説明

ルーツロータの加工方法

【課題】生産性を向上させることができるルーツロータの加工方法を提供すること。
【解決手段】数値制御式加工装置の主軸6の仮想中心線cの周りに、2本の荒引き加工バイト17,27と1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイト22を各々の刃部が同仮想中心線側になるように配置し、3葉ルーツロータをかたどったワークwのローブrに各バイトの刃部を夫々対応させた状態において、同ワークwを回転させることなく仮想中心線方向に往復移動させつつ各ローブrの中心線に対して所定角度範囲(例えば90度)の周面を同時に荒引き加工し、ついでワークwを180度回転させてから残りの3箇所の周面を対応する各々のバイトにより同時に荒引き加工することにより少なくとも1回の全周面の荒引き加工を施し、さらにワークwを所定角度ずつ回転させると共に仮想中心線方向に往復移動させつつ荒引き・仕上げ加工兼用バイト22のみで全周面の仕上げ加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3葉ルーツロータの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3葉ルーツロータは、周面が凸円弧曲線でロータ軸を中心として等角度間隔に配置された3個のローブと、各ローブに接続される周面が凹円弧曲線の谷部からなる形状を有している。3葉ルーツ式ブロワは、ケーシング内に2個の3葉ルーツロータを納め、各ロータ軸に固定したタイミングギアを噛み合い方向に回転させることにより流体を圧送する構造とされている。ルーツロータについては、例えば特公昭62―38091号公報や特開2004―90203号公報に記載されている加工方法により加工が行なわれている。
【0003】
前者公報に記載されたルーツロータの加工方法では、専用工作機の主軸と心押軸により支持されるワークを所定角度ずつ回転させつつ1本のバイトを主軸の仮想中心線方向に対して直交する前後方向と上下方向及び同仮想中心線方向と平行に移動させることにより荒引き加工を施し、ついでワークを所定角度ずつ回転させつつ1本のバイトを同様に移動させることにより仕上げ加工を施している。
【0004】
後者公報に記載されたルーツロータの加工方法では、主軸の中心を挟んで対向するように配置した荒引き加工バイトと仕上げ加工兼用バイトにより、ルーツロータをかたどったワークを主軸の仮想中心線方向に移動させつつ両側から同時に荒引き加工を施し、ついで仕上げ加工兼用バイトによりワークを同仮想中心線方向に移動させつつ全周面の仕上げ加工を施している。
【0005】
上述したように、従来の加工方法では1本又は2本のバイトを移動させて荒引き加工と仕上げ加工を順番に施しているため、加工時間が長くならざるを得ない。
【特許文献1】特公昭62―38091号公報
【特許文献2】特開2004―90203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生産性を向上させることができるルーツロータの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために請求項1に記載した発明は、主軸台の主軸と心押台の心押軸により支持されるワークをバイトで切削することにより、周面が凸円弧曲線の3個のローブと、各ローブに接続される周面が凹円弧曲線の谷部からなる3葉ルーツロータを加工するルーツロータの加工方法であって、前記主軸の仮想中心線の周りに、2本の荒引き加工バイトと1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイトを各々の刃部が同仮想中心線側になるように配置し、それら各バイトの刃部を前記ローブに夫々対応させた状態において、3葉ルーツロータをかたどったワークを回転させることなく前記仮想中心線方向に往復移動させつつ各ローブの中心線に対して所定角度範囲の周面を同時に荒引き加工し、ついでワークを180度回転させてから残りの3箇所の周面を対応する各々のバイトにより同時に荒引き加工することにより少なくとも1回の全周面の荒引き加工を施し、さらにワークを所定角度ずつ回転させると共に前記仮想中心線方向に往復移動させつつ荒引き・仕上げ加工兼用バイトのみで全周面の仕上げ加工を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
