説明

リンパ球の抗原特異的インターロイキンー2反応性の測定法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明はアレルギー性疾患における原因抗原の検索や病勢の指標として有用なリンパ球の抗原特異的インターロイキン−2反応性を簡便かつ迅速に測定する方法に関する。
〔従来の技術〕
IgEを主体とする即時型(I型)アレルギー反応系あるいはT細胞から分泌されるサイトカインによって惹起される遅延型(IV型)過敏反応系は、抗原刺激によって活性化されたT細胞を介して行なわれる。すなわち、抗原提示細胞により活性化されたT細胞は、インターロイキン−2(以下IL−2という)を吸収することによって増殖し、IgE産生細胞の分化増殖を促進するIL4、IL5などのリンホカインを分泌する。また活性化T細胞は、IgEを結合することによって脱顆粒をひきおこし即時型アレルギー反応の原因となる肥満細胞の増殖を促進するIL3、IL4のリンホカインを分泌する。さらに、同様にして活性化されたT細胞は遅延型過敏反応におけるヘルパーT細胞として働き、遅延型過敏反応を誘導する。このようにアレルゲンによりIL−2を介して活性化されたT細胞は少なくともI型あるいはIV型アレルギー反応を促進すると考えられている。
一方、臨床的に観ても、アレルギー患者のリンパ球のIL−2反応性は抗原に特異的であることが知られている。すなわち、例えば卵白アルブミンを原因抗原とする患者のリンパ球は、卵白アルブミンで刺激した場合のみIL−2反応性が誘導され、他の抗原で刺激した場合にはIL−2反応性は誘導されない。
またリンパ球のIL−2反応性はアレルギー性患者の病勢とも深い関わりを有している。すなわち、アレルギー疾患患者が自然治癒していくに従ってその患者のリンパ球のIL−2反応性が減衰していくことから、リンパ球のIL−2反応性を測定することはアレルギー患者の病勢を把握し、治療指針を企図するうえでも極めて重要である〔臨床免疫,19(Suppl.12),170(1987),アレルギー,36,1075(1987)等〕。
このようにアレルギー性疾患における原因抗原の検索や病勢の指標として有用なリンパ球のIL−2反応性の測定法としては、被検リンパ球に抗原を反応させ、次いで該反応液をIL−2を加えて培養し、これにトリパンブルーを加えて生細胞数を血算板を用いて算定する方法があった(トリパンブルー法)〔アレルギー,36,1075(1987)等〕。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、従来のトリパンブルー法は顕微鏡下で染色された細胞と非染色細胞を分別して生細胞数を算定する方法であることから、その測定には長時間を要し、操作が煩雑であり、かつ大量の検体を処理することができないという欠点があった。
従って、簡便かつ迅速なリンパ球の抗原特異的IL−2反応性の測定法の開発が望まれていた。
〔課題を解決するための手段〕
かかる実情において、本発明者は種々研究を重ねた結果、リンパ球、抗原及びIL−2を一定時間反応させた後の生細胞数を、蛍光色素であるヨウ化プロピジウムを利用して蛍光色素量として定量すれば、リンパ球の抗原特異的IL−2反応性が簡便、迅速かつ正確に測定できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は被検リンパ球に抗原を反応させ、次いで該反応液にIL−2を加えて3〜4日間培養し、さらにヨウ化プロピジウム含有液を加えた後該培養液の蛍光色素量を測定することを特徴とする、リンパ球の抗原特異的IL−2反応性の測定法を提供するものである。
本発明を実施するには、まず被検リンパ球に抗原を反応させるが、用いられるリンパ球としてはヒト末梢血リンパ球、特に単核球画分が好ましい。反応させる抗原としては、アレルギー性疾患患者の原因抗原が判明している場合には、その原因抗原を用いればよい。一方、原因抗原が不明の場合には、種々のアレルゲンが用いられる。通常用いられるアレルゲンとしては、卵白アルブミン(OVA)、カゼイン、ダニ抗原、スギ花粉抗原、ブタクサ抗原、ハウスダスト等が挙げられる。被検リンパ球と抗原との反応は、通常被検リンパ球をヒト保存AB血清含有RPMI1640培地等の培地に加え、これに抗原を添加して37℃で5〜6日間培養することにより行なう。
次に該反応液にIL−2を加えて3〜4日間培養する。ここで用いられるIL−2としては、ヒトから抽出されたものでもよいが遺伝子組み換えIL−2(r−IL−2)を用いてもよい。IL−2の添加量は、リンパ球に対するIL−2の反応性がリンパ球2×105個当り0.1単位で平衡に達するため、これ以上が好ましい。IL−2添加後の培養は、リンパ球に対するIL−2の反応性が培養3日目にピークとなるので、37℃3日間余とするのが好ましい。
次に培養液にヨウ化プロピジウム含有液を加えた後、該培養液の蛍光色素量を測定する。本発明において用いるヨウ化プロピジウムは、蛍光色素であり、2本鎖DNAに特異的に結合し、1本鎖DNAには結合しないという特性を有する。一方、生細胞のDNAの多くは2本鎖であるが、死細胞ではそのほとんどが1本鎖DNAとなっている。従って、2本鎖DNAに結合した蛍光色素量を測定すれば、生細胞数を容易に定量できる。
ヨウ化プロピジウム含有液には、ヨウ化プロピジウム以外に細胞膜破壊剤(例えばトリトン−X)及び色素(例えばインク)を添加するのが望ましい。細胞膜破壊剤は細胞膜を破壊してDNAをヨウ化プロピジウムと反応しやすくするものであり、色素は未反応のヨウ化プロピジウムの蛍光を減量せしめることによりバックグランドとなる蛍光量を低下させるものである。好ましいヨウ化プロピジウム含有液は、ヨウ化プロビジウム約3〜15重量%(好ましくは5〜10重量%)を含有し、トリトン−X及びバックグランド蛍光量を5%以下とする量のインクを含有するEDTA水溶液である。
ヨウ化プロピジウム含有液を添加後、遠心(例えば1000rpm、5分)して細胞沈渣をつくり、37℃、約30分間静置後蛍光色素量を測定するのが好ましい。蛍光色素量の測定には顕微光度計を用いるのが好ましい。
得られた蛍光色素量を例えば次式の如くしてIL−2非添加群と比較することにより、IL−2反応性(SI)を算出することができる。


