説明

リチャージ工法

【課題】注水量を最適に設定し、確実に目詰まりの発生を抑制して長期にわたり安定して注水性能を維持することを可能にするリチャージ工法を提供する。
【解決手段】揚水した地下水を注水井戸から地盤内に還元するリチャージ工法において、予め一定時間ごとに注水量を変化させて注水井戸に注水し、注水量と井戸内水位上昇量の関係を求める段階注水試験を実施し、該段階注水試験において井戸内水位が急激に上昇する変移点を求め、変移点における注水量を限界注水量、該限界注水量に対応する井戸内水位上昇量を限界水位上昇量とし、注水井戸内水位上昇量が限界水位上昇量を越えない注水量で地盤内に還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削工事等で用いられるリチャージ工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば大規模地下工事に伴う地盤の掘削工事において、地下水を揚水井戸(ディープウェル)から揚水することによる地盤沈下や井戸の枯渇等、周辺環境への影響を抑制するために、揚水した地下水を注水井戸(リチャージウェル)から地盤中に注水するリチャージ工法が多用されている。また、地下水汚染浄化対策工事においても、リチャージ工法を適用する場合があり、揚水井戸から汚染した地下水を揚水し、地上で浄化処理した地下水を注水井戸から地盤に戻すようにしている。
【0003】
一方、従来、リチャージ工法では、揚水井戸から揚水した地下水を注水井戸に供給し、この注水井戸の下端部に設けたスクリーン(ストレーナ)から地盤内に注水するようにしている。そして、従来のリチャージ工法では、注水とともに地盤の細粒分が移動して注水井戸の周辺地盤に目詰まりが発生したり、スクリーン自体に目詰まりが発生し、注水性能(注水可能量)が注水開始から徐々に減少してしまうという問題があった。
【0004】
これに対し、本願の出願人は、注水井戸に供給する地下水量を制御するなどし、注水井戸から地盤内に注入される地下水の流量や圧力を断続的に変動させることを特徴とするリチャージ工法に関する発明を既に出願している(特許文献1参照)。そして、このリチャージ工法においては、地下水の流量や圧力を変動させることで、目詰まりの発生を抑制することができ、注水性能を長期にわたって好適に維持することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−306842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願の出願人による注水量を変動させるリチャージ工法では、注水量をどのように設定することが最も効果的であるかが不明であり、この点で改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、注水量を最適に設定し、確実に目詰まりの発生を抑制して長期にわたり安定して注水性能を維持することを可能にするリチャージ工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明のリチャージ工法は、揚水した地下水を注水井戸から地盤内に還元するリチャージ工法において、予め一定時間ごとに注水量を変化させて前記注水井戸に注水し、注水量と井戸内水位上昇量の関係を求める段階注水試験を実施し、該段階注水試験において井戸内水位が急激に上昇する変移点を求め、前記変移点における注水量を限界注水量、該限界注水量に対応する井戸内水位上昇量を限界水位上昇量とし、注水井戸内水位上昇量が前記限界水位上昇量を越えない注水量で地盤内に還元することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のリチャージ工法においては、一定時間ごとに上限注水量と下限注水量とに切り替えて前記注水井戸への注水を行うとともに、前記上限注水量が前記限界注水量を越えないようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチャージ工法によれば、注水井戸内水位上昇量が限界水位上昇量を越えない注水量で地盤内に還元するように、注水量変動幅(振幅)と切替時間を設定することで、効果的な注水量変動(注水量変動幅、切替時間)の設定を行うことが可能になる。これにより、安定した注水性能を確実に長期間維持することが可能になり、目詰まり発生時には、注水井戸から揚水して洗浄を行う逆洗などのメンテナンスの実施間隔を長期化することができ、また、注水井戸1本あたりの注水可能量が大きくなるため、工事の際に注入井戸の設置本数を減らすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法で用いる揚水井戸と注水井戸を示す図である。
【図2】リチャージ工法において、静的リチャージした場合と動的リチャージした場合の注水量の経時変化の違いを示す図である。
【図3】リチャージ工法において、静的リチャージした場合と動的リチャージした場合の注水井戸の水位の経時変化の違いを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法において、注水井戸で行う段階注水試験の結果の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法において、注水井戸の水位変動量と経過時間の計算値と実測値の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法において、切替時間を変化させた場合の注水井戸の水位変動量と経過時間の計算値の一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法における制御システムの一例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るリチャージ工法における制御システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係るリチャージ工法について説明する。
