場合は、基材の耐熱寸法安定性や突刺強度が向上するため好ましい。合成短繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ジエン、ポリウレタン、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、フッ素、シリコーン、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン、これらの誘導体などの樹脂からなる短繊維が挙げられる。本発明におけるアクリルとは、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニルなどを共重合させたものを指す。ポリアミドとは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドを指す。半芳香族ポリアミドとは、主鎖の一部に脂肪鎖などを有する芳香族ポリアミドを指す。
【0045】
合成短繊維の平均繊維径は、0.1〜15μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。合成短繊維の平均繊維径が15μmを超えた場合、厚さ方向における繊維本数が少なくなるため、塗液が裏抜けする場合や厚みを薄くしにくくなる。0.1μm未満だと、合成短繊維の添加効果が現れにくい。
【0046】
合成短繊維の繊維長としては、1〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましい。繊維長が10mmを超えた場合、地合不良となることがある。一方、繊維長が1mm未満の場合には、基材の機械的強度が低くなって、塗工等の複合化の際に基材が破損する場合がある。
【0047】
本発明のリチウム二次電池用基材は、湿式抄紙法で製造される。具体的には、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割させて得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を水に分散して均一なスラリーとし、このスラリーを抄紙機で漉きあげて湿式不織布を作製する。スラリーには、必要に応じて分散助剤、消泡剤、増粘剤、剥離剤などの薬品を添加しても良い。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合抄紙機が挙げられる。湿式不織布を製造する工程においては、必要に応じて、水流交絡処理を施しても良い。
【0048】
本発明においては、湿式不織布を140〜175℃で熱処理して、ポリプロピレンの少なくとも一部を溶融させ、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点を接着させることが好ましい。本発明における熱処理は、加熱したロールに非加圧下で湿式不織布の片面又は両面を所定時間接触させる方法、加熱したロール間に湿式不織布を通して加圧する方法、ホットプレス機を用いて所定時間加圧処理する方法等で行うことができる。本発明においては、巻取りを連続的に処理でき、極細繊維を溶融劣化させずに繊維形状を維持させやすいことから、非加圧下で加熱したロールに接触させる方法が好ましい。加熱するロールは樹脂製、金属製のいずれでも良い。加熱したロールの温度が140℃未満だと、極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が弱く、耐水性が不十分になることがあり、175℃を超えると、熱量が過剰となり、ポリプロピレンからなる極細繊維が繊維形状を消失し、薄い皮膜を形成するため、基材表面及び内部の空隙が少なくなるとともに基材が脆くなり、耐水強度が不十分になることがある。また、薄く形成された皮膜により塗液をはじき、水性塗液のしみ込みが不均一になることもある。熱処理の後、必要に応じてカレンダー処理して厚みを調整する。
【0049】
図9は、本発明の実施例2で作製した基材表面の電子顕微鏡写真の一例である。極細繊維同士の交点及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンにより接着されていることがわかる。図10は、本発明の実施例2で作製した基材断面の電子顕微鏡写真の一例である。図9及び10から、本発明の基材は表面及び内部を覆う皮膜が形成されておらず、十分な空隙が残っていることがわかる。図11は、本発明の実施例16で作製した基材表面の電子顕微鏡写真の一例である。極細繊維の大部分が溶融して繊維形状を消失しており、薄い皮膜が形成されていることがわかる。図12は、本発明の実施例16で作製した基材断面の電子顕微鏡写真の一例である。基材内部にも皮膜が形成されており、空隙が少ないことがわかる。
【0050】
本発明のリチウム二次電池用基材の厚みは、4〜45μmが好ましく、10〜35μmがより好ましく、15〜30μmがさらに好ましい。45μmを超えると、セパレータの抵抗値が高くなる場合があり、4μm未満であると、基材の強度が弱くなりすぎて、基材の取り扱い時や塗工等の複合化時に破損する恐れがある。
【0051】
本発明のリチウム二次電池用基材の密度は、0.250〜0.750g/cm3が好ましく、0.300〜0.650g/cm3がより好ましく、0.400〜0.600g/cm3がさらに好ましい。密度が0.250g/cm3未満だと、塗液が裏抜けする場合があり、0.750g/cm3超だと、セパレータの抵抗値が高くなる場合がある。
【0052】
本発明のリチウム二次電池用基材は、ASTM−F316−86で規定される最大孔径0.1〜10μmであることが好ましい。0.1μm未満だと、電解液保液率が低くなる場合があり、10μmより大きいと、塗液が裏抜けする場合や、フィラー粒子等の複合化物が基材内部に充填されてしまい、基材の空隙を閉塞する場合がある。
【0053】
本発明のリチウム二次電池用基材は、流れ方向の耐水強度が200N/m以上であることが好ましく、250N/m以上であることがより好ましい。耐水強度とは、基材に水をしみ込ませた状態での流れ方向の引張強度を指す。流れ方向とは、基材巻取りの流れ方向を意味する。耐水強度が200N/m未満だと、塗工性に支障を来たす場合がある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0055】
≪実施例1〜16、比較例1〜7≫