〔作用及び発明の効果〕
本発明によれば、リンパ球のIL−2反応性を簡便な操作で、迅速かつ正確に測定することができる。すなわち、従来のトリパンブルー法においては生細胞数を顕微鏡下に直接算定するため、煩雑であるばかりでなく熟練者が長時間を要し、大量の検体を処理することは困難であったが、本発明方法では蛍光光学計を用い、通常の病院等でも大量の検体を迅速に処理することができ、アレルギー疾患の原因抗原の検索及び病勢の把握が容易となった。
〔実施例〕
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
実施例1リンパ球の抗原特異的IL−2反応性の測定 ヒト末梢血より比重遠心法〔Scand.J.Clin.Lab.Invest.,21,51(1968)〕にて分離した単核細胞(1×106/ml)に抗原〔ダニ抗原(Df,10μg/ml,鳥居薬品)〕を加え、5mlの培養チューブ(Falcon)を用いて10%ヒトプールAB血清加RPMI1640培地にて、10%CO2条件下5.5日間培養した。培養後再度細胞数を2×105/150μ■/穴に調整した後、組み換えIL−2(武田薬品)0.1単位/穴添加し、96穴平底マイクロプレートにて前記と同様の条件で3.5日間培養した。次いでヨウ化プロピジウム含有液50μ■〔各種濃度のヨウ化プロピジウム液1.5μ■(4.9%EDTA中に1mg/mlのヨウ化プロピジウム含有液(シグマ)を希釈して使用)、トリトンX−100(8%v/v,和光純薬)1.5ml、各種濃度のインク(LEIZ社のdrawing inkを希釈して使用)0.1ml及びEDTA液(4.9%EDTA,pH7.0,和光純薬)7.5mlより調製〕を添加し、遠心(1000rpm,5分)し、37℃、30分間静置した後顕微光度計(ZEISS,MPM−03)を用いて各穴中の検体の蛍光を測定することにより生細胞数を定量した。その結果を図1及び図2に示す。その結果、生細胞数と蛍光色素量との間には直線的正の相関が得られ、本発明方法が生細胞数を定量するのに良好であることが判明した。また、測定光量を一定にして、染色するヨウ化プロピジウム濃度とインク濃度を変化させた時の(図1)、あるいは細胞を添加しない場合の測定蛍光色素量(バックグランド)を一定(10)にした時の(図2)測定蛍光色素量と生細胞数との関係を検討したところ、ヨウ化プロピジウム濃度を原液の2倍希釈(約7重量%)、インク濃度を1010倍希釈したとき、測定値が一定となりまたその数値が大きかった(図1及び図2)。また細胞を添加しない場合の測定蛍光色素量(バックグランド)は全体の5%以下であった。
なお、以下の実施例においてはヨウ化プロピジウム濃度を原液の2倍希釈、インク濃度を1010倍希釈とした、ヨウ化プロピジウム含有液を用いた。
実施例2リンパ球の抗原特異的IL−2反応性と添加IL−2濃度との関係 抗原としてダニ抗原(Df)の他に卵白アルブミン(OVA,100μg/ml,シグマ)及びコンカナバリンA(ConA,5μg/ml,シグマ)を用い、添加IL−2濃度を0.0025〜1.0単位/穴に変化させる以外は、実施例1と同様にして蛍光を測定した。そして、次式に従い、IL−2反応性(SI)を算出した。