(請求項1の発明)
このルーツロータの加工方法は、2本の荒引き加工バイトと1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイトにより3葉ルーツロータをかたどったワークを3方向から同時に荒引き加工した後に、荒引き・仕上げ加工兼用バイトにより全周面の仕上げ加工を施すので、特に荒引き加工に要する時間が短縮される。これにより全体の加工時間が短縮されるため、本発明加工方法は、従来加工方法に比べて生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の最良の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るルーツロータの加工方法を適用した数値制御式加工装置の正面図、図2は同加工装置のワーク取付け台の側面図、図3は荒引き加工の第1工程を説明する模式図、図4は荒引き加工の第2工程を説明する模式図、図5は仕上げ加工におけるワークとバイトとの位置関係を順に示した説明図である。
【0010】
本発明に係るルーツロータの加工方法を適用した数値制御式加工装置NCを図1に示す。この加工方法は、後記主軸と心押軸により支持されるワークwをバイトで切削加工することにより、周面が凸円弧曲線の3個のローブと、各ローブに接続される周面が凹円弧曲線の谷部からなる3葉ルーツロータを仕上げ加工する方法である。
【0011】
加工装置NCのベッド1には、図1に示すように、主軸台5と心押台10が固定されたワーク取付け台2と、第1刃物台16と第2刃物台21がワーク取付け台2を挟むように配置されている。26はベッド1に立設された門形フレーム25に固定された第3刃物台である。
【0012】
主軸台5には、ワークwの一方の軸部をクランプするチャック7を備えた主軸6と、その主軸6を回転駆動する第1サーボモータ8が設けられている。心押台10には、ワークwの他方の軸部をクランプするチャック12を備えた心押軸11と、その心押軸11を主軸6と同期して回転駆動する第2サーボモータ13と、心押軸11を主軸6に対して接近及び離隔するように移動させる第3サーボモータ14が設けられている。ワーク取付け台2は、第4サーボモータ15を用いた図示しない駆動機構により主軸6の仮想中心線cと平行な方向yに往復移動可能にベッド1に組み付けられている。
【0013】
第1刃物台16には、荒引き加工バイト17を前記仮想中心線cに対して直交する前後方向xに往復移動させる第5サーボモータ18と、同バイト17を同仮想中心線cに対して直交する上下方向zに往復移動させる第6サーボモータ19とが設けられている。
【0014】
第2刃物台21には、荒引き・仕上げ加工兼用バイト22を前記仮想中心線cに対して直交する前後方向xに往復移動させる第7サーボモータ23と、同バイト22を同仮想中心線cに対して直交する上下方向zに往復移動させる第8サーボモータ24とが設けられている。
【0015】
また、第3刃物台26には、荒引き加工バイト27を前記仮想中心線cに対して直交する上下方向vに往復移動させる第9サーボモータ28と、同バイト27を同仮想中心線cに対して直交する左右方向tに往復移動させる第10サーボモータ29とが設けられている。
【0016】
しかして、主軸6の仮想中心線cの周りには、2本の荒引き加工バイト17,27と1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイト22が各々の刃部を同仮想中心線c側になるように配置されている。
【0017】
つぎに、本発明のルーツロータの加工方法について数値制御式加工装置NCの作用と共に説明する。
因みに、ワークwについては、球状黒鉛鋳鉄製の3葉ルーツロータをかたどった形態とされ、ロータ部から両側に突設された軸部を切削加工した状態のものである。
【0018】
(荒引き加工)
(1)主軸台5のチャック7と心押台10のチャック12でワークwの軸部を夫々クランプし、荒引き加工バイト17、荒引き・仕上げ加工兼用バイト22、荒引き加工バイト27の各バイトの刃部をワークwの3箇所のローブrに夫々対応させた状態とする(図3)。
(2)ワークwを回転させることなく固定し、ワーク取付け台2を第4サーボモータ15により往復移動させて当該ワークwを主軸6の仮想中心線cの方向に往復移動させる。そして、2本のバイト17,22を前後・上下方向に、1本のバイト27を上下・左右方向に移動させて図3に示す軌跡を描くように各々のサーボモータを同期制御し、各ローブrの中心線に対して所定角度範囲、ここでは90度の周面を同時に荒引き加工を施す(第1工程)。