表1に、実施例1〜16、比較例1〜7で使用した分割型複合繊維、合成短繊維、溶剤紡糸セルロース繊維を示した。表1中の分割型複合繊維の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンの配置が放射状型であることを意味する。芯鞘複合繊維F4は、芯部にポリプロピレン、鞘部に高密度ポリエチレンを配してなり、芯部と鞘部の断面積比は50:50である。
【0056】
【表1】
【0057】
[基材の作製]
実施例1、2、4〜9、11〜14
表2に示したスラリー1〜11を調製した。表3に示したように、実施例1、2、4〜9、11〜14に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例1、2、4〜9、11〜14の基材を作製した。
【0058】
実施例3、10
表3に示したように、実施例3及び10に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、実施例3及び10の基材とした。
【0059】
(比較例1)
表2に示したスラリー12を調製し、2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、比較例1の基材を作製した。
【0060】
(比較例2)
表2に示したスラリー13を調製し、2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、比較例2の基材を作製した。
【0061】
(比較例3〜6)
表2に示したスラリー14〜17を調製した。表3に示したように比較例3〜6に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布をカレンダー処理して厚み調整し、比較例3〜6の基材を作製した。
【0062】
実施例15
スラリー2を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、135℃に加熱した金属ロールに湿式不織布の表裏面をそれぞれ30秒ずつ接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例15の基材を作製した。
【0063】
実施例16
スラリー2を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、180℃に加熱した金属ロールに湿式不織布の表裏面をそれぞれ5秒ずつ接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例16の基材を作製した。
【0064】
(比較例7)
表2に示したスラリー18を調製し、円網抄紙機と短網抄紙機の複合抄紙機を用いて湿式抄紙し、シリンダードライヤー温度を135℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布を体積比率でフッ素:酸素:窒素=1:73:26の混合ガス中に1分間曝した。その後、60℃の湯で洗浄し、熱風乾燥機で70℃雰囲気に通して乾燥させた。この湿式不織布に水分を噴霧して100質量%含浸させ、130℃に加熱した一対の金属ロールに線圧500N/cm、速度3.3m/minで通してエチレン−ビニルアルコール共重合体をゲル皮膜化し、比較例7の基材を作製した。
【0065】
【表2】
【0066】
表2中の原料の記号は、表1の記号に該当する。
【0067】
[セパレータの作製]
酸化珪素(平均粒径:1μm)300g、水1000g、濃度50質量%のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス60gを容器に入れ、撹拌機(商品名:スリーワンモーター、新東科学(株)製)で1時間攪拌して分散させ、酸化珪素:スチレン−ブタジエン共重合体の質量比100:10、濃度24質量%の均一な水性塗液を作製した。実施例及び比較例の基材に、アプリケーターを用いて、この水性塗液を塗工し、乾燥機で乾燥し、片面あたりの厚さが3μmの酸化珪素層を有するセパレータを得た。
【0068】
[評価]
実施例及び比較例の基材及び該基材を用いて作製したセパレータについて、下記の評価を行い、結果を表3に示した。
【0069】
<基材の厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0070】
<基材の密度>
JIS P8124に準拠して基材の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値を密度とした。
【0071】
<耐水強度>
基材を50mm幅、250mm長の短冊状に切り揃えた。250mm長は基材の流れ方向とした。試験片を水に浸漬し、完全にしみ込ませた後、キムタオル(登録商標)で余剰水分を拭き取り、引張強度を測定した。引張強度は、試験片の上下を卓上型材料試験機((株)オリエンテック製)のチャックに100mm間隔で固定し、100mm/minの一定速度で試験片が切断するまで引き上げていったときの最大荷重とした。1つの基材につき、5本以上の試験片を測定し、その平均値を20倍して1m幅あたりの値にした。試験片を水に浸したときに、試験片が崩壊して引張強度の測定が不可能だった場合を×とした。
【0072】
<塗工性A>
基材に塗工したときの基材の状態を観察した。基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0073】
<濡れ性>
基材に塗工したときの基材の濡れ性について評価した。塗液が基材全体にすぐにしみ込んだ場合を「○」、基材表面の全体又は一部が塗液をはじき、塗液のしみ込み斑が生じた場合を「×」とした。
【0074】
<裏抜け>
セパレータの製造工程において、塗液が基材を全く裏抜けしなかった場合を「○」、若干裏抜けしたが、裏面が塗工装置のロールに貼りつくなどの支障がなかった場合を「△」、裏抜けして裏面がロールに貼りついて円滑な塗工ができないなどの支障を来たした場合を「×」とした。
【0075】
<塗工性B>
ポリフッ化ビニリデン(質量平均分子量300000)100gをN−メチル−2−ピロリドン1800gに溶解させた溶液を調製し、これを実施例及び比較例の基材に、アプリケーターを用いて塗工した。このとき、基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0076】