その結果、図3から明らかなようにIL−2濃度に応じて蛍光量が増加し、0.1単位/穴にてほぼ平衡状態に達した。
よって、以下の実施例ではIL−2濃度を0.1単位/穴として行なった。
実施例3IL−2反応性とIL−2添加後の培養期間との関係 IL−2添加後の培養期間を変化させる以外は実施例1と同様にしてIL−2反応性(SI)を測定した。
その結果、IL−2添加後3日目において最大の染色色素量(IL−2反応性)を示した(図4)。よってIL−2反応性の評価はIL−2添加後3日目が適している。
実施例4アレルギー患者リンパ球におけるIL−2反応性の抗原特異性の検討 各種アレルギー患者のリンパ球を用いて、実施例1と同様にしてIL−2反応性(SI)を測定した。その結果を表1及び図5に示す。なお、抗原としては、、ダニ抗原(Df)、卵白アルブミン(OVA)、コンカナバリンA(ConA)及びカゼイン(α−Casein,100μg/ml,シグマ)を用いた。
また、表1には抗原特異性を示すIgE RAST値も示した。IgE RAST値は、in vitroアレルゲン検索用キット、RASTシオノギアイソトープ試薬を用いて測定した。




その結果、ConAで刺激した場合はSIが2.01±0.23(SE)(n=10)のIL−2反応性が得られた。
卵アレルギー患者末梢血リンパ球を用いてOVA刺激にて誘導されるIL−2反応性(SI)は、1.91±0.14(n=6)であった。ダニに感作されている小児気管支喘息児末梢血リンパ球を用いてDf刺激により誘導されるIL−2反応性(SI)は、1.69±0.10(n=6)であった。これに対し、健康人のリンパ球ではこれらのOVA,Dfで刺激した場合IL−2反応性は1.05±0.02(SE)(n=10)で反応の誘導は認められなかった。またダニ抗原感作のすすんでいない卵アレルギー患者の末梢血リンパ球をDfで刺激した場合にもIL−2反応性は誘導されなかった。一方卵に感作されていない気管支喘息小児ではOVAで刺激した場合IL−2反応性同様に誘導されなかった。また牛乳により症状の出現する症例においてもα−caseinで刺激した場合に得意的にIL−2反応性の誘導が認められた。よって特異抗原刺激リンパ球において誘導されるIL−2反応性は本発明方法で測定した場合、抗原特異的である。
比較例トリパンブルー法を用いたリンパ球のIL−2反応性の測定 比重遠心法にて分離した単核細胞(1×106/ml)に100μg/mlのOVAあるいは10μg/ml Dfを添加し、5mlの培養チューブを用いて10%ヒトプールAB血清加RPMI1640にて5日間培養後、再度細胞数を2×105/0.2mlに調製したのち、組み換えIL−2(武田)を添加し、96穴平底マイクロプレート(ヌンク)にて3日間培養後、測定直前に1%トリパンブルー50μ■を添加し、よく撹拌後顕微鏡下に生細胞数を血算板にて算定した(生細胞数の比率は90%以上)。IL−2反応性の評価として、IL−2非添加群との比率をSIとして求めた。


同一の検体について、本発明方法(実施例1の方法)とトリパンブルー法にてIL−2反応性を求めた結果を、図6に示す。その結果、本発明方法とトリパンブルー法とはその値がよく一致した。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1においてヨウ化プロピジウム(PI)及びインク(ink)の濃度を変化させた場合の生細胞数と蛍光色素量との関係を示す図面である。図2は実施例1において、細胞を添加しない場合の測定蛍光色素量(バックグランド)を一定(10)にしたときの生細胞数と蛍光色素量との関係を示す図面である。図3は添加IL−2濃度とIL−2反応性(SI)との関係を示す図面である。図4はIL−2添加後の培養時間とIL−2反応性(SI)との関係を示す図面である。図5はアレルギー患者(●)又は健常人(○)由来リンパ球のIL−2反応性(SI)を示す図面である。図6は本発明方法とトリパンブルー法との相関性を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】被検リンパ球に抗原を反応させ、次いで該反応液にインターロイキン−2を加えて3〜4日間培養し、さらに細胞膜破壊剤及びヨウ化プロピジウム含有液を加えた後該培養系の蛍光色素量を測定することを特徴とする、リンパ球の抗原特異的インターロイキン−2反応性の測定法。
【請求項2】ヨウ化プロピジウム含有液添加後遠心して培養細胞を沈めたのち、得られた培養液を約30分間静置した後蛍光色素量を測定するものである請求項1記載のリンパ球の抗原特異的インターロイキン−2反応性の測定法。
【請求項3】インターロイキン−2の添加量が、リンパ球2×105個当り0.1単位以上である請求項1記載のリンパ球の抗原特異的インターロイキン−2反応性の測定法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【特許番号】第2561170号
【登録日】平成8年(1996)9月19日
【発行日】平成8年(1996)12月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−186163
【出願日】平成2年(1990)7月13日
【公開番号】特開平4−72563
【公開日】平成4年(1992)3月6日
【出願人】(999999999)
【参考文献】
【文献】特開 平1−210863(JP,A)
【文献】アレルギー、36[12](1987)野間他P.1075−1085