【0014】
はじめに、本実施形態のリチャージ工法では、図1に示すように、例えば大規模地下工事に伴う地盤の掘削工事や地下水汚染浄化対策工事等において、地下水Tを揚水井戸1から揚水することで発生が想定される周辺地下水位の低下と、これに伴う地盤沈下や井戸の枯渇等、周辺環境への影響を抑制するため、揚水した地下水Tを注水井戸2から地盤G中に注水する。
【0015】
このとき、図1、図2及び図3に示すように、注水井戸2に一定量で静的に注水を行うと、注水とともに地盤Gの細粒分が移動して注水井戸2の周辺地盤Gに目詰まりが発生したり、注水井戸2の下端部に設けたスクリーン2aに目詰まりが発生し、注水性能が注水開始から徐々に低下する。また、目詰まりが進行すると、注水井戸2の井戸内水位がオーバーフローレベルを超え、注水量を減少させざるを得なくなる。
【0016】
これに対し、図2及び図3に示すように、注水井戸2への流水量(注水圧)に断続的に変動を与え、動的に注水(動的リチャージ)を行うと、目詰まりの進行が遅くなる。このように注水量あるいは注水圧に変動を与えながら注水を行うようにすることで、目詰まりの進行を抑制し、長期的に安定した注水性能を確保することが可能になる。
【0017】
一方、上記のように動的注水を行う場合、単に注水量や注水圧に変動を与えるのではなく、注水量の上限や注水量の変動幅(振幅)、切替時間(周期)を適切に設定することが、効果的に目詰まりを抑制し、確実に注水性能を長期にわたって安定的に維持する上で重要である。
【0018】
これに対し、本実施形態のリチャージ工法では、注水井戸2において段階注水試験を実施する。この段階注水試験では、はじめに、例えば1時間ごとなど、一定時間ごとに注水量を変化させ、図4に示すような注水量Qと井戸内水位上昇量sの関係を求める。
【0019】
次に、図4に示すように、注水量がそれ以上になると急激に井戸内水位が上昇する変移点Pを求め、この変移点Pにおける注水量を限界注水量Qcとし、変移点Pにおける井戸内水位上昇量をScとする。また、限界注水量Qc以下の範囲で、注水量Qと井戸内水位上昇量sの関係を表す直線の勾配a(=s/Q)を求め、この勾配aを注水井戸2の注水性能とする。図4の場合、a=0.062となっている。限界注水量Qcより注水量を多くすると、注水井戸2への注水量と地盤Gへの浸透量とのバランスがくずれやすくなり、たとえば注水井戸2が溢れたりするおそれがでてくる。注水井戸2への注水量はこの限界注水量Qc以下であることが好ましい。
【0020】
そして、本実施形態では、設計注水量Qdを設定し、注水量変動幅(振幅)を限界注水量−設計注水量(Qc−Qd)とする。なお、Qdは、後述の(Qmax+Qmin)/2の値である。ここで設計注水量Qdであるが、揚水に伴う周辺の地下水位の低下による地盤沈下が抑えられる地下水位を維持できる程度の注水量あるいは揚水した地下水Tを全量放流することが困難な場合には、放流可能な量を差し引いた量を、設置する注水井戸本数で除した値が設計注水量Qdの最小値となる。
【0021】
次に、注水井戸への注水量をQin、注水井戸から地盤への浸透量をQout(=s(t)/a)、注水井戸の注水性能をa(段階注水試験により設定)、注水井戸の半径をr、時間△tにおける注水井戸内の貯水量の変化量を△Q(Qin−Qout)、時間△tにおける注水井戸内の水位変化量を△h(=△Q/(2πr))、井戸水位上昇量をs(t+△t)(=s(t)+△h)、経過時間tにおける井戸水位上昇量をs(t)、経過時間t+△tにおける井戸水位上昇量をs(t+△t)として、経時的な井戸水位上昇量を逐次計算して求める。
【0022】
ここで、経時的な井戸水位上昇量の逐次計算方法を以下に詳述する。また、段階注水試験結果および注水井戸2の条件は表1に示す通りとする。
【0023】
【表1】

【0024】
ここで、注水量変動幅△Qを0.004m/minと設定する。その場合、最少注水量Qminは0.008m/minであり、最大注水量Qmaxは0.012m/minとなる。また、QminとQmaxとの切り替えは5分毎に行う設定とする。さらに、Qinは注水量、Qoutは注入井戸2から地盤Gへの浸透量、Qsは注水量から浸透量を差し引くことで当該1分間での水位上昇に寄与する実質的な注水量、△sは上記の実質的な注水量に対応する1分間での水位上昇量、sは累計時間における水位上昇量である。
【0025】
そして、まずQinとして8L/minで1分間注水する。水位上昇量sは、Q÷A=(8L/min)÷(0.071m)=0.113mとなる。次に、さらに8L/minで1分間注水する。今度は地盤Gへの浸透量が考慮されて、浸透量Qoutは前の1分間のときの水位上昇量0.113mを注水性能a(62min/m)で除したものであり、(0.113m)÷(62min/m)=1.8L/minとなる。この浸透量をQin=8L/minから差し引くとQs=6.2L/minとなる。すると、この1分間における水位上昇量△sは(6.2L/min)÷(0.071m)=0.087mとなる。2分後の水位上昇量は、1分前の水位上昇量0.113mに0.087mを加えて0.201mとなる。
以後、順次1分毎に逐次計算していき水位上昇量sを求める。この計算例を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
切替時間10分についても水位上昇量を求める逐次計算を行い、この計算結果を図6に示す。図6からは、切替時間10分のほうが、切替時間5分よりも水位変動幅が大きくなっていることが分かる。