<空隙>
セパレータの断面を電子顕微鏡で観察し、基材内部の空隙を確認した。基材内部への酸化珪素の充填がほとんどなく、基材内部の空隙がほぼ残存している場合を「A」、酸化珪素の一部が基材内部に充填されているが、電解液を十分保持できる空隙が残存している場合を「B」、酸化珪素が充填されて、空隙をほとんど閉塞している場合を「C」、酸化珪素の充填はほとんどないが、基材そのものの空隙が不十分な場合を「D」とした。「A」が最も良好で、「B」は実用上問題なく、「C」及び「D」は実用上問題があることを意味する。
【0077】
<電解液保持率>
セパレータについて、100mm幅×100mmに切り揃え、電解液に1分間浸漬した後、1分間吊るして余剰電解液を切り、セパレータの質量W1を測定した。W1から電解液を保持させる前のセパレータの質量W0を差し引いて得られる値W2をW0で除して100倍した値を電解液保持率(%)とした。電解液としては、LiPF6を1mol/l溶解させた混合溶液を使用した。混合溶液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを質量比率で3:7としたものである。
【0078】
<耐デンドライト性>
セパレータの片面に金属リチウム箔を、セパレータの反対側に正極を配置して積層し、電解液を注入してラミネートセルを100個ずつ作製した。0.5mA/cm2で3.6Vまで定電流充電し、さらに3.6Vを24時間印加し、過充電した。この過充電中に異常電流が流れた場合を内部短絡したと見なし、過充電を中止し、ラミネートセルを開封してリチウムデンドライトの発生状態を確認した。過充電により、リチウムデンドライトが発生して基材を貫通したセルの割合を耐デンドライト性とした。この割合が少ないほど、耐デンドライト性に優れることを意味する。正極には、活物質のコバルト酸リチウム、導電助剤のアセチレンブラック、結着剤のポリフッ化ビニリデンを質量比率で90:5:5に混合したスラリーをアルミニウム集電体の両面に塗布したものを用いた。電解液は、<電解液保持率>の評価に記載したものと同様である。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例1〜14のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなるため、極細繊維同士及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されていて、耐水強度が強く、フィラー粒子を含有する水性塗液の濡れ性が良く、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の塗工性に優れており、フィラー粒子が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなかった。実施例1〜14のリチウム二次電池用基材は、湿式不織布が140〜175℃で熱処理されてなるため、極細繊維同士及び/又は該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されていて、かつ、ポリプロピレンからなる極細繊維が繊維形状を維持しており、それが骨組みを形成するため強い耐水強度を示した。実施例1〜14で作製したリチウム二次電池用セパレータは、基材内部の空隙が残存したため、電解液保持率が高かった。また、フィラー粒子が基材表面に集中的に担持されたため、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0081】
一方、比較例1のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維のみで構成されているため、耐水強度は強く、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の塗工性は良好だったが、水性塗液の濡れ性は悪かった。また、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有しないため、基材内部の空隙が少なかった。比較例1のリチウム二次電池用基材を用いてなるリチウム二次電池用セパレータは、耐デンドライト性は良かったが、電解液保持率は悪かった。
【0082】
比較例2のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、それ以外の合成短繊維からなるため、耐水強度は強く、水性塗液の濡れ性は良かったが、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有しないため、大きな貫通孔が存在し、水性塗液が裏抜けした。また、基材内部にフィラー粒子が充填されてしまい、基材内部の空孔が閉塞された。比較例2のリチウム二次電池用基材を用いてなるセパレータは、電解液保持率と耐デンドライト性が悪かった。
【0083】
比較例3のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維100%からなるため、耐水強度がなく、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液は塗工できなかった。そのため、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0084】
比較例4〜6のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維と合成短繊維からなり、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維を含有しないため、耐水強度がなく、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液は塗工できなかった。そのため、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0085】