(3)ついで、図4に示すように、ワークwを180度回転させてから残りの3箇所の周面を対応する各々のバイト17,22,27により同時に荒引き加工を施す(第2工程)ことにより、1回目の全周面の荒引き加工が終了する。
【0019】
上記全周面の荒引き加工については、取代の大きさにより複数回繰り返すことになる。なお、加工回数、取代、加工ピッチ、切削速度は、数値制御式加工装置NCのソフトウエアである「切削条件入力表」に基づいて任意に設定することができる。
【0020】
(仕上げ加工)
上記全周面の荒引き加工後に、荒引き・仕上げ加工兼用バイト22のみで全周面の仕上げ加工を施す。
即ち、ワークwを主軸の仮想中心線cの方向に往復移動させつつ、荒引き・仕上げ加工兼用バイト22を第7サーボモータ23により前後方向xに、第8サーボモータ24により上下方向zに移動させる。詳しくは、図5に示すように、ワークwを所定角度ずつ、ここでは15度ずつ回転させて120度分の加工を施し、これを3箇所にて行なうことで全周面の仕上げ加工が終了する。この仕上げ加工については、取代を少なくして1回で終了させる。
【0021】
なお、取代、加工ピッチ(ローブ部のみ)、切削速度は、数値制御式加工装置NCのソフトウエアである「切削条件入力表」に基づいて任意に設定することができる。
【0022】
以上に述べた通り、このルーツロータの加工方法によれば、2本の荒引き加工バイトと1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイトにより3葉ルーツロータをかたどったワークを3方向から同時に荒引き加工した後に、荒引き・仕上げ加工兼用バイトにより全周面の仕上げ加工を施すことにより、特に荒引き加工に要する時間が短縮されるので、従来方法に比べて生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るルーツロータの加工方法を適用した数値制御式加工装置の正面図
【図2】同加工装置のワーク取付け台の側面図
【図3】荒引き加工の第1工程を説明する模式図
【図4】荒引き加工の第2工程を説明する模式図
【図5】仕上げ加工におけるワークとバイトとの位置関係を順に示した説明図
【符号の説明】
【0024】
w・・・ワーク
r・・・ローブ
NC・・・数値制御式加工装置
2・・・ワーク取付け台
5・・・主軸台
6・・・主軸
c・・・主軸の仮想中心線
10・・・心押台
11・・・心押軸
16・・・第1刃物台
17・・・荒引き加工バイト
21・・・第2刃物台
22・・・荒引き・仕上げ加工兼用バイト
26・・・第3刃物台
27・・・荒引き加工バイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸台の主軸と心押台の心押軸により支持されるワークをバイトで切削することにより、周面が凸円弧曲線の3個のローブと、各ローブに接続される周面が凹円弧曲線の谷部からなる3葉ルーツロータを加工するルーツロータの加工方法であって、
前記主軸の仮想中心線の周りに、2本の荒引き加工バイトと1本の荒引き・仕上げ加工兼用バイトを各々の刃部が同仮想中心線側になるように配置し、それら各バイトの刃部を前記ローブに夫々対応させた状態において、3葉ルーツロータをかたどったワークを回転させることなく前記仮想中心線方向に往復移動させつつ各ローブの中心線に対して所定角度範囲の周面を同時に荒引き加工し、ついでワークを180度回転させてから残りの3箇所の周面を対応する各々のバイトにより同時に荒引き加工することにより少なくとも1回の全周面の荒引き加工を施し、さらにワークを所定角度ずつ回転させると共に前記仮想中心線方向に往復移動させつつ荒引き・仕上げ加工兼用バイトのみで全周面の仕上げ加工を施すことを特徴とするルーツロータの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−178927(P2008−178927A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12644(P2007−12644)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000127123)株式会社アンレット (41)
【Fターム(参考)】