【0028】
図5は、経時的な井戸水位上昇量sの計算結果と、実験結果とを示している。この図から、計算結果が実験結果とよく一致していることが確認された。したがって、この逐次計算方法は有効である。
【0029】
そして、本実施形態のリチャージ工法では、図6に示すように、前述の経時的な井戸水位上昇量sの計算を行いながら、井戸水位上昇量sが限界水位上昇量Scを超えないように切替時間tcを決定する。このとき、切替時間tcを長くすると井戸水位上昇量sの振幅が大きくなる。いずれにしても、切替時間10分、5分の双方ともに限界水位上昇量は越えていない。
【0030】
したがって、本実施形態のリチャージ工法においては、上記のように注水量変動幅(振幅)と切替時間を設定することにより、効果的な注水量変動(注水量変動幅、切替時間)の設定を行うことが可能になる。これにより、安定した注水性能を確実に長期間維持することが可能になり、目詰まり発生時には、注水井戸2から揚水して洗浄を行う逆洗などのメンテナンスの実施間隔を長期化することができ、また、注水井戸1本あたりの注水可能量が大きくなるため、工事の際に注入井戸2の設置本数を減らすことが可能になる。
【0031】
ここで、実施工時に、上記のように設定した注水量変動幅と切替時間で精度よく注水量、注水圧を変動させるための制御システムA、Bについても説明しておく。
【0032】
例えば、図7に示すように、揚水井戸1から注水井戸2に地下水Tを送水するための配管3の途中に、制御バルブ4と流量計5を設置する。また、注水井戸2内に水圧計6を設置する。
【0033】
さらに、注水量で制御する場合には、動的注水の振幅を考慮した最大流量及び最小流量を設定するための流量指示調節計7と、流量計5の計測値と設定値を流量指示調節計7で比較し、この比較結果に基づいて、制御バルブ4の開度を調節して所定流量に制御するバルブ制御装置8とを設ける。また、水圧計6で制御する場合には、動的注水の振幅を考慮した最大注水圧及び最小注水圧を設定するための圧力指示調節計9と、水圧計6の計測値と設定値を圧力指示調節計9で比較し、この比較結果に基づいて、制御バルブ4の開度を調節して所定流量に制御するためのバルブ制御装置8とを設ける。
【0034】
このように制御システムAを構築することによって、設定した注水量変動幅と切替時間に応じ、流量計5や水圧計6の計測結果から制御バルブ4がバルブ制御装置8によって制御され、確実且つ精度よく、設定した注水量変動幅と切替時間で注水量、注水圧を変動させることが可能になる。
【0035】
一方、図8に示すように、制御システムBを構築してもよい。この図8に示す制御システムBでは、揚水井戸1から注水井戸2に地下水Tを送水するための配管3の途中に、流量計5を設置する。また、注水井戸2内に水圧計6を設置する。
【0036】
さらに、注水量で制御する場合には、動的注水の振幅を考慮した最大流量及び最小流量を設定するための流量指示調節計7と、流量計5の計測値と設定値を流量指示調節計7で比較し、この比較結果に基づいて、注水井戸2に地下水Tを注水するためのポンプ10の回転数を調節して所定流量に制御するインバーター11とを設ける。また、水圧計6で制御する場合には、動的注水の振幅を考慮した最大注水圧及び最小注水圧を設定するための圧力指示調節計9と、水圧計6の計測値と設定値を圧力指示調節計9で比較し、この比較結果に基づいて、注水井戸2に地下水Tを注水するためのポンプ10の回転数を調節して所定注水圧に制御するインバーター11とを設ける。
【0037】
このように制御システムBを構築した場合においても、設定した注水量変動幅と切替時間に応じ、流量計5や水圧計6の計測結果からポンプ10の回転数がインバーター11によって制御され、確実且つ精度よく、設定した注水量変動幅と切替時間で注水量、注水圧を変動させることが可能になる。
【0038】
以上、本発明に係るリチャージ工法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 揚水井戸(ディープウェル)
2 注水井戸(リチャージウェル)
2a スクリーン(ストレーナ)
3 配管
4 制御バルブ
5 流量計
6 水圧計
7 流量指示調節計
8 バルブ制御装置
9 圧力指示調節計
10 ポンプ
11 インバーター
A 制御システム
B 制御システム
G 地盤
P 変移点
T 地下水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚水した地下水を注水井戸から地盤内に還元するリチャージ工法において、
予め一定時間ごとに注水量を変化させて前記注水井戸に注水し、注水量と井戸内水位上昇量の関係を求める段階注水試験を実施し、
該段階注水試験において井戸内水位が急激に上昇する変移点を求め、前記変移点における注水量を限界注水量、該限界注水量に対応する井戸内水位上昇量を限界水位上昇量とし、
注水井戸内水位上昇量が前記限界水位上昇量を越えない注水量で地盤内に還元することを特徴とするリチャージ工法。
【請求項2】
請求項1記載のリチャージ工法において、
一定時間ごとに上限注水量と下限注水量とに切り替えて前記注水井戸への注水を行うとともに、前記上限注水量が前記限界注水量を越えないようにすることを特徴とするリチャージ工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19159(P2013−19159A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152833(P2011−152833)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】