実施例15のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維からなるが、熱処理温度が140℃未満だったため、極細繊維同士の交点及び該極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点の接着が不十分な箇所があった。そのため、耐水強度は測定できたものの、実施例1〜14と比較して弱く、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液の塗工性が悪かった。また、水性塗液を用いた場合、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0086】
実施例16のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維からなるが、熱処理温度が175℃を超えていたため、熱量が過剰になり、ポリプロピレンからなる極細繊維の大部分が溶融して繊維形状を消失し、基材の表面及び内部に薄い皮膜が形成されたため、実施例1〜15と比較して、水性塗液の濡れ性が悪く、基材内部の空隙が少なくなった。また、薄い皮膜は脆いため、基材の耐水強度は測定できたものの、実施例1〜14と比較して弱く、有機溶媒を媒体とする塗液は塗工できたが、水性塗液の塗工性が悪かった。そのため、水性塗液を用いた場合、フィラー粒子を塗工したセパレータを作製することができなかった。
【0087】
比較例7のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のゲル皮膜が基材表面及び内部に形成されているため耐水強度は強かったが、水性塗液の濡れ性が悪く、基材内部の空隙が少なかった。また、分割型複合繊維と合成短繊維よりも微細な繊維がないため、大きな貫通孔が存在し、水性塗液が部分的に裏抜けした。比較例7のリチウム二次電池用基材を用いてなるセパレータは、電解液保持率が悪く、耐デンドライト性が劣っていた。
【0088】
≪実施例17〜31≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
(2)長さ加重平均繊維長:「平均繊維長」
を表6に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0089】
表4に、本発明の実施例17〜31で使用した分割型複合繊維、合成短繊維、溶剤紡糸セルロース繊維を示した。表4中の分割型複合繊維の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンの配置が放射状型であることを意味する。芯鞘複合繊維F4は、芯部にポリプロピレン、鞘部に高密度ポリエチレンを配してなり、芯部と鞘部の断面積比は50:50である。
【0090】
【表4】
【0091】
[基材の作製]
実施例17〜31
表5に示したスラリーを調製し、実施例17〜28、比較例8〜10に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表6に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例17〜31の基材を作製した。次に、実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表6に示した。
【0092】
【表5】
【0093】
表5中の原料の記号は、表4の記号に該当する。
【0094】
[評価]
<基材の厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0095】
<基材の密度>
JIS P8124に準拠して基材の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値を密度とした。
【0096】
<抄紙性>
高速で基材を安定して湿式抄紙できた場合を「◎」、やや高速で安定して湿式抄紙できた場合を「○」、10m/min以上の低速で安定して湿式抄紙できた場合を「△」、10m/min未満の抄紙速度でしか安定して湿式抄紙できなかった場合を「×」とした。抄紙速度が速いほど、抄紙性が良いことを意味する。
【0097】
<浮き>
基材を湿式抄紙する際に、原料スラリーを円網抄紙機に送液する途中の希釈種箱の中で、分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮いているか否か目視確認した。浮いている極細繊維の量が多い場合を「多」、少ない場合を「少」、多くもなく少なくもない場合を「中」とした。
【0098】
<耐水強度>
基材を50mm幅、250mm長の短冊状に切り揃えた。250mm長は基材の流れ方向とした。試験片を水に浸漬し、完全にしみ込ませた後、キムタオル(登録商標)で余剰水分を拭き取り、引張強度を測定した。引張強度は、試験片の上下を卓上型材料試験機((株)オリエンテック製)のチャックに100mm間隔で固定し、100mm/minの一定速度で試験片が切断するまで引き上げていったときの最大荷重とした。1つの基材につき、5本以上の試験片を測定し、その平均値を20倍して1m幅あたりの値にした。
【0099】
<塗工性>
基材に塗工したときの基材の状態を観察した。基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、基材の切断、破れ、割れのいずれかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0100】
<濡れ性>
基材に塗工したときの基材の濡れ性について評価した。塗液が基材全体にすぐにしみ込んだ場合を「○」、基材表面の全体又は一部が塗液をはじき、塗液のしみ込み斑が生じた場合を「×」とした。
【0101】
<裏抜け>
セパレータの製造工程において、塗液が基材を全く裏抜けしなかった場合を「○」、若干裏抜けしたが、裏面が塗工装置のロールに貼りつくなどの支障がなかった場合を「△」、裏抜けして裏面がロールに貼りついて円滑な塗工ができないなどの支障を来たした場合を「×」とした。
【0102】
<空隙>
セパレータの断面を電子顕微鏡で観察し、基材内部の空隙を確認した。基材内部への酸化珪素の充填がほとんどなく、基材内部の空隙がほぼ残存している場合を「A」、酸化珪素の一部が基材内部に充填されているが、電解液を十分保持できる空隙が残存している場合を「B」、酸化珪素が充填されて、空隙をほとんど閉塞している場合を「C」とした。「A」が最も良好で、「B」は実用上問題なく、「C」は実用上問題があることを意味する。
【0103】
<電解液保持率>
セパレータについて、100mm幅×100mmに切り揃え、電解液に1分間浸漬した後、1分間吊るして余剰電解液を切り、セパレータの質量W1を測定した。W1から電解液を保持させる前のセパレータの質量W0を差し引いて得られる値W2をW0で除して100倍した値を電解液保持率(%)とした。電解液としては、LiPF6を1mol/l溶解させた混合溶液を使用した。混合溶液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを質量比率で3:7としたものである。
【0104】
<耐デンドライト性>
セパレータの片面に金属リチウム箔を、セパレータの反対側に正極を配置して積層し、電解液を注入してラミネートセルを100個ずつ作製した。0.5mA/cm2で3.6Vまで定電流充電し、さらに3.6Vを24時間印加し、過充電した。この過充電中に異常電流が流れた場合を内部短絡したと見なし、過充電を中止し、ラミネートセルを開封してリチウムデンドライトの発生状態を確認した。過充電により、リチウムデンドライトが発生して基材を貫通したセルの割合を耐デンドライト性とした。この割合が少ないほど、耐デンドライト性に優れることを意味する。正極には、活物質のコバルト酸リチウム、導電助剤のアセチレンブラック、結着剤のポリフッ化ビニリデンを質量比率で90:5:5に混合したスラリーをアルミニウム集電体の両面に塗布したものを用いた。電解液は、<電解液保持率>の評価に記載したものと同様である。
【0105】
<表面平滑性>
セパレータの表面について、任意の10か所の厚みを測定し、その標準偏差(μm)を算出し、表面平滑性の指標とした。標準偏差の値が小さいほど表面平滑性に優れている。
【0106】
【表6】
【0107】
実施例17〜24、28〜31のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであるため、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリプロピレンで接着されており、耐水強度が強く、フィラー粒子を含有する水性塗液の裏抜けがないか、塗工に支障がない程度であり、塗工する際に基材が破れることや切断することがなく、塗工性に優れていた。また、基材に大きな貫通孔がないため、フィラー粒子が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなく、且つ、基材表面及び内部を皮膜で覆うことがないため、水性塗液の濡れ性が良かった。さらに、フィラー粒子が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによって、リチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0108】
一方、実施例25のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が0.10mm未満であるため、濾水性が悪く、抄紙性が悪かった。該基材の濡れ性、塗工性は良好で、裏抜けは発生せず、該基材を用いたセパレータの空隙、電解液保持率、耐デンドライト性は良好であった。
【0109】
実施例26のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が2.00mmを超えていたため、濡れ性と塗工性は良かったが、フィラー粒子を含有する水性塗液が裏抜けし、フィラー粒子が基材内部の空隙を閉塞した。従って、該基材を用いたセパレータは、電解液保持率が低く、耐デンドライト性が悪かった。
【0110】
実施例27のリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が400mlを超え、且つ、長さ加重平均繊維長が2.00mmを超えているため、塗工性と濡れ性は良かったが、フィラー粒子を含有する水性塗液が裏抜けし、フィラー粒子が基材内部の空隙を閉塞した。従って、該基材を用いたセパレータは、電解液保持率が低く、耐デンドライト性が悪かった。
【0111】
≪実施例32〜47≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(2)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(3)繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き:「割合の傾き」
(4)長さ加重平均繊維長:「長さ加重平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
を表7に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維C12〜C23は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0112】
【表7】
【0113】
[基材の作製]
表8に示したスラリーを調製し、実施例32〜47に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表9に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例32〜47の基材を作製した。実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表9に示した。
【0114】
【表8】
【0115】
表8中の原料の記号は、表4及び表7の記号に該当する。
【0116】
【表9】
【0117】
実施例32〜47で作製したセパレータは、フィラー粒子が基材表面に集中的に積層されるため、基材内部の空隙が維持され、電解液保持率が高く、充放電の繰り返しによってリチウムデンドライトが電極表面に生成した場合でも、基材表面に集中的に存在するフィラー粒子によってリチウムデンドライトが正負極間で導通することを防ぐことができ、耐リチウムデンドライト性に優れていた。
【0118】
実施例32〜41、44〜47で作製したリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるため、耐水性及び塗工性に優れ、水性塗液の裏抜けがなく、水性塗液の濡れ性が良いだけでなく、抄紙性が良好であった。分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維がスラリーの水面に浮くことを抑制し、基材の表面平滑性が向上したため、塗工面の表面平滑性が良好であった。
【0119】
実施例42の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有さないため、スラリーの水面に極細繊維が多く浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜41、44〜47よりも塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0120】
実施例43の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%未満であるため、スラリーの水面に極細繊維が多く浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜41、44〜47よりも塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0121】
特に、実施例32〜35、37〜40、44〜47で作製したリチウム二次電池用基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であるため、極細繊維との絡みが良好で、極細繊維の浮きが少なく、塗工面の表面平滑性が優れていた。
【0122】
実施例36の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0よりもマイナス側であるため、スラリーの水面に極細繊維がやや多めに浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜35、37〜40、44〜47よりも、塗工面の表面平滑性が劣っていた。
【0123】
実施例41の基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるが、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−0.5よりもプラス側である。そのため、抄紙性は良かったが、スラリーの水面に極細繊維がやや多めに浮き、湿式抄紙によって基材表面に束状に堆積したため、実施例32〜35、37〜40、44〜47よりも塗工面の表面平滑性がやや劣っていた。
【0124】
≪実施例48〜62≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について
(1)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(2)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(3)最大頻度ピーク以外のピークの繊維長:「第2ピークの繊維長」
(4)長さ加重平均繊維長:「長さ加重平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度:「変法濾水度」
を表10に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維C24〜C34は、叩解されていない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0125】
【表10】
【0126】
[基材の作製]
表11に示したスラリーを調製し、実施例48〜62に対応するスラリーを2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表12に示した熱処理温度と熱処理時間に従って金属ロールに湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、実施例48〜62の基材を作製した。実施例1と同様の方法で、基材を用いたセパレータを作製した。基材及びセパレータの評価を行い、評価の結果を表12に示した。
【0127】
【表11】
【0128】
表11中の原料の記号は、表4及び表10の記号に該当する。
【0129】
【表12】
【0130】
実施例48〜56、59〜62で作製したリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上であるため、耐水性及び塗工性に優れ、水性塗液の裏抜けがないか、塗工に支障がない程度であり、水性塗液の濡れ性が良いだけでなく、抄紙性がさらに良好であった。
【0131】
実施例57で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有さず、1.00mm超に最大頻度ピークを有するため、抄紙性は良かったが、塗液が若干裏抜けし、実施例48〜56、59〜62より塗工面の表面平滑性が悪かった。該基材を用いてなるセパレータは、フィラー粒子の一部が基材内部に充填されたため、実施例48〜56、59〜62よりも電解液保持率が低かったが、耐デンドライト性は良好であった。
【0132】
実施例58で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有するが、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が5%と少なく、且つ、最大頻度ピーク以外のピークを有さないため、抄紙性が劣っていた。
【0133】
特に、実施例48〜50、52〜55、59〜62で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有するため、抄紙性に優れていた。実施例51で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に存在するピークが1.50mmより短いため、実施例48〜50、52〜55、59〜62よりも抄紙性で劣っていた。実施例56で作製した基材は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に存在するピークが3.50mmより長いため、塗液が若干裏抜けし、実施例48〜50、52〜55、59〜62より、塗工面の表面平滑性が悪かった。該基材を用いてなるセパレータは、フィラー粒子の一部が基材内部に充填されたため、実施例48〜50、52〜55、59〜62よりも電解液保持率が低かったが、耐デンドライト性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のリチウムイオン二次電池用基材及びリチウム二次電池用セパレータは、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等のリチウムイオン二次電池に好適に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなることを特徴とするリチウム二次電池用基材。
【請求項2】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の下記で定義される変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用基材。
変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度。
【請求項3】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である請求項2記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項4】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である請求項3記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項5】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である請求項2記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項6】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する請求項5記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項7】
溶融された少なくとも一部のポリプロピレンによって、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点が接着されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項8】
湿式不織布が140〜175℃で熱処理されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材に、フィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工する処理、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工する処理、多孔質フィルムを積層一体化する処理、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工する処理から選ばれる少なくとも1つの処理を施してなるリチウム二次電池用セパレータ。
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリプロピレンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布からなることを特徴とするリチウム二次電池用基材。
【請求項2】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の下記で定義される変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.10〜2.00mmであることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用基材。
変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度。
【請求項3】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である請求項2記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項4】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である請求項3記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項5】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である請求項2記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項6】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する請求項5記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項7】
溶融された少なくとも一部のポリプロピレンによって、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点が接着されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項8】
湿式不織布が140〜175℃で熱処理されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のリチウム二次電池用基材に、フィラー粒子を含有する塗液を含浸又は塗工する処理、樹脂を含有する塗液を含浸又は塗工する処理、多孔質フィルムを積層一体化する処理、固体電解質やゲル状電解質を含浸又は塗工する処理から選ばれる少なくとも1つの処理を施してなるリチウム二次電池用セパレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−227115(P2012−227115A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251517(P2011−251517)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】
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